zoku勇者 ドラクエⅨ編 10
いつもあなたと……編 1
お騒がせ4人組、北東の関所を超え、次の目的地の町へ。此処の名称は、
ベクセリア……、というらしい。多くの建物が殆ど高台に面している
町である。新しい町を訪れたらまずは最初にすべき事、武器、防具の
調達で町を歩いて回ってみる事にしたが……。
「やっぱり、ただ事じゃ……、ないね、殆どの人間が家に引き籠もってる
みたいな感じだね」
「ああ、此処でも何か起きてんのは間違いねえなあ……」
「空気が凄く変だわ……、淀んでいるのかしら……」
「疲れたよお~、てか、モン……、何でオイラに負ぶさってんの……」
「モンだって飛びっぱなしは疲れるんだモン~……」
(あ~あ、アタシって楽チンだわ~!当分外に出るのよそう~っと!)
「……この物臭ガングロめ……」
4人はただ事ではない町の雰囲気を感じ取りながら買い物へ。店で武器と
防具を調達。大分資金も貯まっていたので、今回は大盤振る舞いで、
ジャミルとアルベルトは武器に鉄の剣、ダウドにロングスピア。特に
ダウドは泣く程喜んだ為、アルベルトに、何も泣かなくても……、と、
いつも通りのオーバーリアクションに苦笑。
「私もっ、今回は鞭系!バトルリボンよ!」
「アイシャ、かっこいいモン!」
「……」
鞭をぴしぴし振り回すアイシャの姿に、何だかとてつもなく不安を
覚えるジャミルであった。
「しばかれないように注意した方がいいよお、ジャミル……」
「何で俺の見るかっ!馬鹿ダウドっ!……それにしても……」
「うん……」
男性陣3人は新しい防具に顔を見合わせる。身体用の新防具は
鉄の胸当てを装備したが、どっからどう見ても、某サイヤ人の
お方が普段身に着けている軽防具にしか見えなかった。ちなみに、
アイシャは白いTシャツに赤スカートと、非常にシンプル。
「なあ、親父さん、この町って……」
ジャミルが何となく武器屋のおじさんに訪ねてみると、最初、おじさんは
困ったような顔をしていたが、少しだけ、ぼそっとこの町の事を教えてくれた。
「君達は他所からのお客さんだね、悪い事は言わないから早く此処から
去った方がいい、原因不明の謎の流行病だよ、急に高い熱や酷い咳が
出たりして、もう何人もやられている……、医者でも治す事が出来ないんだ、
……現に患者を手当てした医者自体が亡くなってしまったそうだよ……」
「……ひええええっ!?」
真っ先にダウドが奇声を上げた。しかし、自分達は困っている人々を
ほおっておいて逃げる訳にはいかない。その為に此処を訪れたのだから。
買い物が済んだら次にやる事。この町のもっと詳しい情勢を知る為の
情報収集である……。
「そう、話が聞きたいのなら取りあえず、北にある町長さんの家に
行ってごらん、けど、坊や達、いつまでもここにいるのはよくないよ……」
ジャミルは偶々井戸に水をくみに外に出てきたおばさんを捕まえて
話を少しだけ聞く事が出来たが。このおばさんも一刻も早く4人に
此処から出る様にと勧めた。
「……折角そう言ってくれてるんだからさあ~……」
「……ダウドっ!そんな訳にいかないんだったらっ!!」
「冗談だってばあ~!アイシャっ、鞭握りしめてこっちに来るの
やめてっ!何か怖いんだよおお~!!」
「……何よっ!失礼ねえ!!」
まるでSM女王はバトルリボンを握ったまま呆れて膨れる。その姿に、
ジャミルも段々冷や汗が出てきた……。これでバタフライマスクでも
着けられたらもう完全にお仕置きを食らうのは目に見えていた。
「と、恐ろしい想像は此処までで……、どうする?今からこの町の
町長さんとやらの家に行ってみるか?」
ジャミルはそう言ってみるが、今日はもう遅いから明日にしようとの
アルベルトの言葉に、漸く休めるとダウドはほっとする……。4人は
宿屋へ向かうが、内部は全然ほっと出来る様な状態ではなかった……。
「……苦しい……、私は一体どうなってしまうんでしょうか……」
「うう、ダーリンしっかりしてよ……、折角のハネムーンがどうして
こんな事になっちゃったのよう~……」
中にはこの町に訪れた旅人カップルの旦那の方が病気に感染したらしく、
宿屋のベッドに突っ伏したまま、もう数日動けない状態に……。重い
病原菌の感染者を移動させる訳にもいかず、店主も頭を抱えていた。
「いつになるか分かりませんが、このままだと私もいずれは病気に
感染するのでしょうね……、ああ、こんな状態で宜しければお好きな
お部屋をお使い下さい……」
店主はカウンターに頭を突っ伏したまま、泊まりに来たジャミル達の
方を見ずに答えた。
「こりゃ事を急いだ方が良さそうだなあ~、マジで……」
「そうだね、僕らで何か出来る事があるのならば……」
こんな非常事態の中で、食事も当然出して貰える様な状況ではなく、
4人は予め持参しておいた予備用のパンを口に入れるが……。
どうにもモンには足りないようである……。モン処ではなく、
ジャミルも当然腹は満たせなかったが、我慢するしかなかった。
……窓の外から見える月明かりを眺めながら、只管味の薄い
パンを囓っていた。ああ、リッカの作ってくれる飯が恋しいなあ~
……、と、思いながら。
「……モシャああーーーっ!!」
「ちょ、モンーーっ!オイラの頭囓るのやめてえーーっ!
