zoku勇者 ドラクエⅨ編 31

悲しきリブドール7

「……マキナ……さん……」

「アイシャ……」

聞こえて来た声に振り向くと、漸く意識をはっきりさせたアイシャが
立っていた。マウリヤは悲しそうに彼女から目を反らす。だが、アイシャは
ふらつく身体でマウリヤに駆け寄ると彼女の身体を抱擁した。

「分かったでしょ、私、……化物なのよ、死ねない身体なの、ねえ、
これであなたも嫌いになったでしょ?もういいのよ、アイシャ、
今まで仲良くしてくれて、本当にありが……」

「……バカっ!……マキナさんのバカバカっ!何でそんな事言うのっ!
バカバカバカっ!!」

「あなた……」

「なんでよっ!マキナさん、化物なんかじゃないよっ、こうやって命懸けで
私達の事、助けに来てくれたんじゃないのっ!バカぁーーっ!!あなたは私の
大切なお友だちだよ……」

「ああ、アイシャ……、あなたって本当に……、変な子……」

「ふぇ、マキナさんのバカ……」

マウリヤも強くアイシャを抱擁する。モンの言った事は本当だった。
けれど、覚悟はしていた。もしも嫌われてしまっても、それでも後悔は
しないと。でも、アイシャは本当に自分の事を友達だと言ってくれた。
それだけで只嬉しかった。

「そうだよ、別に俺らあんたを嫌ったりしないよ、そりゃ最初は
とんでもねえ我儘な奴だと思ってカチンときた時も相当あったけどさ、
でも、あんたの本当の心も分かったしさ」

「ジャミル……、やっぱりあなた達って相当変よ、おかしいわ……」

「お互い様だっつーのっ!」

「ふふ……、本当に変、でも温かい、不思議な気持ち……」

互いに言い合いをする2人だが、顔は両者とも笑っていた。
マウリヤが本当に一人ぼっちではなくなった瞬間だった。だが……。

「あ、あ……」

「アイシャ!……大丈夫!?」

マウリヤに抱擁されていたアイシャが意識を失い
再び崩れ落ちた。

「……忘れてたよ、俺ら毒を食らってたんだった……、
うう、段々俺も目眩がまた……」

「私、モンさん達から予備の分の薬草を預かって来たの、
届けに来たの……、酷いわ、本当に傷だらけ……」

「ありがてえ、助かるよ、……い、いちち……」

「暴れちゃ駄目、えーと、これでいいの……?テレビで
見た事があるわ?ツッパリ頭?こんな様な頭の人達が皆で
お歌を歌っていたわ、……つっぱりパリパリパ~リパリ……」

「……」

天然マウリヤは薬草の使い方を良く分かっておらず、ジャミルの
頭の上に乗せた。彼女も意を決して助けに来てくれたのだから、
まあいいかと思いつつ……。

「ありがとな、後は大丈夫だ、俺らで……、い、いいっ!?」

「……また来たのね、邪魔よっ!」

マウリヤはしつこく起き上がって来たズオーに再び蹴りを入れた。
マウリヤのお陰でズオーも大分体力を消耗してきている様に
見受けられた。だが、彼女自身も……。

「はあ、はあ……」

「マキナっ、あんただって疲れてんじゃねえか、もういいよ、
頼むよ、休んでててくれや!」

「……お願い、もう少しだけ……此処にいさせて、お願い……、
此処にいたいの……」

マウリヤは息を切らしながら意識が朦朧としているアイシャの方を
見つめた。……どうしてもアイシャにもう一つ自分の口から
伝えなければならない事があった。

「分かったよ……、傷の方よりも、その、持って来てくれた袋の中に
毒消し草も確か少しある筈なんだ、……まずは回復魔法が使える
ダウドから……、治療、頼めるかい?」

「ええ、これが薬草、そして……、こっちの色が違う方が
そうかしら、任せて……」

「お、おい、使い方大丈夫か?また頭の上に乗せちゃ駄目だぞ……」

「……教えて……」

「……」

マウリヤは毒消し草を使い、まずは回復担当のダウドを復帰させる。
その後、アルベルト、アイシャ、ジャミルへと続き、何とか全員を
完全に復活させる事が出来たのだった。ダウド、アルベルトも
マウリヤに心から感謝した。

