zoku勇者 ドラクエⅨ編 13

再び天界へ編

「ジャミルさん……、何ですか、あなたまだお戻りに
なられなかったんですか?」

「?い、いや、それはこの……」

ルーフィンがのそのそと研究室から出て来る。エリザが消えてから、
相当時間が立つにも関わらず、ジャミルはその場で空を見つめたまま、
ぼーっと地面に座っていた事に漸く気づいたアホであった。

(アンタってば、ホンッとバカ!口開けたまんまでさあ~、マジうけるぅ~!)

「……うるせーぞ!黙れこの性悪ガングロ!」

「はあ?あなたと言う方は本当に変わった人だ、丁度いい、まだ
お戻りにならないのでしたら……、少しお付き合いしませんか?」

「へ?へ……」

ジャミルはルーフィンに誘われるまま、彼の後に付いていった。
場所は、研究室のすぐ真上にある、ルーフィンと、……エリザの
住んでいた家。

「どうぞ、其処のソファーに腰掛けて暫く待っていて下さい……」

リビングに通され、言われるままソファーに腰掛けて暫く待つ。
もうこの家にエリザはいない。そう言えば、初めて此処に来た時、
クッキー出して貰ったっけと思い出していると、リビングに
ルーフィンが戻って来た。何やら皿を持っているが。

「それ……」

「ええ、エリザが残していったんです、種がまだありましたので……、
焼いてみました」

ルーフィンはテーブルの上にコトリと皿を置いた。焼きたての
クッキーが乗った皿を。

「余っても仕方が無いので……、どうぞ食べて下さい」

「いや、悪いよ……」

「いえ、元々僕は甘い物は苦手だったんですが……、エリザは僕に
どうしてもクッキーを食べて欲しかったらしくて、これでもかと
言う程毎日クッキーを焼いていた様です、……今となっては、もっと
ちゃんと食べておいてやれば良かったなと……、もうエリザはいないん
ですから……、今更遅いですよね……、あ、どうぞジャミルさんも、エリザが
喜んでくれると思います」

「……じゃあ、頂くよ……」

ルーフィンは苦笑いしながらクッキーを一枚摘む。ジャミルも一枚、
クッキーに手を出した。……直後。ジャミルの顔が硬直する……。

「う、うぇ……、しょ、しょっぺえ……、あの時出してくれたのと
大分味が……」

「ふむ、どうやらこれは失敗作の様です、全く……、エリザは生前から
おっちょこちょいで、……最後に残していったのがこんな……」

「で、でも、何とか食えねえ事もねえと思うよ、多少喉が渇くかもだけど……」

ジャミルはお茶をごくごく飲みながら笑う。それを見てルーフィンも笑みを浮かべる。

「でも、不思議です……、こうしてクッキーを食べていると、
いつも側にエリザがいてくれる様な気がします、ジャミルさん、
彼女はクッキーのレシピを残してくれていったんですよ、僕は
このレシピを宝物に、エリザの後を継いで、時々でもこれからも
クッキーを焼いてみる事にします」

