zoku勇者 ドラクエⅨ編 29

悲しきリブドール4

マウリヤは暫くの間、鉄格子をぐっと握り締め、何か考えていた様だったが、
やがて浮かれている盗賊達に向け、言葉を発した。

「……あなた達、お金が欲しいの?でも、残念ね、家にはもうお金なんか
ないわ……」

「な、何だと……?」

「はあ~?」

賊共の視線が一斉にマウリヤの方を向く……。しかしマウリヤは更に構わず
言葉を続けた。

「……それに、パパとママって誰?私、そんな人達……、会った事も
見た事もないわ……」

「……てめえ、ふざけてんのか……!?」

「!ちょ、アニキ、待って!落ち着いて下さい!」

ジョーカー男は慌てて角カブト男の腕を引っ張り、向こうの方へと連れて行く……。

「何だっ!」

「……嫌ね、俺ら、大変な見落としをしていたんじゃねえかと……」

「何がだっ!!」

「へえ、あのボケ娘の言葉から察しますと……、もう両親は既にいない、
屋敷がもぬけの殻だったちゅーのは……、つまり、もうあの家にはあの娘
以外、誰も住んでいなかったちゅー事ですよ、しかも、もう財産も金も
無いと……、だから……」

「早えー話が……、屋敷の元々の主も死んで、一文無し、……崩壊寸前の
ボロ屋敷……だったちゅー事か……?」

「やす……、ですね……」

漸く真実を知った賊共は顔を見合わせる……。そして、肝心の大事な処を
見落とし、情報不足だった過ちをも知る……。だが、角カブト男は激怒。
怒りでジョーカー男に殴り掛かるのだった。

「この野郎!もっと事前にテメエが真面に情報を調べときゃこんな
めんどクセー事にならなかったんだっ!!……こんな厄介なクソを
掴まされた様なモンだぞっ!……ええーーっ!?」

「いてて!お、俺の所為にするんですかいっ!……大体アニキだって
この数週間の間何してたんですか!……殆ど屋敷の塀に張り付いて
いただけじゃねえですかい!!」

「畜生!……こうなったら……、あのクソ娘ぶっ殺してやる!!
金がねえならもう用はねえや!!」

「……クソ娘って……だあれ?」

「……うわあーーーっ!?」

性悪賊共大絶叫……。牢屋の中にいる筈のお嬢さんが突然目の前に
立っていた。しかも……、小脇には気絶しているアイシャを軽々と
抱えているのである……。

「此処、もうつまらないから本当に帰るわ、じゃあね……」

「……お、おいおいおいおい!ちょっと待てっ!!」

「ア、 アニキーーっ!あれっ!……牢屋が……、鉄格子が壊されて
ますぜーーっ!!」

「……わああーーーっ!?」

賊共再び大絶叫……。マウリヤは自ら鉄格子を壊し、牢屋から出て来て
しまったのだった。マウリヤは抱き合って怯えだした賊共に構わず、
アイシャを抱えたまま、無言で歩き出す。……その後、賊共は
ちびって気絶……。

「はあ、やっちゃった……、でも……、……此処、何処……?」

洞窟を出て帰るつもりが……、天然ボケのマウリヤは更に奥へと進んで
行ってしまったのだった……。賊共からも大分離れ、どうやらかなり
奥の方に歩いて来てしまった模様……。眠さもあって、流石に疲れも
出て来たマウリヤは、抱えていたアイシャを降ろし、その場にゆっくり
しゃがみ込んだ。

「う、ううん……、……!?」

「……おはよう……」

漸くアイシャが目を覚ます。そして、自分の隣に座っているマウリヤに
びっくり。何せ、屋敷から連れて来られた後の記憶がないのだから……。

「マキナさんっ!だ、大丈夫!?私達どうしてこんな処にいるのっ!?
ね、ねえ、怪我はない!?」

「あなた……」

マウリヤは益々混乱する……。普通ならまずパニックであろうに、彼女は
自分の事よりも、マウリヤの事を何よりも第一に心配してくれている……。
それはどうしてなのか……、本当に分からなかった……。

