zoku勇者 ドラクエⅨ編 19
今回からカラコタ編に入ります。アルベルトメインの話です。
オリキャラ・オリジナルエピでお送り致します。暫くの間
お楽しみ下さい。
カラコタ編1
あれから数日が過ぎた。4人はここ数日オリガの家に世話になっている。
村人達は皆もうオリガの力は無くなり、浜に主が現れないと言う事を、
理解してくれた。そして以前の様に主の力に頼らず、自分達の力で仕事をし、
汗を流して働く生活へと誰しもが送る当たり前の毎日を取り戻していた。
ある村人は、ジャミルにこう言ってくれた。
「この村も完全に元に戻るにはまだ時間が掛かるかも知れねえ、けど、
俺達は昔から海と共に生きてきたんだ、心配要らねえさ、なあ……」
「……う~ん、う~ん、……主様……ど、どうかお許しを……」
傲慢村長はショックの為か、寝込んでしまったのである。息子のトトは
パパはバチが当たったんだよ、オリガを虐めたから……、しょうがないよと
言葉を漏らしていた。
「よし、今日も浜は晴天なり、良い事であるぞよ!」
「な~にかっこつけてんのさ、ジャミルってば!プ……」
「モン!」
「うるせーなっ!バカダウドっ!あ、モンまでっ!俺に内緒で
何食ってやがる!」
「これ?おばちゃんに貰ったの、鮎の串焼き、取れたての焼きたてだよお!」
「モン、だよお!」
……最近は、モンまでたまにダウド口調を真似する様になり、その都度
モンちゃん止めなさいとアイシャに注意をされているのだが。
「たくっ!そういや朝起きたらアイシャの奴、もういなかったな、
……相変わらず落ち着きがねえなあ、あいつも……」
「浜にいたみたいだよお、オリガと一緒に網を片付けるのお手伝い
してたみたい、行ってみれば?じゃあ、オイラ達もう少しお散歩
してきま~す!」
「モンモン~!食べ終わったらこの串でまたダウドの頭ちんぽこぽこ
叩くんだモン!」
「モン……、それはしなくていいから……」
「そうか、オリガ……、頑張ってるんだなあ……」
父親との本当の別れから数日。オリガは自ら村のおばちゃん達に頼み、
網漁業を教えて貰おうと現在は懸命に仕事を熟そうと頑張っている。
まだ見習いらしく、網を収納するだけの仕事だがそれでも働くオリガは
活き活きとしていた。
「ね、ジャミ公!そろそろこの村ともお別れして出発しなきゃ
なんネでしょ?……次の果実も探さなきゃネ!アタシも人捜し
終わんないし!」
「ああ、それは俺も考えてんだよ、ってか、ジャミ公言うなっ!」
「お~い、旅人さ~ん!」
「おう、トト!」
ジャミルの姿を見つけ、ちょこちょこ走って来たおかっぱ頭の少年トト。
初めて会った時よりも、この数日でトトは見違える様に逞しくなっていた
様にジャミルには見えた。
「えへへ!お早うー!でも、旅人さん達って本当に凄いんだねえ!僕も
もっともっと強くならなきゃ!僕、頑張って大人になる!そして旅人さん
みたいになるんだ!オリガの事、守るんだ!絶対にもう一人ぼっちになんか
させないよ!オリガは女の子だもん、心細い時だってあるよ!だから……」
「トト……」
トトはジャミルの目を見つめて真剣に言う。でも、ジャミルはこれだけは
トトに伝えたかった。幼い日の時間はあっという間に過ぎ去る。だから、
無理をせず、自由に伸び伸び過ごして欲しいと言う事。……誰しも嫌でも
いつかは大人になってしまうのだから。
「でも、オリガも言ってたろ?お前はお前らしくでいいんだって、
な……?それを忘れないでいて欲しいんだよ……」
「……うん、旅人さん、ありがとう!ジャミルお兄ちゃん!」
「よしよし、それでいい!さ、オリガの仕事が終わるまで遊んで来い、
ほれ行ってきな!」
「はーい!あ、あのね、そろそろこの村も船を出すのを再開する
みたいだよ、この村から東の大陸付近まで船を出すみたいなんだ、
浜で聞いてみたらどうかな?」
「東の大陸か……、新しい場所みたいだな……」
