zoku勇者 ドラクエⅨ編 4
新たな出会いと旅立ち
目の前に立ち塞がりゆく手を阻む巨大な羊のモンスター。
ブルドーガ。こいつを倒し、ルイーダを救うのである。
地上での初の試練のバトルとなる。
「来いよ、何だって相手してやるからさあ!」
ジャミルは銅の剣を握り締めて構える。武器がこれでは
心元ないものの、この際贅沢は言っていられないのだから。
「ジャミル、気を付けてモン!」
「大丈夫だっ、任せとけ!」
ブルドーガが前足で地面を蹴り威嚇。すると地面がぐらぐら揺れ、
天井から瓦礫が落ちて来てジャミルの頭に当たりそうになるが、
素早いジャミルはとっさに瓦礫を避けて交わす。
「あ、あぶね……、んなモン落としやがってからにっ!
うっかり頭に命中してこれ以上アホになったらどうして
く……、自分で言ってて情けねえ……」
「モン~……」
急に落ち込みだすジャミルと、ジャミルの頭を
よしよしするモン。ルイーダはそんなジャミルを
ハラハラ見守りながら本当にあの子、……大丈夫
なのかしらと、どんどん不安な気持ちが増して来るのだった。
「ああっ!危ないっ!……避けなさいーーっ!!」
「え……?ああーーっ!!」
「ジャミルーーっ!!」
ルイーダが咄嗟に叫ぶが間に合わず、後ろから突進して来た
ブルドーガの体当たり攻撃によりジャミルは壁際に身体を
叩き付けられ、身動きが取れなくなる。モンはジャミルを
庇おうと、地面を蹴って興奮しているブルドーガの前に
立ち小さな身体でジャミルを庇った。
「……シャアーーーっ!!」
「いっつ……、!バ、バカっ!危ねえだろ、大丈夫だからっ、
ほれ、後ろ行ってろっ!ほれほれ!」
「モモモモモンー!」
ジャミルは慌ててモンを庇いながら立ち上がる。ホイミを掛け、
傷ついた体を癒す。そして再びブルドーガへと斬り掛って行った。
……ダメージを食らい、そしてまた立ち上がりホイミを掛け、
ダメージを与えで繰り返す事数分。ブルドーガも大分追い詰め
体力が無くなりつつあったが、ジャミルのMPも少なくなり、
ホイミを使えるのはもう後1回分ぐらいしか残っていなかった。
「此処で何とか決めとかなきゃな……、これで奴が
倒れなきゃ……、もう終わりだ……」
ジャミルは残りの全MPを使いホイミを掛けると、
全力の構えを取った。ブルドーガも必死である。
……雅に駆け引きバトルになりそうだった。
倒れるのは、ジャミルか、ブルドーガか……。
「俺が倒れちゃ困るっての!……来いよっ!これで
このバトルは終わりにしてやるっ!」
「……どうか頑張って……、お願いおチビさん!」
ルイーダも祈る中、最後の力を振り絞りブルドーガ猛突進。
ジャミルの決死の一撃、ブルドーガに当り、巨体の
ブルドーガは地響きを立てその場に倒れた。勝ったのである。
「ふ~……、終わった……、しかしこのシリーズ、
くたびれるなあ、色んな意味で……」
「やったモン!ジャミルっ!」
「まさか……、本当にあんな小さな子が……、私、何か
夢でも見てるのかしら……」
ブルドーガを倒したジャミルは急いでルイーダに駆け寄り、
モンも手伝って一緒にルイーダの足を潰している瓦礫を
どける作業に取り掛かった。……こうしてルイーダは
ジャミルのお陰で無事救助され事なきを得た。救出作業も
早かった所為で、足の怪我もそれ程化膿していない状態。
「あなた見掛けに寄らず強いのね、はあ~、奴から
逃げようとして天井から落ちてきた瓦礫に足を挟んで
しまって動けなくなって困っていたのよ……」
「お気の毒だったモン……」
「そうね、もう遺跡は沢山だわ……、さあさあ、こんな
辛気臭い場所いつまでもいないでさっさと外に出ましょ!
あっ、外に出るまではお姉さんをちゃんとエスコートしてね!」
「……あ、ああ!?」
言うが早いかルイーダと言う女性は最深部の部屋から
飛び出す。……ジャミルは一体彼女はどうやって先に
此処に入ったのか聞きたかったのだが、まあいいかで
済まそうと思った。走っているので足の怪我の方も
見るからにすっかり大丈夫そうだった。
「ジャミル、あのおねーさん行っちゃうモン」
「分ってるよ、しゃーねえ……」
……2人と1匹は漸く遺跡の外へ……。外の空気を吸った。
「此処まで来ればもう安心ね、改めて、私はルイーダ、
セントシュタインで酒場を営んでいるワケありの女よ、
そう言えば、あなたはセントシュタインの兵から私を
探してくれる様、頼まれていたんですってね……」
「ああ、俺はジャミル、今はウォルロ村で世話に
なってるのさ、んで、こっちはモーモンのモンだよ、
見ての通りモンスターだけど、ダチになったのさ、
ちゃんと言葉も喋れんだぜ」
「おろしくモンー!」
「ウォルロ……、そう、あなたウォルロ村から来たの……、
って、こうしてはいられないわ!私はウォルロ村に
用があるのっ!では、お礼はまた改めて、アデューーっ!」
「……あっ、おいってばっ!」
ルイーダは思い出すとジャミル達を置いてダッシュで
駆け出す。よっぽど急いでいたらしかったが。
「やれやれ、んじゃあ、戻るかね、俺らも……」
ジャミルも急いでウォルロへと引き返す。正門では
ジャミルを心配していたニードの子分が出迎えてくれたが、
先程、凄い勢いで変な女が駆け込んできて、宿屋の
場所を教えなさいと詰め寄られたという。
……ジャミルもリッカの宿屋へと向かうと、丁度
ルイーダが宿屋へと入って行く処を目撃した。
「さすがリベルトさんの宿屋ね、隅々までお持て成しの心が
行き届いているわ……」
「あの……、どちらさ……、も、もしかして、父さんの
お知り合いの方……、あなたが行方不明になってた
ルイーダさんですかっ!?私、行方不明になられたって
聞いて、凄く心配で……」
「ハアハア、足はええ~っての、……そうだよ、リッカ、
その人がルイーダだよ……」
「……ジャミルっ!?」
其処へ息を切らしたジャミルも宿屋へ到着。ルイーダが案外タフなのに
戸惑っているらしい。
「そう、私がルイーダよ、キサゴナ遺跡では私、本当にその子に
助けられたのよ、まさかとは思ったけど……、あんな巨体の
モンスターを倒してしまうなんてね……」
「そっか……、本当にジャミルが……、ルイーダさんを……、
ジャミル、有難う……、危険な場所にルイーダさんを助けに
行ってくれたんだね、無茶させてごめんね……、
怪我は?してない……?」
「い、いや……、俺案外こういうの慣れてるし、……暴走野郎だから、
へへへ、へへ!」
リッカはジャミルの手をぎゅっと握る。ジャミルは照れて
顔を赤くするのだった。
「リッカも、心配してくれて有難う、あなたはあの頃
まだ小さかったけれど、私の名前をちゃんと覚えてて
くれたのね、……処で、リベルトさんは何処かしら……」
ルイーダの言葉にリッカは一瞬戸惑うが、顔を上げて直ぐに
返答をする。
「やっぱり……、父さんに何か用があって来られたんですね……、
ですが、父さんは2年前に他界しています……」
「……ええっ!?リベルトさんは既に亡くなっているの!?
ああ、なんて事……」
「……」
ジャミルはリッカの祖父以外の家族の事を直に彼女に
聞いた事はなかったが、何となく両親とも既に他界して
いると言う事は薄々感づいてはいたけれど。
「それでは……、伝説の……、は、もう……、それじゃ
うちの宿屋は……、ねえ、ここの宿屋はあなた一人で
経営しているの?」
「ええ、そうですけど、それが何か……」
「此処の宿屋は本当に凄いわ、小さいけれど、お客様様への
お持て成しの心が隅々まで行き届いているのが伝わってくるのよ……」
「有難うございます、父さんが私に残してくれた自慢の
宿屋ですから……」
「そうね、流石伝説の宿王の娘って処ね……」
リッカは返答に困り再び下を向く。ルイーダは腕組みをし、
リッカの方を見る。何の事だか理解出来ず俯いたリッカに代わり、
ジャミルが率先し、ルイーダに聞いてみる。
「あんたさっきから伝説伝説言ってるけど何なんだよ!
……これはそして伝説への方じゃねえぞ!?」
「あなた……、本当に面白い子ね、……あのね、ちゃんと
話を聞いて頂戴、お2人さん、特にリッカ、あなたの方よ……」
「はい……」
リッカは再び顔を上げる。それを見たルイーダはうんうん頷き、
話を進める。
「……リッカ、此処を出てセントシュタインで宿屋を
始めてみる気はないかしら……?」
「ええええーーーっ!?」
「どう?分かってくれたかしら……?」
「宿王……、父さんが伝説の宿王だったなんて……」
「とりあえず……、俺には何が何だか分かんねえけど、
凄かったんじゃね?……お前の親父さん……」
「リッカにもおじやがいるモン?」
「……だから、おじやじゃねえよ、親父だよ……」
「モン~」
そう言われても……、リッカはまだルイーダの言葉を
飲み込めないでいた。自分の父親がセントシュタインに
いた頃、伝説の宿王と呼ばれていたなどと……。
「凄いなんてもんじゃないわよ!若くして宿屋を立ち上げ、
あらゆるライバル達を押しのけ、忽ち宿屋を大きくしたのよ!」
「……そんなっ!!」
「リッカ……?」
「モン?」
今まで俯いていたリッカ。急に表情を険しくすると突然ルイーダに
食って掛かって行った。
「そんなの信じられません!私の知っている父さんは穏やかで、
例え小さな宿屋でも私と一緒にお店を経営していけるのが
嬉しいんだよって、いつも言ってたんだから!」
「リッカ……、お前……」
普段と明らかに違うリッカにジャミルは心配する。あのいつも
穏やかな彼女が……。自分の中の記憶の父親とルイーダが
話している父親の話とあまりにもイメージを崩されてしまった事に
激怒しているのだろうが……。
「それが私にも分らないのよね……、一体何故あの宿王が
突然に姿を消して、何故こんな田舎村で隠れて隠居生活
していたのかしら……」
「……」
「とにかく宿王の去ったセントシュタインの宿屋は今大ピンチ
なの、だから伝説の宿王に復帰を願い、宿屋を立て直して貰おう
って事になって私は此処まで来たの、でもまさかロベルトさんが
既に亡くなっていたなんてね……、知らなくてごめんなさいね」
「いえ、此方こそ……、さっきは取り乱したりしてごめんなさい、
折角来て頂いたのに……」
「いいのよ、謝る事はないわ、代わりにあなたをセントシュタインに
連れて行くから」
「……な、なっ!?」
「モンーーっ!?」
ジャミルもモンも唖然……。ルイーダはリベルトの手を借りるのが
不可能と分った途端、……今度はその伝説の宿王の血を引いている
リッカをセントシュタインへと導こうと考えている様である。
ジャミルはリッカがまた心配になり、彼女の方を見る……。
「……リッカ、お前……、どうすんだ?」
「心配しなくていいよジャミル、……ルイーダさん、私、
セントシュタインに行く気なんてありませんから!」
「……あら~?」
「やっぱりそのお話には無理があります、私一人では
普段からこの宿屋を経営していくのに精いっぱいなんですよ、
それに、父さんが伝説の宿王だったなんて、私は信じません……」
「そう言われてもね、これは事実なの、あなたは確実に
宿王の才能を引き継いでいる、私には人の才能を見抜く力が
あるのよ……」
「っ!もうこんな時間!お家の方のお夕食の支度しないと!ジャミル、
モンちゃんをお手伝いに借りて行くね、行こう!では、ルイーダさん、
……失礼します!」
「モンーーっ!」
「……リッカっ!」
ジャミルが呼び止めるが、リッカは駆け足でモンを連れて
その場から去る。ルイーダの強引な誘いに錯乱し少々腹を
立てている様子でもあった……。
「これは長期戦になりそうね、中々頑固な子だわ……、
ねえ、ジャミル、あんたも彼女を説得して頂戴!私は
諦めないわよ!」
「んな事言われたって……、あんたも相当頑固だよ……」
「このままあの子の才能を埋もれさせてしまうなんて、
余りにも勿体無いじゃない、それに絶対にあの子の
為にもなると思うのだけれど……」
俺にはどうすりゃいいのか分からん状態でジャミルも
一旦宿屋を後にする。リッカ、彼女の気持ちを優先して
やりたいのは当然だが……。だが、もしもリッカが
セントシュタインに行ったなら……、確かに彼女ももう
仕事には困る事はないのだが……。何よりリッカの天職と
なるのは確実だった。
「おーい、ジャミルーーっ!」
「お、タワシー!久しぶりだなー!もう監禁生活
終わったんかー!?」
急いで此方へと駆けて来るタワシ頭……、ではなく、
ニードであった。
「……だから誰がタワシか!いや、一時的なモンだよ、
少しだけ解放されたんだ、それより、リッカが……、
さっき物凄い顔して自宅の方に戻ってくのを見たからよ、
マジで般若みてえな物凄い顔しててよ……、お前、何か
怒らせたんだろ……」
「俺じゃねえっての、実はな……」
ジャミルはニードに、ルイーダを遺跡から助け、今彼女が
此処に来ていると言う事を話す。ニードはルイーダが救出
された事で、これで親父の説教から完全に解放されると
喜んでいたが……。
「そのルイーダって女はリッカをスカウトしてセントシュタインへ
連れてこうとしてんだろっ!?駄目だぞっ、絶対っ!……けど、
リッカの親父さんが伝説の宿王って話、マジなのか……?
オレ、あの人が生前にいた頃も知ってるけど、どう見たって
普通のおっさんだったけど……」
「……」
ニードもリッカの父親の真実を信じられない様子。さて、
肝心の自分は一体彼女に何をしてあげれば一番いいの
だろうか……。このまま此処に残るのを勧めるか、
……セントシュタインへの背中を押してやるのか……。
どちらの道が彼女にとって一番いい道なのか、ジャミルも
悩み始めていた……。
「リッカ、話がさ……」
「あ、ジャミル、お帰りなさい!」
ジャミルがリッカの自宅に戻ると居間のテーブルには席に着いて
リッカが待っていた。宿屋でのルイーダとのやり取り時、そして、
ニードが目撃した時の般若顔の様な彼女では無く、もういつもの
彼女ではあったが、その表情にはやはりまだ戸惑いが残っていた。
「グウ~、モン……」
「モンちゃんてば、先に夕食のおかずをつまみ食いしてね、
そのまま寝ちゃったのよ」
「こいつ……、何だよこのボテ腹……」
ジャミルはテーブルの上で腹を出してぐーすか寝ている
モンの腹を触ってみる。……お腹はふよふよしてまるで
クッションの触り心地の様だった。
「ジャミル、ありがとう……、心配して来てくれたんだね、
私、昼間はあんなに取り乱しちゃったりして、ルイーダさんにも
申し訳ない事しちゃったよね……」
「ん、いいのさ、誰だっていきなりあんな話持ち込まれたら
困るのが当たり前だっての……」
「……」
ジャミルはそう言いながらリッカの隣の席に座った。代わりに
リッカが席を立つと温かいお茶を淹れてくれた後、再び自分の
席に着く。そしてまた考え込む。
「お茶ありがとな……、頂くよ……」
「うん、……私、ルイーダさんの話を聞いてたら、何が何だか
分からなくなっちゃって、だって、まるで私の知っている父さん
じゃない様に思えてくるんだもの……」
ジャミルは無言でリッカが淹れてくれたお茶を啜る。リッカも
そのまま一旦言葉を止めるがすぐにまた口を開いた。
「ね、ジャミル……、父さんが伝説の宿王だったなんて……、
何かの間違いだよね……?」
「ああ……」
「うん、そうだよね……」
今はそう返事を返しておくしかジャミルには出来ず。お茶を
飲み終えたジャミルは再び席を立つと外へ出て行こうとする。
「また何処かへ行くの……?」
「ちょっとな、気分転換さ」
「そう……、もう夕ご飯は出来てるからね、でも夜だから
なるべく早く帰ってね!」
「行ってくる、モンを頼むわ」
「うん、行ってらっしゃい……」
「うーぐー、……モン、プうう~……」
ジャミルはまだ眠っているモンをリッカに預け、再び外へ。
もう一度ルイーダの所へ行って彼女と話をして来ようと
思ったのだった。
「……?」
「……」
「……うわああーーーっ!?」
「あああーーっ!?」
と、外に出たジャミルは思わず大声を出してしまう。いきなり
宿の前に半透明の商人のおっさんが突っ立っており、目と目が
合ってしまったからである……。
「あ、あんた……、脅かすなよっ!たくっ!」
「びっくりしたのはこっちですようっ!あなた私の事が
見えるんですね!?私とっくに死んでるんですよう!
そう言えばあなたキサゴナ遺跡でお会いした時も確か
私の姿が見えてましたよねえ……?」
「そういや……、確か……」
おっさんに言われジャミルは思い出す。あの時、遺跡に
当然現れ、石像の仕掛けを教えてくれた幽霊の男……、
あの時と同じ人物に間違いは無かった。
「ジャミル、どうしたの?其処に誰かいるの……?」
「あ、やべっ、こっちだ!」
ジャミルが大声を出してしまった為、心配したリッカが
家から出て来そうになってしまう。急いでおっさんの
幽霊を連れ、話をしても大丈夫そうな人気のない場所へと
移動する。
「さあ、ここならいいぜ、話してくれや……」
「全く不思議なお方だ、自己紹介がまだでしたね、私はリベルト、
リッカの父親です……」
「リベルト……、そうか、あんたがリッカの……、
親父さんだったのか……」
遺跡で出会った幽霊。リッカの実家をじっともの悲しそうに
見つめていた。……正体は死んだリッカの父親の幽霊だった……。
「……流行病でぽっくり往ってから早や2年が過ぎた様です、
処で、あなたは……?」
「俺はジャミルだよ……」
「そうですか、ジャミルさん……、んっ、んんーーっ!?
そのお名前は確か、守護天使ジャミル様と同じ名前では
ないですかっ!!もしやあなたは……守護天使様なのでは!?」
???:そこ、ちょっと待ったあああーーっ!!
「……何だい?……うわっ!?」
突然……、謎の発行体がジャミルに向かって突っ込んで来た……。
飛んできた発行体はそのまま近くに有った岩に突進し、岩に
そのままぶつかる……。
「……いったぁ~い……、ちょっとぉ!そこ、ボケッとしてないで
上手くかわしなさいよぉ!……ま、それはいいとして……」
勝手に岩にぶつかった発行体は人の形に姿を変えると突然開き直り
ぶつぶつ文句を言い出す。背中に羽が生えた妖精の様である。
其処まではいいが……、顔は真っ黒、頭に花飾り、金髪、いわゆる
山姥ギャル、ガングロの様な凄まじい派手な容姿であった……。
「……何だよっ、おめーはよっ!」
「聞き捨てならないのは其処のおっさんなんですケド!アンタ今、
この人に向って天使とか言ったよネ!?」
「は、はあ……、何なんでしょう……」
「アタシもそう思ったけど、いまいち確信がもてないのよネ、
第一この人、翼もないし、頭の光る輪っかもないじゃん!変くね?
マジ、チョーうけるっ!おまけにな~んか頭もからっぽでバカっぽそー!」
「おい……、黙って聞いてりゃ……」
「はあ、そう言われれば、確かに……、ですが……、
変と言うならば、あなたも変ですよ……、一体あなたは
どちら様なのでしょう……」
リベルトはジャミルの方を見た後、ガングロ妖精の方も見る……。
「フフン、それを聞いちゃいマス?そうね、聞かれちゃったら
答えないワケにいかないよネ!?」
「別に俺はどうでもいいけどよ……」
「何っ!?アンタチョーむかつくんですけド!?何そのデケー
態度!黙って聞けぇぇぇーっ!!」
「いてててて!あんだよっ、俺はずっと黙って聞いてただろが!
しかもおめー化粧くせーなっ!どっかの妖怪厚化粧オババの親戚かっ!!」
ガングロ妖精はジャミルをポカポカ殴り出す。見ているロベルトは
困ってオロオロ。毒舌小僧とガングロ妖精。何やらどうやら……、
これから先、一層大変な事になりそうである……。
「で、聞いて驚けっ!アタシは謎の乙女サンディ!何とあの
天の箱舟の運転手よっ!」
「は、はあ……」
サンディはジャミルに構わず勝手に自己PRを始めた。そう
言われても、リベルトには何の事だか分からず困っている。
「そうか……、箱舟が墜落したのオメーの下手糞な
運転の所為か?」
「だからアンタうっさいっ!ねえ、このアタシを此処まで
丁寧に名乗らせたんだから、アンタもちゃんとアンタの素性
教えて欲しいんですけド!?どう見てもただの人間なのに
天の箱舟やユーレーが見えちゃうアンタっていったい何者!?
ヘンタイっ!?」
アンタアンタ連発でオメーもうっせえなあとジャミルは思う。
やかましいのでガングロ妖精……、サンディに自分のこれまでの
足取りを全て話した。仕方なしに。
「ふ~ん、あの大地震でアンタ天使界から墜落したわけネ、それで、
気が付いたらこの村にいて、翼やワッカも全部失ってたってコト?
な~んかチョ~信じらんネ……」
「俺だって信じらんねえっての!オメーみてえな口やかましい
生きモンがこの世にいたとかよ、ガングロUMAか……」
「何っ!翼やワッカは無くしてるのにタマシイを見る力は
残ってるって、何そのハンパな状態!もし本当に天使だって
認めて欲しいんならタマシイを昇天させてみなさいよ!
それが出来てこその天使でしょ!ホラ、丁度其処にユーレーの
おっさんもいることだし!」
「わ、私……、ですか?そりゃ私だっていつまでもこのままで
いいとは思ってませんが……」
「どうせショボイ未練を引きずってるからユーレーなんか
いつまでもやってんでしょ!ねえ、アンタ、このおっさんの
未練を解決して昇天させてやんのよ!そうすれば天使だって
認めるし、アンタを天の箱舟で天使界まで送ってあげる!」
「おい、んな勝手に……、この野郎……」
サンディはジャミルの返事を待たずどんどん勝手に
話を進めてしまう。相当イケイケで強引な性格なのは
間違いなかった。
「そういうワケで、暫くアンタと一緒に行動するから、
宜しくネ!」
「うええ~……、マジかよう~……」
どうやら、このガングロは暫くジャミルにくっ付いてくるらしい。
勘弁してくれとジャミルはウンザリする……。
「あ、そうそう、アンタの観察記録もつける事にしたから!
……行動見守らせて貰うからネ!」
「ああーーっ!?っと、やべ……」
プウウ~……
タイミング悪くジャミル一発噛ます。早速サンディに
目をつけられる事、……1回目。
「やれやれ、何だかおかしな事になってきましたな、
あなたも大変ですね……」
「たく、冗談じゃねえよ!早いとこアンタを成仏させて
やんねーと……、よう、おっさん、アンタをこの世に
縛り付けてる未練て一体なんだい?」
「私の未練ですか、そうですね……、宿屋の裏の高台に埋めた……、
アレかも知れません……」
「よしっ、宿屋の裏だなっ!」
「あ、行っちゃった、アイツ、チョーせっかち!」
ジャミルは宿屋に向かって走り出す。元々ルイーダの所へ
行くつもりではいたのだが。リベルトに言われた通り高台へ。
茂みの中の土を掘ると、トロフィーらしき物が出て来た。
土と泥を払うとトロフィーは黄金に輝き、何か文字が
刻んであるのも見えた。
「……えーと、汝を宿王と認め、このトロフィーを贈呈す……、
セントシュタイン王……、これ、国王から送られたのか、
すげえなあ……」
「おお、まさしくそれは宿王のトロフィー……、懐かしいですなあ、
この村に戻ってきた際に此処に埋めておいたのですよ……」
気が付くと、いつの間にかリベルトが来ていた。……サンディも。
「どうして埋めちまったんだい?こんな大事なもんを……」
「娘の……、全てリッカの為です、そしてセントシュタインへの
未練を断ち切る為……」
「リッカの……?」
「……」
リベルトは静かに頷く。そしてそれ以上は何も言わず。
「おっさん、リッカはルイーダからセントシュタインへ
来ないかって誘いを受けてる、でも、心は迷ってんだよ……、
あんたが宿王だって信じられないでいるのさ……」
「そうですか、……あの子が……」
「俺、このトロフィーをリッカに見せてくるよ、そうすれば、
きっと……」
「ジャミルさん……」
ジャミルはトロフィーを抱え、再びリッカの実家へと走り出す。
「おーい、リッカあー!」
「ジャミル……、あまり遅くならないでって言ったのに……、
もう……、ご飯も食べないで……、駄目だよ……」
「モン、夜遊び駄目モンモン!」
リッカは漸く帰ってきたジャミルを見て、ほっとした様な、
呆れた様な声を出した。……丁度モンの耳掃除をしていたらしい。
「わりわり、それより見ろこれ!お前の親父さんのだぞ!」
「えっ……?、これって……、父さんの……、まさか……」
ジャミルはリッカに黄金に輝くトロフィー、宿王の
トロフィーを手渡す。リッカはトロフィーに刻まれた
文字を見て、暫く放心状態であった……。
「まさか……、国王様に認められたって……、父さんは
本当に宿王だったんだ……、ルイーダさんの言っていた事は
嘘じゃなかったんだね……」
漸く父親の真実も分り、ジャミルはこれでリッカの迷いも消え、
セントシュタインへと赴く決意が出来るのではと思った。だが……。
「でも、ジャミル……、だったらどうして父さんは宿王の地位を
捨ててまでこのウォルロ村に戻って来たの……?私には父さんが
何を考えてるのかさっぱり分からないよ……」
「リッカ……」
リッカはまた俯いてしまう。一体どうしたら彼女を本当に
心から安心させ、納得させる事が出来るのか……、また壁が
立ちはだかり、ジャミルも言葉に困ってしまう。
「それについては儂から話そう……、もうお前にも話しても
いい頃じゃ……」
「おじいちゃん……」
普段はこの時間は寝ている筈のリッカの祖父が静かに居間に
姿を見せた……。
「これはリベルトにずっと口止めされて黙っていた事じゃが……、
リッカや、お前は小さい時、身体が病気がちだった事を覚えて
おるかの?」
「うん、何となく、うっすらと……」
「その体質は若くして亡くなったお前の母親譲りのものじゃ……、
本来なら成長するに従っていき、やがては死に至る……」
「でも、私……、元気になったよ、病気だなんて事それこそ
忘れるぐらいに……」
「それはこの村の滝の水、ウォルロの名水を飲んで育ったお蔭じゃろう、
ウォルロの名水は病気を遠ざけ、身体を丈夫にしてくれると言われておる」
「……」
じゃあ、天使界から墜落して、頭から滝に突っ込んだ俺は……、
こりゃますますパワフル馬鹿になって当分死にそうにないなあと、
ジャミルは何だか複雑な気分になってみた。
「!もしかして、……父さんがセントシュタインの宿屋を捨てて、
此処に移住したのって……」
「うむ、お前の為じゃったんじゃよ、リッカ……、あやつは
自分の夢よりも、大切な娘を助ける道を選んだのじゃよ……」
「そんな……、じゃあ私が父さんの夢を奪ったんだ、
……私の所為で……」
「バカだなあ、お前……」
「ジャミル……、な、何……?」
「親父さんが言ってたんだろ?例えどんな小さい宿屋だって、
お前と一緒に経営していけるのが嬉しいんだって……、宿王に
なろうが、地位とかそんな事、関係なかったのさ、あんたの
好きだった親父さんの通りだよ……」
「……ジャミル、私……」
リッカは両手をぎゅっと握り拳にするとそのまま言葉を噤んだ。
「うむ……、お前にそう思わせたくなくて、あいつはずっと
口止めしていたのじゃろうな、……リッカよ、今はまだ
混乱しておるだろうが、お前ならこの事実を受け止めてくれる
ものと信じておる……」
「父さんが時々見せていた、何処か遠くを見つめる様な
静かな目……、ずっと気になってた、そっか、父さんは
私の為に……、……ね、ジャミル……」
「な、何だい……?」
俯いていたリッカは顔を上げジャミルの方を見る。……遂に
決心を固めた様である。
「私に何処まで出来るか分からないけれど、私……、
ルイーダさんの所へ行ってみるね、そして今度こそ、
私が父さんの夢を叶えるの!」
「……あ、リッカっ!」
リッカは実家を出て駆け足で走って行った。自分の宿屋へ、
ルイーダの所へ。迷っていた、決め兼ねていた答えを漸く
出す為に。
「やれやれ、慌しい事じゃな、じゃが、あの子ももう
行ってしまうとなると淋しくなるわい……、どれ、儂も
そろそろ休むとするか、今日は久々に夜更かしをして
しもうた、ジャミルさん、あんたもはよう休みんさいよ……」
リッカの祖父は部屋に戻って行く。ジャミルは自分もリッカの
様子を見に、宿屋へもう一度足を運んで見ようと思い、外に出ると。
「あれ?おっさん、来てたんだ!」
「……おい」
発光体のサンディ、妖精体になり急に姿を現す。そして、家の前には
リベルトの姿。
「ええ、話は全部聞いておりました、まさかあの子が
私の夢を継いでくれるなんて……、いつの間にか随分
大きくなったものですね……」
「ああ、もうおっさんが心配するこたあねえよ、ちゃんと
やれるさ、あいつなら……」
「そうですね、……どうやらお別れの様です、では、これで
もう何も心残りなく、私も旅立つ事が出来ます……、ジャミルさん、
娘の事をどうかこれからも宜しくお願いします……」
「うん、じゃあな、元気でな……、って言い方も変か、んじゃ、
さよなら、おっさん!」
「……さようなら……、守護天使様……」
リベルトはジャミルに頭を下げると光りを放ちながら静かに消える。
こうしてリベルトの魂はこの世の未練から放たれ無事昇天する。
ジャミルはリベルトが消えて行った夜空をそっと見上げるのだった。
「行っちゃったね……、ふう~ん、アンタ中々やるじゃん!
只のアホかと思ってたけド!」
「だから……癪に障るなあ~、オメーの言い方もよう……」
「こりゃアンタのこと、天使だって認めないワケには
いかないっしょ、仕方ない、約束通り天の箱舟で天界まで
送って行ってあげるわよ、このカワイイサンディさんに
感謝しなさいよ!アンタ!」
「別に感謝なんかされたくねーってのっ!……おーいっ!」
サンディはくるっと回転し、再び発光体になると姿を消した。が、
すぐにまた飛び出て来た……。
「ねえ、アンタ、どうして天使なら星のオーラ回収しないの?
