zoku勇者 ドラクエⅨ編 9
姫君と黒騎士編4
「……レオコーン、俺ら偉そうな事言えねえけど……、今は元気
出してくれよ……、な?」
「済まぬジャミル……、そなたの手まで借りて漸くルディアノへ
辿り着いたと言うのに……、時の流れと共に王国は滅び、……愛した
姫君はもういない……」
「レオコーン……」
「もう……遅すぎたのだ、……何もかも……」
レオコーンの絶望に溢れた悲しそうな声が玉座の間に響き渡る。
しかし、直後……。再び玉座の間の扉が開き……。
???:いいえ、遅くなどありません!
「……い、いいっ!?ひ、姫さんっ!!何で此処に!!
……それにっ!!」
「モンモン!」
「フィオーネ姫っ!モンちゃんまでっ!」
「……メリア……、姫……、まさか……、いや、そんな筈は……」
ジャミル達4人は唖然とする……。何と、玉座の間に乗り込んで
来たのは、モンを連れたフィオーネであった……。しかし、モンは
あのまんま化粧を落とさずである。……フィオーネは純白のドレスを
身に纏い、首にはある物を下げていた。
「その首飾りは……、まさか本当に……、あなたはメリア姫
なのですか……?しかし、あなたはもう……」
フィオーネ……、メリア姫はドレスの裾を摘みお辞儀をし、
一歩進んでレオコーンの前に出る。そしてレオコーンの手をそっと握る。
「約束したではありませんか、ずっとずっとあなたの事を待って
いると……、さあ、黒薔薇の騎士よ、私と踊って下さいますね?
かつて果たせなかった婚礼の踊りを……」
「……メリア姫……、この私を許して下さるのですか……?」
メリア姫はレオコーンの顔を見て静かに微笑んだ。
「……お、おおおっ!?」
「きゃあー!?」
レオコーンの身体が光だし、顔を覆っていた黒い兜が消える。
そして素顔のイケメン顔が現れたのであった……。2人は手と
手を取り合い、婚礼の踊りを踊る。……かつて果たせなかった
約束と願いが今漸く果たされようとしていた。ジャミル達は
幸せそうに踊る2人をじっと静かに見守っていた……。特に
アイシャはもううっとりさんである。
やがて踊りは幕を閉じ、黒騎士レオコーンとメリア姫に
別れの時が訪れる……。
「有難う、異国の姫よ……、貴方がメリア姫でない事はもう
分かっていた、しかしあなたがいなければ……、私はあの魔物の
意のままに絶望を抱え今も彷徨っていた事でしょう……」
「やはりあなたは黒薔薇の騎士様だったのですね……、初めて
お会いした時からずっと……、あなたには運命の様な物を
感じておりました……」
「……メリア姫の記憶を受け継ぐあなたならばその様に
思われるのも不思議では無い事なのかも知れません……」
「……私が……、メリア姫の……、あ、ああ……」
レオコーンの身体が再び光り出す。本当に時間が来た様であった。
レオコーンは素顔のままで最後にもう一度、ジャミル達4人の
方を見つめた。
「ジャミル、そなたのお蔭で私は本当の真実を取り戻す事が出来た、
もう何も思い残す事はない、……有難う……」
「……いや、俺らは別に何も……、その、ちゃんと……、今度は
生まれ変われ……よ……」
「さようなら、レオコーンさん……」
「……キャラメルとんがりコーンさん、ばいばいモン……」
「ま、またモンは……、全く……、では、お別れですね、
さようなら……」
「……あううう~!さ、さようならあ~!!元気でねえ~!!」
「……」
4人とモン、そしてもうメリア姫で無く、フィオーネに見守られ、
レオコーンは空へと昇って行き、昇天したのであった……。
消えていく黒騎士……、レオコーンの姿を最後まで見届けた
フィオーネの目から涙が零れる。
「さようなら、……愛しい黒薔薇の騎士様……」
「えーと、……姫さん、大丈夫かい?」
「は、はい……」
ジャミルがフィオーネに声を掛けると、フィオーネは目頭を
指で擦り、改めてジャミルと向き合い返事を返す。
