モザイク

段落及び内容の一部を修正しました(2025年1月9日現在)。


私の長すぎる話に合わせて沈む時間が遅れた夕陽。その日の夜の訪れを待っていた街と人々の騒めき。しきりにチェックされる気象情報、それと見比べられた空の色。
次第に広がっていった混乱の様子は様々で、一番近くにいた子供たちはもっと遊べると喜ぶ。その子供たちを迎えに来た親たちが囁き合っては戸惑う。路肩に停まって一人の乗客を降ろしたタクシー運転手は、しかしそのまま走り出そうとせず、降車した乗客も歩き出すことなく、ずっと向こうに見える輝きにその目をゆっくりと、細めていく。何が異変なのか、どちらが異変なのか。きっと誰も分かっていない。
前へ進む者たちは、ノイズキャンセリングに優れたヘッドホンを耳に当てて、好きな音楽を好きなだけ聴いている彼であったり、事に備える覚悟を思わせる慎重さで手にしていたスマホを鞄に仕舞い、決死の足取りですぐそこのお店に入っていく彼女であったり。歩道や車道をぴょんぴょん跳ねながらゴミを漁るカラスだって、こうして、人の言葉で記す字面の印象よりずっと誠実に生きている。だから大事に抱える遺骨も箱の中でカタカタ鳴って、花束も揺れて、信号待ちを無事に脱する。前へ進む者たち。
後部座席から伸びてくる手の平に飴を一個、二個と乗せていき、三個目の味を今度は口に頬張って味わえば昔の話も、これからの話も上手くできない。流れるように過ぎて行く景色を眺めようにも、もう眩しくて、痛くて、とてもじゃないけど直視できなかったから。残酷なぐらいに飽きてみせて、思いつく限りの悪口を頭に浮かべて、消えるのを待つ。焼かれるように。長い、長い一直線の道。



夜を迎えるのが遅くなった分、次の日の朝も遠ざかる。それがどうしたって喚き上げる、あの橙色。あの強さ。羨ましがれよ、狂おしいほどに。

モザイク

モザイク

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-01-08

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