zoku勇者 ドラクエⅨ編 15
大神官失踪編1
……翌朝……。ジャミル達はダウドが残した書き置きを見つけ
大騒ぎになっていた。
……オイラはこれから大神官様を探しに東のダーマの塔に行ってきます。
強い男になりたいんです。どうか探さないで下さい。 ダウド。
「大変だわーーっ!!無茶よっ、ダウドったら一人で行くなんて!!」
「……何考えとるーーっ!あんのヘタレめえええーーっ!!」
「……」
……探さないで下さいと書いている割には、しっかりと向かった場所も
記入してあるので、やっぱり気には掛けて欲しいんだね……、と、思う
アルベルト。
「うんっ、ヘタレってば夜中面白かったわヨ!真剣な顔で聞き込みしててさあ、
神官様のとこで!マジウケるーーっ!!」
「……サンディ、おま、もしかして……、黙って見てたんか?」
「うん、ヘタレ記録観察しちゃったのヨーっ!!」
〔げんこつ〕
「……いっ、たああーーいっ!アンタマジで何サマーーっ!!レディに
ゲンコ飛ばすとかチョーしんじラんネ!……アホーーっ!!」
サンディはギャーギャー激怒。ジャミルに散々罵声を飛ばすと再び消えた。
女性キャラでゲンコツを貰ったのは奴が初である。まあ、多少加減は
しているが。しかし、今はんな事言ってるバヤイではない。
「ジャミルも落ち着いて……、気持ちは分かるよ、でも、僕らもダウドが
話を聞いた神官様の所にまずは行ってみよう……」
「アル……、そうだな、俺がまずは落ち着かねえとな……」
……ヘタレを無事に捕獲出来た際には、連続デコピン+ゲンコツの刑も
しっかりと検討していた。
「けどなあ、こいつがフラフラ……どっか行っちまうのは諦めてるけど……、
ヘタレまで……」
「……ちょっと!人の方見ないでよっ!ジャミルっ!」
「と、とにかく!……神官様の所へ行かなくちゃ!」
「……ま、待って!?」
「今度は何だよっ!アイシャっ!」
アイシャが固まり、ジャミルとアルベルトの方を見ている……。何かまた
恐ろしい事実に気づいた模様……。
「モンちゃんも……いないわ……」
「……何ですとおおーーーっ!?」
そして……、失踪大神官ならぬ、失踪ヘタレは……。
「ふう~、オイラ、漸く此処まで来たよお~、塔が見える……、彼所が
ダーマの塔かあ………」
ダウドはちょろっと背伸びし、目の前に見えてきた塔を見上げる。
……ジャミル達の力を借りず、自分一人の力で此処まで来た事に
大きな快感と喜びを感じていた。
「ふん、冗談じゃないよお……、ジャミルのアホ、いっつもオイラのこと
ヘタレ扱いするんだからさあ!オイラだって真に秘めた力は凄いんだからね!
見てろお~……、絶対にオイラだけで大神官様を連れて帰るんだから……」
本人はそう言うが、……実際は只管猛スピードでモンスター達の群れを
搔い潜り、ゴキブリパワー全開で殆ど逃げ回って此処まで辿り着いたんである。
「へへ、少し休憩……、出てくる時に神官様に頂いたりんごが……、
これ、貰おう……、んと、……重かったなあ、……神官様、こんなに
沢山入れてくれたのかあ……、どうもありがとう……」
ダウドはそう言いながら背中に背負ったリュックをおろす。……だが
異様に何だか違和感を感じたのである。中にはリンゴではなく、……何か
別の物が入っていそうな
……。
「何か別の話でもこんな事あった様な……、中から何か違うモンが
出て来て……、りんご食べられちゃってるとか、……まさかねえ~、
はは……、よいしょ……、開いた……、あ、ああ……?」
「モンーーっ!違うモンじゃなくて本物のモンだモンーーっ!!」
「……あああああーーーーっ!!」
リュックの中から出現したのは……、モン。先程感じた違和感は雅に
これであった……。ダウドが絶叫している頃、……ジャミル達は……。
「そうだったのか……、大神官がおかしくなったのは光る果実を
食べた所為だったのか……」
「あ、ああ……、申し訳ございません、事情を知らなかったとは言え、
たったお一人で塔に向かわれてしまったとは……、ま、誠に、本当に
申し訳ございませんでした!!」
……ジャミル達は神官の元へ行き、昨夜神官がダウドに話した事などを
聞いていた。神官はダウドを塔に一人で向かわさせてしまった事を
只管謝罪していた……。
「神官様、どうかお顔を上げて下さい、……ダウドに気を配って
やれなかった僕らも悪かったんですから……」
「ですが……」
