バラ

概念。まとめること。それらどれほどのものを無下にし、どれほどの感動を失っているか。

慣れていくことの哀しさ

花びらが少ししおれた一輪のバラが足下に捨てられた。
「そのバラはどうでもいいの?なんで?」
花屋の店主は答えた。
「わかるだろ。それに他にもいっぱいバラはあるじゃないか。」
僕はいった。
「違うよ。そのバラも全く違うじゃないか。」
「バラなんてどれも同じだ。あれはもう商品にならないんだ。」
「違うよ。そうじゃない。そうじゃない。」
花屋の店主は、眉根を寄せていた。僕は床に転がったそのバラを見て、悲しくてたまらなかった。

翌日、その店主は客と世間話をしていた。
色々な言葉が行きかっていた。その言葉は僕にも分かるものだった。けれど、僕には不思議でならなかった。そして女はなにかというとバラで嬉しがるもんだといって、店主にバラを数本注文した。僕は、ますます不思議に思った。
「あそこのバラを数本貰おうかね。」
僕はつい尋ねてしまった。
「どのバラがいいの?どんな女性にあげるの?」
お客はあしらうように微笑み、綺麗なものを頼むよとだけ言った。
僕は、かなり困った。どのバラもちがう魅力があって綺麗なんだ。けれど、女性の好みまで言ってはくれなかったからだ。そうしているうちに、店主が「子供はとげがこわくて、たまらないんだろう」と、ためらいもなく包装していった。
僕には分からなかった。

そして夕方を過ぎて、店の片付けを始めた時、店主は僕にため息をつきながらこういった。
「お前さんは、いつも触れ合っているくせに、なんでお客にも選んであげられないんだ?」
「だって、どのバラが欲しいかいってくれないじゃない。」
もう一度ため息を深くついて、こういった。
「どれもバラは、バラだろう。なにをそんなにかしこまってるんだね?」
「違う。どれも違うじゃないか。」
僕のこの意見は相手にもされなかった。僕はなんだか寂しくなった。大人たちにとって、バラも女性も、僕もここにはいないように思ったから。
いないと思ったら、急にあの捨てられたバラは、今はどこにいっちゃんだろうと、涙がこぼれていった。

バラ

これは、サンテグジュペリの「星の王子さま」に着想しています。
そうであって、共鳴しているからです。
私にはまだ、身につけている重いものがたくさんあるようです。

バラ

花屋に勤める少年。 一輪のバラが捨てられた。少年は、なぜ捨てたのかを店主に問いかける。 その返答は、全く少年にはわからなかった。 少年にはバラは総称のバラではなく、一つ一つ違う存在として見えている。 それは大人にはわからない。 そんな扱いで自身もバラもいないように感じてしまっている少年。一つを聴ける心の者の話し。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-01-23

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted