zoku勇者 ドラクエⅨ編 17
祈りの少女と主神様編1
それでも……、ジャミルは持ち前の粘りと根性で、怯む事なく敵に
突っ込んではぶっ倒れ、その都度仲間を冷や冷やさせた。漸くLVも
10。倒れる回数も徐々に減っていった。
(……ホント、こういう処が……、ジャミルの凄さなんだよね……、
絶対諦めないし……、やっぱりオイラ……、ジャミルには敵わないよお……)
また卑屈になりそうなダウドだったが、お前はお前のままでいいんだよと
言うジャミルの言葉を思い出し、ヘタレは素直にいつも通り開き直る事に
した。……反省の色無し……。
「ジャミル、そろそろ神殿に戻ろう、日も暮れて来たし……」
「ああ、ようやっと俺も皆とLVが追い付いて来たな、明日にはダーマを
出発出来るかな……」
「良かったわね、ジャミル!」
「はあ、アンタってホントバカ!底抜けのしつこい嫌らしさサイコー
チョーじゃネ!?」
「うるせーガングロ!嫌らしいのはオメーもだろうがよっ!」
「シャアーーっ!!」
「あ、ま、またアタシに向かって大口開けたねッ!このデブ座布団っ!!
やる気かっての!!」
サンディを威嚇するモン。もうすっかりいつも通りになっていたが、
再び喧しさも戻り4人は苦笑するのだった……。して、本日の修行?
は終了し、神殿へと戻る。
「う~ん……、何にするか……、戦士も捨てがたいなあ……」
「?」
神殿に戻ると、昼間は見掛けなかった人物が転職の間入り口付近で
ウロチョロしていた。漁師風の容姿の男である。男は4人に気づくと、
すぐに声を掛けて来た。
「よう、あんたらも転職しに来たのかい?オレは南のツォの浜辺に
ある漁村から来たんだ、光る何かが海に落ちたのを目撃してな、
……これは転職しろって神のお告げだとオレは思ったのさ!」
……単純なおっさんだなあとジャミルは思ったし。しかし、海に落ちたと
いう光る何かと言うのが非常に気に掛かっていた。
「ジャミル……、光る何かって……、もしかしたら、女神の果実が海に
落ちたのかも知れないね……」
「ああ、俺もそう思ったさ、よし、明日はその漁村に行ってみようや、
次の場所は決まったな!」
「……海?海って何モン?」
「モンちゃん、海はね、お魚さんが沢山見れるわよ!」
「モンー!」
(……海かあ~、やだなあー、アタシ日焼けしちゃうかも、……美肌クリーム
塗っとこっと!)
他のメンバーが話を纏めている処で……、この男だけは又不安になり、
一人でブツブツと……。
「もしもその……、光る何かって言うのがさ……、本当に女神の
果実なら……、海を探さなきゃいけないって事じゃないかあ……、
勘弁してよお~……」
次の日……。神殿を後にしようとした4人を大神官達が見送ってくれた。
「皆さん、どうかお気を付けて……、本当にお世話になりましたの、
……今思えば儂が魔物になったあの時……、何か人々の心が不安に
満ちているのを感じた……、この世界に何かが起きようとしているのは
定かではありませぬ……、それが何なのか儂には分かりませんが……、
このダーマ神殿にて新たな道を選ぶ者達がおれば案ずる事はないと
儂は信じておりまする、あなた方もどうか自分の信じた道を信じて……、
真っ直ぐに進んで下さい……、何か職業でお困りでしたら、またいつでも
神殿においで下さい……」
「ご武運をお祈りしております……!」
4人は神殿の皆に礼を言い、ダーマを出る。道中、のんびりと散歩を
楽しみつつ足取りは軽く、時にはモンスターに襲われ、また調子に
乗ったジャミルが倒れながらも……、南の浜辺を目指した。
ツォの浜辺……
「くんくん、……お塩の臭いがするんだモン、あの大きなお水さんが
海モン?」
「ああ、海水だよ、海は塩がたっぷりだからな、舐めたらしょっぺーぞ!」
「モン~?」
ジャミルの言葉に不思議そうにモンが宙に浮かんだまま首を傾げる。
此処まで皆と一緒に旅に付いてきたが、まだまだ小さいモンには
この世界での分からない事が沢山あった。
(ハア~、生臭ッ!魚のニオイがプンプンなんですケド!?やだやだ!)