「ああ……、んじゃ、俺はこれで本当に宿屋に戻るよ、またな、先生!」

「色々有り難う、ジャミルさん、お休みなさい……」

ジャミルは夫婦の住まいを後にし、仲間達の待つ宿屋へと戻る。
エリザ特製の塩クッキーをお土産に持って……。

「そうだったの……、本当にお疲れ様だったね、ジャミル……」

「……えううう~、エリザさん、行っちゃったんだあ~、でも……、ちゃんと
無事に成仏出来て良かったよおお~……」

「ちょっと帰りが遅いから心配はしてたんだけど……、そっか、
ルーフィンさんも町の皆とちゃんと仲良くなれたんだね……」

宿屋に戻ったジャミルを真っ先に迎えてくれたアイシャを始め、ダウドも
アルベルトも、ジャミルの話を聞き、エリザの心からの来世での幸せを
願うのだった。

「モォ~ン、くんくんくん……」

「ん?モンか……、このクッキー欲しいのか?エリザさんの最後の……、あ!」

ジャミルが言い終わる前に、モン、凄い勢いで袋ごとクッキーに
バリバリ食いつく。……見ていたアイシャ達は苦笑。

「ぎびゃあああーー!しょっぱいんだモンーーっ!!」

「だから人の話は最後まで聞けよ……、エリザさんが最後に作っていった
これは失敗作なんだよ、でも、妻の事を皆さんもどうか忘れないでいて
欲しいって先生がさ……」

「でも、何か味……、相当凄いみたいだねえ~……」

アイシャが急いでバケツを借り、モンに大量の水を飲ませている
様子を見て、またもダウドが苦笑……。塩クッキーを一気に全部
口に入れたのだから……、それは凄い事態。

「お口……、ひりひりなんだモン~……」

「けどさあ~、今回のジャミルの役どころってホントに凄いねえ~、幽霊が
見えちゃうなんてさあ、……こ、怖くないの……?」

「別に怖くねえよ、……あ、いるぞ、お前の後ろに……大口開けた……」

「……シャアアーーーっ!!」

「ぎゃあーーーっ!?」

ダウドの背後から……、大口を開けたモンがぬっと現れるのだった……。

「……もうーっ!ジャミルっ!構うのやめなさいよっ!モンちゃんもよっ!!」

「へえ~い……」

「もぎゃ~モン……」

「も、漏らした……、少し……」

……また騒がしくなって来た宿屋のルームに、アルベルトはやれやれと
言った表情で眉間にしわ寄せ、読み掛けの本をパタッと閉じた……。
そして、翌日。

「そうですか……、皆様は今日、この町を出られるのですね……、本当に
お世話になりました……、この町を救う為、お力を貸して下さったご行為、
町長として、心から感謝致しております……」

色々あったが、この町も無事救う事が出来、4人は次の場所へと又
旅立たなければならない。出発の前に、まずは町長の家に挨拶に
寄ったのである。

「私も……、泣いてばかりいましたが、漸くあの子のいない現実を
少しずつですが……、受け入れる事が出来ましたわ……、大切な娘の
思い出と共に私たち夫婦も強く生きて行きます、……実は、今朝早く……、
先生がいらっしゃいまして、主人にこの家の考古学の本を貸して
欲しいと……、尋ねて来たんです」

「ルーフィン先生が?」

「ええ、主人たら、最初は戸惑っていましたが、段々と先生とも
お話が乗ってきていたみたいで、見ているとまるで本当の息子と
実の父の様でしたわ、ふふ」

「こ、こら……、あまり余計な事はべらべら喋る物ではないぞ、
ジャミルさん達、私は仕事がありますので、こ、これにて……、
またこの町にいらっしゃった時はいつでも遊びに来て下さい!
歓迎いたしますよ!」

町長は顔を赤くし慌てて自室に引っ込んでいった。しかし、その顔には
微かに笑みが。ジャミル達はルーフィンと町長夫婦のこれからの良い
関係を願いながら家を後にした。……そして、次はルーフィンの研究室へ。

「やあ、ジャミルさん達……、今日出発なさるんでしたね、色々
ありましたが、本当にお世話になりました、ジャミルさん、僕は
あなたに改めてお礼を言いたかったんです、今まで自分の私欲の
為にしか行わなかった学問を、今度はこの町の人と世の中の為に
役立てたい、……心からそう思える様になったんです、今、こんな
気持ちになれたのも、閉じ籠もっていた僕をあの時外に連れ出して
くれたあなたのお陰です、何の役に立てるか今は分りませんが、
焦らずにその方法をじっくり探していこうと思います」

ルーフィンは笑顔でそう言葉を述べる。彼の仕事机の上には
クッキーが置いてあった。4人はそれぞれルーフィンと握手を
交わすと、研究室を後にした。

「ルーフィンさん、本当に凄く人柄が変わったね……」

「ち、違う人なんじゃないの……?180度違いスギ……」

「ダウドったら、失礼でしょ!でも、最初の頃とは全然違うわ、
凄く顔が活き活きしてたわね、エリザさんがもういないのは
悲しいでしょうけど、これからも頑張って欲しいなあ、私も
応援するわ!ね、モンちゃん!」

