zoku勇者 ドラクエⅨ編 12
いつもあなたと……編3
翌日……。悲しみの中、しめやかにエリザの葬式が行われた。
彼女の亡骸は丘の上にある墓地へと埋葬された。町は平和と
平穏を取り戻したが……、人々はまた新たな大きな悲しみの中へ
包まれる事になった……。
「ベクセリアの民は試練を乗り越えました……、しかし
その結果……、我々はかけがえのないもの……、エリザさんを
失いました……、この犠牲は余りにも重く、そして……、我々の
心にのし掛かって来ます……、ですが彼女は私達に人がいかに
強くあれるかを教えてくれました、残された私達は彼女の言葉に
学び悲しみを乗り越えていかなくてはなりません、さあ、うれいなく
彼女が天に召されますよう、どうか祈りましょう……」
「……」
神父の言葉に悲しみの沈黙が走る。町の皆は皆涙を流しながら
黙祷を捧げエリザの冥福を祈った。町民の後ろの方の列で
エリザの葬式を見届けているジャミル達も……、静かに目を閉じた。
「モン……、クッキーのおねえさん、遠い遠いお空に行ったんだモン、
モン、分かるモン、悲しいモン……、お胸がずきずき痛いんだモン……」
「モンちゃん……、皆も私も悲しいのよ……、でも、一番悲しいのは……」
「モォ~ン……」
アイシャは涙を零しながら静かにモンを側に抱き寄せた。アルベルトも
ダウドも……、エリザの納棺から……、先程の神父の言葉まで一言も
ずっと言葉を交わさず無言で彼女の旅立ちを見守っていた。ジャミルは
そんな仲間達の様子を振り返りながら只管心配していた。一仕事終えて、
漸く休めると思った矢先にこんな悲しい出来事が起きてしまい、心までも
休める状態でなくなっていた。……結局、あれから4人とも一睡も
していない状態である……。
「……ううう、エリザ、……エリザあああ……」
「しっかりしなさい……、しかし、ルーフィンの奴め……、
娘の最後にも立ち会わんで一体どういう心境なのだ……」
……エリザの墓の前で泣き崩れる奥さんを町長が必死に慰める。
ルーフィンはあれから研究所の方に引き籠もってしまったらしく、
エリザの葬式にも決して姿を見せようとしなかった。彼女の死を
受け入れられないのか、……認めたくないのか……。ジャミル達も
心配はしているが……。
「なあ、俺、おっさんの処へ行ってちょっと様子みてくるわ、
このままじゃエリザさんがあんまりだよ、……辛いのは分かるけどよ、
……何考えてんだよ!」
「あ、じゃあ、僕らも……」
「いや、お前らは駄目だよ、ずっと寝てねえんだから、少しでも
休んどけよ!大丈夫さ、俺が行ってくるから!それに余り大勢で
押し掛けても逆効果だしな……」
「でも、ずっと休んでいないのは君だって同じじゃないか、目の下の
クマ凄いよ……」
「わ、分かってるよ、少しだけだよ、様子見たらすぐに宿屋に
戻るからさ、特にそこの……、ジャジャ馬が心配でよ………」
アルベルトもダウドもアイシャの方を見る。特に彼女はずっとぐしぐし、
泣きっぱなしの為、疲労の上に悲しみが重なっていた為、ジャミルは
此方の方もとても心配していた。
「な、何よう……、大丈夫だったらっ!ふぇ……」
「いや、全然大丈夫じゃないよお、目が腫れて凄い顔になってるし……」
「そうだね、じゃあジャミルに任せるよ、アイシャは僕らが見てるから……、
でも、すぐに戻ってくるんだよ、早く身体を休めないと……」
「ああ、頼む、モンもな、アイシャに付いててやってくれよ……」
「モォ~ン、分かったモン!」
「ほ、本当に大丈夫なんだからね!……平気だったら!……ぐす……」
「アイシャ……、ほらほらまた……」
アルベルト達は涙が止まらず泣き崩れて困っているアイシャを支えながら
宿屋の方へと移動して行った。葬儀も終わり、人々は引き上げて行き、
その場は余計に静けさが漂う。ジャミルは新しく建てられた墓の前に
手向けられた花束を無言で見つめた……。墓には文字が刻まれている。
……我が愛娘エリザ、此処に眠る……、願わくば彼女の魂に永久の安らぎが
あらん事を……
「……」
「あははっ!アンタしけてるぅー!なーんてにあわネーツラなのっ!」
「サンディ……、出たな……、んな時に……」
久々に飛び出したガングロ妖精。異様に静かな雰囲気のジャミルが
可笑しいと茶化す。
「笑いたきゃ笑えよ……、俺だってよ……」
「あれ?怒んないの?めっずらしー!に、してもこの暗い雰囲気、
折角町を救ったってのにサ、こんなんじゃ星のオーラなんて
出てこないよネ!もう!アタシ達の頑張りって一体何だったのヨっ!」
「お前、何もしてねえだろが……」
「よお~し、ジャミ公、こうなったらせめてチョーチョーんとこ
行ってお礼をたんまりせしめてくるのよっ!」
「……お前なあっ!」
場を弁えないサンディの暴言にジャミルは切れそうになるが。
其処に再び町長が現れた。
「あ、あっ……」
「ジャミルさん、申し訳ありません、あなたにお礼を渡すのを
忘れておりましたので、大した物ではありませんが、どうぞ
お受け取り下さい、私達の……、せめてもの感謝の気持ちです……」
「いや、だから俺ら……褒美が欲しくて遺跡に同行した訳じゃ……」
しかし、町長はジャミルに感謝の気持ちとして、お礼に装備品の
羽根飾りバンドを手渡すと屋敷に戻っていった。……愛する娘の
突然の死で町長も気力を無くし、相当疲れが目に見えているのが
嫌でも分かった。
「エリザ……、お前はあんな男と結婚して本当に幸せだったのか……?
……いや、今更こんな事を問いても仕方ないだろうな……、もうお前は
いないのだから……」
「……」
「うわ……、それがお礼の印とか……?超シラける~、そんなもの
貰ってもアタシは嬉しくもなんともないヨ!ぜんぜんむくわれない
っつーカンジ!はあ、エリザってコが生きてりゃ、今ごろ星のオーラ
ガッポガッポ大もうけだったのにサ!今からでもどうにかなんないかな?
ねえ、アンタ何で死んだのヨ!」
「……」
対サンディ用、特大SPデコピン発射!!
「……いっ、たあああ~いっ!ちょっとアンタっ!何すんのヨっ!
ううう~、よっ、くも……、この美肌サンディちゃんのおでこに
向かってデコピンかましたねっ!ジャミ公のくせにィィィっ!!」
「うるせーっ!!幾ら何でも言っていい事と悪ィ事があんだよっ!
デコピンだけで済ましてやったんだから感謝しろっ!!……今すぐ
エリザさんに向かって謝れっ!!」
ジャミルは怒り心頭でエリザの墓標を指さす。しかし、サンディは
ジャミルを見ると余計逆ギレし、更に暴言を噛ました。
「ふんっ!ブチブチ切れてばっかでイヤんなっちゃう!
もういいわヨーだっ!アンタ、次はもっと真面目に星の
オーラ集めなさいよネッ!!バーカ!!」
サンディは発光体になると姿を消した。この怒りとやるせない
気持ちを一体何処にぶつけたらいいのか……、ジャミルには
分からなくなって来ていた。
「あの、もしもし……、お兄さんや……」
「……?う、うわっ!?」
誰かがジャミルの肩を突く。振り向くと其処にいたのは、
この墓地付近をうろうろ散歩しているらしき、爺さんの
幽霊だった……。
「のう、あんた、わしらが見えるんじゃろ?お仲間が増えて
喜んでいいのか分からんが……、エリザちゃんの話をきいて
やってくれんかの?」
「はあ?エリザ……、エリ……、い、いいいいっ!?」
「やっほー、ジャミルさーん!こんにちわー!アハハ、私、死んじゃい
ましたあー!でも、ジャミルさんて本当に私の事が見えるんだあー!
もしかして、ジャミルさんってれーのーりょくしゃ!?」
頭上を見上げると……、宙に浮かぶエリザの姿……。彼女は既に死んでいる。
と、言う事はもう彼女も幽霊である。しかし、自分に向かって手を振る
彼女の姿は悲しみを感じさせない程、異様に明るかった……。
「え~っと、それじゃあ……、コホン、ジャミルさん、私の姿が
見えちゃう不思議なあなたに!……お願いがあるんです!」
「お、俺に……?」
ジャミルは先程まで荒んでいた気分が、異様に明るい幽霊さんの
姿を見て何だか気が抜けてしまった。そして、一体何が起きて
いるのかよく理解出来ず。むしろエリザは死んだ後、病魔から
解放され余計に元気になっている様にも見えた。……決してそんな
事はないが。
「どうかルーくんを立ち直らせるお手伝いをお願いします!
ルーくん、自分の所為で私が死んじゃったと思ってずっと
自分を責めて塞ぎ込んじゃってます、……このままじゃ
ルーくん駄目になっちゃう!……私も心配で旅立てません……」
今度はエリザは落ち込みだした。しかし、自分に一体何が
出来るのか……、困ってジャミルは頭をぽりぽり掻いた。
「ふふ、その仕草!ルーくんも照れて困ると頭をかいて
誤魔化すんですよ!もー、本当にルーくんてばかわいいん
ですよう!キャ!」
しょげたと思ったらころっと変わって今度ははしゃぎ出す。既に
死んでいるにも関わらずエリザは生前と変わらず、お茶目な幽霊と
化していた。しかし、このままでは彼女は未練が残って成仏出来ず
彷徨う浮遊霊になってしまう恐れもある。ジャミルは一呼吸置くと
エリザと向き合うのだった。
「……エリザちゃんをわしらと同じにしてはいかんよ、どうか
エリザちゃんの願いをかなえてやっておくれ、お兄さん……」
「分かってるよ、爺さん……、んで、俺に出来る事って何かな?
出来るだけやってみるけど……」
「わ!さっすが、ジャミルさん!それじゃあ、えーとですね!まずは
ルーくんの研究室に行ってみましょう!肝心のルーくんが
出てこないんじゃどうにもならないですから!大丈夫!
私に任せて下さい!」
「はあ……」
「さ、行きましょう、こっちですよー!」
エリザは宙に浮かんだままふよふよと移動する。……ジャミルは
その後をついて行った。
「あー、お空が飛べるって素敵ですねー!ルーくんにも教えて
あげたかったなあー!一緒にお空のデートがしたかったですー!
残念!」
いや、現世人にそれは無理だろとジャミルは思う。しかし、
ジャミルは段々と天然ボケしてきたエリザに頭痛がしてきた。
やがて2人はルーフィンが引き籠もっている研究室の前まで
やって来た。
「えーと、ルーくん……、いますね……」
「けど、駄目だよ、やっぱり鍵が掛かってる……」
「ルーくんに出て来て貰うには……、ノックがコツですよ、
えーと、あっ!」
「……ノック?」
ジャミルはエリザの説明を最後まで聞かず、試しにドアを
乱暴に叩いた。……当然ルーフィンは出て来ない。
「駄目ですっ!こうですよ、……こう!リズミカルに可愛く!
とんとんとんと!」
「こう……?と、とんとんとんとん……」
「笑顔でにっこりノックしましょう!」
ジャミルは暫くエリザからノックの特訓を受ける羽目に……。
俺は一体んなとこで何をやってんだと情けなくなった直後。
ノックが上手くいったのか、何と、中からルーフィンの声が
したのである。
「そのノックの音……、エリザ……、エリザなのかいっ!?」
ガチャリとドアが開く。漸く天の岩戸からルーフィンが
出て来たが、ルーフィンはドアの前に立っていたジャミルの
姿を見、……顔を曇らせた……。
「あなた……、ジャミルさんじゃないですか……」
「や、やあ……」
「今のノックはジャミルさん、あなたがやったんですか?