トトは村の同じ歳の子供を見つけると肩を並べ一緒に走って行く。
ジャミルは暫くの間、その光景をずっと見守りながら見つめていた。
「ジャミル、それ、いいいいっ!ね、新しい場所だヨ!早く船借りよう!」
再びサンディがしゃしゃり出て来る。ジャミルは分かったよとサンディに
返事をしておく。
「取りあえず奴らとも相談しとかねえと、まずはアルか……」
ジャミルはオリガの家に戻る。今日はアルベルトはオリガの家の掃除を
している傍ら、合間に本を読んで寛いでいる……。
「よう、アル……」
「あ、ジャミルか……、もううるさいのが戻って来たね……、
はあ……、今凄く最高潮で面白い処なんだけどなあ……」
「んだよっ!本ばっか読んでるとその内頭からコケがニョキニョキ
生えるぞっ!このアホベルトっ!!オメー戦士だろっ、たまには
運動しろっ!!」
「……生えないよっ!バカジャミルっ!全くっ!」
アルベルトはぶつくさ言いながら読んでいた文学本にしおりを挟むと
一旦閉じる。……こうなるのが分かっているからアルベルトにとって
ジャミ公は本を読むのを妨害してくる雅に本に生えるカビの様な男だった……。
「で、何……?」
「うん、今後の事だよ、トトが言ってたんだけど、この村でもそろそろ
漁業が本格的に再開するだろ?まだ俺らが行った事の無い大陸まで船を
出すみたいだし、一緒に世話になって今日辺りそろそろ出発しねえ?」
「そうだね、そろそろその辺も考えなくちゃなんだね、……暫く寛ぎすぎて
すっかり頭から離れていたよ……」
「俺、アイシャの処まで行ってくるわ、オリガの仕事の手伝いに行った
みたいだし、オリガの仕事っぷりも見学したいしな!」
「うん、行ってらっしゃい……」
再びのそのそと外に出掛けて行くジャミルを見送りながら、アルベルトも
再び本に手を付けるのだった。
「えーと、アイシャ、アイシャ……、と、いた……、いいいいっ!?」
「ア、 アイシャさん、大丈夫ですか!?」
「……キャーいやーっ!何なのようーーっ!もうーー!!あ~ん誰か
助けてーーっ!!」
浜に行ってみると、ジャミルは凄まじい光景を目の辺りにする。
網収納を手伝うつもりが、恐らくドジを踏んだのか、逆にアイシャ
本人が網に絡まってキャーキャー暴れて困っていた。それこそまるで
捕まった魚の様に……。浜は爆笑の渦に包まれていた。
「嬢ちゃん大丈夫かあ!?無理すんなよ、ほれほれ!今網外してやるから!」
「ふえぇ~、何でこうなるのようーっ!!もうーっ!!信じらんなーいっ!!」
「プ……、ぎゃははははっ!!」
「あ、ジャミルっ!こんな時にっ!何で来るのようーっ!バカバカ
バカーーっ!!」
「いや、その……、話があってだな、来てみたんだけど……、すげーもん
見れたな……、スクープだ……」
「何がよっ!」
「こらこら、暴れるんじゃないよ、もう少しで網が外れるからな……」
「ごめんなさ~い、お手伝いのつもりが……、ご迷惑お掛けしまして……、
ぐす……、恥ずかしいよう……」
「ははは、いいんだよ、ほらほら!じっとしてな……」
網に絡まってきゃあきゃあ暴れるアイシャの姿は何だかマグロの様に
ジャミルには見えてしまったのである。……それを言うと後で殴られる
ので黙っていた。今は取りあえずまたオリガの家に戻ることにした。
のだが。
「……旅人さん、……あの、ジャミルさん……」
「オリガ?どうかしたかい?」
戻ろうとしたジャミルをオリガが走って来て呼び止めた。何か話が
ある様である。
「はい……、本当に有り難うございました、主様をもう呼べないって事、
村の皆にも分かって貰えたし、お父さんが主様だったなんて……、この目で
見た事なのに、何だか今でも夢を見ていた様な気がするんです……」
「オリガ……」
「でも、あの時本当は……、主様でもいいから、一緒にいられるのなら
本音はお父さんともっと一緒にいたかった、……そう考えてしまったの、
でも、いけない事ですよね……、あんなの良くない、お父さんが可哀想
だもの……、あたし、これからお仕事頑張ります、今はまだ見習いだけど、
少しづつ、少しづつ……、コツコツと……、お父さんもお母さんも見守って
いてくれる、それに私にはトトが付いていてくれる、……ジャミルさん、
あたし、本当に頑張りますよ!」
「オリガ、そうだな!お前ならきっとやれるよ!頑張れよ!」
「はい!」
トトの名前を口に出したオリガの顔は赤らんでおり、本当に嬉しそうだった。
だが、これからこの子らが成長し、そして何れは夫婦となり、家族となるで
あろう幸せな未来にあの傲慢糞親父は一体どんな顔をするんだろうかと
想像して吹いた。
「それでな、急で悪いんだけど、俺らも今日、そろそろ出発しようと
思うんだ……」
「ジャミルさん……、ええ、分かっています、皆さんは旅する旅人さん
なんだもの、いつまでも一緒にはいられない事、でも、またきっと……、
いつかこの村に遊びに来て下さいね、皆で歓迎します!」
「ああ、またな!」
オリガとジャミルは硬く約束の握手を交わす。最初はどうしようもない
糞村に思えたこの村もいつの間にか……、何時しか離れがたい大切な
場所に変わっていた。そして、出航の時が訪れ、ジャミル達4人は、
オリガやトト、村の皆に見送られながら船に乗り、村を後にするのだった。
「はー、それにしても、こうして人間の船に乗せて貰える日が来るとわね~、
さあっ、次は新大陸だよっ!とっとと果実もこの調子で回収しちゃおー!
アタシも早くテンチョー見つけなきゃ!」
「なあ、ガングロ、聞きたかったんだけど、その、テンチョーってのが
お前の尋ね人……」
「ジャミル、そろそろ船が着くよ、準備しないと……」
と、サンディに聞く前にアルベルトがやって来る。……まあ、旅の間に
又いつでも聞けるかと今回は諦めた。やがてツォの浜辺から4人を
送ってくれた漁船は船着き場へと着く。いよいよ新しい土地、東の大陸での
冒険の幕開けだった。
「さあ、着いたぜ、ここからが東の大陸だ、この船で送ってやれるのは
此処までだ、これから先、世界を回りたいのなら船が必要だ、まずは
自分達の船を手に入れる事だ、何でも花のサンマロウって町には立派な
船があるらしいな、取りあえず尋ねてみな」
「色々有り難うな、おっさん!」
「此処まで大変お世話になりました!」
「む、村の皆にも宜しくね……」
「おじさんもどうかお気を付けて、本当に有り難う!私達も頑張ります!」
「モンモン、ばいばい!」
「お前らも達者でな!浜にも又来いよ!」
おじさんはジャミル達に手を振ると、再び船を出航させた。皆は船が
見えなくなるまでの間、ずっと見送っていたのだった。
「さてと、此処から……、まずはサンマロウって町を探すか、……場所が
分かんねえ……」
「とにかく歩き出そうよ、立ち止まっていても仕方ないからね……」
「モン、そろそろお腹空いたモン!モギャー!」
「うわ、また始まった……」
アルベルトの言葉に頷き、ジャミルを先頭に先へと進み出す一行。モンはまた
ダウドの背中に張り付く。暫く立つと、頭の方に移動し、また棒か何やらを
バチに、頭を太鼓代わりに、ぽこぽこ演奏して遊び出すのである。
「あ、橋よ!」
「渡ってる途中で崩れないかなあ……」
「……ダウド……、また君はどうしてそう悲観的な……」
「思考になっちゃうんですっ!」
ダウドは無視してジャミルはどんどん橋の方へ一人向かって歩いて行く。
慌ててジャミルの後を追い、走り出す3人。……橋の側には何やら全裸の
おっさんがおり、ガクブル震えていた。
「こんちわ……、ど、どうしたんだい?」
「ああ、あんたら見慣れない顔だな、旅人だな?だったらこの下の
集落には近寄らない方がいい……、俺みたいな目に遭うぞ……、
身ぐるみ全部剥がされちまうぞ!」
「集落?」
