zoku勇者 ドラクエⅨ編 1
ドラクエⅨ編です。オリジナルエピも有り、原作寄りの
重い話も書かせて貰っております。暫く長目予定のお話と
なりますが、此方の方も宜しかったら宜しくお付き合い
下さいませ。下ネタも伏せ字無しでパワーアップしております。
性悪天使降臨編
性悪天使降臨編
ねえ、誰かいるの?
いるのだったら姿を見せてよ……
何か言ってよ
そんな人々の声が聞こえる
一体いつの頃からか
この世界を見守って来たのだろう、んな事知るかい
俺達は天使と呼ばれていた……
らしい
「……失礼致します、オムイ様……」
「イザヤールか?……入りなさい……」
「はっ……」
此処は天使界。人間界よりも遠く離れた遥か遠い空の
彼方に存在する天使達が暮す世界。この天使界の長でも
あるオムイがいる長老の間に如何にもで気真面目で
堅物そうな青年が訪れていた。スキンヘッドヘアの
天使の青年イザヤール。天使の中で最も優れた能力と
力を持つ上級天使である。……彼は自分の弟子の対応に
困り果て、相談事も兼ね、長老の間へと訪れたのである。
「お主、……その頭は……、またやられたのう……」
「……」
イザヤールは悔しげに無言でオムイに向かって頭を下げた。
彼のつるつるの頭部にはぼくはこのハゲだよ~、どうだ
すごいだろう、ハゲだぞと落書きが書き込んであった。
「とにかく動きが素早いので……、どう気をつけていても……、
気が付くと……、困った物です、先程、4、5発……、
仕置きをしておきましたが……、全然懲りないので……、
隠れて煙草を吸おうとするのも一向にやめません……、
本当に天使族なのでしょうか……」
「ふむ、確かにあやつは困り者だ、だが、一度となれば、
咄嗟に機敏に行動出来る凄い能力を持っておる、一見
のほほんとしておるようだが、現に何度も人間界の
困っている人間達を救ってきた、絶対に弟子など取らぬ
主義のお主があやつを弟子と認めたのもそんな処を見込んだ
からではないのかのう?」
「はあ……、私はオムイ様のご命令に随っているのみです……、
しかし、一体私にも何故なのか分りませんが、困っている
人間達を助ける時に見せる普段のふざけた茶らけた態度からは
まるで想像出来ない様な働きぷり、実に不思議で仕方がありません……」
「そうか、して、お主もそろそろ……、弟子の出世を考えておるのだな?」
「はい、もう担当場所枠も決めてあります……、私と……」
「ふむ……」
こんな風に。2人の天使が話を進めていた頃。……話題の話の張本人。
彼……、この賊シリーズの主人公事、ジャミル。……自室のベッドで
寝転がり只管うーうー項垂れていた。
「俺……、等々人間じゃなくなっちまったよ、しかも今回は天使に
されちまってるし……、この頭の輪っか……、背中の変な翼……、
天使って設定って事は、つまり……、もしかしたら何百年も
生きてるって設定なのか?俺……」
しかし、彼はどう考えても天使ではない、……小悪魔系である。
「何だっ!……この野郎!」
「ジャミル、いるか?……私だ、入るぞ、大事な話がある……」
「うわ!今いませんけどいまーすっ!」
「入るぞ……」
声の主は滅茶苦茶な返答を返すジャミルに構わず部屋に入って来る。
先程、長のオムイと話をしていた人物。……ジャミルに頭部に落書きを
された被害者。彼の師匠のイザヤールである……。
「う、うひゃひゃひゃひゃ!ま、まーだ消えてねえ!あ、頭っ!光ってるっ!」
「……油性で書いたのだから一向に落ちぬぞ、……どうしてお前はこう、
悪知恵ばかり働くのだ……、しかも、ベッドの枕の下のその本は何だ?」
「ああーーっ!きゃ、きゃああーーーっ!!それはだな、この間
人間界に行った時に騒動を解決したらお礼にくれ……ぎゃーーーー!!」
イザヤールは無言でジャミルが枕の下に隠した裸のお姉さんが
表紙の本を取り出す。そして拳と拳で頭部を挟み、グリグリの
刑を始めるのだった。
「……この様な心を乱す下らぬ本は私が処分しておこう、
……いいな?」
「へいへい、分りましたようー!本当はアンタ、読みたいん
じゃね?プ……」
「早く話を進めたいのだが……、もう一度やっておくか……」
「何でもないですーっ!さ、早く話進めて頂戴!さーさーさー!」
ジャミルは話を逸らそうと慌ててその場に正座。そんな彼の
態度を見て、普段から堅物で糞真面目なイザヤールは心底呆れる。
(一体何故本当に私は……、この様なお調子者を弟子になど……、
やはり考えても分からぬ……、しかし、何故かどうしても
惹かれる只者でない拒否出来ぬ何かが……こやつから溢れている……、
不思議だ……)
「……あのさ、人の顔見てないで早く言えよ」
「うむ、お前も知っているだろう、我等天使はそれぞれの
担当場所に着き、人間達の目では決して姿を見れない我らは
人間達を災いから守る義務がある、ジャミル、お前もそろそろ
