zoku勇者 ドラクエⅨ編 8
姫君と黒騎士編3
「……出たあーーっ!だ、誰か助けてくれーーっ!!」
4人はソナの家を飛び出し、悲鳴のした方へと急いで駆け付ける。
……其処で見た光景は……、村の入り口に出現した黒騎士……、
黒馬に跨ったレオコーンの姿であった。住民は皆大慌てで逃走し、
家の中に引き籠る騒ぎに……。悲鳴を上げていた男は現れた
レオコーンを目の前にし、腰が抜けて動けない様子だった。
「……木こりよ、何故逃げる……、私はそなたに話を聞きたかった
だけだ……、お前には何もせぬ、安心せよ」
「嘘をつけっ!……お前もあの魔物の手下なんだろうっ!」
「……魔物?この私が魔物の手下だと?何を馬鹿な事を……」
「おーい、おっさん、大丈夫か?……後は俺らに任せて早く逃げろ!」
「……お前達は……」
黒騎士は此方も現れたジャミル達の姿に目を見張る……。
「ああっ、だ、誰でもいい、助かった……、けど、腰が抜けて
動けないんだ……」
「ダウド……」
「わ、分ったよお、……ホイミ!」
「あ、ああ!ありがとな、これで動ける!」
アルベルトがダウドに目配せするとダウドがおっさんに
ホイミを掛けた。ヘタレなおっさんは夢中でその場から逃走。
ヘタレがヘタレにホイミを掛ける事になるとは何ともダウドも
複雑である。
「さて、これでちゃんとアンタと話が出来るな、……レオコーン……」
「そなたは確かジャミルと申したな、……何故この様な場所にいる……?」
「あんたの為だよ、ルディアノの手掛かりを探しにさ」
「……何と……」
ジャミルはレオコーンにフィオーネが彼をとても心配している事、
彼女からルディアノの手掛かりをこの村で掴めるかも知れないと
聞いた為、此処に訪れた事を伝えた。
「……そうか、ルディアノの事を……、わざわざこんな私の為にすまない……、
して、何か分ったのか……?」
「うん、実はさ……」
………
「黒薔薇の騎士……、確かにルディアノではそう呼ばれていたが……、
何?私の事がわらべ歌になっていたと……?馬鹿な、私がまるでおとぎ話の
住人の様ではないか、……北往く鳥、手掛かりはそれだけか、……ならば私も
北へ向かうとしよう……、北往く鳥とやらの手掛かりを追ってな!」
「レオコーンさんっ!待って!私達も一緒に!」
「……ハイヨーーッ!!」
アイシャが叫ぶが、レオコーンは馬を急かすと再び4人と村から
離れてしまう。4人は頷き合い、レオコーンを追って村を飛び出した。
そして、ソナから聞いたわらべ歌のとおり、一行も真っ直ぐ北へと
向かう。……北往く鳥よ、伝えておくれの歌詞のままに。
「……何かやばそうな感じするんですケド、可愛いサンディちゃんには
似合わない場所よネ、じゃあ、ジャミル、皆、アタシは暫く寝てるので
宜しくね!」
「いつもと同じだろうがよ……、ったく……」
「うわあ~……」
レオコーンが向かった場所、其処は廃墟と化し、枯れた森の荒れ果てた
大地。周囲には毒の沼地が広がる廃墟地帯。……やはり最初に嫌そうな声を
発したのは他でもないダウド。
「ほ、ホントにこんなとこ……、城があんの?もうどう見たって誰も……」
「それでも、僕らは行かなくちゃならないんだから……」
「あう~、アル、クソ真面目ぇぇぇ~……」
「人はいねえけど、……ほら、来たぜ?」
「……ぴゃうっ!?」
ジャミルが目配せする。現れたのは、羊のモンスター、マッドオックス。
マッドオックスは、前足で地面を蹴り、早速、威嚇の準備万端状態。
……ダウド以外の3人も戦闘態勢に入る。