エリザのノックの真似をするなんて!僕をからかうにも
程がある!ふざけないで下さい!二度とこんなタチの悪い
悪戯は金輪際止めて頂きたい!!」
「いや、あんたと話があって……、って、俺は何話しゃ
いいんだい……」
「ルーくん……」
傷ついているルーフィンはジャミルにからわかれたと勘違いし、
相当激怒している様子。ジャミルはエリザの方を向いて助け船を
求めた。愛する妻はすぐ側にいるのにルーフィンはもうエリザの
姿を見る事は叶わず、2人はもう直接会話をする事が出来ないので
ある……。
「あ、先生ーっ!」
「……?」
其処へ救世主現れる。町の代表者として、1人の男性が
ルーフィンへお礼を言いに来たらしい。男性は町の皆が
ルーフィンが流行病を止めてくれた事にどれだけ感謝を
しているか、ルーフィンへと必死に言葉を伝えている。
「いや、僕は、別に何も……」
「みんな先生の事を心配しているんだよ、俺たちで出来る事があれば
何でもしようって、……先生には早く元気になって欲しいのさ、みんなを
助けてくれた先生に今度は俺たちが恩返しさせて貰う番だよ!」
「僕へ……」
エリザは男性とルーフィンが話をしているその間に、ジャミルへと
再び話し掛けた。
「ジャミルさん、お願いです、私の最後の言葉として、ルーくんに
伝えて下さい、ルーくんが病魔を封印してくれたことで、元気になった
人たちに会って欲しいって私が言っていたって……」
「分かった……」
やがて男性も帰って行く。ジャミルは急いで先程のエリザの言葉を
ルーフィンへと伝えると彼は狐につままれた様な表情をしていたが……。
「そうですか……、エリザが息を引き取る直前に……、そんな事を……」
漸くルーフィンも落ち着いてジャミルと話をする様になってくれたが。
それでもまだ何処か迷いは消えない様だった。しかし、表情が先程よりも
穏やかで優しい感じに見受けられた。
「しかし……、僕は誰が病気になっていたのかも分からないし……、あの時は
お義父さんを見返す事ばかりに気を取られていた……、ジャミルさん、僕を
今から、病気に苦しんでいた人達の処へ案内して貰えませんか?今更ですが、
どんな人達が流行病でどんな思いを抱えていたのか、そうすれば
病気になったエリザがどんな気持ちでいたのか……分かると思うから……」
「おっさ……、先生……」
「ジャミルさん、私からもお願いします……、それが今のルーくんに
とって……、大切な……必要な事だと思うんです……」
「ああ、一緒に行こう……、先生……」
「ジャミルさん……、宜しくお願いします……」
ジャミルが差し出した手をルーフィンが笑顔で握り返す。それは初めて
見せた笑顔。独りよがりで傲慢だった彼は大切な宝物を失った。しかし、
もう一度……、新たな道へと一歩ずつ進み出そうと歩き始めていた。
ジャミルとルーフィンは、まずは丘の上の教会横の墓地へ。ルーフィンは
まだ建てられたばかりの真新しい墓に愛おしそうにそっと触れた。
「エリザ、遅くなってごめんよ、……君の願い通り、かつて流行病に
かかっていた人達を尋ねて回っている処だよ、また、報告に来るからね……」
「ルーくん……、私はここだよ……、側にいるのにお話出来ないって
やっぱりとっても寂しいな……」
「エリザさん……、何か伝える事があれば、少しぐらいなら、俺が先生に
言葉、伝えるけど……」
「ううん、いいんです……、大丈夫ですよ、ジャミルさん……、さ、
皆さんの所へルーくんをお願いします!」
エリザはジャミルの顔を見て首を振る。自分はもうすぐルーフィンの側を
本当に離れなければならない。その時が訪れるのを覚悟はしている様だった。
「お待たせしてすみません、ジャミルさん、さあ行きましょう……」
「あ、じゃあ……、最初に宿屋に行ってみるか、彼所には確か
病魔で足止め食らって動けなくなった新婚旅行の夫婦がいた筈さ」
「分かりました……」
「いきましょー!」
