zoku勇者 ドラクエⅨ編 18
祈りの少女と主神様編2
「ジャミル、ジャミルったら!ねえ、起きなさいヨっ!アンタ一番
遅いじゃん!」
「起きるモンーっ!……プ」
「……何だ、ガングロと……、ってモンっ!くせーケツ向けんなっ!」
「モンモンーっ!」
ジャミルは朝からサンディの罵声とモンのモーニングおなら付きの
お尻で起こされた。だが、他の仲間達は既に起きており、心配そうに
ジャミルの方を見ている。
「お前らも早いなあ~、もっと休ませて貰えば……、ふぁ~!」
「もうっ!そんな場合じゃないったら!」
「ジャミル、昨日の事……、もう忘れたわけじゃないよね……?」
アルベルトが深刻そうな顔でジャミルを見ている。しかし、眉間には
皺が寄っている。
「分かってるって、オリガは俺らで守ってやるって事だろ?忘れてねえよ!」
「消えちゃったんだよお、オリガが……」
「……何ですと……?」
仲間達に話を聞いてみると、ジャミル以外のメンバーが目を覚ました
時には既にオリガは家にいなかったと言う。早朝、幾ら突いても起きない
ジャミ公を除き仲間達はオリガを探し村中を走り回ったのだが……。
「困ったなあ、一体何処に行ってしまったんだろう……」
「もしかして……あのでっかいお魚さんがつれてっちゃったモン!?」
「ひえええーーっ!?」
「もうっ!モンちゃんもダウドまでっ!そんな筈ないわよっ!!オリガは
大丈夫、無事よ……、ね、ジャミル……」
アイシャはそう言ってジャミルの方を見ているが。ジャミルはさっきから
珍しく静かに黙ったままずっと俯いており……。
「ぐう……」
……パンッ!!
「寝るんじゃないっ!……何やってんの君はわっ!!」
「わー!アル、落ち着いてーー!!」
「考え事してたらうっかりしちまったんだよ!俺だって何も考えてねえ
訳じゃねえぞ!たくっ!おいお前ら、あの糞村長のとこ、……行くぞ!」
「……」
「まさかジャミル……、わ、私もあまり考えたくないけど……」
アイシャの言葉の後、仲間達は無言になり、外に飛び出した。と、
外に出ると、オリガを尋ねて来たのか、村のおっさんが家の外で
待っていた。
「おい、お前ら、オリガはもう帰って来たのけ?お祈りの時間なのに、
幾ら呼んでも出て来ねえからよ……」
「いえ、僕らが目を覚ました時には既にオリガはもういなくなっていて……」
「あんだと?もう家にはいねえってか?んなバカな……、んじゃ、どこ
行っちまったんだろうなあ……」
おっさんはのそのそ引き上げて行く。ジャミルの胸に益々嫌な予感が
込み上げて来た。
「ちょっとジャミ公!アンタあの子を守ってやるって約束したんでしょっ!
男なら責任取りなさいヨねっ!!」
「分かってる!とにかく村長の家だ、行ってみよう!」
仲間達は頷き、サンディは発光体に戻る。あの村長が何かしでかす前に……。
絶対に阻止しなければならない。だが……。
「おーい、おーい!お兄ちゃん達―!」
此方に向かって息を切らして走って来るおかっぱヘアの少年。村長の息子の
トトだった。
「大変なんだよーっ!ハア、ハア、ハア……」
「大丈夫か?……落ち着いて話してみ?」
「うん、あのね、オリガが今朝早く家に来て、もうぬし様を呼びたくないって
言ったら、パパが凄い顔をしてオリガを怒鳴ったの、そしたらパパ、嫌がる
オリガを無理矢理引っ張って連れて行っちゃったんだよ!僕の家の裏の門から
行ける浜の洞窟だよ!そこにパパ専用のプライベートビーチが……」
「も、もしかして……、切れた村長は……、オリガを直接主の生け贄にする気
なんじゃ……」
「ダウドっ!だから悪い方向に考えちゃ駄目だっ!」
「アルだって……顔が青ざめてるじゃないかあ~……」
「……くっ!」
「オリガ……」
「遅かったかっ!……畜生っ!あの強欲爺っ!!」
やはり嫌な予感は当たった。ジャミル達がグースカ寝ている間に
オリガは1人で村長の家に直訴しに行ってしまったのだった。守ってやると
約束したのに、こうなってしまった事に怒りと悔しさがジャミルの胸に
込み上げて来る……。
(アンタ震えてる場合じゃないっしょ!まだ間に合うヨ!オリガを助けに
行くんでしょ!)
「モンーっ!ジャミル、しっかりするモン!」
「まだ全然遅くないわよ!サンディの言う通りだわ!急いでオリガを
助けに行きましょう!」
「ああ!そうだな!」
サンディとモンに渇を入れられ、アイシャにも励まされたジャミルは再び
オリガを助ける決意をする。もし本当にダウドの言った最悪の事態が
本当ならそうなる前に何としても村長を止めなければならない。
「トト、洞窟の場所まで案内してくれ!頼む!」
「うん、門の鍵は開けておくからね!お願い、絶対パパを止めて!そして
オリガを助けて!もし、パパが言う事を聞かなかったらパパをお仕置きして
いいから!ぼく、オリガが心配なんだ!」
「許可が出たな、よし……」
「全くもう、君は……」
にやりと笑って指を鳴らすジャミルに呆れるアルベルト……。しかし、彼も
脳内ではスリッパの準備を考えていた。
「もうー!ジャミルはっ!でも、トトはオリガの事が本当に大好きなのね!
うふふ!」
「え、そ、その……、えへへ……」
アイシャの言葉にトトは顔を赤くし、小指と小指と合わせて
ちょんちょんした。それにしても、あの村長とは全く似ても似つかない、
トトは純粋な子であった。
「よし、お前ら行くぞっ!絶対にオリガを助けるんだっ!」
ジャミルの言葉に頷く仲間達。頼もしいお兄ちゃん達の姿を見てトトは
心から皆を信頼し安心するのだった。
ジャミル達は村長とオリガを追いトトに教えて貰った海辺の洞窟へ。
もしも本当にあの村長が良からぬ事を企んでいるのならば全力で
阻止しなければならない。だが、事はそう簡単に進む筈が無く、
洞窟内に潜んでいる水棲系のモンスターが4人の妨害を
して来る。
「ではいつも通り、か弱いあたしは休んでますのでー!頑張ってねー!」
サンディ姿を消す。まあもう別にいつもの事なので、側に居ればいたで
うるさいので彼女に関しては特にもう皆何も言わない。
「でも何でこんなとこあの何の力も無い村長が通過出来るのさーっ!」
「……だからそう言うとこは突っ込んじゃ駄目だってばっ!ダウドっ!」
「あの爺の事だ、きっと洞窟内のモンスターを飼って慣らしてんだろ……」
「嫌な趣味だよおー!」
「そんな訳ないだろ……」
「もうっ!足場は狭いし彼方此方水だらけだし、うっかり落ちたら最悪よ!
でも、頑張らなくちゃ!」
狭い通路に敵は密集して襲ってくる。海の近くの洞窟だけあって
此処は水場が多い。……バトルも慎重に行なわなければならない為、
冷や冷やモンだった。
「……ちら、あ!」
「……ダウドっ!馬鹿っ!アホっ!たくっ、何やってんだっ!!」
「きゃーモン!ダウドが水の中に落ちちゃったモンーっ!!」
4人は、慎重に、慎重に……と、洞窟内を進んでいた。だが第1号者、
早速やらかす。宝箱に気を取られたダウドが足を滑らせ道中に下の水場に
転落。ジャミルは慌てて水場に飛び込むとダウドを助けに行った。
「ジャミル、ダウドっ!あっ!」
心配するアイシャとアルベルトの前に敵はどんどん襲ってくる。
ダウドの事はジャミルに任せるしかなかった……。2人には
海賊ウーパーが妨害し立ちはだかる。
「ぷはあ!あーもう最悪!ジャミル、有り難う~……、あ~う~……」
「流石……、あの糞爺が管理してるプライベートビーチがある場所だよ、
冗談じゃねーってのっ!……ひっくし!」
「ごめんね、は、早く上に……、皆のとこに戻ろう……、風邪ひいたら
大変だし……」
「ああ……、けど、前の話で……、お前が泉に落ちたのまた思い出した……」
「……だからそれは穿り返さないでよお!」
2人は体中から雫を滴らせながら水から上がる。しかし、其処に又も
ドロヌーバの集団が現れ行動を妨害。
「邪魔だってのっ!突破するぞ、……ダウド、いけるか!?」
「うん、今日は頑張るよお!オリガの為にも!えへー!」
ダウドは勇ましくロングスピアを構える。まあ、可愛いオリガの為に
やる気になってくれているとは言え、今日は何となく相棒が頼もしく
見えるジャミルだった。
(オリガ、待ってろよ、……すぐに行くからな……!)
「アイシャ、この先に備えて魔法はなるべく温存した方がいい、
大変だと思うけど、何とか大丈夫かい?」
「うん、頑張る!やってみるわ!……ええーーいっ!」
「うわ……」
びゅんびゅんバトルリボンを振り回すアイシャの姿を見て、アルベルトは
何となく冷や汗を垂らした……。
「モンも頑張るモン!シャアーーっ!!」
「モン、君も有り難う!頼もしいよ!」
「えへーモン!」
アルベルトに言われ、モンが嬉しそうに笑った。
……そして、一方のオリガと村長は……。
「どうだ?綺麗な場所だろう?此処なら誰も来ん、落ち着いて二人きりで話が
出来ると思ってな……」
「……」
洞窟を抜けた先に広がる美しい浜。村長専用のビーチだった。其処に
オリガは連れてこられていた。しかし、見方によってはロリコン親父が
幼女を誘拐した様に見える危険な光景。
「どうした?疲れてしまったのか?まあ無理も無いだろう、お前には
毎日の様に主様を呼んで貰っていたからな、もう村の浜辺で主様を
呼ぶのは止めにしよう……、主様をお呼びするお前の力は消えたと
村の者にはそう伝えておこう、これまでご苦労だったな、オリガ……」
「……村長様……?」
村長の言葉に、オリガはほんの少しだけ希望を見いだす。だが、次の瞬間の
村長の言葉でオリガは無残にも希望を砕かれるのである……。
「だがこれからは……、この儂専用の岩場でこっそりと儂の為に
主様を呼んで貰えないか?海の底には珊瑚や真珠、それから沈んだ
船の財宝などもあるだろう?お前なら主様に頼んで、それらを取ってきて
貰えるかと思ってな……」
「村長様……、な、何を言っているのです……」
オリガは怯え、後ずさりする。だが、村長はオリガにジリジリ迫り、
ムサイ顔をオリガに近づけるのだった……。こいつはやはり危険な
ロリコン親父だった。
「なに、毎日などとは言っておらんよ、たまにでいいのだ、儂の為に
力を貸しておくれ、お前が気が向いた時でいいんだよ、……そうすれば
儂らは豊かで幸せな生活を送る事が出来るのだからな……」
「豊かで……、幸せな生活……?」
「そうだ、おお、これからはオリガ、儂の事はお父さんと呼びなさい、
儂もお前を是非、大切な娘、養女として迎えたい、トトも喜ぶ……、
さあ……」
迫る村長にオリガは拒否し、必死に叫ぶのだった……。
「やめてっ!あなたはあたしのお父さんなんかじゃない!……あっ!?」
「騒ぐな、大人しくしろ、此処には誰も来ん、分かっておるだろう?
さあ、おいで、オリガ……、来るんだ……」
「やめてっ!いやーっ!放してーーっ!!」
村長は嫌がるオリガの手首を乱暴に掴み、海の方へ無理矢理連れて
行こうとする……。
「ジャミル、あそこ、いたヨっ!」
「モンーーっ!!」
「オリガ……」
妖精体に戻り、場に出て来ているサンディの言葉に目を見張るジャミル。
どうにか間に合ったらしいが……。
「止めろ!この糞爺っ!!オリガ待ってろ!すぐ行く!」
「……旅人さんっ!」
「貴様ら……、何故此処が……、だがオリガは渡さぬ!儂の為に死ぬまで
主様を呼んで貰うのだ!さあ、来いっ!!」
「痛っ!お願い、もう放して下さい!」
「テメエっ!乱暴はやめろーーっ!!」
「旅人さん、……あたし、もうこんなの嫌です、怖い、怖いの、助けて……」
助けに来てくれた4人の姿を見て、オリガは震えて遂に本音を漏らし
涙を浮かべた……。
「近づくな!もしも近づいたらオリガの手首を折る、なあに、お前に多少の
損傷があっても主様を呼んで貰うのには問題ない、それにちゃんと医者も
呼んでやる、安心しなさい」
「……村長様……」
「糞爺っ!何処までっ!!」
「何て事をっ!あんな小さな子に!!是が非でも自分の私欲の為にオリガを
利用する気なのかっ!!」
「絶対許せないよお!!」
「そうよ、いい加減にしなさいよっ!オリガを放さないと此処からあんたに
メラをぶつけるわよっ!脅しじゃないんだからっ!!」
「シャアーーッ!!」
「勝ち気なお嬢さん、やれる物ならやってみなさい、だが、儂を傷つければ
オリガも逆に傷つく事になるがな!」
何処までも強欲で卑劣な村長の姿に仲間達も怒りを覚える。だが、村長は
4人を見てニヤニヤと笑っているのだった。しかし、次の瞬間……。
ゴゴゴゴ……
「きゃ、きゃっ!?」
「これは……、地震か……?だが、そんな事は儂らには関係ない、
揺れが収まり次第、さあ共にゆこうぞオリガ、主様をお呼びしてくれ……、
儂らの幸せの為に……」
「村長様、あたし、あたし……」
「ぎゃ、ぎゃーーっ!!嫌だよおーーっ!!」
「ジャミル、オ、オリガを……、早く助けないと!」
「本当にあのおじさん何処まで性根が腐ってるのよう!信じらんない!!」
「く、畜生、オリガ……、待ってろよっ!」
突如大きく浜が揺れ始め、皆は立っていられなくなる程の地響きが
起こる……。これは神の怒りなのか……。にも、関わらず尚も強欲村長は
地震が収まり次第、オリガに主を呼ばせる気である……。オリガの表情から
幼い彼女はもう辛労的に限界なのがジャミルにも痛い程伝わって来る。
一刻も早く彼女を助けなければならないと。だが……。
「……地震……治まったのか……?」
「ねえ、ジャミルっ!あ、あれ見てヨっ!」
サンディが叫ぶ。揺れが治まった後に……、オリガの目の前に巨大な
鯨の怪物が海から姿を現したのである。それは……。
「主様……?」
「……」
海から砂浜へ出現した主は頻りにオリガの方をじっと見つめている……。
何か言いたそうに……。
「ジャミル!このままじゃオリガが危ないわ!」
「くっ!い、今行くからなっ!オリガっ!!」
「貴様らは来るんじゃないと言っているだろう!……さ、さあ、オリガ、
丁度良い、直ぐに主様にお願いをしなさい、おお、主様ようこそ、よくぞ
いらっしゃいました!早く財宝を持って来て頂く様にお願いをするんだっ!!