独り立ちの時だ……、一人前の天使としてのな……」
「……?」
「お前の守護天使としての役目……、ウォルロ村だ……、
これからは私に代り、お前が村と人間達を守るのだ……」
それから数か月後。2人はある小さな村の上空から村を
見下ろしていた。ジャミルが天使としてのお役目として、
人間達の護衛を任された村、ウォルロ村である。村の中には
小さな滝が流れている。本当に目立たない小さな農村では
あったが、特にこの村は天使を敬う人々の信仰心の熱い場でも
あり、守護天使を祭る像も置かれている。
「……天使ジャミルよ、これまで良く頑張ったな、私に代りこの村の
護衛を任せた時は少々、……いや、大変、非常に不安ではあったが……、
お前の働きにより、この村の人々も安心して暮らしている、立派に
役目を引き継いでくれて、師、イザヤール、これ以上の喜びは無い、
これからは守護天使ジャミルと呼ばせて貰おう……」
イザヤールは本当にジャミルの活躍ぷりに心から喜んでいる。
あの性悪ガキ天使がよくぞここまで成長してくれ……、たと
思っていたが。すぐに撤回。ジャミルは背中の翼を広げ、パタパタ
そこら中を飛び回り遊び始めた。
「……」
(すげー、俺、本当に空飛んでるわ、前の話で、チビに空飛べるって
どんな感じなんだいって聞いた事あったけど、今度はマジモンで
空飛べんのな……、そうだ、この村に確か犬の手綱みてえな変な
名前のリーゼント頭の奴いたっけな、そいつ気に喰わねえから、
よし、通ったら上空から屁を……)
「……おい、聞いているのか……?やはりお前の心はまだまだ
隙だらけだな……」
「は?え……、な、何の事だよ……」
「むう、……む?」
頭を抱えるイザヤール。すると、何かに気が付いた様子。村への道を
誰かが急いで歩いている。歩いているのは、オレンジのバンダナを巻いた
可愛らしい少女と、どうやら少女の祖父らしき2人組である。老人の方は
もう歩くのに疲れ切っている様子。
「おじいちゃん、頑張って!ほら、村までもうすぐだよ!」
「ふぅ、すまんのう、リッカや……、年は取りたくないもんじゃ……」
「これはいかん、……モンスターだ!」
2人の背後から、モンスターのスライムベスとズッキーニャが忍び寄る。
少女と老人は脅威に気が付かずそのまま歩いて行こうとしている。
「あのままでは襲われてしまうぞ!人間達を守るのが我ら天使の役目!
共に行くぞ、守護天使ジャミルよ!」
「へーへー……」
何か嫌だ、あざとす、普通に呼んでくれた方がいいなあと思いつつ。
ジャミルとイザヤールはモンスターが2人に近づく前にさっと撃退。
無事に2人を守ったのである。こうして孫と祖父は無事にウォルロ村の
門付近まで辿り着いた。
「ほら、おじいちゃん、見てよ、ちゃんとウォルロ村まで辿り着けたよ!」
「おお、どうなることかと思ったが……、わしら、こうして無事に
村まで戻って来れたんじゃのう……」
「もう、おじいちゃんたら、オーバーなんだから……、これも
守護天使様のお蔭だね、私達をいつもちゃんと見守って下さるんだわ、
ああ、守護天使ジャミル様、道中見守って下さりありがとう……、
こうして無事に村へ戻って来れたのも天使様のお蔭です……」
オレンジバンダナの少女、リッカはジャミルの姿が見えていないの
にも係らず、何となく気配を感じているのか、彼のいる方向を向いて
腕を組みお祈りを始め感謝の言葉を述べる。リッカと老人が村の中へ
消えた後、不思議な結晶がジャミルの手の中に落ちて来る。
「……それは星のオーラだ、人間達の我らへの感謝の心が結晶に
変った物だ、その星のオーラを天使界にある世界樹に捧げるのも
また我らが役目、ウォルロ村の守護天使ジャミル、一旦天使界に戻るぞ、
オムイ様に報告せねば……」
だからその言い方やめろと思いつつ、ジャミルは背中の翼を広げ、
再び大空へと舞う。空中はやっぱ耳なりがする、風圧で耳痛えと
感じつつ……。
……星のオーラ。人間達から天使へ、感謝の印と心。天使達はこの
オーラを集め天使界の世界樹へと捧げる。世界樹が育った時、世界樹は
大きな果実を実らせる。その時、天使達は悲願の神の国へと導かれる。
……だが、このオーラが天使界を破滅に導く事を今はまだ2人は知らない。
さて、自分が守護天使として担当する地上地域のウォルロ村へと
降り立った性悪天使のジャミ公。此処での目的は一人で行動し、
人間達から感謝され、星のオーラを集める事。師匠のイザヤールも
側におらず、もう付き添いはいない。
「とりあえず何すりゃいいんだか……、こうして宙に浮かんでると
何か俺、死人みてえ……」
途方に暮れ、空中から村を見渡すジャミル。見事に何も無い平和な
田舎村である。ぼーっとしていると、子供が何やらブツブツ言って
いるのが聞こえた。当然、誰の目にもジャミ公の姿は見えていない。
「何だよ、ニードの奴、村長の息子だからって威張っちゃってさ!
ああ、ジャミル様、もしいるのならニードに少おーしだけでいいです、
罰を与えてやってください!」
(ニードって、確かニートみてえな、犬の手綱みてえな、糞生意気な
リーゼント野郎か?よし、俺が成敗してくれるわ!これで感謝されりゃ
星のオーラが貰えるかもしんねえ……)
貰えないと思うが……、ジャミルはニードを探しに村中を飛び回る。
そして、村の橋の側に屯しているニードと子分を発見する。
(お、いたいた……)
ニードと子分達は何やら話をしている。ジャミルはもっとよく話を聞こうと
ニード達の近くまで飛んで寄って行った。
「しかし、不思議なんだよなあ~」
「それって、例の天使像に書かれてる名前のことっスか、ニードさん」
「ああ、ちょっと前までは、イザ……、何とかって名前だった様な
気がするんだが、急にジャミルになってやがる」
「そうっスかねえ、前からジャミルって名前だったスよ」
「前からっていつからだよ!お前、ちゃんと覚えてんのか!?」
「あれ?あれ?や、やっぱ不思議ですね、思い出せないス……」
「だろう!?村の奴らが変なんだよ!最近の事なのに、皆が前から
そうだと思ってんだ!」
「もしかしたら、天使様のお力とか……」
「バーカ!天使なんかいるワケねえんだよ!天使がいるとか
そんなモン信じてるのは石頭のリッカだけだよ!リッカの奴、
何かあるとすーぐ守護天使様のお蔭とか、ばっかじゃねーの!」
(……)
すぐ近くで話を聞いていたジャミ公は段々腹が立ってきて、
こいつのケツに浣腸を噛ましたくなってきた。
「フン、守護天使って奴が本当にいるってんならよ、このニード様の
前に連れて来てみろってんだ!」
(あーあ、ニードさん、リッカリッカって……、てんで分りやすい
んスから……、天使様にヤキモチ焼いてるんスよね、完全にべたぼれ
っつーか、でも、肝心のリッカは全く気付いてないしで、こりゃ、
まだまだ先行き遠そうっスねえ~……)
「おい、いるなら出て来いよ!返事しやがれ!守護天使のジャミル!
天使っつってもどうせ暇なんだろう!?村の皆の役に立ってみろってんだよ!」
(……コホン、そんなに言うならリクエストに答えてやろう、姿は
見せらんねえけどな、……食らえこのリーゼント野郎!!)
……ブッ!!
「……くっせえ……、俺の前に……突然臭って来た……、毒……ガスだ……」
「あああ!ニードさんっ!どうしたんスかっ!!」
「けーっけっけっ!ざまみろーっ!仕置きはきちんとしたぜーっ!」
ジャミ公の毒ガスを食らったニード。その場に倒れる。もう天使では無く、
完全な小悪魔になっているのだが……。
「さて、星のオーラ……、あ、あれ?貰えねえ、何でだよ……」
人間達を助けた時、感謝されると貰える星のオーラ。だが貰えず、
ジャミ公は不貞腐れる。……当り前である。
「調子はどうだ?ジャミルよ……、頑張っている様だな、この村に
私が訪れるのは、もう要らぬお節介であったかな?」
「……いっ!?いいいいい、イザヤールっ!?」
慌てるジャミル。付き添いはしない筈の彼がまたいきなり目の前に
現れたからである。
(やべえ……、さっきの……、見てねえよな……?)
「何を慌てている?私はこれから地上を回る際、お前に伝え忘れた事があり、
丁度と思い、この村に立ち寄ったのだ……」
「あはは、何だ、そうか……、ほっ……」
「……?まあ良い、生きている人間達を救うのも天使の役目だが、
もう一つ、役目がある、死してのち地上を彷徨う魂を救う事も
天使たる使命、聞こえるであろう、この村のいずこから救いを
求める魂達の声が……、行け!ウォルロ村の守護天使ジャミルよ、
この村と人々を救うのだ!」
「ま、又その呼び方でいう……、へーへー、要するに、幽霊さんにも
救済をね、はいはい……」
幽霊……、ならば、夜……、と、言う事で、ジャミルは昼間出来る事をし、
夜になるのを只管待つのであった。
「誰か困ってる奴いるか~?……俺が困ってんだよ……、ん?」
取りあえず天使の感で何か感じたのか村の教会の方へと飛んで行ってみた。
中ではお婆さんが困って泣いており、シスターに慰められていた。
「……困ったわ、死んだおじいさんに貰った大切な形見の指輪を
無くしてしまうなんて……」
「大丈夫です、祈りましょう、天使様は必ず困っている者達に
力を貸してくださいます、あなたの大切な指輪もきっと見つかる筈です……」
「ああ、天使様……、どうかお願いします……」
(……)
それって、もう完全に神頼みで俺に探してくれって言ってる様な
モンだよな?と、ジャミルは思いながら、再び教会の外へと飛び出す。
「わんっ!わんっ!」
外に出ると、犬がおり、ジャミ公の方に仕切に向って吠えていた。
「まさか、俺が見えるとか……、……お前、人間じゃないしな……」
「わんっ!」
「あ、おいっ!」
犬はこっちだよと言う様にまたジャミルに向かって一吠え、
付いて来いと言う様にジャミルを誘導する様に走って行き振り返る。
ジャミルはその後を追ってみた。
「わんっ!わんっ!(ここ掘れわんわん!)」
「……何てお約束な……、えーと、あった!指輪だ!あの婆さんのだな!?」
「わんっ!」
犬はそうだと言う様にまた吠える。ジャミルは指輪を持って再び教会へ。
……お婆さんの洋服のポケットにこそっと指輪を入れておく。