「サンディったら……、我儘なんだから……」
(フンっ!)
発光体のまま相変わらず愚痴を飛ばすサンディにアイシャが呆れる。
ジャミルはサンディが直に出てくるとうるせーからほっとけよと
アイシャに言うが。
「ジャミル、彼所……、浜辺で何かやっているよ、人があんなに沢山……」
「お?ホントだな、行ってみっか!」
「ゲ、も、もしかして……、浜にドザエモンでも打ち上げられたのかしら、
……あ、ああ!」
また怯えるダウドをほっぽっておいて、他のメンバーは浜辺へと駆けて
いってしまう。……ダウドは仕方なしに後を追った。……浜辺へ向かうと、
アルベルトの言った通り、沢山の密集している人々……。皆息を凝らして
何かを見つめている。視線の先には海に向かって無言で祈りを捧げている
ピンクの髪の二つ縛りの少女の姿があった……。
「なあ、……一体何が始まるんだい?」
「……これからオリガが主様に祈りを捧げる処さ、黙ってみてなよ、
兄ちゃん……」
「こらこら、バチあたりめ!オリガの邪魔すんじゃねえだよ!」
「オリガが主様を呼んでくれるお陰で私達、本当に助かっているんです、
それにオリガもまだ小さいのにお父さんを亡くしたばかりで……、
頑張ってくれているんですよ……」
オリガと言うのはやはりさっきから無言で一心不乱に海に向かって
祈りを捧げている少女の事で間違いは無かった。だが、何となく
ジャミルはそのオリガの姿に何となくまた物悲しい雰囲気を
感じ取っていた。
「別に邪魔してるつもりはねえんだけどなあ……」
「ジャミルは其処にいるだけでどうしてもそうなっちゃうからねえ~……」
「……んだと、このやろ!バカダウドっ!!」
村人の視線が一斉にジャミルとダウドの方へ……。アルベルトは
慌てて2人の頭を押さえ付け、村人達に頭を下げ、バカ2人を
黙らせるのだった……。
「……旅の方ですかな、申し訳ありませんが、少し下がって此処は
見て頂けますかな……」
ガタイの良い髭面の男の言葉に4人は渋々後ろへ下がる。暫く見ていると、
無言であったピンクの髪の少女、……オリガが静かに言葉を呟いた。
「……主様……、海の底よりおいで下さい……、あたし達にお力を……、
ツォの浜の為、どうか海の恵みをお分け下さい……、どうか……」
オリガが祈りの言葉を呟いた瞬間、振動が起こり浜辺一体が大きく
揺れ始める。
「……お、おっ!始まったぞ!」
「きゃあ!?」
「これは……、地震か!?」
「……ぎゃあああ!い、嫌だよおお!!」
「……モン、ふよふよしてても何かぐらぐらくるんだモンーっ!」
「ダウドっ!落ち着いて!……だからあの、僕のそこ掴まないで!……、
モンもだよ!!」
「なになにー!?なんなのよっ!?」
ジャミル達は慌て始める。……だが、村人達は待ってました状態で誰一人
慌ててはいない。サンディもいつの間にか出て来ていた。当然村人達には
姿は見えていないが。
「来たぞっ!主様だ!!」
「イヤッホー!魚だあーーっ!!」
「ふう……、何がどうなってんだよ……、!?」
ジャミルが海を見ると……、海から魚の尻尾が見えたかと思うと、本体を
少しだけ見せる。……正体は何と、巨大な鯨の様な怪物だった……。怪物は
砂浜に向けて水飛沫を飛ばす。4人にも水が掛かりびしょびしょに。怪物は
いつの間にか姿を消し、砂浜には大量に魚や貝などが打ち上げられていた……。
「はあはあ、はあ……、……あっ……」
「……あ、おいっ、平気かっ!?」
少女……、オリガは立とうとしたが立ち眩みを起こしたらしく、砂浜に
またしゃがみ込んでしまう。ジャミル達は慌ててオリガに駆け寄るが、
村人達はオリガの様子など誰一人、気にも掛けておらず、怪物が
消えた後に浜に残った魚などを見て騒ぎ喜びあっていた。
「平気です……、いつもの事ですから……、すみません、ご迷惑お掛け
しまして……」
「い、いつもって……、君、いつもこんな事をさせられてるの……?」
ダウドが尋ねると、オリガは小さな声で、はい……、お役目ですから……、
と返事を返した。
「なんなのよっ!もうー、ビショビショじゃん!……ねえ、この子が今、
クジラの怪物みたいなのを呼んだんだよね!?そしたらサ、まあ、魚が
大量じゃないの!!」
「……サンディうっせえ!少し黙ってろよ……」
4人は息を切らしているオリガの様子を心配するが……、其処へ
先程の髭面のムサイ男がオリガの側にご機嫌で近寄って来た。
「村長……」
「ふむ、今日も大量だな、ご苦労だったな、オリガ、お前には又
明日も頑張って貰わなくてはならんからな、早く帰って身体を
休めなさい……」
「はい……、有り難うございます……」
気を遣っている様で、実は全然何も気を遣っていない男の態度に
ジャミルはカチンと来る。オリガはジャミルが男に対して切れて
いるのを感じ取り、本当に大丈夫ですから……、と、ジャミルに向けて
小さく笑みを浮かべた。本当に村長と言う肩書きは、何処かの雪国の村の、
私が村長ですさん同じく碌なのがいない。
「……しかし、主様は一体オリガの何処をお気に召したのでしょうな、
まあ、そのお陰で私達はこうして食べる物にも困らなくなっているの
ですから、今夜も大量のご馳走が用意出来そうですぞ、有り難い有り難い!!
