点描の風景画
狂気は息を潜めて
存在に致命傷を負わせる機を常に窺っている
狂ってしまいかねない精神生活に慣れてしまうと
以前の自分というものが、その境界線が暈けてしまい
自我が分裂してしまう
そんな命綱のない綱渡りのような生活を
いつまでつづけられるというのか
死ぬまで?あるいは、狂うという事実上の死を迎えてしまうまで?
俺は歴史をもたない、俺に記憶は蓄積されない
俺はそういう存在になってしまった、刹那的な
一篇の叙景詩のような存在に。
俺は自分の歴史を、記憶を捏造して、改竄して
自分を人間だとつとめて錯覚させる
こんな弥縫策に現を抜かしているあいだにも
破局の刻は無情にも迫っている
いつ破裂するとも知れない癌を抱えて
俺は自分がほんとうに一篇の詩になっていくのを感じる
遠のく意識の中で、点描の風景画になっていく自分を為す術もなく見ている
点描の風景画