zoku勇者 ドラクエⅨ編 30
悲しきリブドール5
「急がないといけないんですが、マキナさん、話して下さい、
一緒に今いないという事は、アイシャに又何か遭ったんですね!?」
「!!」
アルベルトの言葉にジャミルもマウリヤの方を見る。俯いていたマウリヤは
又顔を上げる。
「ええ、でも、その前に……、私も約束だから……」
「モ、モン……?」
マウリヤは今度、モンの方に近寄って行く。……そして、モンの顔を
見つめ、一言。
「……ごめんなさい……」
「モンっ!?」
「マキナ、……あんた……」
見守っていたジャミル達も驚く。マウリヤはモンに向かって頭を下げ、
謝罪したのである。
「私、本当に意地悪な事を……、皆さんの大切なお友だちに謝ら
なくては……、確か、ブーさんだったかしら……?ごめんなさい、
ブーさん……、あら?違ったかしら、えとえと、……そう、ゴリマン
ちゃんさん?」
「……シャ、シャアーー!」
「ストーップっ!モンっ、キャンディーだよっ!イチゴ味だよっ!」
すかさずダウドが用意していたらしきキャンディーをモンの口に
押し込むと、モンはどうにか大人しくなった。
「……久しぶりのキャンディー、美味しいモン!」
ダウドの機転でどうにかその場は何とかなったが、実は謝る気ねえだろ、
何処をどうやったらあんな風に間違えんだよとジャミルは半目。
「マキナさん、モンは僕らの大切な友達です、もし本当に気持ちが
あるなら……、ちゃんと謝ってあげて下さい、お願いします……」
「シャア~……」
「ええ、分かってるわ、謝りたかったのは本当なの、モンさん……、
信じて……」
アルベルトの言葉にマウリヤは頷く。そして、もう一度モンに向かって
小さく頭を下げた。
「許して貰えないかも知れないけど……、本当にごめんなさい……」
「モ、モン、もういいモン、分かったモン、モン、もう怒ってないモン……」
「ありがとう……、何だか不思議な気持ちだわ……」
「……」
モンは顔を赤くしながら再びダウドの頭の上、定位置に飛び乗るの
だった。マウリヤは本当にモンに心から謝りたかったのだと言う
気持ちは漸くジャミルにも伝わる。
「さて、マキナ、アイシャに何が遭ったんだ?話してくれ!」
「ええ、いきなり大きなクモの怪物さんが現れて……、あの子は連れて
行かれてしまったの、多分、この洞窟の奥に住処があるかと……」
「……ジャミルっ!!」
「大変だよお!急がないと!!」
「モンっ!」
(これはま~たタイヘンだわあ~……、今度はクモのバケモノかあ~……、
ウ~ン、どっちみち、アタシは応援してるしか出来ないんですケド……)
しかし、このままマウリヤをこれ以上巻き込む訳にはいかず……、
男性陣はマウリヤの方を見る。マウリヤは又酷く落ち込んで
いる様子……。
「私の所為なの、あの子が私を庇って……、私、どうしたら……」
「いや、アンタの所為じゃない、そんな顔しないでくれや……」
「えっ……?」
ジャミルはマウリヤに向かって言葉を続ける。マウリヤもジャミルの
方を見た。
「アイツの性分なんだよ、自分の事よりも何よりも、第一に困ってる
奴を助けたい、お節介ですぐピーピー泣くわ、本当に我儘でさ……、
アンタを庇ったのだって、決してアイツは後悔なんかしてない筈さ……」
そして、マウリヤも思い出すのである。屋敷で彼女が本気で自分に
突っかかってきた事。真剣にぶつかって来てくれた事。心を込めて
作ってくれた美味しい(破壊)料理。思い出す度、マウリヤの胸が
温かくなるのだった。
(……やっぱり変……、あの子って本当に変な子だわ……、ふふ……)
「ジャミル、マキナ……どうするモン?」
「そ、それなんだけど……、まいったな……」
「私の事なら心配しないで、……私も何かお手伝いします、
……よいしょ!」
「うわ!」
そう言うなり、マウリヤは近くにあった置き石を持ち上げて力を込め、
石壁にぶつける。……石は粉々に砕け散った……。
「私は如何?」
「……わ、分かったっ!けど、余り無理しないでくれよ!おい、お前らも
マキナのフォローの方、頼むぞ!!」
「あ、ああ……、大丈夫だよ……、何とか……、もう時間もないしね……、
急がないとアイシャが危ない!!」
「はあ、何か……、マキナさんて……、強いんだねえ……」
……鉄格子を曲げて壊したり、さっきのモンスターとのバトルを
見る限り……。
「私、昔テレビでこういうのも見たの、……ダッダーン!ぼよよん
ぼよよん!!……て、言うの……」
「……いいからっ!先行くぞっ!!」
またボケ始めたマウリヤを連れ、一行は更に洞窟の奥へと進む。
だが、例えボケたフリをしていても、マウリヤも一刻も早く
アイシャを救いたいと言う気持ちは同じだった。そして、
道中には又別のモンスターが現れ、一行の行く手を妨害して来る。
今度は祈祷師&メーダロードの大群だった。
「邪魔すんなっ!強行突破っ!!」
「ジャミル、目的まで回復魔法のMPは控えないと!!」
「……はあ~い」
ダウドが片手を上げる。今回はアイシャが捕まっている為、
攻撃魔法担当枠が離脱している状態なので、主に攻撃の中心は
ジャミルとアルベルトだけで行なわなければならない……。
前作にもこんな事があったが、恐らく今回は最後までアイシャの
戦闘復帰は望める状態でないのをジャミル達は感じていた。
「此処は任せて……、私がやってみるわ……」
「けど、向こうは魔法使うんだぞっ!流石に無理だっ!!」
「大丈夫……」
ジャミルが止めようとするが、マウリヤは聞かず正拳突きの構えを取る。
そしてそのまま祈祷師の持っていた杖にパンチをお見舞い。祈祷師の杖は
粉々に……。続いてメーダロードの目玉にも蹴りを入れた。
「……すんげええ~……」
「テレビで見た映画の真似をしてみただけ……」
「それでも凄いよおお~……」
(ね、ヘタレ解雇して、ヘンテコお嬢さんに入って貰えば?って、
ジョーダンだヨっ!ちょ、アンタそんなへんな顔しないでヨっ!!)
「ううう~……」
「マキナさんばかりに頼る訳にはいかないよ!」
「ああ、俺らもやらなくちゃな、格好つかねえよ!!」
「では、お願いっ!」
「うわわわ!あ、危ねえなあっ!!」
マウリヤはメーダロードを一体持ち上げるとジャミル達の方へと
ぶん投げる。ジャミルは慌てるが、こっちに飛んで来たメーダロードを
破邪の剣で真っ二つに切り裂くのだった。……全く、何してくるかマジで
分かんねえお嬢さんだなあと、ジャミルは汗汗。
「お見事!……です」
「はあ……」
マウリヤは剣に刺さっているメーダロードを見て拍手する。
かなり喜んでいる。やはりどっかずれてんだよなあ~……と、
ジャミ公はマウリヤに不思議な感覚を覚えるが、彼女が本当は
生き人形だと言う事も思い出し……。
(……もしも……、この先……、女神の果実が……)
女神の果実を取り戻す事、……それは即ちマウリヤの命を奪う事に繋がる。
マウリヤの身体に宿った果実が女神の果実でなければ……。アイシャを
悲しませたくない一心でジャミルはそう奇跡を願うしか無かった……。
「此処だわ、感じる……、この奥にあの子がいるわ……」
ジャミル達は漸く洞窟の最深部らしき場所まで辿り着いた。
マウリヤは立ち止まるとぎゅっと目を瞑った。あの子と言うのは
間違いなくアイシャの事。彼女がそう言ってくれるからにはまだ
アイシャは無事である事が伺え、ジャミル達も安心するが……。
「マキナ、アイシャは無事なんだな?分かるのか?」
「ええ、何となくだけど……、でも、急がないと……」
「そんな事まで感じるなんて、マキナさんて本当に凄いんだねえ……」
「ええ、おまけに凄い臭いがするわ、これはまるでガスの様な……、
危険な臭い……、何なのかしら、頭がクラクラして来たわ……」
「……」
アルベルトとダウドは揃ってジャミルとモンの方を見る。危険な臭いを
排出するのはこのコンビしかいないからである。
「……何だよっ!お前らはよっ!揃ってっ!!」
「モンっ!!」
「……どうでもいいのよ、そんな事は、さあ、早く……」
「ああ!又モンスターっ!」
「邪魔なのっ!もういい加減にあなた達と遊ぶのは飽きたわ!」
ダウドが叫ぶが、マウリヤは又も突っ込んで来たモンスターを蹴り倒し、
倒れたモンスターにおまけで連打チョップしておく。……心配は
要らなかった。
「ふう……、本当に意地悪ばかりするんだから……、冗談じゃないわ……」
「おい、平気かよ、あんまり無理すんなよな……、頼むよ……」
「大丈夫よ、さあ、行きましょう……」
「マキナさん、でも、かなり疲れているんじゃ……、心配ですよ……」
「大丈夫だったら大丈夫なの!もたもたしていると先に行きます!」
「……マキナさん……」
アルベルトも心配するが、マウリヤはかなり焦っている。アイシャの事が
心配で堪らないのだろう。だがそれはジャミル達も同じ。そして、
マウリヤにはある想いが心の中にあった。
(……マキナ、私、決めたの、私の時が止る前に……、ちゃんと
伝えたいの、あの子に……)
「お願い、どうか無事でいて!」
マウリヤは先頭を切って洞窟最深部の穴へと突っ込んで行く。
その後に続くジャミル達とモン。サンディも妖精モードになり、
ジャミルの身体から飛び出た。
「ジャミル、みんな、いたよ、あそこだよ!アイシャが捕まってるヨ!」
「……アイシャっ!!」
ジャミルはサンディが叫ぶ方向を見ると……、確かにアイシャがいた。
マウリヤが言ってくれた様にどうやら無事の様ではあったが、彼女は
蜘蛛糸で拘束され、動けないまま見せしめの処刑囚の様に吊るされていた。
そして、その側には……。
「ズウォォォォ……」
この洞窟の主、妖毒虫ズオーである。捕えた獲物を渡さぬとばかりに
牙を光らせる。そして又新たに巣に入って来た獲物達を見て興奮している。
ズオーは巨大な身体を動かし、ジャミル達に迫って来る……。
「……あは、ア、アタシ、んじゃこれでっ!頑張ってネーーっ!」
「……アイツはまあいいとして、まずいな、アイシャの奴、意識がねえな……」
「……モンーーっ!!」
「こ、こら駄目だっ!落ち着けっ!」
「なんで止めるモンっ!モンなら大丈夫モンっ!!……シャアーーっ!!」
ジャミルはアイシャの側に飛んで行こうとしたモンを慌てて止める。
「大丈夫じゃねえっ!アホっ!見てみろっ、今回のは今までと格が
違い過ぎだ、ちっ、冗談じゃねえぞ……」
「モ、モン~……、思い出したモン、モンも大きいクモに捕まった事が
あるモン……」
ジャミルに言われ、モンも落ち着いて改めて目の前の巨大な化物蜘蛛を
見つめる。そして、記憶を思いだし、怯え始める。ジャミルとの出会いも、
巨大蜘蛛に捕獲され、巣に捕まっていた処を助けて貰ったのが始まり。
確かに下手をすればモンなど一発でやられてしまうだろう。ズオーは
アイシャをすぐに食べようとせず、弱らせてじりじりいたぶって楽しんでいる。
……趣味の悪いクソモンスターだった……。
「でも、此処で躊躇している訳にはいかないよっ!まずはこいつを
倒さなくちゃ!モン、マキナさんを頼むよ!……行こう、ジャミル!
