かみさまがかり次
壱
「神殺し」
まさに。
「そうかよ」
胸を。押さえ。
「最初からこれが」
そうだよ。
言ってやりたかった。
けど。
「はぁっ……はぁっ……」
そんな余裕。ぜんぜん。
「こんな」
簡単に。
って言っていいのか。
神さまを殺すなんて初めてだし。
(まあ)
普通は初めてで。
「満足か」
「っ」
それは。
「そ、そんなんじゃ」
あわてて。
「ないし」
それでも。はっきり。
「ぼくは」
だって。
「濡(ソボル)を」
そうだ。
「取り返したかったから」
だって。
「あんたしか」
いない。
「あんたのせいで」
おかしくなった。
そう、ぼくが。
神さまがかりになったから。
「いいんだぜ」
「……!」
「隙を狙ってた」
「………………」
「ってところか」
(そうだよ)
復讐。これは。
でも。
(本当は)
そうなのか。
「豊葦原(とよあしはら)の国」
「っ」
いきなり。
「瑞穂(みずほ)の国」
「な、何を」
言って。
「この国は」
言う。
「そういう国なんだ」
「………………」
まとめられても。
「稲は」
スパッ。
手で首を切るしぐさ。
「殺される」
「えっ」
ああ、刈り取られるって。
「殺される」
(……う)
まあ。
そこから、それ以上育つってことはないし。
食べられちゃうし。
「死して人を満たす」
(あ……)
それって。
「そういう国だ」
ばたり。
「えっ」
死んだ?
「ねえ」
つつく。
「………………」
反応。なし。
(や……)
やっちゃった。
(けど)
これで。ソボルが。
「そして」
「!?」
ぎょぎょっ!
「よみがえる」
「うわぁっ!」
立ち上がった。
しかも。
「ソボル!?」
またこのパターンか。
「はぁ?」
けだるそうに。
「意味わかんね」
「ええっ」
違う。
「ソボル……」
の。はず。
すくなくとも見た目は。
「はー、たるー」
ぼやく。
「あン?」
こっちを。
「なんだよ」
「へ?」
「なに見てんだよ」
ガンを。
(いやいやいやいや)
こんなの。
「ヤンキー?」
「ああン!?」
そのものだって。
「な、なんで」
「なんで?」
「なんで……」
それしか。
「こうなんに決まってんだろーが」
決まってないだろ!?
「稲だ」
「え」
そこに。
「殺されんだよ」
(あ)
言ってた。
(いやいやいや)
けど、それはソボルと何の関係もなくて。
(関係)
あるのか?
(あっ)
こういうこと?
ぼくの知ってるソボルの『キャラ』が死んで、それで。
「生まれ変わる」
「うわぁっ!」
いた。
「し、死んだんじゃ」
「死んだよ」
あっさり。
「殺された」
(う……)
ぼくに。
「こ、後悔とかしてないし」
強がって。
「だって、ソボルを」
ソボルを。
(あれ?)
ぼくはなんで。
復讐とかしようとしてたんだ。
(だって、ソボルは)
いまここで。
(えーと)
まとまらない。
「よみがえる」
そこに。
「刈り取られた稲の一部からあらたな稲が」
(あっ)
その通りだ。
稲は刈られる。それは死と言ってもよくて。
(そこから)
芽が出て。植えられて。
あらたな稲となる。
それは。
(よみがえり……)
言っても。
「わかるだろ」
言われて。
「わ……」
言いかけ。
(じゃあ)
目の前の。これは。
(どっち……)
ぼくは。
誰に復讐したんだろう。
弐
「謙虚さがなー」
いきなり。
「ないと思わね?」
「………………」
何て。
「ないね」
なんとなく。
(てゆーか)
ないよ。
(まあ)
神さまだから。
「何だと思ってんだろうなー」
「えっ」
神さまで。
「近ごろの日本人はさー」
おじいちゃんみたい。
「神さまって」
めんどくさい。思いながら。
「どう思われたいの」
「神さま」
終わった。
「いやいやいや」
そういうことじゃない。言いたそうに。
「神さまをどう思ってるかってハナシなのよ」
どうって。
「どうとも」
「おい!」
さすがにの。
「関係ないし」
「かかりだろ!」
かかりだけど。
「普通の人は関係」
「あるだろ」
真顔で。
「神さまだぞ」
「うん……」
だから? になっちゃうけど。
「偉いだろ」
まあ、そういうことには。
「その偉さがさー」
「……うん」
どうしてほしいのさ。
「雨が降るだろ」
降るけど。
「どう思う?」
どう思うって。
「傘を」
「じゃなくて」
「ツイてない」
「感想聞いてんじゃなくて」
じゃあ、何を。
「どうしたい」
ん?
「どうって」
状況にもよると思うけど。
「現状維持」
「なんでだよ!」
だって。
「どうしようもないし」
「お」
目が。
「それだ」
それなんだ。
「どうしようもない」
うん。
「降るのも、やむのも」
まあ。
「だから、傘を」
「そっちに戻すなって」
言われる。
「傘とかの問題じゃないだろ」
じゃあ、何の。
「降りすぎる」
「はあ」
「困る」
だから、傘が。
「あるよなー、洪水とか山崩れとか」
「あー」
そのレベル。
「困るよ」
当然。
「傘とか意味ないし」
「ないな」
得意そうに言われても。
「あんたが降らせてるわけじゃないだろ」
「降らせてんだよ」
「えっ」
そうだったの。
「そういうことになってる」
どういうこと?
「まー、あれだ」
指をふり。
「止めてほしいと思うよな」
「うん」
大雨だもん。
「くれるの?」
「違う」
「ええっ」
どういう。
「止める止めないじゃない」
じゃあ。
「やめるんだ」
「え……」
やめる?
「何を」
「雨をふらせるのを」
「………………」
それって。
「マッチポンプ的な」
「よく知ってんな、そんなの」
最近の小学生なら。
まあ、ほとんどはやっぱり知らないかもだけど。
「違うの?」
「近い」
近いんだ。
「つまり『雨を止めてください』じゃない。『雨をふらせるのをやめてください』って祈るんだな」
「んー……」
ん?
「それって」
違うの?
「同じじゃん」
「違う」
はっきり。
「『止めろ』って命令だよな」
命令っていうか。
「『やめてください』ってお願いじゃん」
まあ。
「主導権、こっちだろ」
ん?
「しゅどーけん?」
「あー、難しかったかー」
そうじゃなくて。言葉の意味そのものはわかってて。
「降らせるのもこっち、止めるのもこっち」
あ。
「全部こっち」
得意そうに。
「だったら、『とめて』じゃなくて『やめて』だよな」
そういうことに。なるのか。
「お願いするんだよ」
あらためて。
「雨を降らせるのをやめてって」
「うん……」
「雨を止めてじゃなくて」
微妙な。
けど、なんとなく。
「わかる」
「やっとかー」
大げさに。
「まあ、そういう謙虚なものだったってわけ」
「えっ」
急に。
「何が」
「だからー」
もどかしく。
「人間が」
「んー」
ちょっと。つながらない。
「謙虚?」
「だろーがさ」
まだわからないのかと。
「お願いしてるんだぜ」
「……うん」
「自分の望みをかなえてほしいとかじゃなくて」
「えっ」
そういうことじゃないの?