「大丈夫、あの変な人達、帰っちゃったわ、だから大丈夫……、私達は
誘拐されたんですって……、処で、誘拐って何かしら……」

「マキナさんたら……、そ、そっか、誘拐されて此処に、どうりで……」

天然マウリヤは平然と言う。相変わらず何処かズレている彼女に
アイシャは苦笑するのだった……。

「……やっぱりあなたって、変よ、……変だわ……」

マウリヤはアイシャを縛っている縄を解いてやりながら呟く。
それを聞いていたアイシャはふて腐れる……。

「……もう~、ね、ねえ、マキナさん、そろそろ私の事、アイシャって……」

「嫌、あなたは変な子だもの、……変な子」

「……も、もういいですよう~、はあ、解けた、マキナさん、有り難う!」

「いいえ……」

マウリヤに拘束を解除して貰ったアイシャはマウリヤに笑顔を見せた。

「さ、此処から出なくちゃ!帰りましょ、私、脱出魔法が使えますから……」

「……待って……」

「マキナさん……?」

マウリヤはリレミトを唱えようとしたアイシャの手を引っ張る。アイシャの
手を握る彼女のその手は……、微かに震えていた……。

「もう少し……、此処にいて……、2人だけでいて……、お願い……」

(マキナさん、怖かったんだね……、そうだよね……)

「大丈夫、私は此処にいるよ、……ね?怖くないよ……」

「……」

アイシャはマウリヤをそっと抱擁する。彼女は誘拐された事に怯えて
いたのでは無く、自分の所為で彼女が傷つく事に怯え始めていたの
だった。それに……、此処から出たら二度ともうアイシャに会えなく
なってしまう様な……、そんな感情も押し寄せていた……。だから、
今だけはもう少し側に一緒にいて欲しかった……。

(ああ、マキナ……、私、本当にどうしちゃったの……、分からないよ……、
マキナ、教えて……、あの時、マキナが私の前から突然いなくなっちゃった
時みたいなの、……ああ……)

「……ねえ、帰ったら……、船はあなた達にあげる……」

「え、えっ?マキナさん、いいの!?でも、船を譲ってくれるって
事は、それって……」

「勘違いしないで、べ、別にただの気まぐれ、……ちゃんと大事に
使ってね……、お願い……」

「そっかあ~、うん、でも、有り難うっ!うふふ!」

「……」

アイシャはマウリヤに飛び付く。マウリヤの心は更に激しく左右する。
だが、留まった所為で……、又もマウリヤとアイシャは窮地に
追い込まれる事になる。……そして、2人のさよならの時も近づいて
来ていた……。

そして再びジャミル側。……不満を漏らした傲慢親子は客である
ジャミル達の方にまで嫌味を言ってくるのだった……。

「大体さあ、アンタら見た処、そんなに金持って無さそうだけど、
ここ数日、大分宿に滞在してるよな?大丈夫?払える金あんの
かい?……マキナの事よりも、自分達の立場を心配した方が
いいんじゃねえのか?……払って貰えなきゃ当然警察呼ぶけど?」

「……こ、こいつっ!」

「大丈夫です、こう見えても僕らは冒険者ですから……、日頃から
常にそれぐらいの旅に必要なお金は用意してあります……」

「フン、……へえ~?……ほお~っ?」

アルベルトはジャミルを抑えつつ、オーナーの息子と話をするが……、
ボンクラ息子はジャミル達を見下した用にバカにする態度を改めず。
……表面では冷静だが、やはり腹は黒いアルベルトはブチ切れそう
だった……。

「落ち着いて僕……、おつちいて……、おちちいて、えと、
えと、うう~……」

「……おい、落ち着けよ、アルっ!……腹が立つのは分かるっ!」

ジャミルはスリッパを出そうとしたアルベルトに声を掛ける。
此処で暴れたら又厄介な事に成り兼ねないからだった。
とにかく今は使用人達に自分達がこれからマキナ救出に
向かう事を伝えたかった。……早く皆を安心させたかった。