ダウド!」
「モン~……」
「あなた達……」
「ああ、出来るだけアイシャからこいつを引き離して戦う!行くぞっ、
お前らっ!!モン、此処から絶対動くなよっ!!」
「ううう~、仕方ない……、オイラも頑張りますっ!」
ダウドも覚悟を決めた様である。まずはジャミルが破邪の剣でズオーを
遠くに弾き飛ばした。ジャミルはその方向目掛けダッシュですっ飛んで行く。
ズオーはかなり遠くまで飛ばされて行った様子。隙を逃さず、アルベルトと
ダウドも倒れたズオーの側まで走って行った。
「……ズォォォォォーーーっ!!」
「モンっ!?」
「……あ、あああ……」
だが、直後、ジャミル達がいる方で怒り狂った声と爆発が上がる。
切れたズオーが3人目掛け猛毒弾を発射したのである。
「やっぱりモンも戦うモンっ!!……みんなあーーっ!!」
「モンさんっ!駄目っ!此処にいる様に言われたでしょう!!」
マウリヤはジャミル達の処に行こうとしたモンの尻尾を強く引っ張り
止めようとした。だが、モンはマウリヤに向けて大口を開け、止めるのを
拒否する。
「シャアーーっ!!嫌モンっ!!モンはジャミル達を助けに行くモンっ!!
……マキナ、アイシャを守ってて欲しいモンっ!!」
「モンさんっ!!」
モンはジャミル達のいる方へと飛んで行ってしまう。……残された
マウリヤは……。
「モンさん、あんなに小さいのに……、大きな敵に立ち向かおうと
している、私にも……、出来る事がある、そう、私に出来る事……」
マウリヤは蜘蛛糸で拘束され意識がなく、ぐったりしているアイシャの
側へと近寄って行く……。
「マキナ、あなたがいなくなってしまったこの世界で、やっと見つけたの、
分かったの、……本当の友達の意味、私の大切な……」
「ちょっとっ!アンタら、しっかりしなさいよっ!……ねえったらっ!!」
「う、うう~……」
引っ込んだサンディは慌ててジャミル達に声を掛けようと飛び出して
来ていた。
「聞こえてるよ……、けど、まいったな、けど、初っぱなからこれじゃ……、
あんのバケモン最悪だわ、おい、アル、ダウド……、生きてるかよ……」
「何とか……、でも、流石にこれは毒のダメージが……痛すぎるかも……」
「大変だよお、ベホイミ掛けて……、んでもって、毒も治療しないと……、
オイラ1人でMP間に合うかなあ~……、うう、いたたた……」
「んなろう……、……!?」
ジャミルは何とか気力を振り絞り、立ち上がろうとする。すると見覚えのある
座布団がふよふよ此方に飛んで来るのが見えた。
「モンーーっ!!」
「モン……、おま、来るなって言ったろうが!!」
「嫌モンーーっ!!モンも皆と戦うんだモン!!」
「……そ、そう言えば……、アイツはっ!?」
「モンっ!?」
ジャミルはまたまた非常事態に気づく。……いつの間にかズオーが
その場から消えてしまっていたのである。ジャミルの心に嫌な予感が
込み上げて来た……。
「……さ、探さねえと、あんのクソ蜘蛛……、何処行っ……あうっ!?」
「ジャミルーーっ!!」
動こうとしたジャミルに毒のダメージが追い打ちを掛ける。回復担当の
ダウドも動けず、アイシャも離脱、……一行は最初から駄目駄目、今回は
悲惨な状況に追い込まれていた……。
「取りあえず、毒だけでも消しとかねえと……、モン、道具袋に毒消しが
あった筈だ、頼む、出して俺らに使ってくれ……」
「モンっ!!」
そして、マウリヤとアイシャ側……。
……アイシャ……
「……この声……」
意識のないアイシャに呼び掛ける声が聞こえ、朦朧としていたアイシャは
うっすらと目を開けた。其処にいたのは……。
「アイシャ、……お願い、……目を……覚まして……」
「マキナさん……」
「アイシャ……」
目の前にいたのは、マウリヤ……、まだ本当の事を知らないアイシャに
とって、マウリヤはマキナである。アイシャの瞳に涙が滲んだ。
「ふぇ、……マキナさん、やっと、やっと、私の事、ちゃんと名前で呼んで
くれたんだね……」
「……泣かないのよっ、泣いたらもう絶交するわよ、……いい?其処で
黙って待ってて、今、助けてあげるから……」
「マキナさん……、ありが……とう……」
マウリヤはアイシャに向け、静かに微笑む。そしてアイシャを捕えている
蜘蛛糸をどうにかしようと、彼女の側まで近寄って行った。……直後の
出来事だった……。
「……あ、ああ……、ア……」
「……マキナ……さ……ん……?」
マウリヤはそれきり物言わず静かにその場に倒れる。消えたズオーが
突如現れ、マウリヤをカマイタチでわずか数秒で無残に何回も
身体を切り刻んだ。……地面に倒れた彼女はそのままばったりと……、
動かなくなった。
「……マキナ……さん?」
「……」
アイシャは倒れた彼女に呼び掛ける。だが、マウリヤは全く動かず、
アイシャの言葉に反応しようとしない。それでも尚、マウリヤに
呼び掛けるアイシャの声は……、段々と悲痛涙混じりの叫び声へと……。
「……やだっ!いやあーーっ!こんなの嘘よっ!冗談やめてよっ、
マキナさん、……お願い、ねえ……、私の事、やっと、やっと……、
嫌……だよう……」
アイシャの涙がマウリヤの顔に一滴流れ落ちる。……それでも彼女は反応せず、
動く事は無かった。
「……あ、あああああっ!!絶対……許さないんだからーーっ!!」
アイシャの身体が怒りで熱くなると同時に、テンションが上がり
ミラクルゾーンが発動する。アイシャは自ら自分を拘束している
蜘蛛糸を断ち切る。目の前に立ちはだかるズオーを睨んだ。
……その瞳は悲しみと怒り、涙で濡れていた。
「よくも……」
「下がれ、アイシャっ!!」
「……ジャミル、皆っ!!」
其処に漸く体制を立て直したジャミル達男性陣が突っ込んで来る。
アルベルトの流し切りが決まり、ズオーは又遠くにかっ飛んで行った。
「ジャミル、あいつは又直ぐに戻って来る、今の内に!」
「ああ、アイシャ、大丈夫か!?」
「モォ~ン……」
「……ジャミル、皆……、モンちゃん……、ふぇ……」
モンは心配そうにアイシャにすり寄る。アイシャも久しぶりに皆と
再会出来、涙が溢れそうになったが、今は泣いている場合ではないのは
分かっていた。……涙を必死に堪え、マキナ、……マウリヤの敵を討ち、
ズオーと戦う決意を決めた……。
「アイシャ、お前……、……マキナ……」
ジャミルは倒れているマウリヤ、そして、アイシャの表情を見、すぐに
状況を理解するのだった……。
「大丈夫、MPは残っていないけど、私、戦える、マキナさんが
私に力をくれたの、戦う力を……、マキナさんが私にくれた力を
……無駄にしたくないの!!」
「……本当に大丈夫なんだな?」
「うん!」
出来ればアイシャには無理せずこのまま休んでいて欲しかった。だが、
それを言った処で只でさえ暴走する彼女が大人しくしている筈が無かった。
そして、何より……、ジャミルもアイシャ自身にマウリヤの敵を取らせて
やりたかったのだった。
「ジャミル、急がないと又あいつが戻って来る!」
「……分かってる、サンディ、出て来い……」
「はあ~い……」
ジャミルの言葉にサンディが飛び出す。彼女も只事で無い今回の戦いの
雰囲気を感じ取り、素直に覚悟を決めたのだった。
「モン、お前もだ、サンディと一緒にマキナを……頼む……」
「何処か安全な場所で、僕らがあいつを倒すまで、頼むよ……」
「モン、……ジャミル、アルベルト、分かったモン……」
「了解したヨ、……デブ座布団、行こう……」
「モン……」
モンは倒れたまま動かないマウリヤをじっと見つめた。そして、
悲しそうなアイシャの顔も。和解はしたが、最初はあんなに嫌い
だったマキナ、マウリヤが……、こんな酷い事になってしまい、
モンはどうしていいか分からなくなるのだった……。
「ズォォォォ……」
「わ、わわっ!もう来たよおーーっ!」
「……くそっ、早ええなっ!」
早くもズオーが戻って来た……。ズオー自体も、怒り頂点に達しており、
真面に相手をしてもどうにもならない状態になっているのが感じ取れた。
だが、此処で怯む訳にはいかない。……流石のヘタレも今回は、オイラも
一緒に隠れてまーす!……と、冗談を言える雰囲気ではないのを分かって
おり、諦めていた……。
「ほれっ、サンディ、モン、早く行けっ!……俺らはこっちだっ!!
