zoku勇者 ドラクエⅨ編 5
騒がしい冒険・エンドレス
ジャミル達も皆と別れを告げウォルロ村を離れる。やがて村も遠ざかり、
大分見えなくなって来た処でサンディが妖精型に姿を変えて出て来た。
「ねえ、ずっと聞きたかったんだけどさ……」
「何だよ……」
サンディはジャミル……、ではなく、連れているモンの方を
じっと見ている。
「アンタ何っ、その座布団っ!まさかこれからもそれ連れて歩くワケ!?
その異様な物体をさあ!チョ~信じらんネ!」
「モン、……モン、この黒い芋虫、うるさくて嫌モン……」
「ちょっとっ!?誰が芋虫だっての!冗談じゃないっつーの!
ねえ、ジャミル、今すぐ捨てて来なさいよっ!!ねえねえねえっ!!
もし食われたらどーしてくれんのぉ!?」
「……シャアーーっ!!」
「ちょ、すげーナマイキなんですケドっ!アタシに立てつくワケっ!?
このデブ座布団っ!」
モンはサンディに大口を開け、サンディを威嚇する。しかし、
この我儘コギャルガングロにはジャミルも相当疲れ気味なので
威嚇するモンの気持ちも分かるので無理もなかった。
「モンは俺のダチでパートナーだよ、これからも連れて歩くさ、
第一オメーよりも知り合ったのが早かったんだぞ、もしも
気に食わねえのなら俺はもうお前と一緒に行動しねえからな……」
「ちょ、ジャミルの癖にナマイキっ……、仕方ない……、いいわよ、
我慢してやるわよっ!ふんっ!べーっ!あったまくる!」
「何だそのジャミルの癖にってのはよっ!……おいっ!」
サンディは不貞腐れ、再び姿を消す。何か癪に触ったり、立場が
悪くなるとすぐにこうである。
「モン、ごめんモン……、モンがモンスターだから……、
モン……」
「気にしなくていいっての、モンはモンだろ?さ、行くぞ!
目指すは峠の道だ!」
「モン!」
ジャミルはしょげるモンを励まし、再び歩き出す。目的は
天の箱舟がある峠の道である。
「峠の道、着いたよ、よしよし、アタシの天の箱舟ちゃん、
お代わりないネ?」
「わあ、金の列車に入れるモン?」
「ちょ、アンタにまで見えてんの!?こいつなんかやっぱ
おっかしー!?狂ってんじゃネ!?」
「シャアーーっ!」
「いいからっ!早く行けっての!」
ジャミルはサンディを先に箱舟内へと押し込めた。モンスターの
モンに箱舟が見えたりするのも、やはり口に入ったと言う黄金の
果実の欠片の所為かも知れなかった……。
「ふ~ん、中は至って普通の列車だなあ~……」
「そうなのよ、地味でさあ、アタシとしてはもっとこう、
可愛くお洒落にコーディネイトしたいのよネエ~!こう、
ゴールドの中にピンクのラインストーンを鏤めてさあ、
アタシ色に染めたいワケよ」
「……」
「ちょ、何よ、分ったわよ!早く運転しろって言いたいんでしょ!
分ったわよっ!ええ、やってやりマスよ!ぶっちゃけアタシも
天使界がどうなったか知りたいっぽいしネ!それじゃいっくよー!
……す す す スゥイッチ……」
「……モンッ!!」
「ブッ!」
「……ぎゃっ!!」
モンが後ろからサンディに頭突き。押されたサンディは
頭ごと勢いよく運転席の稼働スイッチにぶつかり体当たりした。
後ろで見ていたジャミルはちょっと吹く。
「いったああ~、何すんのヨっ!この馬鹿座布団っ!あああ~、
よくもやったネっ!!」
「♪モモモモ~ン!」
モンはその場をふよふよ飛びながら逃げ回る。モンのお蔭で
コギャルの応対に疲れていたジャミルは少し気分がすっきり
したのだった。
「それにしても……、何故動かヌ、ウ~ヌ……、アタシ的には
天使を乗せれば動き出すって思ったんだけド……、あ、分った!」
「な、今度は何だよ!」
サンディは手をポンと打つとジャミルの方を見る。まさか今度は
大体アンタがモンを連れてるから箱舟が動かねーんじゃネ!……とか、
滅茶苦茶言い出すんじゃねえだろうなと警戒してみる。
「アンタあの時、星のオーラが見えなかったでしょ?それって
やばくネ?大体さあ、天使の癖に輪っかも翼も失うとかありえなくネ?
箱舟が動かないのそう、全部アンタの所為っしょ!」
モンの所為にはならなかったが、箱舟が動かないのは結局は
自分の所為らしい。ジャミルは段々機嫌が悪くなり、頬を
膨らませて不貞腐れる……。
「あ、何、その顔、怒ってんの?やだ、膨れてる、おモチみてー!
マジ超うけるんですけド!?」
ジャミルはモンにサンディに噛み付くのを許そうかと思ったが……。
「とか言ってる場合じゃないか、あんまりヒマこいてると
アタシも神様におこられるっぽいしネ、神様……、あーーっ!
そうよ、神様よっ!こんな大変な事になってんのにどうして
誰も助けてくれないの……?おかしいんですケド……、
もしかして誰も見つけられない???」
「……あいつ、等々発狂しだしたか……」
「モン~?」
「……と、言うワケで、ジャミル、アタシらも道が通じたって言う
セントシュタインへ向かうヨ!」
「!!ちょ、ちょっと待て、何で急にんな強引に……」
「い~っぱい人助けをして星のオーラを出せば、アタシ的に神様に
見つけて貰えるとおもうのヨネ!」
……つい数時間前、リッカと別れを交わしたばかりで……、
確かに……。セントシュタインに来た時は是非宿屋に
寄ってねとリッカには言われているが、一応故郷に帰ると
言ってあるので、再会がちょっとあまりに早すぎると
思ったのである……。
「あ、なあに、そのネリワサビ大量に食べた様な顔!マジ、
チョーうけるんですけど!アンタってマジモンでおモロ~!
さー、方針も決まった事だし、いっくよーーっ!」
「おい、モン……、噛み付くんは止めといた方がいいけど、
屁は思い切りくせーのあいつに噛まして構えわねえからな……」
「♪モンーーっ!」
漸くセントシュタインへと足を運んだジャミル。流石、
城が有るだけあって町も城下町でかなり広く人も多い。
取りあえず、装備品を見るか、それとも宿屋に行ってみるか……。
ジャミルは考える。
「……」
(何?アンタ、宿屋に顔見せに行くの照れてんの?プ、
顔に似合わネー事!)
「う……、うるせーっ!この糞ガングロっ!」
発光体のサンディがわざわざジャミルの耳元でジャミルを
構うのであった。
「ねえ、お兄ちゃん、その飛んでるぬいぐるみどこで買ったのっ!?」
「え?あ、ああ、これか?……非売品なんだよ、わりィな……」
「そうモンみたいです、すいません……」
「……こ、こらっ!へへ……」
「なーんだっ!売ってないんだあ!」
近づいてきた子供、モンに興味があるらしくぬいぐるみだと
思っている。町中でモンを連れ歩いても、皆、同じくぬいぐるみ
だと思っている為、大した混乱にはならず。優しい世界である……。
「やっぱり先に宿屋に行くか、しゃーねえ……」
そう言うワケでまずはリッカに顔を見せに宿屋へと向かう。
実はこれから彼女が経営する宿は一体どんな感じなのか、
興味があった。
「ちわ……」
ジャミルがこっそりと中を覘くと……、リッカとルイーダ、
それと宿の従業員なのか、他に何人かの姿も見えた。どうやら
まだリッカも此処に着いたばかりらしい。
「リッカ、そんなに緊張する事はないわ、あなたには
これから此処で頑張って貰わなくちゃならないんだから、
もっと大きく構えなさい……」
「はい、……でも、今更ですけど、私みたいな小娘が
突然現れて、いきなり宿屋を経営するなんて……、
誰も納得してくれないんじゃないかと……」
「そうね、最初は誰でも不安になるものよ、でも、私は
人の才能を見抜く眼力を信じてる、心配いらないわ……」
「は、はい……」
「さて、それじゃ、はいはい、皆さんご注目ー!私達の
希望の星を連れて来たわよー!」
ルイーダはパンパン手を叩き先に宿屋に集まっている
仲間達にリッカを紹介する。従業員の仲間達は一斉に
リッカの方に視線を向ける。
(……ふ~ん、何か面白そうだね、ねーねー、少しみていこーよ、
アンタと知り合いなんだしさ)
「ああ、分かってるけどさ……」
「紹介するわ、彼女がウォルロから来たリッカさんよ!」
「あの、初めまして、リッカと申します、今日から
此処で皆さんと……」
「ちょっとルイーダ!アンタ何考えてんのよ!この宿屋
潰す気なの!?こんな小さな子が経営なんて無理に
決まってるじゃない!只でさえもう潰れそうなのよ!
下らないバクチはいい加減にして!」
突然、茶髪で後ろ髪に青いリボンを着けた女性がしゃしゃり
出て来た。……彼女はリッカを上辺だけで判断しており、
あまり快く思っていないらしかった。
「まあ、落ち着きなさいよ、レナ、私が危険を侵してまで
わざわざウォルロに赴いて普通の女の子をわざわざスカウト
して連れてくると思う?こう見えてもリッカさんは凄い才能の
持ち主なのよ、きっとこの宿屋の救世主となるわ!」
「あんた前もそんな事言って……、私に金庫番の才能が
有るとか言ったわね!自信満々に救世主が来るからって
言ってたから期待してたのに、それがこんな小娘じゃ……、
期待外れもいい処だわよ!」
レナと言う女性、どうやらこの宿屋で金庫番をしている
らしいが。先輩枠なのは分るが、新参者のリッカが
気に入らないらしく悪態をつく。黙って後ろで見ていた
ジャミルはチッと舌打ちをした。
(うわ、何か最悪じゃネ?ちょー性格悪いんですケド!?)
「……シャアーーっ!!」
「オメーが言うなっ、……コラ、モンも威嚇しちゃ駄目だっての!」
自分を棚に上げる毒舌サンディ、モンまで怒って口を開けようと
するが、ジャミルが慌てて制す。しかし、リッカの友人として
こりゃ一言俺も何か言ってやんねーと気が収まんねえなあと、
ジャミルが考えていた矢先……。リッカは毅然とした態度で
レナの前に出る。
「待って下さい!私、一生懸命頑張ります!宿屋の事は亡くなった
父から教わっています!」
「……ふ~ん、あなたのお父さんも宿屋人だったの?
父親の夢を娘が引き継ごうってわけね、その心意気だけは
立派だけど、……宿屋を経営するって事がどれくらい大変な
事か分かってるの?下手をすればあなたのお父さんの名誉だって
潰す事になりかねないわ、まあ、あなたのお父さんがどれくらいの
立場の人だったか知らないけどね……」
「……」
「よくぞ聞いてくれたわね、さ、リッカ、今こそあれを出す時よ!」
「……?あっ、はいっ!!あれですねっ!!」
レナに押され、少し俯きがちだったリッカ。ルイーダに言われ、
ある事を思い出し心に勇気を振り絞った。
(お父さん……、力を貸して、どうか!)
リッカは宿王のトロフィーを取り出した!!
「!!ま、まさか……、その黄金に輝くトロフィーはっ!?」
「ええ、そうよ、これこそが正にセントシュタイン王から送られた
記念の宿王の証、……これこそが宿王の実力と彼女がその血を
引き継ぐまごうことなき証よっ!!」
「で、伝説の……、や、宿王の娘っ!!……ははあーーっ!!」
レナも、その場にいた従業員も……、宿王のトロフィーを
目の前にした途端、態度を一変させ、全員が膝まづき、
リッカの前にひれ伏すのであった……。
「あ、あの……、皆さん……、そんな、やめてください、
恥ずかしいです……」
「モモモモオーンっ!!」
「……おい、オメーまで真似してやらなくていいっての、
そんな短足で正座なんか出来ねえんだからよ……、
ひっくり返っちまうよ」
「モン、足長いんだモン!……モシャアアーっ!」
「はあ、それにしても、宿王の効力ってマジですげえんだなあ……」
「……あっ、ジャミルっ!それにモンちゃんも!!
もう来てくれたんだ!!」
「よう……、久しぶり……」
リッカは後ろの方で事態を見守っていたジャミルの姿に
漸く気づき、急いで駆け寄ると再会を喜びあったのであった。
「でも、早速来てくれたのに……、私達も今此処に
着いたばかりで……、何のお持て成しの準備もして
ないの……、ごめんなさい……」
「ん?いいのさ、今日は別に泊まりに来た訳じゃねえんだ、
ちょっくら様子を見に来てみたんだよ」
「そうね、心配だけれど、宿屋の事は自分には何も
出来なくて歯がゆい、……そんな心境じゃないかしら?」
「まあな……」
ルイーダに言われ、ジャミルは顔を赤くしてぽりぽり
頭を掻いた。
「でも、そんなあなたでも、自分にもリッカの為に出来る事が
あると言ったら……、どうする?」
「?」
「ルイーダさん、一体何の話ですか……?」
「私が見た処、ジャミルはすれ違う多くの人を引き寄せる
力があるわ、あなたが呼び込みに立ってくれたら、きっと
この宿屋も商売繁盛間違いなしだと思うの」
「俺がかい……?」
「ちょ、そんな、ルイーダさん……、宿屋と何の関係もない
ジャミルにそんな事頼めないよ……」
「この人の為に何かしてあげたい、そう思わせるのも
才能の一つよ、もしもジャミルが暇な時にだけ、
自分がやりたいと思った時にだけ動いて貰えれば……、
それでいいんじゃないかしら?」
「うん、ま、俺でよけりゃ……、力になるよ、改めてさ……」
「ありがとう、ジャミル……、私もジャミルには人を引き付ける
何かがあると思ってたんだ……、じゃあ……、お願いしちゃって
いいかな……?これからも宜しくね、ジャミル!」
ジャミルとリッカはお互いに笑いあうと、握手を交わす。
宿屋の従業員達も漸くリッカの才能を認めてくれ、彼女の
明日はこれから始まるのである。
さて、万を満たしてリッカの宿屋も準備が終わり、無事開店。と、
同時に宿屋には冒険者を登録し、仲間として連れて行ける、
ルイーダの酒場も同時開店。
「いらっしゃいませ、ジャミル!セントシュタインにお寄りの際には
リッカの宿屋に是非泊って行ってね!どうか今後ともご贔屓に!」
「へえ、流石……、もう仕事っぷりが板についてんなあ、
リッカの奴!」
「かまぼこ、かまぼこモン!」
「いや、そうじゃなくてよ……、ま、まあいいや……」
「モン?」
「ふふ、ねえ、あなたもこれから冒険に出たりするのかしら?
そんな時は是非、この酒場も利用して頂戴、色んなお仲間を
お供に連れて行けるわよ、一人では大変でしょう?ね」
「ああ、助かるよ、で、今はどんな奴が来てくれてるんだい?」
「ええ、名簿をどうぞ、取りあえずこんな処ね……」
ジャミルはルイーダが貸してくれた名簿票に目を通してみる……が。
「えーと、戦士クソマキ、……僧侶マタンキ……、おい、
真面目に作れよ、書いてる奴……、毎度毎度……、真面な奴
いないのかよ……」
「あら?パーティ希望のお仲間ならもう到着してるみたいだけど、
あなたのお知り合いって言ってたわよ」
「……なんですと……?」
「ジャミルーっ!こんにちはー!」
「……お、おおっ!?」
「はうあー、また引っ張り出されちゃったよお……」
「やあ、ジャミル……」
酒場のドアから出て来たのは、このシリーズでは毎度お馴染の
メンバー、アイシャ、ダウド、アルベルト……、の3人。
「おーっ、やっとお前らも到着か!しかし、今回は此処まで
異様に長かったなあー!」
「うん、これで私達もこの世界でやっと一緒に行動出来るね、
また宜しくね、ジャミル!」
「まあ、仕方ないよね、オイラ達、癖れ縁ですもの~……」
「そうだね、僕もまた、久しぶりにスリッパを磨いておくから……、
……うふふ、うふふ、うふ……」
「やめろよっ!最後の奴っ!たくっ!ま、まあいいや、とにかくこれで
いつものメンツも揃ったと、よしっ!」
「いつものパンツが揃ったモン?」
「……お前もやかましいわ!ったく、何か一辺にうるさく
なったなあ~……」
「わあ可愛い!ね、あなた、お名前なんて言うの?」
「モンですモン、おろしくー!」
「モンちゃんね、私はアイシャです、此方こそ宜しくね!うふふ!」
「モモモモンー!」
「ホント、賑やか……、ジャミルのお友達なんだ……、初めまして、
ウォルロ村ではとってもお世話になりました、リッカです、これから
皆も宜しくね!」
「宜しくー!」
3人も初顔合わせで声を揃えてリッカに挨拶。その場は本当に
賑やかになる。
(ちょ、何……、このアタシを差し置いて、何ギャーギャー
同窓会やってんのヨ!幾ら今は此処にアタシが出られない
からって……、いいわよ、後で見て驚けサンディちゃん
なんだからネ!……にしても、こいつらバカスギ!じゃネ?)
「はいはい、じゃあ、メンバーも無事揃った処で、あなた達も
まずは職業を決めて頂戴ね、じゃないと冒険に出られないから……」
「そうですね、まずは最初の職業を決めないと……、出だしが
肝心ですね」
「分ってると思うけど、今回はチート無しだからな、アル……」
「……分ってるよ……」
……3での最初から賢者だったチート君は静かに頷いた。
「私はまた魔法使いでいいわ!」
「だな、アイシャは魔法使いっと、オーケー、……と、ダウド、
お前は僧侶……」
「ちょ、何でオイラ僧侶なのさあ!盗賊がいいよお!」
「あのな……、これの前のプレイで書いてる奴が最初に回復役
作らなかったお蔭で、俺らも痛い目に遭ってんだよ……、回復薬は
いないと駄目っ!お黙りっ、問答無用っ!」
……ヘタレ、問答無用で僧侶に決定す。
「何でこうなるのさああーーっ!ジャミルのアホーーっ!!」
「……後はと、俺の他にも打撃担当もいねえと厳しいんだよな……、
つー事で、アル、最初は戦士で頑張ってくれや……」
「うん、何とか頑張ってみるよ……、はあ……」
という事で、最初の職業も無事決まる……。
ジャミル :旅芸人
アルベルト:戦士
ダウド:僧侶
アイシャ:魔法使い
「……何だかんだ言ってジャミルが一番変だよおーっ!な、何っ、
しかも、火吹き芸の特技って……、ぎゃはははっ!何覚えてんのさあ!」
「うるせーっ!俺だって好きで習得した訳じゃねえやいっ!
……顔貸せこの野郎!火ィ吹いてやるからよっ!!」
「もうーっ、やめなさいったら!処で、私達の服装……、私も、
魔法使いって言っても、3みたいなスタイルじゃないのね……、
これじゃまるっきりパジャマよ……」
アイシャが項垂れる……。確かに、ジャミル以外の3人の
初期装備は布の服が表示され、しかも物凄く地味であった……。
「でも、やっぱりジャミルの格好も相当変……、まるでチンドン……
あだああーーっ!!」
「お前もうるさいーーっ!お黙りーーっ!!」
「モンモンモオオオーーンっ!!」
その場では、ジャミルとダウドのプロレスが始まってしまい、
一時騒然……。この現場を初めて目撃するリッカはびっくりして
開いた口が塞がらず……。
「あの、ごめんね……、私達、いつもこうなの……」
「えっ?うん……、でも、ジャミルがあんなに暴走するなんて凄い、
凄いけど、何だか楽しいね!」
「あはは、そう言って貰えると嬉しいかな……」
「うん、仲のいいお友達といると凄く元気が出るんだね!」
リッカとアイシャ、女の子同士で笑い会った。しかし、此処に来て
漸くジャミルもアホの本性丸出しをリッカに見せる羽目となる。
リッカは何とか喜んでいるものの……。
「やれやれ……、コホン……、君達、いい加減にしないと……」
「はい……」
アルベルトの一言でバカ2人、押し黙って漸く静かになった。
「まあ、早く良い装備品を買って貰えると有難いけどね、
ね、アイシャ……」
「うん、仕方ないわよね、暫くは布の服で我慢しなくちゃね」
「へえへえ、まずは装備品の調達か、取りあえずLV上げでも
してくるかねっと!」
「行ってらっしゃい、宿屋はいつでもあけておくからね!