ジャミルは橋から身を乗り出し下を覗き込んだ。確かに周囲を河川に
囲まれた場所に小さな家がごちゃごちゃ密集している。身ぐるみを
剥がされたと言うおじさんの言動から察するに、……どうやら余り
感じの良くない場所に見受けられた……。
「はーやだやだ、ひっくし!」
おじさんはくしゃみをしながらそのまま橋の向こうへ行ってしまった。
「ね、ねえ……、早く行こう……、サンマロウに行くんだろ?船を手配して
貰わないと……」
「ん?」
ジャミルを急かしたのは珍しくアルベルトであった。眉間に皺が寄っており、
何だかあまり機嫌が良くない感じである。……異様に下の集落に行くのを
拒んでいる様子。
「でも、アタシら此処の土地に関しては何も分かんないんだもん、
情報収集ってダイジじゃネ?ね、折角だし下の場所まで行って
みよーヨ!」
「サンディ、余計な事言わなくていいから!早く!」
……と、又もアルベルトが慌てだした。その時。
「いない……、この町にも……、まさか!」
「あんた……」
「ジャミル、又あの変な女だよっ!」
峠の道で会った、ローブを羽織ったあの謎の女が突然現れ、橋をスーッと
通過して行く。女は歩行の途中で足を止めると、ジャミルに近づき、顔を
じっと見つめ始めた……。
「違う、違うわ……、どうかしてる……、旅人を天使と間違えるなんて……」
「あ、おいっ!待てよっ!!」
しかし、ジャミルが呼び止めるも謎の女は又も急に姿を消すのだった。
サンディも首を傾げている。
「何なんだろうね、アイツ、どっかで会わなかったっけ?ま、いいや、
さ、果実探しにレッツゴーっ!」
「はあー、ですね……」
「ねえ、ジャミル、急に大声上げたりして、誰と話してたの?」
「ま、また幽霊っ!?」
「いや、俺の勘違いだよ、誰もいねえよ、それよりも……」
「うそうそうそっ!絶対何か見えてたわよ!」
「教えてよおーっ!」
ジャミルは何とか誤魔化すが、アイシャとダウドは納得していない。
「あのさ……、君達、早く行こうよ、そんな事どうでもいいだろ、
……早くっ!!」
遂にアルベルトが大声を上げる。アルベルトの豹変にアイシャとダウドも
きょとん。……目を丸くする……。
「あ、ご、ごめん……、でも……」
「何だよ、オメー今日はおかしいなあ!どっちみち、俺らこの土地に
関しては素人なんだよ!それにもう日も暮れる、……このまま闇雲に
進んでもどうにもならねえだろが!サンディの言う通りだよ、取りあえず
町みてーだし、今日は下まで行くぞっ!!」
「だ、だからっ!……あんな処に行くくらいなら……、野宿の方が
マシだっ!!」
「はあー!?こ、このっ、アホベルトっ!テメエ、いい加減にしろ!!」
「いい加減にするのはジャミルの方だろっ!いつもいつもっ!!」
「わわわ!ケンカ駄目だよおーー!!」
「そうよ、どうしたのよ、アルっ!落ち着いてっ!!」
遂に衝突しだしたジャミルとアルベルト。このチームはこんな沙汰に
なるのはしょっちゅうだったが、今日はまた、厄介で深刻な方向に
なりそうだった。ジャミルは遂にアルベルトに掴み掛かる事態に
なる寸前に……。
「ねえ、アンタら……、ケンカしてる場合じゃないっしょ、いいの……?」
「何がだっ!!」
「何がっ!!」
「うっわ!何その態度っ!スッゲームカツクッ!もーいいわヨっ!
人が親切に注意してあげようと思えばっ!アッタマくるっ!
……デブ座布団いなくなってるヨっ!!もーアタシしんねーかんネっ!!
いーダ!」
「は……?」
「……」
ジャミルとアルベルトは一旦ケンカの手を止め、お互いの顔を見る……。
そして、我にかえるのだった……。
「……馬鹿モンーーーっ!!」
「ど、どうしようっ!わ、私達が目を離した隙に!サンディ、有り難う!
教えてくれて!ごめんね、機嫌直して!ね、サンディ、お願い!!」
(やっ!アタシ当分アンタらとは口聞きませんっ!!話し掛けないでッ!)