「受験に合格したいとか、カレシがほしいとかじゃない」
「あ……」
それって。
「しないでほしい」
つまり。
「お願いします」
頭を。
「そういうさ」
顔を上げ。
「それが謙虚ってもんだろー」
「あー」
なんとなく。
でも。
「降らなかったら」
「え?」
「雨が」
そうだよ。
「やんでもらいたい以前に降ってなかったら」
「それは……」
「神さま、いらなくない?」
「おーーーーい!」
絶叫。
「なんで、そうなる!」
「だって、そうなる」
間違いなく。
「降ってないんだから」
「おーし、わかったよ」
腕まくり。
「降らせてやんよ」
おー。
「神さま、なめなんよ」
なめてないけど。
それ以前ってカンジで。
「よーし」
気合? を入れ。
「ん~……」
力を。
「んん~……」
こめて。
「……ふぅ」
えっ。
「はぁーあ」
「ち、ちょっと」
一仕事終わったみたいな。
「あー」
あっさり。
「だめだな」
「ええっ!?」
だめかよ。
「だってさー」
ぜんぜん悪びれない。
「天気がアレじゃん」
「天気?」
「そりゃそーだろ」
向こうのほうが『なに言ってる』みたいな顔で。
「晴れてんじゃん」
晴れて――いるかは屋内だからわからないけど。
「無理だろー」
「む……」
じゃあ、ぜんぜん。
「嘘じゃん」
「はぁ?」
「雨降らすとか」
「嘘じゃねって」
引かない。
「神さまだし」
理由になってない。
「アメフラシじゃないし」
それはそうだけど。
って、アメフラシって何だっけ。なんかナメクジみたいな。
「んじゃ、とゆーわけで」
「終わってないよ!」
あわてて。
「逃げないでよ!」
「はぁ?」
どういう意味? って顔。
「『はぁ』じゃなくて」
逃がさないし。
「降らせてよ」
「意味わかんね」
「わかるだろ」
わかりすぎるくらい。
「だから、天気がー」
「おい」
それをどうにかするのが。
「言っただろ」
できの悪い子を見る目。
「神さまに頼むなら、雨をやませてくれますようにだって」
言ったけど。
「つーか」
にらまれる。
「何様だ?」
「ええっ!?」
こっちかよ。
「神さまに命令するって」
「命令とかじゃ」
自分が『降らせる』って。
「あーあー、これだから人間は」
「あのさー」
人間代表みたいに言わないでほしい。
(だって)
ぼくは。
「わかったよ」
「えっ」
降らせるのか。
「こういうことにしね?」
「え……」
どういうことに。
「待つ」
「?」
「そしたら降らしてやるよ」
「………………」
えーと。
「待てるよな」
待てないことは。
「ない」
けど。
「じゃあ、決まりな」
決められた。
「……ちょっと」
なんだか。
「ずるくね?」
参
「使ってみね?」
いきなり。
「何を」
とりあえず。
「神さま」
何て。
「神さま」
くり返される。
「を?」
「を」
うなずく。
「………………」
何と。言えば。
「お買い得だぜー」
買うの。
「いくら?」
思わず。
「や、例えだし」
そこは普通に返すんだ。
「で」
気になってた。
「使うって」
「お、聞いちゃう?」
(う……)
ちょっと後悔。
「そりゃ、聞きたいよなー」
「いや」
うれしそうなところへ。
「いいの?」
「へ?」
「いや」
だって。
「使われる……」
「そーだ」
「神さまが」
「そーだ」
「………………」
いや『そーだ』じゃなくて。
「いいの?」
あらためて。
「なに?」
向こうから。
「遠慮してんの?」
「遠慮とかじゃ」
ないんだけど。
「よーし」
何の『よーし』だ。
「お試しだ」
「は?」
無料体験みたいな。
「ほら」
いや『ほら』って。
「えーと……」
つい。
「どう」
聞いちゃう。
「使ったり」
「そこ、気になるかー」
(あっ)
また調子に。
「フリー」
「えっ」
「自由自在」
(……って)
お手軽すぎない?
「いいんだ」
「ん?」
「そんなんで」
「イエス」
さらに軽い。
「あーあ」
わざとらしく。
「残念だなー。せっかくのチャンスをー」
(チャンス……)
か?
(いや)
これはある意味。
(うーん)
ちょっと考えたけど。
「お試しなら」
「あいよ、お試し一丁!」
寿司屋か。
「サビ抜き? あり?」
「ええっ!?」
なんだよ『サビ』って。
「歌の一番盛り上がるところを」
そっちかよ!
「抜き!」
どっちにしろ。
「通だね」
ありのほうがそれっぽいけど。
「まー、お子様だからなー」
ねじり鉢巻き。
「え……」
たすきがけ。
「まー、最近の回転寿司チェーンは、最初からサビ抜きらしいけど」
(いやいやいや)
握るの? マジで?
「違うし」
「お、サビありか。通だね」
どっちでもじゃん!
「お子様だから、最初はギョクで」
ギョク? あっ、玉子。
「次がギョクで、続いてギョクで、シメにギョクと」
玉子づくし!?
「お子様だから」
子どもでもうれしくない!
や、うれしい子もそこそこいそうだけど。
「のりたま?」
ふりかけじゃん!
「なら、どうすんだよー」
どうするもこうするも。
「まー、こっちで決めるけど」
「えっ」
「フリーだし」
フリーってそういう。
「ふりーかけだし」
びっくりするくらい寒い!