エリザは明るく振る舞い再び笑顔を見せた。2人ともう1人……、は、
宿屋へ向かう。
「お、おおおっ!先生!ルーフィン先生っ!!」
以前に宿屋のカウンターでどんよりして動かなかった店主も、すっかり
元気になっており、喜んでルーフィンを出迎えた。
「先生!……先生のおかげでお客さんもまた此処に訪れてくれる様に
なりまして、……本当に有り難うございました!!」
「いえ、僕一人の力だけでは……、とても病魔を封印する事など、
到底できやしませんでしたよ……、ジャミルさん達の素晴らしい
護衛のおかげです……」
「へ、へっ!?」
「ほおー!こんな小さな子が先生のガードマンを!大したもんですな!」
ルーフィンは静かに笑顔を浮かべるとジャミルの方を見た。
……遺跡の時はあれだけ4人に暴言を吐いていたルーフィンだが、
自分を守ってくれた事に今は心からジャミル達に感謝が出来る様に
なっていた。
「え、えと、アル達は部屋か、疲れてまだ寝てんだなあ……」
「ジャミルさんたら、てれなくてもいいんですよう、くすくす……」
エリザに笑われ、赤面したジャミルは相当困っているらしく、いつもより
倍の強さで、高速で頭をぼりぼり掻いた……。
「あ、もしかしてあなたが流行病を治してくれたってゆー、ルーフィン
せんせーですか?」
此方に来るバニーガールの女性。此処で足止めを食らって
動けなくなっていた新婚旅行カップルの若い奥さんの方だった。
「ええ、あなたも……病気に?」
「いいえ、病気になっちゃったのはダーリンの方、今はすっかり
容体が落ち着いて、ベッドの上で鼾かいてねてますう、ほんっと、
もうダーリンとお別れになるかと思っちゃった、せんせー、ありがとう!」
「いいえ、私はそんな……」
「よくみると、せんせーって可愛い、大したお礼も出来ないけど、
ぱふぱふぐらいならダーリンも許してくれるはず!」
バニーガールの女性はルーフィンに向けて、思い切り巨乳をさらけ出す……。
「……わわわっ!や、やめて下さいっ!!」
「ん~、せんせーってウブ?命の恩人だし、ダーリンがいなかったら私、
せんせーを完全にとりこにしちゃうかも!遠慮しないでっ!!それそれー!」
……バニーガールは困っているルーフィンに向けて更にデカ胸を
突き出すのだった……。
「な、なによっ!嫌らしいわね、この女っ!ルーくんは純情
なんだからね!こらあーーっ!ルーくんからはなれろおーーっ!!
このおっぱいおんなーーっ!きいーーー!!」
エリザは怒って後ろからバニーガールの女をぽかぽか殴る。
……当然バニーガールは痛くもかゆくもないのだが……。
「純情……、の割には鼻血が出てるし……、あっちの方も……、
やっぱおっさんも男だったんだなあ~……、プッ」
「ジャミルさんっ!!……うるさいですっ!!」
「は、はい……」
「きいーーー!ルーくんのアホーーっ!!」
「……」
……取りあえず此処での聞き込みは漸く終わる。2人は宿屋を
後にするが……。
「はあはあ、つ、次の場所へ……、いってみませう……」
「先生、鼻血の方は大丈夫かよ……」
「な、何を言ってるんですか……、僕は鼻血など出していませんっ!!」
「……そうかね……」
「そうですっ!!」
ジャミルはちらっと空中を見上げた。……上には腕組みをして
激怒しているエリザの姿。
「おい、先生……、ちゃんと責任とれよ、どうすんだいあれ……」
「だから何なんですかっ!……あ、ああ、また……、ですがこれは
決して血ではありません!も、持っていた血のりが零れたんです!」
「……駄目だこりゃ……、滅茶苦茶な言い訳だし……、無理あんぞ、
先生……」
「ぷんぷんのぷんぷん!!」
困った状態のまま、2人は次の場所へと足を進める。気がつくと、
いつの間にか町長の屋敷周辺へと来ていた。
「どうする?寄って行くかい?」
「いえ、此処はやめておきましょう、僕はまだお義父さんに
会わせる顔がない、でも、いつか気持ちが落ち着いたらその時は……、