「サンディ……」
アイシャが宥めるが、サンディは姿を消したまま声だけ出した。
モンも消えてしまうしで、ジャミル達4人は本当に最悪の事態
突入となった……。
「オイラの背中に張り付いてたのに……、いつの間に……、ごめんね、
皆……、オイラ気が回らなくて……」
「ダウドの所為じゃないわよ、私達皆の責任よ!」
「アイシャ……、ありがとう……」
落ち込みだしたダウドをアイシャがフォローする。最もアイシャはすぐ
いなくなるフラフラ逃走者の先駆けの常習犯であるが……。
「畜生!やっぱあの集落にとっとと行くべきだったんだっ!俺は
下まで行ってモンを探す、お前らは先行っててもいいぞ!」
「私も行くわよ!モンちゃんが心配だもの!」
「うん、お腹すいたって行ってたし、フラフラ下まで食べ物を探しに
行っちゃったのかもね、モンをほおっておけないよ、オイラも行くよ!」
「仕方が無い、こうなった以上……、モンを探しに行かなきゃ!
でも、最初からもっと早く橋を通過してればこんな事には
ならなかったかも知れないのに!!」
「んだとお!?この腹黒っ!まだ言うかっ!!」
「ジャミル……、アル……、こんな時に二人ともいい加減にしてっ!!」
また始まりそうになった二人に対し、アイシャも声を荒げる。しかし
その声は震える涙声に……。泣き出す寸前のアイシャを見て、ジャミルと
アルベルトは漸く押し黙る。しかし、暫く二人は口を聞かなくなって
しまったのだった……。
一方のモンはと言うと、4人が揉めている隙にやはり下の集落へと
勝手に移動してしまっていた。……川の方から焼いた魚の匂いがし、
釣られてしまい、ついフラフラと……。だが、町の者は集落の中を
モンスターが一匹でふよふよ移動しているにも関わらず誰も全く気が
ついていなかったのが幸い。これまでもモンはジャミル達と常に一緒に
行動はしていたが、それは何かと時折知らない人に突っ込まれそうになる
度、喋る最新式のぬいぐるみで全て誤魔化せていた。モンもモンスターだが、
人間を敵とする他の凶悪モンスターと違い、元々根がフレンドリーな
性格の為。川の側にある今にも崩れそうな汚いボロ小屋の外に焚き火で
焼いている魚を見つけた。だが、火を扱っているに関わらず、周囲には
誰もいなかった。
「モン……、焼いたお魚……、もう我慢できないモン……」
モンは涎を垂らしながら焼きたての魚に食いついて全部平らげてしまう。
……そして事態に気づくのである。
「……モン~……」
食堂などで皆と一緒に食事をしている際、まだ子供にも関わらず大食漢の
モンは隣のテーブルのお客さんの食事を横から搔っ攫い、食ってしまう事も
度々あり、その度4人は客に頭を下げ、モンはアイシャに「「めっっ!」」を
される。……ジャミルもダウドがちょっと油断している間にダウドが最後に
楽しみに食べようと思っていたタンドリーチキンに手を出し、ダウドを
メソらせてしまい、アルベルトにスリッパで叩かれた事があった。……雅に
このモンスターにして、この相棒だった。
「……どうしよう……、モン、又やっちゃったモン……、!?」
静かだった周囲に急に声が聞こえ始めた。小屋のドアが開き、中から
子供がぞろぞろ出て来た。モンは慌てて宙を飛び、小屋の後ろに隠れた。
「……魚、そろそろ焼けたかな……、あ、ああっ!?」
「おちゃか……」
小屋の中から出て来た2人の子供。片方は横ポニテのヘアのまだ幼い
あどけない表情の少女。だが、その身なりは貧しく、何ヶ月も洗って
いない様な髪、ボロボロの破けた黒い服に穴の開いたスカート、素足。
真っ黒に汚れた顔。……スカートから見える膝部分は赤くなって腫れており、
キズだらけだった。少女はモンが食べてしまい、串だけになってしまった
魚の残骸を見てひくひくベソを掻きだした。
「……どうしよう……、ワチがうっかり寝ちゃってて、お魚のばん
さぼっちゃったから……、誰かにお魚食べられちゃったよう~!
うわあ~ん!!」
「ああ~ん!う、う~!おちゃかー!」
少女と一緒に出て来た、更に幼い短髪の男児。まだちゃんとお喋り出来ない
年齢の様だった。……少女が泣き出したのを見て釣られて泣き出したのである。
「モ、モン……」
隠れているモンは困って謝りに行こうかと思った。其処にもう1人の
少年が姿を現す。此方は2人よりも遥かに年齢が大きく、見た感じ
14歳ぐらいの細身の少年だった。
「……お前ら……何してんだ……」
「ああっ!あーにーじゃああ!!」
「あうー!」
少女は兄者と呼ぶ少年に飛び付く。顔を覆う賊用のターバンから
片っぽだけ延びた前髪、後ろ手に縛った長髪。隠れた前髪から
覗かせる片方のその瞳はまるで冷め切った様な氷の目。
「ごめんなさい!……おっさんの魚、ワチがうっかり寝ちゃってる
間に……、誰かに食べられちゃったのーーっ!!」
「やれやれ、又やったのかよ……、糞が……、マジでお前は……」
「「おいっ!!」」
「ひ、ひいいっ!?」
「……」
少年が言葉を言い終える前に現れた一升瓶を抱えた小太りの髭面の男。
子供達と違って此方はいかにもな肥えた体型であり、ズボンのチャックは
開きっぱなし、捲れたシャツからタプタプの段々腹が揺れており、実に
惨めな醜い姿である。……少女は現れた大男に怯え始めた。
「俺の夕飯のお魚ちゃーん、どうしたー?ん~?もう焼けた頃だろ?
んん~!?……んじゃ!なんじゃこれはーーっ!!おい、ゴルアアーーっ!?」
荒くれデブ男は魚の残骸を見て子供達の失態に気づき、少女目掛けて
一升瓶を振り下ろそうとした。だが、その手をぐっと掴み、少年が阻止した。
「止めろ、こいつの所為じゃない……、俺が……食った……」
「……なん……だと……?」
「あ、あにじゃーーっ!!」
荒くれデブ男の一升瓶を持つ手が怒りで震え始めた。少女から的を変え、
今度は今にも少年の方に殴り掛かる寸前だった。
「今日も余り稼ぎが良くなかったんだよ、苛々してた、だから食ってやった、
……どうもこの……カラコタって場所はよ……」
荒くれデブ男、少年の襟首を掴むと顔をボコボコに殴り飛ばした。
……何回も何回も……。しかし、少年は抵抗する事無く、荒くれ
デブ男に口から出血しながらも只管殴られ続けていた。
「……ペッ、……気がすんだかよ……」
「何だっ!その目はっ!テメエ、今日の稼ぎも碌に出来やしねえ癖に何だ
その態度はっ!!しかも俺の大事な夕飯をよくも食いやがったなあーーっ!!」
「やめてーっ!兄者が悪いんじゃないんだよーっ!ワチが、ワチが……」
「るせー!……糞め!黙ってろっ!!……こんなモン、いつもの事じゃねえか……」
「ああーーんっ!!」
少年は少女を庇い、尚も暴力に耐え、荒くれデブ男に殴られ続けた。
側では男児がわんわん泣いている。……その様子を隠れて見ていたモンは
恐怖に怯え、その場から逃げ出してしまうのだった……。
「……怖い、怖いモン……、どうしよう……、モンの、モンのせいモン……」
これまでずっとジャミル達と一緒に行動していたモンは、今回初めて
人間達の世界を一匹で行動し、……醜い人間の醜態を目の辺りにする
事になった……。今までも、ツォの浜辺の村長など糞人間と遭遇する
事はあったが……。モンは生まれてからこれまで、これ程の恐ろしい
人間と遭遇した事が無かった。しかも自分の犯した失態の所為で
あの子達が……。モンはどうしていいか分からず、ジャミル達と
離れた事を後悔していた。
そして、モンを探すジャミル側……。
「ねえ、2人とも、いつまでそうしてるのさ……」
「いい加減にしたらどう……?」
ジャミルとアルベルトはあのまま黙ったまま口を聞かず。薄汚い集落を
モンを探し、只管歩き回っていた。後ろから後を歩いているダウドと
アイシャは呆れている……。しかし、先に沈黙を破ったのはジャミルの