ははは!!」
「……」
ジャミルは去って行く村長の後ろ姿にガンを飛ばす。村人が話してくれたが、
この間の大地震の日に浜は酷い嵐に見舞われ、その日、漁に出ていたオリガの
父親は海に船ごと飲み込まれ、命を落としたと言う。母親は既に他界、たった
一人の家族を失ってしまい、浜辺で一人、毎日泣いてばかりいた幼いオリガを
哀れんだのか、主が姿を現すようになり、オリガの元に大量の魚を届けてくれる
様になった……、と、言う話だった。
「主様はのう、このツォの浜でずっとまつっていた海の守り神様
なんじゃよ……、わしもまさか生きている間にこうして毎日その
お姿を拝めるとは……、元々この村は貧しい漁村じゃった……、
じゃが、あの大地震以来、魚は益々捕れん様になってのう……」
4人に大まかな話をしてくれたお婆さんは去って行く。……オリガは
疲れてしまったらしく、まだ立てない様子である。其処に別の村人の
おばさんがやって来てオリガに容赦なく、労働基準法違反的なきつい
言葉を投げ掛けた。
「ねえ、オリガ……、悪いんだけど、今日もういっぺん主様を
呼んでくれないかい?主人が足を怪我しちゃってね、暫く仕事が
出来ないんだよ、とてもじゃないが、今日明日、食べていく分の
おまんまがあたしらには足りないんだよ、ね……?」
「で、でも……、そんな事……」
「あの、この子はとても疲れていますよ……、無理をさせては
駄目ですよ……、どうか休ませてあげて下さい……」
アルベルトがオリガを庇うと、傲慢おばさんは慌てて家に
帰っていった。4人から大分離れた処で、随分生意気な他所者
だね!と、罵声を飛ばしていた様であったが。
「……何よ、この村の人達、皆自分達の事しか考えてないじゃない!」
「モンモンっ!」
アイシャも腰に手を当てぶち切れ。モンも怒る。しかし、自分を
庇ってくれた4人の心遣いが嬉しかったのか、漸く立ち上がれる様に
なったオリガは、有り難うございます……と、再び言葉を発した。
「おう、大丈夫なのか?」
「はい、あの……、皆さんは旅の方ですよね……?少しお聞きしたい
事があるんです、夜になったらあたしの家に来て貰えませんか?
