zoku勇者 ドラクエⅨ編 27
悲しきリブドール3
「……帰ってよ、私、あなたみたいな図々しいの大嫌い!帰ってっ!!」
「あら、そう言われても私だってそう簡単に帰る訳に行かないの!
さ、まずは一緒にお庭に出て花壇のお手入れしましょ!」
「あなた……、お手伝いに来たんでしょ?屋敷の主の私に仕事を
させる訳!?」
「ささ、いいからいいから!お家の中にばっかり籠もってるから
苛々するの!外に出てお日様の光を浴びたら気持ちいいわよ!」
……アイシャは抵抗するマキナの背中を押す。マキナは訳が分からない。
嫌いって言ってるのに。……帰ってって言ってるのに。これまで屋敷に
訪れた人間でこんなに図々しくふてぶてしい小娘は見た事が無かった。
……昨日マキナに怒った事と言い……。マキナはそのままアイシャに
裏庭にある花壇に連れて行かれた。
「……こんな花壇、誰も手入れなんかしないわ、花だって枯れてるわ……」
「ええ、だからこの枯れちゃったお花さんには有り難うを言って、又
新しいお花の種をまくの、私、花屋さんで買ってきたの、マキナさんも
これを一緒に植えて……」
「……嫌よ!何で私がそんな事しなくちゃいけないの!冗談じゃ
無いわ!もう帰ってって言ってるでしょ!……帰らないとっ!」
「きゃ、きゃ!?」
切れたマキナはホースで水をアイシャにぶっ掛ける。アイシャは
身体中水浸し、びしょ濡れになった……。その惨めな姿を見て
マキナはほくそ笑む。此処まで嫌がらせをすれば流石にもう帰ると
思ったからだった。しかし。
「……やったわねえーーっ!!お返しよっ!!」
「きゃあ!?」
これぐらいでアイシャが怯むはずが無く……、今度は逆にマキナに
ホースで水をぶっ掛けた。当然の如く、マキナも又ブチ切れる。
こうして天然ボケ女子同士の戦いが幕を開けたのだった……。
「……はっくしょんっ!全くもう、冗談じゃ無いわ……、お陰で
大切な洋服がびしょびしょだわ……、……マキナの大切な洋服が……」
「何よ、マキナさんが意地悪するからでしょ!私だって、折角この
メイドさんのお洋服貰ったのに……、って、落ち込んでる場合じゃ
ないわ!こんなのへっちゃらなんだから!あ、着替えますか?
お手伝いしますよ!」
「触らないでっ!着替えくらい一人で出来るわ……」
「そうですね、じゃあ私、ちゃちゃっとお屋敷のお掃除をば、
その後でマキナさんのお昼ご飯作りますね、楽しみにしててね!
また戻って来ますからねー!えっと、まずは螺旋階段のお掃除から
……、ファイトよ、アイシャっ!!」
「……そんなの要らない……、ちょっとっ!」
アイシャは自分に気合いを入れながら部屋を出て行く。残された
マキナは暴走娘にどうしていいか分からず、溜息をついた。いっその事、
掃除の邪魔をしてやれば……、と、思ったが、疲れが出ていた。どうも
あの小娘は何を嫌がらせしてもへこまない。逞しい、そんな図々しさが
あった。マキナは再びベッドへと横になる。そして何時しか眠りに
ついていた……。そして、暫く時間が経過した頃……。
……リヤ……マウ……リ……
「……マキナ……?」
眠ってしまったマキナは夢の中で懐かしい声を聴く。よく知っている声。
懐かしい声。大好きな……。だが声は段々と……悲しそうな……、切なそうな
涙声に変わっていった。
……マウリヤ……、ごめん……ね……
「……」
「……きゃああーーーっ!!」
「な、何……!?」
突如、耳をつんざく凄まじい爆音と悲鳴が屋敷中に響き渡り、マキナは
慌てて目を覚ます。と、目の前にいたのは……。
「えへへー、マキナさん、目が覚めた?」
「……あなた……、まだいたの……」
……顔中真っ黒、髪の毛はぼさぼさに乱れ、凄まじい姿のアイシャで
あった。
「お昼ご飯作ろうとしたらちょっと爆発しちゃった、でも、お料理は
出来たの、ささ、マキナさん、食べて食べて!!」
アイシャの格好は見ればちょっと処では無い、恐らくオーブンの一つ
ぐらい破壊しているであろう。しかも持って来た料理もまっくろくーろ
くろ、一体何を作って来たんだと思われる程の料理だった。
「そ、それはなあに……?」
「チーズグラタンなの!ちょっと見栄えは悪いかもだけど、
