zoku勇者 ドラクエⅨ編 14
新たな旅立ち編
……ラフェットは石碑に刻まれている文字を読み上げてくれた。石碑には
こう文字が書かれている。
偉大なる天使エルギオス その気高き魂と人間を愛する心 我ら
忘るることなしそして誓おう 神の国に帰れるその日まで
この世界を見守って行く事を……
「エルギオスと言うのはかつて、何百年も前にイザヤールの師で
あった天使、ある村の守護天使だった、エルギオスは人間達を守る為、
地上に降り立ち、ある時消息不明になったの、何が起きたのかは
知るよしもないまま、……私達はこうして祈るしかないの、
……イザヤールは心配だったんじゃないかしら、あなたまで
エルギオスみたいにもしかしたら戻ってこないんじゃないかって……」
「……」
「多分今も……、イザヤールは人間界の何処かであなたを探して
いるんじゃないかな……」
「そうだな、奴の頭は光ってるから……、案外何処にいても
分かりやす……、いて!」
「……また!お師匠様に対して駄目でしょっ!」
ラフェットは毒舌を吐いたジャミルの頭を軽く小突く。ジャミルは
ちょろっと舌を出して誤魔化す。しかし、相変わらず明るいジャミルの
姿を見て、ラフェットも少し癒やされた様であった。何せもうこの
天使界は緊迫した状況に追い込まれ、本当にいつ滅んでもおかしくない
状況なのだから……。天使達は皆、不安の荒波の中を毎日生きている……。
「んじゃあ、今度は俺の話聞いてくれる?モンの事だよ、……おーい、モン!
……あ、あれ?いねえ……」
「ぷう、ぷう……、モン……」
「あら、此処にいるわ……」
ラフェットは立ち上がると石碑の後ろに回る。……確かに石碑の
後ろから鼾が聞こえた。モンはいつの間にか石碑にもたれ掛かり、
眠ってしまっていたのだった。
「たく、モンの奴……」
「疲れちゃったのかな、いいわ、私が少し抱いていてあげる、
さあどうぞ、ジャミルのお話も聞かせて」
「うん、じゃあ……」
ラフェットはモンを抱くと石碑の前に座る。ジャミルも真似をし、
ラフェットの隣に座った。
「……え~っと、世界樹になってた女神の果実……、だっけか?
凄い効力の果実らしいみたいだけど、悪ィ奴の手に渡ったら
それこそ大変な事になるぐらいの……」
「ええ、とてつもない力を秘めていると……、でも、具体的な事は
私にも、まだ……、少しだけ話は聞いているけど……、オムイ様も
ちゃんと話してくれないわ」
「モンは空から落ちて来た光る欠片が口に入ってから喋れる様に
なったって言ってた、……もしもこいつが喋れる様になった原因が、
その……、地上に落下した女神の果実の欠片ならあり得ねえ事も
ねえかな……、と、まあ、俺の推測だけどさ……」
「そうね、でもこの子は本当に凄い子よ……、何せ天使界に来てしまう
モンスターなんて初めてだもの……、悪い目的以外でね……、きっと元々
純粋な心を持っていたのね、だから……」
「ブーブー、……モン……」
ラフェットはくすくす笑いながら再びモンのお腹に触れる。モンは
気持ち良さそうに鼾をかき、鼻提灯を宙へとシャボン玉の様に
ぷうぷう飛ばした。
「……まあ、確信は出来ねえけど、とにかくこの事は爺さんと、
他の天使達にはまだ内緒でな?……頼むよ……」
「ええ、分ってるわ、さ、もうあなたも行かないとよ、……ねぼすけさん、
起きなさい」
「モン……?」
ラフェットはモンの喉元をコチョコチョ。すると、モンは不思議そうな
顔をし、漸く目を覚ました。
「色々話聞いてくれてありがとな、じゃあ、俺らこれで……」
「ええ、あなたも無事だったのが分って本当に安心したわ、
ジャミル、もしもまた地上に戻るのなら気をつけて、
イザヤールの事をどうか宜しく頼みます……」
「分ってる……、絶対探してみせるよ……」
「おねえさん、ばいばいモン」
「モンちゃんも有り難う、またいつでも天使界に遊びに
いらっしゃい、と、言いたい処だけれど……、……天使界に
一刻も早く平穏が訪れると良いのだけれど……」
