灰の都


マーガレット:魔法使いの女。魔物についてとても詳しい。それもそのはず、その正体は魔王(ラインハルト)の側近。サンジェルマンのことは、だれかに取られたら面白くない、と思っている程度には、嫌いではない。



【作品紹介】

 魔王を倒すべく旅を続けてきた四人。
 魔王城の目前、灰の都で、思い出話をしようと持ち掛けるラインハルト。
 風呂を覗いただのだれのどこが好きだの、惚気や思い出を語りながら、旅の間に育んだ関係を確かめる四人。

 一夜を明かし、突入した魔王城は、しかしもぬけの殻。
 辿りついた玉座の間で、ラインハルトはこう明かす。

「なにせ――俺がその、魔王なんだからな」

『いつかどこかに伝わる話。これは、愛を知って消え去った、魔王の物語……』


※以下本編※


0:『』はモノローグ。

ライン:『いつかどこかに伝わる話。これは、愛を知って消え去った、魔王の物語……』

0:そこは灰燼(かいじん)にまみれた廃墟の街。
0:かろうじて形の残っている家の中。
0:暖炉の火を囲んでいる。

サンジェ:「灰の都(みやこ)で野宿なんてできるものかと思ってましたが、探せばまだ家が残っているもんですね」

フレデ:「そうね。まさかラインハルトが、灰の都まで来たことがあったなんて。魔王の城、一歩手前……。ここまで来て仲間が全滅したときには、つらかったんじゃない?」

ライン:「そうだな……あのときはつらかった。今までの旅で、一番悔しかったな。――おまえの兄と、一緒の旅だった」

サンジェ:「では、アンドリューはここで……?」

ライン:「……ああ。俺が最後を看取った」

フレデ:「そう……だったんだ。――ここまで来てたんだ、兄さん」

ライン:「強いやつだったからな……」

フレデ:「私は? 兄さんくらい、強くなってる?」

ライン:「ああ。同じくらいにな。あともう一歩を踏み出すことができたら、アンドリューを超えられる」

サンジェ:「珍しいですね、ラインハルトがアンドリューを語るのも。ふだんは話さないではありませんか」

ライン:「最後だからな。それに、ここまで来たら、あいつのことを話してやろうと決めてたんだ」

フレデ:「最後?」

マーガ:「(かぶせるように)ラインハルト。防護結界を張ってきた。これで今晩は安心」

ライン:「ご苦労さん、マーガレット」

マーガ:「別に。最も効率がよい選択をしただけ」

サンジェ:「結界なら僧侶の私が適任ですのに、本当に任せてよかったのです?」

マーガ:「このあたりの魔物は特殊だし、とても強力だから。聖域を作る方が、かえってやつらの注意を引くの。中には、聖域に対して一定の耐性を持ってるやつらもいる。サンジェルマンじゃ非効率」

