落ちた絨毯
見えないものは必ずある。それを切るのはむずかしい。
連絡先を消しても、生まれ育った街を出ても、消えることのない痛み。
子どものときから私は誰からも優先されなかった。大好きなママにも、かっこいいお兄ちゃんにも、家を出て行ったパパからも、私は愛をもらえなかった。
最初の頃は痛くて寂しくて日が沈んでも涙が出たけど、今は、別に。
諦めた。
見ないようにした。感じないようにした。
繋がりがほしかった。手当たり次第に人と絡んだ。
その誰からも、私が優先されることはなかった。気づいていた。
私が使う言葉に何の重みもないことを、みんなが気づかないわけがなかった。今になってわかる、人って何も考えてないようで、深く感じて、考えていた。
その時限りの関係なんて、何の価値もない。
だから、眞理が必要だった。
一目でわかった。
あの子は自分以外の人間を見下していた。愛想をふりまけばそれでいいんでしょ、と高飛車な態度を隠せていなかった。
一方であの子は人に対して重かった。
私とは正反対。
誰もいない、誰も気にしなくていい場所で、あの子はよく本を読んでいた。
本に没頭しているときのあの子は、死んでいるみたいに穏やかな顔をしていた。
私はその顔に一目惚れした。
眞理は、私にとって特別な人間だった。
その特別を永遠に自分のものにしたくて私は生き方を間違えた。
「何も、ないけど」
眞理の、気持ち悪い愛想笑い。そして拒絶。
探していたはずなのに。
あの子の重い存在に、私は成れなかった。
やめて。
穴のあいた心を壊さないで。
痛いよ。私を殺さないで!どうか。
……あの子がいない場所に行こう。
絶対に、会わない場所に。
落ちた絨毯