「……」
「モン~……」
ジャミルとモンが石碑の間を去り、ラフェットはまた一人になると、
石碑の前でジャミル、……イザヤールの無事を祈り、再び静かに
祈りを捧げた。
「偉大なる天使、エルギオス……、イザヤールの師よ、イザヤールを
お守り下さい……、あなたの弟子イザヤールが天使界にどうか無事で
帰れます様……」
……そして、ジャミルとモンは再び世界樹の元へ。……ジャミルは
騒いでいた姿の見えない仲間達が心配だったが、今は一刻も早く事を
終わらせすっきりしたかった。ちなみに。アルベルト達はあのまま
どうする事も出来ず、ジャミルに言われた通り、世界樹のすぐ近くで
ジャミルを待ちながら、疲れて3人共静かに眠っていた。世界樹の元に
戻って来る間に、多くの天使達と出会ったが、皆悲観に暮れていた。
神の力で作られた天使界。永遠に滅びる事は無い。……誰しもそう
思っていた。だが……。
「ふう、此処で祈ればいいってか、やれやれ……、お祈りとか、
どうもガラじゃねえよ、やれやれ……、ああ腹が減ってきたぞ、
畜生……、フライドチキン食いてえなあ……」
「モ、モン……」
モンは一瞬冷や汗を掻いた。ジャミルが自分の方を向いて涎を
垂らした……、様に見えたのである……。モンもとてつもなく
食い意地が張っているが。やはり、飼い主と連れ、……どんどん
似てきてしまう悲しいお約束。
「っと、いけね!集中集中……、……ん……」
ジャミルは世界樹の前にしゃがみ込み、両手を胸の前で組んで、
静かに祈りを捧げた。モンも一体何が起こるのかとわくわくしながら
ジャミルを見守る。……しかし。
「……何だこれ……、頭がくらくらする……、う……、モ、
モン……、俺……」
「ジャミルっ!どうしたモン!……しっかりするモン!……だ、誰か……、
おねがいっ!ジャミルを助けてモンーーっ!!……嫌モンーーっ!!」
突然の眠気がジャミルを襲う……。そしてジャミルは倒れてしまい、
そのまま眠りについた。
「……ん、ジャミル、戻って来たのかしら……、!!す、すぐ近くで
モンちゃんの悲鳴が聞こえる!……何かあったのよ、どうしよう……」
眠っていたアイシャがモンの声に気づき、一番最初に目を覚ますが、
しかし、例え目を覚ましても……。続いてアルベルトとダウドも
目を覚ましたらしき。
「アイシャ、落ち着こう、とにかく此処じゃ僕ら動けないし、
何も出来ないよ……、でも……、くそっ!今はジャミルを
信じるしかない、側で何が起きているのかも確認も出来や
しない……、ジャミル、どうか無事で……」
「あうう~、もうこんなの本当にやだよお~……、ジャミルう~……」
仲間達は天使界では動く事も出来ず、一切が何も見えない空間の中に
いる状態。モンの悲痛な声だけが耳に届き、互いの姿さえも見えない中、
ただジャミルの無事を信じて待つ事しか出来ない歯がゆさ、苦しみを
感じていた……。
「……頭……、痛え……、俺、このまま死ぬのかな……、って、元天使は
死んだら何処に行くんだ……、消えんのか……?」
意識を失い動けない状態の筈のジャミルの頭に声が響いてくる……。
男性ともう1人……、どうやら女性の声の様だったが……。
……人間達は……この世界に相応しくない……
己の事しか考えず、嘘をつき……、平気で他者を陥れる、そんな人間の
なんと多いことか……
「……誰……だよ……、誰が……」
……私は人間達を滅ぼす事にした……
……お待ち下さい!!
何故……止めるのだ……
私は人間を信じます、どうか人間を滅ぼすのはおやめ下さい……!
ええい黙れ!……これはもう決めた事だ!……人間は……
滅ぼさねばならぬ……
……そして、暗黒の雲の切れ間から人間界へ向け放たれる、
生々しい光のビジョンが映し出される……。それは滅びの
光なのか……。
……私は人間達を信じます、……この身に変えても人間達と人間界を
守ります……
「う、う……、だから……、誰が……、く、くせえ……、臭い……?