「モォ~ン!ツンツンおじさんが優しいおじさんに変身したんだモン!」

「だな……」

仲間達もそれぞれそう言ってくれ、ジャミルも安心する。そして、
エリザが旅立って行った空を改めて見上げる。……この町を
包んでいた暗い雲と空気はもう完全に消滅し、今日の空も
すっかり快晴であった。

「あはははっ!ついについについにやってくれちゃったネっ!
ジャミルっ!」

「うわ、出たし……」

昨日まで機嫌悪く、ジャミルを散々罵っていたガングロ妖精登場。
一変して今日は相当機嫌が良く、お花のオーラを飛ばしていた。

「アンタには見えないかもしれないケドさ、今、この町に大量の
星のオーラが溢れてんのヨ!これだけ沢山の人間を幸せにしたん
だから、アンタの天使としてのランクアップ上昇間違いないって!
って事は、今度こそ天の箱船だって動くハズ!よぉ~し、峠の道まで
戻るヨっ!ダッシュダッシュ!」

「うへえ~、また彼所まで戻るのかあ~……」

項垂れるダウド。次の目的地は天の箱船がある、また峠の道
カムバックらしい……。最後に……、町を出る前に4人は
エリザのお墓参りをしていく事にした。

「エリザさん、俺達もう行くよ、……色々ありがとな、先生の事は
もう心配ねえよ、大丈夫だよ……」

エリザの墓前の4人。町の花屋で買った花を墓に手向け、静かに祈った。

「モォ~ン、おねえさん、クッキーたくさんありがとモンでした」

ジャミル達の真似をして、モンもお墓に向かってちょこんと
小さく頭を下げる。

「……さあ、これで本当に俺らの此処でのお役目は完了だ、行こう……」

エリザとベクセリアに別れを告げ、4人は峠の道へと再び歩き出す。
ジャミルは町長に貰った羽根飾りバンドを装備品で頭に着けた。
そして……。

「……はあ~、パシリで動き回ってばっかり、いい加減にしてよお~……、
遺跡探索から更に色々あって……、オイラ達、本当にお疲れ様だよね……」

「ダウド、文句言わないんだよ……、疲れてるのは皆同じなんだから……、
僕らは冒険者なんだから……、動き回らなくちゃいけないのはRPGの
宿命だよ……」

「だってさあ~、アル……、ぶつぶつ……、鎌倉の大仏……」

峠の道、天の箱船がある場所まで距離が中盤に差し掛かった頃、
ヘタレダウドの愚痴炸裂。例え疲れていても滅多にそれを表に
出す事はない頑張り屋の女の子のアイシャに根性は完全に
負けているダウドである。