美味しいのよー!さあどうぞ!飲み物にミルクも淹れたわ!」
「……」
見栄えが悪いどころでは無い。普通の者が見たらガクブルする
ぐらいのレベル。だが、差し出された料理をマキナは不思議そうに受け取り、
くんくん匂いを嗅ぎ始める。そして……、破壊グラタンに口を付けた。
「……おいしい……」
「わ!ホント!?」
アイシャは嬉しそうにパチンと両手を打った。ジャミルなら恐らく泣いて
怒るであろう破壊料理をマキナは抵抗なく口に入れる。そして等々全部
平らげてしまったのだった……。
「お代わり……ないの?」
「あっ、じゃ、じゃあ、夕ご飯にもう一度作りますね!よーしっ、
その前に残ってるお屋敷のお掃除しちゃいますね、マキナさんは
休んでてね!!」
「はあ……」
マキナは呆れながらもベッドに又横になるが、部屋を出て行こうと
するアイシャにうっすらと、さりげなく声を掛けた。
「……前に屋敷にいたコックが作ってくれたのよりとっても
美味しかった……、変ね……、こんなにご飯が美味しいのって
初めて……」
「マキナさん……、有り難うっ!私、夜も頑張るね!!」
「……」
マキナは天然で恐らく味覚がおかしい所為なのだろうが、アイシャの
破壊料理を美味しいと言ってくれ、アイシャも喜び益々張り切る。
……こうして、少しづつではあるが、マキナは段々アイシャに興味を
持ち始めていた……。
「……変な子……、本当に……」
そして、ジャミル側の方だが……、捜査が難航していた処にモンが
突然の高熱を出し、体調不良になってしまったのである。モンを
このままにして歩き回れない為、男性陣は慌てて一旦宿屋へと
引き返した……。
「まいったなあ~、……風邪かな……、おい、モン……、大丈夫か……?」
「モン~……、ごめんなさいモン~……」
「暫く様子を見ようよ……、どっちみち今日は無理だよ……、
日も暮れてきたし……、アイシャが戻って来たら話そう……」
「モン、ゆっくり休むんだよお~……、気にしなくていいからねえ~……」
「モン……、ダウドの頭叩けなくて……つまんないモン……」
「……それはいいってばあ……」
(へえ~、オモロ!デブ座布団も風邪引くんだねえ~!)
「……サンディっ!モ、モン、何か食べたい物はあるかい?
キャンディーならすぐ買ってくるよ」
「お腹すいてない……、食べたくないモン……」
「……」
アルベルトがそう言うが……、モンは拒否。男衆は顔を見合わせる。
……モンは相当風邪にやられているかも知れなかった……。
「モン……、アイシャに会いたいモン、……こんな時、抱っこして
お腹を優しくなでなでして欲しいモン……」
「モン、お前……」
「モン~……」
モンの高熱は、もしかしたら風邪では無く、アイシャを心配する余り、
寂しさから発した突然の熱かも知れなかった。
「モン、大丈夫だよ、アイシャは今日中に戻って来る約束だから……、
モンが眠っている間にアイシャは帰ってくるからね……、ほら、
一眠りして……」
「モン……、うん……」
アルベルトはモンにそう声を掛け、モンも返事を返しすやすや眠った。
……だが、もう直ぐ……、時刻は約束の夕方になろうとしていたが……。
アイシャが戻って来る気配を男衆は全然感じなかったのだった。
「あの野郎……」
「ジャミル、もう少し待ってみよう、きっと……」
「はあ、何でこんな事になっちゃったのかなあ~……、ホイミ系魔法じゃ
病気は治せないしね……」
ダウドはベッドで眠るモンと、窓の方を交互に見ながら息を漏らす。
いつも元気でおバカなモンも体調を崩してしまい、マキナの
元乳母さんも思う様に中々見つからず……。
「ジャミルさん、あの……、いいですか?」
「ん?あ、ああ、どうぞ……」
部屋のドアをノックし、メイドさんが部屋に入って来た。何やら手紙の
様な物を持っている。
「これ、ジャミルさんに渡して欲しいと……、この手紙を持って
来て下さった方が今ロビーに来ているんです、皆さんにお話が
あるそうで……」
「俺らに……?」
男衆は顔を見合わせた。とにかくロビーに行ってみるしかなかった。
「やあ、又会ったね、来てくれたんだね、あんたの名前はジャミルさんで
お間違いないかな?」