これは……」
そこで声は聞こえなくなり……、途端にジャミルの頭痛も治まる。
そして意識も戻り……、気がつくとモンが側で自分の方にケツを
向けていた……。
ぷう。
「う……、こ、こらああーっっ!!モンっ!オメーは何してんだああっ!!」
「ジャミル、良かったモンーっ!……ジャミル、急に倒れちゃったんだ
モンーっ!でも、起きてくれて本当に良かったモンーーっ!!」
モンはピーピー泣きながらジャミルに飛びついた。どうやらモンは
倒れたジャミルをずっと心配して側でオロオロしていたらしい。
あまりにも目を覚まさないので困っておならを発射しようとお尻を
向けていた処。しかし、ずっと心配してくれていたモンに対して
これでは怒る事が出来ず、今回は仕方なしに諦め礼を言う。
「はあ、俺、どうにか平気だよ、世界樹に祈った途端、何か急に
眠くなっちまってさ、でも今はなんともねえからよ、……ありがとな……」
「モンーっ!」
ジャミルはモンに礼を言いながら、改めて自分の状態を確認。
世界樹には祈ったが、やはり、頭の光輪も、翼も……、何も
戻ってはいなかった。
「たくもう……、どうせ無理なんだから……」
ジャミルはそう呟きながら再び世界樹を見上げる。……すると……、
何処からか静かな声が響いてきた……。
……守護天使ジャミルよ……、よくぞ戻って来てくれました……
「な……、今度は何だ……?」
翼と光輪を失ってもなお……、あなたが此処に戻ってこられるという事は……
それもまた……運命なのかも知れません……
「……」
守護天使ジャミルよ、あなたに新たな道を開きましょう……、私の力を宿せし
青い木が……、あなたを新たな旅へと誘うでしょう……
「……青い木……?新たな旅……?」
……そしてもう一つ……、これまであなたが旅してきた場所へと移動する力、
ルーラの魔法を授けます……
「……わっ!?」
「モンっ!?」
ジャミルの身体が淡く輝く。一度訪れた場所に瞬時に移動で出来る魔法、
どうやらルーラの魔法を習得した様であった。
さあ、守護天使ジャミルよ……、すぐに地上へ戻りなさい、天の箱船で
人間界へ行き、散らばった女神の果実を集めるのです……、それがあなたに
託された……、新たな使命……、そして運命の扉……
「俺の……新しい使命……?」
「頼みましたよ……、どうか人間達と……、……を、救って下さい……
最後の部分はよく聞き取れなかったが、其処で声は途絶えた……。
「ジャミル、……大丈夫かの?して、翼と光輪は元に戻ったのか?」
「長老……」
オムイがヒーコラ言いながら、再びやって来る。ジャミルは先程の夢の話、
祈ったが結局は翼も光輪も戻らなかった事、……全てオムイに伝えた。
「……なんとも……、それは不思議な夢じゃ……、地上を滅ぼさんと
する者、それを止めようとする者……、儂らの知らぬ所で既にとんでもない
戦いが始まっておるのやも知れぬのう……」
「……」
「ばあー!ぴーかぴか!ぺちぺちモンっ!!」
真面目な話の最中、時折オムイの禿頭の後ろからモンがチョロチョロと
顔を出し頭を叩いて遊んでいた。注意しようかと思ったが、何となく吹く
ジャミルであった。禿頭を叩かれているにも関わらずオムイは全く気づいて
いない。
「……お主が翼と光輪を失い、箱船に乗れるのにもきっと何らかの
意味があるのじゃろう、お主の見た夢はきっと神のお告げ、聖なる声が
お前に語りかけたというならば、儂はそれを信じようぞ、女神の果実には
世界樹の聖なる力が宿っておる、女神の果実を全て集めれば、天使界も
人間界も救われるやも知れん、……守護天使ジャミルよ、ならば導きの
聖なる声の通り、すぐに地上へ再び向かいなさい、そして散らばった
女神の果実を集めるのじゃ、果実は確か7つの筈……、頼んだぞ……」
「ああ、俺で出来るなら……、引き続き頑張ってみるよ……」
「頼んだぞ、ジャミルよ……、地上に落ちた女神の果実を全て集め、
無事天使界に持ち帰るのじゃ!!……お主には危険な使命やも知れん、
申し訳なく思っておるよ、だが、どうか……」
オムイはジャミルの肩を掴んで声を詰まらせた。ジャミルもそれに
応えるかの様に頷く。
「……ああ、いっちょ行ってくるぜ!」
不思議な声に導かれ、そして新たな使命を託されたジャミル。
地上へと再び向かう為、天使界から離れ、また冒険へと旅立つ
事となった……。まずは箱船へと戻る。そう言えばアルベルト達も
待たせているのをすっかり忘れていた。
「奴ら、どうしてんだろ……、ん?」
「困ったなあ~、なんであのオヤジいないかなあ~!!……ここまで来たら
フツー顔ぐらいみせるっしょ!……も、もしかして、箱船が墜落したとき
人間界に一緒に落ちちゃってたりする!?……探すのチョーダルイん
ですけど……、でもテンチョーがいないとバイト代も貰えないしィ~で!」
箱船近辺をウロウロ、行ったり来たりしている謎のガングロ生物……、
サンディである。
「何だよ、お前まだいたんか?用事があったんじゃねえの?」
「またクサブーがいるモン!」
「誰がクサブーっ!……って、ジャミルじゃん!あんたこそ何してんの?
