zoku勇者 ドラクエⅨ編 7
姫君と黒騎士編2
……4人+αは只管湖畔で黒騎士を待つ。が、黒騎士は現れず。
日は暮れ、もう夕方になってしまっている。何名か我慢の限界に
達している方もちらほらと……。
「それにしても中々来ねえなあ~……、何時間待たせんだよ、暇だなあ……」
「もう少し待ってみようよ、皆……」
「アル、そうは言うけどさあ、もう夕方じゃん、今日は絶対来ないよお~、
このままだと夜になっちゃうじゃないかあ~、ねえ、戻ろうよお!」
「分らないわよ、相手はいつ来るとか、そんなマナーなんかないのよ、
でも、モンちゃんもすっかり寝ちゃってるわ……、ぽ、ぽよぽよ……」
「ぷ~が、ぷ~が、モン……」
アイシャは腹を出して寝ているモンの丸いお腹に触れる。皆は
数時間前にお弁当を食べたばかりなのに、時間的にはもう夕食
時間になるのである。
「……今だけはアタシもヘタレの意見に便乗するヨ!てか、女子との
約束ブッチするとかマジ信じらんねーんですケド!もうアタシ達、
帰ってよくネ!?国王サマにはさ、黒騎士なんかいなかったって
伝えればさあ……」
「……コホン、サンディ……」
「サンディ……、駄目よ……」
アルベルトとアイシャ、揃ってサンディをジト目で見た。
「チョ!何でんな顔して2人でアタシの事みんのっ!冗談だってばあ~!
ハイハイ、んじゃもう少し待ちましょカネ~、うん、振り返ってみたら
奴がいた……、みたいな~?」
「……」
「おい、サンディーーっ!!」
「後ろーーっ!!」
「は……?」
「……」
サンディは騒ぎ出した4人の言葉におそるおそる後ろを振り返る……。
冗談では無く、後ろには、黒い馬に乗り、黒い鎧を身に着けた騎士が……。
顔をすっぽり覆う兜を着けている為、素顔は分らない。だが、予告通り
本当に等々黒騎士が現れたのである。
「ま、ま、ま、……マジっすかぁーーっ!!」
……サンディは急いで発光体に戻り姿を隠す。4人は遂に現れた
黒騎士に対し、武器を手に取ると急いで身構えた……。
「やっと来やがったな……」
「……あーっ!オイラ竹槍だからサマになりませえーーんっ!!」
「ダウド、そんな事言ってる場合じゃないよっ!」
「モンちゃん、しっかり私や皆の後ろに隠れててね!危なくなったら
すぐに逃げるのよ!」
「モン~……」
「誰だ貴様らは……、貴様らになど用はない、……姫を出せッ!我が麗しの
姫君をーーっ!!」
「うおっ!?」
「きゃあーーっ!!」
黒騎士は言うが早いか、馬に乗ったまま槍を振り回しながら4人に
向かって突進してくる。湖に派遣されたのは、目的の姫君ではない事に
相当怒り狂っている。
「や、槍ならオイラだって……」
「ギロ……」
「ひいいーーっ!?」
黒騎士の兜に隠された瞳が赤く怪しく光り、ダウドを睨んだ。
困ったダウドはしっこが漏れそうになり、慌ててジャミルの
後ろに逃走。お約束でさっさと隠れる……。
「アホっ!何余計な事言って挑発してんだっ!バカっ!!」
「だ、だってええ~、オイラ、意外と負けず嫌いなんですよお~……、
もしかしたら、この竹槍、意外と隠された性能があるかも……、なんて……」
だから、んな竹槍で張り合おうなんざ、向こうも余計ブチ切れるんが
当たり前である。
「分りましたよおお!もう何も言いませんよお!」
「……最初からそうしろってのっ!」
「私がやってみるわ!……本当は悪い人じゃないって、信じたいけれど……」
「小娘!何をごちゃごちゃとっ!」
アイシャはフィオーネ姫の流した涙を思い出しながら、戸惑いつつも
呪文を詠唱し、ヒャドの魔法を黒騎士の鎧目掛けぶつける。
黒騎士の黒い鎧が凍りつき、固まり掛ける。その隙を逃さず、
アルベルトが間に入り、鎧へと剣でダメージを与える。……黒騎士は
乗っていた馬から転落し、地面に倒れた……。
「ううう、く、くそ……、只の雑魚だと思っていたが、……これは
何たる屈辱……」
「アル、有難うーっ!」
「いや、……やっぱり戦いの要になる戦士って大変だなあ、
ふう……、これからも頑張らなくちゃ……」
アルベルトは汗を拭い、兵士の剣を鞘に納める。鎧ごと傷つけられ
負傷した黒騎士はよろよろと立ち上がろうとすると、4人に対して
憎々しげに言葉を洩らした。
「何故……、何故姫君は貴様らの様な者を私に遣わしたのだ……、
メリア姫……、そなたとあの時交わした約束は偽りだったと言うのか……」
「……メリア姫だと?」
「ねえ、ジャミル、こいつキモくね?メリアって誰よ?それに姫様は
メリアなんて名前じゃなかったよネ?確か……、フィオーネって……」
サンディは状況が安全になったと分った途端、再び姿を現す。
「……それは誠かっ!?」
「キャー!?なになにいい!?コイツもしかしてアタシが見えてんのぉーー!?
マジビックリしたんですケドおおおーーーっ!!」
黒騎士はサンディに詰め寄る。真実を探している黒騎士を見て、
アイシャは漸く理解する。やはりこの黒騎士は悪い人物ではない。
どうやらメリアと言う姫と、フィオーネ姫を間違えている様だが、
フィオーネ姫は確かに黒騎士を好いていたのだと。アイシャは
どうにかしてもう少し、この黒騎士と話し合ってみたいと思ったのだが……。
「なあ、教えてくれ……、あの時城にいた姫君はメリア姫では無く……、
別の姫君だったと言う訳か……?」
「そうだよ、あんたが婚約だかの約束したらしい姫はメリアじゃない、
フィオーネ姫だよ……」
「……何という事だ……、あの姫君はメリア姫ではなかったのか……、
言われてみれば彼女はルディアノ王家に代々伝わる首飾りをしていなかった……」
黒騎士は再び膝まづき、肩を落とす……。この黒騎士は
セントシュタインではなく、ルディアノなどという
聞きなれない国の名を呟いた。やはり何か勘違いをしている様である。
「私は深い眠りについていた……、そしてあの大地震の後、何かから
解き放たれた様に見知らぬ地で目を覚ましたのだ、しかし、その時の私は
自分が一体何者なのか分らぬ程記憶を失っていた、そんな折、あの異国の
姫君を見掛け、自分とメリア姫の事を思い出したのだ……」
「!?は、はうあーっ!深い眠りについていたって、もしかしてこの人おーーっ!」
「ダウドっ、静かにっ!」
……何となくだが、黒騎士の正体を察し、パニックになり掛けたダウドを
アルベルトが制する。そう、彼はもう既にこの世の人物ではない事が窺えた。
「……私の名は、……黒騎士レオコーン……」
遂に自分の素性を少しだけ明かした黒騎士。だが、黒騎士は再び黒馬に跨ると
何かを思いついた様にその場から逃走しようとしたのである。
「ま、待てっ!黒騎士っ!……レオコーン!」
「キャラメルコーン!待つモン!」
「モン、無理矢理すぎるから……」
「モォ~ン……、とんがりコーン食べたいモン……」
「モンちゃんたら、お腹まだこんなにパンパンじゃないのよう~……、
めっ!お腹破裂しちゃうわよ!」
「プ~モン……」
またお腹が減って来たらしいモンを取り押さえ、アルベルトが苦笑しながら
アイシャに手渡す……。やっぱり段々飼い主に似てくるんだなあと……。
「……アル、何だ?何で俺の方見てんだよ……」
「何でもないよ……」
「……メリア姫は我が祖国、ルディアノ王国の姫君……、私とメリア姫は
永遠の愛を誓い合い、祖国での婚礼も控えていた仲であった……」
「ちょ、じゃあ、この黒騎士ってさ、元カノとフィオーネ姫を
間違えちゃったワケ?……どんだけ似てんのよ、メリア姫と
フィオーネ姫って……」
「モン、キャラメルコーンととんがりコーンの間ぐらいモン……」
「モンちゃん、……ポケットに小さいキャンディーの残りがあったわ、
はい、どうぞ……」
「♪モンー!」
アイシャは取りあえず飴玉をモンに舐めさせる。……モンは少し大人しくなった。
「……いずれにせよ、私は自らの過ちを正す為、もう一度あの城へ
行かねばなるまい……」
「わわ!それは止めた方がいいよお!只でさえエライ騒ぎになってるのに!」
「そうだよ、そんな事になったら又あの顔デカタヌキ国王が騒ぎ出すよ、
ね、ジャミル、こいつ止めた方がよくネ?ややこしくなるだけだって!」
「う~ん……?困ったなあ……」
ダウドとサンディの忠告にジャミルは首を傾げる。……どうやらこの黒騎士は、
悪意の為に城を訪れたのではないと言う事が段々分かって来たが……。
確かに今止めなければ、城に現れた黒騎士を見て国王は又狂った様に怒りだし、
娘を守る為に今度こそ黒騎士に手を下すだろう。
「……ややこしくなる?……それもそうであるか……、ではお前達から
城の者に伝えてくれ、もう二度とあの城には近づかない事を約束しよう、
……本当のメリア姫は私のこの手で探し出そう……、まずは祖国ルディアノを
探さねば、ルディアノでは本当のメリア姫が私の帰りを待っていてくれる筈だ……」
「黒騎士さん、……レオコーンさん!……待っ……」
しかし、レオコーンはアイシャの言葉を聞かず、再び馬を走らせ
今度こそ何処かへと逃走してしまう。アイシャは、最後に悲しそうな
声で呟いた黒騎士レオコーンが心配で堪らなくなっていた。
「レオコーンさん……」
「アイシャ、ほっときなよ!それよりアイツもう城には近づかネって
言ってくれたんだからこれでいいんだよ、さあ、問題は解決!さ~、
アタシ達も城に戻ろ戻ろ!」
「……そう言う問題じゃ……、ないのよ……」
困っている人を見ると頬って置けないアイシャ。黒騎士の件でどうしたら
いいか分からず心を痛めはじめてしまっていた。またお節介病が出たなあ~
……と、ジャミルも困ってしまう。恋愛などの面に関しては異様に……、
彼女は特にそうである。取りあえずは一旦セントシュタイン城に
戻るしかなかった。
「アイシャ、このまま此処にいても仕方ねえよ、とにかく一旦城に
戻って国王に報告しようや、それから幾らでもどうにも出来る、
……何ならあの国王に内緒で俺らだけで黒騎士の行方を探したって
いいんだしさ!」
「……ジャミル……、うんっ!そうだね!」
ジャミルはアイシャにウインクする。ジャミルの言葉を聞いて、
アイシャも漸く元気を取り戻した。
……そして、お騒がせ御一行様、再びセントシュタインへと
急いで一路戻る。が、城内では再び父娘の親子バトルが再開
したらしく、また異様な雰囲気に……。既に王妃は玉座に
突っ伏し泣き崩れていた。
「……お父様、お母様……、やはり私は黒騎士の元へ行きます……」
「うう、……フィオーネ……」
「バカ者!泣く奴があるか!……フィオーネは断じてあの様な
男になど渡さぬと言っておろう!」
「国王さん……、今戻ったんだけど……」
「おお!!ジャミル達か!して、黒騎士の方はどうした!?……成敗して
くれたのであろう!?」
「……それがさ……」
怒鳴り散らしていた国王は戻って来た4人の姿に気づくと
目を輝かせた。……黒騎士討伐の報告を待ち望んでいたらしいが……。
ジャミルは仕方なしに湖での詳細を全て国王に話す。勿論、
黒騎士は悪い騎士ではないと言う事も伝えたが。
「……何?奴は自分の記憶を無くし、自分の婚約者とフィオーネを
見間違えていた……、だけだった……じゃと?」
「国王様、どうか分かってあげて下さい、決して黒騎士さんは最初から
悪意があってこの城を訪れた訳では……」
「……うるさいうるさい!黙れ黙れえええっ!!」
だが、国王はまるでアイシャの言葉を聴かず、噴気すると鼻から
湯気を出し、再び怒り始める。やはり分っては貰えない様だった。
大体こうなると覚悟はしていたが、どうしたらいいのか4人は困って
顔を見合わせた。
「……プ~、どうして怒ってばっかりいるモン……」
「モンちゃん、……大丈夫よ……」
アイシャはそう言いながら力なくモンを側に抱き寄せた。
……ジャミルも。この栗饅頭、大切な娘を溺愛してるのは分るが、
だからって碌に話も聴かねえで頭ごなしに怒鳴りつけるこたあ
ねえだろうと段々イライラしてきた。出来るなら玉座の後ろに
回って頭を一発ブン殴り、……あてっ!?と言わせてやりたかった程。
「国王様、どうか落ち着いて下さい、僕らの話をもう少し……」
「落ち着けるかああっ!……奴はルディアノと言う国を探しに行く為、
もう二度とこの城には近づかんじゃと……?そんなもの口から出まかせに
決まっておろうが!お主達は奴の言葉をそっくりそのまま信じて戻って
きたと言うのか!ええいっ!一体お主達は何をしにいったんじゃあああっ!!」
今度はアルベルトが応対するが、国王は顔を大きくし、更にジャミル達に
向かって怒りを爆発させた。……しかし、それをずっと見ていたフィオーネ、
我慢出来ず凛として再び傲慢な父に立ち向かう。
「……お父様!どうして其処まであの方の事を悪く言うのです……!!」
「ふんっ!ルディアノなどと言う国なぞ儂は聞いた事がないわ!
フィオーネ、ジャミル、お前達も奴に騙されているのじゃよ!
……よいかジャミル、奴は再びフィオーネを狙い、この国に
攻め込んでくるつもりじゃ!今度こそ奴の息の根を止めよ!
……それまでお前達への褒美はおあずけじゃ!」
「別に褒美なんか要らねえけど、……ただ……」
ジャミルも他の3人も心配そうにフィオーネの方を見る。……彼女は
怒りと悲しみで震えており、堪えていた涙を一滴ぽとりと床に溢した。
「……何故……、信じてあげられないの……、本当に国に帰れなくて……、
困っているかもしれないのに……」
「のう、フィオーネや、これは父として、……全てお前の為を思って
言っている事だ、……聞き分けなさい……」
「……うううっ!」
「……フィオーネ姫っ!」
フィオーネは両手で顔を覆い再度ダッシュでその場を去る。
ジャミル達も急いで急いで姫の後を追い、国王の間から離れる。
……4人も非常に不愉快になっており、こんな所、何時までも
いたくなかった。
「……」
「フィオーネ姫っ!」
ジャミル達は慌ててフィオーネを追い掛ける。……フィオーネは
国王の間の扉の前で突っ立ったまま肩を振るわせ泣いている。しかし、
後を追って追い掛けて来てくれた4人の姿に気付くと、涙に暮れた目で
ジャミル達の方を振り返った。
「皆さま、取り乱したりして申し訳ありません……、どうか少しお話を
聞いて頂けないでしょうか……、ルディアノ王国の事です……」
「!」
「……此処では大きな声では言えませんので、特に父に聞かれると
大変ですし、……此方へ……」
フィオーネは4人を東側の通路の先に有る自分の部屋へと通す。
……流石のジャミルも王族の、しかも姫の部屋……、に、
入るのは戸惑ったが、フィオーネが話を聞いて欲しいと言う手前、
部屋にお邪魔させて貰う事に。
「ジャミルも一応礼儀はあったんだあ……」
「……うるっせー!バカダウっ!」
「あの、どうかなさいましたか……?」
「あっ、ははは!いや、何でもっ!」
「はあ……」
フィオーネは揉め出したジャミル達を心配する。……姫の手前、
いつもの通りダウドを殴る訳に行かずジャミルは仕方なしに堪える。
横でダウドがザマミロという表情。……ちなみにこの分は後で
しっかり返す予定。
「……お呼び立てしてしまいまして申し訳ありません……、
この話を父に聞かれても反対されるだけですから……、
先も申した通り、ルディアノに関する事です……」
4人はフィオーネの話に耳を傾ける。……フィオーネは
何かルディアノに関する事を知っているらしいのか……。
「♪お~けしょうパタパタ~、モン」
「……うわ!」
「きゃあっ!?」
「モン、美しくなるモン」
……が、モンがフィオーネの化粧セットで悪戯をしだし、
その場はエライ事になっていた。
「モンっ!……お前、な、何しとるーーっ!!」
「こらっ!モンちゃんっ!駄目よーーっ!!」
(……ぎゃははははっ!ス、スゲーバカズラっ!)
ジャミルとアイシャがモンを止めようとするが既に遅し。
モンは怪物メイク完了。発光体のサンディは只管大爆笑。
無論、フィオーネには聞こえていない。……4人は只管
フィオーネに頭を下げて謝るしかなかった……。
「あらあら、……いいんですのよ、……それにしても、
本当に面白いぬいぐるみさんね!色んな事をして遊ぶのね、
ふふふ、癒されますわ、有難う……」
「モン~!」
フィオーネはモンを抱き上げると更に抱擁する。……黒騎士の事で
心を痛めていたフィオーネ。……どうやらモンのお蔭で返って
少し心が落ち着いた様子。事なきを得た4人はほっとするが、
……もう冷や冷や、……たまったモンじゃねえ~……、状態だった。
「此処にリボンを着けても可愛いかも知れませんわ……、
あら、似合うわ!」
「……姫さん、あのさ……、話……」
「!あらっ、ご、ごめんなさい!私ったら……」
「モンもお姫様みたいモン?」
「ええ、とても可愛いわよ、モンさん、ふふっ!」
フィオーネはそのままモンで遊びだしてしまう。ジャミルに
言われ、漸く我に返る。しかし、突発性のモンの悪戯のお蔭で
確実に元気は取り戻しているかも知れなかった。暫くモンと戯れて、
癒しを貰ったフィオーネは改めて4人の方を向いた。
「その、ルディアノに関する事……、なのですが、昔ばあやに
よく歌って貰ったわらべ歌の中にルディアノと言う国の名前が
出て来た様な気がするのです……」
「……わらべ歌?」
「ええ、もしかしたらその歌が何かの手掛かりになるかも
知れません……、ばあやは今、彼女の故郷、エラフィタ村で
隠居している筈です、……エラフィタ村はシュタイン湖の
西の方にある小さな村です……」
「分った!エラフィタだな?よし、行ってみるか!」
ジャミルの言葉に他の3人も頷く。又あの国王が黒騎士の事で
騒ぎ出さない内に事は急がねばならない。
「……どうかお願いします……、ジャミル様、皆さん、あの黒騎士は
父の言葉とは違う、悪い方ではないと私は信じています、……どうか
あの方のお力になってあげて下さい……」
「……姫さん、やっぱアンタ其処まで……、分ったよ!任せな!」
「ジャミル様……」
フィオーネはジャミルの方を見る。何としても黒騎士を救い、
無実を証明してやりたい、彼女の為にも。そう思わずには
いられなかった。
「と、もう一つ……、お願いがあるのですが……」
「ん?」
フィオーネは顔を赤くしてモンの方を見ると、もう一つのお願いを
ぼしょぼしょ喋り出す。
「……暫くの間……、モンさんを私に貸して頂けないでしょうか……、
この子がいるととても落ち着くのですわ……、抱っこしたりしていると
特に……、このふよふよのお腹なんて……」
「そ、それは……、困ったなあ……」
ジャミルはちらっとアルベルト達の方を覗い、意見を
聞いてみるが。……モンが大人しくしていれば別に
構わないが、アホのモンがそれこそ先程の様な壮大な
悪戯をすれば又大変な事になってしまう……。それでも
フィオーネは自分が責任を持つので、どうかモンと暫く
一緒にいさせて下さいと頭を下げてまで頼み込むのだった。
……ぽんぴこぴーのモンを相当気に入っている様だった。
「フィオーネ姫、そんな……、どうか頭をお上げ下さい!これでは
僕らが困ってしまいます……」
「でもさあ~、……プチジャミルをお預りして貰う様な
モンだからねえ~……」
「はい、モンです」
「……んだと?……ダウド、てめえ、このやろ……」
「ああ、本当に可愛いわ……、モンさん!」
フィオーネはますますモンをハグギュウする。その様子を見ていた
4人は更に困惑。……これでは本当に暫くモンをフィオーネの元に
置いて行かざるを得なくなってしまう……。
「もうっ!……ジャミルもダウドもよしなさいよ!えっと、フィオーネ姫、
それじゃあ……、モンちゃんの事、お願い出来ますか?……なるべく
お部屋の外には出さないで貰いたいんです……、それなら何とか大丈夫かと……」
「おい、アイシャ……」
「大丈夫だったら!心のカウンセリングも立派なお仕事よ、モンちゃん、
フィオーネ姫を癒してあげてね!」
「モン!」
「ええ、アイシャさん、有難う!私、モンさんと沢山お喋りしたいですわ!」
……アイシャはモンをアニマルセラピーか何かと勘違いしているんではと
ジャミルは思うが。しかしフィオーネが元気になってくれるのなら
まあいいかと思いつつ、モンをこのまま預けて行く事にした。
「じゃあ、俺ら行くけど……、モン、くれぐれも悪戯すんじゃねえぞ……」
「分かってるモン!プー!」
そう言いながら、モンはジャミルにケツを向けておならを一発。
「……モン……、おめえなあ~……」
「仕方ないだろっ、どうしたって君の悪い処は似ちゃうんだよ!」
「そうだなあ……って、……アルーーっ!!」
「で、では僕らはこれで……、何とかルディアノの手掛かりを掴んでまいります!」
「……いててて!っく!畜生ーーっ!覚えてろっ、この陰険腹黒ーーっ!!」
「ほら、早く外に出るっ!……では、姫様、失礼致します……」
「あはは、騒がしくて……、どうもごめんなさいです……、あう~……」
「モンちゃん、フィオーネ姫様の事、お願いね!」
「モンモン!行ってらっしゃいモン!」
アルベルトは騒がしいジャミルを小突きながらフィオーネの寝室から
出させる。ダウドとアイシャもフィオーネに挨拶し、部屋を後にする。
……段々姫君の前でもこの4人は既にすっかりいつもの地が出て
しまっていたが……、それでもフィオーネは別に気にしてはいなかった。
心から黒騎士の事を願い、思いを4人に託さずにはいられなかった。
「ジャミル様、……皆さん、どうかお気をつけて……、黒騎士の事を
どうかお願いします……」
ジャミル達4人組はフィオーネから聞いたとおり、昔、
セントシュタイン城で彼女の乳母を務めていたと言う老婆が
隠居しているエラフィタ村に訪れている。此処でルディアノに
関する用途が出てくるというわらべ歌を聴き、ヒントに黒騎士の
故郷の手掛かりを得ねばならない。……村の中央にはこの村の
名物でもあり、そしてご神木らしい大きな桜の大木がお目見え。
ご神木以外にも村の中には桜の木が沢山並んでいる。
「本当、綺麗な桜ねえ~……」
「ハア、こんな忙しい状態でなければ……、お花見が
出来そうなのにねえ……」
御神木の桜にうっとりのアイシャと呑気なダウド。取りあえず4人は
一通り村の中を歩いて回る。小さな村ながらも一応装備品などを
取り扱う露店のよろず屋も。
「いらっしゃい!旅人さん、買っていってよ」
「そうだな、そろそろ装備品も新しいのにしとかねえとな……」
「ねえいい加減にオイラ、竹槍から卒業させてくれない……?」
「分ってるよっ!てか、お前はあまり普段からバトルは
積極的じゃねえ癖に、……プライドだけは高ぇんだからなあ……」
「ふーんだっ!」
ダウドがうるさいので、露天にて装備品を新調……、
しようかと思ったが、が、特にめぼしい物はなかったので、
今回は盾を4人分青銅の盾に変えただけ。後はアイシャが
うさぎのお守りを欲しがったので、それを1個購入。
「……びえええーーっ!いい加減にしてよおーーっ!!」
「ダウド、その内……、又何処かでいい武器が買えるから……」
ぐずり出したダウドをいつもの如く、アルベルトがどうどう。
……ダウド、モン、サンディ、……本当に大変な方達であった。
「ん……?ちょ、何でオイラもいつの間にかマスコット扱いなのさあ!?」
「大変な方達とか聞き捨てならねーんですケドっ!?」
「……いいからっ!早くフィオーネ姫のばあやさんを探さないと!」
「でも、本当に綺麗な桜なのー……、いい香り……」
「……おいっ!コラ!アイシャーーっ!勝手に動くなーーっ!
……まーたデコピンされてえのかあーーっ!!」
「……」
まーたフラフラ、桜にうっとりし一人でどっか行きそうに
なったアイシャを慌ててジャミルが捕獲しに追い掛けて行った。
それを見たアルベルトはぽつりと濁声で一言、『……駄目だこりゃ、
次行ってみよう……』、と、呟いた。
「……ぼ、僕は濁声は出してないよっ!!次行ってみようも
言ってないっ!!」
「……と、時間の都合で話を変えて……、此処だ、聞いた通り、
此処が姫さんの元ばあやの家か……それにしても……」
「何よジャミル、何で私の方見てるの……?」
「いや、何かお前見てると古代のクソゲー思い出すんだよ……っと、
コラ、書いてる奴、……また俺に何言わせんだよ!」
※此処での古代のクソゲーとは。FCのおにゃんこタウンの事。
捕まえても捕まえても家から意味も無く脱走する子ネコを母猫が
只管追い掛けて延々と捕まえるゲームです。
よろず屋の側の一軒家。動き回るアイシャを捕獲した後、
村人から情報を得た。どうやらソナという婆さんが此処に
住んでいるらしい。ジャミルが代表でドアをノックし、
挨拶した後、4人は中に入っていった。中にはテーブルを
囲んで老婆が2人。お茶タイムを楽しんでいるらしかった。
顔が丸いほんわかな感じの婆さんと、髪型が奇抜な婆さん。
……この婆さんのどちらかが、フィオーネの元ばあやだった
お婆さんなのだろうが。
「もうっ、ソナちゃんたら、また昔の話を持ち出して……」
「クロエちゃん、あたしゃアンタの事を心底羨ましく
思ったもんだよ……、おや?」
「どうも、こんちは……」
ジャミル達に気づいた婆さん達が会話を止めて4人の方を見る。
どうやらほんわか婆さんの方が探していたソナ婆さんらしい。
「あらあら、お客さん?どうぞどうぞ、こちらにいらっしゃって、
お菓子もありますよ」
クロエと言う婆さんの方がジャミル達にもお茶をと勧める。
