スフィンクスを論破してみたら、意外と従順だったでござる


 深夜の一人ぼっちの塾帰り、ひとけのない暗がりから突然スフィンクスが飛び出してきて、僕はとても驚いた。
 走って逃げようとしたがスフィンクスはすばやく、簡単に追いつかれてしまった。
 そして伝説の通り、スフィンクスは口を開いたのだ。
「今からお前にクイズを出す。正解できなければ、お前を食い殺すぞ」
 もちろん僕は言い返した。
「正解したら何をくれるんだい?」
 スフィンクスは目を丸くした。
「いやつまり、クイズに正解したら、お前は殺さない。お前は命が助かるのだ」
「そんなのフェアじゃないよ。正解できたら、あんたも何かするんだ」
「なんだって?」
 スフィンクスはあきれた顔をしたが、それでも最後には首を縦に振った。
「まあよい。これまで2000年間、誰も正解したことのないクイズだ。そんなことがあるはずもないが、もしも正解すれば、私はお前の家来になろう」
「ほいきた」
「これがそのクイズだ。朝は4本足。昼は2本足。夜は3本足なのは何か?」
「うーん……」
 数秒間、思考した後、僕は答えた。
「僕の家には『チャブ台』があってね。チャブ台って知ってる?」
「知っている。片付ける時に邪魔にならないよう、4本の足が折りたたみ式になっている小さなテーブルのことだな」
「そうそう。両親はどちらも朝早く出勤するし、お姉ちゃんも朝が早いから、朝食は僕一人でゆっくり食べる。狭い部屋だけど、僕一人だけなら、チャブ台の足を4本とも伸ばしてゆったり使える」
「それがどうした?」
「土曜日、僕とお姉ちゃんは昼前に学校から帰るけど、仕事の関係で、お父さんとお母さんも土曜日には家で昼食を食べるんだ」
「それで?」
「だから部屋の中はものすごく狭くて、チャブ台の足は2本しか伸ばせない。残りの2本は折りたたんだまま、押入れの中に半分入れて、なんとか場所を確保するんだ」
「なんだと?」
「夜になると、お父さんはまた仕事に出かける。だから家の中は少し広く、夕食はチャブ台の足を3本伸ばすことができる……。つまりクイズの答えは、『僕の家の土曜日のチャブ台』だよ。はい論破」
「おおお……」
 突然大きな声を出してスフィンクスが泣き始めるので、僕は驚いた。
 大粒の涙を流し、くやしがっている。ハンカチを出し、僕は涙をふいてやった。
「ありがとう。私が負けたのだから、あなたの家来になりましょう」
 顔を上げて見つめるスフィンクスの表情は本当に愛らしく、僕は少しの間、見とれた。
「お母ちゃん、スフィンクス拾ろたで」
 と僕が帰宅すると、
「また変なものを持って帰って。食費がかかるものはダメよ」
 と母はオカンムリになりかけたが、神獣は食事をしないと分かって一件落着した。
 仕事から帰ってきた父もスフィンクスを見て、
「わあ、これは美人さんだ」
 と鼻の下を長くしかけたが、母からジロリとにらまれて、あわててよそ見をした。
 小さなアパートの一室だけれど、その日以来『スフィンクスを飼っている家』ということで、近所でも有名になってしまった。

スフィンクスを論破してみたら、意外と従順だったでござる

スフィンクスを論破してみたら、意外と従順だったでござる

はい論破!

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-12-08

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