此処での用事はもう済んだワケ?」
「ああ、実はさ、今度は地上に散らばった7つの女神の果実を探すんだ、
で、また地上に戻らなきゃなんねんだけど……」
「それなら好都合っ!実はさ、アタシも人を探してて、地上に戻らなきゃ
なんないんだよねえ~、んじゃ丁度良かった!一緒にいこ!協力するする!」
「ああ、頼む……」
こうしてサンディが再び仲間に加わ……。
「ジャミルの話声が近くでするのにーっ!あ~ん、どうして姿が
見えないのようーっ!」
「もーいい加減に地上に戻りたいよおーー!」
「いつになったら迎えに来てくれるのやら、ふう……」
そして再び、仲間の姿が見えないまま、待たせていた事を思い出すのだった。
「お前ら、其処にいるんだろ?俺だよ、ジャミルだ、用事は終わったよ、
さあ、地上へ戻ろうや……」
「ジャミルっ!やっぱり側にいるのねっ!でも……」
「お、オイラ達……、このままじゃ動けないんだよお~!箱船が見えないし、
動けないいいーーっ!!」
だが、今、此処に仲間がいるという事は、到着した時には仲間達は確かに
箱船から降りている筈なのだが……。箱船の姿が見えないまま、適当に
動いたらいつの間にか外に出ていたと言う理屈なんだか何だか。
「あーっ!もうっ、アンタ達うっさいっ!これでも掛けてあげるッ!!」
「……おいっ!お、おおお?」
「……あれええ~?見えるよお……」
「あは!ジャミル、私達、姿が見える様になってるわ!」
「ほ、本当だ……、僕も……、皆が見えるよ……」
サンディは声のした方向へ向け謎の粉の光をぶっ掛けたと同時に
不思議な事に仲間達の姿が見える様になっていたんである。
「これでいーんでしょっ!さあさあ、早く船に乗る乗る!忙しいん
だからっ!人間のあんたらの姿が天使達に分ったらそれこそ
ややこしい事にもなんだからネっ!!」
「へいへい、んじゃま、帰りの箱船は大丈夫だな、中入れよ、お前らも」
「わあ~い!モンちゃん、行きましょ!」
「モンモン!今度はみんなで楽しいお船の旅モン!」
「……はあ、まさか中が見える様になるなんて……、本当に
凄い船だったんだ……」
「あうう~……」
ジャミルは姿が見える様になってもまーだ1人ヘタレているダウドを
無理矢理箱船へと強引に押し込むのだった。
「……ばうううーーー!!」
「でも……、箱船ちゃん、壊れてんのよねぇ~、ちゃんと動くんかあ~?
