zoku勇者 ドラクエⅨ編 11
いつもあなたと……編 2
ジャミルは仲間達を研究所の方へ残して、自分一人で一旦町長の
家へと報告に戻って来ていた。……ルーフィンが愚痴を言い出した
為でもある……。
「もしかしてルーくんがこの町の為にほこらの封印を直しに
行ってくれるの?」
「そりゃあ上手くいけばお義父さんも僕の事を認めてくれる
だろうし、何よりあの遺跡を調べられる又とない機会なんだから
行きたいのは山々さ、……でも遺跡には凶悪な魔物も出るらしいし、
わざわざ出かけていって怪我をするのも馬鹿らしいな……、ちら……」
「……」
「僕ならほこらの封印を直す事も出来るけど、とにかく危険に
巻き込まれるのはどうもね、馬鹿らしくて、……ちら!研究の為に
遺跡には行きたいけどさ……」
「……」
「……と、まあ、こう言う訳だよ……」
「ふむふむ、そうでしたか。この病気の原因は全て西のほこらから
来ていると……、なんと恐ろしい……、病魔の復活ですか……、ほこらの
封印を直せるのはルーフィンだけですと……」
「そ、奴は危険に巻き込まれるのを嫌がって遺跡に行くのを拒んでんだよ!」
「ならば護衛をつけてやればいいのですね、分かりました……、
ジャミルさん、あなたは見たところかなり腕が立ちそうですね、
どうですか?ルーフィンの護衛をお願い出来ませんでしょうか?」
「……何ですと?」
「勿論タダでとは申しません、此方としてもそれなりのお礼はさせて頂く
つもりですが、いかがですかな?」
「……分かった……」
「おお、流石ですな!それではお願い致します!この町の人々の為に!」
「……」
ジャミルは町長の屋敷を出、再び研究所へと戻るが、何となく
気分が悪かった。あの傲慢考古学者のガードマンを引き受けるのが
気に食わなかったのである。町長から受け取ったほこらの鍵を
握りしめながら複雑な面持ちで研究所までの道のりを歩いて行った。
……其処へ、無言のジャミルの前に、暫くぶりで妖精体のサンディが
姿を見せた。
「やったじゃん!これで町の人にカンシャされればアンタ、ガッポガッポ
星のオーラ大もうけヨ!おまけにクソチョーチョーもご褒美くれるって
いうしサ!こりゃアンタいっちょ頑張るしかないっしょ!天使のチカラを
取り戻せる日もそう遠くないってカンジ!」
「……うるさい!俺は別に褒美が欲しくて引き受けたワケじゃねえんだよ!」
「別に意地張んなくてもいいっしょ?みんな欲のカタマリなんだからサ、
アンタもね!」
「……こいつ……」
サンディはジャミルを馬鹿にした様に笑うと再び姿を消す。
……ジャミルは益々気分が不愉快になっていった。……そして、
イライラの中、漸く研究所へと戻った。
「あれっ?その鍵は……、もしかしてお義父さんが僕の護衛をあなたに
頼んだですって?……まさか……」
「!うそっ、パパがルーくんの為に!?」
「そういう事、しっかりアンタの護衛を務めてくれってさ!」
「なるほど、あなたはお義父さんの手の者と言うワケですね、
これは見事にハメられましたね、分かりましたよ、行けば
いいんでしょう!僕が口先だけの男じゃないって事を証明して
やりますよ!」
「……あのなあ!」
「ルーくん、それはちょっと違うんじゃ……」
「そうと決まれば僕は先にほこらへ行っています、ほこらの場所は
この町を出てずっと西に行った処です!それではお先に!」
「……ルーくんっ!?」
「だからさあ、あのな、おいっ!」
ジャミル達の言葉を聞かず、ルーフィンはさっさと研究所を飛び出す。
……頭のフケを落としながら……。ジャミル達も研究所の外に出るが、
すでにルーフィンの姿は見当たらず。
「あの、もう夜中になるんですけど……、オイラ達、それでも
今から行くの……?」
「仕方ないよ、もう行ってしまったんだもの、それにしても、
足が速いんですね……、姿が何処にも見えませんよ……」
「すみません、ルーくん興奮すると俊足になっちゃうみたいで……」
「はあ……」
只管頭を下げるエリザにアルベルトはワケ分からんと言う表情をするが。
「とにかく奴を追い掛けねえと、急がなくちゃな……」