お酒でも飲みながら、エリザの思い出話など語り合いたい物です、
お義父さんと一緒に……」
「先生、アンタマジで変わったなあ……」
「そうでしょうか……?」
「変わったよ……」
「そうですね、だとしたら……、きっと……」
ルーフィンは切なそうに空を見上げた。……本当はすぐ側に、
……近くにいるのに、今はどうあっても手が届かない、愛しい妻が
いる方向へと目を向けた。
「ルーくん……、ぐす……、お父さん、お母さん、お嫁に
行っちゃってからあまりお家に戻らなくてごめんなさい……、
いつも心配してくれてありがとう、……もう一度、お話……、
したいよ、お父さん、お母さん……、ずっとだいすき……」
「エリザさん……」
明るく振る舞ってはいるが、やはりエリザは本心は辛いのである。
親しい人達ともう永遠に触れられない事が、どれだけ辛くて悲しいか
エリザの気持ちがジャミルに伝わってくる。……エリザはかつて
幼少期に自分が暮らしていた思い出溢れる大切な我が家をいつまでも
ずっと見つめていた。
「う~、わんっ!わんっ!」
ルーフィンの処に一匹の犬が近づいて来た。吠えてはいるが、
尻尾をパタパタ振っている。
「わわわ!犬っ!?ち、近づかないで下さいよう~、僕、犬って
苦手なんですから!」
「けど、まだ子犬じゃねえかよ、先生、そんなんじゃウチのヘタレと
同じになっちまうよ」
「それでも苦手な物は苦手でして、……困ったなあ~……」
「あ、先生!お元気ですか?ウチの子がどうもすみません、
今、お散歩の途中でリードが離れてしまいまして、良かった、
見つかって!さ、帰りましょうね!先生、さようなら!」
「わんわん!はっ、はっ、はっ!」
「はは、どうも……、助かった……」
ルーフィンは大きな安堵して大きく息を吐いた。子犬は飼い主の
主婦と共に散歩へと戻って行った。
「ふふ、ルーくんてば、本当はね、ルーくん、凄く臆病なんですよ、
かっこつけてるけど、……そんな処が……、私は最高に大好き……」
エリザは宙に浮かんだまま、汗をふきふき困っているルーフィンを
見つめた。……ジャミルはそんなエリザの様子を見て、何だか気分が
複雑になってくる。
「ジャミルさん、さ、次のお家へルーくんをお邪魔させて下さいな」
「ん?あ、ああ……」
2人は今度は彼方此方の家を訪ねて回る事にした。まず最初に入った
家では、老人が喉を押さえ、苦しそうに呻いて咳き込んでいた。
「ううう、……苦しい……、げっほ!げっほ!」
「ばかな!病魔の呪いはもう解けている筈なのに!何故まだ病人がっ!」
「……違うよー!このおじいちゃんは食べてたお餅を喉に
詰まらせちゃったんだよ、ジャミルさん、ルーくんに真実を
教えてあげてー!」
「み、水を~……」
「……ほんとだ、……先生……、この爺さん病気じゃねえよ……、
餅が喉に詰まっちまったんだよ!」
「な、なんとっ!そうでしたか、それはよ……、良くないですっ!」
ジャミルは慌てて台所を借りると老人へと水を急いで飲ませた。
お陰で老人は事なきを得たが、もう少しジャミル達の訪問が遅ければ、
今頃……、ち-んで、昇天していたであろう。
「ふいい~、助かりましたわい、いやあ~、先生達のお陰でわしゃ
助かりましたわ、まだまだ長生きはせんといかんちゅー事ですなあ!」
「いえ、私は何も……、おじいちゃん、お餅を口に入れる時は
小さくちぎって食べるんですよ、あとは良く噛んで……」
「ほいほい、ありがとさんです!」
「先生、良かったな、さ、次の家へ回ろうか」
「そうですね……、本当に何事もなくて何よりです……」
ジャミル達は更に次の家へ。今度の家では一家の大黒柱なので
あろう、ご主人がルーフィンの姿を見ると喜びの表情で急いで
駆け寄って来た。
「先生っ!……この度は、大切な妻と娘を助けて頂いて本当に
有り難うございました!!」
「い、いえ……、そんなに頭を下げないで下さいよ、頼みますから
……、それにしても……、奥さんと娘さん、2人までも病気に……、
