これで人類は滅亡です。ありがとうございました


 ある日僕のところへ、意外な電子メールが届いた。
 全世界の全人類が、同じ日の同じ時刻に、まったく同じ内容のメールを一斉に受け取ったのだ。
 差出人は奇妙ではあったが、とにかくこう書かれていた。


 親愛なる人類のみなさんへ
 日頃はこの世界に居住していただき、ありがとうございます。
 私のことを、皆さんはご存じないでしょう。
 私は、皆さんが住むこの世界の管理人で、昔から『神』という名で呼ばれてきた者です。
 本日は、とても残念なお知らせがあります。
 今から15分前に息を引き取ったイギリス人ジョン・スミス氏(78歳・ケント州)をもちまして、この世界開設以来の累積死者数が100億人を突破いたしました。
 私は、この100億人すべての死者に対して、
「あなたが生きた人生は幸福なものでしたか? あなたが生きてきた世界は、今後も存続する価値があると思いますか?」
 という質問を行ってきました。
 それに対する回答は『NO』が圧倒的に多く、実に72%をしめました。
(YES:13%   無回答:15%)
 死後に人生を回想して、
「自分の人生とは不愉快なものであった」
 と感じる人がそれほど多いとは、管理者として驚きを禁じえません。
 もちろんこの世界を政治的、経済的に支配しているのはあなたがた人類であり、私は世界をただ創造しただけで、運営には一切タッチしておりません。
 このことから、「この世界は生きるに値しないものである」と人類の多くが思っているという事実が、私の責任に帰さないことは明らかです。
 かねてから私は、
「100億人の死者と対面し、もしもNOという回答のほうが多いのなら、痕跡一つ残さず、この世界はきれいさっぱり削除してしまおう」
 と決心しておりました。
 その気持ちは現在も変わっておりません。
 まことにお気の毒ですが、あと1週間の猶予を持ちまして、私は、あなた方が居住するこの世界を完全に削除いたします。
 これを事前にご連絡するのは、あなた方に対して、管理者として、いささかなりとも親愛の情を感じているがゆえである、とご理解いただければ幸いです。
 では、さようなら。


 言いようのない不安を感じ、他の全人類と共に、僕は空を見上げた。
 よく晴れた雲のない日で、空いっぱいに青い色が広がっている。
 昼過ぎなので太陽はまだ高いが、空に見えているのはそれだけではなかった。
 隕石が目に入ったのだ。
 ジャガイモのようにつぶれた形だが、しっぽを引きずりながら、まるで糸で吊るされているかのように、空の一ヵ所に浮かんでいる。
 地球の大気と摩擦を起こすほど近くではまだないが、地球へむかって、猛烈なスピードで近づいているのだ。
 それほど遠い場所なのに、あれほどはっきり見えるということは、とんでもないサイズの隕石だ。衝突したら、地球など一瞬で消滅するほどの。
 だが人類には、空を見上げてため息をつくこと以外は何もできなかった。
 その後も一週間にわたって、隕石はもちろん、日増しに大きくなっていった。

これで人類は滅亡です。ありがとうございました

これで人類は滅亡です。ありがとうございました

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-12-10

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