「た、確か……、お宅、あはは、3でもお世話に……っ!……きゃーーっ!!」
「ダウドっ!下がってっ!……イオーーっ!!」
アイシャ、率先してマッドオックスの前に立ち、ダウドを庇いながら
イオを発動。しかし、マッドオックスはイオを食らいながらもテンションを
アゲアゲ、アイシャ目掛け突撃してくる。マッドオックスに突進された
アイシャは毒の沼地の方へ飛ばされ、頭から沼地に突っ込んだ。
「……なろっ!アイシャっ!平気かーーっ!?」
「な、何とか……、大丈夫……、沼は浅いから、でも、毒のダメージを
負っちゃったみたい……」
「ダウド、アイシャにキアリーを!此処は僕とジャミルでやる!」
「わ、分ったよお!」
ダウドは急いでアイシャの援護の方へ走る。残ったジャミルとアルベルトは
再び突っ込んできそうな勢いのマッドオックスを止めようと剣を振い奮戦する。
「ジャミル!……また別のモンスターだっ!」
「ちっ!?……あ、あいたあーーっ!?」
今度は右から毒矢頭巾が現れジャミルの頭部に向けて毒矢を放つ。
……矢はジャミルの頭に刺さり、ジャミルは矢ジャミ状態になった。
ジャミルは頭に弓矢が刺さった状態のまま、激怒しながら毒矢頭巾を
成敗し、エライ勢いで刺さった矢を頭からぶち抜くと、傷口にホイミを
掛けた。
「……なめるんじゃねえってのっ!」
……しかし、この人本当にどういう神経してるんだろうと、
アルベルトは首を傾げつつ、残ったマッドオックスを片付ける。
やがてアイシャとダウドも此方に戻って来た。
「何とかこっちも終わったよ、さあ、別のモンスターが又出てこない内に、
この森を抜けてしまおう!」
「アル、その前に……、ダウド、俺もキアリー掛けてくれや、さっき頭に
毒矢撃たれてよ、ぶつぶつ……」
「えええっ!?……そ、それでよく平気だねえ……」
「平気じゃねえよっ!早くしてくれや!」
ダウドはジャミルにもキアリーを掛けるが。ダウドが心配しているのは
毒矢を撃たれようが案外平然としている友人の事である。……昔から
ジャミルがおかしいのは元の世界にいる時から知っているが、近年、
ますます変になってきている彼の姿に何となく、不安を覚えたり……、
しなかったり……。
(やっぱり、この人当分死なないね、心配ないよね……)
北へ消えた黒騎士レオコーンを追い、滅びの森を進む4人。わらべ歌の
とおり、北に佇む古びた古城を遂に発見する。城内へ進むと、やはり
城の中も荒れ放題、彼方此方に毒の沼地が錯乱し、もはやもう生存
している人間の姿など誰も確認する事は出来ないだろう。……此処が
本当にレオコーンの求めているルディアノなのだとしたら。……この
時代にはその国は既に滅んでいる事が確信出来た。そして、レオコーンは、
やはりもう現代には存在している人間では無い事が……。
「また沼地だらけだな、……こんな時さあ……」
ジャミルがダウドの方を見る。ダウドはジャミルが大体何を
言いたいか分かっている様ですぐにぶすぶす口を尖らせた。
「悪いけど、まだオイラ、トラマナ覚えるLVじゃないですから!」
「……開き直るなっ!……だったら早く覚えられるLVまで真面目に
経験値稼げよ!ヘタレてばっかいないでよう!」
「何だよお!」
「こらっ!……又こんな時にっ!いい加減にしないと、叩くよ、
2人共!?」
アルベルトがいつもどおりスリッパを出したのでジャミダウは
仕方なしに黙った。最近はスリッパ乱舞も威力がパワーアップ
して来ている為、恐ろしいのである。
「……ふん、腹黒め、昨夜の寝言録音しておいてやれば
良かったな……、姉さん、頼むから首絞めないで!ギブギブ!