「そうね、怪我でもしたら大変だもの!」
「ううう~、休む暇なしだよお~……」
「ぽーこぽこ、ちんぽこモン!」
「……ジャミル……」
腰に手を当て、凄い顔でアイシャがジャミルの方に迫って来た……。
「んだよ!俺何も教えてねえぞ!」
「モンちゃん!下らない事覚えるんじゃないのっ!いい加減に
ダウドの頭を叩いて遊ぶのやめなさいっ!!遺跡に出発するのよっ!!」
「やーモン!」
ぶち切れアイシャ、ダウドの頭からモンを遂に引きずり下ろす。
……もっと早く下ろして下さいよお~、と、ダウドは不満顔。
「……ブブーのブーモン!」
「どうも皆さん、本当にすみませ……う、……ケ、ケホっ!!」
「エリザさん?……だ、大丈夫かっ!?」
「エリザさんっ!!」
……エリザが突然激しく咳き込みその場にしゃがみ込んで
蹲ってしまったのである。皆は慌ててエリザに駆け寄るのだが……。
「大丈夫です、心配しないで……、研究所がほこりっぽかったから……、
すぐにほこりを吸っちゃうんですよ、お掃除させてよって、ルーくんに
何回も言ってるんですけど、彼方此方いじられたくないみたいで……、
困っちゃいます」
「だけど……」
「私の事よりも、どうかルーくんの事、お願いします、ルーくん、
我儘で、意地っ張りでどうしようもないけど……、でも、私にとって
大切な、大好きなたった一人の、……世界で一番の旦那様なんです……」
「エリザさん、アンタ其処まで……」
エリザはジャミルの顔を真剣に見つめる。直後……。
「きゃあーっ!なーんか言ってて照れちゃいましたー!はずかしー!」
「……」
先ほどまで苦しんでいたエリザはあっさりと元気になり、
暴走し始める。まあ、大丈夫かと、ジャミル達は苦笑。
エリザは笑いながらジャミル達に手を振り、自宅へと戻って
いった。何度も何度もルーフィンの事を4人にお願いしながら。
「さて、俺らも行きますかね、傲慢考古学者さんの護衛にさ……」
ジャミル達も今夜は徹夜作業覚悟で遺跡へと動き出した。
……エリザの元気な姿を見れたのはこれが最後であった。
4人も。そして。ルーフィンも。
「随分と遅かったじゃないですか、早くほこらの鍵を渡して下さい!
それがないと中に入れませんからね!あなた達は僕をちゃんと護衛するのが
仕事なんですから!しっかりやって下さいね!頼みますよ!」
先に遺跡に到着していたルーフィン。後から漸く遺跡に着いた4人に
愚痴を連発。幸い、遺跡までそれ程時間は掛からず、思っていたよりも
早く着いたのだが。それでも短気なルーフィンには不満だった様である。
「うわ、何か嫌な態度だなあ……」
「ダウド、黙ってろよ、病魔を封印出来るのはアレしか
出来ねえんだから、下手に怒らせて機嫌損ねて、町へ
帰っちまったら困るんだよ、……むかつくけどよ」
ジャミルも何となく愚痴ってみるが、糞威張りするルーフィンの
態度は最悪。……ジャミル達だって動きっぱなしで疲れているんである。
「……このおじさんのおけつにカンチョーするモン!」
「だからモンちゃんやめなさいっ!どうして碌でもない事覚えるのっ!?」
「俺の方見るなっつてんだよっ!ジャジャ馬っ!」
確かに最近のモンは悪戯が相当酷くなって来た様である。
ルーフィンはモンの暴言に気づかず、先頭を切ってずんずんと
遺跡の中へと入っていった。
「ふむ、見て下さいこれを……、やはりあの地震でほこらの壁が崩れて
入り口がむき出しになっています、やはりこうなると、この奥にある
病魔の封印もどうなっているか、たまったモンじゃないですね、
さあ、早くこの先へ進みましょう」
「たまったモン、モン……、モンがたまってるモン?」
「オメーはいいっての、ほら、早く奥に行こうぜ!」
「そうだね、早く終わらせてしまいたいよ……」
「何だか眠くなってきちゃったわ……、でも頑張らないと……」
「ねえ、ジャミル、……オイラちょっとジャミルに言いたい事が
あるんだけど!」
「な、何だよ……」
異様にダウドが真剣な目でジャミルの方を見ている。何か言いたい
事がある様だが……。
「オイラはトラマナ覚えないよ!もっと経験値稼げやって言ってたけどさ!