……其処に転がってるじゃん……」
「だって何もねえよ?……でけえ犬の糞ならあるけどよ……」
「……うわ、マジで?星のオーラ見えなくなっちゃったんだ……、
な~んか、こんな奴マジで信用しちゃって良かったのかな?
……前言撤回なんですケド……」
「……あーのーなああっ!てめっ、このやろっ!」
切れたジャミルがサンディに拳を振り上げるとサンディは
再び姿を消した……。
それから数日。峠の土砂崩れは無事全て取り除かれ、
セントシュタインへの通路は再び開通する。そして
今日はリッカの旅立ちの日である……。同じ日に、
ジャミルもウォルロ村を旅立とうと決めていたのだった。
「お爺ちゃん、離れ離れになっちゃうけど、元気でね……」
「うむ、お前も慣れない都会暮らしで大変な事もあるじゃろうが、
身体は大切にの……、ルイーダさん、どうか孫の事を宜しく
お願いします……」
「ええ、お孫さんの事、御心配でしょうけど、私もきちんと
サポートさせて頂きますので、どうかご安心下さいな……」
「……」
「おい、タワシ頭……」
「!?あんだよジャミ公っ!それにオレはタワシじゃ
ねえってんだよっ!」
ジャミルはリッカに何か言いたそうで押し黙っているニードの
態度に見てて苛苛していた。……ので、何とか突っ突いて
やりたかったのだが。だが、心配しなくてもちゃんと切っ掛けは
彼女の方からちゃんとやってくる。
「ね、ニード、ちょっといい?」
「……な、何だよ、これから村を出てく奴がオレに何の用だ?」
「うん、……村の宿屋、ニードが引き継いでくれるんでしょう?
勝手な話だけど、私、あの宿屋閉めたくなかったの、……だから
感謝してる、ありがとう……」
「え、えーと、そのだな……」
リッカにお礼を言われ、柄にもなくニードが照れている。
後ろを振り返るとジャミルが口に手を当て、シッシシッシ
状態でニヤニヤ笑っていた。……モンもジャミルの真似をし……。
「てめーら、後で覚えてろ……、っと、まあ、働かねえと
親父がうるさいしよ、別にお前の為じゃな……、うわっ!?」
ニードの頭を抑え付け、私が村長です、さん登場。リッカに
感謝とお礼の言葉を述べた。
「リッカ、君には本当に感謝しても感謝し切れない、
こんなボンクラに仕事の場を与えてくれて……、
セントシュタインに行ってもどうか元気でな……」
「はい、村長さんも……、今まで有難うございました、
お元気で……」
「はあ~、しかし、ニードさんが村の宿屋を引き継ぐとは……、
オレ、宿屋が壊れないか心配になってきたッスよ……」
「おめーもうるせんだっての!ふん、見てろよっ、オレがやるからには
セントシュタインよりもごっつすげービッグな宿屋にしてやるからよ!」
「うん、期待してるよ!でも私だって負けないんだからね!」
「おー、いつでも受けて立つぜいっ!」
子分の頭を小突きながら、ニードもリッカにライバルとして
宣戦布告。これからの関係、2人ともお互い良いライバル
同士で共に競り合い、商売を盛り上げていく事だろう。
「そう言えば、ジャミルも今日、故郷に帰るのだったな、
君も身体に気を付けてな、良い仕事が見つかる事を
願っているよ……」
「へへ、まあ、村の皆には色々と世話になったよ、有難う……」
まさか天使界へ帰るんだよとは言えず、戸惑いながらも
村長の差し出した手を握り返すジャミルである。
「モンちゃんも元気でね、食べ過ぎちゃ駄目だよ……」
「モンモン!」
「それからね、ジャミル……、あなたには凄く感謝してる、
だって父さんが隠していたトロフィーを何処かから見つけて
来ちゃうんだもの、本当に凄いね……、まさか本当に
守護天使様だったりしてね、……ふふ!ねえ、もしも
セントシュタインに寄る事があったら絶対に宿屋に
泊りに来てね!」
「あ、あのな……、それは……、あ……」
「じゃあ、私、そろそろ本当に行くね!みんな行って来まーす!
今までありがとうー!」
リッカは父の形見のトロフィーを手に村の皆に見送られながら
ウォルロを旅立っていった。ジャミルはいつか彼女になら……と、
去っていくリッカの後ろ姿をじっと見つめていた。
「……行っちまったなあ……」
「モン……」
zoku勇者 ドラクエⅨ編 4