「マキナさん、本当に有り難うございます!」

「助かりましたあー!」

「……いいえ、でも、やっぱりあなた達って変……、
みんな揃って変……」

「それはもういいのっ!さあ、後はズオーを倒すだけよっ、
頑張ろうーっ!」

「あいつ、又調子に乗る……、さ、マキナ、もう本当に
大丈夫だから、モン達の処へ……」

ジャミルはすっかり調子が戻り、はしゃぐアイシャを見て呆れる。
して、今度こそマウリヤにも休んでいて貰う様に促すが、
マウリヤはまた首を振った。

「……いいえ……」

「な、何でっ!なあ、頼むよ、これ以上あんたに無理は……、っ!
又来たなっ!!」

「ズォォォォーーーっ!!」

「……あっち行ってっ!」

だが、又もマウリヤにズオーは蹴られ吹っ飛んでいき、
壁に衝突。……ウザいボス敵とは言え、ジャミルは何だか
ズオーが段々気の毒になってきていた。

「私も、みんなと一緒に戦いたいの、最後まで……、大好きな皆と、
お友達と一緒にいたい……、本当に大好きなお友だちといるって
こんなに楽しいんだもの、私、心からそれが分かったから……」

「マキナ……」

マウリヤはジャミル達4人の顔を1人1人じっと見つめる。
其処に、モンとサンディもやって来る。

「モンもいるモン!」

「ま、しょーがないよネ、アタシ達とダチになっちゃった以上、
クサレ縁てヤツー!?」

「ジャミル、大丈夫だよ、私もついてる!それに、マキナさんと
一緒に戦えるなんてとっても嬉しいよ!」

「……アイシャ……」

「……いや、だから心配なんだが……」

「……何よっ!」

「何……?」

暴走女子コンビに詰め寄られ、たじたじ、立場の弱いジャミ公に、
ダウドは腹を抱えてゲラゲラ笑うのだった。

「……ヘタレーーっ!うるせーーっ!!」

「全くもう……、では、マキナさん、お願いします、僕らも
サポートします、一緒に戦いましょう!」

「アルベルト、あなたも有り難う、皆さん、私とお友だちに
なってくれて本当に有り難う……」

マウリヤが差し出した手を4人は握り返す。モンもサンディも
皆をそっと見守る。だが、芽生えた友情の行方は……。
マウリヤがこの時既に決意していた事、本来は人形である筈の
彼女の運命、……悲しい結末へと。

「行くぞおーっ!再度突撃――っ!!」

「おーーっ!!」

ジャミルの合図と同時に皆はズオーに向かって突っ込んで行く。
ズオーは又も蜘蛛糸を放出してきたが大分動きが鈍くなって
きており、アルベルトの剣攻撃に蜘蛛糸をばっさり斬られる。
しかし、ズオーも負けじとばかりに猛反撃。

「……きゃああっ!!」

「マキナっ!!」

「マキナさんっ!!」

ズオーは魔法の力などを持たず、肉弾戦だけで突っ込んで来る
マウリヤを狙い拘束。カマイタチで弾き飛ばす。マウリヤは
動けなくなってしまい、アイシャは慌ててマウリヤに駆け寄る。

「大丈夫、私の事は心配要らないわ、……私ではどうしても
あの蜘蛛に止めを刺す事は出来ない、……倒せるのはあなた達
だけなのよ、さあ、行って……、お願い……」

「でも……」

「大丈夫だよ、ヘンテコオジョーさんにはアタシが付いてる!」

「モンもいるモン!」

「マキナさん……」

マウリヤは拘束されたままだったが、それでもアイシャを
心配させない様、力強く頷き、笑顔を見せた。

「分かったわ、モンちゃん、サンディ、マキナさんをお願いね!」

アイシャはそう言い、再び戦いへ。……ズオーへと怯まず
立ち向かっていくそんな彼女をマウリヤは切そうな顔で
見つめていた……。

(……アイシャ、あなたは本当に変で、そして、不思議な子……、
出会ってから、いつも私に勇気をくれて、大切な事を教えて
くれる、出来れば……本当の人間の女の子としてあなたに
出会ってお友だちになりたかった……)