方だった。
「分かってる、分かってんだよ……」
「……何が……」
「……オメエは元々お堅いショバ出身だからよ、こんな所歩きたくねえのは
分かってんだよ、糞真面目だもんな……」
「……別に……、そんな……、ただ、僕は……、正直言うと……、
何故ダーマに神に仕える職業に盗賊があるのか納得出来ないとは思う……」
「……」
時折アルベルトは真面目な顔をしてボケを噛ます時がある……。
「だから本音は又君が賊業に着くのは感心出来ない、この旅を有利に
熟す為だとは思うけど……、だけど他にももっと有利な職業は幾らでも
あった筈じゃないか!!」
「……だから俺に賊止めろってのかよっ!ええっ!?」
再び衝突しそうになる2人。ダウドは困りっぱなしだったが、アイシャは
もう何も言わず、黙って見ているしか出来なかった……。
「悪いけど、僕は一人でモンを探すよ、集合場所を此処の建物にしよう、
モンを見つけたらこの場所で又……」
「勝手にしろよ、行くぞ、ダウド、アイシャ……」
「あの、アル……、機嫌直して……、ね?」
「アイシャ、僕は別に機嫌が悪い訳じゃないよ、ただ、僕も独りに
なりたい時があるから、ごめんね、心配しないで……」
「アル……、気をつけて……」
「……」
心配するアイシャの言葉にそれ以上返事を返さず、アルベルトは
ジャミル達に背中を向けると薄暗い路地に向かって独り
歩いて行った。
「……やっぱり……ちゃんとごめんなさいしないと駄目モン……、
悪い事したら……、ジャミル達に嫌われちゃうの嫌モン……」
モンは急いで引き返すとさっきの小屋の方へと再び飛んで行く。
だがすぐその後ろから探しに来てくれたアルベルトが追いつく
寸前だった。もう少しで再会出来たのにモンは知らずにそれを
振り切ってしまった。
「ハア、モン……、一体何処へ行ってしまったんだよ、僕らこんなに
心配してるのに……」
「おい、兄ちゃんや、兄ちゃん、へへ、ちょっと美味い話があるんだけど、
どう?ちょっと遊んでいかない?」
家の中から小汚い初老の老人が顔を出し、アルベルトに手招きした。
だが、アルベルトは速攻でそれを断る。
「悪いですけど……、僕はそう言った事には一切関わりませんので、
失礼します……」
アルベルトはますます足を速める。もうさっさとこんな集落、直ぐに
さよならしたかった。だが、その為にはモンを探さないといけない。
気分はどんどん悪くなってきて最悪だった。……終いには目眩と
吐き気がして来た……。
「……ふう、……あ、ああっ!?」
「へへっ!ごめんよーっ!」
油断していてトロいアルベルトはぶつかって来た子供に財布を
スられる。一応用心はしていたが、考え事もし捲りだった為、
やはりお約束の結果に……。
「……お、追い掛けなくちゃ!冗談じゃないよっ!!」
我に返ったアルベルトは再び気力を取り戻し、財布をスッた子供を
追い掛け、どんどん集落の方へと自ら踏み込んで行く事になる……。
走りながら必死で子供を追い掛けるアルベルトは、ふと、ある
出来事を思い出していた。
(……そう言えば、元の世界でのジャミルとの出会いもこんな感じで……、
最初は最悪だったっけ……、姉さんから預かった大切な指輪をあいつに
スラれたんだ……、でも……)
そして、ジャミル達も又、モンを探して集落を歩き回っていた。そろそろ
日も暮れ掛け、辺りの風景はどんどん薄暗くなる。
「やっぱり……、アルと一緒に行った方が良かったんじゃないかなあ……」
「私もそう思うんだけど……、でも……」
「あいつが独りにさせろって言ってんだから仕方ねえっつんだよっ!
もうほっとけよ!」
心配するダウドとアイシャを余所に、ジャミルの方もまだ機嫌が
治まらなかった。
「ったくっ!腹黒めっ!人をこんなに心配させやがって!モンもモンだっ!