「俺、全然平気だけどな……」

「モンもお腹いっぱいだから今は平気モン!」

野獣ジャミルと、調子のいいモン……、揃ってバカの一人と一匹に
ダウドは顔をしかめた。

「……ホンっと、アンタ根性ないネ、大分分ってきたケドさ、ココまでとは
思わなかったわ」

「な、なっ!?」

サンディに言われ、ダウドはカチン。大体普段はジャミルの中に隠れて
殆ど何もしない癖に事あるごとに嫌味だけはしっかり落としていく
サンディにダウドは激怒する……。

「……いいよっ!そうやって人をバカにしてればいいよっ!ふんっ!」

「お、おい……」

急にダウドは早足になるとジャミル達よりも早く前に歩き出した。
よっぽどサンディの言った事が尺に触ったのか何だか。

「……ダウドが行っちゃったわ、私達も早く行かないとよ……」

「ふう、とにかく小岩山……、ダウドが動いてくれる気になって良かった……」

「あははっ!ヘタレ動かしちゃった!アタシってマジでエライっしょ!」

「……やれやれ……」

苦笑しながらダウドの後を追うアルベルトとアイシャ、……そして
ジャミルがその後から歩いて行こうとした、その時……。

「……いない……」

「だ、誰だっ!?」

ジャミルの前に、ローブを羽織った謎の女性が突然姿を現す。……女性は
ジャミルの方は視界に入らない様子。……うつろな表情で誰かを必死に
探している様であった。

「うわ、何この女!マジ、暗いんですケド!何かユーレーみたいだし、
アンタ相手してやれば?」

「あのな……」

サンディはまた身勝手な事を言う。しかし、ローブの女性は一言、
……あの人は此処にもいないと発した後、姿を消してしまった。

「何なんだよ……」

「おーい、ジャミルー、何してるんだいー?」

「早くー!モンちゃんも待ってるわよー!」

「モーン!」

「ジャミルが一番遅いよおー!」

気づくと、いつの間にか天の箱船がある場所まで辿り着いていた。
先に行っていた仲間達は箱船がある木の側でジャミルを待っている。
当然、ジャミルとモン以外、船は見えていないが。……しかし、
最後のヘタレの台詞には……、ヘタレを一発殴りたくなった。

「それにしても、さっきの変な女なんなワケ!?シカトかまして
くれちゃってさ、むっかつくー!まあいいや、そんな事より、
アタシたちも行くヨ!船に乗り込もう!」

「……」

ジャミルも箱船へと移動。だが、さっきの謎めいたローブの女が
何となく気に掛かって仕方がないのだった……。

「ほーれ、さっさとするする!アンタが船に乗ってくんなきゃ
始まらないんだから!」

「……分ってるよ!」

「はあー、それにしても……、相変わらず何処も何もない
空間なんだけど、オイラ大いに不安……」

「仕方ないよ、此処はジャミルとサンディに全て任せるしか……」

「想像の世界なのよ、私達には見えなくても、今、目の前に確かに
箱船はあるのよ、そうイメージしてみるわ……」

……お気楽な夢少女、アイシャにダウドはウンザリ、呆れてみる……。
そして、ジャミルが箱船に入った瞬間、船が最大級で大きくガタンと揺れた。


「おおっ!箱船ちゃんのこの反応!漸くジャミルが天使だって
認めてくれたってカンジ!?……いけるっ、これならいけるわっ!
今度こそっ!!」

「……ジャ、ジャミルが横綱から親方になったって事……、
あいたああーっ!!」

「よしなさいったら!2人ともっ!」

「はあ~……、けど、親方ランクになっちゃうとそれはもう
引退しちゃうんじゃないかなあ……」

「……アルもうるせーんだよっっ!!」

「後はあの操作パネルをちょちょいっといじってやれば箱船は
飛び上がるハズだよ!……いいっ!座布団!今度アタシの邪魔
したらアンタ絶対許さないカンね!」

「モォーンだ!」

して、操作パネルを前にサンディが4人を振り返った。

「アタシがこのパネルを操作すれば天使界に行けるワケだけど、
その前にやり残した事はない?今回だけ特別にこの優しいサンディちゃんが
待っててあげるケド!?」

「あ、じゃあ……、オイラ……、いだああーーっ!!」

「別に何もねえよ、さあ早く操縦してくれ……」

ジャミル、ダウドを押さえつける。逃走しない様、しっかりと。

「ジャミルの特大バカアホーーっ!!」

「よ、よしっ!じゃあいっちゃうからっ!後悔してももう遅いヨっ!」

「……」

サンディの言葉にジャミル達は息を飲む。そして等々、サンディが箱船の
操縦パネルのボタンを押した……。

「すすす 、……スウィッチ・オンヌッ!!」

「おおおおっ!?」

「きゃあ!?」

「ちょ、ちょ、ちょ……、まってええーーっ!」

箱船は更にガタガタ大きく揺れ始め箱船が浮かび上がる。ジャミルと
モンは船の内部が見えているが、他の3人は船の姿が見えていないので、
身体だけ空中に浮かんでいる様な感じなのである。覚悟はしていたが、
仲間達はやはり少々パニックに陥っている。冷静なアルベルトでさえ、
顔に大量の冷や汗が滲んでいた。