「アルの言うとおりさ、返って神官様には迷惑掛けちまったな……、
忙しいのに……、大丈夫さ、大神官もあいつも必ず連れて帰るから、
心配しないでくれよ……」
「本当に申し訳ございません……、ど、どうか宜しくお願い致します!!」
只管謝り続ける神官にジャミル達は頷く。こうなったら一刻も早く
自分達も塔に趣いて大神官とダウドを探しに行かなければならない。
と、モンも……。
「ダウド……、やっぱりあの時の事……、それにしてもどうして黙って
行っちゃうのよ、私達、仲間じゃないの……」
「アイシャ、あまり気にすんなよ……」
「でも……」
アイシャは切なそうに下を向いた。ダウドはあの時、自分が怪我をした時に
回復出来なかった事を申し訳なく思っていて悩んでヤケを起こしてしまった
のなら……、それは怪我をしてしまった自分の不注意の所為でもあると
思っていた。
「それに、多分一番の原因は俺だよ、分かってる……、……大分きつく
言っちまったからよ、今回は爆発させちまったのかもな……」
「ジャミル……」
「とにかく此処で討論していても始まらない、ダーマの塔へ僕らも
急ごう……!」
「ああ、アル、分かってるよ……」
ダウドが一時的に外れ、トリオとなったジャミル達は失踪軍団救助へと
ダーマの塔へと向かう事に。……ところが、神殿を出ようとすると、誰かが
後ろからもの凄い勢いで走って来た……。
「おおーいっ!……待ってくれええーーっ!!」
「……?あんた誰……?」
ジャミル達に声を掛けた男。その人物は昨夜、ダウドに果実の事を話した
もう一人の人物。……大神官に女神の果実を差し入れした張本人の武闘家である。
「……君達、あの困り顔少年の仲間なんだってな、神官様から話は聞いたよ……」
「はあ……」
「いや……、実はさ、彼が一人で行っちまったのもオレにも責任がある、
果実の事を彼に話したのはオレだからな……、けど、まさかたった一人で
行くなんて思わなかったよ、あんな夜中に……、困った顔してる割には、彼、
随分勇気があるんだなあ……」
武闘家は淡々と話す。どうやら……、ダウドは相当勇敢だと勘違いを
しているらしい。
「あのさ……、あんたの方も……、ダウドと話した事、俺らにもちゃんと
説明してくんね?」
「ああ……、話すよ……、そうだな……」
武闘家はジャミル達に、ダウドに伝えた事……、自分が大神官に光る果実を
差し入れした張本人である事を伝えた……。
「そうか、分かった……、こいつが全ての元凶か、アル、スリッパ
貸してくれよ……」
「……だ、駄目だよ!ジャミルっ!」」
「チッ……」
「しかし……、あの果実は一体何なんだろう……、一目見た時、あまりにも
美味そうでさあ、俺もかぶりつきたくなったぜ!……もしかして、大神官が
いなくなったのは……、オレが果実を渡した所為なのかな……」
「……今頃自覚すんなっ!このやろ!」
「ジャミルっ!……い、いえ……、あなたの所為ではありませんよ、
大神官様は何かとても悩んでおられた様ですから……、原因は他にも
何かある筈です……」
ジャミルを必死に止めながら武闘家と話すアルベルト。……逆にジャミルは
スリッパで頭をアルベルトに叩かれた。
「そうだよな……、で、でも、もしかしたら果実が死ぬほどまずくて
大神官が逃げ出したんなら、……お、オレの所為じゃねえからな!」
「はあ……、アルもジャミルも……、早く塔に行きましょう、ダウド達を
急いで追い掛けなくちゃ!」
ジャミル達が心配している中、一方のダウドは……。お約束の様に出現した
モンに困惑。中のリンゴもモンによってすっかり平らげられていた。
「げっぷモーン、ごちそうさまモン!」
「……今更……、連れて帰るワケにいかないし……、オイラも戻る気もない、
大神官様を自分の手で探し出すまで……、それにしても、モン、いつの間に
……、やっぱりオイラって抜けてるヘタレ……」
其処まで言い掛け、ダウドは首を振る。……自分はヘタレを卒業しようと
決意したのだから。……ジャミルを見返してやる為。みんなの足手纏いに
ならない様に……。
「いいよ、モン、一緒に行こうよ、オイラが守るから、大丈夫だよ……」
「モォ~ン?」
モンにも何となく、ダウドの様子がおかしいのが分かる様で、不思議そうに
きょとんした。
「ダウド、何だかいつもと違うモン……、無理しちゃ駄目なんだモン?」
「な、なんでさっ!オイラ別に普通だよ!それより行くなら早く行こうよ!
