超能力者がいるかもしれない
長時間、庭を徘徊したのち、部屋に戻ると甘い匂いがした。多彩な色の洪水がうねる。女は下着で徘徊していたし、もうひとりの男はエアガンに没頭していた。わたしはゆっくりとビニール製の虹色ソファに倒れ込む。視線の先にテーブルに小さな薬品シートがあった。何か分かる、昼間から使用しているのだと思った。きっかけは学校の友達が「面白いから」と言った。誰かの自宅で、そこはもう今は使っていないらしく、平日でもいつも10人くらいはいると説明した。行かないか?それが昨日の事だ。午前中にこの家へ2人で向かった。場所はごく普通の住宅街の中にあった。敷地にはカンナや夏草がびっしりと茂っていて、むっとする程の緑の匂いがした。洋館っぽい建物の中に入ると、既に何人かいて、興味のない表情でこちらを見る。なのに執拗に彼等は自分達の事を聞いてきた。返答次第で相手の態度が変わる。首にタグを付けられ、なんとなく値踏みされている感じがした。室内からは荒れた庭が一見できた。さっきの男が怠惰に壁に向けてエアガンを連射していた。円を描き、天井のプロペラは空気を循環させている。漂う甘い匂いの原因は分からない。食卓にある果実か、もっと別の物を気化させているのかもしれない、どこかにきっとあるはずだ。テーブルの上を何気なく眺め、わたしは奇妙な物体に気が付いた。金属片だ。異質な塊が視界に入る。スプーンだった。奇形という言葉が浮かんだ。スプーンだけでは無い、あらゆる金属片が正常な形成を失っていた。狂った配列、捩じ曲げられた食器たち、異質な力によるキチガイじみたフォルム。
超能力者がいるかもしれない