「よし、後はここをこんなカンジでいじってたっけ……、よしっ、動いたっ!」

サンディは更に操作パネルをガチャガチャいじる。……箱船は遂に空へ。
天使界へと向けて大きく動き出した……。

「おほっ!やるじゃんアタシ!は、こ、このくらいなら運転士として
あたりまえだっつの!よぉ~し、このまま天使界めざして出発しんこー!」

「はあ、お前ら大丈夫か……?」

念の為、ジャミルが仲間達を振り返ると……、やはり大変な事になっていた。

「怖くないっ!怖くないのよっ!怖くないんだったらっ!!」

「……いーやーだああああーーーっ!!……おろしてええーーっ!!」

「姉さん、ごめんなさい……、もうおねしょしません……、許して……、
うふ、うふふ、う~ふふふふ!!」

必死で目を瞑り、怖さを堪えているアイシャ。遊園地のアトラクションは
大好きそうな彼女も……、これは流石にきついらしい。何せ、無防備で
空に浮かび、移動している様な物なのだから。そして、喚いているダウド。
これはいつも通りで別に珍しくない。アルベルトは……、気絶。故郷の
サド姉に扱かれている悪夢を見ている様であった。

「……天使界、早く着いてくれるといいんだけどな……」

「モーン……」

……その頃、崩壊した天使界では……。

「神よ、聖なる世界樹よ……、どうか我らをお守り下され、このままでは
天使界は……」

長老オムイを始めとする天使達が無残に枯れた世界樹の前で必死に
祈りを捧げていた。

「……あ、あれは!」

天使達の頭上に天の箱船が現れる。箱船はそのまま天使達のいる
世界樹の前へと降りた。

「おおお、これは天の箱船……、神よ、我らの祈りを聞き届けて
下さったのですね……」

「長老、中から何やら声がします……」

「だ、誰か出て来る様ですよ!?」

「おおお、おおおっ!?」

突然現れた天の箱船、それは天使達の希望の光と救世主、天使達は
絶望の縁から解放されるかも知れない喜びで胸が溢れ始めていた。

「も、もういやらああーーっ!!オイラ実家に帰るーーっ!!」

「……お?」

「……ダウドおめえうるせんだよっ!静かにしてろっ!」

「……おおお?」

「ブギャー!モンそろそろお腹すいたんだモンーーっ!!」

「……?」

しかし、船の中からは……、とても救世主とは思えない……、数人は
中にいると思われる間抜けな騒ぎ声が聞こえてきた。

「お、おお……!?」

「ふい~、やっと着いたああ~、奴ら船が飛んでる間中、騒ぎっぱなし
だったからな、あー、頭いてえや……、帰りのルートも考えるとマジ
恐ろしいわ……」

「お主は……、ジャミル!ぶ、無事でおったのか!」

「あ、へへ、爺さ……、長老、久しぶりだね……」

箱船から姿を現した人物に長のオムイは驚きの声を上げ、見守っていた
天使達もジャミルの元へと駆け寄る。ちなみに、天使達に姿が見えて
いるのはジャミルと、モンのみで、アルベルト達は見えていない。
当人達も姿が透明になっており、ジャミルにも仲間の姿が見えなく
なっている。だが、かろうじて、何とか会話だけは出来る様だが……。

「やだやだやだーっ!何これ!もう何がどうなってるのよーっ!」

「これじゃどうしようもねえな……、なあ、お前ら、其処にいるんだろ?」

「ああ、いるけど……、此処じゃ僕ら全くジャミルの姿も何も
見えないんだよ、困ったなあ……」

「悪いけど、暫く其処から動かないでいてくれや、用が済んだら
また戻ってくるからさ」

「うん、その方が賢明かな、じゃあ、今回は僕達このまま此処で
待たせて貰うよ、何も見えないんじゃ動けないし、どうしようも
出来ないもの……」

「分ったわ、暫くお休みなのね……、大人しくしてるわ」

「……透明人間怖いよおお!」

「はあ……」

混乱する仲間達をなんとか宥め、ジャミルはもう一度オムイと
向き合った。オムイは不思議そうな表情で、見えない誰かと会話
しているジャミルを不思議そうに眺めてはいたが。しかし、生身の
人間が此処に訪れただけでも凄い事ではあるが。