「はあ~、あ、あっ!又っ!毒爆弾飛ばしてくるよおっ!!」

「させるかってのっ!俺もテンション上げておいたんだっ!
食らえっ!!」

ジャミルも転職してから初のテンションゲージ技発動。
だが、賊のゲージ技も実際使ってみるまでどんなもんか
良く分かっていなかったの
だった。

……お宝ハンター。対象の相手が必ずアイテムを落とす。

「食らえ……、ねえ……」

「……ああああーーーっ!?」

「ホント、これじゃ旅芸人の時とあんまり変わんないじゃん……」

「お黙りっ!このヘタレっ!畜生、こうなったらもう只管
突っ込むだけだっ!押せ押せーーっ!!……おせちん……」

「こらっ、押すばっかりじゃ駄目なんだよっ!……君はっ!
また無茶しようとする!!」

「あいてっ!!」

ジャミ公、後ろからアルベルトにスリッパで頭を小突かれ、
暴走を止められる。

「いてえなっ!この腹黒ーーっ!!」

「……スカラ、掛けておくよお、えいっ!!」

ダウドはスカラでジャミルの防御力を上げておく。続いて、
アルベルトとアイシャにも。

「助かるよ!」

「ありがとうー!」

「うん、でも、MPが余り持たないし、そろそろ何とか
しないとだよお……」

「……諦めないわ、絶対に!あいつを倒して此処から皆で帰るのっ!
絶対に……」

4人は自分達の前に立ちはだかる化け蜘蛛、ズオーを見据える。
アイシャの言うとおり、何としても此処で負ける訳にはいかない。
だが、ズオーはジャミル達よりも、またマウリヤの方に目を向け、
彼女に向かって猛毒弾を発射しようとする。

「うっそーっ!ま、またこっち来るーーっ!」

「……シャーモンっ!!」

「はあーーっ!!イオーーっ!!」

だが、アイシャはミラクルゾーンで放てる限りのありったけの
魔法力をズオーに放出し、特大級のイオを唱え、マウリヤ達を
守るのだった。

「アイシャ……」

「マキナさん、早く絶対に帰ろう、帰ったら一緒にクッキー
作ろうね、それから、お花の種も一緒にまこうね!楽しみにしてるからっ!!」

「……え、ええ!」

「……私もミラクルゾーンのターンがこれで終わりだわ、皆、
後はお願いっ!!」

「任せなっ!!あいつももう体力がそんなに残ってねえ筈だっ!!」

「行くよおっ、受け取ってっ!ゴスペルソングっ!!」

「おー、音痴ソング発動だねっ!あれでHP回復しちゃうんだから、
マジ凄いっ!」

「……サンディ、うるさいんだよお!」

ダウドも温存しておいたゴスペルソングを放出。ジャミルと
アルベルトに掛け、HPを回復。此処で一発決めなければ
ならなかった。

「ジャミル、呼吸を合わせて、同時に行くよ!」

「ああ、決めてやらあっ!!」

「神よ、どうか僕らに奇跡を!!」

「……止めだああーーっ!!」

ジャミルとアルベルト、2人の連携攻撃が決まり、ズオーの
身体を切り裂く。ズオーは地響きを立てながら、等々その
巨大な身体を横たえた。等々ズオーに勝った、遂に強敵ズオーを
打ち倒す事が出来た。4人に喜びと安堵の表情が浮かび上がるが、
同時にどっと疲れが出て来た……。

