空の演奏者~届けこの歌~

※※※

出会った君は、とても冷たい目をしていた。

歌を拒絶し、私の存在を否定した。

「お前の声が憎い…」

鋭く凍り付くような、汚いものでも見るような蔑んだ眼差しと、恐ろしいほどの嫌悪の表情を無遠慮に剥き出しにして、魔法を使い、いばらで出来た尖った剣を向けてきた。

この世界は理不尽だ。君も私も分かっていたのに…

私たちはその気持ちを分かち合うことが出来なかった。

滅びか創成か…

世界は一つに成ろうとして、壊れようとしていた。

当惑するばかりの私に、無情な事実だけが目の前に突き付けられる。

目の前にいるのは、私を心から憎み、否定する、敵意ある人物…。

憎悪の嘲笑を聴きながら、ただ、呆然とする。

憎悪に屈してしまった…。その悲しみが深く激しく掻き乱す。

私の五感は麻痺を起こし、面と向かって彼を見つめられない…。視界に映さなくなっていく。
感じるのは、気温、見える景色と、そして、聴こえる音。

うだるような暑さに晴れ渡る青い空、うるさいほどセミの声がこだましていた。

すべてが鮮明で、すべてが残酷だった。

冬に閉ざされし世界

ザッ、ザッと雪を踏み崩しながら、ゆっくりと歩みを進めていく。

一人の小柄な女性、"私"が歩いていた。

周りはこんなにも冷えているのに、淡々としていてとても静かだった。
ただただ、さらさらと粉雪が降っていた。

風は静かにそよそよと顔の横を通りすぎて、吹雪くことなく、落ち着いていた。

当たり一面、見晴らしがよく、どこまでも白く、果てしない雪景色が目の前に広がっている。

ここは、国が管理し限られたものしか入れない所。とある都市から切り離され区分された地域、"サナ地区"。
ここは、準非武装区域に指定され、あまり争いが無いところと国の資料には、そう記載されていた。

準非武装区域。
そう、この場所は3年前までは、激戦区域に指定されて、暴力と紅蓮炎に囲まれて、あらゆる無抵抗な生命を虫を潰すかのように嘲笑いながら奪っていく無慈悲の光景が広がっていた。
逃げるように避難しか出来ず、多くの犠牲者を出した。誰一人として帰れなかった場所だった。

あの時は…。
そうあの日は…。

灰色の冬物のコートを着て、黒いニット帽に黒いマフラーで顔を覆い、白い手袋で優しく愛しそうに、白いカーネーションの花束と白いユリの花束を抱えていた。

深雪に馴れていない身のためか、足元がおぼつかなく前のめりで、今にも足元を取られ倒れそうになりながら歩いていた。

大事そうに花束を抱え、足元をスノーブーツの裏で一歩一歩確かめながら歩き、やがて立ち止まった。

ふと顔をしかめ、目を細めて今だに涙が込み上げてくるのをこらえていた。

目の前には大きく地面を抉るクレーターがぽっかりと口を開いていた。

それは大きなライフルでの射撃か、あるいはビームか…
それか、爆発か…
とにかく云えることは、その衝撃の大きさと被害の激しさを物語っていた。

手に持っていた花束を、優しくその中へと投げ入れて、手を合わせる。

「お休みなさい、私の大切な人たち…」「あなた達の魂が、どうか穏やかで癒されますように…」

この場所は、大切な家族を一気に失った場所であった。

あの日あの時、ここで何があったのか知っていた。
すべて知っているが誰にも話さないそう決めていた。

サナ地区を意図的に忘れ、悲惨さを知らない世間の人々にわざわざ教えるつもりはない。

ここの区域はあれから雪が降り注ぐ静かな場所へと変貌を遂げたが、この祈りを終えて帰る場所は春を過ぎた初夏の夕方なのだ。

ここだけが目覚めない封印されし場所だった。

「私は、やっぱり悲しいよ…」「でも、我が儘になるし、責めているみたいだから、本当は言いたくないよ」

「でも、それでも、会いたいよ」

そっと吐き出された彼女の本音は、吹雪いてきた風に巻かれ、灰色の空へと吸い込まれていった。

プロローグ~対抗する全てのもの達~

時は、3500年。未来だが、現代と変わらない時代。

およそ、500前。3000年辺りに起きた天変地異と神々の戦いで、世界は一度やり直された。

度重なる大きな自然災害と"神"と呼ばれた世界を無に返す巨大な兵士によって、世界は白紙に戻り、異世界と今の世界を繋げて新しい時代となった。
『争いばかり繰り返し、思いやりを忘れた人類を正常に導くため』と、"神"の強制的な判断によって書き換えられ、"神"が作ったシナリオによってこの世界は再び誕生した。
大自然とメカニカルな技術が合わさった特殊な世界。魔法、呪術、魔術、錬金術、宇宙人特有の超能力などの能力を持っているのが今の常識で、世界がやり直されたことは一部の人間以外は知らなかった。

人類や宇宙人、人型の機械、精霊やエルフ、人の姿をしているが人ではなく精霊と妖精の間の種族としている呪術師などの多種多様な種族が存在し、各々の価値観や思想の違いにより、やはり、世界はひとつになることが出来なかった。
皆、似たような考え方や類似する文化習慣がある国同士で手を組み、同盟や連合、連邦を作り上げていた。

やがて世界は、巨大兵士である"神"の強制的な願いを汲むことなく、価値観や秩序の違いから対立し、小さな争いを繰り返すようなった。

『超科学、文明の発達ばかりを求める世界は、生命を縛り、成長するための競争は愚かな争いを生み、やがて生命を滅ぼす』と主張する自然を愛すものたち

『発展を求めていない、それを否定して拒否する世界は、成長ができずに、やがてすべてを衰退へと導き、生命を滅ぼす』と主張する発展と成長を求めるものたち

そして、その争いを決定的にしたものがあった。
それは、二分する巨大な連合と連盟の誕生だった。

アニュースリリオン東共和国連合とリリユルール西方神国連盟。
最悪なことに、とても大きな大陸の隣同士で正反対の二大勢力が誕生したのだった。

東側の強大な技術先進の文明。科学力や最先端のメカニック、錬金術と魔術、超能力に優れた、人類と宇宙人と機械陣営で共和国の同盟を組んで連合となった。アニュースリリオン東共和国連合。

西側の神々と奇跡を信じる独特な文明。大自然と生命の神秘の恩恵の元、呪術、魔法、祈りの力を持つ、エルフと精霊と人類に姿は似ているが呪力を持つ呪術師陣営で神との深い関わりがあるもの同士の連盟として同盟を結んだ、リリユルール西方神国連盟。

最初は、国際社会の一員として、国際連合(国連)での議題として議論してきたが、正反対と云える文明は、認め合い、分かり合えることが出来ず、互いの秩序を乱すものとして、敵意を表し、激しく対立するようになったのだ。

彼等は、お互いを否定したのだ。

何度も話し合いはしたのだが、どちらかの文明に統一した方がいいのでは?と、お互いに正しいと主張し譲らず、分かり合うことが出来なかったのだ。

大大陸の陸繋がりの国同士で作り上げた為なのか、連合も連盟も同じ大陸の隣同士。
『秩序を乱すものが隣にいる』と云うことで、お互いに牽制し合い、いがみ合い、政治や経済での争いを繰り返していくことになった。
そうしていくうちに、ある事件が起きる。
それは、リユルール西方神国連盟の中心国の一つであるエルフの国、アンブロキアで起きた。
アンブロキアは、巨大な大樹サララがそびえ、皆ササラの膝元でその恩恵によって生きていた。
そんなアンブロキアの首都ロキアにミサイルが撃ち込まれたのだ。
巨大な大樹サララの決死の防衛により、被害は幸いにも少なかったが、サララの右側の枝が大きく焼け落ちてしまった。
巨大な大樹ササラが傷ついたことで、ササラを神として信仰していた、リユルール西方神国連盟は激昂し、ミサイルの素材がアニュースリリオン東共和国連合製であったことから、アニュースリリオン東共和国連合がテロの犯人だと断定したが、やはり国際社会の一員として、国連の議題に出し、厳しく追求し、糾弾した。
だが、アニュースリリオン東共和国連合はこれをきっぱりと否定し、言いがかりを付けていると主張した。
この時は、まだ、他の国々の説得を受けて、宣戦布告は辛うじて踏みと止まったが、今度は、アニュースリリオン東共和国連合の中心国の一つである、人類が住む、AIのマザー・2038が支配している国、D-フロンティアでテロが起きる。
D-フロンティアは、マザー・2038がすべてを管理している。すべてのDNAが登録され、選ばれた遺伝子同士で子供が生まれ、能力によって学業や職業が決められる。脳は電子化され、ネットワーク上で感情や思考の調節を受けるため、完全な管理社会だった。
その首都。エリア・ゼロで、危険で狂暴な植物生命体や有毒なバイオによる同時多発テロが発生。
これは優秀なAI、マザー・2038が電子幕を直ぐ様作り上げバイオを処理、送り込んだ機械兵隊によって、危険で狂暴な植物生命体は駆逐された。これも幸い大事には至らなかったが、植物生命体やバイオの製法は、リユルール西方神国連盟の精霊の力と呪術によるものと断定したと、マザー・2038が発表した。マザー・2038の意見が絶対だったD-フロンテアの国民はそれを信じ激しくリユルールを非難し、その非難がアニュースリリオン東共和国連合全体へと拡大した。そして、世論を味方につけたマザー・2038は、リユルール西方神国連盟は、自分達の国で起きたテロ行為をよく調べもせずに、激しい思い込みから、我々がやったと勝手に決めつけテロを行った。リリユルール西方神国連盟は、野蛮であり、理性の効かないもの達の集団として、そんな危険なものから国民を守るためにやはり根絶やしにするべきだと宣戦布告。リユルール西方神国連盟も、我々を認めていないアニュースリリオン東共和国連合は、テロ行為を我々の罪として擦り付けて、それを口実に武力で滅ぼそうとしている。野蛮で理性が効かないのはどっちだ。先にテロを起こして我々の大切な大樹サララを傷つけ、神を侮辱したのが証拠だと声明を発表。先のテロ行為がアニュースリリオン東共和国連合の行ったことだと思っていた国民たちの感情も一気に確信へと変わり、リユルール西方神国連盟内で完全に感情が一致したことによって同じく宣戦布告。世界対戦が始まってしまったのだ。