「あなたに全てをお任せした筈なのに……、あの方の事
ばかりを考えていたらいても立ってもいられなくなり、
此処まで来てしまいました……」
……しかし、モンスターの群れ掻い潜って……、意外とパワフルな
姫さんなんだなあ……、と、ジャミルは突っ込まずいられなかった。
この件は、のちに護衛も付いて一緒に来た事も知るのであるが、
それにしても逞し過ぎだろうと思ってみたり。
「あの方と踊っている間、不思議な声が聞こえたのです、
優しい女の人の声で、……よく来てくれましたね、フィオーネ、
……ありがとう……、と」
「声か、……成程な……」
「それでは私は一足お先にお城に戻りますわ、この事を皆様に
お伝えしないと、ジャミル様、貴方へのお礼も改めてお城にて
させて頂きますわ、必ずお城まで来て下さいね、モンさんも此処まで
一緒に来て下さって有難う、とても楽しい旅でしたわ!」
「え……?あ、姫さんっ!!」
ジャミルが叫ぶが、フィオーネはダッシュで玉座の間を飛び出す。
4人も急いで後を追い、部屋から出るが、既にもうフィオーネの
姿は消えていた……。
「マ、マジでなんつー姫さんだよ……」
「モン、心配ないモン、お姫様は此処までは護衛の兵士さん達と
一緒に来たんだモン」
「な、なんだ、……なら……」
「でも、地下はモンと2人っきりだったんだモン、モンがお姫様
守ったんだモン!」
「まあ、モンちゃん偉いのね!凄いわ、ふふ!」
アイシャが嬉しそうにモンを抱き上げる。彼女は心からのモンの
成長を喜んでいた。しかし。
「モンの顔見たら地下のモンスター皆逃げてったんだモン!
……シャアーーっ!!」
「……」
モンは化け物化粧顔のまま、怒って大口を開けた。モンの顔は
フィオーネの手による更なるパワーアップメイクの所為で化け物
以上のカオス顔になっていた。……そしてジャミル達もモンスターが
逃走した理由を理解したのである。どうやらモンの顔は聖水代りに
なったらしい……。
「取りあえず……、帰ったらまずはそのお化粧ちゃんと落とすのよ、
モンちゃん……、でも、大分厚化粧みたいだし、……ちゃんと
落ちるのかしら……」
「モモンのモンプー!」
帰りはフィオーネが来る途中で開いてくれたらしい近道を通り、
無事城の外へと難なく出る事が出来た。こうしてルディアノの
冒険も終り、4人もセントシュタイン城へと帰国したのだった。
セントシュタイン城へと戻った4人組。先に城へと帰国していた
フィオーネから黒騎士の一件を聞いていた栗饅頭国王はこれまでと
態度を一変させ上機嫌だった。お主達は実にあっぱれな旅人じゃ!と、
言う事で4人は国王に相当気に入られたらしい。……儂も少しは
反省している。らしいが。あまりそんな風には見えなかった。とにかく、
機嫌の良くなった国王から東の宝物庫の宝を持って行って良いと言って
くれたばかりか、これまで通れなかった北東の関所も通れる様に
してくれたらしい。其所にはまた大きな町があり、何か大きな事件が
起きている様であり、行って見るが良いとの事。
「さようなら、皆さん、本当に有り難うございました、またいつでも
お城に遊びに来て下さいね、お待ちしていますわ」
「ああ、姫さんも元気でな」
「あの、フィオーネ姫、元気出してね、また、素敵な恋が見つかりますように、
私、心からお祈りしてます!」
「ええ、アイシャさん、有り難う……、モンさんもお元気で、またお化粧
したくなったらいつでもいらっしゃって」
「モ~ン」
……頼むからそれだけは勘弁して下さいとジャミルは思うのであった。
そして、姫とも別れを告げ、宝物庫から宝を頂戴し城を後にすると
4人は町の方へと戻った。
「グッジョブ、ジャミルっ!この町の人間、みんなアンタに
感謝してるっぽいネ、その証拠にホラ、この国の周り、こんなに
沢山の星のオーラが出てんのヨ!」
「……そうなん?」
「ああ、こりゃまた、アンタ星のオーラ見えなかったんだよネ!