「や、やっ……た、ふう……」

「やっぱり……、攻撃担当は疲れるよ……」

ジャミルとアルベルトはその場にしゃがみ込む。ダウドは慌てて
2人にベホイミを掛けた。

「お疲れ様、ジャミル、アル……」

「ああ、ダウド、オメーもな、良く頑張ったさ……」

「君もお疲れ様だったよ、ダウド……」

「え、えへへ……」

ダウドは何となく流れて来てしまった涙を指で拭った。
……ついでに鼻水もいつも通り垂らしておいた。

「もう、アンタらの強さって、変態級じゃネ?マジすっごーっ!
もう何が来てもダイジョーブってカンジなんですケド?」

「……変態級って、あのな、相当苦戦したぞ、今回……、
はあ……、冗談じゃねえっつーの」

「モンモン!」

サンディは褒めてるんだか、呆れてるんだか良く分からん
褒め言葉だった。モンはモンで嬉しそうにダウドの頭に
飛び乗るのだった。

「モン……、ま、またあ~、まあいいか……、さて、アイシャも
回復……、あ、あれ?」

「お……」

ダウドはアイシャも回復しようとしたが、また彼女の姿が見えず。
ジャミルも慌て出す……。

「みんなーーっ!」

だが、心配は要らなかった。直ぐにマウリヤを救出しに
行っていたのだった。アイシャに連れられ、マウリヤも
無事に走ってくる姿が見えた。

「有り難う、皆も無事で本当に何より、アイシャが蜘蛛糸から
助けに来てくれたの……」

「私も皆もマキナさんに助けて貰ったんだもん、お互い様よ!」

「ちっ、デコピンは免れたか……」

「何よっ!……ダウド、私の事よりも、まずは先に
マキナさんを助けてあげて……、今回、私達が勝てたのは、
マキナさんのお陰よ、こんなに頑張ってくれたんだもん……」

「アイシャ……、ううん、私は何も……、ただ、無我夢中
だったから……、あんな力が出たんだと思うの、私にも何か
出来る事をって思ったの、ただそれだけ……」

「マキナさん……」

「ふふ……」

アイシャとマウリヤは微笑みあう。ズオーも倒れ、マウリヤも
無事救出した今、……ジャミル達も決断しなければならない。だが、
ジャミルはアイシャを悲しませたくなかった。マウリヤもこのまま
幸せに生きて欲しかった。その為に……、女神の果実を諦める決意を
していた……。しかし、アイシャとマウリヤに別れが……、2人に
その時が訪れる……。

切欠は突然やって来る。……ジャミルが戸惑っている間にも、
彼女の口から……、本当の事が告げられようとしていた。

「さ、これで本当に帰れるね、ね、ジャミル、私、本当にMP
無くなっちゃったから、ジャミルにリレミト、お願いしていい?」

「ああ、疲れたな、やっと戻れるな、これで……、マキナ、皆も
心配してるよ、戻るか……」

「待って、……ジャミル、皆さん……」

マウリヤは今度はリレミトを使おうとしたジャミルを止める。
アイシャは又もリレミトを止めてしまったマウリヤの方を
不思議そうに見つめた。まだ何か不安な事があるのかと、
アイシャも又彼女を心配するのだが……。

「マキナさん、どうしたの……、もう帰れるのよ?あっ、
そう言えば、あの嫌な2人組はどうしたのかしら……」

「あ……」

そう言われてジャミルは思いだし、アルベルト達と顔を
見合わせる。タンスの中に賊2人組、奴らをそのまま
閉じ込めっぱなしだったのを……。


「「助けてくれえ~、此処から出してくれえ~、もう悪い事は
しないよう~、……うんこが漏れちゃうよう~……」」

「「……もうこんなのに付き合うのは嫌だよう~、とほほ~……」」


「ま、戻ったら直ぐサツに言えばいいだろ、だから早く俺らも……」

「いや、戻らないわ……」

「マキナさんっ!?本当にどうしたのよっ、ねえっ!!」

「わあ!アイシャもマキナさんも落ち着いてよお!」

「モン~……」

ズオーを倒し、漸くこれで戻って落ちつけるかと思いきや、
又問題が勃発。突如、マウリヤの我儘が又始まってしまい
そうだった。アイシャは戸惑い、困惑し、マウリヤに詰め寄る。
ダウドは又揉めだした彼女達を止めようし、モンも側で
オロオロしている……。

「ジャミル~、どうするモン……?」

「おい、アイシャ、お前も落ち着けよ!」

「……落ち着かないわよっ!!」

「……だから話そうとしてるのよ、ねえ、お願い、聞いて、
アイシャ……」

マウリヤはアイシャの肩に手を置く。そして、一瞬悲しそうな
表情を見せるが、気持ちを落ち着け話し出す。……自分の
本当の事、本当のマキナが光る果実に願って、貰った偽りの命。
そして、本物のマキナはもう何処かに消えてしまった事……。
自分は本当は人間では無いと言う事を……、等々アイシャに
告げたのであった……。

「うそ、うそ……、本物のマキナさんはもういなくて……、
あなたはお人形だなんて……」

「本当よ……」

「もういいか、マウリヤ、あんた……、この事、覚悟
してたんだな……?」

「ええ、いずれちゃんと話そうと思ったの、でも、ジャミルは
もう知っていたのね……」

「俺は見えない物が見えちまうから……、屋敷を彷徨っていた
本物のマキナの幽霊に会った、心配してた、マウリヤ、
あんたに謝りたいって……」

「マキナに……会ったのね……」

「……そう、ジャミル達はもう、マキナさんの事……」

「ああ、お前が捕まった後、屋敷でマキナから話を聞いたからな……」

「……」

先にジャミルから諸事情を聞き、知っていたアルベルトと
ダウドは俯く。モンも……。

「で、でも、あなたがマキナさんじゃなくてもいいよ!
お人形でもいいよ!えーと、あなたはマウリヤって言うのね?
じゃあ、改めて、これからも仲良くしようね、マウリヤ!
宜しくね、えへへ!」

