騙し騙し
職場からの帰り道。
疲れ果てた身体、今日はなぜか軽い。
たぶん、視界もいつもより濁っていない。
もういいや、どうでもいいか。
行き慣れた道、そして歩道橋から見下ろす街。
夜を楽しむかのように様々なライトが暗闇を彩っていた。
綺麗でも、汚くても、今の私にとってはどっちでも良かった。
どうせなかったことに、なる「ねえ貴方」
「………はい」
声の主はおばあちゃんだった。優しく微笑むその顔に、胸が痛くなった。
「さっき、そこの店でハンカチを買ったんだけど、落としちゃって。探すの手伝ってくれないかしら?」
断る理由も思いつかず、おばあちゃんと一緒にハンカチを探した。5分くらい探して、おばあちゃんは眉を下げてはにかみ、私にありがとうと言った。
家に帰ると母親の作り置きのご飯が、食卓にたくさん置かれていた。
また、いきなくちゃ。行かなくちゃ。
振り切る勇気もないし、そもそも私はまだ、死ぬことを誰からも認めてもらえない。
騙し騙し