どうあがいても破滅なクトゥルフ神話

車両を退けて!!邪魔になるわ!!

封鎖は完了してるわね、
救急車両以外は絶対中に入れちゃダメよ!!

野次馬は放置しなさい!!
どうせ追っ払い切れないんだから
無駄な仕事しなくていいわ!


未だに炎が立ち上る街中
火災は辺りの建物に燃え移りかけている

複数のサイレンと、被害者の苦鳴と、
散発的に建物が瓦解する怒号が交じり合い
周囲一面は乱雑の極みであった


なにこれ、何やったらこんなことになるの?

報告を受けたときはありきたりな
強盗の逃亡犯か何かだと思っていたが
いざ現場についてみれば
待っていたのはまさに戦場そのものであった

この惨状を生み出しただろう犯人を
捕縛したという報告も届いていない
煙を吸い込まないように口元を押さえ
狂乱しながら逃げてくる人垣を逆走していくと

血だまりを作って倒れ伏す人影と
凶器を手に佇む人間を見つける

傍らにはもう一人女性らしき影が見える
放心して逃げることも忘れているようだ

刑事である霊夢は、懐から拳銃を抜き放ち
この状況で唯一の危険人物の頭部に狙いを定め
警告の叫びを発した

武器を捨てなさい!
跪いて!!両手は頭の後ろに!!

霊夢さん

早くしなさい!!
動くと撃つわ・・・・・妖夢さん?

煙が風で流れ、ようやく人影の判別が付く
その人物は霊夢の知っている人間のものだった



霊夢さん彼女を運ぶのを手伝ってくれませんか
最近、また身長が伸びたらしくて
私一人じゃとても連れていけません

失礼しちゃいますよね
わたしが小さいんじゃなくて
アリスさんが大きいんです

まったくもう・・・ほら、アリスさん
しっかりしてください

ほ、ほや

虚ろだったアリスが、ようやく現実に帰還する
妖夢支えられながらも
意外にしっかりした足取りで立ち上がる

妖夢さん、貴女こんなとこでなにをして・・・・

霊夢さん、彼も早く搬送してあげてください
早くしないと助からないですよ

言われて妖夢は血溜まりに付している男を思い出す
一体どうやったのか、よほど鋭利に切り裂かれたようで

巨大な傷口からは内蔵が溢れ出し
ゴボゴボと絶え間なく出血が続いている

そ・・そうね、妖夢さん、
あとで話を聞かせてもらうことになると思うから
そのときにまた


霊夢は慌てて救急隊員を誘導する
消火活動も収まりをみせ
怪我人もそのほとんどが搬出されていく

辺りは静寂を取り戻しつつあった

アリスさん、大丈夫ですか?
もしダメなようなら
少し休んでからにしますか?


だ、大丈夫だよ、妖夢ちゃん
へ・・・平気、平気・・・。

まだ本調子ではないアリスを気遣い
その頭をそっと抱きしめる

身長は間逆なれど、傍目から見れば
妹を慈しむ姉のように見えただろう

(よかった・・・・アリスさんが無事で
 本当によかった・・・・。)

妖夢はアリスを・・・大切な友達を守りきれたことに
心から安堵した

彼女にとってアリスは、何物にも代えがたい人なのだ

その時、人質にされていた老人が
担架に乗せられ運ばれていくのをアリスは見つける
足に刺さったままのナイフの痛みに、悲鳴をあげていた

・・・・・・・ねえ、妖夢ちゃん
もし人質にされてたのが私でも
妖夢ちゃんは同じようにしたの?

・・・?ええ、その通りですけど
それがどうしました?アリスさん


・・・・・・・・・・・・。

・・・?


よし、これで治療は完了だ

うん、完璧だ、完全だ、一部の隙もない

イーノック、その怪我人に今貼ったのは
なんなんだ?

セロハンテープというものだ
傷口に貼るとどんな大怪我でも塞がってしまうという
人類の英知が生み出した医療用具だ

だが、そこの彼は胴体が
なかば千切れかけているようだが
そんな治療で大丈夫なのか?