マジうける!まあ、流石にここまでやれば神サマもアタシ達の
こと見つけて天界に帰さないワケにいかないっしょ、ささ、
天の箱船がある峠の道まで戻るヨっ!」
「……ちょ、ちょい待てよ!」
「何サ!ああ、アンタ、国王が言ってた北東の関所の向こうが
気になるワケ?でも、そんなのあとあとだよっ!アタシらの
目的は天界に帰る事なんだから!」
ルディアノでは隠れていてほぼ何もしなかったサンディ。事が
終われば自分の目的を達成しようとし、我儘傲慢である。しかし、
疲れていたヘタレがブチ切れ立ち上がる。
「だめだよお!今日はみんな疲れてんだから!オイラもう、今日は
絶対町から出ないからね!」
「サンディ、休む事も必要だから、疲れている中、無理をして
またみんな怪我でもしたらそれこそ大変な事になってしまうよ」
「ち!わっかりましたよ~だ!バーカアホアホ能無し集団!」
「……」
アルベルトの言葉にサンディは再び発光体になり姿を消す。
しかし、自分は散々休んでおいてそれはねえだろう状態である。
下手をすると、これもそのウチにアルベルトのスリッパ乱舞の
候補だった。しかし、一応はレディなので、まあそれはないと
思うが、何か別の形で軽いお仕置きをして一度懲らしめて
やりたいもんである。
「オウ、雅にブラック企業ガングロ……」
ぼやくジャミル。とりあえず、今日はどうにか休めそうだった。
4人は久々にリッカの宿屋へ。宿屋ではリッカが早速皆を
お出迎えしてくれたのである。
「ジャミル、お帰りなさーい!もう、町中もう噂で持ちきりだよ!
旅芸人ジャミルご一行様がこの国を危機から救ったんだって!
ふふ、私も友達として鼻が高いよ!」
「い、いや……、別にそんな大した事はしてねえよ……」
「おや?いつもふてぶてしい態度の君が嫌に消極的だね、リッカの前で
遠慮してるのかな?もっと胸を張りなよ」
「……うるせー!腹黒っ!オメーは俺に気イ遣ってんのか馬鹿にしてんのか
どっちなんだっ!」
多分、どっちもである。アルベルトは只管笑いを堪えている。
3の時の様に、勇者がこの国を救ったという表現ならまだしも
カッコがつくが、今回はお笑い旅芸人にされてしまっている為、
ジャミルも複雑なんである。
「あう~、オイラもう駄目で~す、お腹がすいて……」
「モ~ン!」
ダウドとモンがその場にしゃがみ込む。それを見たリッカは慌てた。
「だ、大丈夫っ!?2人とも、わあ、本当にみんな凄く
頑張ったんだね!よ~し、今日は腕によりを掛けて
とびっきりの美味しい夕ご飯作るからね!」
「悪いなあ、リッカ、こいつらが卑しくてよ……」
「ジャミルに言われたくないんだよお!」
「モンプーー!」
「やめなさいったら!恥ずかしいんだから!……えへへ、実は
リッカのご飯、私も凄く楽しみなの!期待しちゃうね!」
「うん、任せてっ!」
リッカはアイシャに手を振ると、カウンターの仕事を他の従業員と交代し、
一時、厨房の方へ食事作りへと姿を消した。
「おい、どさくさに紛れて……、さっきオメーの方から何か……、
奇妙な音が聞こえたんだけど」
「!!な、何よう!私、お腹なんかそんなに大きな音で鳴らしてないもん!」
「へえ~、俺、腹が鳴ったとはまだ言ってないぞ、ま、確定か」
「!!……きゃ、きゃああーっ!ジャミルのバカ――っ!!」
いつも通り、ジャミルとアイシャ、天然バカップルのじゃれ合いが始まる。
ロビーにいる他の客はゲラゲラ笑い、アルベルトとダウドは顔を赤くした。
「モーン!お腹なんか鳴らしてないモンーー!」
「モンちゃんもっ!……こらああーーっ!!」
何はともあれ。現場は和気藹々とした雰囲気になった。そして夕食。
リッカ特製、英雄さん達お疲れ様、SPディナーが運ばれて来る。
メニューはあさりのシチュー、オムレツ、スパイスたっぷりの
焼いたお肉、海鮮サラダと盛り沢山。ジャミル達はリッカに感謝
しながら、美味しい夕ご飯に舌鼓をうち、今回の冒険の疲れを癒やす。
また明日から新しい冒険が始まる。今夜はしっかり休んでおこうと
4人はそう思ったのだった。
「ごちそうさん!ふぃ~、もう食えねえ……」