……プ」
「何かな、ジャミル、……もっと大きな声で言った方がいいよ?」
「……悲しい感じだけど、でも、古いお城って何だかロマンチックなの……」
「!!」
男性陣が揉めている間に、このお方が一人でフラフラと
また徘徊しそうになる。……ジャミ公は慌てて後を追い、
彼女をとっ捕まえるのだった。アイシャを捕獲し、アルベルトと
ダウド共に、いよいよルディアノ城、城内へと潜入する。
……だが、内部は瓦礫だらけで通路は崩壊し、とても普通には
進めそうになかった。唯一通れそうだった薄暗い地下通路を見つけ、
中に入り只管進んで行く。
「ふう、漸く城内だけど……、本当にだれもいないねえ~……、
オイラ何か……、さ、寒気が……」
「ああ、いるのはモンスターばっかだな……」
「……いやあ~んっ!!」
ダウド、再びすっ飛びあがる。出迎えてくれたのはやはり
人では無い、モンスター集団。廃墟らしく、ガイコツを先頭に、
タホドラキー、ベビーマジシャン、メーダと、粒揃い。
「お前ら、この後の事も考えて道中はなるべく打撃中心、
MP節約でいこうや、回復はなるべく薬草で済ませようぜ!」
「了解!」
「頑張るわ!」
「……ひえええ~……、毎度の事だけど……、勘弁してよおお~……」
4人は倒しても倒しても妨害してくるモンスター集団と戦いながら
更に城を探索。少しづつLVも上げて行く。此処で出現するモンスターで、
特に厄介なのは、MP一回分だが、ヒャドを使って来るベビーマジシャン、
メーダだった。特にメーダの怪光線麻痺攻撃はアイシャとダウドは
狙われやすく、何回も危機に陥った程。そして、シールドで防御
しまくるシールド小僧。正面だと盾防御が厄介な為、ジャミ公は
背後に回り、シールド小僧を思い切り後ろからブン殴るのだった。
そんなこんなで、数時間、地下を進みながら……。
「此処、色んな本があるね、ちょっと見てっていいかな?」
「うわあ……、始まったし……」
地下に彼方此方有る書庫の本棚。それらを見る度本好きの
アルベルトは目を輝かせていた。ジャミルは沈痛な表情で
アルベルトを見る……。
「ね、いいだろ?此処の処、少しだけ……、何だか気になるんだ……」
「……わーったよっ!たくっ!しょうがねえな!」
「ありがとうー!」
本嫌いのジャミルは慌てて書庫から離れる。頼むから余計なモン
設置しておくなとジャミルは心底迷惑蒙るのだった。
「ね、ジャミル、この本見て!」
「うわ!?持ってくんなっつーのっ!……ん?」
アイシャがジャミルに差し出した一冊の本。ジャミルは最初
警戒していたが……。何となく、本から何か感じたのか、急に
アイシャから本を素直に受け取り、中に目を通す。
「……えーと、ルディアノ式、結婚の手引き、……ルディアノで
結ばれた二人が踊るダンスこそ、式のメインイベント、恥をかかぬ様、
気を付けましょう……」
「何だか素敵でしょ?ね?とってもロマンチックなの!」
「そうかなあ~、俺には何がロマンチックなんだか
良く分かんねえけど……」
「……はあ~、呆れた、野蛮なジャミルにはときめきも何も
ないんだからっ!」
「うるせー!いい加減じっとしてろ!ジャジャ馬っ!」
「……何よっ!ジャワバーモントカレー原始人っ!」
アイシャは呆れながら本を本棚に戻す。しかし、野蛮で原始人な
ジャミルにも手引きの中の、ルディアノで結ばれた二人と言う
個所が、微かにレオコーンとメリア姫を連想させていた。こんな事は
こっ恥ずかしくてアイシャにはとても言えなかったが。そして、
やっと地下通路を抜け2階へ。道中の寝室らしき部屋でも手紙と
手記を見つける。レオコーンがメリア姫に当てたらしき手紙と、
姫自身の手記。……それらはまるで2人の行く末を暗示して
いるかの様だった……。
姫のお気持ち、大変嬉しく思います。しかし私は魔女討伐の任務を
果たさねばならぬ身ゆえ……、どうかそれまでお待ち下さい。
……私の心はいつも姫と共に。 騎士レオコーン
レオコーン、私は行きます、遠い異国の地へ……。……あなたの事を
忘れたのではありません。ルディアノの血が絶えぬ限り、……私は……
いつかあなたと……。
そして、モンスターとバトルを繰り返しながら、城内探索する事、
更に数時間後……。
「よし、みんな、大丈夫だな?……棺桶入ってる奴いねえよな?」
アルベルトとアイシャが大丈夫!……と、ジャミルに返事を返す。
しかし、このお方は。
「大丈夫じゃないよおおーー!もういっその事棺桶入りたいーーっ!」
「うるさいっ!全員状態良好、生存とみなす!怪しいのはこの扉の奥!