(あ~、懐かしいなあ、この感じ……、元祖シーフ時代を思い出すわ……、
この手の事は俺得意だからな……)
ジャミルは今度こそ、星のオーラは大丈夫だろうと確信しつつ、
教会を後にする。指輪の存在に気付いたお婆さんの天使様への感謝と
感激に震える涙声を聞きながら。
次は馬小屋にて馬のフンの後片付けをしたジャミル。が、彼は若干
機嫌が悪かった。……馬のフンに混じって誰かがやったらしい人間の
糞も混ざっていたからである。日もやっと暮れかかる頃、リッカが
経営する宿屋にて、彼女の働きっぷりをじっと観察していた。
「お客様にお出しする夕食はお豆のスープとおイモのシチュー、
どっちがいいかな?……玉にはお肉も用意出来るとお料理の
バリエーションも広がるんだけどな……」
(……)
宿屋はあまりお金が無く貧しい為、質素な経営である。それでも、
リッカのお客様への愛情とお持て成しは村を訪れる冒険者や
旅人達に好評であった。
(しかしよく働くこと、……俺には真似出来ねえよ……)
そして、時間は過ぎて夜になる。
「……今日も何事も無く、お客様をお持て成しする事が出来ました、
いつも見守って下さり、ジャミル様、ありがとう……」
純情リッカは手を胸の前で組み、姿の見えないジャミルに向かって
静かにお祈りをする。……照れ臭くなったのか、困ってジャミルは
慌てて宿屋から逃走する。
「……あ、あいつ……」
宿屋の外に出ると、もうすっかり夜になっているにも関わらず、
まだ自宅に帰ろうとせず、ウロチョロしているニードを発見する。
「家に帰ってもどうせ親父にどやされるだけだもんな……、さて、
どうしたもんか……、そういや最近、この村……、人魂が飛んでるって
噂があるんだよな……、……お、思い出したら誰かに何か見られてる様な
気がしてきたぞ……」
(……早く家に帰れ~、この不良ドラ息子~、でないと~……)
ジャミルはニードの背後に回ると、脅しのつもりでまた屁を一発
噛まそうとするが。
「こ、恐くなんかねえぞ!オレは幽霊なんてこれっぽっちも
信じてねえからな!でも、何か肌寒くなってきたし、そろそろ帰るか……」
(……)
悪寒を感じたのか、ニードはジャミルに発射される前にさっさと逃走。
スカシを食らったのはジャミルの方で、ジャミルはチッと舌打ちするのだった。
「……どうしてだよ、誰か……、どうして皆気づいてくれないんだ……」
「今度はあっちの方で声がすんなあ~……」
次から次へと。守護天使様は休んでいる暇があらず。声のした方向
目指し飛んで行った。其処にいたのは、通常の人間とは明らかに違う
状態の半透明のおっさんだった。おっさんは地面に蹲って嗚咽している。
「ああ、これが……、成程な……」
「悲しいよ、何でみんな……、オレの事無視するんだよ……、オレは
ちゃんと此処にいるのに……」
「あのな、おっさん……」
「!!ああっ、あんた、オレの事が見えるんだなっ!!」
「ちょ、落ち着……、うわ!」
ジャミルに気づいたおっさん。鼻水を垂らしながら大号泣で
ジャミルに近寄る。
「その恰好、頭の輪っか、背中の翼……、もしかして、アンタ天使様かい!?」
「一応な……」
「教えてくれっ、天使さん!皆が急に冷たくなっちまった!
仲の良かったダチも、家族も、皆がオレの事無視するんだ……、
酷ェよ……、どうして……」
ジャミルは最初困っておっさんから少し目を反らしたが、一呼吸置いて
頷くと、おっさんに事実を話し始めた。自分が死んだ事をまだ理解
出来ていないおっさんに。
「そうか……、やっぱりオレ……、死んじまったんだな……、はは……」
「ああ、普通の人間には俺の姿は見えない筈だからな……」
「有難う、天使さん、真実がやっと分かって、オレ、やっとすっきりした、
これでもう心置きなく行くべき所に旅立てるよ……」
「……うん、でもな、おっさん、アンタの事、皆は決して無視してる
訳じゃねえぜ?アンタが死んじまって悲しいのは誰も同じだよ、
こうなっちまった以上仕方ねえのさ、おっさんと話したくても、
触れたくてもどうにも出来ないんだ……、あんたの姿はもう地上の
人間には誰にも見えねえんだから……」
「……はは、誰にも気づいて貰えないのは本当に辛かったけど、
そう言って貰えて嬉しいよ、本当にありがとな、優しい天使さん、
……じゃあ……」
「……」
ジャミルは黙って、消えていくおっさんの姿を静かに見送る。
迷っていた魂は救済され、空へと高く昇って行った。
「……っと、これわっ!」
おっさんが消えた直後、辺りが一瞬光だし、ジャミルの正面に
結晶が降ってくる。ジャミルはその結晶を手元に受け止める。
星のオーラである。今日一日で、人間達へ手助けした行いの
ご褒美であった。
「よくやった、ジャミルよ!」
「うわ!イザヤール……、又出た……、てか、アンタ今まで何処に
隠れてたんだよ……」
突然ぬっと出てきた暗闇に光る禿げ頭。どうやらまだ出発しておらず。
恐らくこの村の何処かでずっと弟子を見ていたに違いは無かった。
「これであの者も悔いなく天に召されたであろう、……特にオーラは
これまで以上に一際大きく輝いている、先程召された者がそれだけ
お前に感謝の気持ちが大きかったと言う事であろうな……」
「だから、アンタの頭も眩しいんだって……」
「何だ?して、どうするのだ、ジャミル、一度天使界へ戻るのか?
私はもう暫く下界にいるが……」
「う~ん……、オヨ?」
「……!あれはっ、天の箱舟!?」
突如、頭上から聴こえて来た汽笛にジャミルもイザヤールも
頭上を見上げる。夜空を通過する、金色に輝く銀河鉄道9……、
ではなく、天の箱舟。神が創ったと言われる列車である。古来より
銀河を往航し、天使達が古くから何度もその姿を目撃し、存在を
認知している伝説の天駆ける列車。女神の果実が実りし時、天使界に
降り立ち、天使達を神の国へと導くと語り継がれている。
「近頃やけに慌しいな……、気が変わった、ジャミル、私も天使界へ
同行させて貰うぞ!」
「アンタ、下界にいるんじゃなかったのかよ……」
「最近これだけ箱舟が頻繁に通過すると言う事は、もう果実が実る日も
近いかも知れぬという事だ、急ごうぞ、ウォルロ村の守護天使ジャミルよ!」
「……へいへい……」
気が変りやすいおっさんだなあと思いつつも、ジャミルはイザヤールと共に
夜空に向かって再び翼を広げるのであった。
天使界に戻ったジャミルとイザヤール。イザヤールは自分は別の用事が
あるからと、オムイに直に長老の間に報告に行くようにとジャミルに言い、
何処かへ行ってしまう。
「報告……、ね……」
ジャミルが項垂れていると、別の天使達がジャミルの側へとやって来た。
「お帰りなさい、ジャミル、地上に戻ったのならまずはオムイ様に報告よ」
「聞いたよー、地上に行って来たんだって?いいなあ、早くオレも
守護天使に昇格して担当地区を持ちたいよー」
「あのさ、聞いていい?確認の為なんだけど、俺ってさあ、本当に天使なん?」
「……?」
「……」
ジャミルが天使達に訪ねると、2人の天使達は顔を見合わせ声を揃え
ゲラゲラ笑いだす。
「あなたも時々おかしな事言うのね、見なさい、彼方此方にある
この天使の像を、この像は私達、天使の姿を現しているのよ、
あなたの頭部のその光の輪、白い翼、立派な天使の証じゃない、
翼は空を飛ぶ力を、光輪は聖なる力を私達に与えて下さるのよ」
「ははは、……人間にはオレ達の姿は絶対に見えないって言われてるけどね、
本当かな?でも、人間達の中にはオレ達の存在を信じている者もいるんだ、
不思議だな」
「ま、どうでもいいや、処で、長老の間って何処だい???」
「……ちょ、本当に大丈夫?其処の階段を上がった所の先だけど……、
しっかりしなさいよ……」
「どもども……、へへ……」
ジャミルは頭をかきかき、言われた通り、すぐ側にある階段を
のこのこ上って行った。その様子を見ていた天使達は又も顔を
見合わせるのであった。……天使界の各階の天使達はジャミルに
色んな話をしてくれる。
神は何も無い星空に世界樹を守る為この世界天使界を創った。
天使達に天使界を任せ神達は天界へと戻る。世界樹が育ち、
その実をつけた時、天使達も天界へと戻る事が出来る……。
天使界には魔物もおらず、悪人もいない。だが、地上には
魔物がいる。最近の地上は異様に魔物達の数が増えている、
……等。天使界にある武器や防具は天使達が地上を守る為に
使用する物で、普段から手入れが施されている。
「ねえねえ、ジャミルも天使に生まれて良かったと思うでしょ?
人間はちょっとした事ですぐに死んでしまうわ、病気になったり、
ケガをしたり、精神力もとても弱いのよ、それに寿命も短命よ、
短いわ、人間なんかに生まれていたら本当に大変よ」
「う~、そうなのなあ~、う~ん?」
だからって天使がいいとか、良く分からんと考えていると、手前の
部屋から何やら声がした。そっとドアを開けてみると、光るつるつる
禿げ頭……、イザヤールと、後一人、紫色の髪の女性の天使が何やら
話をしている。ジャミルは気配を消すと話を聞こうと、そーっと、
イザヤールの後ろに忍び寄って言った。
「私も驚いたわ、あの悪戯っ子が、もう守護天使に昇格するなんて……、
でもアナタ、よく許したものね?」
「いいや、ラフェット、私は決して許した訳ではないぞ、まだ早いと
反対はしたのだ、……それをオムイ様がだな……」
「ふふ、やっぱりね、そんな事だろうと……、くく……」
「笑い事ではない!……あいつはまだ未熟だ!……しかも手に負えぬ
どうしようもない馬鹿でアホだ、……もしも人間界で何かあったら
どうするのだ!君はエルギオスの悲劇を忘れた訳ではあるまい!?」
(おい、一言余分なんだよ……、このハゲ……、ん?エルギオス……?)
「エルギオスの悲劇……、勿論忘れてはいないわ、でも、その話を
此処でする事はタブーではないの?」
「……、……!?」
「やあ……」
イザヤールは漸く背後のジャミルに気づく。……そして呆れる。
「……ウォルロ村の守護天使ジャミルよ!いつから其処にいたのだ!」
「さっきから、ずっとだよ……」
「……お前はまだオムイ様に報告をしていないだろう!早く行け!
この部屋のすぐ隣の部屋だ!」
「へーへー」
「私からも祝福させて頂戴、ジャミル、守護天使昇格おめでとう、
この頑固者が弟子を取って認めるなんて事、相当凄い事なのよ……、
ふふ、奇跡に近いわ、よほどアナタの才能を見込んだのね」
「だから違うと……、いいから早く行け!ウォルロ村の
守護天使ジャミルよ!」
……その言い方やめれやとジャミルは思いつつ、2人のいる場を離れ、
取りあえず、ジャミルは言われた通り、長老の間へと向かった。
イザヤールとラフェット。この2人はライバル同士であり、普段は
口喧嘩も絶えないらしいが。
「守護天使ジャミルだな?入れ、オムイ様がお待ちだ、オムイ様は
神に代り、天使界を治める尊いお方、くれぐれも粗相の無い様にな……」
護衛天使の脇を通り、長老の間に入ると、小太りで長髭の小柄な老人が
ジャミルを待っていた。この老人が天使界の長、オムイである。彼は
天使界の長として、気が狂う程の遠い遠い長い年月を生きているのである。
その命数は数千年、一万年とも……。
「よくぞ参った、守護天使ジャミルよ、守護天使としての地上での
初のお役目ご苦労じゃったのう、とは言え、今まではイザヤールが
お役目で同行していたが……、どうじゃ?お主ももう守護天使として
昇格した身、これからは一人でもやっていけそうかの?」
「ま、やって出来ねえ事もねえよ……」
「ほほう、ジャミルは中々の自信家じゃのう、結構結構、若いモンは
こうでなくては、……そんなジャミルに次のお役目を与えるとしよう、
地上でお主は人間達の感謝の結晶、星のオーラを手に入れた筈じゃな?
……次にやるべき事は分かっておろう、天使界の頂きにある世界樹に
そのオーラを捧げるのじゃ、世界樹はやがて育ち、その実をつける、さあ、
行くがよい……」
……うえ、休む暇なしスか……、と、ジャミルは一服したいのを
堪えながら、しぶしぶと今度は世界樹の元へと向かうパシリ天使
なのであった……。この階の大きな扉から外へ。……世界樹の有る上へ、
上へと……、只管登って行く……。
天使界の頂に有ると言う世界樹。其処に集めた星のオーラを捧げる事が
ジャミルのお役目らしい。嫌になる程の長い階段を登り終えた先にある
頂上の世界樹へオーラを捧げ、無事お役目を果たしたのだった。
そして、彼は今報告の為、再び長のオムイの部屋を訪れている。
「ご苦労じゃったのう、ジャミルよ、して、世界樹の様子は
どうであったかな?」
「ああ、オーラを捧げた途端、眩しい程ピカピカに輝いてたよ、
それこそ、イザヤールの頭ぐらいに……、俺、目がおかしく
なるかと思ったさ」
「……これ、お主、少しは口を慎まんか……、お師匠様に向かって……」
オムイに注意され、ジャミルは慌ててテヘペロ状態で誤魔化す。
「コホン、ふむ、そんなにも輝いておったか……、これはいよいよかも
知れんな、お前も知っておろうが、我ら天使のお役目は世界樹を育て
女神の果実を実らせること、そう、守護天使達が地上の人間達から
オーラを集めてくるのも全てその為なのじゃ……」
「ああ、階段の途中にいた天使も言ってたんだけど、女神の果実が実る時、
神の国への道が開かれ、天使達は永遠の救いを得る、役目から解放されて
神の国へ戻れるらしいってさ、……んで、その女神の果実ってのが、
とてつもないパワーを秘めてるんだって?もしも、俺らが直に食ったら
どうなるんだろ……?」
……しかし、アホなジャミルの乏しい頭の中では、ポパイがほうれん草を
食ってパワーアップする様なイメージしか浮かんでこなかったのである。
「ふむ、しからば、守護天使ジャミルよ、お主のやるべき事も
分かって来たのではないか?再び地上へと赴き、星のオーラを
集めてくるのじゃ、しかし、お主ももう守護天使となった身、
これからはイザヤールは共をせぬぞ、さあ、準備が整ったら
下の階に行き、輝く星型の穴の側に居る女天使に話し掛けるが良い」
「……分った様な、分らん様な……」
「守護天使ジャミルよ、汝に星々の輝きがあらん事を……」
オムイに祝福されながら、ジャミルは長の部屋を後にする。しかし、
今回も大変な役どころだなあ、話の派遣場所は天使界、しかも職業は
天使だしで、取りあえず、地上へ行く前に、ハ……、イザヤールの所に
行ったり、他の天使からも色々と話を聞いて回ったりしようと
思ったのである。
「天使界ってやたらと広えし、しかし面倒くせ……、おい、師匠さん、
……いるかい?」
「ウォルロ村の守護天使ジャミルか?世界樹にオーラは捧げて来たのか?」
「……ああ、さっき長さんのとこにも事後報告してきたとこさ」
「宜しい、入りなさい」
ジャミルはドアを開け、イザヤールの部屋に入る。……相変わらず
頭は眩しかった。自部屋に戻ったのか、既にもうラフェットの姿は
其処には見えなかった。
「……ウォルロ村の守護天使ジャミル……、う~む、いちいち
この呼び方だと面倒であるな、では、たまにはそう呼ぶ事にしよう、
よいか?ジャミル……」
「ああ……(だから最初からそう思ってんだけど……)」
「宜しい、それでこそわが弟子、天使は上級天使には逆らえぬのが
習わしだからな、さて……、どうだ?星のオーラを捧げられた世界樹は
実に美しいであろう」
「ああ、ものすげー輝いてたよ、……アンタの頭ぐらいに……」
「何だ?聞こえんぞ、そなた、言いたい事が有るならはっきり申さぬか」
「いや、何でもねえ……」
「うむ、人間達からオーラを受け取り、世界樹に捧げるのが我ら
天使の務め、ジャミルよ、お前の今後の活躍に期待しているぞ!