おしっと、おっけええーーっ!みんな、行くよっ!飛び立つよっ!!」
「……んぎゃああーーーっ!!」
「お、おおお、ジャミルの乗った箱船が……、再び地上へ……、神よ、
どうかあの子にご加護のあらん事を……、お守り下さい……、無事で
戻って来ておくれ……」
「ジャミルの天使の力は戻らなかったんだな……、でも、例えどんな姿に
なっていても、俺達の大切な仲間だって事に変わりは無いよ……」
「……何千年も何万年も皆で一生懸命星のオーラを捧げて果実を
実につけたんだ、ぜ~ったい、女神の果実を見つけてね、ジャミル!」
「どうか……、イザヤールを……、お願い、ジャミル……」
ダウドの悲鳴と同時に天の箱船が浮かび上がり、再び人間界へと旅立つ。
その様子を長のオムイ、残された天使達は祈りながらジャミルの無事を願い、
ずっと見つめていた……。
「そろそろ人間界近い?んと、あの青い木がある場所、なんか箱船で
降りられるっぽい?」
「ああ、夢の中の声も言ってた、青い木が俺を新たな旅へと
導いてくれるって……」
「よくわかんないケド、ま、とにかく行ってみるっきゃないって
ことだよネ!よお~し、みんな行くヨっ!人間界へっ!!」
「おおーーっ!!」
「おー……、です、だよお」
「モンーっ!」
ジャミル達4人とモンはサンディの言葉に揃って拳を突き出し、
えいえいおーする。そして箱船は青い木を目指し、降り立つ。
地上に散らばった女神の果実を求め新たな旅立ちのスタート、
……此処から本当の冒険の始まりである。
「そうか、次の目的は……、人間界に散らばった……、その、
女神の果実を全て探して集める事なんだね、成程……」
「ああ、神の力を秘めたすげえ果実らしいからよ、早く見つけねえと
厄介ごとになっちまう、悪い奴の手に渡んねえウチにどうにかしねえと……」
「大丈夫よっ!私達なら絶対みつけられるわ!いけいけゴーゴーよっ!」
「いけいけモンモンよっ!」
気合いを入れているアイシャとモンにジャミルはいつもの如く頭痛。
ま、頑張ってくれんならいいかと思うが。……やっぱり暴走されるのは
困るのである。
「あんたらもう到着するヨ、ささ、さっさと降りる準備するする!」
箱船はどうにか地上へと無事に辿り着き、青い木の側に着陸。当然他の
人間達にはこの船の姿は絶対に見える事はないので安心である。
ジャミル達は久々の地上の大地へと足を踏む。
「……今度は何処に行くのさ?」
「分らないけど……、取りあえず歩いてみよう、何処かこの付近に町が……」
疲れた表情のダウド、アルベルトに尋ねる。早く休みたい様である。
が、初めての土地、新規モンスターも容赦なく出現。4人の行く手を
妨害する。竜巻に乗っている為、下半身不明の変なタラコ唇顔のモンスター、
かまいたち2匹。
「んじゃあ、アタシはいつもの如く、休んでますから!暫く
起こさないでよネ!」
発光体へとさっさと代わり消えるサンディ。
「……あいつ……」
「いいなあ、オイラも隠れたいよお、ねえ、ジャミル、オイラも
ジャミルの中に隠れたいよおー!ねえ、隠れさせてえーー!!
オイラも消えるーー!」
「おい、やめろったらっ!何処触っとるっ!こらあーーっ!!
あ、ああーーっ!?」
「……ちょっとダウドっ!何してるのよーっ!」
……パァァンッ!!
錯乱してジャミルを襲い始めた?ダウドをスリッパで叩くアルベルト。
最近はダウドもジャミルと揃って一緒に叩かれる事も多くなってきた。
「と、真面目にやろうよ!敵を倒さなくちゃ!」
「えうう~……、とほほのほお~……」
「とほほのモンモン~……」
「……マネしなくていいんだよおっ!!モンはっ!!」
「モンブ―だよおモン!」
「だよだよだよおーー!!」
やかましいのでアルベルトはもう一回仕置きしておこうかな……とも
思ったが。しかし、今はかまいたちを倒す事が先決である。
……かまいたちたちは、かまいたちで攻撃!