そして、その争いが、なんの解決もせずに、悲しいことに100年目を迎えてしまった。

争いの渦中に巻き込まれた国々は、流されるままに戦争へと参加していったが、東側西側がある大大陸とは海を挟んで南側にあって、諸島レベルの小さな島国が集まっていた地域は、争いに参加せずにある脅威に対抗するべく、イシリス諸島国家群連邦として同盟を組んだ。
彼等は魔力を有し、魔法を扱っていた。季節を司り、天候を操る強大な魔力を持つ、冬を除外した、春夏秋の歌姫たちを『正義と平和の象徴』とし、争いが耐えないこの世界を憂いで、癒すために歌う5人の少女を皆心の拠り所にした。
彼女たちは、非暴力の人々を戦争と"穢れ"、暴力から守るために、独立組織を立ち上げ、自ら活動の中心に立った。

一緒に居たいと願う、強い絆や愛を持つもの達の魂と肉体とで、歌をかえして、生まれ、歌によって動き、心の形によって生まれる楽器を演奏して、光を召喚して、"穢れ"を浄化する。意思を持つ機体。空飛ぶ演奏者。アーク・ラバー(lover)を保有し、争いと人々の負の感情を元に溜まる"穢れ"を操り、『混沌の化身』として召喚し、暴力革命を掲げ、世界を統一するという声明を出した武装勢力と戦っていた。

目が覚めたら異世界でしたパート1~僕のはなし~

『大切な人を全力で守る』『誰かの助けになりたい…』
僕は、漠然とそんな思いを抱いていただけだった。
実際は、理不尽で強いものに弱くて、臆病で、小動物のようにいつも何かに怯えるような、肝っ玉が小さな生き物だった。
ちっぽけな僕だそう思いながら、そんな自分を振り返り、反省して、直す努力もせずに、ずっと今まで通りに過ごしていた。
ただ生きているだけ…
そんな人生を歩いていた。
絶望の中から一欠片の希望を見つけ出すことがこんなにも大変だとは思わなかったんだ。

空の演奏者~届けこの歌~

空の演奏者~届けこの歌~

あらすじ 冬がない季節の魔法が主流の国々の一つ、春と夏の国の間に位置する。夏の属国クレンラン王国で、音楽と歌が好きな二人が出会った。 一人は恋人たちの魂と歌の共鳴で誕生する肉体を持ち、魔法で鍛えられた鎧を着こなし、心のあり方が具現化した楽器を弾き、"穢れ"を浄化する『空の演奏者』と呼ばれるアーク・ラバー(lover)のパイロットの適合者として選ばれ、テロリストとの戦いを受け入れていく。 もう一人は、その運命の狭間で己の境遇とこれからの立場との板挟みになり困惑して決断できずにいた。 運命に翻弄され、さんざんな目に遭うが、二人はお互いの事を知っていき、やがて惹かれ合ったが、お互いの想いを伝えられないまま離ればなれになってしまう。 そして、月日は流れ…。 たどり着いた場所で再会するが、お互いに好き合っていた時とはあまりにも、掛け離れた立場と状況に立たれていた…。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-12-31

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. ※※※
  2. 冬に閉ざされし世界
  3. プロローグ~対抗する全てのもの達~
  4. 目が覚めたら異世界でしたパート1~僕のはなし~