あだだだだだっ!!」
「モンちゃん、やめなさいっ!……明日キャンディー買って
あげるからっ!!」
やはりモンスターの症が出るのか腹が満たせなくて我慢の
出来ないモンがダウドに噛み付きそうになり暫く大騒ぎと化す。
どうにか宥めるが、ダウドのオールバックヘアは、モンの所為で
ぐちゃぐちゃになり、凄まじい無残な事態に。
「ああ、騒がしいなあ~、こんな時に……、こっちゃ疲れてるんだ、
いい加減にしてくれよ……、冗談じゃないよ、私らは一体いつ死ぬか
分からないんだよ……」
2階の部屋から聞こえてくるドタバタの騒音と騒がしい声に、
カウンターにいる店主は相も変わらず、落ち込んだままの状態で
ぶつぶつ呻いていた……。
翌日。4人は昨日のおばさんに教わった通り、町の中央に有る大きな
高台の屋敷へ。……モンは今日もダウドに負ぶさっていたが、空を
飛ばないのはお腹が空いて徹底して機嫌が悪いのである。何せ宿屋も
あの状態の為、当然朝食も無しなのだから。
「勘弁してよお~……」
「モン~……、でっかいキャンディはまだモン……」
背中に爆弾を括り付けたまま歩くダウドに他の3人は苦笑。
またいつ爆発してダウドに噛み付くか分からない勢いの
モンである。
(はあ~、何もしなくていいってサ、本当に楽チンね、マジで!
るんるん!)
「……オメーもいい加減にしとけ、この傲慢ガングロ……」
「見えて来たよ、あそこじゃないかな?」
「おおー!だなあ!」
アルベルトの言葉にジャミルはひょいっと背伸びして見えて来た
屋敷を見上げた。だが、屋敷は高台にあるので、もう一踏ん張り
彼所まで上らねば。……爆弾を背負っているダウドはウンザリ。
此処で待っていたいと駄々をこね始めた物の、1人だけズルを
させる訳にいかないので無理矢理に引っ張って連れて行く。
ダウドは、じゃあモンのお守り交代してよおと言い出す。
……じゃあ、私が交代で抱くわと、アイシャがモンをダウドから
引きずり下ろそうとするが、モンの方もどうしてもダウドの背中が
いいらしく降りようとしない。
「いやモンブー!」
「……背中ジャックらしいぞ、ま、気に入られちまったんだから、
この際もう暫く我慢してくれよ……」
「うわあああーー!!」
後ろの方で絶叫するダウドを尻目に、ジャミル達は只管、目的の町長の
屋敷を目指す。
「こんちは……」
「はい……?」
屋敷の玄関の呼び鈴を鳴らすとメイドさんらしき女性がそっと
顔を出す。メイドさんは訪れたジャミル達に最初は首を傾げて
いたが、話を聞くと自部屋で仕事をしているらしき町長を
呼びに行ってくれた。
「……ふう、さっぱり読めん、……やはり古文書の解読は
あいつに頼むしかないのか、ブツブツ……、とにかくこれ以上
被害が広まる前に何とかせねば……」
「……」
居間で暫く待っていると、やがて禿頭の小太りの老人が現れた。
「おや、あなた方がお客人でしたか、これはどうも……、
私はこの町の町長を務めている者です……」
「初めまして、こんにちは、お忙しいところお仕事のお邪魔を
してしまいまして大変申し訳ありません、僕達は……」
……こういう時はアルベルトに任せるのがベスト。アルベルトは
丁寧に自分達が此処に訪れた目的を丁寧に話して説明すると町長は
納得。
「そうでしたか、今この町で起きている事について知りたいと……、
良いでしょう……」
4人は町長の話に耳を傾ける。原因不明の突然の謎の流行病が
この町で流行りだし、これまで幾人もの町の人間が亡くなって
いるという事を改めて聞く。この流行病は、実は100年ほど
前にも同じ様に町で流行していたらしい。町長は何とかして
治療法を探そうと、屋敷に現存する古い資料を探しあさって
いたのだが、古文書の解読が出来ず困り果てていたらしい。
……だが、この町に住む、唯一の学者のルーフィンと言う