……書いてる人が間違えたんだよ!だからオイラ僧侶のままじゃ永遠に
トラマナは習得しないからね!良く覚えておいてよ!分かった!?」
「分かったけど……、糞威張りして言う事じゃねーっての!大体そりゃ
自分で言ったんだろうがよ!」→※悪いけど、オイラまだ、トラマナ覚える
LVじゃないですから!
「あいたっ!!」
是が非でもどうしてもダウドはジャミルに殴られるのである……。
「トラマナ覚えるのは私の方よ、もう習得出来てるけど……」
「あなた達!何してるんですか!早く来て下さいよ!!僕は忙しいんです!!」
4人に文句を飛ばす陰険糞眼鏡、ルーフィンの罵声。
「それにしても、今何時なんだよお、完全に深夜だよねえ~……」
「寝不足はお肌に悪いんだから……、ふぁ……」
「はあ、腰が痛くなってきた……、こんな事ジャミルに聞こえたら
又爺さんとか、からかわれてしまうよ……」
「モーンモンモン!ぽんチンも~ン!」
「おい……、モンっ!今度は俺の頭を叩こうとするのやめんかいっ!」
4人はそれぞれブツブツ言いながら、パシリ覚悟でルーフィンの
後へと続く。が、中に入った途端、既にルーフィンの姿は見えず……。
4人が愚痴っている間に高速で移動し、遺跡の何処かへ行って
しまったらしい。
「あんにゃろう……、ゴキブリかよ!」
と、もう少し中に暫く進んで見ると、正面に石碑があるのを見つける。
何やら文字が刻んであるが。
「……?」
「ジャミルどいて、僕が見る……、ふんふん……、二人の賢者の
目覚めし時、赤き光と青き光が蘇る……、導きの光照らし出す時、
閉ざされし扉はひらかれん、……らしいよ」
「俺、頭悪いからさっぱりわかんねえなあ~……」
「あら、この奥に扉が立ち塞がってるわね……」
「とにかく、このフロアに何か仕掛けがあるんだろう、それを解いたら
この扉が開いて先に進めるって事かな……」
「お約束だよお、3の時のピラミッドの石の扉と同じだねえ」
「……ダウド、今は世界が違うんだから、あまり前の話の事は
ほじくり返さないんだよ……」
「ふぁ~い、オイラも泉の件、ほじくり返されたしね……」
遠い目でダウドはジャミルの方を見るのであった……。
「やれやれ、しかし、あの傲慢考古学者は何処に行ったんだかよ……、
まああれじゃモンスターも逃げ出すか、殺しても大丈夫っぽいしな」
……それはアンタだろうとアルベルトは思った。
「でも、無茶してないといいけど……、心配ね……」
4人は再びフロア内を疲れた足で歩き出す。流石に今回は
モンは普通にふよふよと宙を飛んで移動していたが。
「ルーフィンさんも……、エリザさんに……もう少し気配りが
あればいいと思うのだけど……、自分の事ばかり考えて、あまり
奥さんの方を見ていない気がするの……、でも、エリザさんは
本当に心からルーフィンさんの事が大好きなのね……」
「……」
このアイシャの呟きは、後に夫婦に起きる悲劇を予感させていた……。
「モンっ!?」
「モン、どうし……、おおおっ!?」
銀色に輝くトンガリ物体。……餌。3でも騒動の種になった
メタルスライムさん登場。
「ジャミルっ!今回はあまり暴走してる暇はないんだよっ!またあの人に
どやされてしまうよ!」
「わ、分かってるよ、けど、出ちまったんだから一応よ……」
「しょうがないなあ……、行こう!」
「やっぱりどうしても3時代を思い出すよお~……」
アルベルトが剣を構え、アイシャとダウドも戦闘態勢に……、
入る前に逃走される。
「……きいーっ!どうせ逃走すんならわざわざ出てくんじゃねーっ!