「ああ、確かに俺がそうだけど……、爺さん、確か昨日屋敷で……」
ロビーに行ってみると、待っていたのは初老の白髪の老人。昨日、
屋敷でジャミル達を案内してくれたあの老人だった。
「儂はたまにマキナお嬢さんのお屋敷のお掃除をさせて貰って
おるんだよ、昨日もな、許可は頂いておるが、此方が勝手に
やっている事さ」
「屋敷の……?」
「ああ、お節介なボランティアと言った方がいいかな、とにかくその
手紙に目を通してあげておくれ、君達の友達のアイシャさんから
預かって来たんだよ」
「……アイシャから!?」
ジャミルは急いで手紙の封を開けた。アルベルトとダウドも心配そうに
ジャミルの側へ。……手紙を読んでみると、手紙にはこう書かれていた。
……ジャミル、みんなへ……、ごめんなさい、一日だけの約束
だったけど、私、もう少しマキナさんのお世話がしたいの、迷惑を
掛けちゃうのは分かってるけど……、でも、お願い、このままじゃ
又マキナさんが一人ぼっちになっちゃう……、だからお願いです、
我儘を言っているのは十分承知です、もう少しだけマキナさんの
側にいさせて下さい、……必ず戻ります、……モンちゃんにどうか
宜しく、私は元気だから心配しないでって伝えてね……
「え、延長お……?」
「アイシャ……」
「あいつ……、はあ、やっぱりこうなったか、どうせ一日や
そこらじゃ気が収まんねえとは思ってたけどさ……」
アイシャはどうにか元気らしいが……、逆にモンは体調を崩して
しまっているんである。……早くアイシャが戻って来てくれれば
モンも安心して元気になると思うのだが、事態は大分長引きそう
だった……。男性陣は混乱してきた状況に再び頭を抱えた。
「実はね、儂が此処に来る前の話なんだが……」
昼間、午後15時頃の事……。
「……やあ、調子はどうかね?」
「あっ、お爺さん、こんにちはー!お昼頂いちゃいましたー!とっても
美味しかったです!」
「そうか、お口にあって良かったよ……」
老人は心配して屋敷に様子を見に訪れてくれた。たまたま玄関の門
付近を丁度掃除していたアイシャを見つけ、声を掛ける事が出来たの
だった。だが老人はすっかり汚れてしまっているアイシャの身なりを
見て、これは相当酷くやられたのではないかと心配するが……。
「え?これですか?あはは、朝、ちょっとマキナさんとバトル
しちゃいましてー!でも、面白かったですよ!私もマキナさんも
ホースで水掛け合ってこんなになっちゃいました!」
「……は、はあ?面白かっ……」
「今日は引き分け!お相子だったの!」
「たのか……、どうりでな……」
老人は心配するが、アイシャは笑顔を見せ、楽しそうに笑う。
その無邪気な様子を見る限り彼女はちっとも嫌がっている
素振りも見せず、むしろどんなハプニングもどんとこい
状態だった。
「マキナさん、今お昼ご飯食べてお休み中です、私の作ってくれた
ご飯、美味しいって、お代わりはないのって言ってくれて……、凄く
嬉しかったんです……」
「マキナお嬢さんが……?なんと……」
老人はごく近所の平民だが、近年のマキナの暴走っぷりは嫌と
言うほど知っている。近くに住んでいる為、しょっちゅうマキナの
屋敷から聞こえてくる罵声も怒鳴り声もみんな聞いており知っている。
なので、明らかに我儘マキナに何か心境の変化があった事は定かでは
無かった。……この不思議な少女の出現により……。
「あの、ちょっとお願いしたい事があるんですけど……、
大丈夫でしょうか?」
「ん?儂にかね?いいよ、儂で出来る事なら……、構わないよ?」
「本当ですか!?有り難うございます!!」
そしてアイシャは屋敷に一旦戻った後、暫く立ってから外で
待っている老人に手紙を渡しに又現れる。その手紙が先程
ジャミル達が目を通した手紙だった。
「……と、言う訳なんだよ……、手紙を宿屋に届けて欲しいと
頼まれてな、丁度いてくれて良かったよ、直に君に話も伝える事が
出来たしな……」
「そうだったのか……、いや、爺さん、手間掛けさせちまって
申し訳ねえ……」
「いや、儂はちっとも構わんよ、ジャミルさん、アイシャさんは
本当に屋敷で心から楽しそうに過ごしておるよ、……どうかな?