「ご馳走様でした、うん、本当に美味しかったよ、リッカ」
「私も余りにもご飯が美味しすぎて、つい食べ過ぎちゃったわ、
ど、どうしよう……」
アイシャが心配そうに自分のお腹に手を当てる。それを見たダウドが
余計なフォローを入れた。
「いいんだよお、人間素直になんなきゃ、見てごらんよお、
モンを、ありのままに生きようよお、アイシャも立派な
ぽんぽこ仲間じゃないかあ」
「もう駄目モン、お腹破裂するモン……」
アイシャは太鼓腹状態のモンの方を見ると、無言でダウドの足を
思い切り踏んだ。
「……いだあああーーっ!!」
「……いいわよ、今日の分のカロリーはまた明日からのバトルで
消費するんだからっ!」
と、密かな闘志を燃やすのだった。
翌朝。ロビーにて朝食を取っていたジャミル達の処へ何やら
小さな釜の様な物を抱えたリッカがやって来る。
「ねえ、見て見て!これ、地下室で掃除をしてたらこんなの
見つけちゃったんだ!」
「何だい?それ……」
また得体の知れない釜の出現にジャミルは首を傾げた。
「うん、ルイーダさんにも聞いてみたの、これ、錬金釜っていう
らしいの、昔この宿屋に泊まった貧しい錬金術師のお客さんが
宿代代わりに置いていったんだって!どうやって使うのかは
分からないけど、ちょっと曰くのあるお品みたいだし、此処の
カウンターの処に飾っておく事にするね、よいしょと」
リッカはそう言うと釜をいつもの自分の仕事場所、カウンターの
上に置いた。
「うん、こうして見るとなかなか味のある形だよね、きっとこの宿屋に
幸運を運んでくれるわ!」
そうかなあ~、と、ジャミルは思うが。それにしても変わった
形の釜である。ジャミルは試しにと思い、飯の手を一端離れ、
リッカがいるカウンターの方へと近づく。
「ふう~ん、珍しいねえ、ご飯に食いついたら食べ終わるまで
絶対離さないのにさあ」
「バカダウっ!うっせー!」
「僕もちょっと興味があるなあ」
「私にも見せてー!」
「モンー!」
アルベルトもアイシャもカウンターの方へ。終いにはモンまで
行ってしまった。何がそんなに面白そうなんだか分からないよお~、
と、思いながらも、自分だけ仲間はずれは嫌なので、仕方なしに
ダウドもテーブルを離れた。
「に、しても何処から見ても変わった形の釜だなあ、よっ!」
ジャミルは試しに釜を指でピンして弾いてみた。すると……。
「……んごごごごご!!」
「わあっ!?こ、こいつ何か動いたけど!!」
釜が突然ブルブル動き出し、鼾を掻き始めたのである。
「あはっ、なんか可愛いね!」
「モン!」
……天然アイシャの感覚は置いておいて。やはりこれは只の
釜ではないらしい。ジャミルはもう一度釜を指で突いてみた。
すると釜はまた震え出す。
「はっ!ね、寝てません!私は寝てなどいませんよっと!」
「……」
釜が今度は喋り出した。しかしジャミル達はもう何が起きても驚かない。
喋る錬金釜は目の前で自分を見ているジャミルの視線に気づく。
「あなたにはどうも私の言葉が分かる様ですが……」
「一応……」
「そうですか、お初にお目に掛かります、私は錬金術を行う魔法の釜、
錬金釜のカマエルと申します、錬金術とは、アイテムとアイテムを
掛け合わせ、選りすぐれたアイテムを生み出す奇跡の見技でございます」
「へえ、アイテム同士でアイテムを生み出すのか……」
ジャミルは脳内でまた余計な事を考えた。……ヘタレとジャジャ馬と
腹黒と、小デブ座布団と、……ガングロを釜に突っ込んだら何が
出来るのかと。
「何っ!また何か変な事考えたわねっ!ジャミルっ!」
「スリッパ出そうか?うふふ~……」
「自分を入れてないじゃないか!ずるいよおー!」
「ブブーモン!」
どうやら、もう皆さん、長年の腐れ縁で、ジャミルが何か変な事を
考えれば大体顔で分かってしまうらしい。サンディに関しては発光体の
まま、つまんネーつまんネー、早く峠に戻ろうヨー!と、ブツブツ
呟いていた為、気がつかなかったらしいが。
「まあまあ、皆さん、そう興奮しないで、また遠出するんでしょ?
出発の前にお茶のお代わりと、クッキーをご飯の後にいかがですか?