は、早くしないかっ!……オリガっ!!」
……何処までも本当に私欲に塗れた欲の塊の男に4人は怒りの限界が
来ていた。こうなったらもう躊躇せず多少乱暴な手段を使っても絶対に
あの男からオリガを引き離さなければ!そう行動に移ろうとしたのだが……。
「「……オ、オオオオオオーーーっ!!」」
「うわ!ま、また揺れだしたよおーーっ!!」
「これじゃ近づく事が出来ないっ!!」
「怖いモンーーっ!あ、あの大きいクジラさんが地震を起こしてるんだモン!」
「あーんっ!何なのようーーっ!!」
再び揺れ出す辺り一帯。主は怒りに満ちた雄叫びの様な鳴き声を
全身から発する。揺れはますます酷くなり、真面に動く事が出来ずに
皆は大混乱に陥った。
「ジャミル、あのヌシ神サマ、何かスッゲー怒ってる……、もう完全に
ブチ切れてるヨっ!」
「……オリガーーっ!!」
揺れはまた治まったが、主神はそのまま自分の口の中へとオリガを
飲み込んでしまう。事態を見ていた村長はパニックを起こし、股から
何か流した……。
「ひいいいーーっ!?オ、オリガがあーーっ!食われて……、ひ、ひっ、
主様、わ、私だけはどうか、お助けをーーっ!!あああ!何でも致しますから
ーーっ!!」
村長は腰を抜かし、地面に尻餅をついたままの体制で自分を睨んでいる
主から後ずさりする。……今度は命乞いである。本当に何処までも汚い
救い様の無い根性の最低な男だった。
「おっさん、テメエはもう要らねえ!邪魔だよっ!早く何処かに消えろっ!!」
「……お、お前達……」
漸く動ける様になった4人は主神の前に立つ。こんな男庇いたくも
無かったが、オリガを救う為である。ジャミルは村長の顔を見ず、
早くどっか行けと後ろで尻込みしている村長に向かって手をヒラヒラ、
シッシッの合図をする。
「畜生っ!ふざけおって!な、何故儂がこんな目にっ!……あああーーっ!?」
「ま、また地震よっ!」
「……いーやーだあああっ!!」
主が再び怒りだし、しつこい地震が来る……。怒りの主は津波を起こし、
4人は巨大な波の中に飲み込まれる。……腰が抜け逃げ切れなかった
村長も当然巻き込まれ流された……。
「ジャミルっ!みんなあーーっ!!」
「モンーーっ!!」
……波に飲み込まれながら、4人は苦しい水の中で只管耐え、
波から解放され空気が吸える様になるまで只管耐えた……。
「ハア、ハア、畜生、冗談じゃねえや……、ドザエモンになる
寸前だったぜ……」
「……ホント、今日はオイラ、水難だよお~……、パタ……」
「苦しかったわあ……、私達、本当に溺れちゃう処だったわよ……」
「あ、あんなのを何回も食らったら……、身体が持たないよ……」
「でも……、此処で俺らも立ち止まってる場合じゃねえぞ!」
「あ、あんたら大丈夫ーーっ!?本当に息してマスーーっ!?」
「モンーーっ、皆がホンワカぱっぱーにならなくて良かったんだモン……」
「意味分かんねえし!サンディ、モン、頼みがある、……このおっさんを
何処か安全な場所まで連れてってくれ、邪魔でしょうがねえ!暫く見てて
くれや!俺らもさっさとカタを付けちまうからよ!」
ジャミルは横目で気絶している村長を見た。一緒に波に飲まれた村長は
鱈腹塩水を飲んだらしく、仰向けの体制のまま潰れたカエルの様に
ひっくり返っていた……。
「しょうがないなあ~、でも出来るだけ早くちゃっちゃと済ませてヨネっ!
ホラ、おデブ座布団っ!行くヨっ!ちゃんと持ちなさいっ!く、このおっさん
アンタに負けず重いっての!!」
「……クサコゲ焼きまんぢゅーうるさいモン!シャアーーっ!!」
「うるさいのはアンタでしょっ!誰がコゲ焼きまんぢゅーなのヨっ!!」
モンはサンディの毒舌に大口を開けながらも一緒にクズ村長を引っ張って
安全な場所まで連れて行く。普段ケンカばっかしているモンとサンディだが、
何だカンダで段々絆深まりいいコンビへと定着しそうであった。
「よし、あいつらも何とか避難してくれたし、後は……!」
ジャミルは自分達の目の前に立ちはだかる巨大な鯨……、主を見据える。
「オリガが捕まってる事も考えると、バトルを長引かせるのは危険だ!
何とか短期決戦に持ち込むぞ!……絶対オリガを助けるんだ!!」
「了解っ!!」
ジャミルの言葉に仲間達も頷いた。そして4人は改めて主の方を見る。だが、
もしも今此処で主が海の中に逃げてしまったら事実上オリガを救出する事は
不可能になってしまう。……それを防ぐ為にも何としても全力で主に
立ち向かわなければ。
「きゃあ!?」
「だ、大丈夫か!?」
「平気よっ!!」
主は巨大な身体をアイシャ目掛け突進しぶつけて来た。だがアイシャは
根性で踏ん張り攻撃魔法の呪文の詠唱を始めた。イオを主へと放つ。主は
爆発に巻き込まれダメージを負い錯乱している。
「今度はオイラがジャミルの守備力上げてあげる!スカラ!」
「よしっ!ダウド、良くやったっ!」
「私も負けないわよっ!えーいっ!!」
その間にと、アイシャも再びイオを連呼。ありったけの魔法力を放出し
主へとぶつけ捲った。
「ジャミル、丁度僕のテンションゲージも上がってる、またあいつが津波を
起こさない内に此処は連携して一気に決めよう!」
「アル、分かった!……行くぞっ!」
「はい!ピオリムよっ!!ダッシュダッシュ!!」
「だあああーーっ!!」
其処にアイシャが更に補助魔法を掛けてくれ、ジャミルとアルベルトの
素早さは一気に上昇。津波さえ食らわなければ、思っていたよりも主は
それ程強敵ではなかったのである。
「当たれーーっ!会心必中――っ!!」
「オリガを返せーーっ!!」
アルベルトのテンションゲージ技とジャミルの会心の一撃!主神にヒットし、
止めを刺す。主は大きな音を立て、砂浜に倒れる……。そして、倒れた主の
口の中から解放されたオリガが無事に姿を現した。
「あ、あたし……、何ともない……?」
「オリガ!大丈夫かっ!?」
「ああ、旅人さん達!!皆さんもお怪我はありませんか!?」
オリガはジャミル達の姿を見つけると急いで駆け出す。こうして無事に
オリガは救出出来たのだが……。モンとサンディもいつの間にか皆の所に
戻って来ていた。……クズ村長はそのまま放置されているらしい。
「……」
「キャっ!?」
「ぬ、主がっ!まだ完全には駄目だったのかよっ!?」
倒れていた筈の主が……、ゆっくりと身体を起こし、再び立ち上がったの
である。4人はもう一度オリガを守ろうとするが、しかし、それよりも
早くオリガが両手を広げ主の前に立ち塞がるとジャミル達を庇った……。
「オリガっ!止めろ!あぶねえっ!!」
「主様、お願いです!この人達に手を出すのは止めて下さい!!」
「……オリガ、その者達は……村長の手下ではないのか……?」
「主様……?こ、この声……、よく知ってる……、私の大好きな……、でも、
でも、そんな筈ない……」
「ひいっ!しゃ、喋ったあああーーっ!!」
パニクるダウド……。何と。等々主神が口を開いた。しかし、
その声を聴いたオリガは……。何やら思い出す事があり、呆然と
するのだった……。やがて、主の頭上に何者かが姿を現す。
その人物は……。
「……おとう……さん……?」
「……ええええーーっ!?」
ジャミル達は一斉に声を揃える。主の中から出現した人物は……、
嵐の海で遭難し、無念の中で命を落としたオリガの父親の
幽霊だったのである……。
「お父さん……」
「オリガ、……私の大切な娘よ……」
「えええーーっ!って、僕らには普通姿が見えない筈なんだけど……、
今回は見えるよ……」
「不思議ね……、もしかしたら主様の力を通して奇跡が……?」
「……ひええーーっ!?お、オイラにも見えてまーすっ!」
ダウドは縮こまる。主の頭上に浮かんでいるオリガの父親の幽霊。強く
逞しく優しい、オリガの大好きだった父。でも、今は……。オリガは
久しぶりに逢えた大好きな父親の姿に涙を零す。オリガの父親は今度は
ジャミルの方を向くとジャミルと話を始めるのだった。
「……旅人よ、そなたには申し訳ない事をした、私は怒りで我を忘れて
どうかしていたのだ、そなた達はオリガを守ろうとしてくれたのだな、