行くぞお前ら!」
「……ジャミルのアホうーーーっ!!」
外観から地下通路を遠回りし2階へ。漸く辿り着いた大きな扉の
有る部屋の前。この城の玉座の間である。ジャミル達はこの奥に
黒騎士がいてくれる事を祈りながら扉を開いた。
「……お帰りなさい、レオコーン……、随分探したけれど、やはり
此処に来たのね……」
「貴様は……イシュダル……」
レオコーンは確かにいた。玉座の間でまるでバンパイアの
容姿の様な怪しい女と対峙し睨み合っていた……。
「……レオコーンっ!」
「お前達!何故此処に!?」
其処に漸く到着したジャミル達が勢い良く扉を開け部屋に
傾れ込んで来る。レオコーンは又も自分を追い掛けて
来たらしいジャミル達の姿を見、又も驚いた。
「何故此処にも何もねえっての!たく、どうしてすぐ一人でどっか
行っちまうんだよ!落ち着かねえな!このジャジャ馬娘と同系かよ!
あんたを追い掛けてやっと此処まで来たんだよ、大変だったんだぞ!」
「……ぶー!ジャミルのバカ!」
「……お前達、其処まで私の為に……、だが此処は危険だ、すぐに……」
「帰れるかってんだよっ!だからわざわざ来たんじゃねえか!
頑固だな、あんたもよ!」
「ジャミル……」
「はあ、帰っていいならとっくに帰ってますよおー!」
「レオコーンさん、私達もやっと助太刀出来そうね!」
「……そう言う事です!」
(特にお役に立てないし、アタシ事サンディちゃんは、今回も
寝てますので~!ごエンリョなく頑張ってネ~!)
4人はレオコーンの横に並び、武器を構え、変な容姿の女を睨み
戦闘態勢に入った。……明らかにこの怪しい女が敵なのは目に
見えている。女は現れた4人組を見るとくすりと笑う。……そして
再びレオコーンの方を見た。
「これはまた、随分と可愛らしい援護隊だこと、貴方を追って
この坊や達もわざわざこんな所まで来たのね、泣けるじゃないの……、
くくく……」
「うるせー黙れっ!オメーは一体何モンなんだっ!」
「ジャミル、こやつこそ、お前達が聞いたわらべ歌の中に
登場する魔女……、そう、妖女イシュダルだ……、私が
魔女討伐を命じられた魔女……」
「……私はルディアノを滅ぼすべく、闇より遣わされし者……、
だった……」
「そうか!……こいつがっ!」
「くくく……、勇ましいボウヤね、でも、お姉さんの相手をするには
まだ数1000年は早いわね、出直していらっしゃい……」
「……う、うるせー、何がお姉さんか!この変態ババアっ!!」
ジャミルは改めて笑っているイシュダルを見る。真紅の瞳、
紫色の翼、足は無く代わりに木の根の様な物が生えている。
そしていかにもな、誘う様なポロリの露出丸出しの胸……。
ジャミルは何となく、ちょっと対応に困っている……、様にも見えた。
「……嫌らしいわね!ちょっと胸が大きいからって何よっ!」
「なんか嫉妬してるよお、アイシャ……」
「ダウド!うるさいのっ!!」
「ジャミル、私は今、全てを思い出した……、イシュダル、……私は
貴様を討つべく、このルディアノ城を飛び出し、……そして……」
「私に敗れ、永遠の口づけを交わした、……貴方と私は
数百年もの間、闇の世界で2人っきり……、貴方は私の下部……、
そうでしょ、レオコーン……、ルディアノを滅ぼすなんて
どうでもよくなってしまったもの、……あなたの素敵さに
一目ぼれだったのよ、……分るかしら?」
「黙れっ!……貴様の所為でっ!……メリアはっ!!」
「でも、結果的にルディアノを滅ぼしたのは私ではないのに、
恨みを買うのも御免よ、いい加減にして貰いたいものね……」
