象遣い
晩秋 晴れた木曜日
局を出て配達のとっつきへ向かう
のぼのぼのんとバイクを走らせる
朝の跨線橋を小汚いパーカーが
とぷてぷたぷと歩いている
見習いで辞めた象遣いみたいに
記憶の海がざわつく
バイクをパーカーの隣へ寄せる
「たっくんじゃん」
先週の金曜日から音信不通
課長が家へ行っても使った居留守
誰も会えないと思われている
あのたっくんが 目の前に
「どうした」
「コンビニに」
「バックレるの」
「きついっす」
「会社へ言ったの」
「部長に」
「金曜か」
「また飲みましょう」
「ああ元気でな」
ことばを交わした
というより まばたきをした
それだけで
たっくんと別れた
(退職代行って便利なんだな)
雲がまぶたと同じ熱さになるとき
遠くで青白い象が吠えた
象遣い