オリガ……、お前にも辛い思いをさせてしまって済まない、許しておくれ……」
「いや、俺は別に……、ただ……」
「お父さん、……お父さん……」
オリガは許されるのならやっと逢えた大好きな温かい父の胸に今すぐに
飛び込みたかった。大きな腕でもう一度抱いて欲しい。だがもう、オリガの
父親は実体を持たない身。言葉を出したくてもちゃんと浮かんで来ず、
目の前に浮かぶ幽霊となった父の姿を見て泣く事しか出来なかった。
「私はあの嵐の晩、確かに海で命を落とした、だが、海に投げ出され
意識を失う寸前、私の目の前に光る黄金の果実が降って来たのだ、
薄れゆく意識の中、その果実を手にした瞬間、大切なお前の事を想った、
まだ幼いお前を残し……、このまま死にたくないと……、そして私は
死んだ筈だった、……だが次に目が覚めた時私はこの姿だった……、
主の姿でこうして蘇っていたのだよ……」
「お父さん……、そんな、そんな……」
ジャミルも仲間達も衝撃で黙りこくる。……浜に現れていた主神は
オリガの父親だった事実に。
「……私はお前の為を想い、お前が生きていく為にこれまで浜に魚を
届けていた、だが、村人はお前の力に頼り切りになり、お前の力を
悪用しようとする様になった……、黙って見ていたが、もう此処までだ、
我慢が出来ん、オリガ、あんな村は捨てて私と共に行こう……」
「お父さん……!?」
「オリガの親父さん!ちょっと待っ……!!……」
「ジャミル……?どうしたのよ……、どうして何も言わないの!
なら、私が!」
「アイシャ、よせっ!」
ジャミルは主……、オリガの父親を止めようとするが言葉を止めた。
漸く逢えた父と娘の再会を邪魔したくなかった……。それに、どうする
のかは彼女が決める事、自分達が出しゃばる立場ではないと思ったのである。
「私がこれからも何時までも安全な場所でお前を守る、この姿に
なっていても私は私、お前の父親だ、何も変わっていない、……また
一緒に暮らそう……」
オリガの父親はオリガに手を差し伸べる。だが……。
「お父さん……、駄目……、それは出来ないよ……、そんなの良くない……」
「オリガ……?」
ジャミル達も見守る中、オリガは自分の意思で父親の言葉を拒んだので
ある……。そして、オリガは涙に明け暮れた目で父親の姿をしっかり見つめた。
「あたし……、働きたいの、村の皆と一生懸命汗を流して浜で漁業が
したいの、働いてもっとちゃんと仕事が出来る様になりたい……、もう
独りでも生きていける様にならなくちゃいけないの、何時までも
泣いていられないから……、大丈夫、これまでお父さんのやってきた
仕事、全部覚えてる、だってあたしは村一番の漁師の……、お父さんの
娘だもの……」
「オリガ……、お前は……」
???:おーい、おーい、オリガーっ!お兄ちゃん達――!!」
「トトっ!!」
「トト……?な、何で一人でこれたんだっ!?」
「や、やっぱり突っ込み処満載だあーーっ!!」
「ダウド……」
此方に向かって聞こえて来る小さな足音。村長の息子のトトだった。
再びパニくり出したダウドに困るアルベルト。だが本心は……、同じく
本音突っ込んでみたくて仕方が無い様子。
「た、逞しいのね、トトは!きっとオリガを守りたくて頑張ったら此処まで
来れちゃったのよ!」
「……」
アイシャの言葉に、そういう事にしておこうと、アルベルトは無理矢理
自分を納得させた……。
「オリガ大丈夫だった!?ごめんね、ごめんね、パパが本当に酷い事を……、
僕、あの後、旅人さん達の後をこっそり付けてたんだ、オリガが心配で……、
皆さんも本当にごめんなさい!」
「な、何だ……、そうだったのか、は、はは……」
笑うジャミル。どうやらトトが無事に此処までこれた理由が判明し、
何となく安心する……。しかし本当にあの傲慢糞親父とは180℃違う
天使だった。もしかしたら養子なのではと、4人は疑いだした……。
「あの、僕、隠れてみんなのお話を聞いてました、ぬし様はオリガの
パパなんですよね?僕、大きくなったらオリガを守るから!約束するよ!