もう少し様子を見てあげては?」
「う~ん……」
「ジャミル、僕もそう思うよ、モンも今具合があまり良くない
事だし……、もう少しアイシャに時間を与えてあげた方が
いいんじゃないかな……」
「ジャミルう……」
ダウドも側でハラハラしながらジャミルの返答を待っている……。
ジャミルは暫く唸って考え込んでしまっていた……。
「ジャミルさん、わ、私からもお願いします!……あのマキナお嬢様の
心を開くなんて、やっぱりアイシャさんは凄いお嬢さんですよ!!」
話を聞いていたのか、いつの間にかメイドさんまで側に来ていた……。
「……分かった……、じゃあ、爺さん、又手間掛けさせちまって
済まねえけど、俺らが了解したってアイシャに伝えてくれるかい?」
「ああ、勿論だとも!アイシャさんに伝えておくよ!此方こそ
お嬢さんの為に有り難う、本当に感謝するよ!」
「ジャミルさん、有り難うございます!」
メイドさんもジャミルにお礼を言う。老人は急いでアイシャに事を
伝えに屋敷へと戻っていった。……しかし、内心ジャミルの境地は
複雑であった……。老人が宿屋から消えた後……。
「モンの奴……、目覚ましたら寂しがるだろうなあ、アイシャは
夜には戻るって言っちまったから……、具合が余計悪くなんねえと
いいけどよ……」
「仕方が無いよ、モンは僕らでしっかりケアして、側に付いていて
あげよう……」
「モン……、早く元気になってよお、……頭叩かれるのはちょっと
だけど……、で、でも、早く元気になってくれるなら、少しだけなら……」
「そうだよっ!ワガママ言ってんのもいーかげんにしろっての!少しは
ガマンさせる事も大事っしょっ!デブ座布団のデケー体型してサっ!!」
サンディ、興奮して妖精モードでジャミルの中から飛び出す。
……オメーが言うなとジャミルは思ったんである……。
「ダウド、明日又俺とアルで町を歩き回って見ようと思うんだ、
モンの事その間、頼めるか?」
「うん、オイラは大丈夫だけど、……早く本当に元気になって
欲しいね、モン……」
「……モン、頑張れよ、早く元気になれよ……」
ダウドはベッドで眠っているモンの身体にそっと触れる。ジャミルも
モンに励ます様に声を掛けた。だが、結局その夜はモンは眠ったまま
目を覚まさなかった。アイシャがまだ戻って来ないのも分からないまま……。
「そうですか、ジャミル達が……、お爺さん、本当にどうも有り難う!」
「いやいや、ただ、アイシャさんに呉々も余り無理を無さらん
様にと皆さんが心配していたよ……」
「ええ、分かっています……、でも、ジャミル達が時間を延長して
くれたんだもの、もっと頑張らなくちゃ!」
老人は宿屋での件の事をアイシャに伝えに屋敷に又訪れていた。
だが、余計な心配を掛けてしまう恐れもある為、ジャミルはモンの
体調の事は老人に伝えず伏せていた……。
「では、儂はこれで……、又何かあったらいつでも儂の所を
訪ねておくれ、後、これはいつも心配している事なんだが……、
マキナさんはいつも屋敷で一人で暮らしている、女の子1人
だからな、気には掛かっているんだが……、今日は君もいてくれる、
だが、やはりこんな広い屋敷に女の子2人だけだ、くれぐれも
戸締まりは忘れない様にな……」
「はい、大丈夫でーす!お爺さん、今日は本当に有り難う
ございました!!」
アイシャは老人に挨拶すると、門の扉をしっかり閉め屋敷に
戻っていった。しっかりしたアイシャの姿を見て老人は安心
すると自分も自宅へと戻って行く。……しかし、他にもその様子を
こっそりと覗っていた者がいたのだった……。だが、会話の内容は
聞こえていなかった様だった。
「アニキ、守備の方はどうですかい?俺はもういつでも準備万端、
オッケー、バッチバッチですぜ!そろそろ攻撃に移りますか?」
「おう、俺も色々と此処の町で情報を掴んだ、何でも此処の
お嬢さんは相当な天然ボケらしい、だから誘拐された事なんか
分かんねえよ、ちょちょいのちょいで騙してアジトまでご招待さ
……、それに今日は誰もこの屋敷、人がいねえみたいだ、親は
旅行にでも出掛けたか、丁度いいや……」
屋敷の塀に張り付いて何やら良くない相談を交わしている2人組。
片方は顔をすっぽり覆う角カブトを被った大柄な筋肉質の男。
……そして、もう1人は……。宿屋で働いていたジョーカー帽子を
被ったあの得体の知れない男だった……。この2人は盗賊だったので
ある。数週間前からこの町に張り込み、情報を覗いながら身代金目当てに
密かにマキナ誘拐を企てていたのだった。だが、情報を仕入れていた
割には、マキナの両親はもう屋敷に永久に不在と言う肝心の事実を
知らなかったのである。
「いやあ~、俺も嫌々ながらあの宿屋で働いていた甲斐が
ありましたよ!でも、もうすぐ本当にもうすぐなんですよね……?
ひ、ひひひっ!!」
「だな、いよいよ今夜決行だ、ただ、もう1人メイドの嬢ちゃんが
いる様だが……?」
「あ、どうやら宿屋にここんとこ暫く泊まってる客の連れらしい
ですぜ、何でも聞く処によると、此処のお嬢さんと仲良くなりたくて
手伝いに来てるんだとか……?」
「ほう……?なら、ついでにその嬢ちゃんも一緒に誘拐しちまえば……」
「身代金が2倍ですぜ!アニキーーっ!!」
……悪男達は顔を見合わせて豪快に笑う。……マキナとアイシャに
危機が迫っている……。そうとは知らず……、アイシャは屋敷で
マキナに夕食を作って出していた。
「はい、どうぞ、沢山食べてね!」
「これ、今度はなあに……?」
「シチューよ、ささ、召し上がれ!」
今度アイシャが作ってきたのは緑色をした謎のシチュー……。
それでもマキナは抵抗なく、シチューをもそっと口に入れた。
「ねえ、何であなたは食べないの……?」
「私はいいの、マキナさんに沢山食べて欲しいから!遠慮せず
どうぞどうぞ!!」
「そう、屋敷のコックが作ったシチューはもっと真っ白な色をして
いたけれど……、こっちの方がずっと美味しいわ、……やっぱり変……、
あなたも変よ……」
変なのはマキナの味覚である……。アイシャは自分の作ったシチューを
食べてくれるマキナの姿を見るのが嬉しくて、しばらくの間ニコニコと
それを眺めていた。
「あ、そうだ、すっかり忘れてた、あの、これ……、宿屋にいる
コックさんから預かって来たの、マキナさんにって、マキナさんが
昔好きだったお菓子だって、作ってくれて持たせてくれたの、はい!」
アイシャはコックが持たせてくれたマドレーヌをマキナに差し出す。
しかし、マキナは怪訝そうな顔をする……。
「そうだったかしら、覚えが無いわ、要らない、あなたが
食べたらいいわ……」
「え、ええ?こんなに美味しそうなのに……」
「要らないったら要らないのよ!……こっちの方がずっといいわ!」
マキナは怒って破壊シチューを口にかき込む。アイシャはそれを
見て首を傾げるが、どうやらマドレーヌは頂いていいと言う事
なので、遠慮無く貰う事にした。
「そうですか、じゃあ遠慮無く頂きまーす!うん、美味しーい!!」
「やっぱりあなたって変よ、変な子……」
「ね、ねえ、マキナさん、そろそろ私の事、アイシャ……って、
名前で呼んで欲しいなあ~……、ね……?」
「嫌よ!あなたはどう見ても変な子だわ!変な子!それにあなたと
私はお友達じゃないもの!名前で呼ぶ必要がないわ……」
「そ、そうですよね、……あ、あははは~……」
「ねえ、私、そろそろ眠いわ、出て行ってくれる……?」
「あっ、はい……、じゃあ、ベッド適当にお借りしますね、
食器、又後で下げに来ますね、……おやすみなさい……」
「……」
アイシャは急いでマキナの寝室から出、応接間を後にする……。
その時の彼女の瞳にはキラリと光る物があったが、マキナは
気づく筈も無かった。……アイシャの気持ちも当然に……。
応接間の扉を閉めた後、アイシャは下を向いて大きく息を吐いた。
「……やっぱり……、無理なのかなあ、私じゃ……、……ううんっ!
こんな事ぐらいでメゲるもんですかっ!そうよっ、明日はもっと
もっと頑張るっ!!」
……アイシャは手の甲で流れて来た涙を拭う。そして強く頷き自分に
気合いを入れた。
「2階なら何処か休ませて貰うお部屋があるかしら、でも、お風呂も
お借りしたいわ……、水風呂がいいなあ……」
とてとてと、螺旋階段を上がろうと片足を掛けたその時……。
突然後ろから何者かがアイシャの身体を捕まえ、羽交い
締めに掛かる……。
「……な、何っ!?きゃ!?」
「へへへ、お嬢さん、お今晩わー、……いい子だから騒がない
でねーっと!」
「ちょ、ちょっとっ!あんた達だれっ!?ん、んーっ!?」
「騒がないでって言ってるでしょ、おい……、こいつは真面だから
騒がれると厄介だ、俺がこいつを抑えとくうちに……、早くボケの
方のお嬢さんを連れてこい、早くしろっ!!」
「へえーィッ、確か、応接間の奥の部屋でしたよね、んじゃ、
行ってきまーす!」
「……んんーーっ!?」
アイシャは角カブト男に口を塞がれ、身体を押さえ付けられたまま
身動きが取れず……、そして理解する。屋敷に泥棒に入られたのだと……。
このままではマキナが危ない!何とかもがいてみるが、どうにもならず……。
(……どうしよう、どうしたらいいの!このままじゃマキナさんが……!!
でも、何で私っていつもこうなっちゃうのよう~……)
……アイシャは男に押さえ付けられたまま、だ~っと滝涙を流した……。
(……守るのっ!絶対に!マキナさんを今守れるのは私しか
いないんだからっ!!)
「……う~っ!!」
「……う、うおっ!?」
定番でお約束ではあったが、アイシャはカブト男の股間を
思い切り蹴り、自分を捕まえている手に噛み付いた。カブト男は
堪らず慌ててアイシャから手を放した。その間にアイシャは
マキナのいる応接間の奥へと走ろうとするのだが……。
「……はあ、はあ、マ、マキナさあーんっ!!」
「いたた、こ、こいつめっ!!」
「きゃ!……い、いやーーっ!!」
「騒ぐなって言ってんだろが!!……フンッ!!」
しかし、アイシャは再びカブト男に捕まってしまう。カブト男は
そのままアイシャに腹パンチを叩き込む。……アイシャは倒れ、
その場に気を失ってしまった……。
「たくっ、手間掛けさせやがって、……とんでもねえジャジャ馬だな!」
「……」
そう言いつつも、カブト男は倒れているアイシャを見ながら
ニヤニヤ笑うのだった……。
「へへへ、こんばんわーっ!まっきなお嬢さああーん!」
「……だあれ?」
流石である。マキナは突然屋敷に潜入して来た変な男にも動じない。
きょとんした顔で突如現れたジョーカー男を見つめている……。
「勝手に入って来ちゃったのね、もう夜も遅いのに駄目じゃない……、
私、とっても眠いのよ……」
(……こ、こいつはっ!予想以上の大天然ボケだぜ!よ、よしっ!!)
「マキナお嬢さん、……今から楽しい処に遊びに行きませんかー?