サンジェ:「ぐうう。ここでもマーガレットの知識に助けられましたか……。よよよ。私、僧侶なのになんとも情けなく……」

マーガ:「嘘泣き、気持ち悪いからやめて」

サンジェ:「ああひどいっ」

ライン:「(笑って)。さてみんな。この都の中央が、魔王の城だ。俺たちの旅の目的地。――せっかくだ。今晩はみんなで、今までの思い出を語り合わないか?」

フレデ:「今までの、思い出……」

サンジェ:「おっとなんですー? 柄にもなく感傷に浸っているんですか?」

ライン:「そんなとこだ、茶化すなよ。そうだなたとえば……マーガレットの魔力探知をすり抜けて風呂を覗いた話、とかな」

サンジェ:「あっ、ちょっ、ラインハルト!? しーっ! しいーっ! うぐっ」

マーガ:「(さえぎって)へえ? 私が気づいてない分? ……面白い。聞かせて」

ライン:「はははっ。――あのな?」





0:時は遡り。
0:とある深夜。野営中。

サンジェ:「抜き足、差し足、忍び足……」

ライン:「なにやってるんだ、サンジェルマン」

サンジェ:「ふわっほっ!? らっ、ラインハルトぉ……! びっくりしたじゃありませんか~」

ライン:「バカ。おまえこそ、親友の俺を置いて覗きとは、水臭いぞ」

サンジェ:「いや~、だって~、ね~え? ラインハルトくんは、フレデリカとよき仲でしょ~う? 付き合わせるのもどうかと思いまして~?」

ライン:「おいおい。今まで何度一緒に風呂を覗き、怒られてきた? どんな修羅場にもついていくぜ、親友」

サンジェ:「ラインハルト……! ――あとでフレデリカに怒られますよ?」

ライン:「実は怒ったフレデリカの顔が見たい、というのもある。しばらく怒られてなくてさみしいんだ」

サンジェ:「あーはいはい、そういうね。まったく~、穢れなき眼で歪んでますなあほんと。ですが、その男心わかっちゃいますねえ、うんうん」

ライン:「はっはっ。ところで、今日はどうやって覗くつもりだ? 魔法で姿を消すのは、マーガレットにすぐ探知されるぞ?」

サンジェ:「ふっふっふっ……じゃじゃ~んっ! こちら先日手に入れたもので、『消える真夜中午前二時』というのです」

ライン:「まーた怪しいものを、この破戒僧(はかいそう)め。それで?」

サンジェ:「なんとこの懐中時計は午前二時の間だけ、身に着けている者の姿や気配、魔力を消してくれるのです!」

ライン:「……俺には見えたが?」

サンジェ:「ええまあ……正面からは隠してくれるんですが、なぜか背後からは丸見えという始末でして」

ライン:「いくらしたんだ?」

サンジェ:「とほほおよよの金貨十枚……」

ライン:「おっとそいつは……元を取らなきゃ、な」

サンジェ:「ええ……。さあ友よ。私の肩を掴んで、後ろに並ぶように。それであなたの姿も見えなくなります。正面からは!」

ライン:「お、おう」

サンジェ:「あーただしっ! 物音は消してくれませんから気をつけてください。あそーれ、抜き足、差し足……」

ライン:「忍び足……」

0:ややの間を取って。

マーガ:「(鼻歌)」

サンジェ:「ほおおおおおお~~~……! 見てください。天使の湯あみです……」

ライン:「気をつけろサンジェルマン。大きな声を出せばバレるぞ」

サンジェ:「わかっていますとも。ええっ、ええっ。今見つかってはこのアイテムも没収されてしまいますから」

マーガ:「(かぶせて)だれかいるの……?」

サンジェ:「(息を呑む)」

ライン:「(同じく息を呑む)」

マーガ:「…………サンジェルマン。そこね」

サンジェ:「っ、バレてムグッ」

ライン:「(さえぎって)待てブラフだ……!」

マーガ:「…………いると思ったのに。――ふぅ。いないならいないで、物足りない。……もう少し、待ってみる? ……ふ。私も、バカね」

サンジェ:「(ジェスチャーで)聞きましたか!? マーガレットが私のこと待ってる風な! マーガレットが私を!? ええっ!?」

ライン:「うん、うん。よかったなサンジェルマン。今日は帰ろう。一杯やろう。朝まで付き合うぞ」

フレデ:「(かぶせて)ふー。今日のお風呂は広いのねー」

マーガ:「あら、フレデリカだったの」

ライン:「なにい……!?」

サンジェ:「なんとフレデ……ぬうっ!? ラインハルトっ、前が見えません、手をどけて!」

ライン:「フレデリカのはダメだっ! そらっ、いくぞ親友!」

サンジェ:「おおんっ。独占欲ぅ~う!」





0:時は戻って。

マーガ:「サイテー」

フレデ:「サイテー」

マーガ:「ヘンタイ」

フレデ:「ヘンタイ」

マーガ:「スケベ」

フレデ:「スケベ」

サンジェ:「ぬおおお……どうして喋ってしまったのですかラインハルトォっ!」

ライン:「あははははは」

マーガ:「夜遅くにお風呂を沸かしてくれると思えば、そういうことだったの」

フレデ:「ラインハルト、あなたって人は……」

ライン:「ははははは。フレデリカのその顔が見れたから、俺は満足だ」

フレデ:「(ため息)――まったく。サンジェルマン、出して」

サンジェ:「だ、だし、だし……? なにをですッ?」

フレデ:「その胡散臭い懐中時計を出しなさい」

サンジェ:「へッ、あ、ぅ、そ、エッ……あのお~……?」

フレデ:「ぶち壊す」

サンジェ:「っ……! ら、ラインハルトぉ~……?」

ライン:「諦めろ」

サンジェ:「う、うううう……」

フレデ:「まったく、もう。――ふッ」

0:破壊される懐中時計。

サンジェ:「あぁ~~~~~ッ! おぉぉおおぉぉぉおぉお……!」

ライン:「はははははっ」

サンジェ:「らっ、ラインハルトおぉぉおお、どおぉぉおして喋ってしまったのですか~~~っ! うっ、裏切りですよおぉぉおお!?」

ライン:「はははは……すまんすまん。なんていうか、その、もう最後だからさ。けじめっていうか、清算っていうか――みんなで、隠し事はなしにしたかったんだ」

サンジェ:「うぅぅおぅぅ……だからって人の秘密をぉ~~~!」

マーガ:「そう。そういうことなら、次は私。私は――フレデリカの秘密を暴露する」

フレデリカ:「えっなんで私っ?」

マーガ:「教えてあげる。フレデリカのかわいいところ」

フレデリカ:「ちょ、ちょっと待って……!?」





0:時は遡って。
0:屋外。

マーガ:「重力魔法の累積? できるけど。どうして」

フレデ:「私の剣に重力魔法をかけてほしいの。素振りをする一回ごとに、重くなるように」

マーガ:「ああ。鍛錬ね」

フレデ:「そう。もっと強くならなきゃ」

マーガ:「どうして? もう十分強いと思うけど。こないだも、魔王軍の将校をひとりで相手した」

フレデ:「まだダメ。少なくとも、ラインハルトより弱いもの……」

マーガ:「……そ。まあいいけど。でもただ重くするだけじゃ無駄。だからもう一つ要素を加える」

フレデ:「要素?」

マーガ:「剣の道は精神の道、でしょ。ひと振りごとに、幻惑もかけてあげる」

フレデ:「いいわねっ。それなら一石二鳥だわ。じゃあ――さっそくお願い」

マーガ:「ん。――バリス」

フレデ:「ッ! いいわね……ズシッてきた。――ふっ!(振って) っ……!(重くなり) ――ふっ!(振って) っ……!(重くなる) ――ひと振りずつ、たしかに、少しだけっ、重くなってる……! いい感じ……! さっき言ってた幻惑ってのは?」