もしもパパがオリガを又虐めたら僕、パパを許さない!パパと戦います!」
「トト……」
トトは力強い目でオリガの父親と向き合っている。トトの言葉に
偽りは無い。真剣その物だった。
「お父さん……、お父さんは今まで主様の姿になってこれまで私を
守ってくれていたんだよね?でも、もう大丈夫だよ……、私には
こうして私を助けてくれる大切な友達がいる、お父さん、これまで
本当に有り難う……」
「そうだな、オリガ、……お前は私が思っていたよりもずっと大人に
なっていたのだな、どうやら私は余計な事をしていた様だ……」
「お父さん……、ううん、そんな事ないよ……」
「本当に……立派に……なったな……」
父と娘はもう一度向き合う。親子に本当の別れが近づいて来ていた。
もうこれ以上、オリガを守る必要の無くなったオリガの父親は役目を
終える今、旅立たなければならない。オリガの父親の身体が光り出す。
……天へと召され、昇天する時が訪れた。
「……オリガ、私はお前の言葉を信じよう、自分の力で生きるお前を
これからも見守り続けよう……、例えどんなに遠く離れていても……」
「おとう……さん……」
……オリガ……私は……いつもお前の側に……
やがて主の姿は海へと消えていき、その身体からは光が溢れ、光は空へと
昇っていく。……その光をオリガは零れる涙と共にずっと見つめていた……。
「あ、ジャミル、果実だよっ!やったネ、アンタ!又迷えるおっさんも
助けちゃったしサ!何か最近のアンタ、マジでやるじゃん!最初は
どうにも信用出来なかったケド!」
「ああ……、そうなのかな……、だといいけど……、って、最後の
言葉は何だっ!それに、俺一人だけじゃ無い、大事なダチがいつも力を
貸してくれるからだな……」
「さあ~!?じゃ、アタシ疲れたから寝るネ!」
「おい……、だから人の話は最後まで聞けよ、性悪ガングロ……」
主が消えた後、ジャミルの手元に女神の果実が降ってくる。サンディは
発光体になり逃走。ジャミルは手のひらに降ってきた女神の果実を
そっと受け止めた。
「モン~、モン、目から何か汗が流れて来たモン~……」
「……オイラもでずうう~……」
「も、もう……、モンちゃんもダウドも……、しょうがないわねえ~……、
ひっく……」
そう言っているアイシャ自身も慌てて指で目頭を擦るのだった。
「さあ、オリガ、帰ろう?これからは僕がいるよ、ぼ、僕、オリガの
お父さんの代わりにもなるから……」
「トト、有り難う……、でも、トトはトトだよ、これからもあたしの
友達でいて?ね?トトはトトらしく……、ね?」
「うんっ!えへへ!」
「ふふふ!」
絆を深めたオリガとトト。その微笑ましい姿に、後ろにいるお兄ちゃん達も
そっと見守……れなかった。
「はあ~、あんな小さな子達まで春が来てるのに、オイラには何時春が
来るのかな……」
「ま、……一億年後にはどうにかなるんじゃね……?」
「うるっさいなあーっ!……馬鹿ジャミルううーーっ!!しかも何で一億年後
なのさあーーっ!!」
「……何も本気で目に涙溜めてまで怒らなくても……」
本気でブチ切れているダウドにアルベルトが苦笑。本人にとっては
真剣な問題らしい……。
「旅人さん達も本当に有り難うございました、さあ、村に戻りましょう!」
「お兄ちゃん達、みんなを助けてくれて本当にありがとうーー!」
「あ、2人が行っちゃうわ、私達も追い掛けましょ!」
「モォ~ン!」
「よしっ!おーいコラ、お前ら気をつけろよーっ!」
「あうう~……」
「ダウド、君もいつまでも嫉妬しないんだよ……、全く……」
オリガとトトは手を繋いで一緒に歩いて行く。その仲睦まじい姿を
見つめながら、ジャミル達も後ろからそっと2人を見守るようにして
歩いて行くのだった。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 18