……これからは私は決まった担当地区を持たず、地上の彼方此方を
回るつもりだ、お互い良い成果を出そうぞ!」
ジャミルはイザヤールの部屋を後にする。地上への出勤準備でも
しておくかなと思いながら、2階をフラフラする……。
「……此処、どこ?」
アホな守護天使はまだ自分が行った事のない領域範囲に
来てしまったらしく、迷子になってしまっていた。この付近は
ジャミルにとって非常に嫌なニオイ……、勉学、知識のニオイが
するらしく、避けて通っていた。
「あら、守護天使さんのジャミルじゃないの……、世界樹への
オーラの捧げ物は終わったのね?」
「あ……」
側に立っていたのは、イザヤールの部屋から姿を消したラフェットである。
ラフェットはジャミルの顔を見てくすくす笑い出す。
「珍しいわね、アナタがこんな所に来るなんて、地上に降りる前に
地上についての学習でもする気になったのかしら?」
「いや、間違って来ただけ、あは、あはは……」
「そう、そんな事だろうと思ったわ、でもちょうどいいわ、アナタまだ
この部屋に入った事ないでしょ、地上に行く前にちょっと立ち寄りなさいな」
「いい、遠慮する……、あわわ!」
ラフェットはジャミルの手をひっぱり無理矢理部屋の中へと通す。
……中は沢山の本、何かの資料やなんやかんやでいっぱいであった。
「おええええ~……、本くせえ~……」
「全く、これくらいで酔ってどうするの、アナタは本が大嫌いらしいって、
イザヤールから聞いていたけど、少しは慣れなさいな……、ほら……」
そう言いながら、ラフェットは一冊の資料らしき本をジャミルの
前に差し出す。
「何だい?これ……」
「見たいかしら?でも、アナタはだーめ!」
「……おい」
ラフェットはジャミルが受け取ろうとした本をさっと取り上げた。
「この本はね、天使界や地上で起こったありとあらゆる出来事を
一冊の本に資料として纏めているの、簡単には見せてはいけないのよ、
例え、天使界の天使達でもね、此処はそう云った記録の資料が
沢山集められている部屋なの、どう、分った?私はイザヤールや
あなたみたいに守護天使として地上に降りたりしないの、地上の地図、
生まれて死んでいった地上の人間達の名前、そう云ったありとあらゆる
記録を書物に纏めているの」
「ああ、何となく……、けど、ありとあらゆる記録って……、
まさか、俺がイザヤールに悪戯した事とか、いちいち、ねちねち
記録されてんじゃねえだろうな……」
「さあ?どうかしら、でも、悪戯は程々にした方がいいって
事かも知れないわよ、さ、もうおいきなさい、守護天使さん……」
「……」
……下界での再びの星のオーラ集めで数日。オーラの収穫も貯まり
天使界に戻った直後、イザヤールはオムイ様と話があるからと、
又一人でさっさと2階へ行ってしまう。一人になったジャミルの処に、
早くも下界での彼の活躍を聞き付けた天使達がわちゃわちゃ集まって来た。
「凄いわ!随分沢山のオーラを集めて来たのね、ね、今すぐ世界樹の
所に行って捧げて来なさいよ!何だか凄い事になっているみたいよ!」
……此処にいない他の天使達は皆、天の箱舟の到着に備え
外に出ているらしい。もう間もなく天使の役目も終わるだろう、
そう呟いている天使もいた。
「既に知っているだろうが、世界樹がその実をつけた時、我等は
神の国へと帰れるのだ、お前も見た事があるだろう?人間界と
天使界を繋ぐ天の箱舟を……、そう、その天の箱舟こそが、我らを
神の国へと導くための乗り物なのだよ……」
皆が歓喜と喜びに満ち溢れている。ジャミルは自分も世界樹の様子を
見に行こうとその場から離れた。まずはオムイの所に顔を出そうと思った。
と、天使の人だかりの中に、ラフェットがいる。しかし、彼女の表情は
これまでにない真剣な表情だった。ジャミルはラフェットに声を掛けようと
近寄るが……。
「……もうすぐ神の国からお迎えが来るかもしれないのに……、
エルギオス……、あなたは等々戻らなかった……、……はっ……」
「よ、よう……」
「ジャミル、何時から其処にいたの……」
「いつからって、ずっとだけど……、さっきまで皆と話してたさあ……」
「そう……、もしもさっきの私の独り言が聞こえてしまったのなら
すぐに忘れなさい、……いいわね、さあ、もう行きなさい、オムイ様の
所に行くのでしょう……」
ラフェットはジャミルの顔を見ず、淡々と話す。この間も彼女と
イザヤールが話していた、エルギオスと言う、タブーらしい単語。
忘れろと言っても度々出てくる為、異様に忘れられなくなって
しまっていた。しかし、ラフェットの曇りがちな複雑な表情を覗い、
今はこのまま一時的に忘れてやろうと思った。
「分ったよ、じゃあ、俺、ボケ爺さんの所に顔出したら世界樹の
所に行ってみるよ」
「ジャミル……、ボケ爺さんじゃないでしょ、オムイ様でしょ!