マーガ:「それは次から」

フレデ:「オーケー。(息を吸って)――ふっ!」

マーガ:「ラインハルトのどこが好きなの?」

フレデ:「へああッ!? なっ、なんっ!? なななっ――はああッ!?」

マーガ:「ダメじゃない。剣を落としちゃ」

フレデ:「まままマーガレットが変なこと聞くからでしょ!?」

マーガ:「別に。変じゃない。それで、どこが好きなの? ほら。剣を持って」

フレデ:「っ、そ、え、だって……ええ~?」

マーガ:「ほら。意識を乱したら、剣の重さは最初に戻る。素振りを続けて。答えて」

フレデ:「~~~っ」

マーガ:「どこが好きなの?」

フレデ:「――つ……強くて頼れるところォ……!」

マーガ:「微妙に陰があるところは?」

フレデ:「それも好きよォ、もおォっ!」

マーガ:「ベッドでも強くて頼れるの?」

フレデ:「へぁぁああっ!?」

マーガ:「甘く囁いてくれる? 抱き締められるとどう?」

フレデ:「ちょっと待って待ってマーガレット!? どうしてそんなこと訊くのっ!? 私っ、そういうのは……!」

マーガ:「集中力なさすぎ。これじゃ鍛錬にもならない。魔法、やめようか?」

フレデ:「っ、っ、っ……この、悪魔ぁ~~~! 覚えてなさいよぉ……!」

マーガ:「どうせ悪魔よ。ほら。答えて」

フレデ:「~~~ッ……べ……ベッドでもォッ!」

マーガ:「甘く囁いてくれる?」

フレデ:「さッ、囁いてくれる……ッ!」

マーガ:「抱き締められると?」

フレデ:「アっ、安心するわよおォ―――ッ!」

マーガ:「それじゃあ……もしラインハルトがいなくなったら?」

フレデ:「……ぇ?」

マーガ:「集中。ほら。重力、いまの二倍」

フレデ:「ッ!? くう……ッ! ラインハルトが――いなく、なったら……!」

マーガ:「なったら?」

フレデ:「ッ――! どこまでも追いかけて、追いかけてッ! ぜったいっ、見つけて、やるんだからああぁぁああ―――ッ!」

マーガ:「ふふ……。フレデリカあなた、かわいい」

フレデ:「っ、こ、の……! 人が重たいもの持ってると思って……! あとでっ、見てなさいッ、よ……!」

マーガ:「ふふ。がんばれがんばれ。それじゃあ最後にしてあげる。――もしラインハルトが死んだり、殺されたりしたら?」

フレデ:「え……」

マーガ:「あり得ない話じゃない、でしょ。この旅はそういうもの。さ、答えて」

フレデ:「ッ……。――許さないわ。私より先に死ぬのも(一振り)! ラインハルトを殺したやつも……(一振り)! ぜったいに許さない……ッ(一振り)! ――ぜったいにッ……(振り下ろす)! ――ッハア、ッハア、ッハア……!」