あっしがご案内しますぜー!」
「楽しいところ……?」
「へえ、とーっても楽しい処っすー!魔法の馬車でお迎えに上がりましたー!」
マキナは眠い所為もあるのか、昼間よりも余計ぽや~んとしている……。
思考の判断も碌に出来ず、男にあっさり返事を返してしまうのだった……。
「楽しいところ……、行くわ……、……あなた、私のお友達になってくれるの?」
「!へ、へえ、それは勿論!……ちょ、ちょっと待ってて下さいねー!」
「ふぁあ~……、うとうと……」
ジョーカー男は慌てて一旦マキナの部屋を飛び出す。……そして相方の
カブト男を大声で呼ぶのだった……。
「……アニキー!アニキいいーっ!」
「何だよ、聞こえてるよ、うっせーな!!」
のっそりと……、気絶しているアイシャを抱えたカブト男が姿を現す。
アイシャは男の肩に担がれ縄でふん縛られていた……。
「おお、そっちのお嬢さんの捕獲はバッチリっすね!いやあー、
マキナさんは予想以上の超天然でしたよ、……あっさり行くと
言ってますよ!へひひっ!!」
「……そうか……、なら俺はこの人質のメスガキと先にアジトへ
行って準備してるぜ、お嬢さんはお前が連れて来い、それとこれは
脅迫状だ、これを屋敷内へ残しておけ、身内が戻って来りゃ誰か
気づいて慌てるだろ……」
「へい、お任せをーっ!こっちはもう一踏ん張り頑張りやーすっ!」
ジョーカー男は再びマキナの勧誘に応接間へ……。それを見届けた
カブト男はアイシャをズタ袋に押し込める。……外に出て様子を覗い、
誰も歩いていないのを確認すると再度アイシャを肩に担ぎ、歩き出す。
……こうして、アイシャは前作同じく、ズタ袋密封の刑を受ける羽目に
なる……。意識を失っている筈のアイシャの目から涙が一滴零れた……。
……助け……て……ジャミ……ル……
「さあ、お嬢さん!お待たせしましたっ!楽しい処にご案内でーす!
ささ、行きましょう!」
「……待って、あの変な子がいないわ、……行くならあの変な子も
一緒じゃないと嫌よ……」
「?……あ、ああ、もしかして、団子頭の……、メイドさんの事ですか……?」
「そう……」
「ああ、それなら心配いりませんぜ!ウチのアニキと一緒に先に
楽しい場所にもう行ってます!ささ、お嬢さんも早く行きましょうぜ!」
「分かったわ……、うとうと……」
……マキナはジョーカー男に連れられ部屋を出て行く。……その後、
部屋に幽霊の少女が現れる。マキナとそっくりの瓜二つの顔をした
少女……。少女の表情は連れて行かれるマキナを見つめながら、
何も出来ない悲しみで満ち溢れていた……。
……マウリヤ……、その人に付いて行っては駄目!お願い、
行かないで!……ああ、全部私の所為……、マウリヤが、
マウリヤが行ってしまう……、誰かお願い……、マウリヤを
助けて……、私の大切なお友達を、どうか……助けて下さい……
「これが馬車……?」
「そうですよ、さあ乗った乗った!」
ジョーカー男が馬車と言っているのはどう見ても荷物を運ぶ
台車である。幾ら天然でも流石にこれは馬車でないのが
理解出来る。……マキナの機嫌が一気に悪くなった……。
「私、帰る!……人をバカにするのもいい加減にして!!」
「わわわ!ま、待って下さいよう~、あんたのお友達も
待ってるんですからあ~!ね、ね?此処は一つ、ガマンして……、
ね?ね?」
「お友達……」
「「マキナさあーんっ!!うふふっ!!」」
「……」
マキナの脳裏にアイシャの天然笑顔が浮かんだ。あんなに意地悪
したのに、それでも彼女は自分と友達になろうとしてくれた。
……不思議と次第にマキナの胸がちくちく痛み出した。
……それはマキナにとって初めて現れた戸惑いの心……。
「違う、あの子はお友達じゃないわ、……変な子、変な子よ、だって
私のお友達は……、たった一人の……、……」
「は、はあ……?」
「いいわ、行く、我慢してあげる……」
マキナは怪訝そうな顔をしながらも漸く台車に乗る。それを見た
ジョーカー男はほっと安心するのだった……。
「たく、手間掛けさせんなってんだよっ!調子に乗りやがって、
このクソ令嬢がよっ……!」
「……なあに?クソ?」
「い、いや、何でもないっすー!さあ、夢の国にれっつごー!!」
「れっつごー?」
ジョーカー男はこうしてマキナの誘拐にどうにか成功する。アイシャと
マキナ、両者とも誘拐、悪人の元へ連れ去られてしまうのだった……。
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