爪を噛む癖がある。
他人のそれは汚いと感じるくせに、自分の癖だけはどうしようもないので、仕方ないと諦めている節がある。
ある日爪を噛んでいたせいか、指先の皮が少し厚くなったようだ。深爪気味に無い爪を噛んで、爪が生える前に噛んでしまっていたせいだろう。おかげで指先の感覚が少しおかしい。
触れているはずなのにその感覚がないことが多くなった。そこまで分厚い皮になるわけはないのだが、何故かそういうことになった。もちろん他の指で支えればなんてことはない。足が痺れたようなものだと思うことにした。そのうち治るのだ、こんなものは。

爪は気がつけば生えてきて、指先の皮も心なしか元の厚さに戻ってきている気がする。指先の感覚も徐々に戻りつつある。触れる感触がある。そのうち治るのだ、こんなものは。

爪を噛む癖も気がつけばなくなり、指先の感覚も元に戻った。皮も元の薄さになった。本当に治るものだな、と感心までした。人体の不思議である。

だがふと、疑問に思ったのだ。
治ったのではなく、耐性がついただけなのでは?と。
爪を噛む癖への耐性により、他の癖がついたのでは?と。では一体どんな癖がついてしまったのだろうか。まあなんとかなる。そのうち治るのだ、こんなものは。

そのうちどうでもよくなるのです、こんなものは。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-10-21

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