大丈夫だ、問題ない

ふむ、やはり人類とは素晴らしい
彼らはいつも愉快なものを生み出すな

だから私は、人間が大好きだ

・・・・・・・・。

聞こえな~~い、
私なんにも聞いてないよ~~~♪
いたたた・・・・




ほら、動かずじっとして・・・
はい、これで終わりだよ

妖夢とアリスは、霊夢の車に乗せられ
市内の総合病院へ来ていた

幸い二人の怪我は、
他に搬送された者たちに比べて
負傷とも呼べないようなものだった

妖夢は右手の捻りに包帯を巻かれ
アリスは殴られた左頬に湿布を貼られていた
軽症である

そのため二人の治療は、最後まで後回しにされていた
より重傷者の治療が優先されるのは当然である

しかし二人はまだ幸運であっただろう
結局、治療を受けられなかった

「受ける必要がなくなってしまった」者達に比べれば


そんな暗い顔しないでも大丈夫
ちゃんとあとも残らず治るよ
女の子なんだから、顔は大切にしないとね

ありがとうございました
シェパード先生


治療は終わりましたか?

ああ、霊夢か
今終わったよ

そうですか。妖夢さん大丈夫ですか?

ええ、私の方はなんとも無いですよ
そもそも怪我らしい怪我もしていませんし

君たちは知り合いだったのか?

ええ、妖夢さんは私の署の
剣道の師範をしてくれているんです

師範?彼女はまだ学生だろう?

ええ、そうなんですけど。
彼女の家は代々の武門の家系で
警察の武術の先生をしてもらっているんです

以前は彼女のおじいさんにお任せしていたんですが
最近ではお孫さんの彼女が
代わりに指南してくれているんです

そうだったのか。
なんでも犯人を捕縛したのは彼女だったらしいが
警察の関係者だったのか

ええ、それで、先生
今日伺ったのは、
彼のことについてなんですけど

ああ、ハセヲ君だね

彼の容態はどうなんですか?

ハセヲさんってどなたです?

ああ、私の上司でハセヲって人がいるんですよ
今は職務中の怪我でここに入院してます

というかなぜキミは敬語なんだ?

え、だって、そのやっぱり
師事した先生に当たるわけですし
やっぱり礼儀というものが

普通でいいですよ、霊夢さん
私のほうがかなり年下なわけですし

・・・い、いえ、いいんです
このままで!!!

(あの「恐怖の剣姫」に対して
 タメ口聞けるわけないじゃない!!)

まあ、キミがいいというなら
あえて気にしないことにするが
それでハセヲ君のことだったね

ええ、それで先生・・・・・。


話を始めた二人に配慮して
妖夢とアリスは診察室を退出した

あらかた負傷者の治療は終わったとはいえ
病院内は蜂の巣をつついたような慌ただしさだった

警察関係者が何人も行き来を繰り返し
詰め掛けた報道を、病院側が必死に追い返し
犠牲者の家族が途切れることなく押し掛ける

二人は人並みを縫うようにして
廊下をロビーに向かって進んだ

アリスさん、まだ具合は悪いですか?

大丈夫♪大丈夫♪
もうなんともないって♪
妖夢ちゃんは心配性だなあ♪

そうですか?
でも無理せずにおうちの方に来てもらったほうが

その時、不恰好に歩いていた患者に
妖夢はぶつかってしまう

あ、ごめんなさい
・・・・?貴方は

それは男に人質に取られ、
そして妖夢によって片足を粉砕された老人であった

足にはいかにも歩きにくそうなギプスが取り付けられ
事実老人は一人で歩行することも
ままならない様子だった

お手伝いしますよ

あッ妖夢ちゃん

あ、ああ、おねがいするよ・・・・。

あまりの平然とした妖夢の様子に
老人も完全に虚を付かれたようだった

親友だと思っている少女の内面に感じる
見通せない深淵

アリスはある程度距離が開くまで
妖夢の背中を追うことができなかった・・・。

しおちゃん、しおちゃん♪
クイズしましょう♪

いいですか?いきますよお!

パンはパンでも、食べられないパンはな~~んだ?


早苗さんのパン


私のパンは、私のパンは
たべものじゃなかったんですね~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!

おれはだいすきだああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!


この世は無常、真実はいつも残酷である
いつの時代も真実は希望を打ち砕き
人の絆を嘲笑う

人間の手に寄生しているダニの数を知っているか?
募金された金の使われ方を知っているか?
麗しい美声の声優の、その素の容姿を知っているか?

真実は残酷である
真実はいつも人間の善意と希望を打ち砕く

だが、であるからこそ人は真実を追い求める
人はそれでも手を伸ばす
手を伸ばすことを忘れぬ物に、希望は必ず降り注ぐ

それはあたかも・・・・・
自動販売機の下で光り輝く10円玉のように!!!!!!!!

というか・・・・・


びょーいんではおしずかに!

妖夢は老人をベットに横たえる

そのさまはまるで子供を運んできたかのように
軽々としたもので

妖夢のまるで頓着の無さと合わせて
老人はここまであっけにとられながら
そのまま連れてこられてしまった

あ、ありがとう、お嬢さん

いいえ、どういたしまして

まったく!うるさいのがいなくなったと思ったら
また子供が来たのか!!!!

その時、隣のベッドから壮年の男性が身を起こす

まったく、また頭痛がしてきた
看護婦め、薬の時間なのに来ないじゃないか

男はナースコールを何度も忙しなく鳴らす

するとそれに応えてナースがやってきた

は~~~い♪白衣の天使、貂蝉ちゃん
只今参上よんっ♪

おい

ナースがやってきた

ちょっと

ナースがやってきた

まて

ナースなのだ

まあ、私ったらお薬を忘れてきちゃった
ドジっ子ナー―ス貂蝉ちゃん
ごめんなちゃい!!!

仕方がないからもっと体と心に効く
魔法のお薬を処方しちゃう・・・わんっ♪

そ・れ・は!
麗しい乙女のキッス


治療(18/99)

いつと貂蝉は死にものぐるいで逃げ出そうとした
男をの方を万力のような力で捕まえ
熱い口づけをぶちかました

回復ロール
差額を体力回復地として加算


81のダメージ!!!!

アンドリューは危険な状態に陥った

ちょっと回復ロールなのに
な~~~んでダメージ受けてるのよう!?

これってルールの恣意的な改ざんに当たるんじゃないのう??


現実に即したロールプレイと判定がTRPGの基本である
ならばゲームルールが現実に合わせて
多少なりと変化することはありえるであろう

今の判定に異を唱えるものは
果たしてこの世にいるであろうか

もし今の顛末を天から見ている者達がいたら
おそらく全力で賛同してくれるものと思う

なっとくいかないわよう

せ、センセ~~~~!!!
シェパード先生ーーーー!!!

アリスが弾幕ゲームも各屋という勢いで
ナースコールを連打する

シェパード先生!!こっちです
休館は40代男性!!心肺停止!!!

人工呼吸する?

いりません!!!

もうひどいわねえ・・・・・・

先生!!お願いします!!

言われてシェパードは
天を仰ぎ、両の手に力を込め
裂帛の気合をこめて

心臓マッサージを開始した

怒号のようなッサージが続く
あまりの轟音に天は割れ、
地は裂けるかのようであった

シェパードは絶え間なく掌打を続ける
肋骨よ折れよ、
心臓に突き刺されとばかりに打ち付ける

というか折れた
というか突き刺さった

出血が噴水のように噴出し
天井を先決で真っ赤に染め上げる

せ、先生!血を止めないと

落ち着け

なんで落ち着いてるんだあんたは!?

再度手を天にかざすと
神よ、この双腕に宿れとばかりに
心胆を込め・・・打ち付ける!

と・・・・

とまった

アンドリューの心臓が

残念だよ。だが仕方がない
この世には助けられる命と
助けられない命がある

医者は怪我人を直せても
運命は変えられないんだ

この世は無常ねえ
貴方のことは忘れないわ

あんたら悪魔だ!!!!!

ゴボッ!!ゴホゴホ!!!

あ、おじさん!!!

目を覚ましたわ!!!

私の腕を見たかね
私に救えない命などないのだよ

アンドリュー
生きて返ってくるって信じてたわん!!

地獄に落ちろ悪鬼共・・・・。

わ、私は・・・死にかけてたのか?

おじさん!!大丈夫でしたか?
よ、よかった・・・・・。

な、何を泣いているんだキミは


まだ治療(と言うなの殺害行為)を
続けようとする
医者(という名の殺人者たち)と

彼らを病室から追いだそうとする
アリス、霊夢、ロックの3人が
騒がしく暴れているのに苦笑しながら


だって死にかけたんですよ

ふ、ふん!だからどうした!
どうせ死んでも悲しむものなどいないんだ
どうでもいいだろう

そんな事言っちゃダメです
おじさんにだって家族はいるんでしょう?

妻と・・・・娘が・・・・。

ほらいるじゃないですか!
ちゃんと悲しんでくれる人が・・・・

いた

いた?

わたしが、この手で殺したのだ

・・・・・・え?

アンドリューはベッドから立ち上がると
病屋を後にする

(私は一体何を言っているんだ
 あんな小娘だからか?)