「あ」
突然。
「フリー終了ぉー」
「え?」
「残念だったなー」
「………………」
あぜん。
「……い」
やっと。
「いいの?」
こんなのって。
「よくない」
「ええっ!?」
そっちから。
「あのなぁ」
にらまれ。
「調子にのんなよ」
「は!?」
調子に? いつ?
「え、えーと」
置いてかれっ放し。
「どういうこと?」
「どーもこーも」
胸を張る。
「フリーだし」
自由すぎるにもほどが。
「わかんない」
お手上げ。
「なら、聞けよ」
何を聞けばいいのかも。
「えーと」
最初から。
「使うとかなんとかって」
「あー、違う違う」
いや、言ったって。
「使用じゃなくて」
指を立て。
「利用」
「は?」
「計画的に」
計画も何も。
「利用?」
「髪切るんじゃなくてな」
それは理容――っていいよ、細かいボケは。
「神は利用できるんだよ」
「え……」
軽く。驚き。
「利用?」
「ヨーロッパの都市じゃなくてな」
それは、リヨン。
じゃなくて。
「いいの?」
「いいも何も」
できるんだからという。
「いいんだ」
軽く。まだ。
「誰にでもってわけにはいかないけどさ」
それはそうだ。
「誰」
なら。
「巫女」
あっさり。
「……え?」
それって。
「昔からこの国では巫女が」
「いやいや」
この流れは。
「というわけで」
「ないって!」
あわてて。
「またあれでしょ!? ぼくが巫女に」
「なりたいかー」
「言ってない!」
あり得ない。
「わかった、わかった」
わかってないって!
「ほれ」
両手を広げ。
「利用」
「う……」
このままじゃ。
「じ」
なんとか。
「時間ちょうだい」
口に。
「考えるから」
「あン?」
「だって」
言う。
「計画的にでしょ」
肆
「学校っていらない」
いつも通り。
「ふーん」
「おい」
不満そうに。
「なに、その薄いリアクション」
リアクションとかって、神さまが。
「だって」
言っちゃう。
「関係ないし」
「は?」
「通ってないでしょ」
学校に。
「そーだな」
認めた。
「憑いてるし」
えっ。
「何て」
「おれはさー」
無視。
「いらないと思うんだよなー」
「い、いや」
いま取りづらいよ、そっちのリアクション。
「あのさ」
とにかく。
「いるかいらないかは置いといて」
「どこに」
そこに興味持たないでよ。
「憑いてるって」
そっちが。
「マジ?」
「マジ」
軽い。
「なんか、恨みとかで」
「は?」
「だって」
そういうことじゃ。
「んー」
考える。
「ない」
あっさり。
「本当に?」
だって、イケニエの話とか。
「人柱……」
「おいおい」
「じゃないの」
「どんな、おぞましい学校だよ」
自分で言うかな。
「埋まってねーし」
「ないんだ」
「残念そうに言うな」
コツンと。
「じゃあ、なんだ? トイレの花子さんやら学校の怪談系はみんな校舎の下に埋まってるのか」
そこまでは言ってないけど。
「いつ建てられた学校なんだよー」
どんなに古くても花子さんはない。
「古墳時代か」
それは古すぎる。
「巫女の時代だなー」
げっ。
「ないし」
「ないかー」
まだあきらめてないのか。
「それより」
話を元に。
「えーと」
どこが“元”かも見失いそうだけど。
すると。
「学校の憑き神」
「っ」
「なんだよ、おれって」
突然の。
「……は……」
初耳だ!
「何それ」
当然。
「そのまんま」
それがわからないんだって!
「憑き神?」
「ほら、神さまって憑くじゃん」
そうかなあ!?
「幽霊みたい」
「なんてこと言うんだ」
「化け猫?」
「かわいい」
そっちはいいんだ。
「化け神」
「微妙」
微妙なんだ。
「じゃあ、何?」
「だから」
イラッと。
「神さまじゃん」
「ただの?」
「ただの」
わからないかなーって顔を。
「ただの神さまって」
思わず。
「偉いの、偉くないの?」
「偉いだろ」
自信満々。
「神さまなんだから」
「はぁ」
なんか、納得いかない。
「大統領だってそうだろ」
「は?」
とぶなー、話が。
「“副”とか“臨時”とかついたほうが下じゃん
「それは」
そういうものかなぁ。
「そういうもんだよ」
言い切られる。
「んで、学校がいるかって問題だけどさー」
あ、そこに戻る。
「いらないよなー」
「いや……」
憑いてるんでしょ。
「困らないの」
「ん?」
なくなったら。
「ないほうがいい」
そうなの!?