バカタレっ!!」
「代わりに違うのが来たモン、こんにちはモン」
「……じゃねえーっつーのっ!」
逃走したメタルスライムの代わりに別のモンスターが何か来た。
……はにわナイトとミイラ男である。仕方なしに4人は相手をする。
休む暇無しのお疲れ様の4人組。……バトりながら只管欠伸を
連発していたのであった……。早く仕事を終わらせて一刻も早く暖かい
ベッドに入りたかった。……今はただそれだけであった。
アルベルトの知恵もあって遺跡内の仕掛けをどうにか解いた4人。
左上のフロアと右上のフロアにある石像をごちゃごちゃいじった後、
塞がれている扉の前に戻った処、扉が開いて先に進める様になっていた。
「それにしても眠いよお、もうオイラ限界……」
「ダウド、頑張って……、もう少しよ……」
アイシャに励まされながらもダウドは立ったまま居眠りをこきながら
歩いて行った……。
「遅いですよ、やっと来ましたね……」
「おい……」
すでに中には傲慢考古学者がいた。何処かに隠れていて、タイミングを
見計らい扉が開いた瞬間、さっさと中に入ったのだろうか。
「見て下さい、古文書で見たとおりです、彼所に転がっているのは
病魔を封じていた封印の壺ですよ……」
「ひいいーーっ!?き、危険物だぁぁっ!?」
居眠りをこいていたダウドはその一言を聞いてすぐに目を覚ました。
「やはり地震で壊れているな……、封印の紋章が描かれた部分は
壊れていない、これなら何とか楽勝だな、後はこの僕が発明した
接着剤でさっさと壺を直して再び病魔を封印してしまえば……、
まずは散らばっている破片を集めて……、と、なあに、一流の
考古学者ならこれぐらい朝飯前ですよ!」
……随分なげえ独り言だなあと、ジャミルは思った。しかし今は
この男に全てを任せ見守るしかなかった……。
「ジャミル、皆!何か来るよっ!!」
アルベルトの叫びにジャミルは身構える。壺を直そうとした
ルーフィンの前にピンク色の悍ましい姿のどろどろした不気味な
姿の病原体モンスターがたちはだかる。恐らくこいつがベクセリアの
人々を苦しめている全ての元凶の病魔である。間違いは無い。
……病魔は4人とルーフィンに向かってイミフ口調で喋り掛けて来た。
「オろかナる しんニュウ者ヨ ワれヲ ふたタビ 封印せンと
やッテキたか…… ソうハさセヌ…… さセヌぞォォ! なんジに
病魔の ワザワイあレ!あレ!あレ! ワれのジャマをスる者 すベテ
ひトシク 死あルのミ!のミ!のミ!のミ!」
「出やがったな!この騒動野郎っ!!てか、ちゃんと喋れっ!!」
……だから、騒動野郎……、それはアンタもだよ……、と、
アルベルトは思う……。
「モンちゃん、何処か安全な場所に隠れて!すぐに終わらせるからね!」
「分かったモン、アイシャもみんなも気をつけてモン!」
「あっ、じゃあオイラも一緒に……」
「「だーめえええーー!!」」
ダウド以外の3人。……ダウドに顔を近づけ一斉に声を揃えた……。
「……分かってますよお、皆してハモらなくたっていいじゃん、
ぶつぶつ……」
「まだ壺を直してないのにっ!あなた達っ、僕が壺を直している間に
時間稼ぎをしておいて下さいね!さっさと早くこいつを倒しちゃって下さい!