マーガ:「お疲れ様」

フレデ:「……ッハア、ッハア――っ。――ねえ、マーガレット……」

マーガ:「なに」

フレデ:「お願いだから、次はこんな質問やめてね。私はもう二度と、大事な人を失いたくないの。そのために、剣を手にしてるんだから」

マーガ:「……わかった。二度としない」

フレデ:「ありがと」

マーガ:「あ。最後にもうひとつ」

フレデ:「な、なによ」

マーガ:「ラインハルトと最初に寝たのは、いつ?」

フレデ:「(さえぎって)こーたーえーまーせーん―――ッ!」





0:時は戻って。

サンジェ:「ほっほお~~~~~? 普段は凛々しいフレデリカ殿もかわいいところがありますなあ~~~?」

マーガ:「当然。秘蔵のエピソードだから」

フレデ:「モウコロシテ……」

ライン:「安心しろフレデリカ。さっきのセリフ、俺はもう二、三十回くらい聞いてる。今さらだ」

サンジェ:「えっいつどこで?」

ライン:「そりゃあおまえ、ベッドでに決まってるだろう」

フレデ:「(さえぎって)ヤーヤーヤーヤーヤーッ! やめてやめてやめてやめてやめてよねもお―――ッ!」

ライン:「(笑う)」

フレデ:「どうしてラインハルトはこう、なんでも正直に言うのよっ。バカッ」

ライン:「正直は俺のモットーだからさ。いつも言ってるだろ。俺は人生でたったひとつしか嘘をついてないって」

フレデ:「~~~っ、またそれよね。その嘘がなにかも話してくれないくせに。あと、なんでも正直に言えばいいってもんじゃないのッ。覚えといて」

ライン:「ほいほい」

マーガ:「諦めたら? ラインハルトのこれは一生治らない」

フレデ:「マーガレットぉ~? 澄ましてくれちゃってぇ~。今度はアンタの番だからねぇ~?」

マーガ:「私?」

フレデ:「今のできっちり借りを思い出したから。アンタの恥ずかしい話もしてやるっ」

マーガ:「ふうん。おもしろい」

フレデ:「これはアンタとサンジェルマンが二人だったときの話。私、ばっちり見てたんだから」





0:時は遡り。
0:とある街中。

サンジェ:「……ラインハルトとフレデリカ、戻ってきませんねえ」

マーガ:「そうね」

サンジェ:「まあ、あの二人のことですから、なにかに巻き込まれても無事だとは思うんですが……」

マーガ:「そうね」

サンジェ:「というよりむしろ、私たちがいないのをよいことに、二人でデートに勤(いそ)しんじゃいないでしょうねえ」

マーガ:「そうね」

サンジェ:「……あのお?」

マーガ:「なに」

サンジェ:「さっきからそうねしか返してませんが……もしかして不機嫌だったりします?」

マーガ:「そう見える?」

サンジェ:「えー、と、あー、その……なんと言いますか。マーガレットは表情からはなんともわかりにくいと言いますか、そのー」

マーガ:「安心して。不機嫌じゃないわ」

サンジェ:「そっ、そうでしたかそれはよかった」

マーガ:「(かぶせて)昨日も私の入浴を覗いた生臭坊主を、どうしてやろうか考えていただけ」

サンジェ:「やっぱりご機嫌斜めじゃございませんかねえ!?」

マーガ:「そうでもない。試したことのない魔法の実験にちょうどいいから」

サンジェ:「あの、あの、あんまり痛いのはご勘弁願えますと……」

マーガ:「ふふ。お仕置きを受ける覚悟はできてるんだ」

サンジェ:「いやあ、そのお、それは曲解といいますかあ~」

マーガ:「私のお仕置きは嫌?」

サンジェ:「へ……? あの、ま、マーガレット……?」

マーガ:「このまま私たちがどこかへ消えても、二人は気づかない……。サンジェルマンの願望を、私が叶えてあげてもいい」

サンジェ:「願、望……(生唾を呑む)」

マーガ:「私の入浴を覗くのはなぜ? それとも、女体に見境がないだけ?」

サンジェ:「いえそんなことは……!」

マーガ:「いま人混みに紛(まぎ)れれば、その欲望が叶う――としたら?」

サンジェ:「わ、私は……私は僧侶でして……、そのようにみだらな……」

マーガ:「いまさら?」

サンジェ:「そそそれにっ、覗きは覗きだからよいのでしてっ、あの絶妙な距離感とスリルがまた、なんとも乙と申しますかなんというか……!」

マーガ:「私はまんざらでもない。あなたに覗かれるの」

サンジェ:「へぇええ……!?」

マーガ:「あなたはどうしたい? こんな誘惑、最初で最後かも」

サンジェ:「わ、わた、私は……!」

ライン:「(かぶせて)すまんすまん、遅くなった。ひったくりを追いかけてたらすばしっこくて……。フレデリカともはぐれちまってさ。とりあえず戻って――どうしたサンジェルマン。顔が赤いぞ」