「アイシャ……」

真実を告げても、アイシャは変わらずマウリヤと接しようとする。
何処までも優しい、そんな変わらない彼女の姿に……、又マウリヤの
胸がこれまで以上に激しく痛み出す。……自分がこれからしようと
している事、もう決めた事なのに、これから自分は一体どうすれば
いいのか……。どうせなら……、彼女に気持ち悪がられて嫌われた
方が諦めが付いた。それなのに……。

「でもっ、ジャミルっ、……マウリヤの中に女神の果実が
ある筈じゃん、アンタ、どうすんの……?」

「!!」

「黙ってろっ、サンディっ!!」

マウリヤとアイシャがいる前で一番聞かれたくない事だった。
女神の果実がマウリヤの身体から消えれば……、その時、
マウリヤの命は止まる。只の人形に戻ってしまう……。

「そう、ジャミル……、あなた達は私の中にある女神の
果実を探していたのね、なら話は早いわ、どうぞ持って
行って……」

「!!マウリヤっ、ま、待って……、駄目、そんなの駄目……、
駄目……だよう……、ねえ、ジャミル……」

アイシャの瞳が潤みだす……。こうなるから……、分かっていた事で
あった。女神の果実とマウリヤの命……、どちらかを選ばなければ
ならない決断の時。重い雰囲気の中で、やはりジャミルは自分が
天界から与えられた使命に背いてでも自分が出した決断を皆に
告げようとする。マウリヤにこのまま自由に生きて欲しいと、
その時……。


「天使様……、……マウリヤ……」


「マキナ……か?」

「マキナっ!!」

ジャミルの前に幽霊のマキナが姿を現す。……どうやら今回は
マウリヤにもマキナの姿が見えているらしく、再び逢えた友達の
姿を見て、マウリヤは心から歓喜の声を上げた。

「ジャミル、もしかして……、マキナさんが此処に
来てるんだね?」

「ああ、マキナだよ……」

「ひええーーーっ!?」

アルベルトの言葉にジャミルが頷いた。ダウドは混乱。アイシャは
どうしていいか分からずその場に硬直する……。

「マキナさん……、私には姿が見えないけれど……、本当の
マキナさんが今此処に……」

「アイシャ、大丈夫モン……?」

「……モンちゃん……」

アイシャは震える手で心配して自分の側に来たモンを引き寄せ
抱き締める。……マウリヤの命と女神の果実……。そして、
今此処に現れたと言う本物のマキナ。ジャミル達にとって
余りに重く辛い選択を一体どう受け止めて良いか分からないの
だった……。

「……マウリヤ、私の大好きな大切なお友だち……」

「マキナ、久しぶりね、今まで何処に行っていたの?私、あなたに
とってもとっても会いたかった!……あなたが突然いなくなって
しまって、私……、とってもとっても淋しかったのよ……?」

「……ああ、マウリヤ、天使様……、有り難うございました、
私の大切なお友だちを助けてくれて本当に本当に……有り難う……」

「いや……」

マキナは直後、一旦言葉を止める。だが、すぐにジャミルと
マウリヤの顔を交互に見る。そして言葉を続けた。

「……マウリヤ、本当にごめんなさい、私の無理な願いの所為で
あなたを苦しめる事になってしまった……、どう謝っていいか
分からないわ……」

「マキナ、どうして……?」

「えっ……?」

「マキナ、私、今とっても幸せなのよ?だって、ひとりぼっちだった私に、
こんなに沢山のお友だちが出来たのよ、マキナ、あなたのお陰だわ……」

「マウリヤ……、ああ、天使様……、もうマウリヤはひとりぼっちでは
ないんですね……」

「そうさ、俺ら皆マウリヤとダチになったのさ、マウリヤも本当の
友達の意味を見つけられたんだ、心からのな……」

マキナは心から喜びに満ち溢れているマウリヤの顔を見る。
……自分の願いは叶ったのだと。マウリヤに友達を沢山作って
幸せになって欲しい、それが消えゆくマキナの願いだった。
……願いを叶えられた今、マキナは……。

