『エピキュリアン』

紳士淑女の眼前で
アタシが脱ぐのは服じゃない


『エピキュリアン』


他人の不幸は蜜の味
けれど我が身となれば?
アタシはそれを与える女
特に富裕層には特別製

強欲な彼らの弱みは丸分かり
腕を絡めるそちらの紳士は
昨夜ちゃんとお帰りになって?
疑惑の目は綺麗な睫毛に縁取られ

けれど貞淑な顔をした奥様も
あの雨の中どちらで過ごしたのやら
隠し事は隠そうとすればする程
美しい宝石の欠片になって散らばる

欠片を拾い集めて繋げれば
素肌に纏ったドレスは華やぎ
秘密が香る香水は研ぎ澄まされる
ラストノートはまだ内緒

泥に塗れた男には哀れみの花を
貴方はできることをやっただけ
刺繍針の痛みしか知らない娘の
ささやかな願いを叶えただけ

白く細い指で求めた罪は
どこまでも甘美にその肌を喜ばせ
薔薇色に染められた胸は高鳴り
高鳴りすぎて息も忘れた末路

彼女の為の香水は秘めやかな欲望と
瑞々しいと言えば聞こえのいい
青臭い恋と死のマリアージュ
誰にでも似合う香りじゃないけれど

さてアタシは何を脱いだでしょう
報酬なんて誰からも貰っていない
だから買収はお門違いよ
これ以上何を脱げと言うの

哀れな恋の窓辺から夢見ることは
罪ではなかったというのに
仕方の無い欲望と唯一の望みを
踏みつける権利は誰にもない

興奮しないで
お座りになって
アタシはただの酔狂者
二人の行方など知らないわ
裏切りしか興味は無いの
純粋な愛なんて糞喰らえ



「ラストノートは清らかなる恋人たち」

『エピキュリアン』

『エピキュリアン』

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-11-05

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