浜の東にある小さな家です、では……」
オリガは4人に頭を下げると家に戻って行った。その後ろ姿を
見つめているジャミル。
「夜か……、今じゃ駄目なのか……?俺、こんな糞村、いたく
ねえんだけど……」
「また始まった……、あの子も色々あるんだよ、本人の身体も
休めなくちゃ……、その間に僕らは村で情報収集しようよ……」
と、糞真面目なアルベルトは言う。今は確かにそれしか出来なかった。
しかし、他にあまり大した話はそれ以上聞く事は出来ず。村にある
小さな宿屋にて身体を休めながら夜になるのを只管待つのだった……。
「……そろそろ出掛けてみるか……」
空に月が出始めた時刻、ジャミル達は宿を出て東にあるオリガの小屋へと
向かって歩き出した。
「あんな小さな女の子が……、一人暮らししてるかと思うと……、オイラ
悲しくなるよお~……」
「モォ~ン……、モンも悲しいモン……」
「おいおい……」
「プ、あんた達もう揃ってバカコンビ定着?」
「……サンディ、うるさいよお!!」
「シャアーーっ!!」
鼻水を垂らし始めるダウドとモン。……確かにオリガはまだ幼い
少女である。運命は残酷だなあとジャミルは思うのだった。
「私達が此処にいられる間は出来るだけお話を聞いてあげましょ、私、
オリガとお友達になりたいわ!」
「そうだね、少しでも僕らに何か出来る事があれば……、力になって
あげられたら……」
くっちゃべりながら歩いていると、それらしき小屋の前まで辿り着く。
だが、小屋の中から話声がする。オリガともう一人……、誰か来ている
様だった。
「先客か……、じゃあ邪魔すると悪いな、もう少し外で待……、ん?」
暫く様子を見ようとすると、……中から男が現れ外に出て来た。……男は
オリガの手首を強引に無理矢理掴んで引っ張っている。彼女を何処かへと
連れて行こうとしている様子だった。
「何だてめえはっ!オリガに何してんだよっ!!人さらい野郎っ!!」
ジャミル達は慌てて男を取り囲もうとする。だが、それを見てオリガも
慌てて首を振った。
「……旅人さん、来てくれたんですね、でも、これは違うんです……」
「……お前達こそ何だ?私は村長の遣いの者だ、オリガに用があり、
連れてくる様に村長に言われ来たのだ、邪魔をすると許さんぞ!!」
「……なっ!?」
この強引な男はどうやら村長の手の者らしい。だが、こんな時間に
一体オリガを村長はどうしようと言うのか……、まさか又主を
呼ばせる気ではないかと、4人の思考は一致し、そのまま動かず
男から離れない。
「折角来て頂いたのに……、ご免なさい……、でも、あたしは本当に
大丈夫ですから……、あっ!?」
「もたもたするな!早く来いっ!!村長も暇ではないのだぞ!!」
「……この野郎!乱暴は止めろっ!!」
男は更にオリガの手首を強く引っ張った。ジャミルは男に思わず男に
飛び掛かりそうになるが、オリガに何かあったら大変だよ!……と、
アルベルトに制される……。
「あたし行ってきます、……皆さん、本当に有り難うございます……」
「オリガ……」
オリガはそのまま男に連れて行かれてしまう。だが、このまま大人しく
黙っている4人組ではない。ジャミル達は頷き合い、男とオリガの姿が
見えなくなった頃を見計らい、一行も村長の家へと走った……。
「……旅人よ……」
「……っとお!?」
「わあっ!?」
ジャミルがいきなり足を止め、アルベルト達はジャミルにぶつかる……。
ジャミルの前に……ジャミルしか姿の見えない老婆が出現した。
……幽霊である……。
「……婆さん何だよっ!危ねえなあ!!」
「な、何っ!?ジャミル誰と話してんのさあ!!誰もいないじゃん!!」
「……ジャミルは今、幽霊のお婆さんとお話してるんだモン~……」
「……ぎゃああーーっ!!」
焦り始めるダウド。モンにも幽霊の姿が見える為……、モンは三角の
額あてを着け、ダウドを脅して遊ぶ……。後、見えるのはサンディだけで
あるが、既に彼女は発光体に戻り寝ている。
「モン、君も悪戯の度が過ぎると……、そろそろスリッパの刑
デビューだよ……、うふふ……」
「……モギャーモンっ!!」
モンは慌ててアイシャに飛びつく。……アイシャは苦笑。腹黒の怖さは
幽霊より上である……。……ダウドは少し漏らした様子。
「お兄さんや、驚かして済まぬのう……、そなたは死んだわしの姿が
見えるのだね、じゃが、これはとても大事な事じゃ……」
「……婆さん、話を聞かせてくれよ、どういう事だい……?」
「……」
お婆さんの姿が見えない他のメンバーは、ジャミルの言葉をただ黙って
その場で聞いているしか出来なかった。
「見たろう、この病んだ浜と欲に取り付かれた民の姿を……、あの主様と
呼ばれておる者は断じて海の守り神などではない……!かわいそうにのう、
オリガと言う少女は得体の知れぬあの生き物に取り付かれておるのじゃ……、