サンジェ:「えあッ!? ……いえ私は……っ、ええっとまあ……アハハッ」

マーガ:「サンジェルマンは体調が悪い。先に宿に行く」

ライン:「そうなのか。なら俺が肩を貸して」

マーガ:「いい。昨日のお礼参りも兼ねてる」

ライン:「お、お礼参り……」

マーガ:「ラインハルトはここでフレデリカを待って」

ライン:「わ、わかった。サンジェルマン、強く生きろよ……!」

サンジェ:「ら、ラインハルト、わわわ私は、おおおお男を見せてきますよお!?」

ライン:「? お、おう……! 生きてたら一緒に飲もう、親友……!」

マーガ:「ほら。きりきり歩く」

サンジェ:「はいいぃい……!」





0:時は戻り。

ライン:「そのあとフレデリカがあちこち遠回りしてたの、そのせいか!」

フレデ:「そっ。ふたりっきりにするのに、気を遣ったんだから」

ライン:「なんだよ親友~! 教えてくれなかったじゃないか~!」

サンジェ:「へ、へへへへ……いやその、なんと申しますか……マーガレットに口止めされていまして。へへへへ……」

マーガ:「その笑い方、やめさない」

ライン:「おや~? 口止めとは聞き捨てならないなあ? マーガレット~」

フレデ:「そーよそーよ。ほーら白状しちゃいなさい。じっさいのところ、サンジェルマンとはどうなの?」

マーガ:「……フレデリカから、この手の話を切り出されるとは思わなかった」

フレデ:「こっちも恥ずかしい思いしたからね。肉を切らせて骨を断つのよっ。で、どうなの?」

マーガ:「……ふう。わかった。観念する。――サンジェルマンのこと、好きになってる。それとも、愛っていうのかしら、こういうの。私の根負け」

サンジェ:「がっつぽぉぉぉぉぉおおおお―――――っず!」

ライン:「ふおっふぉぉ~~~う! やったな親友~! おめでとーう!」

サンジェ:「ありがとうっ、ありがとう親友~! あっ、マーガレット! この旅を終えたら田舎に行って、二人で小さくても素敵な家を買いましょう! そこでふたりでゆったり暮らすのです! ねっ!」

マーガ:「できたらいいわね」

サンジェ:「ぃやったあああああ!」

フレデ:「(笑う)」

ライン:「(笑って)。――さーって。もう月がだいぶ傾いたし、思い出話もたくさんした。そろそろ寝るか」

サンジェ:「ちょちょちょ。ラインハルトの恥ずかしい話がまだですよ~! ひとりだけ逃げるのはよくありませんねえ!」

ライン:「俺はいいいんだよ。とっときの話を明日聞かせてやるつもりだから。それに、お互いいちばん語り合いたいやつは決まってる。サンジェルマンも、マーガレットも、……俺たちも。その時間を大事にしよう」

マーガ:「私は賛成。今晩は、大事な時間」

サンジェ:「……これが最後の夜、というつもりはありませんが――わかりました」

ライン:「それじゃあみんな。また明日」

0:それぞれ、口々に「また明日」と返して場転。





0:ラインハルト、フレデリカは一緒に寝ている。

フレデ:「――まだ寝ないの?」

ライン:「起きたのか」

フレデ:「寝たふりしてたの。あなたが寝てるの見たことないから。今日くらい、寝顔を見てやろうと思って」

ライン:「それは一生叶わないな。俺はだれにも寝顔を見せないんだ」

フレデ:「どうして?」

ライン:「明日が来てほしくないから」

フレデ:「なにそれ」

ライン:「(笑って)。――にしてもまさか、サンジェルマンとマーガレットが、なあ……。てっきりマーガレットのやつ、からかって終わりだと思ってた」

フレデ:「ああ見えて、お気に入りは独占したいタイプなのよ。前にサンジェルマンがやられそうになったとき、すごく怖い顔してたわ。『それは私の。おまえにやるくらいなら、私が殺す。手を出すな』って」

ライン:「こわやこわや。――まあ、恐さじゃどっかのだれかさんには敵わないけどな」

フレデ:「喧嘩売ってる?」

ライン:「だれよりおまえを知ってるって意味」

フレデ:「はいはい都合のいいこと。……――ねえ」

ライン:「なんだ」

フレデ:「田舎に行って、小さな家を買ってって、いいわね」

ライン:「……そうだな」

フレデ:「私たちも田舎に暮らす? 二人で畑とか作って」

ライン:「そうだな」

フレデ:「子供の服とかも、作れるようにならなきゃね」

ライン:「おまえならなんだってできるさ」

フレデ:「料理もできるようにならなきゃ」

ライン:「ああ……」

フレデ:「……ねえ。あなたの秘密って、なに? 私も知らないこと? もしかして、兄さんと関係ある……?」

ライン:「……」

フレデ:「それともまさか――魔王と、関係があるの……?」

ライン:「……」

フレデ:「正直をモットーにしてるあなたが、だって、こんなに話を濁すことは、ほかに思いつかないから。――ねえラインハルト。もしあなたが、魔王となにか因縁があって、それを隠してるなら私――。……ラインハルト?」

ライン:「(寝息)」

フレデ:「……寝顔、見せないんじゃなかったの? うそつき。(くちづけ)。――おやすみ、ラインハルト。明日も、その次も……。ずっとこの挨拶ができますように」





0:夜が明け、一行は魔王の城へ突入している。

サンジェ:「おかしいですね……。城に入ってからここまで、一度も魔物に遭遇しないなんて……」

フレデ:「罠かしら? 用心して。すべての魔物が、魔王と一緒にいるかもしれない」

マーガ:「それはない。本当に魔物がいないだけ」

サンジェ:「謎ですねぇ……もう最奥でしょうに」

ライン:「ああ。――もうこの扉の向こうが、魔王の玉座だ」

フレデ:「どうしてわかるの?」

ライン:「……俺は、ここを知っているからな」

フレデ:「それってどういう――? ……いいえ。行きましょ、魔王を倒しに」

ライン:「ああ。――全員覚悟はいいな。この扉を開けば、もう後戻りはなしだ」

0:おのおのが、「うなずき」の声。

ライン:「開けるぞ。――ふっ」

0:扉が開き、一行は中へ入る。

フレデ:「――だれも、なにもない……?」

サンジェ:「玉座はありますが、だれも座っていませんね……。まさか魔王は、我々の知らないうちに死んでいた……?」

フレデ:「そんなはずない……。私たちはここまで、魔王の軍や魔物と戦ってきたのに、魔王がいないなんてこと……! ――待って、ラインハルト。どうしたの……? どうして玉座に近づいて……」