ダジャレなのか……、よく分らない、攻撃方法も名前と同じ攻撃に、
ダウドが笑い転げている……。
「……何ツボにきてんだよっ、オメーはっ!」
「変なおかお、おけしょうしてあげるモン!」
「モンちゃんっ!!……危ないわよっ!!」
「♪モモモンモ~ン!」
アイシャが止めようとするが、モンはかまいたちの眉毛をクレヨンで
極太に悪戯メイク。……異様に素早い行動である。顔に悪戯した後、
モンはその場を逃げようとしたが……。余計な悪戯で激怒させ、
かまいたちたちは怒りのテンションを上げた。W連続かまいたちを
モンにぶつけようと……、しかし、咄嗟にアイシャが身を挺してモンを
庇い、背中に刃を受ける事になる……。切られた背中からは血が滲んでいた。
「い、いた……」
「……アイシャっ!なろお!ダウド、ベホイミをアイシャにっ!!」
「わかったよお!……って、ああーーっ!え、MP切れー!?」
「……何してんだよっ!!んな時にっ!!」
※ちなみに、3でオリジ設定だったMPが切れかかると行動不能……、
は今回は無しとしています。
「ダウド、大丈夫……、薬草が一つあるから、こ、これで何とか……」
「……それじゃ足りないよおおー!」
「アイシャ……、ごめんなさいモン……」
「こら、めっ!……ふふ!」
辛いのに痛みを堪えてアイシャはモンが無事だった事に笑っていた。
そんなアイシャの姿を見て、……ダウドは劣等感に陥る。
「なろおっっ!!」
ジャミルが間に割って入り、会心の一撃で一匹に止めを刺す。もう一匹は
竜巻に乗ったまま手を上に押っ広げたままのポーズで慌てて逃げていった。
「……大変モンっ!アイシャああ~!!」
「うう……」
「……大丈夫か?ごめんな、先に俺の方がホイミ掛けてやりゃ良かったな、
……モン、お前流石に今日は度が過ぎるぞ……、後でデコピンだかんな……」
「はいモン……、くすん……、モン……」
ジャミルに怒られ、モンがしょげる。最も普段はジャミルもアルベルトに
突かれる事が多い役回りだが、危険顧みず戦闘中に遊びだしたモンに今日は
心底ぶち切れていた……。だが、内心では、モンの事もアイシャの事も
気が気では無いほど心配していた。……特に……無邪気にかまいたちに
突っ込んで遊ぼうとしていたアホのモンチャンには冷や汗タラタラモンだった。
「ジャミル、そんなに怒らないであげて……、私は大丈夫だったんだから……」
「だけどよ……」
「今はとにかくこの付近で休める処を探そう、話はそれからでいいよ……、
ゆっくりね……」
「分ったよ……、アイシャ、歩けるか?」
「ええ、ジャミルに連続ホイミ掛けて貰ったもの、行きましょう!」
アイシャは立ち上がり、歩き出す。……モンが申し訳なさそうにその後を
ふよふよと飛んでついて行った。
「……」
「ダウドもいいかい?」
「……あっ、……うん……」
ダウドものそのそとアルベルトの後に続いて歩いて行った。4人は
歩いている間、暫くの間無言であった……。モンもすっかり元気が
なくなっており、お腹が空いていても我慢して我儘も言わなかった。
(やっぱりオイラって……、何やっても駄目なヘタレだなあ~……、
このままじゃ、いずれヘタレキングの称号貰っちゃうよお、……うう、
そんなのいらない……)
暫く東に歩いて行くと、やがて長い階段が見えてくる。更にその階段の
向こう側には周囲を河に囲まれた大きな神殿が見えた。漸く休めそうな
場所にたどり着けた事に4人は安堵するのだったが……。そして此処でも
また大きな事件に巻き込まれる事になる。
「ようこそ、此処は転職を司るダーマ神殿でございます、転職を
ご希望の方はどうぞ中にお進み下さい、……ですが……」
入り口にシスターと神父さんがおり、4人を出迎えてくれたが、何だか
両方とも浮かない様な表情をしている。
「転職?此処って……、ああ、分った、何となく、成程……」
「ダーマ……、パンにつけて食べるんだモン、おいしいモン……」
「それはラーマだよ……、って、どっかで言った様な……、
ま、いいか……」
しょんぼり元気がなかったモンがまた少し暴走し始めたので、
ジャミルは何となくほっとする。さっき、少し怒りすぎたかな……、
と、心配していたので。此処は3でも重要な場所でもあった
ダーマの神殿らしい。奥の転職の間に沢山の人達が新たな人生の
旅立ちを求め、行列を作りずらっと並んでいた。……の、だが。
「ん?」
「おい、どういう事だよっ!大神官はまだ戻らねえのか!おれたちゃ
遠くからわざわざ金かけて転職に来てやってるんだぞっ!!」
「んだんだ!冗談じゃねえだよ!おら、なけなしの金をはたいて
田舎から出て来たって言うのにひどいでねえか!」
「わしゃあ、メイドさんになる為に頑張って此処に来たんじゃあ、