ちゃんと呼びなさい!……全くもう!」
「!あ、ああ、そうだったかな……、じゃあ!」
ジャミルは慌てて誤魔化し、急いでその場から逃げようとする。
……その時はもう先程俯いていた彼女は呆れた様な表情をし、
しっかりジャミルの方を見ていた。
「ジャミル……」
「ん?」
「あなたの頭上に輝く光輪はあなたに天使としての様々な力を
与えてくれているの、大切にしなさい……、人間達に姿が
見えないのも、星のオーラを得る事が出来るのも全ては光輪の
たまもの、……天使は人間にその存在を決して知られてはならない、
けれど、頭上の光輪が有る限り大丈夫なのよ……、さあ、今度こそ
もう行きなさい、呼び止めてしまってごめんなさいね……」
「うん、いいのさ、またな……」
ジャミルはラフェットに後ろを向いたまま手を振る。ラフェットも
その後ろ姿を見送るのだった。
「何だか……、どうしたのかしら……、これきりあの子にもう
会えなくなる様な……、どうして……?……あの時と同じ感じだわ……」
そして、オムイの部屋に訪れたジャミル。オムイは一足先に
イザヤールと世界樹の元へ向かったそう。護衛の天使によると、
イザヤールからの報告を聞いたオムイはとても嬉しそうであり、
あんな表情の幸せそうなオムイ様はこれまで見た事がないとの事。
「じゃあ……、俺も行ってみるかね、世界樹の所に……」
ジャミルは外に出て、再び世界樹の元へと向かう。……まーたこの糞長ぇ
階段登んのかよとウンザリしつつ。
「ああ、ジャミルか、さっき、オムイ様とイザヤール様がこの階段を
登って行ったぞ!お2人が世界樹に向かったと言う事は、もう何かが
起きるのは間違いないな!」
……しかし、爺さん元気だなあと思いつつ、ジャミルもしぶしぶ後を追う。
オムイがどうか途中で昇天していない事を願いつつ……。登っている
最中でも途中、色んな天使と出くわす。皆、もうすぐの神の国への迎えに
心を躍らせている様子だった。
「世界樹には星のオーラのパワーがブリブリみなぎってるわ!此処に居ても
何だか凄い力を感じるの!後は果実が実るのを待つだけよ!」
「おねいさ~ん、見て~、ほ~ら、オーラのパワーもぶりぶりー!
ぶりぶりー!」
〔げんこつ〕
「……おバカっ!おほほ、ウチの子がどうもすみませ~ん!」
「いやああ~ん……」
「……」
母親は生ケツを出し、左右にひょこひょこ動き始めた子供に
制裁を加えると慌てて退場。変な親子天使である。
「なんかどっかで見た事有る様な……、ねえ様な……、まあいいか……」
長い階段を抜け、そして、根っこの部屋を通り、漸くオムイと
イザヤール、2人がいる世界樹の元へと……。
「おお、丁度良い処に……、ウォルロ村の守護天使ジャミルよ、見よ、
この世界樹の輝きを……、星のオーラの力が満ちて今にも溢れそうでは
ないか……」
「う、うっ……、すげえ……」
ジャミルは一瞬目を瞑る。あまりの世界樹の輝く眩しさに。
漸く眩しさに慣れ、改めて目の前の世界樹を見つめる。
……世界樹は黄金の光で満たされている。天使達は本当に……、
もうすぐ神の国へ導かれるのかも知れなかった……。
「あとほんの少しの星のオーラで輝きは実を結ぶ、女神の果実が実る時、
神の国への道は開かれる……、我ら天使は永遠の救いを得る……」
「そして、その道を誘うわ天の箱舟……、ジャミルよ、お前の持つ星の
オーラを世界樹に……、私とオムイ様の推測が正しければ、いよいよ
世界樹は実を結ぶであろう……」
「世界樹になる実は女神の果実と呼ばれるそう、女神の果実実りし時、
天の箱舟が我らを迎えに来ると言い伝えられておる、いざ!天駆ける
天の箱舟に乗り、神の国へと帰ろうよ!……じゃよ!」
オムイはジャミルに向かってピースサインする。何ともファンキーな
爺さんであった。
「さあ、ジャミルよ、星のオーラを世界樹に捧げよ、これが終わりなのか?
……それとも全ての始まりなのか?今こそ明かされよう!」
「ああ……」
ジャミルは頷くと、世界樹へ近づいて行く。そして、世界樹の前に立ち
両手を掲げ星のオーラを捧げる……。世界樹はこれまでで最高の輝きを
放つ。ジャミルは再び目を瞑り、眩しさを堪えるのだった。
「……おおおお!何と……、黄金の果実が!」
「遂に……、遂に……、実を結んだのですな!」
「……う……」
聞こえてきたイザヤールとオムイの歓喜の声にジャミルも目を開き、
目の前の世界樹を改めて見つめる……。等々世界樹に実った黄金の果実……。
これで、これで漸く……、天使達のお役目も終わるかと思われた。だが……。
「おお、オムイ様、あれをっ!」
「……天の箱舟じゃ!」
頭上に現れし、天駆ける天の箱舟……、間も無く天使界に降り立つ……、
筈であった。
だが。……裁きの時、運命の瞬間……、その時は訪れる……。
「あ、あ……、あああ……」
「……ジャミルっ!?」
その時、何が起きたのか……、誰にも分らなかった。その場にいた
イザヤールも、オムイも、……ジャミル自身でさえも。突如下界から
放たれた謎の閃光……。
全てを貫いた。崩壊していく天使界……。天使界を襲う凄まじい揺れ。
下界へと落下していく黄金の果実……。傷付いたジャミルも全てを失い、
地上へと落下していく……。落下していく瞬間、彼が覚えている事は……。
何処までも下へと落ちて行く自分、無残に散らばり何処かへと
飛ばされていく背中の翼……。
そして、自分の名前を必死に呼び、誰かがその手を差し伸べようとする。
だが、彼はその手を掴む事は出来なかった。地上へと落下する際、
彼は何時か何処かで誰かから聞いた地上の物語をうっすらと思い出した。
それは伝説なのか本当なのか……。
ロウで作った翼で空を飛び、太陽へと挑み敗北した哀れな男の話を。
ロウの翼は太陽の熱で無残に溶け地上へと落ちて男は死んだ。
多分自分も今、そんな状態なのだろうと……、薄れゆく意識の中で
そう思った。
……こんな時でもこんな事考えられるんだから、俺って大物かも……。
そう、思った……。
全ては、此処から始まる……。
「……おおお……、これはどうした事じゃ……、わ、わしらは騙されていたのか……?」
zoku勇者 ドラクエⅨ編 1