……決してそいつを僕に近づけさせない様にっ!!頼みましたよっ!!」
「やれやれ、今回最大級級のパシリ仕事だよな……、ま、仕方ねえけどよ……」
ジャミルは壺を抱えてその場から何処かへと逃走する傲慢考古学者を見送る。
ルーフィンが此処でやられてしまっては元も子もない。壺が直るまで此処で
病魔モンスターを食い止めなければならない。4人はバトルモードへと入った。
「……全く、冗談じゃない!しかし奴らちゃんと役に立つんだろうか、
しっかり戦って食い止めておいて貰わないと!でも、もしもあいつらが
倒れたら終わりだなあ~……」
……ルーフィンの暴言にも負けず、ジャミル達は必死で身体を張って
病魔を食い止める。毒を食らい、甘い息で眠らされ……、散々な目に
遭いながらも真夜中の死闘を繰り広げていた。そんな中、傲慢考古学者は
等々壺の修復に成功した……。
「はあ、もうMPもないねえ……、オイラもう駄目だよお~……、絶望……」
「毒消しも薬草も……、もうないわよ……」
「くそっ、まだかよ、おっさんはっ!俺らだって限界だぞ!」
「みんな、もうあと少し、もう少し頑張ろう……、……ルーフィンさん……?」
「!!」
「やっと直りましたよ!おお、丁度いいタイミングだった様ですね!」
ズタボロの4人の前に、逃走していた傲慢考古学者が走って来た。
修復した壺を脇に抱えて。しかし、病魔も大分追い詰められており、
病魔の身体は既に頭部のみと化していた。だが、最後の力を振り絞り、
病魔も4人に止めを刺そうとしていた。雅に、やるかやられるかの
その時であった……。
「おのレのレ わが呪イよ…… コのオろかナる者どもに 死の病ヲ……」
「お、おっさん!……早くしてくれーーっ!!」
「ふふ、やはり最後はこの僕の出番ですね!さあ封印の壺よ!
悪しき魔を封印せよ!」
ルーフィンが壺を掲げた途端、病魔は一瞬にして壺に吸い込まれた。
……最後までイミフの不気味な声を発しながら……。
「ぎゅバばバばバば……」
こうして、小さな英雄達と一人の男の奮闘により、等々病魔は
再び封印された……。
「はあ~、や、やっと……」
「今回も……終わったね……」
「もう嫌ら……、勘弁してえええ~……」
「……」
「見てましたか、ジャミルさん!僕が病魔を封印したんですよ!
この僕が!……ふっ、ふふふふ……、これでお義父さんも僕の事を
認めざるを得ないでしょうね!」
……その場に疲れてしゃがみ込むジャミル達に対して何の心配も
しようともせず、ルーフィンは病魔を封印した事による自らの
才能にただ只管酔いしれていた。
「ジャミル、みんな、……大丈夫モン?お疲れ様モン……」
「モンか……、どうにか無事に終わったよ、ま、これで町の方も
落ち着いたんじゃねえかな……」
「モン……、でもみんな……傷だらけモン……」
「さーて、やる事はやったし、これで安心して遺跡の調査にも
手がつけられますよ、あ、あなた方はもう戻って結構ですよ、
いても気が散りますし、邪魔になるだけですから、それじゃ、
僕はこの奥を調べて来ますんで!報告の方は頼みますよ!」
「……」
……傲慢考古学者は遺跡の奥へと走って行った。余りにも自分勝手で
冷たいその態度に呆れてジャミル達はもう怒る気さえも起きなかった……。
疲れていた所為でもあるが……。
「シャアーーー!!」
「モン、いいよ、それより早く戻ろうぜ、MPも尽きたし、
もう完全に夜明けだ……」
「急いで出て来たから、キメラの翼も買っておくの忘れちゃったし……、
ストック分がないわ……」
「帰りも徒歩になってしまうけど、仕方ないよ、もう少し我慢しよう……」
「……徒歩ほのほお~……、だよお……」
すっかり夜が明けてしまった帰り道を……、4人は重い足取りで
町へと帰って行った……。
4人が再びベクセリアに戻って来た頃には更に日は昇っており、
町の人も皆新しい一日を迎え、動き出す頃。しかし、今まで家に
引き籠もっていた人々が動き出していたと言う事は、もうこの町から
病魔の脅威が完全に去り、平和を取り戻したと言う証拠でも
あったのである。
「おおっ、あんた達!お帰り!昨夜町長さんから聞いたんだよ、
ルーフィン先生と一緒に遺跡へ病魔を封印しに行ってくれたん
だって!?だからもう何も心配しなくていいんですよって、
町長さんの言ったとおりだったんだな!」
「はあ……、どうも……」
町民達は4人組の姿を見かけた途端、集まって来る。……昨日までとは
まるで打って変わって町の中を漂う風も雰囲気も本当に流れが変わり、
穏やかな感じになりつつあった。
「して、ルーフィン先生……、いや、大先生は一緒じゃないのかい?」
「いや、まだ調べ物があるから残るって、俺ら先に戻って来たんだよ」
「そうか、いやあ~、あんたらが町を出てってから暫くして、
苦しんでいた病人達がみんな元気になったんだ、いやあ、本当に
あのルーフィン先生って凄い大先生だったんだな!」
「……」
「いや、先生の事ばっかり褒めてる様に見えるけど、わしら
あんたらにも本当に感謝してるんですよ、あんた達がいなきゃ、
そもそも先生は封印のほこらに行けなかったって話ですから……、
先生は元々あのほこらを調べる為、この町にやって来たんですよ、
けれど、町長さんが町の掟に反するからと、ずっと拒んでいた
様ですね……」
「なるほど……、な、どうりで仲があまり良くなかったワケは
その辺にもあったのか……」
「後は……、先生にも、もう少し人を思いやる気持ちがあれば、
エリザちゃんも苦労しないだろうにねえ……」
「まったくだよお、……威張ってばっかで冗談じゃないよお!」
「あはは……、それでは僕らは町長さんの所へ遺跡の報告に
行きますので、皆さんもどうかゆっくり身体を休めて下さいね……」
「兄ちゃん達もなあ、事が終わったらしっかり休んでくれよ!」
愚痴るダウドの背中を突いて笑いながらアルベルトが先に歩き出す。
その後をジャミル、アイシャが歩いて行き、モンも宙をふよふよ
飛んでいった。再び町長の家を訪れたジャミル達を町長は喜んで
出迎えてくれた。
「おお、待ちかねましたぞ、ジャミルさん達!本当にご苦労様でした!
どうやら病魔とやらの封印は上手くいったようですな……、まさか
あの男が本当にやってくれるとは!……して、奴は何処に……?
姿が見えない様ですが……」
「うん、実はさ……」
「そうでしたか、あの学者バカめ、少し見直してやったかと思ったら
これか、まあそれもよかろう、今夜は祝いの宴だ、ジャミルさん達も
是非、顔を出して下さい、エリザにも伝えておいてくれませんか?奴の
活躍を聞けばさぞかしエリザも喜ぶ事でしょうて……」
「ああ、そうさせて貰うよ、みんな、俺らも一旦宿屋に戻って休もうや、
……まるでドラキュラ状態だよ、あふう~……」
ジャミルが欠伸をすると、釣られてアルベルト達も欠伸する。
……モンも一緒に大口を開け、グロテスクな凄まじい欠伸をした……。
「ジャミル、休む前に先にエリザさんの所へ寄った方がいいと
思うの、きっとルーフィンさんの事、心配してる筈だわ……」
「そうだね、町長さんにも頼まれてるしね……」
「うん、そうだよお、ぐう……」
またダウドは突っ立ったままくうくう居眠りしながら喋っている。
しかし器用である……。くっちゃべっていると、町長の奥さんが
皆の所にやって来る。
「お疲れの処、お手数お掛けしてしまいますが、御願いします、
エリザったら、近くに住んでいるのにお嫁に行ったらあまり
こっちには顔を出してくれないんですもの……、親としては
寂しいわ……」
「分かりました、じゃあ、俺らこれで一旦失礼します……」
ジャミル達は外に出て、エリザの住居へと向かう。玄関のドアを叩いて
エリザを呼ぶのだが……。
「ちわ、エリザさん……、俺らだよ、帰って来たよ、報告があるんだ、
……入ってもいいかな?」
しかし、返事はなく、エリザが一向に出てくる気配もない……。
「ありゃ、出掛けちまってるのかな……」
ジャミルは試しにドアノブを回してみるが、鍵は掛かっていない。
「エリザさん……?」
ジャミルの胸に、何となくチクリと痛みが走り、昨夜エリザが
家から出て行った時のあの悲しい予感が込み上げてきたのである……。
「一応……、確認してみるか、申し訳ねえ、泥棒じゃねえんだけどさ……」
「よく言うよお、……元世界じゃシーフじゃん、オイラ達!」
「るせー!バカダウっ!……おーい、エリザさーん!」
ジャミルはダウドに罵声を飛ばした後、急いで中へ。……確かに寝室に
エリザはいた。彼女は静かにベッドに横たわって休んでいた。だが。
「エリザさん、具合でも悪……」
彼女の顔は血の気がなく、生気もなくなっていた。ジャミルはそっと
彼女の手に触れる。……だが既に脈もなく、冷たく身体も冷えきっていた。
「嘘だろ……?冗談……だよな?」
「ジャミル、どうしたのっ!?」
後に続いて寝室にアイシャ達も駆け込んでくる。……ジャミルは
振り向いて、後から来た仲間達の顔を見て悲痛な表情を見せた……。
「エリザさんが……死んでる……息……してねえよ……」
「!!う、うそうそ……!嘘よっ!!」
「!!」
「……な、なんでえええ~……?」
「モン~……」
仲間達も何が起きたのか分からず、目の前で起きている事態を
認識出来ず受けいられずパニック状態に……。其処に……
ルーフィンが帰宅し寝室へ……。
「ただいま、エリザ、あの遺跡の調査にはしかるべき資料が必要でね、
取りに戻って……、ああ、あんた達ですか、お義父さんにちゃんと
報告はしてくれたんでしょうね?」
「……」
「何ですか、その面白くなさそうな顔は……、僕に何か不満が
あるんですか?いいですよ、言いたい事があるなら承りますが……!?」
しかし、ジャミル達は何も反論せず俯いて只管黙りこくる。
……下を向いて。ルーフィンはそんな4人の態度を見て
不振に思ったのか首を傾げる。そして、漸く気づくのである。
ベッドの上に横たわったままの変わり果てたエリザの姿に……。。
「……エリザ?どうしたんだい……、返事をしてくれよ、ま、
まさか……、死んでいる……のか?……嘘だ……、じょ、冗談は
やめてくれよ、僕は忙しいんだよ、……な?……やめてくれよ、
ふざけるな、怒るぞエリザっ!……!!」
「……」
ルーフィンは半狂乱で必死で彼女に呼びかけ、身体を揺さぶる。
しかし、もうエリザが返事をする事は二度と無かった。……あの
可愛い笑顔で、ルーくん……、と。エリザが昨夜咳き込んでいたのは
ホコリなんかの所為ではなかった。あの時既に危険な死の一歩手前の
状態だったのである……。自分の死を予感しながらも、彼女は只管
堪えて耐えていた。苦しみを誰にも告げずに笑顔で。心配掛けない様。
「まさか君も病魔の呪いに掛かって……、でも、病魔はちゃんと
封印した筈だ、町の連中だってもうとっくに治っている……、
もしかして、僕が病魔を封印した時に君はもう……、遅かった
……のか……?どうして……、どうして……、もっと早く言って
くれなかったんだ……、君が病魔に犯されていると知っていれば……、
もっと早く……急いだのに……、うう、エ、エリザぁぁぁ……」
……傲慢考古学者はジャミル達が側にいるにも関わらず、声を
荒げ泣いた。まるで小さな子供の様に。あの我儘で傲慢で自分の
事しか考えていなかったあの彼が……、大粒の涙を流し絶叫した。
冷たくなった妻の遺体を目の前にし……。自身の地位と名誉の為、
引き換えに失った代償は、余りにも悲しく、大きすぎた……。
……本当に心から大切にしていた宝物を失う事になったのだから……。
気づいた時には余りにも遅すぎたのである……。
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