「……うおおおおーーーっ!!」
「……よせっ!レオコーンっ!!」
ジャミルが叫ぶが、レオコーンは怒りで我を忘れイシュダルに
槍を向け突っ掛って行く。だが、イシュダルはまるで分かって
いるかの様に微動だにせず平然と反撃した。イシュダルは
レオコーンに向け、怪しい術を放つと彼を思い切り壁の方へ
叩き飛ばした。
「……ぅぐわああーーーっ!!」
「レオコーンっ!大丈夫かっ!?」
4人は倒れたレオコーンに慌てて駆け寄るが、レオコーンは
ダメージを負っており、かなり苦しそうである……。
「アホッ!だから何で一人で突っ走るんだってのっ!」
「う、ううう、すま……ぬ……」
「ふう、切れるとそうなるのは君も同じだろ……」
「……何だっ!アルっ!?」
「ダウドっ、ホイミよっ!レオコーンさんに!」
「で、でも……、かなり苦しそうだし、オイラのホイミじゃ
治療出来そうにないよお、もしかしたらべホマなら何とか
なるかも知れないけど……、今じゃとっても無理だよお……」
「でも、でも、このままじゃ……、レオコーンさんを助けてあげないと……」
アイシャは床に倒れたままもがき苦しんでいるレオコーンを必死に
介護しようとする。……レオコーンは苦しみに飲まれつつも、何とか
顔を上げ、自分を心配してくれている4人の方を見上げ口を開いた。
「……どうやら……、再び呪いを掛けられたようだ……、あいつを
倒さなければ……、我に掛けられたこの呪いは永遠に解ける事は無い……、
だろう……」
「呪いだと……!?」
「ククク、馬鹿な男、あの大地震の所為で私の呪いは
解けてしまったけれど、こいつにもう一度掛けてやったのよ、
……2人きりの世界に誘うあの呪いをね!」
「ど、どこまで卑劣で傲慢なおばさんなのよっ!もう絶対に
許さないわーーっ!!」
「ま、またっ!オメーはっ!……アイシャーーっ!」
「……駄目だっ!アイシャっ!」
「わあああーーっ!?」
アイシャもプッツン切れ、イシュダルに向かって突っ掛って行く。
咄嗟にアイシャを止めようとジャミルよりも早くアルベルトも
即座に飛び出した。……そして、何故か今回は錯乱しているのか、
ダウドまでもが……。
「馬鹿なクソガキ共め!……死にな!」
「……きゃあーーっ!!」
「うわあああーーっ!!」
イシュダルは突っ込んで来た3人を見ながら不敵に笑った。
するとイシュダルの身体から紫色の鞭の様な光が飛びだしたと
同時に、アイシャ達を拘束し、身動きをとれなくしてしまうのだった。
「……皆っ!畜生っ!」
「ジャミル、……ごめんなさい……」
「……ジャミル、僕らの事は大丈夫だから……、あいつを……」
「苦しいよお~……、何でこうなるのさあ~……」
「……先に邪魔なこいつらから片づけてあげるわ、レオコーン、
その後でね、楽しみましょうね、2人だけの永遠の世界を……」
「……おのれ、イシュダル……、う、ううう……」
イシュダルは笑いながら拘束されている3人に近づく。しかし、
咄嗟に仲間達を庇い立ち塞がる者が一人、……ジャミルである。
「やめろ!……糞ババア、……これ以上仲間に手ェ出してみろ、
……許さねえぞ!」
「おや、アンタにはまだ掛けていなかったね、……まさかアンタ、
レオコーンとこいつらを助けようってんじゃないだろうね?
この男に掛けた呪いの威力を見ていなかったのかい?
……だとしたら相当のバカだね!アンタもさ!いいわよ、
それじゃお望み通りアンタにも掛けてあげる!とびっきりの呪いをね!」
「……」
(……わわわ!や、やっぱジャミルって凄いバーカ!?