「おんし……、何故箱船に……?して、お前の他にも何か声が
聞こえた様だが、乗っていたのはお主一人だけであろう?」

「あ、こ、こいつだよ、こいつ!」

「モン!」

ジャミルは急いでモンを抱き抱え人間界でダチになったんだよと説明する。

「モンですモン!おろしくモン!」

「……何じゃそれは……、ま、まあよい、しかし、お主のその姿は一体……、
天使の翼も……、頭の光輪も無くなっておるではないか……」

「話すと長くなるんだけどさ……」

「……なんと、人間界へ落ち、翼を無くしたお前を天の箱船が送り届けて
くれた……、じゃと……?して、他の天使達はどうしたのだ……?まさか、
おんし一人だけか……?」

「……」

「い、いや……、すまぬ、お主も疲れておるじゃろう、まずは身体を
休めなさい、話はそれからじゃ、そして地上で何が起きているのか私達に
教えておくれ、さあ、こっちにおいで……

「うん、長老、ありがとな……」

ジャミルとオムイ、天使達は去って行く。……此処では姿の
見えない仲間達は会話と足音だけをその場で只管聞いている
だけしか出来なかった。

「ジャミル……、行っちゃったみたいね……」

「仕方ないよ、僕らは此処で待つしか……」

「あう~、こんな不便なの嫌だよお~……、もう何なのさあ~……」

……ジャミルが人間界から無事に戻ったと言う知らせは天使界中に
伝わった。ジャミルは人間界に落ちた時に、頭の光輪、翼、そして、
天使の力も全て失ったこと、そして今、人間界で彼方此方に落ちている
異変のこと、……長老の間にて、全て長のオムイに話す。

「……そうか、あの時の邪悪な光は天使界だけでなく、人間界にも
影響を及ぼしておったとは……、おんしも覚えておろう?女神の
果実が実ったあの日を……」

「……」

「地上より放たれた邪悪な光が天使界を貫き、そして……、天の箱船も
バラバラになり、実った女神の果実全てが地上に落ちてしまった様なのじゃ、
ジャミル、お主と共にな……」

「……うん」

「あの後……、地上に落ちてしまった天使や邪悪な光の原因を探るため、
何人もの天使が地上に降り立ったが……、ジャミル、お前の他には誰も
戻ってこんのじゃよ……」

「お、俺だけ……?」

「うむ、行方不明の皆の事は気がかりじゃが、お主だけでも無事に
戻って来てくれて、本当に良かった……」

「……長老……」

オムイはジャミルの肩にそっと手を置く。……そしてジャミルを見つめ
静かに頷いた。

「お前はまたこれから世界樹の元に赴き、戻れた事を感謝し、祈りを
捧げなさい、もしかすれば、お主の失われた力、天使の翼、光輪……、
世界樹の力が蘇らせてくれるかも知れぬ……、さあ行きなさい、
守護天使ジャミルよ、お主に神と聖なる力の守りがあります様に……」

「……」

「モーンモン、あ、ジャミル出て来たモン!」

オムイに祈って貰った後、ジャミルは長の間を後にする。部屋の
外ではモンがジャミルを待ちながら天使の一人と一緒に遊んで戯れていた。

「ああ、モン、話は終わったよ、また世界樹の処に行くんだ、戻ろう……」

「モンーっ!このお兄ちゃんが遊んでくれたモン!」

「はは、この子可愛いね、モンスターなのにこんなに懐いちゃって……、
しかも天使界に来ちゃうとか前代未聞だよ、……やっぱりジャミルって
何か変な電波と言うか、何かを呼んじゃう変わったオーラがあるよね!」

「変モンーっ!」

「……るせー!おい、モン、お前も同調してんじゃねえってのっ!たくっ、
オラ行くぞっ!」

「モォ~ン!ばいばいモン!」

「ははは、ばいばい!」

天使は苦笑いしながら蟹股で歩いて行くジャミルを見送りつつ、
モンに手を振った。

「……さてと、これでアタシも天使界にアンタを送り届けるって
言うお役目、無事果たせたワケね、なんかアンタもこれからまた
大変そうだけど、頑張ってね、一応応援しといてあげるわ、そんじゃ
アタシもやることあるから、ジャミル、短いつきあいだったけど、ま、
これからもおたがいガンバロ、んじゃ、ばーい♪」

「……あ、おい!……い、行った……のか?」

サンディはジャミルの身体から離れると何処かへ飛んでいった。
……一応、これでうるせー奴からは解放されたのかな……、と、
思ってみるが。

「ジャミル、……本当は寂しいモン?」

「ば、バカ言うなよっ!お前はっ!……よし、デコピンするぞ?」

「……イギャーモン!ジャミルのバカモン!」

「……あのなあ~……」

ジャミルはブツブツ言いながら、何となく複雑な気分で、再び世界樹の
元を目指しモンを連れて歩き出した。

「う~ん……」

「ジャミル、どうかしたモン?」

「折角だから……、情報収集もしていくかなと思ってさ、俺がいない間、
此処の皆はどうしてたのか……、色々聞いてみるかなと……」

「モォ~ン」

ジャミルは世界樹の元に行く前に天使界の事も聞いてみて回る事に。
そう考えて、いつの間にかある場所まで歩いて来ていた。……あらゆる
情報が沢山詰まった図書室。

「……うえ」

……アルベルトを連れて来れば奴は鼻血を出して喜んだであろうが。
だが此処では普通の人間達は行動出来ない為、無理だが。ジャミルは
中に入るのをためらったが、此処には守護天使イザヤールの親友でも
あるラフェットが普段は仕事をしている。彼女はジャミルが地上に赴く前、
とても心配してくれていた。

「……ちわ」

「あっ、ジャミルだっ!」

「まあ、ジャミル!……ああ、無事で本当に良かった……」

「えへへ、ご無沙汰……、かな……」

中に入ると、ラフェットの弟子の少年とカウンター受付の
女性天使が出迎えてくれた。だが、ラフェット本人の姿は見えない。
ジャミルは心配になるが……。

「ねえねえ、ジャミル、イザヤール様は……、一緒じゃないの?
えっと、ねえ~、あの日ね……、ジャミルが人間界に落ちた後に……、
な、なんでもないよ……、それより、ラフェット様は多分下の階に
いる筈だよ、元気な顔を見せてあげて!」

「ウォルロ村の守護天使ジャミル、本当に良く無事で戻りました……、
天使の力も何もかも全て失っても人間達を救うなんて……、あなたは
本当に天使の鏡だわ……」

「い、いや、俺は別に、そんな……」

「柄にもなく、照れております……、モン」

「……モン、やっぱ一発デコピンしておくか?」

「嫌プップーモン!」

「あの日、天使達は長オムイ様の命で、地上に落ちた仲間の天使達や
女神の果実を探しに人間界へと降り立ったのですが……、それきり
誰一人として戻って来る事はありませんでした……、でも、ジャミル、
あなたがこうして無事に戻って来たのですから、きっと……」

「……」

ジャミルは図書室を後にする。取りあえず、下の階にラフェットが
いる様なので会って行こうと思った。……途中で天使達から色んな話を
耳にする事となる。……天使界は現在、世界樹の力でどうにか持ち堪えて
いるが、既に限界状態である事……、オムイは地上の何処かに邪悪な光を
放った主がいると考え、邪悪な光の源を突き止める為、多くの天使達を
地上へ派遣させたが……、結局、その天使達も皆失ってしまう事となり、
……天使界にはもう僅かな天使達しか残されていない現状だった。
……人間は愚かな生き物、地上に落ちた聖なる女神の果実がもしも
邪悪な人間達の手に渡れば大変な事になってしまう……らしい。そして、
天使達との話の中で、……エルギオス……、再びこの名前を頭に刻む事となる。