旅人よ、頼む、どうか……、オリガを守ってやっておくれ……、このままでは
今に良くない事が起きるぞ……」
「……婆さん……」
ジャミルは黙って唇を噛む。老婆はジャミルにそれだけ伝えると姿を消す。
「ねえ、ジャミル……、幽霊さんは何て……」
アイシャが心配してジャミルに聞く。老婆から話を聞いたジャミルの
表情は硬かった……。
「俺にも何が起きてるか分からねえ、ただ、どうもあの主神は
良くねえらしい……、このままオリガに主神を呼ばせ続けたら、
オリガが危ねえ!……早くあの糞村長をシメねえと!オリガを
私欲で利用しようとするのを止めさせるんだ!!」
「分かった……、急ごう!」
「……あわわわー!!」
「モンーーっ!!」
ジャミル達は村長の家へ向かう足を更に強める。……もしもあの糞村長が
拒否しようとするならば、村長をブン殴ってでも止める覚悟でいた。
「だ、だけど……、村長の家……、何処だかジャミルは知ってるのさあ!?」
「う……、そ、それはっ!?」
ダウドに突っ込まれ、ジャミルは焦り出し……、足を止めた……。
「お、丁度あそこに家があらあ!其処で聞いてみっか!すんませーん!!」
……側にあった民家の住人に、どうにか村長の家の場所を尋ね、
止めていた足を再びダッシュフル稼働させる4人であった。
「あった!あの家だな、オリガもいるのも間違いねえな!よしっ!!」
……村の隅に佇む一軒家。だが、その家はこの村の村民の家と比べ、
明らかに造りは良く、外観も大きかった。あの村長の家に間違いは無い。
「待って!どうしてそう君は落ち着きがないの!少し様子を見なくちゃ!」
ストレートに村長の家に突撃しようとするジャミルをアルベルトが
抑える。仕方が無いので、言う通り暫く外で張り込んで様子を覗う事に。
……窓からちらっと中を見ると、確かにオリガはいた。村長と話を
している様子。
「……気になるなあ、何話してんだよ……」
「でも、此処からでも少し声が聞こえるわ……」
アイシャが言った通り、外にいても静かにしていれば多少の声が
此処からでも聞こえる。……4人は窓枠に張り付き、会話を必死に
盗聴する……。
「オリガ……、あの嵐の日、お前の父親が行方不明になった日から
随分立つ……、厳しい事を言う様だが、死んだ者は何時までも
待っていてもこの浜には戻って来ない、……だからな、どうだ?
……私の家の子にならないか?」
「……村長……」
「あいつっ!……オリガを養子にして何時までもテメエの手元に置いて……、
利用してこき使う気かっ!!」
「ジャミル!……抑えて!此処は我慢してもう少し大人しくしていよう……」
外にいるジャミル達は村長の目論見に、いても立ってもいられない様子だった。
「パパ……、そ、そうだよ、オリガ!家においでよ!一人ぼっちなんて
さみしいよ!」
家の中にいるおかっぱ頭の少年。村長の息子らしい。此方は純情その物の
様であるが、事の次第を分かっておらず、ただオリガと一緒に暮らせるのを
望み、喜んでいる。
「お前は息子のトトと仲がいい、お前がこの家に来てさえくれれば
トトも喜ぶ、なあ、……考えてみてくれないか……?儂はお前の事を
本当の娘の様に思っている、お前はもう充分頑張った……」
「!!本当の……、む、娘……、んな事ハナっから思ってもねえ癖に、
爺マジで何考えてっ!!」
「……だからっ!駄目だったらっ!!バカジャミルっ!!」
暴れそうになったジャミルの口を必死で塞ぐアルベルト。静かに待つのも
本当に大変である。
「嫌に外が騒がしい様だが……、誰かいるのか……?」
「わ、……わんっ!わんっ!」
「モン、モンっ!!」
「……野良犬とフクロウか、まあ良い……、オリガ、話の続きだが……」
……単純である。必死で誤魔化す役目をしたダウドは冷や汗
ダラダラだった。
「モン、フクロウじゃないモン……、モーモンだモン……」
むくれるモンにアイシャはモンを宥める。でも、モンモンて鳴く
フクロウさんがいるのかしらと少し困ってみた。
「有り難うございます、でも、もう少し時間を下さい、それにあたしも
村長にお話があります……、ずっと考えていた事なんです……」
「ほう?何だね?言ってごらん……」
「……あたし、もうこれ以上主様をお呼びしたくないんです……」
「!!」
「オリガ……」
「よ、良く言ったぞっ!!」
「偉いわ、ちゃんとオリガはもう自分の筋を通そうとしていたのね……」
「しっかりしてるよ、本当に……」
「うん、健気だねえ~……」
外で様子を覗っていたジャミル達も感心する。だが、これぐらいで
あの傲慢村長が簡単にオリガから手を引くとは思っていなかった。
……案の定……。
「……こんな暮らし……、何だか間違ってると思うんです、……だから……」
「バカな事を言うな!そんな話、今更村の者が納得する訳がないであろう!
