蜘蛛

目を開けているあいだは
 雨の降らない夏だった
   配達のどんずまり
極太な蜘蛛の巣が夕陽に
   ぎらぎら光るのを
葉書でたち切り くぐる

配達の切れ目で水を飲むと
右の 薬指の さきが痛い
環になった噛み跡が血に滲む
蜘蛛に噛まれたのかもしれない
自然の罰なのかもしれない
明日は雨になるかもしれない

薬指の先に
たしかな罰があり
そこだけが私そのもののようで
ちいさな罰がすべてをゆるして
くれるような気がして
安寧の眠気がおそう
青いちょうの樹の下

蜘蛛

蜘蛛

静岡新聞2024年10月29日読者文芸欄野村喜和夫選

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-10-29

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