沼の水面
12月9日。
嫌い。
嫌いな子の誕生日。
私の誕生日の一日後。
あの子の家は貧しくて誕生日にすらあの子の親はいなかった。毎日働いていたせいであの子はいつも一人だった。
そして私を子分のように扱った。
別にどうでもよかった。
あの子を私は見下していた。形だけ子分をつくって心の穴を満たしている。そんな虚しい心しか持てないあの子のことを下に見ていた。
「絶対一緒にいようね!」「あたしは眞理ちゃんのことが一番好き!」「二人だけの秘密だからね」
……
あーあ、馬鹿じゃないの。
あの子は可哀想だ。ため息が出るほど可哀想だ。
絶対、とか一番とか。二人だけだとか。
そんな安い言葉でしか人を縛れないなんて。
可哀想すぎて笑えてくる。
それにしても私は何故、こんなに涙が出ているんだろう。
あの子はすでにこの街から去った。
自分の親兄弟にすら行き先を告げずに。
一人ぼっちで。
可哀想な生き方。心の穴を埋められないまま、あの子は。
あーあ。
きっと何処に行ったってあの子の穴は埋められない。家族を信じられず、友人もおらず、頼れる人もいない。孤立することを余儀なくされたあの子の生き方で、何処へ行こうとあの子が満たされることはないでしょう?
沼の水面