……テーブルの上に並ぶ美味しそうなお茶菓子の数々。ジャミルは
うっかり手を出しそうになるが、アルベルトに肘で突かれ
目線で注意される……。
「コホン、分かってるよね……?」
「分ってるよっ!……畜生、腹黒めえ~……、んーと、
アンタがソナ婆さんかい?」
「はいはい、あたしゃ、確かにソナでございますが、……何かご用?」
ジャミルは自分達がこの村を訪れた目的、そして、フィオーネの
知り合いである事をソナに話す。
「そうですか、姫様のお友達の……、姫様はお元気で
しょうかねえ~、して、確かにあたしは昔城にて姫様の
ばあやを務めておりましたが……、はあ、……昔、姫様が
小さい頃によく歌って聞かせてあげた、わらべ歌……、ですか?」
「うん、姫さんから聞いたんだ、ルディアノって言う国の
手掛かりを知りたいんだ、是非、そのわらべ歌を聴かせて
欲しいんだけど……」
「いいですともいいですとも、こんなおばあちゃんの
歌声で良かったら、……それじゃ、クロエちゃん、合いの
手をお願いね」
「ほうほう、黒バラわらべ歌だね?お安いご用さ、それじゃあいくよ、
あ、よいよい、よいとなっ!♪」
2人の老婆は手を叩き、頭をふりふり、楽しそうに歌を歌い出す。
……4人は微笑ましいながらもその様子を真剣に眺め、歌詞一つ
一つの内容をしっかりと心に刻む。
♪闇に潜んだ魔物を狩りに黒薔薇の~騎士~立ち上がる
見事魔物を撃ち滅ぼせば白百合姫と結ばれる~
騎士の帰りを待ちかねて城中皆で宴の準備
あソーレ♪それから騎士様どうなった?
♪北往く鳥よ伝えておくれ ルディアノで~待つ白百合姫に
伝えておくれ黒バラ散ったと 伝えておくれ……
♪北往く鳥よ伝えておくれ 黒バラ散ったと伝えておくれ……
「……と、まあ、こんな感じですが、いかがでしたかの?」
「悲しい感じだけど、でも素敵な歌ね、お婆ちゃん達、
聴かせてくれてどうもありがとう!」
「いえいえ、……久々でしたけえ、声が出るかどうか不安じゃったが、
やれば出来るもんですねえ、クロエちゃん」
「本当、まだまだ捨てたもんじゃないねえ……」
喜んで絶賛するアイシャにソナ婆さんとクロエ婆さんは
恥ずかしそうに照れている。……そして、段々リズムにのってくる……。
「どうですか?リクエストあれば、電線音頭なんぞ……」
「クロエ婆ちゃんが踊りましょう、あ、チュチュンが……」
「い、いや、急いでるんで、それは又今度……、一刻も早くルディアノの
場所を探し当てなくちゃなんねえんで……」
困りだしたジャミルの顔を見て、よっぽど急いでいるんですねえと
ソナは了解。……もっと歌声を披露出来なくて少し残念そうであったが。
「そうですねえ、ポイントは北往く鳥へ……、のフレーズですかねえ、
歌と同じ様に北へ向かってみては如何ですか?」
「……北か、成程……」
『『ぎゃあああーーっ!……た、助けてくれええーーっ!!』
「は……、な、何だっ!?」
「声は村の方からだよっ、ジャミル!」
漸く、ルディアノの手掛かりも何とか掴めそうで安心していたジャミル。
突如聞こえて大きな悲鳴とアルベルトの声に我に返り顔を上げた。
「あれまあ、何かあったんですかねえ……」
「心配ねえ、ソナちゃん……」
「……お婆ちゃん達、危ないから絶対お家の中にいてね、
行きましょ、皆!」
「あうう~、オイラ達、……本当に退屈しなくていいよねえ~……」
4人は急いでソナの家から外へと飛び出す。……その様子をソナ達は
心配そうに見守るのだった……。
「あれま、あの子達は……、あんな小さそうに見えて、
戦う戦士様じゃったか……、どうかご無理をなさらんでのう……」
zoku勇者 ドラクエⅨ編 7