「ごめん、僕もまだまだだなあ、……ジャミルに言われちゃう
なんて……でも、君は普段おちゃらけてる癖に……、どうして
たまに真面目になるの?」

「……うるせーよっ!」

「とにかく此処数日の宿代を払って貰おうや、早くしろよ……」

ジャミル達は歯がみする。向こうは商売である。此処は金を素直に
払うしか仕方が無かった。

「ダウド、お金を……」

「う、うん……」

ダウドは渋々部屋まで仕舞ってあるゴールドを取りに行った。

「持って来ましたよお、はい、お願いします……、これを
確認して下さい……」

「見せな、ふんふん、……親父、間違いねえな……」

「すみませんねえ、あっしらもこれでおまんま抱いてる訳ですから……」

ボンクラ息子と親父は嫌らしそうに渡した料金の確認をする。
もうテメエらいいから早く引っ込んでろよと、使用人達と
マキナの件で早く続きの話をしたいジャミルは思うのだった。
して、此処の宿の何処が世界宿屋教会の宿屋なんだと段々疑わしくなる。

「じゃあ、俺は引っ込むかね、ごゆっくりどうぞ!マキナなんて
どうでもいいわ、おい、テメエらもさっさとちゃんと仕事しろよ!」

「私も席を外しますかね……、お客様、では、失礼致します、
今後もこの最高級の宿でごゆるりと、……何時までのご滞在か
知りませんが……」

オーナーは姿を消し、客受付カウンターには元執事が汗を
掻きながら慌てて担当に入った。……マキナなんてどうでも
いい、ボンクラ息子の余りに冷たいその言葉にメイドさんと
コックはかなりショックを受けている様であった……。

「ああ、そうそう、いい事教えてやるよ、マキナを誘拐した内の
片割れは、ウチで数週間前から働いてた、得体の知れない
変な男だと思うぜ?ほれ、あのトランプのジョーカーの
コスプレみてーだったさあ……」

「坊ちゃま……?」

「な、何故そんな事が分かるんですかい……?」

「……あ、汗汗……、……」

元使用人達は失望の目でボンクラ息子を見つめる……。それにも
構わずボンクラ息子は笑いながら軽快に話をした。

「4日ぐらい前だったかね、外でよ、話を聞いちまったのさ、
その男とあと1人いたな、角カブト被ったガタイのいい体格の
奴がよ、マキナ誘拐決行まで後数日……、とかな、あいつは元々
この為に宿屋で働くフリしてその片割れと様子を覗ってたらしいぜ!」

「何て事だっ!……わ、分かっていたら、……ああ、俺がとっちめて
やったのにっ!!」

「お嬢様……、ぼ、坊ちゃま……、知っていたならどうして……、もっと
早くこの事を皆にお話にならなかったのですか……?」

コックは更に絶望……、メイドさんは涙目でボンクラ息子に訴える……。

「ああん?おめえ、生意気だな、何だよその顔はよ!俺に向かって
説教すんのかよ!第一賊なんか関わり合いになったら俺が怪我
しちまうじゃねえか!さっきも言ったろ、俺はマキナなんか
どうでもいいんだって、未来のこの輝かしい宿屋のオーナーである
この俺が怪我でもしたらそれこそ大変だろうが!」

「……」

この男は自分の身を守る為……、話を聞いてしまっておきながら、
見て見ぬ振りをしたのである。もしもボンクラ息子が少しでも
きちんと動いて行動に出てくれたなら……、マウリヤ達の誘拐は
防げたかも知れなかった……。先程アルベルトに落ち着けと言った
ジャミルは、……やはり、暴れる君教祖の為、もう駄目であった。

「……っくしょうううっ!!」

「ジャミルっ、さっき僕に言ったじゃないか!……お願いだから
落ち着いてっ!僕らはマキナさん達を助けにいかなくちゃ
ならないんだよ!こ、此処で警察でも呼ばれたら!!」

「……こんなの相手にしてもしょうがないよおっ!!」

「てめーら放せえーーっ!……こ、こいつが黙ってた所為でっ!!」

(あーあ、始まったし、たく、アイシャの事になるとまるで見境無く
なるんだから……、ま、気持ちは分かるんですケド……、アホ……)

「……な、何怒ってんだか、おーこえー、……やだやだっ!」

……その場にいた皆が落胆と失望、怒りの中でボンクラ息子は
さっさとその場から離れようとした。

「……シャアーーーっ!!」

「うわーーっ!?」

「モンっ!!」

其処にホラーカオス顔のモンが出現。モンに威嚇されたボンクラ息子は
しっこを漏らし、その場に気絶した……。使用人達もびっくり唖然……。

「モン、お前……、寝てなきゃ駄目だろがっ!」

「ジャミル、大丈夫モン、モン、もうお熱下がったモン、心配掛けて
ご免なさい、皆のお陰、ありがとモン!」

モンは皆にお礼を言うと、頭を下げ、ぺこり。……デブ座布団復活だった。

「モン、詳しいお話は分からないけど、アイシャが悪い人に
捕まっちゃったのは知ってるモン、……さっき、ダウドがお部屋で、
困った、困ったよおお~って、……アイシャがまたさらわれた~って、
ベソ掻いてお部屋でごそごそしてたモン!」

……さっき、部屋にゴールドを取りに来た時の錯乱した状態である。

「お前なあ~……」

「ごめん、オイラってすぐ態度に出ちゃうから……、ってか、
さっきのさあ、切れたジャミルに言われたくない……、ご馳走様、
勝手にお代わりして下さい……」

「……うるせーこのヘタレっ!!」

必死でダウドに弁明しようとするジャミ公であったが……、そのツラは
もう真っ赤。

どうしても隠しようがなかった。何はともあれ、モンも復活。漸く
マウリヤとアイシャ救出へと乗り込めそうだった。だが、相手が
盗賊だけだったらすぐに2人も助け出せた物の、……彼女達を救う為、
それ以上の死闘がこれから待ち構えている事に今はまだ知る由も
ない男衆であった……。

「そうですか、ジャミルさん達がお嬢様達を、……ど、どうか宜しく
お願いします!でも、くれぐれもご無理はなさらないで下さいね!!」

「頼みましたぜ、俺らも何か力になれれば良かったんですが、今は
あなた方の無事を此処でお祈りするぐらいしか出来ません、俺ら皆で
皆さんのお帰りをお待ちしてます!!」

「……坊ちゃまの事は何とか大丈夫です、汗汗、どうかお嬢様の
事を宜しく……」

「ああ、必ず!よし、行くぞお前ら!」

使用人達に事を伝えたジャミル達。いよいよ誘拐された困った2人組
救出へと出動。皆に見守られながら宿を後にするのだった……。

「ねえ、ジャミル、屋敷の事だけど……」

「うん、此処なら誰もいねえな、行く前にお前らにも話す、
……マキナの事だ……」

「え、ええ?」

「モン~?」

宿屋から離れ、大分人影が薄くなった辺りでジャミルが仲間達を
振り返る。ダウドも久しぶりのモンも、いきなり何だとキツネに
包まれた様な顔をしていたが……。

「……そうか、あの子はマキナさんじゃなかったんだね、どうりで……」

「ほ、本人は、も、もうとっくにいなくて……、死んだマキナさんの
意思を次いだ人形があーっ、あ、ああーーっ、う、動いてるって……、
それ、本当……?あう~……」

「モン……」

話を聞き、一番複雑そうな表情をしていたのは、今回、いつもは
アホアホのモンだった。モンはマキナを嫌っていたのだから。
ジャミルから話を聞いたモンは暫くの間、ずっと押し黙っていた……。

「あの時、マキナ……、マウリヤが俺を見て怒り出したのも、
マキナがいなくなった時の事を思い出したんだろうな、
……俺がマキナを連れて行っちまうんじゃねえかと錯覚して
怯えたんだ……」

「モン……」

ジャミルもモンの頭をぐじゃぐじゃ撫でながら複雑そうな顔をする。

「でも、事実上マキナお嬢さんはまだジョーブツしてない筈だよネ!?
たま~に、……クラ~い顔していきなり後ろにぬっと立って出て来た
コトあったし」

「……ひえええーーっ!?」

「ダウド……、一番肝心な処だけど……、マウリヤの身体に命が
宿った原因が、……女神の果実だとしたら、それは……」

「……」

アルベルトは其処まで行って押し黙る。ジャミルもダウドも……。

「だ、だってしょーがないっしょ!アタシ達は元々その為に
旅してるんだからサ!」

サンディも言ってバツが悪そうな顔をすると、一旦ジャミルの中に
引っ込む。もしも、女神の果実がマウリヤの中から消えたら、その時
マウリヤは……。ジャミルも悩み出す。……あんなにマキナと友達に
なりたいと屋敷まで押し掛け頑張っていたアイシャにどうやって
真実を伝えたらいいのか……。

「……ジャミル……、モン……」

「あ、だ、大丈夫さ……、今はとにかく2人の救出が先だ、動かなくちゃな、
たく、アイシャの野郎、無事連れ帰ったら又デコピンの刑だっ!!」

暗い思考を振り切る様にジャミルが走り出し、アルベルト達もその後を
追った。例え結末がどうなろうとも……。今はアイシャ達を早く助けたい、
ジャミルはその事だけを只管頭に叩き込んだ……。

そして、アイシャとマウリヤ側。

「マキナさん、落ち着いた……?」

「ええ、落ち着いたから……、そろそろ放して、……暑い……」

「あ、ご免なさい!」

アイシャは慌ててマウリヤから離れる。しかし、マウリヤの顔は……、
真っ赤だった。

(やっぱり変、いえ、今日は私が変……、でも、やっぱり変なのは
あの子……、いい匂い、優しい匂い、甘くてふわふわの……、昔、
マキナがベッドで私に見せてくれた……、シャボン玉の香り……)

「ねえ、私……、謝らなくちゃ……」

「えっ?」

「あなたのお友だち……、変な顔って言っちゃった、でも、私、
今まで誰かにごめんなさいを言おうなんて……、思った事なかった……、
初めてなの、こんな気持ち……、もう許して貰えないわよね……」

「マキナさん、有り難う……」

「え、ええ……?」

アイシャは膝に顔を埋めたマウリヤを再び抱擁。側に引き寄せる。
マウリヤをまた優しいシャボンの香りが包んだ。

「大丈夫、モンちゃんは優しい子よ、きっとマキナさんの気持ちも
分かってくれる筈よ、ね?」

「……やっぱりあなたって変よ、変な子だわ……」

「だから変でいいですっ!さ、今度こそ戻りましょう!」

アイシャがマウリヤに手を差し出す。マウリヤは戸惑いながらも
その差し出された手を握ろうとした、その時……。


……ゥゥ、……ズォォォォォーーー!!


「……な、何……、今の声……」

「……」

アイシャはリレミトを唱えようとしたが……、突如洞窟内に
響いて来た謎の大声に手が止る。そして、直後洞窟内が
揺れ出すのだった……。

「……地震?嫌だわ、こんな処でっ!!」

「……お相撲さんか誰かが外から此処を揺らしているのかしら……」

「もうっ!違いますっ!と、とにかく外へっ!あ、ああーーっ!!」

だが、其処に震源の主らしき怪物が姿を現す……。顔にドクロが付いた
巨大な怪物蜘蛛……。妖毒虫ズオー……、本来のこの洞窟の主、……。
普段は洞窟の奥に潜んでいる筈が……。アイシャ達の前に自ら動いて
姿を現したのだった……。

「まあ、……大きなクモさん……、おいで……」

「マキナさんっ!……近寄ったら駄目っ!!」

ボケのマウリヤは恐れる事無く、ズオーに近寄ろうとする。
アイシャはマウリヤを急いで庇うとズオーに向け、ヒャドを
放出するのだが……。

「ズオオオオオーー!!」

「あ、あんまり効いてない……、補助魔法も兼用しないと、
これじゃ……、でも、どうしたらいいの……、両方使ってたら……」

「ねえ、早く逃げなさいよ、危ないわよ……?私の事なんか
もうほおっておいて……」

「……バカっ!!」

「バ、バカ……?」

アイシャはマウリヤに向け怒鳴る。しかし、その瞳にはまた涙が滲んでいた。

「バカバカバカっ!どうしてそんな事言うのっ!私は何があっても
マキナさんを守るって、絶対……、そう決めたんだから!あなたに
友達って認められなくても……、私はマキナさんの事、大切な
お友達だって思ってるのっ!!」

「……あ、ああ……」

アイシャは目の前の敵に向かってスカラと交互にありったけの
攻撃魔法を放出。だが、ズオーには全く歯が立たず、あっという間に
等々MPも尽きてしまうのだった。

「どうしよう、どうしたらいいの……、やっぱり私だけじゃ……、
皆がいてくれないと……」

「……ああ、危ないっ!!」

気弱になってしまったアイシャに……、更に追い打ちを掛ける様に
ズオーが口から蜘蛛糸を放出。……アイシャは拘束され身動きが
取れなくなってしまう……。

「く、うう……、マキナさん、……にげ……て……」

「ズゥオオオオオーーー!!」

ズオーは恐ろしい大声を上げ、アイシャを捕まえたままその場から
逃走する。捕まえたアイシャを餌にする為、洞窟の最深部の住処へと
姿を消したのである。

「バカなのはあなたじゃない……、だから言ったのよ、……私なんかの
為に……、早く逃げていれば……」

アイシャと又引き離されてしまい、残されたマウリヤは……、どうする事も
出来ず、只独りその場に崩れ落ちた……。

「……は、はっ!マキナはっ!?」

「……」

抱き合ったまま気絶していた性悪盗賊コンビ。漸く我に返る。そして、
マキナが破壊した無残に壊された鉄格子の残骸も唖然として眺めていた。

「アニキ、これからどうします?アイツ、バケモンでしたぜ……」

「これ以上関わるのは危険だな……、親もいねえのも分かったし……」

賊共は頷き合う。このままマキナを人質に取った処で、身代金を
請求出来る身内はいない。……と、くればもうマキナは捨てて、
次のターゲットを探すしか無かった。だが。

「……?アニキ、入り口の方が何やら騒がしいです……」

「何だ、……もしかしてサツかっ!?」

「いえ、もっと若え……ガキ共の様ですが……、ちょっと見て来やす!」

ジョーカー男は立ち上がり、客の確認へ……。訪れたのは……。

「何だこれっ!この椅子に座って暫くお待ち下さいだと?
ふざけやがってっ!」

「ジャミル、折角のお持て成しだ、此処は素直に待たせて貰おう……」

「はあ、アイシャ達……、大丈夫かなあ~……って、モン、元気に
なった途端に人の頭叩くのやめて……」

「やっぱりダウドの頭の上は落ち着くんだモン!」

(……ま、これがいつもデスから……、仕方ないわよネ~……)

漸く洞窟内アジトへと辿り着いたジャミル達だった。入って直ぐに、
椅子と手紙が用意されており、バカにしてんのかとジャミ公激怒。だが、
アルベルトに此処は素直にお持て成しを受けようと諭された処である。
……男衆は用意された椅子に腰を落ち着け……ようとした。

「あのガキ共は……、そうか、な~るほど、ひひひ!あのお嬢ちゃんの……」

ジョーカー男はるんたった状態で相方に報告にすっ飛んで行く。だが、
ジョーカー男から事を聞いた角カブト男は怪訝そうな顔をした。

「そうか……、だが、とてもガキ共だけじゃ……、どう考えても金を
搾り取るのは難しいな……」

「幾らでもいーじゃねーですかい!この際、奴らだって一応
冒険者らしいですよ、いいんですよ、持ってる分の金だけでも
せしめちまえば!」

「よし、全然可哀想とも思わねえが……、糞マキナで失敗した分、
此処はストレス解消にいっちょ犠牲になって貰うか!」

「ひひ、ひひひ!」

「……良かったな、で、その犠牲ってのは誰がなるんだ?」

「シャアアアーーーーーっ!!」

「うわあーーーーっ!?」

ジャミル軍団と怒りのモン登場。モンはいつもの倍のSPホラー顔で
盗賊達を脅し。逆にたっぷりとお持て成ししてくれた……。賊共は
モンのカオス顔にショックを受け、またしっこと、今度は実も
少し漏らした。

