zoku勇者 ドラクエⅨ編 25
今回からサンマロウ編に入ります。オリジナル要素も交えた
マキナとマウリヤの物語をお楽しみ下さい。
悲しきリブドール1
3つ目の女神の果実も取り戻し、ビタリ山での目的も果たした4人は
次の場所へと残りの女神の果実を探しに旅立たなければならなかった。
ラボオが眠る墓に墓参りの後、旅立ちの前にスライムへと別れの挨拶を
する。
「元気でね、ボクはこれからもじいさんの代わりに此処をずっと
守っていくよ、ラボオじいさんの事、ずっと大好きだもん!」
「そうだな、お前がいてくれれば爺さんも寂しくないもんな、頑張れよ!」
「うん!みんなも頑張ってね、ボク、応援しているよ!」
4人は石の町とスライムに別れを告げ、新たな旅立ちへ。帰りは
ジャミルのリレミトを使い、あっという間にビタリ山、麓の入り口
付近へと戻る。
「ん?誰かいるみてえだけど、……誰だ?」
入り口付近に屯しており、キルトのコートを羽織い、頭部にシャプカを
被った少女と小さな少年。4人の姿を見ると話し掛けて来た。
「お前達、都会の匂いするな、あたし、レンジャーのプーディー、こいつは
相棒のバチョ-、大自然と共に生きる者」
「ガゥーガゥガゥ!」
「はあ……」
どうやら、相棒のこのバチョーと言う少年は野生児らしく、言葉が獣化していた。
「あたし達、自然と共に暮らすレンジャー、自由な旅人、人里避けて
彼方此方旅して回ってる、お前達も旅人の様だが、どうだ?レンジャーに
なるか?レンジャーは自然の力借りて戦う野生の職業、この山にいるメイジ
キメラ、猛毒状態にして全部で5匹止めさせ、そうすればレンジャーに転職
出来る資格、与えてやる、お前達、都会の人間にしてはやけに綺麗な心の
匂いがする」
「そ、そう……?新しい職業か、でも、俺も転職したばっかだし、又余裕が
出来たら来るからそん時は頼むよ……」
「そうか、あたし達、人間が嫌い、やっと新しい穴場見つけた、
暫く此処住む、レンジャーになりたかったらいつでも来い……」
プーディーはそう言うと相棒を連れ洞窟の奥へと姿を消すのだった。
「そろそろ此処最近バトルも大分厳しくなって来たし、正直ダウドだけに
回復を任せるのも心苦しいね……、僕もそろそろ魔法と攻撃、両方使い
熟せる上級職を考えているのだけど……、ちら」
「ね、ねーっ、そうだよねっ、アル!……ちら」
「分かってるよっ!……お前ら最近のその、目線で訴えるおねだり
チラ見ポーズやめーや!」
「あら、ジャミルだってたまにやってるじゃないのよう!ちら」
「モン、お腹すいたんだモン、ちら……、ぷう」
「……やかーしーわっ!モンもうるせーーっ!!」
また始まったいつも通りのアホ4人組にサンディは笑い転げた。
今回は資格を受けなかったが、レンジャーと言う新たな職業が
有ると言う事を脳内に刻み、4人はビタリ山を離れた。
「さて、次の目的地はと……」
「サンマロウって言う町で船を手に入れるんだったね、確か……」
「マロ?モンはクソマロでおじゃるモーン!」
「……モンちゃんっ!!」
(デ、デブ座布団、まーたアホになってるうう!きゃーはははっ!!)