疲れたら活用してね!」
リッカに見送られ、4人組は動き出す。いよいよこの世界での
新しい冒険の始まりである。
やっと仲間も加わり、ジャミルもこの世界での本格的な冒険への
第一歩を踏み出そうとしていた矢先。……今回はその矢先の話である。
「ちょっと、ジャミルっ!?」
「ん~?……で、出やがったな……」
LV上げの為、セントシュタインの外に出た4人の前に
発光体から人間体へサンディが姿を現す。ジャミル、モン以外は
サンディの姿を見るのは初めてなので、ちょっとと言うか……、
かなりびっくりしている様子。
「な、何これ……、ジャミル、こんなのも飼ってるの……?」
「……ちょっとっ!そこの情けネーツラのオールバックッ!
聞き捨てならないんですケドっ!?このアタシを一体誰だと
思ってるワケっ!?」
「ひえええーーっ!?知らないから聞いたんじゃないかあーーっ!!」
ダウドは高飛車な態度で自分にガンをつけてきたサンディに慌て、
アルベルトの後ろに隠れる。
「ダウド、落ち着いて……、えーと、初めましてかな……、
君は誰……?」
「ふふ~ん、よくぞ聞いてくれたわネっ!金髪君!聞いて
驚きなさいっ!アタシはね、あの有名な天の箱舟……」
「まだその話はよせっての!ややこしくなるだろが!えーと、
説明すっとだな、……ま、とにかく無理矢理俺について来た訳だよ、
そう言う事……」
「はあ……」
アルベルトは首を傾げる。はっきりいって、彼女に関してはまだ良く
ジャミルも素性が分かっていない為、こう説明しておくしかなかった。
「キー!何そのテキトーな説明!チョードタマにくるんですけどっ!?
大体さあ、あんた達ニンゲンには普段はアタシのこの高貴な
姿は見せられないワケ!……それでもこれから先、一緒に付き合う
仲だからと思ってサ、わざわざアンタ達の前でも姿が見られる様に
してやってるのよ!?有難く思いなさいよネッ!?」
「……はあ……」
アルベルトは又も首を傾げた……。しかもどう反応していいのか
かなり困っている。
「高貴……?……香狂の間違いじゃないのかなあ……?」
「だから何っ!さっきからうっさいのよッ!この困りヅラッ!!」
「うぎゃああーーっ!?」
「……シャアーーっ!!」
「あっ、またアタシに向かって牙向けたねっ!いいわよ、受けて立つわよ!
掛かってこんかい!このデブ座布団っ!!」
「ジャミル、どうしたんだい?君、今回は何か随分大人しい
様な気が……」
アルベルトが心配し、やや控えめなジャミルに訪ねる。実は
此処に来る前にもサンディには散々我儘を言われ、挙句の
果てにはサンディはモンと毎日バトル。流石のジャミルも
疲れ切っていたのである。何せ自分を上回るトラブルメーカー
出現かもで、加えてヘタレのダウドが加わった事により、
とんでもない事になりそうだった。
「ま、またいつもの調子が出るさ、……その内にな……」
「そう、ならいいけど……、スリッパ使えないのも淋しいからさ、
元気出してね……」
「ああ……って、おい……、オメー、心配してんのか、それとも俺が
騒動起こすの待ってんのか……、どっちだよ……」
「さ、さあ~?」
「もうーっ!ダウドもやめなさいよっ!モンちゃんも駄目よ!……ね?」
「シャ~……」
忘れていた頃、女神様の仲裁が入る。アイシャはダウドに注意し、
モンの大口を閉じさせた。ジャミルは女の子のアイシャがいてくれた
事を思い出し、安心するが……。
「えーと、まずはちゃんと自己紹介ね?始めましてサンディ、
私はアイシャよ、こっちがアルベルトで、ダウド、これから先
一緒に旅するんだもん、女の子同志仲良くしてね!」
……流石である。人懐こいアイシャは糞生意気なサンディにも
動じず、友達になろうと率先して近寄って行った。
「ふ~ん、アンタ中々見どころあんじゃん!ま、このサンディちゃんと
仲良くしたいってんならいいわよ!ダチになったげる!そこの野郎共より
よっぽど話が合いそうだしサ!」
「うわ、……やっぱなんか最悪かも……」
「ダウドっ!」
またサンディに暴言を吐きそうになったダウドの脇腹を慌てて
アルベルトが突く。……しかし、アルベルトも顔に微かに血管が
浮かんでいた。そして、これで騒動が終わる筈もなく。
「んー……」
「え?ええええっ!?」
サンディはアイシャに顔を近づけ、……アイシャの顔をじろじろ見ている。
「あんたさあ、化粧地味じゃね?……女の子なんだもん、
もうちょっとオシャレした方がよくネ?」
「……ええーーっ!?」
「じゃーん!コレ見てみ?サンディちゃん愛用のメイクセット!
ダチになった印に今回は特別にアタシがアンタを変身させてあげる!」
「……ちょ、ちょっと待てーーっ!」
やっと大御所動き出す。サンディのメイクセット……、
という事は明らかにサンディはアイシャをガングロメイクに
染めようとしているのである。
「さあいっくよーっ!まずはファンデーションからっ!」
「やめろおおーーっ!このスットコガングローーっ!!」
すかさずサンディの暴挙をジャミルが間に割って入り阻止。
……ガングロアイシャなどそんな恐ろしい物は絶対に
見たくなかったんである……。
「ちょ、何っ!?アンタアタシ達の友情の儀式を邪魔する気?
其処どいてよッ!!」
「うるせーーっ!何が友情かあーーっ!何が何でも阻止いたすーーっ!!」
「や、やっとジャミルが暴れてくれそうだ……、やっぱり
こうでなくちゃね……」
「……アル、君ってさあ、やっぱり……」
「何?ダウド……」
「何でも……」
「あの、あの……」
アイシャを間に挟み、一触即発状態でサンディとジャミルが睨み合う。
……ジャミルはサンディの暴走を阻止出来るのか。
「ちょっとアンタ邪魔!……どきなさいって言ってんのッ!」
「るせー!冗談じゃねえ、……アイシャをガングロになんか
させて堪るかっ!」
「どうしようどうしよう……、えーとえーと……、ちら……」
アイシャは困ってちらっとアルベルトの方を見る。明らかに
アルベルトに助けを求めている……。しかし、余計な助け舟を
出したのはダウドの方であった。
「はあ~、あのね、ジャミルはね、実は前に女装した事が
あってね……、経験あるし、どうせやるならそっちの方が
面白いんじゃないかなあ~……、あ!」
「……ほお~?」
「……ダウドおおーーっ!テメー余計な事言うんじゃねえーーっ!!」
ついうっかり呟いてしまったダウド。サンディはそうか
そうかと言う黒い笑みを浮かべている……。
「ごめんね、オイラ嘘がつけないからさ、ついうっかり……、
あいたああーーっ!!」
「この野郎!……あいつの視線が今度は俺に向き始めたじゃねえか!
……どうしてくれるーーーっ!!」
ジャミルはダウドを殴りに掛かる。……騒動の相手がまたこっちに
戻ってきてしまった。
「あーんもうーっ!2人ともいい加減にしなさいようーっ!」
「大丈夫だよ、アイシャ、……さあ君達、頭を出して、
冷やそうね、少し……」
「え……?」
「へ……?」
「じゃあ行くよっ!……せえーのっ!」
……パンッ!パンッ!……パンッ!!
「久々にすっきりした……、やっぱりこれやらないと……」
「……いったああ~っ!!」
「畜生……、久々にやりやがったなっ!この腹黒めっ!
う~、後で覚えてろ~……」
アルベルトに頭を叩かれたバカ2人、頭を押え項垂れる。
……見ていたサンディとモンは呆然と……。
「凄いモン……、モンもやりたいモン!」
「何かチョースゲーんですケドっ!?ねえねえアンタ、
その叩きの極意、アタシにも伝授してよっ!?」
「え……?」
化粧から話は逸れそうになって来たが、サンディ、今度は
アルベルトのスリッパ叩きを見て何か異様に興奮し始めた。
……モンまで……。
「モンちゃん、それは覚えなくていいのよ、はい、これどうぞ、
さっき町で買ったの、いちごのキャンディーよ、甘くて美味しいわよ」
「♪シャ~!」
アイシャは持っていたいちご味のペロリンキャンディーを
モンに舐めさせる。……モンは大口を開けると一口で
キャンディーをぱくっと一飲み。
「もぐもぐ、甘くておいしいモン!もっと頂戴モン!」
「いい子にしてたら又買ってあげるからね、だからアルのは
真似しちゃ駄目?分った?」
「はいモンー!みんなの食べてる食べ物は美味しい物いっぱいモン!
おいしいのもっと食べさせてー!」
「うふふ、モンちゃんも食いしん坊さんなのね、ジャミルに
似ちゃったのかしら?」
「うるっさい!えーえー、どうせおりゃあ食い意地の張った男だよ!
どうせならとことん食い捲ったらあ!よし、ゴールドも溜まってるし、
よっしゃあ、今日はステーキだあっ!」
「ちょ……、駄目だよ、アイシャ!」
「あ、あっ!?」
アイシャが慌てて自分の口を押える。が、時既に遅し。プッツン
切れたジャミルはこの際だからステーキ食ったらあ状態で
開き直ってしまう。……どんどん話が反れてきている。
「ねーねー、スリッパ叩きー!」
「黙ってて!それ処じゃないよっ!ジャミルっ、ステーキは
駄目だよっ!」
「……な、何かチョーこええーんですケドっ!?ヤバっ!?」
此方も切れて来ているアルベルト……。只ならぬ雰囲気を
感じたのか、サンディは慌てて発光体に戻ると姿を消す。
……話はどんどん反れ捲っている……。
「うるせー!食うったら食うんだよっ!俺を止められる
モンなら止めてみ……」
……パァァァーーンッ!!
アルベルトの会心の一撃!……ジャミルに999のダメージ!
ジャミルを倒した!
「倒してねえーっ!……畜生!マジで覚えてろよっ、
この腹黒ーーっ!」
「もうー、ジャミルったら!これから暫くはセントシュタインの
宿屋にお世話になるんだから!ステーキなんかよりリッカの
作ってくれる手作りの食事の方がずっと美味しいんじゃないの!?」
「あ、そうか……、そうだったな、うん、あいつのシチュー
美味いもんな!ははははっ!つーことで今日は宿に戻るか!
……うん!」
単純ジャミル、さっさとセントシュタインの方に引き返してしまう。
「はあ、オイラ達、一体何しに外に出て来たの……、
何もしていないじゃん……」
「ま、まあ、今日の騒動は取りあえず収まったんだから……、
良しとしよう……」
「そうね……、敵と戦った訳でもないのに何だか凄く
疲れたのはどうしてかしら?」
3人は浮かれているジャミルを見ながら揃って大きく
ため息をついた。……この話では毎度お馴染の光景である。
「♪ふんふんふ~ん!」
「ちょっとジャミル、何浮かれてんのよっ!食いしん坊なのも
いい加減にしなさいよねっ!……バカっ!」
慌ててジャミルに追いつくとアイシャがジャミルを注意。しかし
腹が減っているジャミルはムキになってアイシャに反論する。
「別にいいだろっ、人間食うのが仕事なんだからよ!あ、俺、
今回は都合上設定じゃ人間じゃなかったんだ……、ま、まあ、
んな事はどうでもいいんだよ、オメーもリッカの作ったシチュー
食べさせて貰えよ!スゲー美味いんだぞ!」
「そうね……、凄く美味しいんでしょうね、……リッカのシチューって……」
「ああ、牛乳の調節の加減がだな……、これがまたものスゲーの、
舌がとろけちまうんだよ!プロ、神業級だよなっ!」
「ふんだ!そうよ、ジャミルなんかシチューと一緒にとろけちゃえば
いいのよっ!バカっ!!」
「ああ~ん?何怒ってんだよっ!全く相変わらずオメーは
ワケわかんねー時あんなあ!」
「……知らないっ!バカっ!!」
この世界でも此方も毎度の儀式勃発。大概はすぐに収まるのだが、
喧嘩状態の2人は距離を置きつつも何故かぴったり歩調を合わせ、
セントシュタインへと一緒に歩いて行った……。
(……ふう~ん、そうかそうか、成程ネ!これは面白い事になりそ!
くくく、いいわよ、このキューピッドのサンディちゃんが一肌
脱いであげちゃお!サンディは悩める女の子の味方ヨ!)
……化粧からは完全に手を引いたものの。サンディは又別の
余計な騒動の火種を起こしそうである……。それはまた別の話……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 5