行くぞっ!!」
「了解っ!!」
「みんな……、マジで頑張ってよ、アンタら負けたら……、アタシ達もモロ
オシマイなんだかんね……」
「モォ~ン……」
ジャミル達4人は……、立ちはだかるズオーを睨む……。例え相手がどんな
強敵であろうと、絶対怯まない、……とにかくしつこい、それがアホ4人組
なのだから。
「いくぞおおーーっ!!覚悟しろーーっ!!クソ蜘蛛ーーっ!!」
「スカラーーっ!!」
ジャミルが剣を構え、ズオーに突っ込んで行く。+アイシャのスカラで
ズオーの守備力を下げる。彼女はMPがもうある訳でなく、魔法5ターン
無制限のミラクルゾーンには限りが有る。短期で決着を付けなければ
ならないが、何せ今回は相手が悪すぎる。いつもの様にやはり簡単には
いかなかった……。
「……ぐ、や、やっぱり……、硬ええっ!」
「そんな……、補助魔法を使っても?も、もう一度……」
「やめろっ、お前は魔法力を攻撃の方に回してくれ!こいつは打撃じゃ
やっぱ……、う、うわ!!」
「……ジャミルっ!きゃ、きゃあーっ!!」
「ああああっ!?」
「うっ、そおおーーっ!!」
「……ズォォォー……」
ズオーは口から蜘蛛糸を放出。4人を拘束する。特にアイシャは……、再び
ズオーに拘束されてしまう事態に……。
「……うあっ!?」
ズオーは拘束した4人を躊躇せず、攻撃し、ダメージを与え、いたぶる。
何度も何度も……。……動けない4人にズオーの猛毒弾攻撃が再び
迫っていた……。
「ちょっとっ!何してんのよっ!こらーーっ!真面目にやれえーーっ!!
こ、このままじゃ、……ホントに負けちゃ……」
「モンーーっ!!」
だが、ズオーは容赦せず……、ジャミル達はサンディとモンの前で
猛毒弾の爆発に巻き込まれた……。
「うそ、うそっしょ、……ねえ……」
「や……、やーモンっ!モンーーっ!!」
「こらっ、デブ座布団っ!アンタが行ったって何にもなんねーって
この前から何回も言ってんでしょッ!!」
「放すモンーーっ!!シャアーーっ!!」
「言う事聞けぇーーっ!……っく、どうしたらいいのヨっ!!」
サンディは錯乱するモンを必死に止めようとするが、彼女自身も皆の
絶体絶命の危機に、一体どうしたらいいのか、分からないでいた……。
「う、ううう……、モン……、さん、……妖精……、さん……」
「モンっ!?」
「ヘンテコオジョーさんっ!な、なんでっ!!」
モンとサンディに見守られていたマウリヤが目を開き、そして
静かに口も開く。彼女は静かに立ち上がると、意を決した様に
二人の方を見る。
「……私、死ねない身体みたいなの、人形だから……、どんなに
傷つけられても……、どうしても死ねないの、だから大丈夫よ……、
大丈夫なの……」
「もォ~ン……」
静かに呟くマウリヤの表情は悲しげで淋しげである。モンは
そんな彼女の顔をじっと見つめていた……。
「分かっている事だけど……、こんな気持ち悪い私……、アイシャにも、
皆さんにもきっと嫌われてしまうと思った、覚悟はしていたの、けれど……、
どうしてかしら、でも、そう考えたら、とても悲しくなってしまって……、
私、変よ、今までの私だったら、こんな気持ち……、感じなかった……、
どうしてなの……」
「……大丈夫モン」
「モンさん……?」
「アイシャはずっとず~っと、マキナと友達になりたかったんだモン!