何だったらモン一人でも神殿に戻っててもいいからっ!」
「……モォ~ン……」
モンにはダウドが何で怒りだしたのか、それは理解出来ず。塔へと歩き出して
行ってしまったダウドの後を追った……。
「よし、塔の扉の前だ!と、等々此処まで来たぞ!えーと、扉を開けるには、
確か……」
ダウドは神官に教わった扉の開け方を実行。扉の前で丁寧に頭を下げ、
お辞儀をする。モンもマネしてちょこんと一緒にお辞儀。……すると、
勢いよく音を立て扉が開いた。
「やったあ!」
「モンーっ!」
「よし、中に突撃……ひゃあああっ!!」
「……ガルルル……」
しようとしたダウドを待ち構えていたモンスター集団。……見た途端、
ダウドは腰を抜かしそうになり、やっぱり一瞬でいつものヘタレに戻って
しまうのだった……。
「大丈夫モン!モンに任せるモン!モン、さっき食べたりんごパワーのお陰で
元気百杯モン!!……行くモンーーっ!!」
「……だ、駄目だよっ、モンっ!危な……うわーーっ!!」
「ガルーーッ!!」
「キシャァァーーッ!!」
モンスターとは言え、まだ小さな子供のモン。ダウドは慌ててモンを
助けようとするが、腰が抜けて動けず……。しかし、モンは大口を開け、
率先してモンスター集団に噛み付き、ダウドを守ろうと健気に戦って
いるのだった……。
「どうしよう、どうしよう……、オイラ、オイラ……、あ、ああーーっ!?」
ブーー!!
モンはモンスターに向けて砲屁。ジャミル譲りの必殺技である。
モンスター集団は仰け反りうって全員その場で倒れる……。
ダウドはその隙にモンを抱えると素早く塔内に潜入するのだった……。
「全くもう!……危ないじゃないか!怪我でもしたらどうするんだよお!」
「……モン~、でも、モンのせいで……、アイシャは怪我しちゃった
モン……、全部モンのせいモン、だからモンも何かお手伝いしてお詫び
したかったんだモン……」
「モン……」
モンはモンなりに……、昨日の事で心を痛めていたのである……。
(オイラ……、ジャミルを見返す事ばかり考えてた……、だから此処に
来たんだ……、意地張って……、でも、モンは……、ちゃんと……)
「オイラ、自分の事しか考えてなかったよ……、やっぱりヘタレは
ヘタレだなあ~、駄目だよ、ホント……」
「モン……、ダウド、やっぱりみんなの所に戻るモン?」
「いや、オイラが決めた事だよ……、大神官様を探すまで戻らないよ、
モン、悪いけど、一緒に最後まで来てくれるかな?」
「モン、ダウドがそう決めたのならモンも一緒に行くモン」
「ありがとうー!……って……」
「♪ぽーこぽーこちんちんモーン!やっぱり此処は居心地が
いいんだモン!ジャミルにやるとデコピンが飛んで来るモン!
やーモン!」
「ま、また……人の頭を太鼓にする……、……こらあーーっ!!」
反省は凄くしている様だが……、やはりモンはモン。いつも通り
だった……。……それから……、ダウドはモンを連れ、只管高速で
モンスター達から逃げ回り……、漸く最上階まで辿り着く事になるが……。
「……やっと此処まで来れた、オイラだけの力で……でもないんだ……」
「モォ~ン?」
ダウドは改めて周囲を見る。漸く辿り着けた塔の最上階。だが、やはり
此処まで来れたのは殆どモンのお陰もあった。もしも……、自分一人
だったら……、モンがいなかったら……、そう考えて落ち込んで来た。
そして、もしかしたら……、皆が追い掛けて来てくれるかも知れない……、
そんな甘い考えがダウドの頭をよぎった。
「モン?ダウド、この石さん、何か書いてあるモン」
「石碑だよ、えーと……、何かもう今は何も見る気になれないや、
モン、ごめん……」
「モォ~ン……」
「……今ならまだ間に合うよお、……間に合いますよお~……、早く
都合良くみんな来てくれないと……、オイラこの先に進んじゃうよお……、
はあ、やっぱり駄目だね……、今更何言ってんの、オイラは……」
やはり心の何処かでは……、結局ジャミルを求め……、皆に会いたくて
仕方ない自分の本性がちらちらと垣間見え、こんなヘタレな自分が
嫌になって来ていた。いつもの事だが。
「こうやって、……やった事にいちいち後悔して落ち込むのもオイラの
性だもの、……あ、モン、ごめんよ、さあ行こう……」
「モン……」
ダウドは暫くぶつぶつ言っていたが、漸く腰を折り、先へと歩き出す。
その後を心配しながらふよふよと追うモン。……鏡の様な扉の入り口
から空間の中を通り抜ける。……その先の祈りの間にいた、其処で
見た人物は……。
「あれ、……大神官様かなあ?」
「モンプー?」
確かにそうだった。司祭の帽子を被り、必死で見えない何かに向かって
祈りを捧げている老人……。誰がどう見ても、姿からして消息不明の
大神官に間違いは無かった。ダウドは思い切って老人に声を掛けて
見ようと思うが……。
「……全ての職業を知り、全ての職業を司どる大いなる力よ……!
今こそ我に……、む!?」
「……ひ、ひっ!?……あ、あの……、オイラ決して怪しい者ではっ!
わわわわ!!」
老人がダウドの方を振り向く。……ゆっくりと。だが、振り向いた
その表情はやはり生気が無くやつれていた。
「あの……、あなたは……、いなくなった大神官……、様……
ですよねえ?」
「確かに儂はダーマの大神官じゃが……、普通の人間には決して
入る事を許されん、この神聖なる場にお主は何故入って来れたのだ!
……儂のなすべき事を妨害する者、即ち儂の的と見なす!!……お前は
只の旅人風情ではなかろう……!!」
「!!ち、ちちちち!違いますよお!オイラ、あなたを連れ戻しに
来たんです!……あのですね、今、神殿は大変な事になってますよお!!
大神官様が急にいなくなっちゃって、神殿に来てる沢山のお客さんが
困ってるんです!神殿で神官様達も大神官様の事、とっても心配して
ますよお!……心配……、心……」
ダウドは必死で説明しながら……、ふと思う。自分も……、こんな
勝手な事をして、皆に相当迷惑掛けてるんだろうな……、と。だから
こそ、今回は絶対に何がなんでも、此処から先は本当に自分の力だけで
この大神官を説得し、連れて帰らなければならない。そう強く思い、
改めて目の前の大神官を見据えた。
「儂は……、転職により、人々を正しい道へと導いて行けたのなら……、
それが何よりも嬉しい事であった……、だが……」
「大神官様……」
「これまで多くの人々を転職させたが……、果たして本当に正しい道へと
導いて行けたのであろうか……、力を謝り、間違った使い方をする者、
与えられた力の重さに後悔し、迷うもいるであろう……、……全ての
人々が新たなる門出の道を迷う事なきに進んで行ける筈がないのだ……」
「だ、だって、それは……」
……項垂れる大神官……。こんな時、ジャミルやアルベルトなら……、
どう大神官に答えを返すんだろう……。自分にはそれがどう考えても
思いつかなかった。
「うううっ!オイラバカだから分かんないや!……単純に考えて、
オイラが今此処で出来る事は一つだけ!大神官様!オイラとすぐに
神殿に戻りましょう!その為にオイラは此処まで来たんですからねっ!!」
「モン!帰るモンですからねっ!」
「お主……、本当に何様なのだ……、大神官であるこの儂に生意気な口を
ききおって……」
「ひえっ!?」
「ひえーモン!冷えー冷えーモン!」
「モンっ!……いちいち真似して遊ぶなよお!本当に緊張感ないなあ!」
「ブーモンだ!」
大神官は生気の無い表情のまま、虚ろな目でダウドを見る。……最悪、
どうしてもこのまま大神官が戻る事を拒否するのなら、自分でも
少しだけ使える軽い攻撃魔法でうっかり気絶させて連れて帰ろうと
思った。……そうしよう、その方が手っ取り早いと……。
「よし!強硬手段!……そうしよう!や、やっちゃいましょう……」
(ダウド……、何か変な事考えてるモン……)
「……悪いが儂は神殿に戻る気など今更ないわ……」
「あ、や、やっぱり……!そう来ますね!でも、オイラにも立場と
プライドと言う物がありますから!大神官様、少しだけ痛い目に
遭って貰いますよお!!」
「ほう、小僧……、この儂に武器を向けるか……、こんな何の力の
持たん老人に……、やはり此処まで訪れるだけあって、只の暇人では
ないと見た、それは理解したぞ……」
「……」
ダウドは勇ましく、威嚇のつもりでロングスピアの矛先を大神官に
向けた……、つもりだった。
「ダウド、違うモン、それ、たけやりモン……」
「……あああーーっ!?あ、焦って気づかなかったあーーっ!!やっぱり
オイラってドジーーっ!!バカーーっ!!……ヘタレええーーっ!!
