ぷりゅらは白馬探偵団!? なんだしっ🔎
Ⅰ
「大変なんだし!」
またもの。唐突の。
「子どもたちが恐怖におそわれてるんだし!」
「えっ」
さすがに聞き過ごせない。
「どういうことですか、白姫(しろひめ)」
「こういうことだし」
語り始める。
「出るんだし」
「出る?」
何が。
「馬人間(うまにんげん)だし」
きょとん。
「……は?」
「もー、アリスは耳も悪いんだし? アタマだけじゃなくて」
「悪くないです」
なんて言われようだ。
「うま……人間ですか」
「そーだし」
「それはどういう」
「みんなが噂してたんだし」
おそろしげに。
「馬であって馬でないんだし」
「馬であって馬でない……」
「人間であって人間でないんだし」
「人間であって人間でない……」
「それは何かと聞かれたら」
パカパッカッ!
「いや、遊んでる場合じゃないですよ」
「遊んでないし! 真剣だし!」
心外と。
「で、何なんですか、それは」
「馬人間だし」
「だから、その馬人間が何なのか」
ふり出しだ。
「恐怖なんだし」
「恐怖はわかりましたから」
「わかってないんだし!」
いきり立つ。
「みんなが怖がってんだし! なんとかしないといけないんだし!」
「それもわかりましたから」
なんとかするものの対象が何かわからないと。
「人間みたいなんだし」
「えっ」
「馬なのに」
「………………」
つまり。
「人面馬……みたいなものですか」
「何だし、それ」
「だから」
あまり詳しく話せることはないながら。
「人面犬とか人面魚とか。人の顔をしたそういう妖怪? みたいなものかと」
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「きゃあっ」
「なに、妖怪あつかいしてんだし。馬のことを」
「そんなつもりで言ったんじゃないですよ!」
抗議の意もこめ。
「とにかく何なんですか、馬人間って!」
「だから、人間みたいな馬なんだし!」
こちらもムキに。
「馬なのに、人間みたいなんだし」
「具体的にどういう」
「歌をうたうんだし」
「えっ」
それは。
「馬なのに人間みたいにうたうんだし。気持ち悪いんだし」
「………………」
「お菓子とかも食べたりするんだし。人間みたいに」
「い、いや」
「遊んだりもするらしいし。人間にしかできないようなことでも、人間みたいに器用に」
「待ってください!」
あわてて。
「あの……本気で言ってます?」
「ぷりゅ?」
どういうことだと。
「本気だし。みんな、怖がってんだし」
(怖がって……)
るのか。
「その話をどこで聞いたんです?」
「ウワサだし」
「噂」
はあ、と。
「評判になってんだし。夜歩いてると、後ろからいななきと共に白い影が」
「ち、ちょっと」
その『白い』の時点で決定的な。
「白姫ですよ」
「ぷりゅ?」
きょとん。
「シロヒメはシロヒメだし」
「そういうことではなくて」
何と言えば。
「シロヒメはシロヒメじゃなかったんだし? じゃあ、シロヒメはいったい誰なんだし」
「そういうことでもなくて」
おそるおそる。
「馬人間です」
「ぷぅ?」
「馬人間が白姫なんです」
「!」
目を。見張り。
「ぷ……」
信じられない。
「屈辱なんだし」
「えっ」
「アリスなんかに」
ぷりゅっくり。肩を。
「馬であることを否定されるなんて」
「えっ? えっ?」
そこまでのつもりでは。
「ぷりゅデンティティーを否定されるなんて」
「ぷりゅデンティティー?」
アイデンティティーということか。
「ひ、否定してないですよ」
そもそも、どちらも。
「じゃあ、なんでそんなひどいこと言うんだし!」
涙目で。
(そこまでですか)
当惑を。
「完全に訴えていいレベルなんだし! 白馬愛護団体に連絡するし!」
「久しぶりに聞きましたね、その団体!」
「馬権擁護団体にも抗議させるし!」
「だから、ないです、そんな団体」
とにかく。
「違いますよ」
「違うに決まってんだし。侮辱だし」
「だから」
「プ辱だし」
「なんですか、『プ辱』って!」
またわけのわからない。
「カン違いされているということです!」
「カン違い?」
「たぶん」
気づいたことを。
「白姫って、その、普通じゃないじゃないですか」
「そーだし」
「ですよね」
「普通じゃなくかわいいし」
「いや、そういうことではなくて」
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「きゃあっ」
「どーゆーことだし! シロヒメがかわいくないって言うんだし!?」
「言ってませんよ、そんなこと!」
顔にヒヅメ痕を作りつつ。
「シロヒメ、何でもできちゃうじゃないですか」
「できちゃうし。賢いから。賢くてかわいいから」
「その賢さをもっといいことに使ってください……」
本当にお願いしたい。
「みんな、そういうシロヒメのことを知ってて」
「ぷりゅ」
「それを周りの人に話したりして」
「ぷりゅ」
「いつの間にか『馬人間』っていう噂話になっちゃったんじゃないでしょうか」
「ぷりゅぅ?」
わからないと。
「なんで、そーなるし。シロヒメ、馬人間じゃないし。馬だし」
「そうなんですけど」
一方で〝馬離れ〟しているのも事実で。
「ぷりゅー」
やはり。納得いかないと。
「シロヒメ、馬なんだし。馬であることに誇りをもってんだし」
「はい」
「この上なく馬なんだし。馬らしくないことなんてしたことないし」
「それは……えーと」
「ぷりゅーわけで」
結論。
「存在するんだし」
「へ?」
何が。
「恐怖の馬人間が」
ぷりゅりゅりゅ……ヒヅメをわなわなと。
「やっぱり、いるんだし! そして、みんなを恐怖のぷりゅ底に落とし入れてんだし!」
「なんですか『ぷりゅ底』って!」
こうなるともう。
「なんとかしなくてはだめなんだし!」
「なんとかするって」
そんなこと。
「できないですよ」
「ぷりゅぅ?」
「だって」
本人――でなく本馬なのだから。
「確かにアリスにはできないし」
「そういうことではなくて」
「アホだから」
「アホじゃないです」
なんて言われようだ。
「アリスは」
ぷりゅー。怒りの鼻息。
「みんなが馬人間におびえてもいいっていうんだし?」
「そんなことは」
「だったら」
問答無用。
「やるんだし!」
「だから」
「助手だし!」
「は!?」
「結成だし! 子どもたちを怪奇から守る――」
宣言。
「白馬探偵団だし!」
Ⅱ
「は……」
唐突すぎる。
「白馬探偵団って」
結成宣言とその名称に。
「何なんですか」
「行くし!」
「いやいやいやいや」
飲みこめていない。
「どこへですか」
「決まってんだし」
そんなこともわからないのかと。
「謎と怪奇のあるところ、白馬探偵団はどこへだって行くんだし」
「いやいやいや」
だから。
「謎って」
「馬人間だし」
それはもう、こちらにとっては謎でも何でも。
「さっさと来るし! 助手!」
「じ……」
そういうことに。
「もう一人の助手も!」
「う?」
完全に飲みこめていない。
「ユイフォン、助手?」
「そーだし」
「何の?」
「もー、アホだしー」
「ア、アホじゃない」
それは抗議する。
「探偵の助手に決まってんだし」
「探偵?」
「そーだし」
ぷりゅーん。胸をそらし。
「シロヒメが探偵に決まってるし」
「決まってるの?」
「ぷりゅ」
カチン。
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「あうっ」
蹴り飛ばされる。
「とんでもないユイフォンだし。自分のほうが探偵にふさわしいとか言ってんだし?」
「い、言ってない」
「やめてください、ユイフォンをいじめるのは」
そもそも、いつの間にという。
「そろいもそろって使えねーんだし。助手にしてあげるだけでもありがたく思うし」
「ありがたく思えないですよ」
「思えない」
そんな意見も無視され。
「いいから、とっとと行くしーっ! 謎がシロヒメを呼んでるしーっ!」
パカラッ、パカラッ!
「あっ、白姫」
「うー」
どうしよう。そんな目で。
「え、えーと」
あたふた。
「とにかく行きましょう」
「うー?」
不満そうな。
「で、でも」
弱々しく。
「放っておくわけにもいきませんし」
「いかない」
それは。うなずく。
「ぷりゅーっ」
「!?」
パカラッ、パカラッ!
「も、戻って」
「ぷりゅーっ」
パカーーーン! パカーーーン!
「きゃあっ」
「あうっ」
来るなりの。
「なにグズグズしてんだし! 探偵団なめてんじゃねーし!」
「な、なめてない」
「それ以前に、まだやるとは」
「うるせーし!」
パカーーーン! パカーーーン!
「きゃあっ」
「あうっ」
問答無用。容赦なし。
「やっぱりイヤです、こんな探偵団ーーーーーっ!」
「さっきのがオチじゃないんですね」
「当たり前だし」
ぷりゅ。わけがわからないと。
「どこに結成直後にオチがついちゃう探偵団があんだし」
「ないですけど……」
そもそも、白馬が探偵という時点で。
「むしろ、ここからが事件なんだし」
「ですよね」
ため息。
「ここが」
そこは。見慣れた近所の公園で。
「はんこー現場だし」
「いや、犯行は」
起こってないのではないかと。
「それとも」
はっと。
「白姫、ここで何か悪いことを」
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「きゃあっ」
すかさずの。
「ぷりゅー」
鼻息荒く。
「どーゆーことだし。なんで、探偵が悪いことしないといけないし」
「してるじゃないですか、いままさに!」
涙目で抗議を。
「いいから、さっさとちょーさするし!」
「調査?」
何をどう。
「使えないしー」
ぷりゅやれと。
「その点、白馬探偵は何でもできるんだし」
「何でも……」
できすぎるほどにできてしまうが。
「まず、きゅーかくに優れてるんだし」
「嗅覚?」
「どんなにわずかなにおいでも気がつくんだし。そこから犯人につながるんだし」
確かに。
警察犬レベルとまではいかないが、かなりのにおいをかぎ取り、そして追跡することができる。普通の探偵、つまり人間では無理なことだ。
「ちょーかくにも優れてんだし」
「聴覚……」
つまり、耳。
「それが」
探偵と何の。
「ぴーんと立っててかわいいんだし」
がくっ。
「関係ないじゃ」
「なに言ってんだし。ビジュアル大事だし。かわいいシロヒメ相手にだったら、進んでいろんな話を聞かせてくれるんだし」
「あ」
それで、耳かと。
「実際、ちょー力だって優れてんだし。どんな小声だって聞きもらさないんだし。とーちょー機いらずなんだし」
「ああ」
そのことも事実だ。
「そして、ヒヅメだし」
「ええっ!?」
それこそ、探偵と関係ないのでは。
「ヒヅメはパカーンできるんだし」
「し、しないでください」
こちらに。
「探偵は悪者に襲われたりするんだし。けど、パカーンがあれば怖くないし」
「それは」
その通りかもしれないが。
「けど、あまり危険なことは」
お互いに。
「そんなこと言ってたら悪者逃がしちゃうんだし。でも、逃げられないんだし」
「えっ」
「ヒヅメだし」
またも。誇らしげ。
「馬にはすばらしー脚力があるし。悪者が逃げても、ビューッと走ってすぐに追いついちゃうし。追い抜いちゃうし」
「追い抜いたらだめなんじゃ」
言うも、確かにその通りだなと。
「馬って」
思わず。
「探偵に向いてたんですね」
「向いてたんだし」
ぷりゅーん。得意の絶頂。
「しかも、賢くてかわいいシロヒメなんだし。無敵なんだし」
「はあ」
それはともかく。
「じゃあ、まずはにおいをかいだりするんですか」
「ぷりゅぅ?」
はぁ? という目。
「どーゆーつもりだし」
「えっ」
「どーゆーつもりかって聞いてんだし」
「ど……」
どう答えれば。
「どういうつもりもなくて」
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「きゃあっ」
蹴り飛ばされる。
「怠けものなんだし!」
断いななき。
「アタマだけじゃなくてカラダも使わない気だし!?」
「え……ええっ?」
「まー、アタマのほうは最初から期待してないけど。アホだから」
「アホじゃないです」
そこは何としても。
「アリスは何だし」
「ほぇ?」
何と聞かれても。
「自分は自分ですけど」
「アホだしー」
「う、アホ」
「やめてください、ユイフォンまで」
さすがにの。
「アリスは助手だし」
「はぁ」
そういうことに。
「探偵にだけ働かせて、助手がボーッとしてるってどーゆーことだし」
「あ」
つまり。
「助手もしょーこ見つけに行くんだしーっ! ヒヅメ分けして探すんだしーっ!」
「いや、自分にヒヅメは」
「とっとと行くしーっ!」
パカーーーン!
「きゃあっ」
「こっちの助手もだしーっ!」
パカーーーン!
「あうっ」
蹴り立てられ。
「行きますからーっ」
「あうーっ」
何を探せばいいかもわからないまま。
駆け出していた。
「はぁ」
ため息。
「あっ、ユイフォン」
「う」
お互い。顔を見合わせる。
「何か見つかりましたか?」
「……わからない」
「ですよねぇ」
大体、何を解決すればいいかも謎なのだ。
「白姫なのに」
「う?」
「あ、いえ」
ここで推測のことを話しても仕方がない。問題は本馬が納得するかどうかで。
「ぷりゅーーーっ」
そのとき。
「えっ」
はっと。足を。
「いまのって」
「う」
「ですよね、白姫でしたよね!」
しかも。
「悲鳴」
にも聞こえる。
「何が」
考えるより先に。
「!」
そこに。
「白姫!」
ぐったりと倒れ伏した。
探偵の姿があった。
Ⅲ
「しっかりしてください! 何があったんですか!」
まさか。
「白姫!」
本当に。事件が。
「どいて」
「えっ」
問答無用。脇によけられる。
「ユイフォン、何を」
「活を入れる」
「えっ」
そんなことが。
「ふっ」
ドン! かすかな気合と共に。
「あ……」
目を。
「よかったです、白姫ー」
すがりつく。
「ぷ……」
うつろだった目が。
「ユイフォンが助けてくれたんですよ」
「ユイフォンが」
「はい」
「シロヒメにぼーりょくをふるったんだし?」
「えっ」
「何すんだしーっ!」
パカーーーン!
「あうっ」
「白姫!」
さすがに。
「なんてことをするんですか! 助けてくれたユイフォンに!」
「い、痛い……」
「助けんなら、もっと優しく助けんだし」
こんなときでもわがままだ。
「優しくって、どうやって」
「シロヒメは『姫』だし」
確かに。名前はそうで。
「眠ってるお姫様を助けるには、王子様が優しくキス……って、なに気持ち悪いこと言ってるしーっ」
パカーーーン! パカーーーン!
「きゃあっ」
「あうっ」
「なんで、シロヒメがアリスやユイフォンにキスされないといけないんだし。おぞましいんだし」
「なんてことを言うんですか……」
「やめて……」
「じゃー、せめて王子持ってくんだし」
理不尽すぎる。
(とりあえず)
現状、元気であるのは間違いない。
「何があったんですか」
「ぷりゅっ!」
たちまち。
「ぷりゅりゅりゅりゅりゅりゅ……」
ふるえが。
「白姫?」
このおびえよう。やはりただことでは。
「おそろしいんだし」
いななきを。
「何が」
「出るんだし」
「えっ」
それは例の。
「プーリアンだし!」
間。
「……え?」
「おそろしいしー」
ぷりゅりゅりゅ……ふるえる。
「あ、あの」
ようやく。
「プーリアン……って?」
「プーリアンはプーリアンだし」
答えになっていない。
「宇宙せーぶつだし」
「う……」
宇宙生物!?
「かわいい馬にきせーしてぞーしょくするんだし。おそろしい怪物なんだし」
「い……いやいや」
どこからそんな。
「みんなが言ってたんだし」
また噂か。
「プーリアンにきせーされた馬は普通と違ってしまうんだし。普通にはない能力を発揮してしまうんだし。まるで人間のように」
「いやいやいや」
それではまるっきり。
「シロヒメまできせーされたら大変なんだし! 馬みたいじゃなくなってしまうんだし!」
「うー……」
思わずと。
「寄生されたの?」
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「あうっ」
「だから、やめてください!」
「なんてこと言うユイフォンだし! シロヒメが馬らしくないって言うんだし!?」
「だ、だって」
「きせーされてないってすぐわかるんだし! こんなに馬らしいシロヒメなんだし!」
(えーと)
つまり、噂の基本線は同じというか。
「あの」
おそるおそる。
「じゃあ、なんで倒れてたんですか」
「倒れるに決まってんだし!」
決まっているのか。
「そんなおそろしー話を聞いてしまったんだし。恐怖で動けなくなるのは当たり前だし」
(ああ……)
納得。できたようなできないような。
「とにかく、無事ではあるんですね」
「なに、ホッとしてんだし」
非難がましげに。
「大変な事態なんだし! 馬人間だけでなくプーリアンまで現れてしまったんだし!」
現れたわけでは。
「この街には、一体どれだけの怪奇があるというんだし」
ぷりゅりゅりゅりゅ。またも。
「あの、白姫」
さすがに。
「心配ないですよ。白姫のそばにはこの自分が」
「アリスがいるから何だってゆーんだし」
険悪な目で。
「まったく安心できないし。ダメダメなアリスがいたところで」
「う。アリス、ダメダメ」
「やめてください、ユイフォンまで」
それでも。
「もうこれ以上は」
「これ以上!」
ピン! 耳が。
「やっぱりなんだし」
「え……?」
またおかしな方向に。
「さらなる怪奇がいまも押し寄せようとしてるんだし。のんびりしてる場合じゃないんだし」
「いえ、あの」
そういうことでは。
「行くし、ユイフォン!」
「う!」
今度は。
「えっ、ちょっ、ユイフォン!?」
ふり向き。
「プーリアン、怖い」
「ち、ちょっと」
信じてしまっているのか。
「ぷりゅーっ」
そこへ。
「だから、さっさとついて来いって言ってんだしーっ!」
パカーーーン! パカーーーン!
「きゃあっ」
「あうっ」
またもの。
「白姫の暴力のほうが怖いですよーーっ!」
空しく。抗議が響いた。
Ⅳ
「ぷっ、ぷっ、ぷりゅらははくばーたんてーだん♪」
歌声が。
「あ、あの」
おそるおそる。
「いいんですか、そんなにのんきで」
「なにが、のんきだし」
ぷりゅ。心外だと。
「鼓舞してるんだし。団員の勇気を歌でふるい立たせているんだし」
「はあ」
こうやって歌って回ったりするから、噂されてしまうのでは。
「ゆうきーぷりゅぷりゅ、はくばいろ~♪」
「『白馬色』って」
白い色の勇気? それはそれで意味がわからない。
「もうすこし真剣に」
「ぷりゅ?」
(う……)
真剣に。いま自分たちは何をしているのかと。
「真剣にやってるし」
またも。心外だと。
「巡回だし」
「巡回……」
「そーだし。怪奇が子どもたちを襲わないように見回りすんだし」
ぷりゅりゅりゅりゅ……悔しそうに。
「怪奇の手がかりはいまだつかめてないんだし。アホな助手たちのせいて」
「アホじゃないです」
「アホじゃない」
そこは。
「せめて、アホはアホなりに身体張ってがんばんだし」
「だから、アホじゃ」
そのとき。
「!」
悲鳴。
「聞いたし?」
「は、はい」
確かにそのようなものが。
「今度こそ、本当に怪奇があらわれたんだし!」
「そうなんですか!?」
まさか。
「行くしーっ!」
「はいっ!」
今度は。否やはなかった。
「ここだと思うんだし」
そこは。
「本当に」
ふるえる。
「ここなんですかぁ」
尻ごみを。そんな見た目の。
築百年にもなるのではないかという古びた邸宅。隙間がないと思えるほど蔦などの植物で覆われ、それは周りを広く囲っているレンガ塀にまで達している。
「こ、怖い」
同感だ。
「こういうとこだし」
「えっ」
「怪奇がひそむのは」
そうかもしれないが。
「行くし」
「ええっ!」
本当に。
「もー、なにビビッてんだしー」
「そんなことは」
あるだけに。
「わかったし」
「え」
何を。
「テンション上げるし」
それは。
「うたって」
やっぱり。
「じゃあ、声あわせんだし」
そして。
「ぷーりゅんせー、ぷーりゅんせ~♪ こーこはどーこのぷりゅみちじゃ~♪」
「ち、ち、ちょっと」
さすがに。
「なんですか、その歌は」
「ぷりゅ?」
「上がらないですよ」
「雰囲気には合ってんだし」
「合ってますけど」
そういう問題では。
「いきはぷりゅぷりゅ、かえりもぷりゅりゅ~♪」
「『帰りもぷりゅりゅ』って何ですか」
意味が。
「帰りもぷりゅりゅなんだし。安心なんだし」
やはり意味が。それでも。
「ぷーりゅんせー、ぷーりゅんせ~♪」
「いきはぷりゅぷりゅ、かえりもぷりゅりゅ~♪」
静かに入っていくよりはと。歌声を重ねてしまうのだった。
「失礼しまーす」
一応の。
「………………」
やはりと言うべきか。返事はない。
「怪奇なんだし」
「なんでですか」
短絡的すぎる。
「ただの空き家かもしれないじゃないですか」
「ただの空き家なんてないんだし」
「どういう意味ですか」
「あるんだし」
「えっ」
それは。
「空き家には何かあるんだし」
「何かって」
あいまいすぎる。
「いま、空き家が問題になってるらしいんだし」
「いやいや」
それとこれとは。
「というわけで、問題となっている怪奇の正体を暴かないといけないんだし」
だから、そうでなく。
「あった」
そのとき。
「どうしたし、助手のユイフォン」
「う」
指を。さした先。
「あ……」
建物の空気にぴったりというか、より不気味さを引き立てる。
「井戸……ですね」
「井戸だし」
うなずく。
「やっぱりだし」
「やっぱり?」
何が。
「番町ぷりゅ屋敷だし」
「ええっ!?」
聞いたことが。
「呪いの井戸なんだし。ひごーの死をとげた幽霊の恨みの声が聞こえてくんだし」
「ど、どんな」
思わず。
「蹄鉄がいちまーい。蹄鉄がにまーい」
「いやいやいや」
なぜ、そうなる。
「ひどいご主人様を恨んで、井戸に身を投げた馬の霊なんだし」
「投げられないですよ」
馬が飛びこめるような大きさではまったくない。
「近づくと引きずりこまれてしまうんだし。デンジャラぷなんだし」
「デンジャラ……」
もう何がなんだか。
「ぷりゅーわけで、ちょっと近づいてみるし、アリス」
「ふぇっ!?」
そんな話を聞いたあとで。
「あ、危ないじゃないですか」
「デンジャラぷだし」
「じゃあ」
「だから、アリスがやるんだし」
「どういうことですか!」
さすがに。
「いいから行くしーっ」
パカーーーン!
「きゃあっ」
蹴り飛ばされ。
「はわわわわわっ」
あやうく落ちそうに。
「危ないじゃないですか!」
「デンジャラぷだし」
「白姫がデンジャラスです!」
「いいんだし?」
「えっ」
「シロヒメが」
不意に。おどろおどろしく。
「本当にデンジャラぷになっても」
「えっ、いや」
どういう。
「シロヒメが井戸に落ちるし」
「ちょっ……」
「アリスへの恨みを抱いて」
「なんでですか!」
恨まれるようなおぼえはまったくない。恨みたいような目に合わされたことは何度だってあるが。
「いいんだし? 蹄鉄数えても」
「い、いや」
だから何なのだ、それは。
「怖くないですよ」
「まー、わかるし」
ぷりゅふー。仕方ないと。
「シロヒメ、かわいいから」
「いや……」
「人気が出てしまうんだし。怪奇じゃなくなってしまうんだし」
「………………」
それはもう、何と。
「だから、アリスが落ちたほうがいいって言ってんだし」
「なんで、落ちる前提なんですか」
「落ちないんだし?」
「落ちません」
当たり前だ。
「まあ、アリス、そのままでも怪奇だけど」
「どういうことですか」
「ぷりゅーか、奇怪だけど。変だけど」
「なんてことを言うんですか」
本当に恨みたくもなってしまう。
「ぷりゅ?」
そのとき。
「もう一人の『変』はどうしたんだし」
「えっ」
「ユイフォンだし」
「あ」
確かに。いつの間にか姿が。
「って、だから、友だちのことを悪く言うのは」
「つれていかれたんだし」
「えっ」
思いがけない。
「だ、誰にですか」
「ぷりゅっふっふー」
意味ありげに。
「決まってるんだし」
「決まってるんですか!?」
どうしても。声が。
「!」
悲鳴。
「こっちだし!」
すかさず。
「あ、ま、待ってくださーーい!」
ふるえ出した膝に懸命に力をこめ。後を追って走り出した。
Ⅴ
「洞窟だし」
それは。
「洞窟ですね」
そうとしか。
荒れ果てた屋敷の裏手。高い崖に面したそこに、人も馬も楽に通れそうな穴が。深さもかなりあるようだ。
「ここから」
ごくり。唾を。
「シロヒメのするどいちょー力が聴き取ったんだし」
ぷりゅ。うなずく。
「ユイフォンのめーふくを祈ってヒヅメを合わせるし」
「って、なんでですか!」
さすがにの。
「あきらめが早すぎます!」
「じゃあ、どーすんだし」
「どうするって」
洞窟に。目を。
奥までとても見通せそうにない深い闇。進んで入りたいと思えるようなところではまったくない。
「ぷりゅったく。一人で勝手に出歩くからだし」
「子どもじゃないんですから」
紙一重なところはあるが。
「どうしましょう」
「シロヒメが聞いてんだし」
「あっ」
そうだ。
「白姫ですよ!」
「ぷりゅ?」
「白姫なら」
自慢していたではないか。
「ユイフォンのにおいをかいで、それを追跡していけば」
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「きゃあっ」
なぜかの。
「どーゆーつもりだし」
「ど、どういうって」
いいアイデアだと。
「探偵に働かせて助手が何もしないとか、なめてんじゃねーしっ!」
「きゃあっ」
いきり立たれ。
「何もしないわけでは」
「じゃー、何すんだし」
「それは」
そう言われてしまうと。
「が、がんばりますっ」
「何の答えにもなってねーしーっ!」
パカーーーン!
「きゃあっ」
結局の。
「!」
蹴り飛ばされた。そこは。
「はわわっ」
暗闇。視界がまったく。
「なっ……ななな」
あせりまくる。
そこへ。
「っ」
気配。すぐ後ろから。
(これって)
思い出す。
(蹄鉄が一枚、蹄鉄が二枚……)
恨みを残した馬の幽霊が。
(って、あれは井戸の話ですよ!)
あせっている。暗くて深いというのは一緒にしても。
「っっ……」
気配が。
じわり、じわり。
かすかに。うなりのようなものも。
(いる)
誰かが。いや、何かが。
確かに。
「……だ……」
聞きそうに。
「ぁ……か……」
張りつく。
声が。
何も言えない。
ふり向くこともできず。
このまま。
「!」
不意に。
白い手が肩越しに。
「きゃああああああーーーーっ!」
とっさに。
「う!?」
つかむ。驚きの声を耳にしつつ。
「あうーーっ」
ズダーーーーン!
勢いのまま。投げ飛ばす。
「ハァッ……ハァッ……」
投げた――
「えっ」
幽霊を?
「あっ」
闇に慣れてきた目に。
「ううう……」
「ユイフォン!」
あわてて。
「誰が、こんなひどいことを」
「ア、アリスが」
「あ」
確かに。
「って、なにベタなボケかましてんだしーっ!」
パカーーーン!
「きゃあっ」
暗闇の中。目の奥に火花が。
「なんてことをするんですかぁ~……」
「つまんないコント見せるからだし」
「コントじゃないですよぉ」
「コントじゃない」
共に。
「アリスがいじめた」
「いじめてないです」
「ひどいアリスだしー」
「だ、だから」
あわあわ。弁解を。
「ユイフォンが黙って出てきたりするせいで」
「なに、幽霊みたいに言ってんだし」
「幽霊じゃない」
「それはそうですけど」
カン違いした立場。反論も弱々しい。
「そもそも、なんでユイフォンが」
「いたら悪いんだし?」
「悪いの?」
「そういうことでは」
ひたすら劣勢だ。
「いるなんてこと、最初からわかってたんだし」
「えっ」
そうか、においが。
「言ってくれれば」
「口で言ってもわかんないから、パカーンしたんだし」
どういう理屈だ。
「結果オーライだし」
「どこが、オーライなんですか」
確かに見つかりはしたが。
「う?」
見つかる? どういうことかと。
「ユイフォン」
すこし。厳しめに。
「だめじゃないですか、勝手にいなくなったりしたら」
「うー?」
「『うー』じゃないです。子どもじゃないんですよ」
くり返し。
「子どもというか、アホなんだし」
「ア、アホじゃない」
そして。
「聞こえた」
「えっ」
何が。
と、はっと。
「それって」
「う」
うなずく。
「自分たちも聞きましたよ」
かすかに。ふるえが走る。
「ここ」
「やっぱり」
暗闇。入口付近と違い、かすかな光も射さない奥のほうを。
「行くしかないんですよね」
「う」
「ようやく探偵団らしくなってきたんだしー」
ぷりゅー。満足そうに。
「ぷっ、ぷっ、ぷりゅらははくば~♪」
「いえ、あの」
緊張感が。
「頼りは白姫なんですから」
「ぷりゅぅ?」
どういうつもりだと。
「やっぱり、シロヒメだけに働かせて」
「そんなことは」
ある。となってしまうのかもしれないが。
「暗いんですから」
「暗いし」
「自分たちでは、その」
当たり前ながら。それでも遠慮しつつ。
「何もわかりませんし」
「アホだから」
「そういうことではないですよ!」
どういう言われ方だ。
「暗いから何も見えないと言いたいんです!」
「見えない」
こちらも。
「アホだしー」
「だから」
なぜ、そうなってしまうのかと。
「仕方ないし」
ぷりゅぷりゅ。やれやれ。
「シロヒメが行ってあげるんだしー。ゆーしゅーなシロヒメがー」
「そ、そうですか」
ここで機嫌を損ねられても。
「ほーら。ついてくるし、助手たちー」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
「ついてくるし、アホたちー」
「アホじゃないです!」
「アリスだけ」
「でもないです!」
Ⅵ
進む。壁を手探りしながら。
「暗いですね」
「なに、当たり前のこと言ってんだし」
「い、いえ」
正直。何か口にしていないと不安なのだ。
暗闇なのだから。
「ユイフォンを見習うし。黙ってついてきてんだし」
「それは」
普段から口数は多くないのだが。
「まー、言いたいことはわかんだし」
ぷりゅ、と。
「ユイフォン、ろくにしゃべんないんだし。いてもいないのと変わんないんだし」
「ひ、ひどい」
さすがに抗議を。
(白姫はしゃべりすぎですけどね)
思うも。いまはそれがありがたいとも言えた。
「元気が一番ですよね」
意味なく。そんな言葉で自分を鼓舞する。
「がんばっていきましょう」
そこへ。
「ぷりゅー」
「うー」
なぜか。非難の。
「な、なんでですか」
「意味ないんだし」
「意味ない」
どきっ。見透かされた思いに。
「どういうことで」
「アリスだし」
「は、はい」
「意味ないし」
あらためて。
「アリスがいくらがんばってもどーにもなんないんだし。結果出ないんだし」
「結果出ない」
「なんて、ひどいことを言うんですか!」
しかもそろって。
「出しますよ!」
思わず。先頭に。
「う……」
真っ暗。言うまでもなく。
「や」
やっぱり。自分が先頭に立つのは。
「ほーら、早く行くしー」
(うう……)
「結果出すしー」
(結果って)
つまり、何をどうすれば。
(あっ)
思い出す。そもそも自分たちは何をしに来たのかと。
「行きましょう」
怪奇。かはわからないが。
悲鳴を聞いたのは確かなのだから。
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「きゃあっ」
そこへの。
「なんでですか!」
「なに、アリスのくせに仕切ろーとしてんだし」
「ええっ!?」
「先頭を行くのは探偵のシロヒメに決まってんだしーっ!」
「な……」
なんて気まぐれでわがままなのだ。
(けど、まあ)
行ってくれるなら、それはそれで。
「ぷりゅ」
と。
「気をつけるし」
「えっ」
何に。
「シロヒメ」
言った。
「何のにおいも追跡してないし」
「ふぇ?」
いまさら何を。
「だから、どこへ行っていいかもびみょーにわかんねんだし」
「ええぇっ!?」
いまさらそんなことを。
「ど、どうするんですか!」
「だから、探偵だけにやらせんじゃねーし! 助手も考えんだし!」
言ってすぐ。
「無理だし」
「えっ」
「アホに考えろとか、さすがに無理が」
「アホじゃないです!」
どういう言われようだ。
「考えなくていんだし」
「考えます!」
ムキに。
「考えて……」
さすがに。詰まってしまう。
「意味ないし」
またもの。
「そんなこと!」
そこへ。
「第六感だし」
「……え?」
意表を。
「だ、第六感?」
「そーだし」
ぷりゅ。
「馬はそーゆーのも優れてんだし」
「ち、ちょっと待ってください」
ついていけない。
「優れてないってゆーんだし?」
「そんなことは」
「文明に囲まれて暮らしてる人間は、そーゆー感覚がにぶくなってしまったんだし。野生に生きるシロヒメたちは、いまも普通ではわからないようなものを感じ取れるするどさがあるんだし」
「いや、白姫、野生じゃないですよ」
言いつつも。確かに、猫などが何もないところに何かを見ているような仕草をすることはあるらしい。
「考えるな、感じろだし」
(いやいや)
考えろと言っておいて。
「ぷりゅ!」
いきなりの。
「来たんだし」
「えっ」
「ぷりゅぴーん! と感じるものが」
「ええっ!?」
本当か。驚くも信じられない中。
「……ぷ……」
「!」
「ぷ……ぷぷ……ぷぷぷぷぷ」
「し、白姫」
何が。
「混線してんだし」
「混線?」
「シロヒメの中に」
とぎれとぎれの。
「何かが……入ろうと……」
「ええっ!」
それは大変なことなのでは。
「………………」
沈黙。
「だ、大丈夫で」
「サワルナ」
「!?」
いまのいななきは。
「フッフッフッフ……」
まさか。本当に。
「暗カッタ」
「……!」
「コノ暗闇の中……ワタシハ待チ続ケタ」
何を。
まさか、生け贄!? そんなような恐ろしいことを。
「イイ子ヲ」
「へっ?」
聞き間違いかと。
「いい子?」
「ソウダ」
合っていた。
「コノ馬ハ、トテモイイ子ダ」
「はあ」
何と応えていいか。
「ダカラ、ワタシノコトモ受ケ入レラレタ」
「えっ」
どういう。
「イイ子デカワイイ子デナケレバ、ワタシハ入ルコトガデキナイ」
「………………」
もう何と。
「アホデハダメダ。カラダガ受ケツケナイ」
「アホじゃないです!」
いや、これでは認めたことに。
「ワレワレハ、ウチュウバダ」
「ええっ!?」
何が何やら。
「ぷ……!」
そのとき。
「ぷぅぅぅ……」
空気が抜けるように。
「白姫……」
おそるおそる。
「ぷりゅっ」
「きゃっ」
突然。
「ぷ……」
うつろな目で。
「何があったんだし」
「えっ」
ひょっとして。
「記憶が」
「ないんだし」
うなずく。
「本当ですか」
「ぷりゅ」
ぎろっ。にらみ。
「なに、疑ってんだし」
「疑っているわけでは」
あわてて。
「どうして、そんなことが」
「ぷりゅターガイスト現象だし」
「は?」
またも聞いたことのない。
「霊体験なんだし。ついに怪奇と遭遇してしまったんだし」
「え、いや」
いまのが?
「ぷりゅりゅりゅりゅりゅりゅ……」
それでも。身体をふるわせるのを見て。
「大丈夫ですか」
「大丈夫じゃないんだし」
いやいやをするように。
「シロヒメ、もうだめなんだし」
「そんな」
大げさな。
「もちろん、アリスのように『ダメダメ』という意味のだめではないし」
「なんてことを言うんですか」
余裕にしか。
「はかない馬生(ばせい)だったんだし」
「いやいやいや」
なぜ、そういうことに。
「生きてますから。死にませんから」
「とりつかれたのに?」
それも、本当かどうか。
「異常はないんですよね」
「いじょーにいい子だし」
「いや……」
「いい子でかわいい子だし」
「………………」
やはり、取りつかれてなんていなかったのでは。
「ぷりゅ!」
と、またも。
「今度は何ですか」
「まただし」
「えっ」
「ユイフォンだしーっ」
パカーーーン!
「きゃあっ」
「またいなくなってんだし。どーゆーことだし」
「って、なんで、自分がパカーンされるんですか!」
「監督責任だし。監督不行き届きだし」
「そんな」
こっちで手いっぱいだというのに。
「けど、心配ないし。第六感で追うし」
言うなり。鼻をひくつかせる。
(それは、第六感でなく嗅覚)
思うも。さすがにこれ以上のパカーンは身がもたなかった。
Ⅶ
「深いですね」
思わず。
「ぷりゅ?」
こちらを。
「あ、いえ」
また気に障るようなことを言ったかと。
「どーゆーことだし?」
「どういうって」
そのままの。
(どこまで)
続くのか。この洞窟は。
暗くてはっきり確認はできないが、かなりの距離を歩いてきたのは間違いない。
(こんなところが)
街中にあったこと自体が驚きだ。
(本当に)
あるのか。そんなことまでも。
「亡霊だし」
どきっ。
「な、なんですか?」
「ぷりゅっふっふ」
またもの。
「亡霊の国へとつながっているんだし」
「な……」
なんてことを。
「やめてください、そんな冗談」
「知らないんだし?」
「えっ」
「死神だし」
またも。おどろおどろしい。
「何なんですか……」
声に力が。
「そんなものは」
「いるんだし」
言われる。
「そして、この洞窟の奥には秘密の巨大空洞があるんだし!」
「秘密の巨大空洞!?」
さらにとんでもない。
「死神と何の関係もないじゃ」
「あるんだし」
言い切る。
「あるんだし」
「そ……」
そんな何度も。
「ローソクが」
「は?」
それは。
「いーっぱいのローソクだし」
「はあ」
いったい何の。
「魂のローソクだし」
「た……」
魂の!?
「そこに灯る炎は、じゅみょーを表しているんだし」
「ちょちょちょっ」
寿命。つまり、どれだけ生きられるかという。
「ぷりゅっふっふー」
笑う。
「怖いんだし?」
「えっ」
「自分の寿命を知ってしまうことが」
「そ、それは」
怖いに。決まって。
「い……いいえ」
頭をふり。
「何を言ってるんですか! そんなものあるわけ」
「あるんだし」
言い切る。
「ぷりゅーかー。シロヒメ、とりつかれて寿命へっちゃったからー。代わりにアリスのを移し替えるしかないんだしー」
「なんでですか!」
どんなときでもわがままな。
「本当にそんなものが」
信じられない。
「疑うんだし?」
「う……」
正直。
「見るし」
そこに。
「!」
見間違いかと。長時間の暗闇に慣れた目にそれは現実味を欠いていて。
「……火……」
それでも。
「っ」
ゆらめく。
「はわわっ」
思わず。後ろに。
「な、なんですか」
「火だし」
それはわかって。
「魂の」
「ええっ!」
まさか。
「確かめるし?」
「!?」
「吹き消せば」
「きゃーーーーっ」
なんてことを。
「や、やめてください!」
「なんでだし」
「当たり前ですよ!」
本当にとんでもない。
「万が一、寿命がなくなっちゃったらどうするんですか!」
「万が一だから、万に九九九九は大丈夫なんだし」
どういう理屈だ。というか、その一が致命的なのだ。
「とにかく、やめてください」
言って。
「……ふぅ」
おかしなやり取りのおかげというか。すこしは落ちつけたようだ。
「………………」
あらためて。
(火……)
やはり。そこに。
「い、行きますよ」
覚悟を決め。
近づいていく。
「う」
「きゃあっ」
照らし出された。
「ユイフォンじゃないですか!」
「う?」
だから? と。
「ど、どうしてですか!」
あたふた。
「だめじゃないですか、また一人でいなくなったりしたら!」
「あった」
かかげる。手にしたローソクを。
「え、いや」
それよりいまは、勝手にいなくなったことを。
「さすが、ユイフォンだしー」
「えっ!?」
「さすがはシロヒメの助手なんだし」
「うー」
ほめられて。満更でもなく。
「いえ、あの」
そういう状況かと。
「ぷりゅ」
「う」
見られる。
「もう一人の助手は何してんだし」
「や、いえ」
責められる気配に。
「が、がんばってました」
あわてて。
「何をだし」
「えっ」
何を。
「いろいろと」
「いろいろと何もしてねーんだしーっ!」
パカーーーン!
「きゃあっ」
容赦ない。けど反論できない。
「痛いじゃないですか……」
それでも。
「やめてください、何度も何度も」
「だったら、さっさと手がかり見つけてくるし」
「えっ」
手がかり――
「ユイフォンのこれだし」
「ええっ!」
驚いて。
「手がかりなんですか、このローソクは!」
「他にどう考えられるってゆーんだし」
「どうって」
いろいろ語っていたでは。
「う?」
首を。
「あっ、ユイフォンは知らないんだし」
「ちょっ」
まさか。聞かせると。
「実は」
「ちょちょちょっ!」
あわてる。
「やめてください、白姫!」
「なんでだし」
「なんでって」
そんなこと。
「うー」
不満げに。
「ユイフォンにだけ秘密」
「い、いえ」
そういうことでは。
「う」
スッ。
「きゃーーーっ」
喉元に。
「や、やめてください、刀を突きつけるのは!」
「いじわるするから」
「いじわるじゃないです!」
むしろの。
「じゃあ」
詰め寄られる。
「教えて」
「う……」
ローソクに照らし出され。やけに迫力が。
「教えるし」
「って、白姫まで!」
こちらも同じように照らされて。
「怪談じゃないんですから!」
「怪談?」
ぴくっ。
「こ、怖いのはやだ」
「ぷりゅっふっふー」
それを聞き、ますます。
と思いきや。
「じゃあ、怖くないほうにするし」
「うー」
ほっと。
(怖くないほう?)
どういう。
「昔、ローソクを売っていた女の子がいたんだし」
(えっ)
何を。
「毎晩、街行く人に声をかけていたんだし。『ローソクを買ってください』『ローソクを買ってくれませんか』って」
「いえ、あの」
ひょっとして。
「ローソクはぜんぜん売れなかったんだし。冬の寒い日の夜。すこしでもあたたまろうとして女の子はローソクに火をつけたんだし」
もう完全に。
「そこに」
しんみり。
「火と重なるようにして、幸せだったころの家族との思い出が映し出されたんだし」
「う?」
首を。
「なんで?」
「女の子は家族をなくしてしまったんだし。一人でつらい毎日を過ごしていたんだし」
「かわいそう」
ほろり。
「かわいそうなんだし」
うなずき。
「もう一度家族に会いたい、あのころの幸せをもう一度という想いが、ローソクの火の向こうにそんな光景を見せたんだし」
「う……」
ますます。
「あ、あの」
正直。口をはさみづらい。
「ユイフォンも」
「う?」
「何か見えたりしないんだし?」
「何か」
うながされるまま。
「うー……」
じーっ。
「う!」
「見えたんですか?」
思わず。
「見えた」
目もとがうるむ。
「媽媽(マーマ)と爸爸(パーパ)」
「家族だし」
ぷりゅ。うなずく。
「師父(シーフー)も」
「ユイフォン……」
しんみり。こちらも。
「よかったですね」
「う」
「けど」
そこに。
「この幸せな光景をずっと見ていたい。そう思った瞬間、マッチの火はすっと消えてしまったんだし」
「え、いや」
いま、思いっきり元ネタそのままを。
「消えちゃうの?」
あわあわと。
「ち、ちょっと、ユイフォン」
落ちつかせようと。しかし、どう言えば。
「ローソクの炎が消えると、その人の寿命も」
「って、戻っちゃうんですか!?」
確かに、結末は似たようなことにはなるのだが。
「こ、怖い」
ふるふる。
「ほーら、消えるしー。消えるしー」
「やめてください、おどかすようなことは」
「って、アリスが騒いでたら、そのせいで消えちゃうんだしー」
「はわわっ」
あわてる。
「アリス……」
非難のまなざし。
「そ、そんなつもりでは」
「どんなつもり?」
「どんなって」
どんなつもりもないのだが。
「とにかく、落ちつきましょう」
「落ちつく?」
「はい。息を」
大きく吸って。
「ふー」
フッ。
「あ」
Ⅷ
「アリス、ひどい」
「ひどいんだし。いろんな意味で」
「や、やめてください」
言うも。
「はー」
久しぶりの。と言うと大げさだが、とにかく外の光に心がやわらぐ。
「よかったですねー」
「何もよくないんだし」
当然とも言うべき指摘。
「なんにも判明してないんだし」
「はあ」
そもそも、判明すべきもの自体がないのでは。
「悲鳴のことだって」
結局。洞窟の中を吹き抜ける風が、そう聞こえただけという。
「判明したんだし」
「判明はしましたけど」
それは確かに。
「じゃあ、もう解決ということで」
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「きゃあっ」
容赦なし。
「何も解決してねーって言ってんだし」
「そ、そんな」
どうしろと。
「う!」
「ユイフォン?」
今度は。
「何かあったし、助手?」
(ええ~……)
やはり、まだ続くのか。
「うー」
手にした。火の消えたローソクを見て。
「これ」
「アリスのじゅみょーだし」
「なんでですか」
このままパカーンされ続けたら本当にそうなるかも。
「どうしよう」
「えっ」
そんなことは。
「えーと」
しかし。
「ど、どうしましょう」
「答えになってないし!」
ぷりゅしっ! 指摘されるも。
「じゃあ、白姫は」
「そんなの決まってるし」
あっさり。
「もう一度だし」
「もう一度?」
「戻るし」
「えっ、あの」
ひょっとして。
「ちょっ、待ってください。洞窟にですか? なんでですか。出てきたばかりなのに。もう暗いところは……し、白姫ぇ~」
「ぷりゅっふっふー」
何度目かと。ローソクの火に照らされて。
「ぷりゅーわけで、会議を始めるし」
「何のですか」
当然の。
「そんなの決まってるし」
決まっているのか。
「怪奇だし」
やはり。
「まだなんですね」
「まだだし」
うなずき。
「シロヒメたち、まだ怪奇とそーぐーしてないんだし」
「いや……」
だから、遭遇するべきそれがあるのかと。
「呼ぶし」
「へ?」
呼ぶ――
「それって」
まさか。
「ぷりゅ」
うなずく。
「怪奇をだし」
「いやいやいや……」
もう、それは。
「嫌なのはわかるし。怖いから」
「あの、いえ」
そういう問題では。
「こ、怖い」
「ユイフォン……」
だから、そういう。
「呼ぶんだし」
「う……」
「来るんだし」
「う!」
「いやいやいや」
またおどかすようなことを。
「嫌なのはわかるし」
「それはもういいですから」
言って。
「大体、呼ぶなんてどうやって」
「ぷりゅっふっふー」
しまった。その気にさせてしまった。
「知りたいし?」
「し……」
知りたくない。しかし、正直に言えば、またパカーンされるのはわかりきっている。
「どうするの?」
おびえ半分。
「ローソクだし」
「う!」
手にしたそれを。
「ア、アリス」
「えっ!」
渡されそうになり。
「いいですよ、自分は!」
「呼びたくない」
「自分だって」
「ユイフォンが呼んでもいいの?」
「えっ」
「ユイフォンが」
涙目で。
「怖い目にあっても」
「いえ、あの」
そもそも、そういう意図の集まりのようなものでは。
「ひどいアリスだしー」
「ええっ」
なぜ、こちらが一方的に。
「わかりました」
思わず。
「う……」
受け取ってしまって。
しかし。
「だ、大丈夫なんですよね」
「何がだし?」
「だから」
呪われたりするようなことは。
「もちろんだし」
自信たっぷり。
「ちゃんと呼べるし」
「いえ、あの」
「心配ないし。だいじょーぶだし」
そちらのほうはまったく。
「ぷりゅーわけで、やるしー」
「し、白姫……」
こちらの話を。
「ユイフォン、点火!」
「う!」
チャキン!
