『エキストラ。』

あなたにとってそれは明日への理由。
僕にとってはいつかの思い出。


あなたにとってこれは現実を(いろど)るスパイス。
僕にとってこれは、優しい朝だ。


あなたが僕の背を偶像(ぐうぞう)と名づけた。
僕は(わら)って。
終わらせた信念を、道と呼ぶ。


多くの信念が成就(じょうじゅ)せず歴史の底に()いつくばる。
そんな運命が僕をこう(うわさ)する。
見えないものばかりを信じ続けていたエキストラ。


言葉にならない僕は黙って世界へ頭を下げた。
そして、これからを生きる、あなただけに。
僕は自分で決めた名前を名乗る。


「誰にも教えないで」
「それは。お互いさま」


信じられないものを僕はいまだ見つめ続けている。
陽射し照らすあなたの小さな背中の、向こう側の景色を。


世界は螺旋(らせん)を描くように進む。
あなたの歩幅(ほはば)がいかに小さくても。
変わらないものが在る。
生まれ出る真新しい醜悪(しゅうあく)と。
それを慰めるように降り落ちる雨音の透明さ。


歩き出すあなたの靴が濡れはじめても、僕はもう。笑わない。
なにひとつ簡単ではない世界で笑うかわりに、手を繋ごう。
約束を想うように。この手を。

『エキストラ。』

『エキストラ。』

僕のこどもたちへ。愛をこめて。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-11-19

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