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内容を一部、加筆修正しました(2024年11月5日現在)。




朝、日当たりの良さに満足しつつも、凪いだ感じの外の気配が気になったので鍵を外し、窓を開けて、寝巻き姿のままベランダに出る。


高台に建っている分、階数に見合わない見晴らしは大雑把な情報で「いつも」を切り取る。それらを寝ぼけ眼で受け取るから、その内容は大体の印象でしか記憶されない。不十分な何かで、異変がどうだとか口にするのはなぁ。そう気付ける程度に覚めていた頭で、じゃあ意味ないか、と独りごちた響きが叩く手すり。飛び立つ気配はない。涎みたいな雨も落ちて来ない。どこまでも突き抜ける青の天気。天国まで続きそうな白の階段。じゃあ、やっぱり、何かあったんだ。


そう聴こえた。未来からの、内線みたいに。



昼。屋上の狭いスペースで足袋ソックスをぷらぷらさせて、そよ風すら吹かない大気に向かって、めまいを覚えない程度に立てた指を、ぐるぐる回す。


平地の一角に建つビルのテナントから出てくる人たちの、笑い声とも怒鳴り声とも区別ができない音。それらを聞いて傾ける、ペットボトルの中身を全部飲み干すまでの休憩時間、巷を賑わせる都市伝説級の怪物が頭上を横切り、遠くに去っていった。こんなホラ話を面白おかしく打ち込めば、イイね!の数で地面が揺れる。それを笑わない真面目さで、愛だの恋だのを飴みたいに頬張る。何味でも良かった。何にでも笑うから。そうやって噛む。火を吹く前の儀式。怒りなんてくそっ喰らえ、だよ。


ね?でしょ?灰色ばっか。簡単、簡単。




夜、深まった分だけ目撃者が少なくなる、そんな隙をついて踊り明かす大通りの端っこで、夢も幻も伝説も風に吹かれていなくなれって、密かに願う。


新品に見える青いポリバケツのごみ箱の蓋ががらんごろんと歩道を転がっていく、その原因となったカラスが大きな羽を広げてバサバサッと飛び立ち、真っ黒な空に飲まれていく、その近くで鳴るクラクション、驚けずにいる私たちの手の内で閃く短剣その他模造刀の数々が職務質問に伴う所持品検査にあい、大成功に終わった公演の熱い詳細がそこら中に広がる、広まる。致命的。


巣作りの途中みたいな寝癖のある頭、それをふわふわと動かして辺りを彷徨う、半分人間みたいな顔で、もう半分をケモノに寄せて、だらんとしたTシャツの中の、だらしない下着にまで垂れる汗が伝える触感。身元証明書となる免許証を仕舞った折り畳み財布の薄さ。それらがお尻の下あたりにまで続いたから、任意同行を求められる前に汚いスニーカーの片一方ずつで、群体の一部として、さて、どうしようか。


想像こそ細やかに。それが「我ら」の全てだから。

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  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-11-02

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