「あっ」
火が。
「うー」
スッ。刀をしまう。
(火花で)
するどく抜いたときの。普段の言動で忘れそうになるが、同い年でありながら達人と呼んでいい技量の持ち主なのだ。
「なに、得意そーにしてんだし」
「う?」
(いやいや)
やれと言ったのはそちらで。
「まー、いいし。ほら、アリス」
「えっ」
何が『ほら』なのか。
「ほら」
「いえ、あの」
「やるし」
やるとは。
(えーと)
ローソクを手にして。やることと言えば。
「また洞窟に」
「もういるし」
「いえ、奥のほうに」
「もう探検はいいんだし」
いいのか。
「話すし」
「は?」
話すとは。
「誰と」
「ぷりゅぅ?」
そんなこともわからないのかという。
「!」
ぞくっ。
「ま、まさか」
ふるえるまま。
「呼び出すって」
つまり。
「亡霊的なものとお話をしろと」
「ぼーれー『的』ってなんだし」
「そのものですか!?」
悲鳴が。
「こ、怖い」
距離を。
「あっ、ユイフォン」
「近づかないで」
「そんな」
友だちなのに。
「し、白姫」
たまらず。
「話すし」
「ええっ!?」
やっぱり。
「わ……」
こうなれば。
「わかりました」
ヤケというか。
「あーあー、聞こえますかー。どうぞー」
「……何やってんだし」
あきれて。
「だ、だって」
さすがに恥ずかしく。
「話せって言うから」
「誰と話してんだし」
「だから、その」
亡霊的なものと。
「宇宙人だし?」
「ち、違いますよ」
「宇宙アリスだし?」
「何ですか、それは!」
「怖いしー、宇宙アリス」
いななき色を変え。
「ワレワレハ、ウチュウアリスダ」
「やめてください」
こちらは涙目で。
「怖い、宇宙アリス」
「ユイフォンまで」
「そーなんだし、怖いんだし」
うなずき。
「宇宙アリスはぞーしょくするんだし」
「増殖!?」
「あ、あの」
どういう話に。
「とりつくんだし」
「う!」
「いや……」
そんな馬鹿な。
「とりつかれたものは、みんなアホになってしまうんだし」
「うう!」
「………………」
「ほら、後ろに宇宙アリスが!」
「あうーっ!」
「いいかげんにしてください」
友だち同士でもひどすぎる。
「白姫が話をしろって言うから」
「そーだし」
鼻を鳴らし。
「だから、さっさとするし」
「そんな」
がんばってしようとしているではないか。
「難しいですよ」
「アホだから」
「宇宙アリス」
「もうやめてください、それは」
双方に。
「アホだから話せないんだし」
「そんな」
関係ないではないか。
(関係……)
あるのか?
「じゃあ、どうすれば」
「何とかするし」
「何とかって」
しようとして。
「話さないと始まんないんだし!」
ぷりゅぷん!
「怒られても」
途方に暮れる。
「宇宙アリスはナシだし」
「えっ」
遅ればせながら。訂正と謝罪をしてくれるのかと。
「もう話しちゃったから」
「へ?」
どういう。
「だから、新しいのするし」
新しいの?
「えー……」
言葉が。
「ないし?」
やれやれ。
「ダメなアリスだしー」
「そんなこと」
あわてるも。
「えーと……」
「できないんだし」
決めつけられる。
「使えねーしー。じゃあ、ユイフォン」
「う?」
あわあわ。
「話?」
「そーだし」
「何の?」
「決まってるし」
こちらも。ぷりゅやれ。
「百物語に決まってんだし」
きょとん。共に。
「百物語?」
「そーだし」
うなずく。
「さー、やるしー」
「ち、ちょっと、待ってください」
あせって。
「百物語って」
「知らないんだし?」
ぷりゅふー。あきれて。
「百の物語だし」
「いえ……」
それはそうだろうが。
「そういうことではなくて」
「どーゆーことだし」
「どういうって」
こちらが聞きたい。
「本当になんにも知らないんだし」
ぷりゅふー。またも。
「出るんだし」
「えっ」
出る?
「ぷりゅっふっふー」
まさか。
「怖い話をするんだし」
「……!」
やっぱり。
「話が一つ終わるたびにローソクを一本吹き消すんだし。そうやって百本目のローソクが消えたとき」
びくびくっ! 共に。
「恐ろしいものが現れると言われているんだし」
「ユイフォン、帰る」
「ち、ちょっと」
必死に。
「いまさら帰らないでください」
「だ、だって」
気持ちはわかるが。
「やめましょうよ」
「もう、ローソクに火つけちゃってんだしー」
「あっ!」
「ユイフォンがつけたんだしー」
「う!」
一緒に。顔を引きつらせ。
「アリスが悪い……」
「なんでですか!」
「ローソク持ってるから」
「ユイフォンが持たせたんじゃないですか!」
どういう責任の。
「やらないんだし?」
おどすように。
「話す前に消えちゃったら、何が起きるか」
「はわわっ」
すでにかなりの時間が。
「アリスのじゅみょーが」
「それはもういいですから!」
決してよくはないが。
「えーと」
話を。しなければ。
「けど、どっちにしろ呼んじゃうんですよね?」
「呼ぶし」
「じゃあ」
しなくても変わらないのでは。
(というか)
ローソク一本では『一物語』にしかならないような。
「アホだしー」
口にする前に。決めつけられてしまう。
「アホじゃないです」
言って。
「わ、わかりました」
とにかく話を。そんな空気に。
「これは」
うろ覚えのそれを。
「自分がまだ従騎士(エスクワイア)のころの話です」
「『まだ』っていうか、いまもそーなんだし」
「あっ、なったばかりのころの」
「ぷりゅーか、この先もずーっと変わんないんだしー。一人前になんかなれないからー」
「なんてひどいことを言うんですか」
こちらが泣かされそうになりながらも。
「自分、従騎士になったばかりで、いろいろとわからないことが多くて」
「いまも何もわかってないんだし。アホだから」
「白姫……」
話をさせてほしい。
「ある夜のことでした」
声に。いささかの真剣みを。
「用を言いつけられた自分は、一人で家の外に出ました。その日は妙に静かで、虫の声もなぜかまったく聞こえませんでした」
思い出しながら。徐々にそのときの気持ちも。
「まだ家に慣れていなくて、周りに何があるかもうろ覚えでした。それでも、暗い中を一人で進んでいったんです。……そう」
手にした。ローソクをわずかにかかげ。
「こんな暗闇の中を」
びくっ。ふるえが伝わる。
「しばらく経ってから、自分は『おや?』と思いました。なんだかいつもと様子が違う。おかしいなって」
沈黙。茶々を入れられるような気配はない。
それを確かめて。
「最初は気のせいだなって思いました。慣れてないから不安に思うだけなんだろうって。けど」
そこで。そのときの恐怖を思い出し。
「感じたんです」
びくぅっ。一際大きな。
「どこからか、その、こちらを見るような視線を。おかしいなって気がしました。だって、知り合いだったら、声もかけてこないなんて考えられません。まあ、来たばかりでほとんど知り合いもいなかったんですけど」
力なく。笑う。
けど、それがいっそう。
「自分はおそるおそる『誰ですか』って聞いてみたんです。どこにいるかわかりませんから、はっきりとは無理でしたけど。返事は……どこからもありませんでした」
「………………」
「それでも感じるんです」
「っっ……」
「『誰ですか。どこにいるんですか』――自分はもう一度聞きました。答えはありません。だんだん自分は怖くなってきました。どうして、何も言ってくれないんだろう。それとも、やっぱり誰もいないのかも。けど、感じるんです! いるって。誰かがいるって! 気づくと月も雲に隠れて辺りは本当に真っ暗で。自分がどこにいるのかもわからなくなって。暗闇の中、たった一人で。どこへ行ったらいいかもわからなくて。それでも手探りしながら進もうとしたそのとき」
「……!」
「手が。何かにさわったんです」
「何かって」
「わかりません。そして、目の前を。ふっと。何かが通り過ぎた気が」
「あ、あう……」
「悲鳴をあげそうになって。けど」
「けど?」
「いないんです」
「……っ!」
「いた。そう思ったのに気づくともうそこに……いないんです」
「あうう……」
「自分はあわてて周りを見ました。けど、やっぱりそこにあるのは暗闇だけで。何もわからなくて。自分が見たと思ったのも本当かどうかわからなくなって」
「……っ……っっ……」
「そのとき!」
「!?」
「はっきり……感じました」
「何を……」
「後ろに」
「!」
「ふり返った……その目の前に」
「ぷりゅーーーーっ!!!」
パカーーーン!
「きゃあっ」
蹴り飛ばされた。
「う……」
あぜん。
「……白姫?」
「ぷりゅー」
鼻息。猛々しく。
「このタイミングだと思ったんだし」
「う?」
「パカーンするには」
どういう。
「白姫ぇ!」
顔にヒヅメ痕で。
「やめてください、同じことをするのは!」
「同じ?」
「そーだし」
うなずき。
「あのときも不審なアリスをやっつけたんだし」
「不審じゃないです!」
「うー……」
つまり。
「白姫」
だったのか。感じた気配というのは。
「なんで?」
「とーぜんだし」
鼻を鳴らし。
「シロヒメ、賢いんだし」
「う」
「その賢さをいいことに使ってください……」
「賢くてかわいいんだし。かわいくて賢いんだし」
「う……」
それはもういいから。
「なんで?」
「不審だったからだし」
それも。
「だから、その、ただ慣れていなかっただけで」
あたふたと。言う間に。
「あっ」
ローソクが。
「消える」
火が。
「来るしー、来るしー」
「けど、これじゃ、やっぱり『一物語』のような」
「いいんだし」
「いいんですか?」
「シロヒメがいるから」
「どういうことですか!?」
「かわいいから」
「いや、意味が」
「シロヒメだから」
「それが一体」
「アホだしー」
「アホじゃないです」
「アホだし。シロヒメは漢字でなんて書くし?」
「それは……『白』に『姫』で」
「そーだし。『白』に『姫』だし」
「それが」
「『白』に『一』を足してみるし」
「えっ」
頭で思い浮かべ。
「あっ」
漢字の『白』の上に『一』
それは『百』。
「だから、百物語なんだし」
「いやいやいや」
どういう。
「というか、語ったのはこっちで」
フッ。
消えた。
Ⅸ
ぷーりゅんせー、ぷーりゅんせ~♪
(……これは)
こーこはどーこのぷりゅみちじゃ~♪
(『ぷりゅ道』って)
いきはぷりゅぷりゅ、かえりもぷりゅりゅ~♪
(帰り……)
ぷーりゅんせー、ぷーりゅんせ~♪
(自分たちはいま……)
こーこはどーこのぷりゅみちじゃ~♪
終わらない。それを。
(……や……)
聞かされ続ける。
「やめ……」
たまらず。
「やめ……て……」
「ぷりゅーーーーっ!!!」
パカーーーン!
「きゃあっ」
蹴り飛ばされた。
「……あっ」
意識が。一気に。
「白姫じゃないですか!」
「シロヒメだし」
ぷりゅふんっ。何をと。
「他に誰がこんなあざやかなパカーンできるんだし」
「しないでください、あざやかなパカーンを」
頼むから。
「なに、シロヒメの美声にケチつけてんだし」
「つけてないですよ」
「つけたんだし。『やめろ』って」
「いえ、あの」
そういうつもりでは。
「あれ?」
そこで。
「自分」
どういう。状況で。
「わかってないんだしー」
ぷりゅやれ。
「死んだんだし」
「えっ」
一瞬。何を。
「死……」
それは。とんでもなく。
「………………」
つながらない。
これまでのこととまったく。
「じ」
かろうじて。
「冗談はやめてください」
「これが冗談を言う顔に見えるんだし?」
顔。
「あっ」
そこに。
「し、白姫?」
顔。
(でも)
違う。自分の知っている。
そもそも。
「顔……」
「顔だし」
何を言っているんだという。
「かわいいし?」
「え……」
冗談を。
いや、冗談でなく。
「かわいい……です」
それは。
「ぷりゅふーん」
特に。喜ぶでもなく。
「まー、とーぜんだし。元がいいから」
元。
「じ、じゃあ」
いまさらながら。本当にいまさらながらの。
「白姫……」
なのかと。
「ぷりゅ」
口にして。うなずき。
「不本意だけど」
不本意。
馬であることを誇りに思う身には。
「はぁーあ」
ため息。
「なんで、こんなことになっちゃったんだしー」
「………………」
言われても。
「アリスのせいだし!」
「ええっ!?」
指をさされ。
(指……)
それも。
「百物語なんてするからだし!」
「え……」
しろと言ったのは、そっちで。
「『シロ』なんだし」
「ふぇ?」
何を。
「百物語から一物語引くし」
「えっ」
それは。
「だ、だから」
結果として『百物語』ということに。
「引くんだし!」
それでも。
「『白物語』だし」
「ええっ!?」
なんだ、それは。
「シロヒメが物語になってしまったんだし。組みこまれてしまったんだし」
組みこまれた?
「探偵が実は犯人だった」
「……!」
「よくある話なんだし」
つまり。いま目の前にいるのは。
「馬人間」
その。言葉を。
「ぷりゅ」
うなずく。
馬とも人ともとれない鳴き声(?)で。
「………………」
言葉が。
「し……」
それでも。
「白姫」
その名を。
「なんですよね」
「それ以外の何に見えるし」
「………………」
言葉が。
「番町ぷりゅ屋敷だし」
「えっ」
唐突な。
「一枚足りない」
口に。
「それはアリスに投げちゃったからなんだし」
意味が。それでも。
「蹄鉄は」
いまは。
もっとも『投げる』という使い方はこの姿のほうが。
「白物語」
「っ」
一足りない。
「さよならだし」
「えっ」
またも。唐突の。
「な、なんで」
「アリスのせいだし」
再び。しかし、そこには。
もっと深い。
「いられないんだし」
言って。
「一緒には」
背を。
「待っ――」
「死んだんだし!」
伸ばしかけた手。はねつけるように。
「馬のシロヒメは」
背を向けたまま。
「………………」
ふるえる。
「白姫……」
そんな。こんなことになるなんて。
「消えるしか」
怪奇は。
「ないんだし」
歌が。
「ぷーりゅあーい、ぷーりゅーあーい♪ なーぞーをーおーえ~♪」
どこか。さびしげに。
「ぷーりゅあーい、ぷーりゅーあーい♪ かいきーをあーばーけ~♪」
ぽつり。
「『プーリューアイ』って」
口に。
「何ですか」
消えた。
Ⅹ
「怖かったしー」
「………………」
あぜんと。するしか。
「怖かったしー、恐ろしかったしー」
「い……いや……」
ようやく。
「なんだったんですか」
「怪奇だし」
確かに。奇怪な体験ではあった。
「えーと」
結局。
「どこからどこまでが」
「耳からしっぽまで」
どういうことだ。
「これ以上なく、かわいくて愛らしいシロヒメだしっ」
ぷりゅりーん。得意げに。
「………………」
耳からしっぽまで。
それは、自分が見た『白姫』も同じで。
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「きゃあっ」
なぜ。言う間もあらば。
「目ぇ覚めたし」
「えぇ~……?」
「その痛みは」
しっかり。
「本物なんだし」
「っ……」
はっと。
(そうだ)
本物。そう。
感じさせる。
「ぷりゅ」
いななきも。どこかいつもより誇らしい。
「……けど」
ぽつり。
「パカーンするのは、やっぱりやめてもらいたいと」
「問題ないし」
「ありますよ。痛いですよ」
「問題ないんだし」
言い切る。
「アロマ効果があるから」
「は?」
「シロヒメには」
ぷりゅーん。またも得意満面で。
「周りのみんなをなごやかにする効果があるんだしー」
「は、はあ」
何を。
「アリスは逆アロマだし」
「は?」
「周りのみんなを不快にさせるんだし。ひたすらムカつかせるんだし」
「そんなことないです!」
なんてことを。
(けど)
やはり。元に戻ったのだと。
(う……)
いや、あちらはあちらで、やはりひどいことを言われたような。
「でも、とにかく!」
自分にも。言い聞かせるよう。
「これからも一緒で」
「思えないんだし」
「えっ」
まだ何か。
「あれが最後の馬人間だったとは」
「思えない」
「ユイフォンまで」
不吉(?)なことを。
「本当に終わったと思ってんだし?」
「えっ」
どういう。
「まだ探偵を」
ぷりゅぷりゅぷりゅ。首を。
「なら、怪奇」
ぷりゅぷりゅぷりゅ。またも。
「じゃあ」
「シロヒメ……」
バッ! 何かが広がり、視界を覆い隠す。
「ああっ!」
そこに。
「ぷりゅっふっふー」
それは。いかにもな。
「怪盗だし」
「怪盗!?」
「探偵と言ったら怪盗がつきものなんだし」
それは、そういうものもあるかもしれないが。
「怪盗プリュセーヌ・シロヒメだし!」
「プリュセーヌ・シロヒメ!?」
意味が。
「探偵と思わせつつ、実は怪奇で、その正体は怪盗だったんだし」
「どれだけ設定入ってるんですか!」
無茶苦茶だ。
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「きゃあっ」
唐突の。
「なんでパカーンなんですか!」
「予告ヒヅメだし」
「予告ヒヅメ!?」
「ぷりゅっはっはーっ! 楽しみにしていたまえーっ!」
パカラッ、パカラッ!
「あっ、し、白姫!? 楽しみに? 何を予告したんですか! ただパカーンしただけじゃないですかーっ!」
空しく。響く声を背に。
「ぷりゅっはっはーーーっ!」
駆け去っていく。
ヒヅメ音高らかに。
ぷりゅらは白馬探偵団!? なんだしっ🔎