お前はこれまで散々お前を可愛がってくれた村の者を裏切る気か?これからも
お前はこの村の為に働かなくてはならないのだぞ!!……それにお前は
どうするつもりだ!他にこの村の為にお前は何が出来る!?」
「それは……」
オリガは言葉を止める。あくまでも村の為、村民の為と言い張り、
しつこくオリガを私欲に利用しようとする村長にジャミルは怒り心頭、
他の3人も呆れて顔面蒼白に。
「まあ良い、今日はもうこれで帰りなさい……」
「はい、失礼します……、お休みなさい……」
オリガは村長から解放され、家を出て行く……。オリガがある程度、
村長の家から離れた距離まで歩いて行った処で、窓の下で隠れていた
4人も慌ててオリガの後を追い掛けた。
「おーい、オリガーーっ!」
「あ、旅人さん達……、来て下さったんですか……?」
「うん、実は……」
オリガはジャミル達の側に駆け寄ってくる。……ジャミルはさっき、
オリガと村長の会話を外で聞いてしまった事を彼女に全部話した。
「そうだったんですか……、心配して下さって本当に有り難うございます、
嬉しいです!」
オリガはジャミル達に笑顔を向けるが、彼女の心は迷いと不安で満ち溢れて
いるのが手に取る様に感じられた……。
「海の神様に頼り切ってしまうなんて本当にいけない事だと思っています、
なのに……、誰も耳を貸してくれない……、村長様だって……、でも、
村の事に関係ないあなた達なら、きっとお話を聞いてくれると思ったんです、
……ねえ、あたし達のこんな暮らし……、絶対に何処か間違っていますよね……?」
「オリガ……」
オリガはジャミルの方を向いて目を潤ませ、返答を求めるのだった……。
「ああ、間違ってるさ、絶対……、お前を利用しようとするこんな汚ねえ
やり方はな!」
「ジャミル……、うん、僕らもそう思うよ、オリガ……」
「そうよ!これ以上あなたに酷い事しようとするならっ、私達も黙って
ないんだから!皆でオリガを意地悪村長から守ってあげる!!」
「そうだよっ、オ、オイラ達もついてるよっ!!」
「モォーーン!!」
「皆さん……、そ、そうですよね!有り難うございます!あなた方なら
きっとそう言ってくれるんじゃないかと思ってました!あたし、何だか
勇気が出ました!……明日もう一度、村長様とお話をしてみます!!」
「ああ、一緒に俺らもついて行くよ、心配すんな!!」
「はいっ!!」
(うわ、これだから偽善者集団て困るのよネ、なーんも考えてないし、
……ヘタレまであんな張り切っちゃってサ……)
しかし、サンディだけは……、オリガを守ろうとするジャミル達を見て、
何か思う処があり、顔を曇らせた……。そして、今夜はそのままオリガの
家に招待され、其処で一夜を明かす事になった。
「ねえ、ジャミ公、起きてんの……?」
「ああ……?ガングロか、起きてるよ、何だよ……」
アルベルト達は既に寝ていたが、ジャミルだけは何か考えており、
眠れないらしかった。
「アンタ、随分ムセキニンな事言ってくれちゃってるけど、これでもし、
あのオリガってコが村中からハブンチョにされたらどーすんの?
……確かにあのヌシってヤツ、良くないかもしんないよ?でも、本当に
どうすんの……?ヨソモンのアンタが……、このままこの村の事に関わる気……?」
「……」
サンディの言葉にジャミルはベッドで仰向けになったまま……、
そのまま返事を返せず、結局寝てしまう……。疲れもあったのだろうが。
そして、翌日の朝を迎えた……。
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