「お前達の悪巧みも此処までだ!さあ、マキナさんとアイシャを
返して貰おう!2人を何処に連れて行ったっ!言え、言わないとっ!!」

「ひよえーーっ!?」

アルベルトはスリッパを取り出す。……これをやらなきゃアルも
格好つくのになあと、ダウドは苦笑……。

「わわわ!俺達にも分かんねえよーっ!……マキナはあの鉄格子を
自分で壊してどっかへ行っちまったんだよーっ!」

「……何ですと?」

ジャミ公は鉄格子の方を見る。確かにあんな見るからに硬そうな
鉄格子がぐにゃりとひん曲がってボロボロに壊れていた。

「しかも、一緒に閉じ込めておいた嬢ちゃんを抱えて……、
こ、この奥に……」

「ジャミル、マキナさんはアイシャを連れて洞窟の奥に
行ってしまったんだ!追い掛けよう!」

「ああ!けど、わざわざ危険な方向に行っちまったのは
どうしてなんだ……、しかも、……牢屋破壊してくとか……」

ジャミルは天然ボケのマウリヤに呆れる。だが、今は呆れている
暇はない。

「やっぱりそんな簡単に終わる筈ないよねえ~……」

(あったりマエじゃん!ホラっ、ヘタレ、アンタもとっとと動く動く!)

「あうう~!」

サンディは発光体モードでダウドの尻を蹴飛ばすと自分はさっさと
ジャミルの中に又隠れた。

「へ、へへ、俺らはこれで……、退散する訳ねえだろがっ!
金よこせえーーっ!!」

反旗を翻した角カブト男が最後の抵抗で隠していた斧を取り出し、
ジャミル達に襲い掛かって来た。しかし、アルベルトのスリッパ
連打により成敗。どうしようもない賊共は等々その場に倒れ敗北……。

「……うふふ、うふ、う~ふふふ♡いい運動にもなったし、うん!
すっきりしたなあ~……」

「アル……、お前って……」

「……黒いよお~……」

「モン~……」

(ドス黒っ!)

「ん?何かな?」

「……何でもねえよ、それより全部終わったらこいつらサツへ
突き出してやる、それまで此処にふん縛っとこう、……アイシャ達の
気持ちを思い知れっ!よしっ、奴らはこれでいい、先に急ごう!」

ジャミルは丁度側にあった賊共の商売道具の荒縄で2人をふん縛ると、
近くにあったタンスの中に蹴り倒して閉じ込めておく。後はマウリヤと
アイシャ、2人の救出だけである。ジャミル達は洞窟の奥へと……、
足を速める。

「……マウリヤ、アイシャ……、何処にいんだよっ!」

(ジャミル、いたよっ!あれ、ヘンテコお嬢様だよっ!……モンスターに
襲われてる!)

サンディの言葉に前を向くと……、確かにいた。マウリヤである。
漸く見つけた。しかしアイシャはおらず……。マウリヤは左右から
モンスターに挟まれているにも関わらずぼーっとしている。

「危ないよお!」

「助けなくちゃ、ジャミル!」

「ああ、……え、ええ!?」

「はあ、また私の邪魔をするの、……いい加減にしてっ!!」

だが、ジャミル達が助太刀に入る前に……、マウリヤは左右から自分を
襲おうとしている2匹のモンスター、オーシャンクローとデッドペッカーを
拳で軽々と殴り飛ばしたのである。……助けに入ろうとしたジャミル達は
騒然……。しかも、片足で倒れたモンスター共をグリグリと……。モンも
ホラーカオス顔で固まったまま……、おならを落とした。

「あら?ごきげんよう、あなた達も誘拐?されたのかしら」

「……あのなあーーっ!!」

ボケマウリヤはモンスターを掴んで遠くにほおり投げた後、ちょこちょこと
ジャミル達の側に近寄って来る。

「何してるんですかっ!危ないですよっ、それに、どうしてあなた
1人でいるんです!?」

いや、全然危なくなかった様だが……。アルベルトがマウリヤを
問い詰めると、彼女はきょとんとした表情でジャミル達の方を見る。

「アイシャはどうしたのさあーっ!い、一緒にいたんじゃないの!?」

「モン……」

「マウ……、いや、今はマキナの方がいいか、おい、ちゃんと話せ、
何でオメー1人でチョロチョロしてんだよ、それにアイシャは
どうしたんだ……?」

「……そうよ、私の所為よ、……でも、あの子がいけないんだわ、
私なんか……」

マウリヤは急に俯き出すと先程とは打って変わって悲しそうな
顔をするのだった……。

zoku勇者 ドラクエⅨ編 29

zoku勇者 ドラクエⅨ編 29

SFC版ロマサガ1 ドラクエⅨ オリジナルエピ 下ネタ オリキャラ ジャミル×アイシャ クロスオーバー

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-01-05

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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