……おい、飼い主……、と、言う様な目線でアルベルトがジャミルを……。
「だからいいってんだよっ!船か……、又スケールがでかくなって来たな、
よしっ!!」
誤魔化すモンの飼い主&相棒のジャミル。どうにも最近のモンのアホ化は
輪を掛けて止らず……。
『橋を渡り南西、花の町サンマロウ』
いつの間にかこう表記してある案内看板の処まで戻って来ていた。
看板の道標の通り、橋を渡り只管南西へ……。やがて花畑に囲まれた
大きな町が見えてくる。正しく花の都の港町、サンマロウだった。
「うわあ……」
これまでの町とは圧倒的に違う、大都会の雰囲気で4人は大興奮。
大きな宿屋に、町の入り口付近では立ち並ぶ花屋が特に目をひいた。
4人組は暫く町を探索してみる事に。
「どう?可愛いお嬢ちゃん、お花はいかが?」
「綺麗ねえ、ねえ、一つ買っていいかしら?」
「ま、いいんじゃね?花くらい」
「うん」
「ジャミルもアルも有り難う!どのお花がいいかなあ~……」
「あ、それだったら今の時期のおすすめはね……」
アイシャは嬉しそう。ワゴンに並ぶ花にすっかり夢中で店主と
話し込んでしまった。
(ネ、ネ、アイシャ、アタシのも選んどいてヨ、そろそろ頭の花飾りサ、
新しいの欲しいんだよネ!)
「いいわよ、えーと、この小さな向日葵なんかどう?」
(お、何かよさゲっ!)
「花かあ~、……今のオイラは正直花より団子かなあ~……」
「情けねーけど俺も同意見……」
「モンもどす……」
……グウ~ッ……
野郎2人とモンスター一匹。……腹が減ったのか揃って腹を鳴らした。
「全くもう……、どすって……、またモンは……、……!?」
「キャンディーいかがーっ!本日のお勧め!ミントレモン味ーーっ!!」
「キャーモンーーっ!!」
「こらーーっ!!」
モンはキャンディーワゴン屋台の方へ。アルベルトは慌ててモンを
捕まえようとするが……。
「……?読まなくなった古本、無料でお譲り致します、こ、これは、
他国文学の……、戦争と平和っ!!ほ、他にも見た事のない本がっ!!」
アルベルトはアルベルトで、路上に置いてあった無人の古本販売に
目が行ってしまい……、ジャミルとダウドは露天のソウルフードを
食べ捲る。その間にモンは……。
「モン、キャンディー食べたいモン……」
「おやおや、可愛い喋るぬいぐるみさんだね、でも、ぬいぐるみさんは
お金持ってるのかな?」
「持ってないモン……」
「そう、それじゃ駄目だよ、君の持ち主さんに頼むんだね、ははは!」
「モン~……」
モンは困って涎を垂らす。アイシャは花に夢中、アルベルトは古本、
ジャミルとダウドは自分達だけの間食タイムとおやつ。モンは
どうしても珍しいキャンディーが食べたくて仕方がない。今すぐに
食べたくて……。
「それ、欲しいの……?」
気がつくとモンの後ろに……、清楚な顔立ちの美少女が立っていた……。
「モ、モン……?」
「!!!マ、マ、マ……、マキナお嬢さんっーー!!ああああっ!!」
マキナと呼ばれた美少女……。ふわふわのロング金髪ヘアに大きな
赤いリボンがとても良く似合っている。そして、ゆめかわなガーリー
ドレスの容姿。
「ごきげんよう、今日はお天気がいいので少しお散歩に出てみたの、
ねえ、あなた、何だかとても面白い変なお顔ね、……どう?私の
お友達になってくれたら……、そのキャンディー全部買って
あげるわよ?変なお顔さん」
「いやいやっ!マキナお嬢さんにお金を頂くなどどっ!そんな
大それた事は出来ませんっ!どうぞどうぞ、今日の分全て持って
行って下さいっ!!」
「そう?私は別に要らないのだけれど……」
「モン……」
店主は慌てている。どうやら、このマキナと言う美少女は……、
この町では相当有名人の様であり、何やら凄い立場の人物らしい。
モンはキャンディーとマキナを交互に見比べ……。