マキナの事、絶対に嫌ったりなんかしないモン!ジャミルも皆も!」
「……モンさん、ありがとう……、嬉しい……」
「えへへモン!」
マウリヤは静かに微笑むと改めてモンの顔を見つめる。そして、
ジャミル達がピンチに陥っているであろう、戦場の方を振り返り、
険しい顔になる……。
「私、皆の所へ行きます、妖精さん、私に薬草を……、皆さんを助けに
行かなくては!」
「で、でも……、危ないヨッ!アンタに何かあったらアタシが
怒られんじゃん!だ、ダメだよっ!」
「このまま苦しんで傷付いている皆をほおっておけない……、さっきも
言った通りよ、私の事なら大丈夫よ、妖精さん、お願い……」
「ヘンテコオジョーさん……、あーもうっ!分かったわヨっ!何があっても
アタシはセキニントラネーかんネっ!」
「妖精さん、ありがとう……」
「マキナ、絶対に無理しちゃダメなんだモン……」
「ええ、行って来ます!妖精さん、モンさん……」
「まったくモーッ!アンタも段々お節介になってきたじゃん!一体誰の
エイキョーウケちゃったワケっ!?」
「さあ……、どうしてかしらね、不思議ね、ふふ……」
皆を助けたい、自分に少しでも出来る事があるなら……、マウリヤの
思いに押され、サンディはマウリヤに薬草と毒消しが入った袋を
手渡す。マウリヤはモンとサンディに向かって頷くとジャミル達が
いる方向へと急いで走る……。
「待ってて、アイシャ……、皆……、アイシャ、もしも……、
私……、例えあなたに嫌われても後悔しないわ……」
そして、……苦戦中の4人組……。ズオーの蜘蛛糸で拘束され、
男衆はぐるぐる巻き状態で地面に転がされ身動き取れない中、
毒状態も復活してしまった。何とか呼吸はしていたものの、
アイシャも再び意識を失ってしまっていた……。
「……お~い、生きてるかよう、アル、ダウド……、
又やられたな……、」
「大丈夫じゃないけど……、何とか……」
「……うう、も、もう……、オイラ、こんな毎日嫌でーす!
……とほほのほお~……」
「もう一度リベンジだ!ジャミル!何とか拘束から脱出しなくちゃ!
……絶対に諦めるもんか!」
「……ズォォォォ……」
「アル、分かってるよっ!……んうーーっ!!……畜生……」
ジャミルは何とか糸から解放されようともがいてみるものの……。
無理だった……。ズオーはどんどん自分達に迫ってくる。絶対に勝って
生きて此処から出なければならない。……何としても……。
「オイラ、ホントにもうダメで~す、……ごめんよお……、毒が……、
毒がどんどん回ってくるよおお~……」
「ダウド、諦めんなよっ!……ううう~……」
疲れて目を瞑ってしまったダウドの姿を見ながら、ジャミルはどうにか
ダウドを励まそうと声を掛けるが……。自身の身体にも毒がどんどん
回り、染み込んでくる。其所に……、土煙を上げて凄いスピードで此方に
向かって走って来る者が……。
「……マウ……、マキナっ!?」
「マキナさんっ!!」
「マキナさあ~ん……、ダメだよお……」
「あっちへ行ってーーっ!!」
「ズォォォォオーーっ!?」
此方へと突っ込んで来た人物……。マウリヤであった。マウリヤは
ズオーの本体に蹴りを入れると遠くに吹っ飛ばした。……その間に、
彼女はジャミル達と向き合うのだった。
「大丈夫?お元気……?」
「……嫌、元気じゃねーっつーの!オメ、モン達と待ってろって
言ったろうが!オメーこそ大丈夫なのかよっ!無茶しやがってっ!!
あーもうっ!!」
「……じっとしていて、今、助けてあげる……、よいしょ……」
マウリヤはまずは拘束されている4人組を糸から救い出す。
何とか動ける様になったジャミル達はほっと安堵……。
「……大丈夫よ、私、死ねない身体ですもの……、人形だから……」
「マキナ……」
ジャミルにそう呟いたマウリヤは……。再び悲しそうな、
淋しそうな顔をする。暫くの間、彼女は俯いていたが、呼吸を
落ち着け又静かに口を開く。
「私の事よりも、アイシャは大丈夫かしら……?」
「うん、まだ意識がねえんだ……、気絶しちまってる……」
「アイシャ……、可哀想に……、あなた……、どうしてこんなになってまで
何度も頑張れるの、……あなた、やっぱり変、変な子だわ……」
マウリヤはアイシャの身体をそっと側に抱き寄せる。
「う、ううう~ん……」
「!?アイシャ……、意識が……、良かっ……、で、でも……」
アイシャの身体を抱き締めていたマウリヤの手が震え出す……。
目を覚した彼女が目の前に平然と居る自分の姿を見たら……。
嫌われてしまう。マウリヤは静かにアイシャを地面に寝かせると
急いでその場から離れた。そして彼女は同時に過去の事も思い出す。
一度事故で馬車に轢かれてしまったあの時の事を。……それは、
マウリヤがこの世に生を受け、そして、大好きなマキナが
この世界から突然消えてしまった、数日後の事。
「……お嬢さん、お嬢さん!大丈夫ですかいっ!?しっかりしてくだせえ!」
「うわああ~ん!……お姉ちゃんが、お姉ちゃんがーーっ!!
ごめんなさいーー!!ぼくのせいだようーっ!!」
「ああ、何て事……、この子の為に……!神様……!!」
何気なく町を散歩していた時の事。……どうやら遠方からサンマロウに
旅行に来ていたらしい親子と出くわす。息子の方が、路上にいた子猫を追い、
母親の手をはね除け咄嗟に飛び出したのだった。直後、其所に業者の馬車が……。
「ああっ!危ないーーっ!!」
「……きゃあーーーっ!!ぼ、坊やーーっ!!」
其所にマウリヤが飛び出して子供を思いきり突き飛ばした。子供は足を
ケガした様だったが何とか無事だった。だが、マウリヤが代わりに馬車の
下敷きに……。慌てて馬車から飛び出す業者の男。駆け寄る母親……。だが。
「……大丈夫……、私は元気……」
「う、うわああーーっ!?……ば、化け物だあーっっ!!」
「恐いようーーっ!ママーーっ!!……オバケだよーっ!!」
「坊や、こ、ここここ……、こっちへ来るのよっ!さ、さあ、
……早くっ!!」
「……オバケ……?化け物……?」
急いでマウリヤを馬車の下から救出しようとした業者が悲鳴を上げた。
惹かれた筈のマウリヤが傷一つ、怪我も無く、元気でひょっこりと
姿を現したのだった。しかし、それを目撃した業者、親子……。
業者は急いでその場から馬車を出し、助けてくれた親子はマウリヤに
お礼一つ言わず、態度を一変、暴言を吐き、怖がって逃げてしまったの
だった。その時の連中の言葉は今も深く、マウリヤの心に刺さって
いたのである。
「……私、化け物……、私は死ねないのね……、そう、死ねないって
おかしい事なのね、だから……」
zoku勇者 ドラクエⅨ編 30