中学生が校長をやっつけた件
中学生だから、学校帰りにはもう空腹になる。下校時の買い食いは多めに見てもらいたい。
だが、先生たちはそうは思わない。
「駅の立ち食いそばなど、わが校のレディとしてふさわしくない」
ホームでは顔をそむけ、そば屋を視野に入れないよう努力はできる。
だが鼻腔をくすぐるあの匂いは、どうあっても遮断できない。それとも先生たちは「ホームでは息を止めて窒息死しろ」とおっしゃるか?
生徒にだって生存権がある。
そして自然な流れで、そばの誘惑に負けるのだ。
するとどこからか、先生がスッと現れる。柱の影に待機しているのだ。
驚きのあまりそばがノドに引っかかり、私は目を白黒させるが、先生は私の手に校則違反キップを押し付け、風のように去ってゆく。
これを受け取ると、翌朝必ず校長室へ出頭しなくてはならない。校長先生にはすでに連絡が届き、てぐすね引いて待っている。
こういうことが何回か続くと、いいかげん私も策を練る気になった。
賛同者はすぐに集まった。
秘密の会合が持たれ、計画が練られ、ついに実行の日を迎えたのだ。
その日、駅は朝から異様な雰囲気だった。
ホームにいる乗客はほとんどが我が校の生徒だが、その全員が鼻の穴にチリ紙を詰め、口を開けて「スーハースーハー」と息をしているのだ。
さっそく先生が見とがめた。
「あなたたち、みっともないから止めなさい。何をしているの?」
「あら先生、みっともないとは心外です。私たちはただ、そばの匂いをかぐまい、としているだけです。校則を破らないためのけなげな努力を、先生は評価しないんですか?」
ホームで毎日、私たちは同じ光景を繰り返した。町の噂にならないはずがない。
3日目には、ついに新聞記者が姿を見せた。
新聞社にチクったのは私だが、肩につけられた新聞社の腕章に気づいたときの先生たちときたら、卒倒しそうであった。
「ああ……」と倒れかける先生を、別の先生がとっさに支えて事なきを得たが、不心得な生徒がその光景にプッと吹き出し、鼻に詰めていたチリ紙を紙鉄砲のように飛ばしたのには、全員が死ぬほど笑った。
連鎖反応は恐ろしい。
笑いの渦に巻き込まれ、結局全員が鼻からチリ紙を飛ばしたのだ。
折からの風に乗って空中を舞い、その無数の白点はまるで『木枯らしと共に秋の終わりを告げるボタン雪』のようであった。
新聞記者がすかさずシャッターを切り、写真は翌日の紙面を飾った。
『最寄り駅ホームに限り、下校時の買い食いを例外的に認める』
と校長がお達しを出したのは、その日の午後のことであった。
中学生が校長をやっつけた件