(だとしても自分から過去の罪を暴露するなど・・・・)

(・・・・・・・)

(ああ・・・・そうか)


(もし娘が生きていたら、いまごろあれぐらいになるのか)

(・・・・・・・・・・馬鹿馬鹿しい)

おじちゃんも迷子なの?

(ん?)

アンドリューが足を止めると
小さな少女が自分を見ていた

先ほどの言葉を反芻するに
どうやら迷子らしい

い、いや、わたしは
ま、迷子なのか
どうしたものか・・・・。

とりあえず係員を呼んでこようとすると
少女はアンドリューの服を掴み

アッキーが言ってた
「遭難したらその場所を動くな!」って

アッキー?

はい、おじちゃん
これあげる

これは?

ママにもらったアメ
できるだけお腹をいっぱいにして
「救助を待つのが最善」なんだって

そ、そうなのか

あら、ふたりともこんなところでなにしてるの?

ああ、調度良かった
この迷子を・・・・・

救助?

いいえ、私じゃないわ
救助に来たのはそっちのおじちゃんよ

は?

それじゃ、そういうわけで、お願いね

い、いやちょっと待て

救助?

う、いや

違うの?

わ、分かった。連れていけばいいんだろう

アンリューが歩き出そうとすると
少女は片手を出してくる

おてて、つなごう

あ・・・・ああ


おじちゃん病気なの?

ああ


ママたちのとこに連れてってくれるの?

そうだ


あめ、おいしい?

そうだな


両親と来たのか?
ううん、パパはお仕事

アッキーがギックリゴシになったから
早苗さんとママときた

そうか

(アッキー・・・・・外国人か?)


しばらく歩くと、こちらに気付き
安堵してかけて来る女性を見つける

ママだ!おじちゃんありがとう
おじちゃんも早くよくなるといいね

ああ、ありがとう

アンドリューはふと
少女に訪ねていた

パパとママは好きか?

うん、大好き♪


花のような笑顔を咲かせると
少女は元気よく駆けていった


私にも、こんな感傷が残っていたのだな


苦笑してアンドリューは
病室へと踵を返した













・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・塵

だからね私はたけのこの山さえあれば
きのこの里なんてこの世に必要ないと思うのよ

その意見には賛同しかねるわねえ
きのこだって美味しいわよ?
私はきのこの方が好きねえ



何言ってんのよ、
じゃあきのこがたけのこに勝ってるとこ
1文字以上2文字以内で答えてみなさいよ

無理言わないでよう
そんな文字数で何も回答できるわけわないじゃない

そう?充分だと思うけど

どういうことよう?

「皆無」
ほら1文字以上2文字以内ですんだ

ちょっとちょっと、
それはあんまりよう

あんたがどう思うが

AA

これは世界の真実よ

きのこの里なんてこの世に存在する価値ないわ

ムキー!!なによそれえ!!!
そんなの認められないわあ!!!

おふたりとも、落ち着いてください

なんだか騒がしいわね

あれ?おねえちゃん?
どうしてここにいるんですか?

どうしてって・・・妖夢
あなたが殺人を犯して、警察に逮捕されたって聞いて
慌てて様子を見に来たんじゃない

なんですか?
その誤報は

ああ、妖夢ちゃん
私達霊夢さんの車でここに連れてこられたから
逮捕されたように
周りの人に見えちゃったんじゃないかなあ?

ああ、そういうことですか

で、随分騒がしかったけど
なにしてたの?

戦争です

え?

たけのこさえあれば
この世は丸く収まるのよ!

そんなことないわ!
きのこのは愛の象徴なのよ!!

ああ、事情は大体わかった
私も経験あるわ

前にカロリーメイトはどれが一番美味しいかって
議論をした時には

最後にはビルがひとつ倒壊する騒ぎになったもんよ

その間に何があったのか

激しく気になるなあ~~~

でも私はやっぱりきのこの山の方が好きねえ

山?

あはは、おねえさん
きのこは里ですよぉ

・・・・・・・・ああ、そうね
・ ・ ・ ・
そうだったわね

・・・・・・・・・・?

その時、けたたましく何か壊れる轟音が聞こえてきた
病室の過敏がかすかに揺れている

地震かしら?

・・・・・・・・。

・・・・・・・。

突如の揺れに遠くの方から人が騒ぐ声が届く
その声が収まり・・・・・・否
むしろ徐々に大きくなっていく

え、なになに?
火事でも起きたの?

おいおい、早く避難したほうが

ああ、大丈夫よ、ロック
だから病室から絶対出てはダメよ

アリスさんとおねえちゃんはここにいてください

妖夢が足早に部屋を出ようとしたその時
機先を制するように乱入者が現れる

に・・・にげ

言葉を最後まで言い切れすに
医者らしき人物は血をはいて倒れ付す

妖夢はその邪魔な障害物を弾き飛ばすと
弾けるように病室を飛び出した



廊下に出ると何人もの人間が
血相を変えて駆けてくる

妖夢は人の流れを逆走して
病院を包む喧騒の中心に向かって疾走する
付いた先はこの階層では
最も人が集まるナースセンターであった
人々は目を見開き、何かを囲むように立ち尽くしている
その異常の中心にいるのは・・・・・

アンドリュー?

倒れ伏す人垣の中心で
アンドリューが何かを殴りつけている

彼が腕を振り下ろす度に
湿った水音が聞こえてくる
アンドリューがこちらに気付き・・・・振り返る
その手に握りこんでいるのは、
もとは患者の少年であったのだろう・・・
力ずくで引き千切られたに、人型の肉体であった

アンドリューさん?どうしたんですか?

足を軽く開いて妖夢は問いかける

アンドリューさん

――――塵

気分が悪いなら、病室に戻ったほうが

――――――塵

だめじゃないですか、ちゃんとお薬飲まないからそんな

――――――塵

ああ、そういえば、貂蝉さんのせいで
結局飲んでなかったですね

――――――塵

私を・・・・

私を屑と呼ぶなああアア!!!!!


アンドリューは人外じみた力で
少年の死骸をブン回すと
力任せに投げ付けてきた

回避成功



アンドリューは弾かれたように
廊下の奥へと逃走する

貂蝉は血達磨と化した少年を受け止めると
床にしずかに横たえ、一瞬だけ目を瞑り
即座に妖夢の後を追って駆け出した



早い

あまりに疾い

人間に許された脚力の限界を超え
アンドリューは疾走する

そんな彼に前に、曲がり角から何も知らずに
可愛らしいまだ若い看護婦が姿を見せる

貂蝉の口が警告の形に歪みかける

アンドリューは一切勢いを落とさず
最高速度で障害物と激突する

肉がひしゃげる異音が轟き、頭部が吹き飛び
人型の障害物は上半身と下半身へと
爆散して辺りに散らばる

長く伸びた腸で辛うじて繋がっている死骸を
一瞥すらせずに飛び越え
妖夢は一直線にアンドリューの背を覆う

前を行く逃走者の速度は
ここに来て明らかに常軌を逸していた

彼は次々と行き交う人々を砕きながら爆走する
彼が通過した後は壁面が割れ砕け
ガラスが粉砕されて宙を舞う

人においては何をか言わんやだ


轟音に振り返った人々
腕が飛び、足が飛び、首が飛び、腹が裂ける

アンドリューが一瞬で通り過ぎ
妖夢が風を切って駆ける

その後に続こうとした貂蝉は
思わすその足を止めてしまう

ロビーにブチ撒けられていたのは
数十人分の血と臓物

それなりに広い部屋でありながら
赤色に染まっていない部分を見つけられない

人の原型を留めているものは
その場には皆無である

子供用と思わしき、小さなスリッパが
血の海に浮かんでいた・・・・・。


100


病院内は蜂の巣を突いた・・・否
焚き火に投げ込んだような騒ぎであった

先程から断続的に地震が発生している
・ ・ ・ ・ ・
この病院のにのみだ

言っているそばから天井が崩落し
何人かの人間がその下敷きになり潰される


廊下に吹き荒れる火の粉と粉塵を掻き分け
霊夢は急いで崩落現場に走り寄った

ふと天井の大穴を見上げると
こちらを見下ろしている視線と目が合う
他にも大穴の付近に数人の人間の姿が見えた

地上六階分までをブチ抜いた大穴

息つく暇もなく、今度は爆発が発生し
院内の人々は逃げる場所を求めて狂乱する

なに・・・・・?なにがおこってるの・・・?



一閃!!!