「……いらないモン……」
流石にモンもプライドがあるらしく、変な顔と言われたのが
尺に触ったのか、あれだけ食べたがっていたキャンディーを
あっさり諦め、皆の所へと戻っていった。
「まあ……」
「はあ、な、何なんでしょう、あの玩具は……、最近の玩具は
訳が分からないですね……」
「私の誘いを断るなんて……、信じられない!例え変なお顔の
お人形さんだって許せない!あんなお友達こっちからお断りだわ!!」
「あ、マキナお嬢さん、キャンディーは……」
「要らないわ!あなたが食べたらいいじゃない!私、気分が悪いの、
折角のお散歩だったのに!帰ります!!」
「は、はあ……」
マキナは去って行く。その様子をキャンディーワゴン屋の店主は
汗を掻きながら見つめていた……。
その夜。ジャミル達はサンマロウの宿で食事を。メニューは蒸し鶏の
シチュー、サラダに、パンにデザートと沢山でボリューム満点。
「シチューかあ、リッカを思い出すなあ……」
「どうしてるだろうねえ……」
「そうね、きっとお店は大繁盛、お客さんも沢山で毎日大忙しで
頑張ってるわよ!」
「たまには会いに戻ってもいい頃じゃないかな?きっと心配してるよ、
君の事、もうルーラがいつでも使えるんだしね」
「そうだなあ……、こうしてみると、俺らも随分と遠くまで
来たんだなあ……」
と、懐かしい話題で食卓のテーブルに花が咲く。ふと、ある事に
ジャミルは気づく。……モンが全然食事に手を付けていない事に……。
「……」
「おい……、モン……、どした?」
「モン……」
4人の視線が一斉にモンの方にと……、見られて嫌なのか、モンは
いきなり大口を開け牙を向いた……。
「どうせモンは変な顔モン!デブ座布団だモン!……シャアーーっ!!」
「おいおいおい!どうしたってんだよっ!」
「モンちゃん、止めなさいっ!他のお客さんが見たらびっくり
しちゃうでしょ!」
「ブギャーモンっ!!シャアーーっ!!」
アイシャが注意するが、モンは4人を威嚇するのを止めない。そして
アイシャが最近、モンを見ていてもう一つ気になる事があった。
成長の為なのか、気性が段々荒くなってきているのである。人間と
会話が出来、言葉を理解出来ると言ってもやはりモンは本来
モンスターなのだと言う事を常に忘れてはいけないのかも知れなかった。
「まいったなあ~、何が気に要らねえんだよ、言ってみ?おい」
「モンブモンブ!!」
「ぎゅ、ぎゅっぴじゃなくて……、今度はモンブ……」
「これって反抗期……?……チビちゃんにもあったしねえ……、
だけど……」
「いいわ、モンちゃん、いらっしゃい、私とお散歩しましょ、
さあおいで!」
「……イチゴのでっかいキャンディー買ってくれるモン……?」
「いいわよ、だからお外に行きましょ!!」
「モンーーっ!」
モンはころっと機嫌が良くなる。アイシャは自身の食事もそこそこに
出て行こうとした為、ジャミルが止めようとするが、戻ったら食べるから
出来たらお部屋に運んでおいて貰えると嬉しいかなと言ってモンを連れ
外に出掛けて行った。……残された男性陣はモンを注意出来ない
情けなさに申し訳なくなった。
「おい、サンディ……」
(何……)
ジャミルは自分の中にいるサンディに呼び掛ける。サンディは発光体の
まま姿を現す。
「お前、またモンに何か言ったんか……?」
(知らないってのっ!第一、普段デブ座布団て言ってもあんなに
怒んないよ!アンタらこそ何か思い当たる事あるんじゃネ!?)
男性陣は逆にサンディに突っ込まれて困るが、何も思い当たらず……。
(いい、アイツは本来モンスターなんだよ!?最近やたらと凶悪に
なってる様な気がするし!……頭はどんどんバカになってくみたい
だし!……そろそろ距離を置くことも……、考えた方がいいんじゃネ?)