冗談じゃねえぞい、メイドさんになるまで絶対此処を動かんぞい!」
「も、申し訳ございません、皆様のお気持ちは分ります、ですが、もう少し
お待ち頂けるかと……、大神官様は必ずお戻りになられますので、どうか……」
「……そう言ってもう何日たってると思ってんだよ!!」
「本当に誠にどうも申し訳ございません……、はあ、はあ……」
神官の前で抗議しているらしい、沢山の客……。神官は滝の様な
汗を掻きながらクレームらしき対応に追われている様だった。
……ジャミルは近くにいたシスターに現状を尋ねてみる事にしたが……。
「大神官が……不在……?」
どうやら……、数日前から、大神官が謎の失踪を遂げたまま、
行方不明との事。大神官は数日前から何か悩んでいた様なのだが……。
とにかく大神官がいなくては、客が転職する事が出来ずに、神官達は
対応に追われてんてこ舞い……、の、様だった。
「大神官様も……、もしかしてヘタレなのかなあ~……って、
そんなワケないよね、ごめんね、オイラの独り言だから、ぶつぶつ……」
と、ダウドは呟いていたが、誰にも聞こえなかったらしい。
「けっ、また明日も来るからな!……畜生!」
「……あんた達も困ってばっかいいねえで、そうしてる暇あったら
大神官様を早く探すだよ!!」
「……メイドさんは絶対諦めんぞい!」
……クレーム客達は本日は引き上げて言ったが……、対応に追われていた
神官は疲れてどっとその場に座り込んでしまった。
「ジャミル、神官様にも少し話を聞いてみようか……」
「ああ……、あの、ちょっといいかい?」
アルベルトがジャミルの肩を突く。ジャミルは頷いて神官の処まで
話を聞こうと近寄っていったが、神官はジャミルの姿を見ると
慌てて土下座をし始めた……。
「!あ、ああ……、申し訳ございません!大神官様不在の今、転職は
暫く出来ません!ご理解賜りますよう、どうか、どうか……、何卒……」
「い、いや……、俺ら別に転職しに来たんじゃねえんだ、ただ、
何処か休める場所でもあればなと……」
「そ、そうでしたか!それでしたら神殿の地下に休憩所がございます、
宿屋もありますので!是非!是非!」
「ありがとう、じゃあ、暫く世話になるよ……」
神官はジャミル達が転職の目的で訪れたのではない事が分り、
安心した様だった。しかし、大神官が行方不明とは……、また、
ただ事でない事件が起きているらしい。
「暫く此処でまた情報収集だなあ~、それにしても消えた大神官か……」
「誰かに連れて行かれたって言う可能性もあるわよ!」
「まさか……、オメーじゃねえんだし……」
「何よっ!」
いつも通り揉め出すジャミルとアイシャ。アイシャもすっかり元気に
なっていた。だが、このお方は……。
「とにかく宿屋に行こう、身体を休めなくちゃ、アイシャ、君も
疲れてるんだから、今日はゆっくり休むんだよ」
「はあ~いっ!」
「ダウドもね、……ダウド?」
「……ん?な、なんだい、アル……」
ダウドは暫く考え事をしていた様だったが、アルベルトに声を掛けられ、
漸く我に返る。
「いや……、身体はしっかり休めておくんだよ……って言う事……、だよ……」
「うん、わかってるよお、ありがとうね、アル」
ダウドはそう返事を返すが、あまり声に元気がなかった。……昼間の件で
お役に立てなかった事を相当気にしているらしかった。
「ねえ、ジャミル……」
「んだよ……」
「君からも少しフォローしてあげたほうがいいんじゃないかな?
絶対気にしてると思うんだよ、君はダウドの親友なんだからさ……、
ほら、さっきのこと……」
「ああ、たく、仕方ねえ……、おい、ダウド……」
「なんだよお?」
「俺もきつく言い過ぎたよ、まあ、おっちょこなのは俺もだからさ、
あまり気にすんなよ……、ま、ヘタレじゃねえと、お前じゃないしな……」
「い、いや、オイラ別に、その……」
「モンーーっ!!」
と、ダウドが言葉を繋げようとしたその時、またモンの声。神殿内を
ふよふよと飛び回り遊びだした。慌てて止めようとアイシャが必死で
モンを捕まえようと奮戦していた。
「モンお腹すいたんだモンーーっ!!」
「モンちゃん!駄目よーっ!待ちなさーいっ!……こらーっ!!」
「……モンも調子が戻ったみたいだね、良かった……」
「心配して損した、……やっぱ後で一発だけデコピンしておくか……」
この時、先ほど、ダウドが繋げようとした言葉……。この言葉を
ちゃんと最後まで聞いておかなかった事で、ジャミル達は大神官の失踪、
もう一つの大騒動に巻き込まれる羽目になる事を今はまだ知る由もなかった。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 14