変わり者の男なら、それが可能という事。現在はその学者に
解読を任せているらしいのだが。町長は自分でも何とかもう
一度解読をしてみようと思ったらしいが、無理だったらしい。
「学者……」
学者なら、当然本に囲まれて暮らしている筈である。今度はジャミルが
嫌な顔をした。
「しかし、奴め……、そろそろ何か分かってもよさそうな物だが……、
此方から出向くのも尺だ……」
「あの、町長さん……?」
「お、おおお!そうだ、君たち、一つ頼めるかな?」
「はあ……」
町長は目を輝かせ、アルベルトの肩を掴んだ。何かお使い事が
始まりそうである。
「君たちも様子が気になっておりませんか?どうですか?
儂の代わりに、ルーフィンの家までひとっ走り赴いて
調査状況の様子を見ては来てくれませんか?奴の家は
儂の家から西の方角にある一軒家です、汚い家ですから
すぐに分かると思います」
「はあ、それは構いませんが……」
「そうかそうか、頼まれてくれますか!では、儂は引き続き
自分でも解読をしてみるつもりですので、では!」
「……」
町長は4人に学者の調査状況を頼むと自分は又さっさと自部屋に
引き籠もってしまった。
「まだちゃんと返事してねえぞ、俺ら……」
「仕方ないよ、結局は動かなくちゃならないんだから……」
「それにしても、町長さん、何だかその、ルーフィンさん?
……て言う、学者さんに会うのを拒んでいる様な気がするんだけど……」
「ええ、ルーフィンは嫁いだ娘の旦那です……」
アイシャの声を聞き、話を聞いていた初老の女性が奥の
部屋から姿を見せた。どうやら町長の奥さんらしい。
「あ、ああ……、初めまして、お邪魔させて頂いております……」
「ええ、お話はずっと先ほどから……」
再び挨拶を始めたアルベルトに奥さんが返事を返した。
「……ルーフィン先生に古文書の解読を勧めたのは私なんです、
主人と先生は仲がとても悪くて……、町は大変な状況ですが、
これを切欠に仲違いが収まってくれればと思ったのですが……、
このまま父親と旦那の仲が悪いままでは、余りにもエリザが
可哀想ですもの……」
「……」
4人は町長の家を後にする。このままでは仕方ないし、自分達も
ルーフィンの調査状況が気になる為、今度はルーフィンの家へと
足を向け歩き出す。
「ぶーがぶーが!モモンモン!」
モンはダウドに負ぶさったまま居眠り。今は一応は大人しく……
してくれているみたいだった。
「……ぜんっぜん大人しくないよお!」
「おい、静かにしろよ、座布団が起きちまうだろうが!」
「そうよ、モンちゃんが寝てくれてる間に早く学者さんの
お家にいかなくちゃ!」
「一通り、今日の事が終わればまた店で買い物をしよう、
モンにも何か食べさせてあげられるからさ……、ダウド、
悪いけどもう少しだけ頼むよ……」
「……ううう~、ま、また爆発しませんように……」
……時折背中に当たっては割れるモンの鼻提灯を背に
受けながらダウドも皆の後をびくびくモンで歩いて
行くのだった……。
「こ、こんちはー!」
「はあーい!」
……4人は今度は変わり者らしい学者の家へと。ドアが開き、
出迎えてくれたのは、緑髪の前髪ぱっつんおかっぱヘアに
大きなカチューシャリボンを着けた可愛らしい女性。
「ごめんなさい、ちょっとうたたねしちゃってて……」
「いや、急に来た俺らも悪いんだけど……」
「あっ、もしかして、ルーくんにご用ですか?」
「ルーくん……?」
「えと、ルーくんていうのは、ウチの主人のルーフィンのこと……、
きゃ、やだ!私ったら!主人だなんて!きゃー!てれるぅ!」
女性は顔を赤くして興奮し始めた。どうやらまだ相当の若奥様らしい。
町長の奥さんが言っていた、彼女が嫁に行った娘のエリザと言うのは
間違いないだろう。
「あの、こんな処で立ち話もなんですから、どうぞ中へ、まだお掃除前で
お家、散らかっちゃってますけど……、あ、私はルーくんの妻のエリザです……」
「どうするか……」
「うん、色々と説明もさせて貰わなくちゃいけないし、お邪魔
させてもら……」
「くんくん、何だか美味しそうな匂いがするモン……」
「……うわああーーっ!?」
アルベルトがそう言った途端、座布団復活。目を覚ましたモンは
ダウドの背中の上で大口を開けた……。
「ダウドったらっ!大きな声出さないのっ!モンちゃんも駄目でしょっ!!」
「だってええ~……」
「モン~……、もうお腹ペコペコモン……」
「あらあら、随分と変わったお友達ですね、お腹がすいているのかな?
そうだわ、丁度クッキーを焼いていた処です、良かったらその子に……」
「モンーーっ!!」
クッキーと聞いて途端にモンが興奮し始めた。直後、モンは漸く
ダウドの背中から離れ、ダウドも取り付き爆弾魔から解放された。
「ホ、助かったああ~……」
「モンちゃんたら……、ますます誰かさんに似てきたじゃないの……」
「んだよ!俺の方見んなよ!」
「プ……」
アイシャは横目でジャミルの方を見、アルベルトは吹いた。若奥様が
中に入る様に折角勧めてくれているので、4人は家の中へ……。
エリザに自分達の簡単な自己紹介も済ませた。
「どうぞ、少し焦げちゃったかなあ~、う~ん……」
リビングで寛がせて貰う4人……、と、+α。エリザは先ほど
言っていた焼きたてのクッキーをお茶菓子に出してくれる。
紅茶も淹れ立てで良い香りがした。
「モン!頂きますモン!……バリバリ!ムシャムシャ!!」
「!!モンっ!こ、こらーーっ!!」
「あ、あらら~?すご~い……」
モンは遠慮せず、皿の上のクッキーの山をペロリと平らげる。
……食い意地の張ったジャミルもこれには困り果て、モンを
捕まえてデコピンしようとするのだが……。
「凄い食欲ね、良かったらもっと食べる?まだ焼けばあるから……」
「モォ~ン!」
モンがエリザに甘え始めた。調子に乗るモンをジャミルは慌てて
成敗しようとするが、エリザはいいんですよと手を振った。
「けど……」
「実は、お仕事を頑張るルーくんの為に、………ほら……」
「……うわ!」
エリザは顔を赤くし、大量生産で作ってある予備軍のクッキーの
種の山を見せた。つい興奮して張り切り過ぎて、作り過ぎてしまった
為、どうしようか処理に困っていた処らしかった。
「あはは、私ってドジだから……、また君は……、こんなに
クッキーばっかり食べられないよ!……、ってルーくんに
怒られちゃう処でしたよ、ふふ……」
「はあ……」
そういう訳ならと……、取りあえずジャミル達は安心する。
それから暫く後。モンは見事クッキーの山を平らげ再び眠りに
ついていた。……今度は安眠状態で……。
「ぶーがぶーが……、ゲブ……」
「モンちゃん、やっと寝てくれたけど……、本当に有り難う
ございます……、ご迷惑お掛けしてしまいまして……、クッキーで
お腹があんなに膨れてるわ……、このお腹、破裂しそう……、全く、
しょうがないんだから……」
アイシャは困った様な表情をしていた物の、デブチャンモンの
状態に吹く寸前だった。
「いえいえ、此方も見ていて癒やされましたから、……こんなの久しぶり……」
エリザもそう言いながらモンのポンポコ腹に触れる。お腹を
撫でられ気持ちがいいのか、一発、モンは小さなおならをした。
取りあえず、爆弾の方は何とか落ち着いた為、いよいよ本題に
入ろうと、ジャミルは町長の言付けをエリザに話し始める。
「そうでしたか、パ……、町長に頼まれて様子を見に……、
ルーくん、今お仕事に没頭中で研究室に籠もりっきりなんですよ、
丁度いいわ、私も心配だから外にある地下の研究室の方に
先に回って鍵を開けて貰います、ルーくん人見知り激しいから」