種はもう作ってあるの、後はオーブンで焼けばいいだけだから」
「わあ、リッカ、ありがとうー!」
リッカのお持て成しに機嫌が良くなるアイシャ。ジャミルは助かったと
胸をなで下ろす。この4人の暴走ぷりも、リッカも大分分かってきては
いたが、それでもいつも宿屋で場を盛り上げてくれる明るい(お馬鹿)
4人組を心から見守って陰からサポートしてくれていた。
「あの、話を此方にお戻し下さい……、時に、あなたはもしかして、
私の長年の探し求めていた主、私が仕えるべきご主人様では
ございませんか?」
何だか構って欲しそうなカマエル。ジャミルに向かって何やら
ブツブツと……。
「いや、人違……、いてっ!」
「そうかも知れないね、ジャミルは君のご主人様だよ」
アルベルトはスリッパで軽くジャミルの頭を叩き、頭を下に向け
返事をさせた。
「……アルぅ~、てめえ~……」
ジャミルは叩かれた頭を押さえて呻いているが、アルベルトは
横を向いて誤魔化している。
「やはりそうでしたか、ああ、ご主人様に会えて、私、感涙の涙、
涙……、でございます……」
釜は今度はだーっと涙を流し始めた……。
「い、いや、何もそんな泣かなくても……、困ったなあ……」
「そうだよお、そんなに気を遣わなくていいんだよお!」
「るせー!バカダウドっ!!」
今度はまたこっちのコンビが暴れそうになるが、アルベルトが取り出した
スリッパを見てピタッと止まったのだった。
「それでは早速錬金を………、と、言いたい処ですが、まずはこれをお持ち下さい」
「……ほ、本っ!?」
カマエルが釜から出した本を見てジャミルが慌てるが、アルベルトが
代わりにさっと本を取る。
「これは……レシピブック?基本の薬草を使った調合の仕方が載ってる……」
「錬金レシピブックを持ってさえいれば誰にでも簡単に錬金が
出来てしまうスグレモノですぞ、今は登録されているレシピは
僅かですが、世界の本棚には無数のレシピが眠っている筈、それらを
全て集め、是非錬金の奥義を共に極めましょうぞ!」
「……世界の……本棚……」
レシピブックを持ったまま、にへえ~……顔になるアルベルト。
嬉しいのか顔面崩壊してきた。怖いので、他の3人はアルベルトから
少し目線を反らした。
「と、そんな遠大な目的はさておき、何事もまずは基本からです、
試しに簡単な錬金からやってみましょう、お勧めはレシピで錬金ですぞ」
「ふ~ん、んじゃ、まずは此処に載ってる上薬草をやってみるかね」
ジャミルはレシピの作り方通り、薬草と薬草をカマエルの中に
突っ込み錬金する。すると、あっという間に、上薬草が出来上がった。
「おお、結構面白いなあ……」
(ちょっとッ!いつまでこのキタネーカマと戯れてるワケッ!?
いい加減に峠に戻るのッ!もうアタシ、我慢の限界ッ!!)
調子に乗ったジャミルはもっと錬金をしてみようとしたが、
サンディに阻止される。……朝食も食べかけのままだったのも
すっかり忘れていたのだった。結局、サンディに急かされた為、
予定よりも早くセントシュタインを出なければならず、リッカの
折角のクッキーも口にする事が出来なかったのだった。4人は
カマエルの事をリッカに頼み、セントシュタインを後にし、
峠の道へと戻る。
さて、4人は天の箱船がある峠の道へとやって来たのだが……。
「ふうっ、久々にこの可愛い姿で出れるヨ~、って、あれ?
……ど、どゆこと?天の箱船何も変わってないじゃん!神サマが
アタシらを見つけてくれたのなら箱船が光って動き出しそうな
モンなのに……、も、もしかして、アタシの予想がハズれたっ!?