命シラズ親不知っ!?も~どーなってもアタシしんないん
だかんネっ!)
ジャミルは自分にも呪いを掛けようと、じりじり迫ってくる
イシュダルをキッと強く睨み返した……。
「……」
「な、何故っ!?このガキ……、何故に私の呪いが効かないっ!?
……呪いを弾き返しただと……?お前は何者だっ!……通常の
人間ならば必ず私の呪いに掛かる筈、も、もしやお前はっ!?」
「黙れ、うるせんだよ、俺が何だかとか、んな事どうでもいいっての!」
「あはっ!何だか急に動ける様になっちゃったわっ!」
「助かったよ、ジャミルっ!」
「……全くっ、冗談じゃないよおー!」
イシュダルの呪縛に掛かっていた3人もジャミルがイシュダルの呪いを
弾き返したと同時に途端に動ける様になったらしい。自由になった
3人は急いでジャミルの元へと駆けつけた。
「……お、おのれ!……糞ガキ共!」
「よし、これで形勢逆転だな!やれやれ……」
ジャミルは戻って来た仲間達を見ると、安心した様に
耳の穴をほじりながらニヤニヤ笑いイシュダルの方を見た。
「……お前達、……油断するな、気を付けろ……」
「分ってるって!あいつは俺達が絶対倒すから!もう少し
辛抱しててくれよ、レオコーン……」
「すまない……」
「……こうなったらお前ら纏めてズタズタに切り刻んで全員地獄に
送ってやるわ!覚悟おしっ!」
イシュダルが怒りの形相で4人を睨んだ。しかし、ジャミル達は怯む事無く
もう一度戦闘態勢を整え、イシュダルへと立ち向かっていく。
「絶対許さないわよっ!……おばさんっ!!」
「……アンタが一番邪魔だね、どっか行ってなっ!!……フンっ!!」
「……あ、ああああーーーっ!?」
イシュダルは波動でアイシャを弾き飛ばす。ジャミルは慌てて
アイシャを助けに行こうとするのだが、其処にイシュダルが
立ち塞がった。
「ボウヤ達の相手はこっちでしょ、ほ~ら、おいでおいで……」
「な、何……、……う、ううっ!?」
「なんか……、誘われるよお~……」
「誘惑に乗っちゃ駄目だっ!……う……」
イシュダルは邪魔なアイシャを弾き飛ばしたのち、男3人に
フェロモンをばら撒く。そして自分の巨乳へと引き寄せるのだった……。
「ほ~ら、ぱふぱふ、ぱふぱふ……」
「!!ぐえっ!……む、むぶぶぶぶっ!!」
……悲しい男のサガ。イシュダルの胸へと引き寄せられた
野郎達は、3人一辺に巨乳へと挟まれてしまい、むぎゅむぎゅ
窒息状態で大変な事態になっていた……。
「……バ、バカああーーっ!も、もう絶対に許さないわよーーっ!!」
どうにか戻って来て体制を整えたアイシャ。凄まじい現場を見、
激怒。そして怒りMAX必殺ゲージ技、ミラクルゾーン(SP版)を
発動させた……。
「ふふふ、嫉妬しているのね、この私の美貌と巨乳に、
可愛らしいお嬢ちゃん……、あらああーーっ!?」
アイシャのヒャド連打攻撃、イシュダルの頭に巨大な
氷の塊が追突。……イシュダルは慌てて巨乳の拘束から
男共を漸く解放した。
「た、助かったー……、でもこんなに立っちまった……、って、
……うわあーーっ!?」
「……アイシャ、落ち着いてーーっ!これは事故……」
「てへへ、おっぱい、美味しかったよお~……、アルも何か
鼻血出てるねえ~……」
「……ダウドっ!!」
「あ、あっ!」
アルベルトがダウドを注意するが既に遅し。スケベな野郎共の実態に
ブチ切れのアイシャ。もう敵味方関係なく我を忘れ、5ターンの間
魔法がMP消費無しで使える必殺技を良いことに怒りのヒャドを
放出しまくる。……止めはイオでイシュダルもジャミル達野郎共も
全員大爆発へと巻き込まれるのであった。
「お、おのれ……、小娘が……、ふざけおってからに……、全然
可愛くないとんでもないクソガキのまな板だわ……」
「……アイシャーーっ!オメー俺達まで殺す気かあーーっ!!」