「憑いてるから」
だから。
「どこにも行けない」
えっ。
「どこかに」
行っちゃうの?
「お」
にやにや。
「行ってほしくないかー」
いや、言ってないし。
「行っても」
構わないって。
「行けない」
言われる。
「憑いてるからな」
「じゃあ」
とっさに。
「やめれば」
「そんな簡単にいくかよ」
そうなんだ。
「そういうもんだ」
言われる。
「動けるってのは最高の自由だからな」
肩をすくめ。
「神さまにはそれがない」
「偉いのに?」
「偉いのに」
「ふーん」
そういうものかもしれない。
人間の世界にも当てはまりそうな気がする。
「大変なんだね」
「大変なんだよ」
神さまは。
伍
「巫女は神さまなんだよ」
またか。
「はいはい」
適当に。
「あのさー」
あきれ顔で。
「なんで、そんなに消極的なわけ」
積極的なほうが変。
「日本で一番偉い神さまは女だぜ」
「えっ」
あ、言われてみれば。
「いやいや」
だからって。
「関係ないし」
「かかりのくせに」
かかりだけど。
「あっちの担当じゃないでしょ」
「果たしてそうかな」
「えっ」
そうなの?
「聞いてないし」
「そりゃ、神さまだもん」
いや、意味が。
「勝手なんだよ、神さまってもんは」
それはものすごーくよくわかる。
「だからだよ」
ぐぐっ。近づいて。
「巫女で対抗するんだろうが」
「………………」
つながらない。
「対抗しなくていいじゃん」
「なんでだ!」
こっちが『なんでだ』だ。
「偉いんでしょ」
「だからだよ」
なんで、そんなやる気一杯なの。
「まさか」
自分が取って代わるとか。
「そんな野心が」
「どんな野心だ」
あきれる。
「そうじゃないだろー」
頭をかき。
「おれはどんな口実でもいいから、おまえを巫女に」
そっちがメインか!
「なんでさ」
いまさらだけど。
「神だぞ」
言われる。
「巫女からそのまま神のほうがストレートじゃん」
「えっ」
なに、その裏口。
「裏口とかじゃねーし」
だったら。
「本道だし」
そうなの。
「だからさー」
まだわからないのかと。
「昔は巫女が神そのものだったんだって」
本当に昔の話だ。
「卑弥呼とか」
「知ってんじゃん」
知ってるけど。
「巫女なの?」
「巫女だよ」
得意げに。
「つか、もはや神だな」
「はあ」
いまでもすごい人のことを『神』なんて言ったりはするけど。
「預言」
「えっ」
いきなりだよな-、いつも。
「するだろ」
「しない」
「普通はな」
どういう。
「するんだよ」
強引に。
「それは神の言葉だ」
「あー」
なんとなく。
「だろうね」
ただの人の言葉を伝えられてもうれしくないし。
それじゃ、伝言だ。
「預言」
あらためて。
「誰が証明する?」
「えっ」
そんなの。
「えーと」
わからない。
「誰も」
「だな」
あっさり。
「証明なんてできない」
「ええっ」
そんなの。ずるいっていうか。
「自由じゃん」
「何が」
「何を言っても」
神さまが言ったってことに。
「だから」
にんまり。
「巫女は神そのものなんだよ」
「っ……」
そんな。
「……ああ」
それでも。
「わかった」
「おー」
パチパチパチ。
「偉い」
偉いんだ。
「神さまより?」
「もち」
軽いよ。
「同じだよ」
え?
「神さまとその言葉を伝える者が」
うん。
「同じになるんだ」
わかった。
誰にもそれが本当か本当じゃないかわからないなら。
預言者の言うことは、みんな神の言うこと。
だから、神さまがしゃべってるのと変わらない。
「同じだ」
納得。
「同じだな」
うなずいて。
「だから」
「ならないし」
陸
「個性ってさー、いらなくね」
似たような。前にも。
「いらないね」
あっさり。
「だよなー」
「………………」
「………………」
えっ、終わり?
「さーて、明日の天気は」
「いやいやいや」
無理が。
「そっちから言ったんじゃん」
「言ったよ」
だから? みたいな。
「えぇー」
どうするのさ、この空気。
「いる?」
「えっ」
逆に聞くか。
「えーと」
ちょっと考えて。
「違うんじゃない」
「ん?」
「いるいらないじゃなくて」
それは。
「ある」
「おー」
パチパチパチ。
(いや)
拍手されるほどのことでも。
「だから、いるいらないとかなくて」
「いらない」
断言。
「消す」
消す?
「それって」
「個性を」
驚きの。
(いや……)
そういうことを。神さまが。
「そもそも、そうじゃん」
「えっ」
「ここが」
指を。下に。
「ここって」
拝殿?
「神の前ではみな平等だ」
(ああ……)
そういうこと?
「それはさておき」
さておくのか。
「消されてる」
「?」
「すでに」
「え……」
まさか。
「消した?」
「バーカ」
なんでさ。
「学校だよ」
学校?
「消してるんだよ」
学校が?
「制服」
指さされる。
「や」
着てないし。小学生だから。
「ランドセル」
それなら。
「なんでだ」
聞かれる。
「なんでって」
そういえば。
「あっ」
気がつく。
「消すため」
個性を。でも。
「なんで?」
「ラクだから」
ずばり。
「ラクだぜー」
どっち側なのさ。
「一人一人相手してたら面倒じゃん」
それは、まあ。
「生徒」
一本。指を。
「それだけでいいんだよなー」
「はぁ」
どう答えろって。
「ランドセルを背負ってるのは小学生。以上。な、ラクだろー」
だから『ラクだろー』って言われても。
「関係ないし」
こっちには。
「先生都合だもんな」
「うん」
「それでも、みんなランドセルってどうよ」
言われても。
「別に」
いいとも悪いとも。
「洗脳されてる」
そうなのかな。
まあ、習慣って、ある意味そういうものかもしれないけど。
「制服もそうだよ」
続けて。
「学校だけじゃなくてな」
だけじゃなく。
「ほら、店屋」
あー。
「あれも個人から、制服で『店員』になってんだよな」
なるほど。
「だから、あれは驚いたな」
うんうんと。腕を組んで。
「ウーバーイーツ」
おい。
「あれって、制服ないだろ? ちょっと新鮮だったなー」
なに、このオヤジの世間話。
「四角いリュックは背負ってるじゃん」
あれもランドセルみたいなもので。
「あー」
言われてみればと。
「確かに、みんな同じだもんな」
「うん」
「あれで『ウーバーイーツの配達員』ってわかるもんな」
「うん」
「だまされたー」
いや、勝手に。
「どうすんだよー」
何を。
「あれは確実にそうなんだよなー」
今度は。
「巫女」
またか!
「あの服も個性を消して同じ神に仕える者としての」
「着ないから!」
漆
「表がない」
「?」
「うらない」
えっ、ダジャレ?
「おもてなしとも言うけど」
(だ……)
だから?
「というわけで、今日のおたよりは」
おたよりのコーナー!?
「広島県出身、佐渡ヶ岳部屋」
力士!
「というのは置いといて」
どこを? どこからどこまでを?
「神と占いについて今日は語ろう」
講義か。
「神と言えば占いだよなー」
そう?
「今日のラッキーカラーはー」
軽くない!?
「ふたご座の今日の運勢はー」
違くない!?
「こんなカンジで」
「いやいやいや」
神さま関係ないやつじゃん。
「誰が決める?」
「えっ」
いきなり。
「誰がって」
ラッキーカラーとか、星座とか?
「占い師が」
「占い師は誰から」
えぇー?
「それは」
えーと。
誰からだ?
「か……」
思わず。
「神さまから?」
「おー」
パチパチパチ。
(正解なのか)
うれしいようで、別にそうでもなく。
「で、今日のラッキーカラーはー」
「いやいやいや」
やっぱり、なんか嘘くさい。
「なんでさ」
「あ?」
「神さまが」
ラッキーカラーって。
「決めてくれる」
「えっ」
「それが」
両手を広げ。
「神だろ」
え? え?
「決めて」
「くれる」
言われても。
「なんか」
それって。
(自由? みたいなのが)
「占いに自由はない」
「おお!?」
言われた。
「そんなの」
あれ? でも、それが。
「うらない」
「っ」
「裏はないんだ」
(ど……)
どう返せばいいの。
「迷うな」
「……!」
「信じろ」
(う……)
なんか。それっぽく。
「人間は自由の刑に処されている」
「えっ」
自由の――刑?
「全部、自分で決めないといけない」
「え、いや」
それは。
「そんなこと」
ない。はず。
「そうかー」
わかってないのか。
そんな、あわれみの。
「決められてると思ってる?」
こくこく。
「違う」
きっぱり。
「誰かに『ああしろ』と言われる」
うん。
「従うか従わないかは、自分の自由だ」
「えっ」
そんなの。
「無理やり」
「させられることもある?」
こくっ。
「違う」
また。
「その『させられる』を選ぶのも自分なんだ」
「そんな」
ムチャクチャだ。
「事実だ」
ゆるぎない。
「拒むことはできる」
「けど」
拷問されたり、殺されたり。
とか。
「そちらを選ぶ」
「……!」
「こともできる」
そんな。
「結局」
断言する。
「受け入れたのは自分なんだ」
そんな。
こと。
「あ」
はっと。
「刑」
「ああ」
重い。確かに。
「決めてくれる」
それって。
「占いは」
つまり。
「ああすればいい、こうすれば幸せになれるって」
そう。だから。
「まー、信じるか信じないかも自由なんだけど」
結局じゃん。
捌
「Sだよな」
「えっ」
「神って」
「………………」
どう答えれば。
「だよね」
うなずくしか。
「Mではないよね」
だって。
「やりようが」
なに言ってんだ、ぼく。
「あるだろ」
「あるの!?」
どうやって。
「じらす」
「じらす?」
「無視とか」
「あー」
確かに。神さまが無視されるって。
「厳しいぞー」
「……うん」
けど。
「それがいいんだ、神さまは」
「ん?」
「だから」
Mってことは。
「いいわけないじゃん」
「じゃあ」
M……か?
「だから、Sなんだって」
あー。
「言ってた」
「だろ」
どうでもいいんだけど。
「だからさ」
「えっ」
じりじり。
「え、ちょっ」
何?
「わかってるよなー」
わかってない、何もわかってない。
「泣けよ」
「ええっ!」
そんな直接的!?
「神さまはそういうの大好きなんだぜー」
そうだったの!?
「ほら」
「い、いや」
あせりまくって。
「何もないのに」
「あればいいんだな」
しまった! もっとピンチに。
「あっても」
関係ない。思わず強がる。
「いいぜ」
ますます。
「やっぱ、生贄は抵抗してくれないとな」
イケニエ!? いつからそんな話に。
「違うし!」
「いいぜ」
「いやいや!」
「いいぜぇー」
ヤバい。目が。
「ぜんぜんよくない!」
もう必死で。
(……あ)
だめだ、逆だ。
(いやがれば)
いやがるほど。向こうはその気に。
「………………」
「おっ」
おもしろそうに。
「なんだー」
答えない。
「無視かー」
そうなんだけど。
「じらしかー」
それは違う。
「おーい」
相手しない。
「そんなに無視すんなよー」
しゃべらない。
「無視してると」
言う。
「いなくなっちゃうぜ」
「えっ」
思わず。
「あ」
しまっーー
「……っ」
いなかった。
「え……」
ぼうぜん。
「い、いや」
あせって。
「いなくならなくても」
返事は。
「………………」
ない。
誰も。いない。
「ちょっと」
これって。
(どっちの)
プレイ? なんだろう。
(え、えーと)
とりあえず。
「おーい」
呼んでみる。
(おー)
響くなー、誰もいないたたみの部屋は。
(いや)
たたみは関係ないか。
(って)
ツッコミも。
「おーい」
反応が。ないって。
(こんな)
気持ちだったのかな。
神さまって。
(てゆーか)
これじゃ。
(いないも)
おんなじ。
(最初から)
いやいや。
(いたって)
心の中で。言っても。
「………………」
口では。
(だって)
独り言じゃん。
『そうさ』
「!」
聞こえた。
『聞こえるだろう』
う、うん。
『神さまはいるとかいないとかじゃない』
じゃあ。
『ある』
「ある……」
口に。
「神殺し」
「っ」
まんま。『人殺し』なニュアンスで。
「なんだよ……」
すごい。悪いことした気に。
『殺されるってことは』
そこに。
「いるってことだよ」
「あ……」
手を。
広げられ。
「ほら」
いたし。
玖
「生んでみる?」
相手しない。
「おーい」
無視。
「はぁー」
ため息。
「一人で生むしかないか」
「おい!」
無視しきれない。
「何なの、それ!」
「ひでーよなー」
「は!?」
ぼくが? なんで?
