『つかまえる。』

創造の機会(きかい)に僕は立ち止まった。
徹底的(てっていてき)に思い知らされた光景を両眼に焼きつける。
言い訳を理由のように錯覚(さっかく)する。
そんなひびわれた本能はあいにく最初から。
僕は持ち合わせていない。



自分自身を間違わないよう考えていく。
その瞬間、生き残るチャンスが贈られる。
必要なものは過去を塗り替えるほどの執念(しゅうねん)と。
てのひらから放る、世界へ蜘蛛(くも)の巣のようにはりめぐらされている物語たち。



今ここに確かに。
存在する大切なものを終わらせる理由は。
ここからさらに遠くへ手を伸ばし、未知の可能性を護る根拠(こんきょ)だ。
そうやって僕達という存在は、道半(みちなか)ばうつむいて顔をおおい、また空をあおいで、命からがらずっと生き続けるだろう。
その喜劇で笑いたい、もうずっと観客席から逃れられない誰かは僕の眼には映らない。



舞台を全て終わらせたって。
眼に飛び込んでくる胸をつかむ全ての傷痕(きずあと)
流れ出る、生きているという真赤(まあか)さ。
そう。もう誰ひとりも逃げられない。



僕がふりむいて僕を見つける。
地球の片隅(かたすみ)で雨のような、か細い拍手。
それでも確かにこの耳にはっきりと聞こえる。
僕の名前をちゃんと呼んでいる。



生き()びる機会を見過ごさないために顔をあげる。
誰も嘲笑(あざわら)えない。奪えない。
僕だけが見つめるその朝焼けを。



僕の覚悟に正しく傷つくのは僕だ。
そして僕は忘れない。
楽園を下地にした、この誕生を誰にも評価させない。
幸せな(いろど)りの花びらが宙を舞って、降る。
破壊され尽くした地上、瓦礫(がれき)の山々と。
長いさようならの。遠い背中たちに。

『つかまえる。』

負けて嬉しい花一匁。

『つかまえる。』

やっと見つけた手渡されたバトン。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-11-20

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted