こころここころ



 逆泥棒、なんて言い方も変だけど。人が賑わうフロアの一角を占める、そこの小さな売り場面積のフックに引っ掛ける。そんなイタズラめいた遊びがまた最高の思い出となったらって想像して、想像するから実行する。
 そう決めるまでの間に流れた時間の幅。結構広くて長いし、流れもなかなかに遅かったのは主観的なブレーキを踏んでいたからなのか、それとも道の起伏に合わせたアクセルワークを理性的に熟していたからなのか。パソコンの画面上に点滅するカーソルみたく、瞬きしながらその判断を遅らせて、私が沢山積み上げようとしたもの。
 その全てを誰にも理解されない、という理解が少しも錆びさせなかったし、私も活き活きとしていられた。依存関係に思えるのにね、「身に付ける」なんて。痛みからも何からも無縁だった。
 それを止める、外す。別れる。解消する。
 愛着の一つや二つなんて勿論ある。酸化を促そうとする下卑た視線にレモンを丸ごと投げ付けたこと、真っ赤になった手のひらで沈む夕陽に何度もビンタをぶちかました日々に覚えた爽快感は、今でも鮮明な記憶だから。
 吸い込んだのは汗も涙も、それから他人の血も。アイツをぶん殴った仲としてアナタの強さを私が知ってる。売り物みたいな顔ができないとは、到底思えない。
 約束する。匿名性の高いそのイニシャルが私というものの特定を阻むよ。言い換えれば、新たな持ち主の「それ」にもなる可能性が高いという事。だから離れ離れになっても幸せは続く。だから選択する。した。そういうものを、今生の別れっていえるんだよきっと。
 自由になる、そういう作りになってるって確かめ合うから。
 歪んだ顔で写って、骨という骨を鳴らしても、変わらないリズムで笑って、涙を落として、それから悲しみを見捨てようとする。喧騒の只中にあって私というものが静かに音を浴び、風に吹かれて私は真っ直ぐに進む。
 誰かの物になって、アナタが、すれ違い様に触れることはきっとない。そういう作りになってるって、何度でも確かめる。イタズラめいた遊び。最高の思い出。つま先に当たっただけの石ころみたいな、オノマトペ。



 器なる私を、私は愛すよ。

こころここころ

こころここころ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-10-25

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