「あ、エリザさん……」
ジャミルが言葉を続ける前にエリザは急いで席を立ち、
外に出ようとした。だが。
「……い、つう……」
彼女は外に出ようとした際に、玄関の入り口で何故か頭を押さえて
そのまま立ち止まってしまったのである。
「奥さん……?」
「!?」
「!だ、大丈夫かい?具合悪いんじゃ……」
「ジャミル、何だかエリザさんの様子が……」
アルベルトも、モンの腹を突いて遊んでいたダウドも、アイシャも
異変に気づき、エリザを心配するが、彼女は自分を心配してくれて
いるジャミル達に対し、明るく、あはは、大丈夫ですよー!と、
手を振った。
「私、偏頭痛持ちなんです、時々こうで……、困っちゃうんですよ!
本当に大丈夫ですから、さあ、私は先に行ってルーくんにお話して
おきますね、皆さんも来て下さいね!……ルーくん、研究に夢中に
なるとお風呂にも入ってくれないんだから!困っちゃう!」
ジャミルは玄関を元気に出て行く彼女の姿を見つめていたが、
その姿に何だかとても嫌な……、悲しい予感をうっすらと
何となく感じ取っていたのだった。
「……けほっ、けほ、……こほん……」
「どうする?俺達もそろそろ動くか……、あまり待たせると悪いしな」
「そうだね、じゃあ研究所の方に僕らも行ってみようか」
エリザが外に出て行ってから数分。ジャミル達も地下研究所の方へ
移動しようと言う事になった。
「モォ~ン!」
「ちょっ!モンっ!何でまたっ!」
機嫌の良くなったモンは今度は自力で移動してくれるかと思いきや、
再びダウドの背中の上に飛び乗ってしまった。
「モン、此処がいいんだモン!」
「良かったな、相当気に入られたな、お前、まあ、またご機嫌取りで
暫くの間は我慢してやれよ、何せ皇太子は我儘で困るからな……」
「モンモン!」
「あああーーっ!何でこうなるのさあーーっ!!」
「モンちゃんたら……、でも、よっぽど居心地がいいのね、
ダウドの背中……」
「うう~、アイシャもさあ、笑ってる場合じゃないよお、何とかして……」
……ブモンッ!!
「……いやああーーっ!もうこんな生活いやだあーーっ!!」
また絶叫するダウドにジャミル達は苦笑。モンはクッキーの所為で
更に重くなっており、おまけにおならまでやられる始末。しかし、
ダウドは今回の相当の被害者である。最近はやたらとおならの
回数も遠慮しなくなってきている為、これは完全にジャミルの
悪い教育の悪影響を受けているのである。
「……何だっつーんだよ……」
「それにしても、すっかり暗くなってしまったね、大分冷え込んで
きたし、エリザさんにもご迷惑掛けてしまうから急ごう……」
夜空を見上げながらのアルベルトの呟きに、ジャミル達は
地下研究所へ急ぐ。……だが、再び爆弾を背負ってしまった
ダウドは相当大変そうであった……。
「……けほ、パパったら、ルーくんに会うのが恥ずかしい
からって、何も旅人さん達に頼まなくても……、ん~と、
ルーくん、いる?」
「エリザかい?こんな時間に珍しいな、いるに決まってるよ、
どうしたんだ?」
「お疲れさま、うん、ルーくんにお客様だよ……、パパの
お使いの人が古文書の解読が進んでいるかどうか訪ねてきて
くれたんだよ」
「僕に……?ふん、そんなよっぽどの暇人が……」
「あ、ジャミルくん達、来てくれた、此処ですよー!」
「……」
途端に外が何やらやかましくなる……。研究所で独り引きこもり、
黙々と作業をしていたボサボサ髪の青年は読んでいた本をパタッと
閉じ、椅子からのそっと立ち上がる。
「ルーくん、鍵開けて下さいな……、あっ……」
ガチャリと音がし扉が開いた。姿を現したのは、後ろ髪を縛った
仏頂面、白衣着用の無精髭の眼鏡の青年……。胡散臭そうに、訪れた
ジャミル達をじろじろと見る。
(……こいつなんかすっゲーにおうんですケド!?クッサーー!!)
