真実の番人

純化してくれ。この有り余るほどの憂いを純化してくれ。結晶にしてくれ。その結晶の反射で世界を刺し殺してくれ。滅多刺しにしてくれ。何も見えなくしてくれ。何もかも忘れさせてくれ。何もかも忘れたその後に、泣きたくなるような思い出一つをくれ。泣かせてくれ。放っておいてくれ。祈り尽くした果ての景色を見せてくれ。真実の現前を教えてくれ。真実の前に跪かせてくれ。俺を限りなく弱くしてくれ。限りなく脆くしてくれ。絶望の淵に突き落としてくれ。絶望させてくれ。飽きるほど絶望させてくれ。飽きるほど絶望した後に現れる一条の光芒を見せてくれ。それが紛い物の光だとしても構わないから俺の荒廃した精神を照らしてくれ。容赦ない光で照らしてくれ。その強烈な光で俺を惑乱させてくれ。目を眩ませてくれ。起こり得た最悪の何もかもを映してくれ。最悪に限りなく近づけてくれ。地獄という形容が使えなくなるほどの地獄を見せてくれ。精神の罅割れの隅々まで光を満たして本物の痛みを教えてくれ。本物の痛みだけを痛がらせてくれ。虚構も現実も綯い交ぜにした光景を見せてくれ。虚構に支えられた現実を見せてくれ。虚構に縋ることによってしか正気を保ち得なかった人間の数滴の涙に映る切実な現実を見せてくれ。真実の現前を教えてくれ。絶望の淵から這い上がって尚立ちはだかる絶望を教えてくれ。絶望以外はもう何も見せないでくれ。真実は絶望の似姿ということを改めて思いださせてくれ。罅割れから漏れ出る涙を集めてできた結晶をこの絶望に、真実に捧げさせてくれ。最悪という最悪を知り尽くした先に尚も新たな最悪が待ち受ける。俺が生きている意味は何なんだ?俺は真実の番人にふさわしいだろうか?

真実の番人

真実の番人

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-11-05

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