「あんなに沢山の天使が地上へと降り立ったと言うに、戻って来たのは
お前だけ……、エルギオス……、これではまるであの時と同じじゃ
ないか……、い、いや、きっと、みんな手こずっているんだよ、そうだよ、
それだけさ……、それよりも、ラフェットを探しているんだろう?其処の
扉の奥に入って行くのをみたよ、早く顔を見せてあげなよ、お前が
行方不明の間、凄く心配していたよ、じゃあな……」

「そうか……、随分と心配掛けちゃったみたいだなあ、に、しても、
エルギオス……、何処までタブーなんだよ……、そろそろ色々ともう
避けられなくなってくる時期だよな……」

……ジャミルはブツブツ言いながら、ラフェットがいるらしき
部屋の扉を開く。中には確かにラフェットがいた。……彼女は
文字が刻まれた石碑の前で祈りを捧げていた。

「……偉大なる天使……、エルギオスよ……、どうか……、ジャミルと
イザヤールが無事にお戻り下さります様……、どうか……」

「ラフェット……、俺だよ、ジャミルだよ……」

「……ジャミル?その声は!……ああ!」

ラフェットは声に気づくと顔を上げ、そして此方に急いで駆けて来た。

「モーン!」

「あ、あああ?……ジャミル、あなた、話は聞いていたけど、
地上に行ってから随分と本当に容姿が変わっ……」

「それ、俺じゃねえから、俺こっち……」

「あ、あああ!ご、ごめんなさい!つい焦ってしまって!私ったら……、
でもジャミル、本当に無事で良かった……」

「うん、色々心配掛けてごめんよ、俺は元気だよ、取りあえずさ、
んで、こいつはモーモンのモン、地上でダチになったんだよ」

「モンです、こんにちはモン!」

「まあ……、この子モンスターなのに……、どうして天使界に……?
それに、とっても純粋で優しい子だわ……、温かい気持ちが伝わってくるわ、
不思議ね……」

「……モォ~ン……」

「い、いや……、純粋かどうかは……、ちょっと目ェはなせば屁ェするわ、
悪戯ばっかしてるしよ……」

「……ブーモンだ!」

……それは明らかにお前に似たんである。

「それにしても……、ふに、ちょい」

「モ、モン……」

ラフェットに腹をくすぐられ……、モンは顔を赤くしている。ラフェットも
モンの腹のぷにぷにの触り心地がいいのか……。

「モンの事についてはちょっと聞いて貰いたい事が……」

「ふにふにふに、ふにふにふに……、ここの処……、い、いやああ~ん……、
も、もしかしたら……」

「あのさ……」

「は!やだ私ったら!つい病み付きになりそうだったわ!」

壊れそうになったラフェットは慌ててモンをジャミルに返す。
……顔を赤くしながら……。

「モンがどうして俺らと会話出来るのか、そして此処に来れたのかは
追々話すよ、アンタになら話して大丈夫だよな……、此処の天使達にも
まだ誰にも言ってねえのさ、オムイの長の爺さんにもさ……」

「え、ええ、聞かせて頂くわ……、ねえ、イザヤールは……一緒じゃないの?」

「い、いや……、俺もあの時……、地上に落ちてから……、一切
何も分らなくて……」

「そっか……、実はね、あの日、イザヤールは地上に落ちたあなたを
探しに……、地上に降り立ってから戻って来ないのよ……、ご無沙汰なの……」

「俺を……探しに……?」

「ええ、私ね、……あなたとイザヤールが無事に戻って来れます
ようにって……、毎日この石碑の前で祈りを捧げていたの……、そう、
エルギオスの石碑……、エルギオスの事を忘れぬ為……、作られた物よ……」

「エルギオス……」

天使達の間で幾度となく、タブーと聞いた言葉、エルギオス……、少しだけ
その言葉の謎をジャミルは此処で漸く知っていく事となる……。

zoku勇者 ドラクエⅨ編 13

zoku勇者 ドラクエⅨ編 13

SFC版ロマサガ1 ドラクエⅨ オリジナルエピ 下ネタ オリキャラ ジャミル×アイシャ クロスオーバー

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-11-02

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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