全然カッコつかないよおーー!!」
自分で弁明し、その場で泣きわめくダウド。しかし、これで良く
此処まで気づかず持ったモンである……。ついでに。……ダウドは
竹槍マンの称号を得る……。
「……いらないよおーー!!」
「ダウド、……モンモン……、ダウドはいつも頑張ってるモン、
モンは分かってるモン」
モンに慰められるダウド。……カッコツケマンPRは失敗に終わる……。
「えうう~、嘆いてる場合じゃない……、そうだ、ま、魔法使って……!
大神官様を……」
……止められる。こんな何の力も持たない、我儘爺さん……、
そう思っていた。だが、次の瞬間……、やはりダウドは自分が
いかに、疎かで無知なヘタレだったか改めて思い知らされる
事態と窮地に追い込まれる事になる。
「儂は力を手に入れたのじゃ……、全ての人々をより良い方向へと導く事が
出来る力をな……、儂はダーマの大神官としてこれからも此処で祈り、更なる
力を手に入れるのじゃ……」
「……はい……?な、何ですと……?あああーーっ!!」
「モンーーっ!?」
「今こそ我に力を!我に人々を導く為の力を与えたまえーい!!」
突如、大神官の周りを黒い渦が渦巻き始め、渦は大神官の姿を
あっという間に包み込む。
「おおお、これは……、力じゃ、力が漲ってくるぞ、お?おおおーーっ!?
……お、おおおーーーっ!!何じゃこれはーーっ!!」
「だ、大神官さ……、うわーーっ!!」
しかし、直後……、大神官の姿はとてつもない巨大な化け物の姿へと
変わる……。予測していなかった事態にダウドは頭を抱え、大パニックに陥る。
「何事じゃこれは……、儂の身体が化け物に……、黒い力が溢れておる……、
違う、儂はこんな力を求めていたのではない!!」
「……大神官さまあ~、あうう~……、なんでこうなるのさあ~……」
「ダウド、しっかりするモン!お爺ちゃんを元に戻すんだモン!」
「……そんな事言ったって……、無理だよお~、……オイラ一人じゃ……、
皆がいてくれなくちゃ……、ジャミルが……」
ダウドは地面に這いつくばり、顔を突っ伏した態勢のまま、只管唸る。
あれだけ決意して此処まで来たのに……、完全にもういつものヘタレに
戻ってしまっていた。やはり自分は何も変える事の出来ない弱虫の
ヘタレなんだと……、いつもの如く後悔の念に駆られた。
「ククク、そうか、成程、この力で人間共を支配すればいいと言う事か……、
我は名乗ろう……、今日から魔神ジャダーマとな!人間共を絶対の恐怖で
支配する事を今此処で誓おうぞ!!」
「……ち、誓わなくていいですよおーー!!」
「モン、ダウド……」
「丁度良い、今此処で手始めにまずは貴様らを恐怖に落とし込んでやろう……」
「……ひ、ひいいいっ!?」
丸くなって怯えるダウドにジャダーマが近づいてくる。ダウドは動けず、
全てを覚悟した。
「弱者よ!儂の力におののけ!たっぷりと怯えるが良いぞ!!」
「も、もう充分怯えてますからーーっ!!」
「ダウドっ!危ないモンっ!!」
「……モン……?だ、駄目……、!!」
怯えていたダウド。漸く薄めを開け、目の前で見た光景は……、
ジャダーマが放った稲妻から自分を庇い、地面へと落下し、
黒焦げ状態の姿で倒れているモンの姿だった。
「あ、あああ!モンっ、モンっ、しっかりしてよお!やだ、いやだっ!