背筋が凍るほどに冴え渡る剣閃が
壁ごと対面を走る獣を切り裂いた

朱く光る狂える瞳が妖夢を捉える
剣士の頭部を狙って鏃のよう掌撃が放たれる


今まで散々人々を肉塊に粉砕してきた一撃だ
その脅威のほどは充分に理解している
まともに食らえば人間など一溜まりもない

その致命の一撃を妖夢は

真正面から迎え撃つ

妖夢は襲いかかる獣に向かって
躊躇なく駆け出すと
その構えを変転させる

身を張り、切り裂く構えから
右手を引き、左手を前に、身は乗り出し

アンドリューの腕の真芯に
完璧なタイミングで打ち込まれた妖夢の突きは

その腕を貫き、その腕を吹き飛ばし、
アンドリューの右半身を爆散させた



湖面を穿つ水鳥のごとく
突き穿つ構えヘと・・・・



妖夢は刀に付いた血を払い、構えを戻す
息一つ乱していない

眼前の少女を脅威と判断した野生が
本能的に彼を後ろに飛び下がらせ

その背中に・・・・大きな影が覆いかぶさる

太陽の光を背負い、屹立する美女
   ・ ・ ・ ・ 
彼女は病院を支える柱を脇に持ち
ゆったりと振り上げ
雷鳴の速度で叩き落とした


もう幾度目になるかわからない地震が
再度病院を襲った

彼女たちが戦っている階層は
戦闘の余波であらゆる施設が吹き飛ばされ
もはや完全に吹き抜け状態だ

他の階層に入る者達には分からなかったが
この建物の異常の発生源は明らかに
この場所以外にありえなかった

周りを囲むオフィスビルの内部から
何十人もの人間が目を見開らいて
少女と異形と怪物の戦いを呆然と観戦している

それはまるで現代に蘇った
無秩序で倒錯的なコロシアムのようであった

アンドリューは人ならざる怪力で
周囲を破砕しながら襲いかかるが
妖夢はその全てを紙一重で回避する

彼女の疾さは凄まじく
たとえ注視していてもその姿を見失わないのは
至難の業であった

ここまでの激戦で、彼女は傷一つ
返り血の一滴すらその身に受けていないのだ

対する貂蝉は、周囲の建築物を
引き抜いては叩きつけ
割り裂いては殴りつけ

時には壁や天井を根こそぎ引き剥がし
そのまま質量兵器として襲いかかり

ひたすら一方的な攻勢を崩そうとはしなかった

この階層が病院としての役割を
なかば放棄しかけているのは
彼女にその原因があるといえるだろう

人である彼女たちと、人ならぬアンドリュー
この場において、より恐ろしい存在は
果たしてどちらなのであろうか?

不利を悟ったか、アンドリューが身を翻す

そして病院の外壁に張り付き
上層へと向かい始めた

後を追う妖夢は当たり前のようにそれに続く

彼女はあろうことか
壁面を蹴りあげ、垂直に駆け上がった

それを追う貂蝉は、壁面に手足を突き刺し
強引に取っ掛かりを作って登攀する
当然その速度は早くはない

あらゆる意味で妖夢がおかしいのだ

アンドリューもすぐに追いつかれると
そうそうに理解したらしく
追走者への妨害を開始する

その手段は、障害物の投棄

アンドリューは両腕が不気味に蠕動し始めると
それを一切の遠慮無く、壁面とへ叩きつける

病院の壁が評者上にひび割れ、砕け
過剰な負荷を受けた階層が、地滑りを起こし
轟音とともに崩落する

今日何度目になるかわからない地震が起きた

妖夢は突然の怒号に頭上を見上げる

家を押し潰せそうなほどの瓦礫
崩落し、原型を留めぬ病院の設備
魂を抜かれたように宙を舞う病院患者

妖夢は一度崩落する瓦礫を仮の足場とすると

身を弓のように弛め
矢の如く跳躍した

空中に飛び上がるアンドリューを
一筋の閃光となった妖夢が撃ちぬく

絶叫を上げる獣の狂える瞳と
空を翔ける剣姫の冴え渡る瞳が交差する

一閃

獣の身体を斬り裂いて
妖夢が宙に躍り上がる

真っ赤に咲き乱れた血の花びらが
赤い夕日に溶けて、消える・・・・。

断末魔すら挙げず、地に落ちるアンドリューと

飛翔の慣性の名残を身に纏い
時が止まったかの様に、緩やかに浮遊する妖夢


沈み始めた黄昏の悠陽が、
狂騒のまま駆け抜けた戦場を、淡い夕凪で包み

妖夢の体を緋色に染め上げた・・・・。

どうあがいても破滅なクトゥルフ神話

どうあがいても破滅なクトゥルフ神話

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-01-23

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 1
  2. 2
  3. 3