大体、小学生になんてことを。
「知ってるか?」
「え」
「児童の貧困率は、五十パーセント以上」
何、いきなり。
「一人親の家庭で、そういうデータが出てるんだよ」
なんで知ってるの?
えっ、神さまだから? そういう問題?
「実際、あり得ねーだろ」
「あり得ないって」
どこが? その情報量?
「だからだよ」
つながらない。
「二人で子づ」
「しない」
危ない、危ない。
「なんでだよー」
なんでって。
「いま言っただろー」
言われたけど。
「一人で国生みはできねんだって」
えっ。
「国……生み?」
「そっ」
あっさり。
「生むの?」
「生むよ」
衝撃だ。
「神さまだし」
神さまだけど。
「あー」
聞いたことが。
「イザナギとか、イザナミとか」
「いたな、そういう人」
いや、神さまでしょ。
「というわけで」
どういうわけで?
「生むぞ」
「うん」
あっさり。
「あれ?」
なんで。
「そうなんだよ」
当然って顔で。
「神さまなんだよ」
何が。
「人ってのは」
「えっ」
いや、人は人でしょ。
「神のかたまりだ」
どういうこと?
「かたまってるの」
「ん」
うなずいて。
「え」
舌を。
「べろ?」
「えーえー」
首を横に。
「え?」
何を言いたいのさ。
べろ出しっぱなしじゃ言えないだろうけど。
(うわー)
よだれが。たれてきて。
「うわぁっ」
なに、近づけてきてるの!
「神だ」
いきなり。
「……は?」
ついていけない。
「つば」
「は!?」
どういうこと。
「ぺっ」
「うわぁっ」
とびのいた。
「何して!」
「ほら」
にやり。
「逃げたろ」
逃げるって!
「神だ」
「ええっ!?」
どういう。
「なんでだ」
「は?」
何が。
「逃げたこと?」
「そっ」
逃げるよ、普通。
「汚いし」
当たり前で。
「おまえのつばは汚いか」
「はぁ!?」
聞くか、そんなこと。
「汚いものを口から」
「ちょっと!」
どんな言い方だ。
「だって、自分のは」
汚くない。
はずで。
「ほら」
どうだと。
「神じゃん」
だから、どういう。
「結界」
また。舌を見せ。
「だな」
「ケッカイ?」
どういうこと。
「ぺっ」
「うわあっ」
だから、やめてって!
「相手は逃げる」
「えっ」
「よくやるだろ」
やったことないけど。
「なんで、逃げる」
「だから」
汚くて。
「あ」
はっと。
他人のはだめで、自分のはそうじゃない。
(これって)
「結界」
そう。
「分ける」
「だな」
合ってた。
「自分と他人を」
「それが」
言われる。
「神だ」
「………………」
そう。
いうことに。
「血もそうだな」
「えっ」
今度は。
「輸血ってあるじゃん」
あるけど。
「なんでだ」
また。
「なんでって」
輸血は。
そうしないと死んじゃったりするからで。
「神だ」
また。
「人を生かすんだぜ」
あ。
「自分だって、血がなくなりゃ死ぬんだ」
「それは」
当たり前で。
「なんでだ」
なんでって。
(だから……)
うまく。説明が。
「神だ」
言われてしまう。
「……うん」
うなずくしか。
「生むのも神だ」
さらに。
「人を生むのは、それこそ奇跡だろ」
それは。
「まあ」
またも。
「何もないところから生まれて、さらに生んでいくんだ」
「うん……」
何もない。っていうのは違う気がしたけど。
確かに、人は最初から人のかたちはしてないわけで。
それが人になるわけで。
「神」
「だろー」
わかったかと。
「人は神のかたまりなんだよ」
つまり。
「えーと」
どういうことになるんだ。
「神さまなの」
「ん?」
「人って」
「いいや」
首を。
「人には、結界張ったり、命を与えたり、人を生んだりはできねえだろ」
「だったら」
「神だよ」
言われる。
「………………」
そして。
「そうだね」
言っていた。
かみさまがかり次