「……」
サンディはそれだけ言うと再びジャミルの中に姿を消す。サンディの
言葉を聞いたジャミルは暫くの間黙っていた……。
「そう……、だな……、忘れてたな、あいつも本来は一端の
モンスターだって事さ……」
「ジャミル、モンに関しては暫く様子を見て見守ってあげよう、
モンは僕らと話が出来るんだから、これまで一緒に旅をして
来た大切な仲間だろ?」
「困った事する事も多いけど、オイラ達、モンに何回も
助けられたのも事実だしね……」
「ああ……、そうだよな……」
アルベルトも、モン太鼓ちんぽこの被害者ダウドもそうフォロー
してくれ、ジャミルは少し安心するのだった。
「ほーらモンちゃん、見て見てー!街灯の明かりが付いたよ、綺麗ねえ!」
「モンー!」
アイシャはモンを連れて夜の町へ。モンもさっきよりは機嫌が
良くなって来ていた。だが。
「いらっしゃい、いらっしゃーい!甘くて美味しいキャンディー
いかがー!」
昼間のキャンディーワゴン屋である。まだ本日分の在庫があるのか
夜間でも商売を続けていた。
「彼所で買って食べようか、ね?美味しそうね!」
「モン、あそこのお店嫌モン……、他のお店がいいんだモン……」
「え……、ええ?」
モンは我儘を言い出し、拒否る。昼間其処でマキナに馬鹿に
された為、事を思い出すのかあのワゴン屋で買って貰うのを
嫌がる。しかし、アイシャは事情を知らないので、モンが又
機嫌が悪くなったのに困ってしまう。お菓子を売っている他の
店はもう何処も今日は店を閉めている。
「モンちゃん、お菓子屋さんも雑貨屋さんも今日は何処もお店は
お終いよ?我儘言わないの!どうして嫌なのか分からないけど、
彼所のワゴン屋さんが駄目なら今日はもう帰るわよ……」
「やーモンやーモン!アイシャ、イチゴのキャンディー買って
くれるって言ったモン!買ってくれなかったらアイシャは嘘つき
モン!シャアーーっ!!」
モンは再びアイシャに向け大口を開ける。それを見たアイシャは
びっくりし、怒ってしまう。
「嘘つきって……、酷いわ!モンちゃん、どうしてそんな事言うのよっ!!」
「……シャアーーっ!!」
「ぬいぐるみの持ち主はお嬢ちゃんだったのかな?おやおや、
最近のぬいぐるみは本当に良く出来てるんだねえ!ケンカまで
出来て言い合うなんてね、まるで本当の人間の子供の様だなあ、
はっはっは!」
「あの……」
アイシャの大声が聞こえたのか、ワゴン屋の店主が反応し声を
掛けた。アイシャは困って顔を赤くするのだった。
「シャー……」
「モンちゃんっ!!」
モンは店主まで威嚇。……アイシャは再び大声を出さねば
ならなかった……。
「それにしても凄いぬいぐるみだ、あのマキナお嬢さんに
怒るんだからなあ~」
「……マキナお嬢さん……?」
一体誰……?と、アイシャがきょとんとしていると、モンは
アイシャに飛び付き、……そのまま胸に顔を埋める……。
「モン、マキナ嫌いモン、意地悪だモン、……モンの顔見て
変な顔って……、笑って何回も言ったモン……」
「モンちゃん……?」
「さて、そろそろ店を閉めるか、こんなに在庫は残ってるけど、
くたびれちまったからな、これ一つずつ、お嬢ちゃん達にあげよう、
じゃあ、お休み……、それ食べて仲直りしなよ」
「あの、困ります!お金はちゃんと払いますから!」
しかし店主はいいからいいからとアイシャ達に手を振り去って行った。
アイシャはどうしてモンが機嫌が悪くなったのか段々分かって来た。
昼間、モンは此処の場所でマキナと言う子に恐らく意地悪を言われたの
だと。詳しい状況は分からないが……。
「モン~……」
「……モンちゃん……」
「そうか……、モンはその……、マキナって奴に嫌味言われて
いじけてたのか……」
「うん、そうみたい……」
宿屋に戻ったアイシャはロビーテーブルにて先程の事をジャミル達に
話した。アイシャがモンを連れて宿に戻って来た時は、モンはアイシャに
抱かれたまま眠ってしまっていたのだった。
「ぐう~、ぐう~、……プウ~モン……」
「モン、お部屋に寝かせて来たよお、ぐっすり眠ってるから当分
大丈夫だとは思うけど」
「わりィな、ダウド、手間掛けさせちまってさ、アイシャも大変だったな、
疲れたろ……?」
「いいえ~」
「大丈夫よ!私、モンちゃん大好きだもの!これくらい何て事ないわよ!」
「そ、そうか……、そう言って貰えると有り難いな……、さて……、……」
「……」
モンは眠ってくれたが、4人はテーブルで顔を見合わせたまま、
そのまま会話なく……。暫く無言だった。
「とにかくだ、此処は船を手に入れに来たんだから、何時までも
此処にいる訳じゃねえし、……この町を離れればモンもすぐに
忘れるだろ……」
「そうだね、とにかく明日町を回ってみよう……」
「事が済めばモンも大丈夫だよお……」
「とっても素敵な町なのに……、モンちゃんには嫌な思い
させちゃったわね……」
(……ふん、何処の誰だか知らないけど、デブ座布団と勝負
出来るのはアタシしかいないんだからっ!!)
「……」
翌朝。早朝から4人は船の情報を求めて町を歩いて回る。モンを
宿屋に残しておく訳にいかず、連れて歩いているが、相変わらず
機嫌は悪いままだった。ダウドの頭に乗り只管ジト目で、町を歩く
4人を高みの見物状態で見ていた……。
「これはいつも通りなんだねえ~、とほ~……」
「わりィな、ダウド、いつもいつも……」
「……いいえ~……、これがオイラのお仕事ですものー、あ……」
……ぷう~う……
「ふんだモン……」
「いいんだよお……、ううう~……、おならの1発や10発……
あうう~……」
「は、早く船を譲って貰える所を見つけないと……、あ、あの、
すみませーんっ!」
「ん?何だね?」
アルベルトは路上で早朝から体操をしていたおっさんに声を掛けた。
おっさんはゴリラ体操をしていた手を止め、4人に近寄って来る。
「すみません、僕ら、この町で船を譲って貰えると聞きまして……」
「ああ、船が欲しいのか、船を所有しているのはこの町の大富豪の
お嬢さん、マキナさんだよ……」
「そうか、マキナ……、……えええーーっ!?」
マキナ……、の、出て来た名前に4人はおったまげる。ジャミル達は
まだ顔を拝んでいないが、昨日モンに嫌味を言ったらしき、話に聞いた
美少女が船の所有権を握っているのだから……。
「何、大富豪の娘さんって言ってもな、とても心の広いお方だよ、
あの方はいつも自分の友達を求めているんだ、一旦友達になれば
欲しい物はなんでもくれるぞ、船だって不可能じゃない、とにかく
一度屋敷を尋ねてみるといいよ……」
「はあ……」
おっさんは広い場所で体操を再びしようと移動して行った。
……歩いて行くおっさんの後ろ姿をアルベルトはぼーっと眺めていた……。
(いいじゃん、いいじゃん、ネ、早くそのマキナお嬢さんの所
行ってみよーよっ!自分達の船があれば世界中何処でも回れる
んだもン!女神の果実も探すのにチョーベンリなんですケド!ネ、
だから早くいこ、ジャミル!)
昨日までサンディもマキナの話を聞いてあまりいい顔はしていなかった。
が、船の所有者がマキナと聞き、ころっと態度を一心、早く屋敷に
行こうと急かす。
「あのな……、んな簡単に行かねーっての!みてみろあれっ!!」
「……シャー……、モン……、マキナの家なんか絶対行かないモンっ!!
シャアーーっ!!」
「モ、モンちゃんっ!落ち着いてっ!!今日はちゃんとイチゴの
キャンディー買ってあげるから!!」
「要らないモンーーっ!!」
「あだ!あだだだっ!モンーーっ!暴れないでよおーーっ!!」
モンはダウドの頭の上で暴れ出す。アイシャはモンを止めようとするが、
怒りのモンは今回、大好きなキャンディー買収でも止められそうになかった。
(何よ!船さえ貰っちゃえばいいのよっ!アンタ少しは我慢しなさいよっ!
このデブ座布団っ!!)
「シャギャーーっ!!」
「こらガングロっ!刺激すんなっ!!」
「あう~、駄目だよこれじゃあ……、モンは何とかオイラが見てるから……、
その間に皆はマキナさんの所に行って来てよお~……」
「モギャーー!おしりふーりふり!モンガモンガ!!」
ダウドは疲れた様な目で他の3人に訴える。このままではモンを屋敷に
とても連れて行ける状態ではない。ダウドの言うとおり、モンは任せて
宿屋で待っていて貰うしかなかった。
「わ、わりィなあー、本当に……、何から何までよ……」
「……モン、マキナのお家に行かないなら大人しく待ってるモン、
ダウド、行こうモン」
「うん、じゃあ……、でも本当、なるべく早く戻って来てよね……」
ダウドはモンを連れ宿屋へと引き返して行った。残ったトリオは
顔を見合わせ、一刻も早く船の手配の交渉に行こうと頷き合う。
「けどなあ~、そのマキナってお嬢がどんな奴なのか気になるな、
友達探してるとかちょっとなあ……」
「うん……」
「お屋敷に行く前に事前情報が必要かしら……」
モンを預かっているダウドには申し訳ないが、トリオは屋敷に行く前に
マキナの評判、人物像などを町の人に聞いて見て回る。話によると、
彼女は相当変わり者らしく、あるお宅の飼い犬を見て、どうして
この方達は毛皮を着てベロを出しているのかとか、そりゃ犬だから
……と、言うと、まあ、この方はイヌさんとおっしゃるの?……と、
真顔で言ったらしい。また、ある町民が外で用を足している時に
横から覗いて、まあ、どうしてあなたにはタケノコが付いているの
かしら?……、と。
「……大丈夫かな、マジで……」
「とにかくお屋敷に行ってみよう、行ってみない事には……」
「大丈夫よ、きっと……」
トリオは屋敷の場所を町民から聞き、屋敷までの道を歩き出す……。
とにかく何とか友達になって貰って船を手に入れればいいのだから。
後はサンマロウを離れてしまえば。もう、マキナとも会う事も
ないだろう。そう思っていた。だが、やはりそんなに上手く事が
進んであっさり終わる筈が無い事をトリオは何となく予感していた……。
トリオは町民に教えて貰った通り、北にあるマキナの屋敷まで
やって来る。……其処には列を作り、押し合いへし合いでずらりと
並ぶ人々の長蛇の列の光景が……。
「マジですげえ人気なんだな……」
「本当に……」
「マキナ様、ぼくのプレゼント、気に言って貰えるといいな!」
「何言っとる!寝ぼけた事言うな!マキナ様の新たなお友達に
なるのはこのオラだア!!」
「押すな押すな!」
「邪魔だ邪魔!」
「……な、何だこりゃ……」
「一体何が起きてるんだろう……」
「凄いわねえ……」
トリオが騒然としていると、列の最後尾にいた男が突然
怒鳴り掛かって来た。
「こらっ!お前ら順番は守れっ!……この俺でさえ早くマキナさんに
会いたいのを我慢してんだっ!!」
この連中は、誰も彼も皆、贈り物、プレゼントの様な物を抱えていた。
恐らく……、マキナに渡して気を引かせ、マキナとフレンドになるのを
狙っている連中ばかりなのであろうが。
「へいへい、分かりましたよ、しゃーねえ、後ろに並ぶか……」
仕方ないのでちゃんと並ぼうとすると、また最後尾にいた男が
文句を付けて来た。
「こらお前ら!マキナさんに手ぶらで会いに行くつもりかっ!?
失礼だろうが!何かプレゼントを用意してこいっ!!」
「……うるっせー糞親父だなあ~……」
「そう言われても……」
「出直した方がいいのかしら……」
「「あなたなんかキライッ!出て行ってーっ!もう来ないでーーっ!!」」
「お、お……?」
どうしたモンかと、トリオが困っていると屋敷の中から甲高い黄色い
声が聞こえたかと思うと、1人の男が慌てて屋敷から外へと逃げて
行くのが見えた。
「はは、どうやらマキナさんに気に入られなかったみたいだな、
ざまあみろ!おい、お前ら見たろ?マキナさんはとても高貴なお方、
安っぽいプレゼントなんかでは決して満足しないからな!ま、
そういう事だ、諦めな!マキナさんのハートを射止めるのはこの
俺だあーっ!」
「……嫌味な奴だなあ……」
順番が来て、男は屋敷へと駆け込んでいった。その様子をジャミルは
舌打ちをしながら眺めていた。が、直ぐに又屋敷からマキナの罵声らしき
大声が聞こえ、先程の男が転がる様にし泡食って逃げて行った。
「中々手強いみたいねえ……」
「やっぱり今日は出直した方がいいのかも知れないね……、
手ぶらだし……」
「いや、そんなに気ィ遣う事もねえだろ!それに物で釣って
コビ売って気に入って貰おうなんて陰険なやり方俺は嫌いだ!!
本当のダチって言うのはそうやって作るモンじゃねえだろ……」
「ジャミル……」
確かにそうかも知れないが……、アルベルトとアイシャは困ってしまう。
その間にも屋敷内にはぞろぞろと人が入って行った。男性陣だけでなく、
女の子の姿も……。
「そうね、お話しするだけ話してみましょ、ね、アルも……、
もしも此処で船を貰えなければ他の場所に行けばいいのよ……」
「ジャミル、アイシャ、分かったよ、行こう……」
「よしよし、行こうぜ!」
アルベルトも漸く納得。もう少し列が減るのを待ち、漸くトリオも
屋敷内へと。アイシャは何故か、前を歩いているジャミルの横に
来ると、顔をじっと見ている。
「何だよ、俺の顔に何かついてるか?」
「ううん、……やっぱりジャミルはジャミルで……良かったなって……」
「ハア?」
「なんでもなーいっ!ふふっ!」
アイシャはそう言うと再びジャミルの後ろに回る。その顔は嬉しそうだった。
「……変な奴……」
やがてトリオはマキナが待っている応接間らしき場に通される。中に入ると、
先程の先客が2人程いた。
「マキナさん、こんにちは!」
「ごきげんよう、今日は何をして遊びましょう?」
「今日はマキナさんの為にとびっきりのケーキを作って持って来たよ!
是非食べて欲しいな!ほら、イチゴがいっぱい乗っかった真っ白い
ケーキだよ!」
「有り難う、……ケキ?……ケキー……、嬉しいわ、綺麗ね、早速花瓶に
入れて飾っておくわね」
「それは食べる物だから……、……ま、まあいいや、取りあえず気に入って
くれたみたいだし、良かった……」
マキナは折角のケーキをぎゅうぎゅう花瓶へと押し込める。やはり
変わり者と言うのは本当らしかった。しかし、この男性はどうやら
お友達として合格したらしく、ご機嫌で家に帰って行く。そして、
二人目は女の子。
「何よ!女の子は食べ物なんかよりお洒落よ!マキナさん、
あたしのプレゼントもどうぞ!マキナさん、いつも同じ
リボンだから、新しいのプレゼント!」
女の子がマキナに差し出したのは、青いリボン。しかし、それを見た
マキナの顔がみるみる硬直し始めて……。
「いらない……」
「え、ええ……?」
「このリボンは大切なお友達とお揃いなの!他のなんか絶対いらない!
もう絶好よ!……あなた嫌いっ!!……帰ってーーっ!!」
マキナは大声を張り上げる。女の子は慌てて応接間から逃げて行って
しまう。どうやら、彼女は失敗してしまったらしい。実に応対が……
相当難しい相手である事は間違いなかった。
「酷い……、あんな言い方……」
「アイシャ、気の毒だけど、人の事心配してる場合じゃねえぞ……」
「そうだね、次は僕らだもの……」
「……ねえ、あなた達も新しいお友達かしら?」
トリオが話をしている声が聞こえたのか、マキナが声を掛ける。
ジャミルは慌てる。
「へ?そ、その……、船を……譲って欲しいんだけど……、駄目なら
いいよ、へ、へへ……、俺ら何もねえし、手ぶらだし、ゴマすって
貢いで気を引く気もこれっぽっちもねえから……」
どうせ駄目だと半分ヤケだった。しかし次の瞬間のマキナの言葉は
意外とあっさりしていたのである。
「いいわよ、船くらいあげるわ」
「え?……ホ、ホントなのか!?」
「ええ、その代わり私のお友達になって下さる?」
「マキナさん!」
「有り難うございます!」
貢ぎ物なんかしなくても友達にさえなってくれる事を約束して
くれれば船はくれるとマキナは言う。あのおっさんの言った通り、
案外心は広いのかも知れなかった。トリオの方も段々マキナに
対して警戒心が緩み始めた。……だが……。
(……こ、この感じは……、町の人達と違う……、まさか……、マキナを……)
「あなた……、誰なの……?」
「へ?へ……?」
マキナのジャミルを見る目が突然変り豹変し始めた。……まるで誰かに怯える様に……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 25