波間

Lights and waves

ふと、夏

波間

 一年だ。
 一年が経っていた。
 彼女と別れてから、そのくらいになる。
 三年間引き摺った末のことだった。
 思えば、交際と言えるものは、その間、長期休暇の二人旅程度のものだった。
 きっと、そういう、僕らの間に生じた距離感が、関係を終わりに導いた。
 特に、多分、僕のせいだ。


 一年。 それ越しに、夜の口、海岸に足を踏み込んでいる。
 一人なんて虚しくなるからって、避けていたのに、不思議な心が働くものだと思う。


 波間には、幾匹ものくらげが揺蕩う。
 ――ように、僕の眼は一時、そう映した。
 くらげたちは月光であり、明滅する一等星だった。
 ――海面で何か泳いでいるよ。くらげかな?
 彼女の、虚空の声がこだまする。
 何だか急に、暑苦しさで、息が詰まった。
 波間、砂浜、彼女は足跡を残して、踊るようで。
 遠い過去の、夏の、僕らの恋路。


 僕が今年になってはじめて、夏を実感した瞬間だった。


 途端にせきを切ったように、この夏は流れ、海辺と清夜が心臓を冷やした。
 明くる日の波間は、また一人の人間を照らしている。

波間

波間

ふと、夏を感じた。 アクルヒのライブ「ふと、夏」の冒頭で朗読するために書いた詩です。 ※ 実際に朗読した内容と少し異なります。

  • 韻文詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-11-15

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