ライン:「(かぶせて)魔王は、死んだわけじゃない」

フレデ:「――ねえ……嘘でしょ、やめて……」

ライン:「ただこの数百年――城を空けていただけさ。なにせ――俺がその、魔王なんだからな」

0:ラインハルトからすさまじい力が解き放たれ、フレデリカ、サンジェルマンを圧倒する。

フレデ:「―――ッ!?」

サンジェ:「―――ッ!?」

0:フレデリカ、サンジェルマンは一瞬呼吸ができなくなり、息を荒くする。※SEやエフェクトを用いない場合、二人のリアクションだけが魔王の存在感を表現する手段になるので、しっかりと。

フレデ:「っ――ライ、ンハルト……いきなりなにを言ってるの……?」

ライン:「いま、おまえが感じ取った通りだ。フレデリカ。俺がおまえたち人間の宿敵、魔王なんだ」

フレデ:「そんなだって……! ここまで一緒に旅をして……! あなただって何度も、魔王を倒す旅をしてきたって……!」

ライン:「ああ。ずっと、俺を倒せるやつを見つけるために、旅を繰り返して来たんだ」

フレデ:「なにを言って――!」

サンジェ:「フレデリカ、落ち着いてください……」

フレデ:「だって――!」

サンジェ:「ラインハルトがおかしなことを言うのは、今に始まったことじゃありませんが――どうやら、本気のようです。……こんな悪夢みたいなのが、『とっときの話』ですか、親友」

ライン:「おまえは、ほんとは気づいてたんだよな」

サンジェ:「――ええ。聖騎士でもないのに、あなたは穢れがなさすぎましたから。まるで、あらゆる穢れを強引に包み隠したみたいに……」

ライン:「そこまでしなきゃ、俺の魔力は隠せなかったからな」

サンジェ:「祝福なのか呪いなのかと、いつか事情を話してくれると思って、ずっと目を背けていた私も私ですから。そして――信じたく、ありませんが……あなたもなのですか、マーガレット」

マーガ:「ええ。勘がいいのね」

フレデ:「マーガレット、まで……?」

サンジェ:「先ほどの圧力に顔色をピクリとも変えませんでしたからね……。ほかならぬあなたのことだから、すんなりわかっちゃいましたよ。あーグルなんだってね……」

マーガ:「褒めてあげる。さすが私の男」

サンジェ:「それはどうも」

フレデ:「ね、ねえ……待ってよ……? 状況が、状況がわからないわ……」

マーガ:「動かないで」

フレデ:「(かまわずに)ラインハルトが魔王で、マーガレットがその仲間ってことは、二人とも魔族、なの……? どうして……? ここまで一緒に旅をしてきたのに? ねえ、わかるように――私にもわかるように話してよッ、ラインハルト……!」

ライン:「(深呼吸)…………俺が魔王だ。魔族を統べ、人間と対立している、諸悪の根源。今日、この城に魔物がいないのは、俺がすべて引き上げさせたからだ」

フレデ:「(食い気味に)そんなこと聞いてるんじゃないッ! ねえっ、今までの旅は!? あなたが旅をしてきたのは!? 私たちの――私のことっ、騙してたの!? そうやって――そうやって兄さんも、あなたが殺したの!? ねえッ!?」

ライン:「――アンドリューを殺したのは、俺だ」

フレデ:「!!」

ライン:「だから俺を殺せ、フレデリカ……!」

フレデ:「ッ!? ――どういう、ことよ……」

サンジェ:「ラインハルト。あなたからは、これまでの魔族のように殺意が感じられない。――話を、聞かせてくれませんか? なにより、――フレデリカには、聞く権利がある」

フレデ:「そ――そうよ。もし、あなたがなにか、魔王に操られていたりするなら、一緒に解決策を――」

ライン:「いいや。正真正銘、俺が魔王そのものだ。数百年前から、変わらずな」

フレデ:「っ……」

ライン:「じゃあ、どこから話そうか……俺はもう、ずっと人間と魔族の争いを見てきたが――とっくに疲れたんだ。そう思ったのも、もう二百年くらい前のことだな。俺はそのときから、魔王を倒すための旅を始めた。そう、俺を殺すに相応しいやつを探す旅だ」

フレデ:「……あなたを、殺すやつ……?」

ライン:「最初は、強いやつを探していた。ただまあ、なかなかいなくてな。聖剣を持ってきたやつもいたが、担い手がダメだった」

フレデ:「……それから、どうしたの」

ライン:「強さを基準にするのはやめた。それに、俺も大事なことに気づいたんだ。俺を倒した人間は英雄になり、魔王が倒れれば、魔族の地位は地に落ちる。なら、魔族を失墜させる英雄にたる人物に、この世界を任せたかった。ところが――これがなかなか見つからない。英雄という賛辞に溺れず、魔族への憎悪に染まらず、政治の道具にならず、人間を導けるやつが。――アンドリューはそんな俺にやっと訪れた、希望だった」

フレデ:「――なら、どうして兄さんを殺したの……」

ライン:「――俺はあいつに、今と同じように正体を告げた。殺してくれと頼んだ。だが、あいつはほんとにバカがつくほどにいいやつでな。『友を殺すくらいなら、俺が死ぬ。それで友の命を奪わずにすむのなら、俺はそうする』――そう言ってあいつは自害した。止められなかった。
   : ……あいつは俺を殺さないために死んだ。俺があいつと旅さえしなければ、あいつは俺を殺せていたのに。なら、俺が殺したようなもんだ」

フレデ:「……」

ライン:「おまえがアンドリューの妹だと知った時は驚いた。そこで初めて思い立ったんだ。まずは俺から、人間を愛してみようってな」

フレデ:「っ、うそ……」

ライン:「友情ではなく愛情が芽生えれば、俺の願いを聞いてくれるんじゃないか……」

フレデ:「やめて……っ」

ライン:「愛する者の願いなら、叶えてくれるんじゃないかと」

フレデ:「あ……ぁあ……いや……」

ライン:「最初は、真心じゃなかったかもしれない……でも俺は、おまえを愛した。今では、本当に愛している。俺はそう思っている。そしておまえも、俺に応えてくれた。そうだろ?」

フレデ:「あ、ぁああ、ぁ……」

ライン:「もし、おまえが本当に俺を愛してくれたなら、俺を殺してくれ、フレデリカ。そのために俺は、ここまで旅を続けてきたんだ」

フレデ:「ぁ――あ、あぁ、ぁぁぁああああああ……!」

サンジェ:「……――ラインハルト」

マーガ:「動かないで」

ライン:「いい、マーガレット。俺たちの仲だ。それに、サンジェルマンに俺は殺せない」

サンジェ:「はは……友を殺せるものか、と私もかっこよく決めたいですが……先ほどの気迫だけで、力の差は歴然ですからね……。だから、野暮と知りつつ質問――いや、糾弾しますよ、ラインハルト」

ライン:「ああ。なんでも来いよ、親友。まさか、和平の道を説くんじゃないよな」

サンジェ:「千年近く生きてる魔王に、そんな哲学無駄でしょうよ。どうせ、人間か魔族どちらかが滅びない限り、種族としての争いが続くのは、旅のさなかに見てきたことですし……」

ライン:「そうだな」

サンジェ:「私が言いたいのは、そんな世界や他人のことではなく、もっと身近の――このフレデリカを見て、なんとも思わないのですかということです」

フレデ:「(すすり泣き)」

ライン:「……すまないと、思ってる……」

サンジェ:「すまない? すまないで済みますか、このおたんちんがッ!」

ライン:「……」

サンジェ:「あなたがどんな秘密を抱えてようが、あなたはフレデリカを裏切らないと信じていたんですよ! それが蓋を開けたらなんです! これじゃあ、フレデリカを都合のいい道具に仕立てたようなもんでしょう!」

ライン:「そうだな……」

サンジェ:「愛してると言うのなら、フレデリカにかけてやるべき言葉は、もっとほかにあるでしょうよ!? 俺は疲れたから殺してくれ!? それが愛する女に言う言葉ですか!?」

ライン:「……そうだな」

サンジェ:「ッ――。そうだなじゃ……(近寄る)――ないんだよこの大馬鹿野郎ッ!」

ライン:「ぐッ……!」

サンジェ:「おいっ! その腑抜けた面で、おまえの親友を見ろ! 見てみろ! 俺がこんなに怒った顔を、見たことがあるか!? アァっ!?」

ライン:「……ないな」

サンジェ:「だったらあれはどうなんだ! フレデリカがあんなに泣いてるのを、見たことがあるか!?」

フレデ:「(すすり泣き)」

ライン:「――ないな」

サンジェ:「ないなじゃ、ないだろうがよッ!」

ライン:「――づッ! くっ、――この……っ!」

サンジェ:「ぐあッ……!?」

ライン:「わかってんだよ、俺だって! 見よう見真似だったが、魔族の俺にだって愛がなんなのか、もうわかってる! 今の俺が、それを利用したクズだってこともなァ!」

サンジェ:「……っ、そう、かよ……。――ペッ。だったら――」

マーガ:「止まって。それ以上は見過ごせない」

サンジェ:「なんですマーガレット。どうせ私じゃ、ラインハルトは殺せやしませんよ。もう二、三発ぶん殴らにゃ気が済みません……」

マーガ:「逆。魔王様と殴り合ってたら、その二、三回であなたが死ぬ。あなたを殺すのは私。たとえ魔王様でも、譲る気はない」

サンジェ:「それは、ありがたいお言葉で……。ところで、魔王が死んだらあなたはどうなるんです? 魔王軍や魔族のしがらみからは解放ですか」

マーガ:「いいえ死ぬわ。魔王に近しい魔族は、魔力の繋がりが強いから。側近ともなれば、その死に引っ張られる」

サンジェ:「ははは。ほんと……面倒ごとばっかり起こしてくれますよ、あの親友は……。これ以上、私が口を挟めることではなさそうだ……。それじゃあ、この場の最後に、ひとつだけ」