大変でしたね……」
「はい、とても辛かったです、あのままでは僕自身も疲労で倒れて
しまう処でした、だから……、先生は僕自身の命の恩人でもあるん
ですよ!ささ、先生、良かったら、妻と子供の顔を見ていって下さい、
今はとても状態が落ち着いていますよ」
「先生、折角だから行ってみようや」
「そうですね……」
ジャミルとルーフィンはご主人に案内され2階の寝室へお邪魔させて
貰う。寝室には奥さんと子供さんがベッドで静かに就寝中。その顔は
病魔という苦しみから解放され、本当に穏やかな表情で2人とも
すやすやと眠っていたのだった。
「くう、くう……」
「こんな小さな子供までが病魔に……、僕は一体この町の……、
いや、この世界の何を見て今まで生きてきたんだろう……、誰が
病気に掛かっていたのかも分らないで……」
「先生……」
「ルーくん、おちこまないで……、ルーくんがいなかったらみんな
助からなかったよ……」
エリザはそっとルーフィンを静かに励ます。しかし、その声は
ルーフィンには届いていない。ルーフィンは暫く無言になり俯いて
いたが、顔を上げ、頷くとジャミルの方を見た。
「ジャミルさん、もう充分です、……僕の研究室に戻りましょう……」
それから、2人は研究所へと戻る。ルーフィンの顔はまるで闇から
解放された様にすっかり明るさを取り戻していた。
「ジャミルさん、今日は本当に有り難うございました……、お陰で
エリザの伝えたかった事が分かった様な気がします、今までの僕は、
研究に没頭するばかりで、自分の事しか考えていない、独りよがり
だったんですね、だから……、エリザの体調がおかしいのにも
気づいてあげられなかった、全く情けない話です、でも、今日町を
回ってみて、僕はいかに色んな人と接しているんだなって、そして
支えられているんだなって、初めて感じました、……これからは
この気持ちを忘れず、ベクセリアの人々と共に生きて行けたら……、
そう思うんです……」
「だな、やっぱ人は一人じゃ生きていけねえんだよ……、な……」
ジャミルはやっぱりルーフィンは変わったなあ……、と、しみじみ思った。
だが、彼を変える事になったその切欠は愛する妻の死であったと言う事は、
とても切ないのである。
「それに……、みんなに感謝されるのも悪くない気分ですしね……」
ルーフィンは一瞬にやりと笑った様な気がジャミルには見えたが……。
やっぱり本質は変わってねえのかもなあと、ちょっと安心してみた。
ルーフィンはジャミルに頭を下げ、研究室へと入っていった。……そして、
ルーフィンの姿が見えなくなった後。
「エリザさん……?」
「よかった、ルーくん……、ルーくんを助けてくれて、本当に有り難う、
ジャミルさん、私……、もう死んでいるのにお陰で自分の夢を叶える事が
出来ちゃいました、ルーくんの凄いところをみんなに知ってもらうこと、
ルーくんにこの町を好きになってもらうこと、それが私の夢でしたから……」
エリザがそう呟いた直後、エリザの身体が光り出す。……彼女の昇天の
時間が近づいて来ていた。
「わわわ!もう時間みたいです!」
「エリザさん、このままでいいのか?もう少し何か伝えたい言葉があれば、
俺が先生に!」
「ううん、私はもう何も……、でも、ルーくんがいつも、いつまでも……、
幸せでいてくれればそれでいいんです、ルーくん、ありがと、あなたが
時々でもいいから私を思い出してくれたら……、私はいつでもあなたと
一緒だよ……」
エリザの身体の輝きは一層増す。……そして、等々ジャミルの目にも
彼女の姿が見えなくなった……。
……さようなら……、どうかお元気で……
「さよなら……」
ジャミルはエリザが消えていった空をいつまでも眺めていた。
……いつの間にか空は暗くなり、満点の星が幾つも輝いていた。
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