……死んじゃやだよ!……ごめん、ごめんよ、オイラの所為で!!」
ダウドは半狂乱になり、急いで倒れているモンに駆け寄りモンの
生死を確かめるが……、モンは白目を向いたまま、ピクリとも動かず。
「どうじゃ?……我の力を思い知ったであろう……、む?」
「モンっ!蘇れっ!!……ザオラル!ザオラル!……ザオラルーーっ!!」
ダウドは覚えたばかりのザオラルをモンに必死で掛けまくる。
……MPがなくなるのも承知で覚悟の上だった。それでも
どうしてもモンを助けたかった。……絶対に……。
「は、はあ……、やった……、何とか……、モン……」
MPが突き掛け、もう駄目かと思ったその瞬間、祈りは届き、
瀕死状態のモンは無事に息を吹き返した。だが目は覚まさない
ままである。
「愚かのよう、それで全魔法力を失ったか……、そんな何の役にも
立たんクズの為に……」
「クズなんかじゃないっ!……モンはっ!畜生!モン、ごめんよ……、
オイラももう死ぬ気で戦うよ!!何が何でもっ!!」
「ほお……、しかし、例え助けても、お前ももう死は間近ではないか……」
ダウドは竹槍の矛先を再びジャダーマに向ける。もうMPはゼロ。
武器は竹槍……。どうしようもないのは分かっていた。だが、自分の
起こした身勝手な不注意でモンをこんな酷い目に遭わせてしまった。
自分も罪を償わなければならない。何が何でも、例え勝てっこないと
分かっていても……。目の前のジャダーマにコケにされようと……。
モンを守ろうと立ち上がる……。
「……ジャダーマっ!大切な仲間のモンを傷つけたお前は絶対に許さないっ!!」
ダウドのテンションが上がる。無謀にも怒り状態でジャダーマに突っ込もうと
したダウドに再びジャダーマの稲妻が襲い掛かる。
「……ヒャダルコっっ!!」
だが、それを制する様に稲妻を掻き消した氷魔法……。ダウドは涙目に
なりながら……、おそるおそる後ろを振り返った……。其処にいたのは……。
「……何者だ、この魔神ジャダーマ様の魔法を妨害するとは……、
ほう、援軍か……」
「全くもう!無茶ばっかして!……駄目じゃないのっ!!」
「オメーが言うなっての!……ふう、やっと見つけた……、おい、
ダウドっ!!」
「無事で良かったよ、ダウド……」
「……あうう~、アイシャ、ジャミル……、アルううう……」
漸く駆けつけ、助けに来てくれた仲間達の姿……。ダウドは顔中涙で
くしゃくしゃで、ちゃんとした言葉が出ず……。だが、すぐに倒れて
いるモンを抱き抱え、急いで仲間達の処へ……。
「そうだったのか……、モン……、お前……」
「モンちゃん……、頑張ってくれたのね、ありがとう……」
「ダウドの蘇生魔法が素早かったお陰だね、でも良かった……、
無事で……」
「ごめんよ、ごめんよおお!……オイラの所為でえええ!
ごめんなさああーいっ!!オイラ、オイラあああーー!!
やっぱり情けないヘタレだよおおーー!!」
「ダウド、すぐに頭出せ……、と、言いてえ処だけど、それは
後でたっぷりとしてやるからよ……、終わったら覚悟しとけよ……」
「ひいいーー!?……そ、それも嫌だあーーっ!!」
「……今は大神官様を一刻も早く元の姿に戻さなくては!!」
「モンちゃんも、もう少しだけ待っててね!」
「サンディ……、出て来てくれよ、……少しの間モンの事、頼めるか……?」
ジャミルが呼び掛けると、サンディが姿を現し、発光体から妖精モードへ。
「分かったわヨ!全く!今回だけだかんネ!ヨエークセにアンタは無茶すんじゃ
ねーってのヨ!……デブ座布団はっ!!……」
サンディは暴言を吐きながらもモンの状態を確認。モンを見守るお役目を
渋々引き受ける。だが、内心はいつも自分に大口を開け、牙を向け刃向かって
くるモンが目を覚まさないのに段々不安を感じ始めていた。
「デブ座布団……、しっかりしなさいヨ……、ねえ……」
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