マーガ:「なに」

サンジェ:「愛しています。たとえあなたが、魔族であっても。マーガレットはマーガレットですから」

マーガ:「ええ。私も。――誇って。あなたは、その気もなかった魔族に、愛を自覚させたのだから」

サンジェ:「ああそれは、――最高の言葉ですね」

マーガ:「――さ。フレデリカ、そろそろ立って」

フレデ:「……」

マーガ:「立ちなさい。この場はあなたにかかってる」

フレデ:「……」

マーガ:「前を見て。さあ。あなたは魔王様――ラインハルトを殺すの? 殺さないの?」

フレデ:「……嫌な予感は、してたの……。でも、考えないようにしてた……どうして、こんな――。なんで……」

マーガ:「疑問とわがままの時間はもう過ぎた。あなたの愛してる男が、この数百年死を望んだ男が、あなたを待ってる。殺すの、殺さないの?」

フレデ:「そんなのッ……殺したくないに、決まってる――!」

マーガ:「じゃあこれ以上は無駄ね。あなた達を殺して、次の人間を探すだけ」

ライン:「待て、マーガレット。……なあフレデリカ、いまさらなにを言っても、全部言い訳にしか聞こえないだろう。だが、それでも頼む、俺を――」

フレデ:「嫌……」

ライン:「フレデリカ」

フレデ:「嫌だって言ってるでしょッ! 嫌ッ、嫌なのッ……! どうしてっ……せっかく、私たち、ここまで来たのに……! 兄さんがいなくなって、あなたに逢えて……! 私は、あなたのことほんとに……! なのになんで……なんでなのよ……!」

ライン:「フレデリカ……」

フレデ:「いや……来ないでッ! 来ないでよ……! や……来ない、で……。(抱き締められる)――あぁ、……あぁぁぁ……ッ」

ライン:「――すまん……」

フレデ:「(嗚咽)――あやま、らないで……」

ライン:「……すまん」

フレデ:「あなたは……私のこと、愛してないの……?」

ライン:「愛してる。心から。本当だ……」

フレデ:「ならどうして、あなたを殺させようとするの……私に、――私に今度は、自分の手で、大事な人を殺せって言うの……!?」

ライン:「……」

フレデ:「ねえラインハルト――お願い。魔王とか、魔族とか、そういうの全部捨てて、逃げよう? 旅の間、あなたのこと、魔王だなんてだれも気付かなかった……。それでいいじゃない。私と一緒に逃げてよ……」

ライン:「フレデリカ、それができていたら俺は……」

フレデ:「できるわ。いまからだって。ほかのだれでもない、私がそばにいる。私が、あなたの味方でいるから……」

ライン:「だが、おまえがいてくれるのはほんの数十年しか――おまえがいなくなったあと、俺はまた……」

フレデ:「ラインハルト。お願い……」

ライン:「…………っ、俺は――、俺は……ッ」

0:間。
0:静寂。
0:フレデリカは、ラインハルトから離れる。

フレデ:「……――わかったわ……」

ライン:「フレデリカ……?」

フレデ:「あなたがその気なら、――私は、私の愛を証明するだけ……」

ライン:「なにを……」

フレデ:「(剣を構えて)――選んで、ラインハルト。あなたがもう一度、あなたを殺せと言ったら、私はそうする。でも、あなたが私と一緒に来てくれるなら、私も、私の人生をあなたにあげる……」

ライン:「俺が、選ぶのか――。そんなの、俺の答えなんか決まって……!」

フレデ:「わからないわ。――まだ、わからない。私は、あなたを愛してる。だから、あなたの言うとおりにする。……あとはあなたの気持ち次第。――あなたが、選んで」

ライン:「…………俺は――」

0:ラインハルト、AかBのセリフ、どちらかを選ぶ。

ライン:A「俺は――おまえに殺してほしい。――俺の最後は、おまえがいい」

ライン:B「俺は――おまえと一緒に行こう。――俺の最後は、おまえがいい」

0:フレデリカ、ラインハルトへ。

フレデ:「――っ、ぅぁぁあああぁぁぁああぁああ……!」

ライン:「――!」

0:二人のシルエットがひとつになる。

フレデ:「ラインハルト……愛してる。心から。あなたが、何者であっても……」

ライン:「ああ――俺もだ。愛してる。そして、愛してくれてありがとう、フレデリカ」

0:『』はモノローグ。
0:Aのセリフを選んだ場合はAを。Bのセリフを選んだ場合はBを。

ライン:A『いつかどこかに伝わる話。これは、愛を知って消え去った、人に愛された魔王の物語……』

ライン:B『いつかどこかに伝わる話。これは、愛を知って消え去った、人を愛した魔王の物語……』




~ 了 ~

灰の都

灰の都

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-12-10

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