見つけたら今回はデコピン連打大量の刑だっ!!」
「……おんやあああ~?」
「な、何だよ……」
ついうっかり呟いたジャミルの言葉にダウドがニヤニヤしている。
……アイシャも何となく笑っている……。
「や~っぱりジャミルって変なツンデレだよねええ~、本当はアルが
心配な癖にさあ~、でも、隠せないんだから無駄だよお~、ンモ~、
素直になりなおよお~……、プッ……」
「……なっ!?」
「もう、本当よねえ~……」
「んだよ、アイシャまでっ!別に俺は心配なんかしてねーぞっ、
してねーったらしてねーっ!……ア、アルはトロイからだっ!!」
「……何、思いっきり心配してんじゃん……、アンタってマジでバカ……?」
「あはっ、サンディっ!出て来てくれたのね!有難う!」
「別にィ……、ただウダウダしてるから何か見ててムシャクシャすんのヨ!
バカっ!!」
「……バ、バカだとう!?このガングロっ!!」
「べーだっ!」
煮え切らないジャミ公に苛々し、再び姿を現したサンディはアイシャの
言葉に顔を真っ赤にするとまた姿を消す。……サンディに突かれた
ジャミ公も顔が赤い。……どっちもどっちだった。
「あーもうっ!どいつもこいつもっ!畜生っ、こうなったら
何が何でもあいつら絶対探してやるっ!!……オラ行くぞっ!
ヘタレっ、ジャジャ馬っ!!」
「やっぱりそうなりますか……、だよねえ~……」
「ふふっ!」
……ジャミルはアルベルトが向かった方向へと足取りを変え、蟹股に
なると顔から湯気を出しながらドスドス歩いて行った。その後を
笑いながらダウドとアイシャが走って追い掛ける。……アイシャは
ジャミルに追いつくと、ジャミルに気づかれない様、背中に指で、
そっと、……ば・か、と文字を書いたのだった……。……そして……。
「……おい、分かってんだろう?俺に逆らうからイテえ目に遭うんだよ、
テメエ、俺様に世話になって一体何年立ってると思ってんだっ!
いい加減に学習しろっ!!この能無しの糞ガキがよううう!!
……人のおまんまを黙って食うなんざ最悪だぞ!……お前の死んだ
母ちゃんも天国で今頃泣いてるぞお……」
「……」
「……やめてえええっ!!」
場面は再びあのボロ小屋の前。荒くれ豚男に散々殴られた少年は
出血して顔面血まみれだった。ぐったりしている少年に対し、豚男は
尚も少年の襟首を乱暴に掴もうとした。……それを必死に止めようと
している横ポニテヘアの少女……。
「おい、今日の罰だ、今からちょっこし稼いでこいや、でないと……」
「あ、あーーっ!?」
「!っ、……やめろーーっ!!」
豚男は急に少年から手を離し、乱暴に地面に叩き付けたかと思うと、
今度は少女の方に矛先を変え、少女の横ポニーテールを乱暴に掴むと
思い切り引っ張り、少年に対し、嫌らしい顔を向けた。
「いたい、……いたいよう……、うっく、ひっ……」
「そうさなあ、俺は今から又ハシゴしてくるから、俺が戻ってくるまでの
その間に最低、10000Gは稼いで来な……、こんな優しい金額チョロい
もんだろう?よおおおっ!?」
豚男は自分が飲みに行っているその間、少年に金を稼いで来いと脅しを
掛ける。もしも指定した金額を持って来なかった場合、今度は少女を
殴ると言っているのである。泣いている少女の姿を見て、少年は
痛みを堪えながら身体を起こすのだった……。
「分かったよ……、用意して来てやるよっ!……だからエルナから
手を離せっ!!」
「ふん……、相変わらず気に食わねえ目だ……、おい、俺は気が変わって
すぐ戻って来る場合もあるぞ、……それを忘れんじゃねえぞ……」
「……早く行けよっ!!俺を舐めるなっ!!」
豚男は少女……、エルナを漸く解放すると少年を睨みながら何処かへ
のしのし歩いて行く。
「……兄者あーー!!ごめんなさああーーい!!」
「ああーん!!」
エルナともう一人の男児は……、豚男が消えた後、泣きながら少年に
飛び付く。……口元の血を拳で拭いながらそれを見た少年は大きく
息を漏らすのだった……。
(……今夜中に何とか……、10000Gだ……、あの糞が
戻って来る前に……、こいつらは俺が守ってみせるさ……、
絶対に……)
zoku勇者 ドラクエⅨ編 19