小石

舞阪の浜辺が歩いている
満潮のときの波打ち際を
黒く光る小石が落ちつつある
落ちかねる寸前で
垂らされる手が小石をつかむ
小石はなぜいつまでも海であり
朝のはばたく空なのか
わからないまま 鳥は0になる
小石を持ち帰ろうと灰白質は言う
集合住宅はペット禁止なのに

かたい地盤を掘って
駐車場をつくるように
小指は小石の襞へ
からみつこうとする
コカコーラに浸された筋と腱
小石と肺の息遣い 重なる
特急列車が通過します
甲殻類にご注意ください
ひとりでに飛び立つ小石
おわりの海と
はじまりの空のはざま
ドラム缶の青へはさまれるなら
小石は誰かの前世になる
そのとき高らかに鳴り響く
駐車場の崩れ落ちるような
         骨折音

小石

小石

静岡新聞2025年1月3日新春読者文芸欄野村喜和夫選一席

  • 自由詩
  • 掌編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-01-03

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