ジャミルの耳元でサンディが喚く。当然青年には聞こえていないが。
エリザが言ったとおり、恐らく数週間は風呂をシャットアウト
しているのは分かる……。
「こんちは……」
「君達がお義父さんの……?こんなお子ちゃま達なのかい、仕方ない、
お義父さんに頼まれたんじゃな、しょうがない、入ってくれ……、
しかし、あの人も一体何を考えているんだか、こんな子供に……」
「……」」
青年は頭を掻きながら再び研究所へ引っ込む。折角来たのに
無愛想な態度にジャミルはむっとするが、声を出したいのを
堪えて後に続いて研究所内へ。……先ほど、青年が頭をぽりぽり
掻いた時に何やら白い物が頭から飛んだのをジャミルは見逃さず。
「今忙しいんだけど、で、何の用……」
「……お~い、古文書の解読の件で来たんだよ!」
今度はジャミル、切れそうになるが、アルベルトが何とか注意して制した。
「ああ、そうか、古文書の解読結果ね……」
「ルーくん、その前にじこしょーかいしなくちゃ!」
「しても何の得にもならないと思うんだけどな、面倒くさいな、えーと、
初めまして、ジャミルさんですか?まあ、出来るだけ覚えておきますよ、
すぐに忘れると思いますが、僕はルーフィン、考古学などをやっています、
……まあ、こんなところかな」
「ぱちぱち、ぱちぱち!ルーくん、えらいえらい!」
面倒臭さ100パ状態でジャミル達に挨拶をした旦那に奥様は拍手。
……一体この夫婦はなんやねんとジャミ公は思ったが……。
「そんな事よりも、この奇病の原因が一応、漸く分かりましたよ……、
一応ね……」
「さっすがルーくんっ!」
ルーフィンの言葉にジャミル達も思わず身を乗り出す。この男は
無愛想で一見嫌な感じではある物の、やはり奇抜な相当の奇怪な
天才らしかった……。それにしても、天才と言うのはやはり何処か
変わり者が多い。
「えーと、一度しか説明しませんので……、事の起こりは
100年ほど前、この町の西にとある遺跡が発見された事です、
遺跡を発見したベクセリアの民が事もあろうに軽々しく遺跡の
扉を開いてしまった事から始まりました、その中には、病魔と
呼ばれる恐ろしい災いが眠っている事も知らずに……、その
病魔こそが今広がっている流行病の元凶と言う訳です……」
「あ、ルーくんのおズボンのチャックチャック!封印がひらいちゃってる!」
「……エリザ、いいから……、古文書によると、病気と言うよりは、
一種の呪いだった様ですね、当時の人々は病魔を封印し遺跡の
入り口をほこらで塞ぐ事により、呪いから逃れたと言われています」
「モォ~ン、モォ~ン、モンモンモーン!ぽーこぽーこモン!」
「……うう、オイラのこれも……呪いなんでしょうか……」
モンはダウドの頭を太鼓代わりにし、キャンディーの棒をバチにして
頭をぱこぱこ叩きながらご機嫌で遊んでいた。
「噛み付かれるよりいいでしょ、少しは我慢して遊んであげてよ!」
そうは言いますけどね、じゃあ、アイシャちゃん、あんたも叩かれて
みなさいよおと、ダウドは只管思うのであった。
「……何だあれは……、とにかく、今回又、この現代に再び病気が
流行りだしたのも、もしかしたらこの間の地震で西の遺跡に何か
異変が起きて封印に支障が出たのかも知れませんね……」
「病魔が復活したのも、遺跡に異変が起きている所為……、ですか?」
「その通りです、早い話、それが本当なら遺跡に赴いて病魔を
再び封印すればいいだけの事ですよ、……この町でそれが
出来るのは僕だけしかいないでしょうね……、素人には出来ない
仕事ですよ」
ルーフィンは眼鏡を押し上げて、言葉を尋ねたアルベルトの方を
見てにやりと笑った。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 10