「ふんだっ!ジャミルが一番反省しなさいよっ!!べえーっだ!!」
アイシャはジャミルに向かって舌を出す。……やはりと言うか、
一番被害が大きかったのはジャミルであった。
「ううう、な、何かが……、恐ろしい事が起きているのか……、
……ああああーーっ!!」
「……レオコーンさん!苦しいの!?大丈夫よ、もう少しだからね!」
……何かの悪寒を感じて再び苦しみだしたレオコーンをアイシャが
必死で励ますが、多分アンタの所為である。
「ハアハア、畜生、……糞ガキ共、もう遊びは終わりだよっ!!」
イシュダルも本気状態になったらしく4人の方を見る。此処で
何としてもこの戦いに蹴りを付けなければならない。レオコーンを
救う為。ジャミル達ももう一度真剣モードになる。
「……取りあえず、お恥ずかしいですが、オイラも必殺ゲージが
溜まりましたのでゴスペルソング使っておきまーす!」
ダウドもゲージ技、ゴスペルソングを発動させる。これにより
4人のHPは半分近く回復、活力を取戻し、イシュダルへと最後の
反撃の時を迎えた。
「小娘!さっきはよくもやってくれたね!倍返しのヒャドを食らいな!」
「お断わりですっ!メラーーっ!!」
……激しくぶつかり合う炎と氷。アイシャのメラはヒャドを押し、
あっという間に氷を溶かす。
「くっ、この私がっ!さっきからこんな糞小娘に押されっぱなし
じゃないの!……冗談じゃないわよっ!!」
「僕も頑張らないと!……また姉さんにどやされてしまうっ!
……やあああーーっ!!」
「!!ば、馬鹿な!……ああああーーっ!!」
そして、アルベルトも初のゲージ技を発動。アイシャに向け、
タナトスハントを喰らわせようとしていたイシュダルに
会心必殺を発動。……イシュダルに止めの大ダメージを与えた。
古代の悪魔魔女、長き間レオコーンを呪いで苦しめていたイシュダル、
戦士達により、遂に此処に倒れたのであった……。
「く、くちおしや……、この私が……、こんな屈辱を……、惨めな……」
「あははっ!アル、すごーいっ!」
「え、えへへ……、僕なんかまだまだ大した事ないよ……」
……機嫌が悪かったアイシャ。アルベルトの快進撃を見て
もうすっかりご機嫌が元に戻っていた。
「俺のゲージ技って、はっきり言ってあんまり使い処ねえよな、
……回避率が上がるだけだからな……、ダウドより使えねえぞ……、
今回は転職出来るなら早く転職した方がいいのかな、ぶつぶつ……」
と、アイシャに絶賛されているアルベルトの方を見て複雑な
気分になったジャミルがブツブツ呟いていた……。
「……イシュダル……」
「レオコーンっ!あんたもう大丈夫なのか!?」
「ああ、ジャミル、皆も……、そなた達のお陰だ、……誠に感謝する……」
レオコーンはジャミル達がイシュダルを成敗した事で呪いから
解放され、立ち上がれる様になっていた。そして複雑な面持ちで
倒れているイシュダルを見つめる。自らのこの手で討つ事が
出来なかった宿敵を……。
「……悔しいわ、再びあなたと私だけの世界が蘇る筈だった……、
でもね、過ぎ去った数100年の時はもう戻って来ないのよ……、
アンタの愛するメリアはもう何処にもいない、……くくく、
絶望に塗れ、もうお前など誰も知る者などいないこの時代を
永遠にさ迷い歩くがよいわ……」
「……メリア……姫……」
イシュダルは息絶え、姿が消える。……遂に因縁の宿敵は消えたが、
愛した人はもうこの世におらず、……長き時の中に、たった一人
取り残された孤独な騎士……。ジャミル達はレオコーンに
どう言葉を掛けてやったら良いか分からず、悲しい現実に
4人ともその場に立ち尽くしていた……。
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