「天使様、本当に有り難う、……私の願いも叶った今……、
私も遠い遠い国へと旅立たなければなりません……」

「マキナ……、行ってしまうの?……本当のさよならなの?」

「私の願いは……、マウリヤ、私を幸せにしてくれたあなたが幸せに
なってくれる事だったのですもの、その願いが叶った今、もう私は
此処にはいられないの……」

「……マキナ……」

「さようなら、天使様……、マウリヤの事、どうか宜しくお願いします、
マウリヤ、さようなら……、私の大好きなお友だち……」

マキナは光と共に昇天する……。消えていく大切な友達……。
その光をじっと見つめながらマウリヤも只管考えていた事の
答えを漸くジャミル達に伝えようと決意していた。

(……マキナ、私はとても幸せ、でも、本当のあなたはもう
此処にいない、マキナはマキナ、私はお人形のマウリヤ、
マキナはもういないの、マウリヤはマキナとしては
生きられないの、……だから私は戻らなくてはいけない、
本当の私、……お人形のマウリヤに……)

マウリヤはもう一度ジャミル達と向き合う。今度こそちゃんと
伝えたい事を伝えるつもりだった。だが、強敵がいるのは分かって
いた。それでもマウリヤは……。

「……ジャミル、アルベルト、ダウド、アイシャ、モンさん、
それから黒い妖精さん、今まで本当に、これまで有り難う……」

「く、黒い妖精さんて……、何か尺に触るんだケド、ま、しょうが
ないか、今、そんな雰囲気じゃ……、ないしネ……」

「マウリヤ、何だよ、急に改まって、……まさか……」

「色んな事があったけど、本当に楽しかった、あなた達と逢えた
お陰、私、お人形に戻ってもずっと忘れないわ……」

「マウリヤ……」

元の人形に戻る事……、それは彼女の口から、彼女自身が口にした
言葉だった。彼女の決意にジャミル達は押し黙り、口を噤んだ。
だが、アイシャは……。

「い、いやっ、どうして……、何でそんな事言うのっ、だって……、
お人形に戻ったらもう……、いやっ、いやっ!私、そんなの嫌っ!!」

やはりアイシャは強敵であった。彼女は耳を押さえ、しゃがみ込んでしまい、
ガクガク震え出す……。分かっていた事とは言え、ジャミル達もアイシャの
錯乱する姿を見るのが辛く、苦痛だった……。

「アイシャ、分かって……、もう自分で決めた事よ、後悔はしてないわ、
私は本来はお人形、……やっぱりこのまま人間の世界では生きて
いけないの、それに、本当のマキナはもう此処にはいないの、
……私にはやっぱりマキナとして生きていくのは無理なの……、
それが分かったから……、このまま元のお人形に戻るの……」

「……いやあ~……、私達、折角、やっと……、お友だちに……、
ひっく、やだ、こんなの嫌だよう~……」

「っ……、マウリヤ、お前……、本当にそれでいいのか!?俺も皆に
言おうとしていた事がある、……マウリヤ、俺はお前がこのまま
この世界で生きていくのなら女神の果実を諦めようと思ってる……」

「ジャミル……?」

「モンっ!?」

「ジャミル、君は……」

「……う、うわっ!?」

泣き崩れるアイシャを見ていられず、そして此方も等々出した
ジャミルの答えに仲間達も騒然……。サンディだけは当然
ジャミルに食って掛かっていった。

「ちょっと、ジャミ公っ!な、何考えてんのっ!そんな事したら……、
せ、世界が……、天使界がこのままどうなっちゃうか……アンタ
分かって言ってんでしょーネっ!!」

「サンディ、やめるんだ……、今は……」

「アルベルトまでっ!……アタシ、もうアンタ達なんか
知らないからっ!!」

サンディは怒って発光体になり姿を消す。……重苦しくなって来た
雰囲気に、本当は彼女ももう耐えられなく、逃げてしまいたかったの
である……。

「ご、ごめんなさい、私の所為……、ふぇっ、で、でも……、
私、私……、どうしていいか分からないの……」

「アイシャ……、お願い、泣かないで……、モン~……」

「モンちゃん……」

アイシャはモンをぎゅっと抱き締めた。マウリヤはそんな
アイシャに近寄って行く。マウリヤも、そして彼女を強く
抱擁した。

「ジャミル、あなたも有り難う、あなたは本当に優しい人ね、でもね、
やっぱり私はお人形に戻ります、……決めた事なの、分かって……」

「マウリヤ……、本当に……、決めたんだな……」

「ええ……」

マウリヤは尚も泣き崩れているアイシャの頭を優しく、そっと撫でた。

「アイシャお願い、泣くのを止めて……、こっちを向いて……、
でないと、本当に絶交するわよ……、デコピンもするわよ……」

「おい……」

「やだああ~……」

アイシャは嗚咽を堪えながらマウリヤの顔を見た。マウリヤはそんな
アイシャの顔を見ながら微笑んだ。

「ねえ、知ってる?お人形でも夢を見れるのよ、私、マキナに
命を託して貰う前も、ずっとずっと夢を見ていたの、大好きな
マキナとお喋りしたい、動ける様になりたい、沢山のお友だちを
作りたいって……、ずっとずっと願っていたわ、でも、その時は
私はひとりぼっちだった、目が覚めたらマキナはすぐにいなくなって
しまって、私は取り残されてしまった……、でも、今度は大丈夫、
アイシャが、皆がお友だちになってくれたから、幸せな夢を見ながら
眠りにつけるのよ……、もうひとりぼっちじゃないの、マキナと皆が
沢山の思い出をくれた、ありがとう……」

「マウリヤ……、私も……、ありが……とう……、さよならは
言わないわ……、また……、会おうね……」

「アイシャ……」

アイシャはそう言うとマウリヤの抱擁から離れる。腫れた目を
擦って……。漸くアイシャもマウリヤが人形に戻る事を受け入れる。
笑顔で彼女を見送ろうと……、涙をぐっと堪え、何とかして泣くのを
止めようと思った。こんな時こそ笑顔にならなくては……、そう
思いながら、楽しい出来事を思い出そうとする。無理矢理笑おうとした。
……だが無理だった。アイシャは皆の処に戻る……。

「マウリヤ、ありがとな、ウチのジャジャ馬と仲良くしてくれてさ、
大変だったろ?へへ……」

「ええ、とっても、あなた達も大変なのね、ねえ、ジャミル、
お願いがあるの、マキナは遠い遠い旅に出た、いつ戻るか
分からない長い旅に出たと町の皆へ伝えて欲しいの……」

「ああ、分かったよ……」

「ありがとう……」

「……マウリヤ、僕達も忘れないよ、君の事……、有り難う……」

「……うう~、オイラ達、ずっと友達だよお~……」

「モンーーっ!モン、マウリヤの事、大好きだモン!ありがとね、
モンっ!!」

「ふ、ふん、何ヨ……、最後だから……、やっぱりアタシも
見送るわよ……、ひっく……」

「みんな、ありがとう、本当にありがとう……」

「えへへーっ、マウリヤっ!……また……ね……」

アイシャは震えながらマウリヤに向かって手を振った。最後まで
笑顔を作ろうと。……大好きな友達の為に……。必死で手を振る……。

「……本当にありがとう、皆……、アイシャ、私の大好きなお友だち……」

マウリヤの身体が光り出し、身体から女神の果実が浮かび上がる。
果実はジャミルの手の中へと……。途端に何かが地面に倒れる音が
する。……人形に戻ったマウリヤだった。……先程まで皆と共に喋り、
笑っていた彼女はもう二度と動く事は無かった……。

「……マウリ……ヤ……」

「!!」

そして、マウリヤの旅立ちを見送り、……堪えていたアイシャも
意識を失い、地面に倒れた……。

……そして、人形の少女は夢を見る。心から幸せな夢を……。

「マキナ、ごきげんよう、今日は何をして遊びましょう?そうね、
私は……、ホースでお水ぶっかけっこがいいわ、楽しいのよ、それから、
悪い人達を懲らしめる冒険に出掛けましょう、あ、ほらほら、マキナ、
またお友だちが来てくれたわ、私の大好きなお友だちが……、ねえ、
マキナ、みんながいてくれるってとっても素敵で楽しい事ね!」

zoku勇者 ドラクエⅨ編 31

zoku勇者 ドラクエⅨ編 31

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  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-01-11

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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