そ、そんなワケないヨ!中に入ったらきっと動き出すって!ホラ、
アンタら早く中に入るヨっ!」
「あの、ジャミル、聞くけど此処に一体何が……?」
「何もないわよ……」
「何も見えないよお~?」
「ん?ん~……」
ジャミルは困って頭を掻く。何せ現時点で船が見えているのは、
ジャミル、サンディ、そして空から降って来たという謎の果実の
欠片を食べてしまったモンだけなのである。基本的に船の姿が
見えない仲間達に対してどう説明してやったらいいか分からず
困り果てる。
「いーの、だからとにかく、アンタらは黙ってアタシらの後に付いてくれば
いーのっ!此処に船があるの!」
「そう言われても……」
アルベルトは強引にどんどん先へと勝手に事を進めるサンディに
汗を掻いた。アイシャとダウドも同様である。
「まあ、奴の言う事は本当だよ、お前らには見えないかも
知れないけど、目の前に本当に天の箱船があるのは本当さ、
騙されてる様な気にはなるだろうけどさ、とにかく俺の後に
付いて来いよ……」
「モンにもお船見えるんだモン!」
「そうなの、モンちゃんも見えるのね、凄いわ……、そうね、
アル、ダウド、此処はジャミル達を信じて前に進みましょ……」
「そうだね、立ち止まっていても仕方ないしね……」
「なーんか間抜けだよお~……」
まずは強引なサンディが先に箱船の中へ率先して入ったのだが……。
「ま、まじスか?……中もなんも変わってない……、もしかして、
アタシら神サマに見捨てられちゃった?い、いや、んなワケないヨ……」
「始まったな、やれやれ……」
次はジャミルが箱船内に入る。アルベルト達はジャミルの後に
付いていき、箱船の中へ。……無論、3人には船の外観は
見えていないので、3人にとっては実際は何もない只の場所
でしかないのだが……。
ぐらっ……
「うわっと!じ、地震かよっ!?」
「きゃあっ!?」
「……うわああーん!!」
「アイシャ、大丈夫だよ、ダウドも落ち着いて!もう収まったよ、って、
ダウド、僕の何処掴んでるの……」
「え?あ、ああああっ!」
興奮してしまったらしいダウドは間違ってアルベルトのあそこを
掴んでしまったらしく、顔を赤くして慌てて手を離した……。
「はう~、びっくりしたあ~、ねえ、てか、今の揺れ、アンタが
最初に船に入って来た瞬間じゃなかった!?ぐらっときたヨ!」
サンディはジャミルの方を見る。……その言い方だと、まるで俺が
相撲取りじゃねえかよ!とジャミルは変な顔をした。念の為、後ろを
振り返ると、ダウドが片手を突き出すごっつあんです!ポーズを
していた為、問答無用でブン殴っておいた。
「アンタが入って来た瞬間……、そうか、それヨ!」
「はあ~?」
「ジャミルが実はお相撲さんだったって事……?」
「……さっきからうるせんだよっ!バカダウドっ!!」
「黒騎士事件を解決した時に出た星のオーラのチカラでアンタに
天使のチカラが戻ったのヨ!天使が箱船に乗れば動き出すって
アタシの最初の予想、やっぱ当たってたんですケド!?」
「そうなの……?ジャミル……」
「ん~、何となく……、言ってた様な、言ってねえ様な……、
もう覚えてねえ……」
アイシャの言葉にジャミルは疲れた様に無表情で返事を返した。
「だったら話は早くネ?ジャミルがもっとも~っと、いっぱい
人助けをすれば箱船は動いちゃうんですケド!?よお~し、
それじゃ今度は早速お城の東にある関所を超えて新しい町に
いってみよー!誰か困ってるかも知れないしネ!なんか希望が
みえてキタっ!よーし、人助けの旅に出発シンコー!」
「うわ……」
さっきまで峠に行け行けと散々騒いでいたのが、もうこの
コロッとした変り様。4人は顔を見合わせた。
「今日は一旦宿屋に戻って休めないのかなあ~……」
「駄目だよ、また機嫌が悪くなると困るし……」
「でもこの先の町でも何か大きな事件が起きてるって言うし、
事を急がなきゃいけないのも事実だわ、仕方ないわよ……」
「そうだな、行くしかねえか……、てかマジ、ブラックコギャル
企業だなあ~、大変なのに雇われたモンだよ、俺らもよ……、しかも
事実上タダ働きだしな……」
「モモンのブーブー!」
「そこっ、何してんのっ!ホラ、早くするする!動く動く!」
「やれやれ、それじゃ動くか……」
ブラック上司には逆らえず、4人は重い腰を上げ、休む暇もなく、
次の場所を目指し移動を開始する。しかし、歩き出す頃にはサンディは
また発光体に戻ると姿を消して休んでしまい、眠ってしまうのだった。
「ねえ、聞くけど、サンディはいつも何処にいるの?」
「多分、姿が見えねえ時は俺ん中だよ……」
「うわあ、……楽でいいねえ……」
「ダウド、またうっかり聞こえると大変だよ……」
アルベルトが愚痴り始めたダウドに注意。しかし、あの傲慢な
我儘ぷりは本当に何とかならない物かと、手元のスリッパを
見つめながらアルベルトは考えていた。……本気で考えていた……。
とにかく北東の関所を越えれば新しい町である。其処でも4人は
変態……、ではなく、大変な事態にまたも巻き込まれる羽目になる……。
冒険者に真の休息はあらず。
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