zokuダチ。セッション編 終
これにてセッション編は完結です。続編は何れ又、修正が済み次第
エスカレート編をお送り致します。その間に、トモコレゲームの方の
新作もどうか出てくれる事を祈りつつ、此処までお付き合い頂、誠に
有り難うございました。
エピ 140・141・142
消えたマリアーヌ
ジャミル達、元異世界冒険者組は、本日久しぶりに領主の家に
足を運ぶ形となった。色んな話も兼ねて是非と夕食へと
招待されたのである。この世界が繋がってから、領主の家に行くのは
実に久しぶりの事で皆はワクワクしていた。まずは外出中の主が戻るまで、
温室庭園で園芸のお手伝い。
「すみませぬのう、皆さんにこんな事まで手伝って頂いて……」
「いいんだよ、爺さんにもいっぱい世話になっちまったしな、
これぐらいさせてくれや」
「こうやって又、皆さんと触れ合える日が来るとは、儂は本当に
嬉しいですよ!」
「うふふ、お花さんが咲くの楽しみ!綺麗に咲いてね!」
「どんなお花が咲くのかなあ~、本当に楽しみだね!」
アイシャといろはもジョウロで球根に水を撒きながら、
実に嬉しそう。
「♪早く目を出せー、かきのたねー!わんわん!」
こむぎもお手伝いで張り切って種を植えさせて貰っているが。
「……本当に目が出てこないか心配になってきたよ……」
「大丈夫だよ、いろはちゃん……、あはは……」
「いし、……いし、いし、タワー……」
ボーちゃんは園芸よりも、庭園の中にある石の方が興味があるらしく、
石をかき集め、積み重ねて遊んでいた。
「……うわっ、む、虫いいっ……!!」
新しい花の種を植える為、スコップで土を掘っていた
ダウドの顔に変な虫が飛びつき、ダウドが腰を抜かした。
「あははっ!ダウドってば、ホンっと、こわがりやさんだねえー!」
「……ひいいいっ!!ほ、ほっといて下さあああ~い……」
笑いながら、ダウドの顔に張り付いた虫を取ってやるこむぎ。
「ハア、暇だゾ……」
「たいやいや……」
「アンっ!アンっ!」
しんのすけとひまわりはまだお子様の為、何となくつまらなそうである。
そんなお子ちゃま達をシロが見守っている。
「じゃあ、しんちゃん達も僕と一緒にお花の種を植えてみるかい?」
アルベルトがしんのすけにスコップを渡した。
「おおー、オラも穴掘っていいの?やるー!」
「たいやいや!」
しんのすけも漸く、興味を持ち始め、アルベルトの側で穴を掘りはじめ、
ひまわりもちょこんと座り興味深そうに兄が穴を掘るのを見守る。
「処で、今日はチビさんは来られないんですのう、残念じゃが……」
「うん、今日は配達の量が倍あるって言ってたからな、あいつも
又来たがってたし、そのうち連れてくるよ!」
「おお、是非!」
ジャミルがそう言うと、パイプを銜えながら庭師も嬉しそうに笑った。
「キシャシャシャ!」
「……ん……?」
奇妙な、急に聞こえてきた別の笑い声に顔をあげると、
……ジャミルの側にいたのは、あの人食い植物花のマリアーヌ……。
「……え、えええーーっ!?」
「わあっ、おもしろいお花さん!こんにちはー!わたし、こむぎだよー!」
突如修験したマリアーヌ。動物大好きいろはも、これには少々
びっくりするが、天然こむぎは恐れずマリアーヌに平気で近寄って行くと
いつも自分がいろはにして貰っている様にいい子いい子。
「よしよし!おて!]
「♪シャシャ!」
「爺さん、あのさ、こいつ……」
「おお、マリアーヌですが、最近、ますます元気になりましてのう、
何と、自分で歩行する様になったとです!」
「いろはさん、脅かして済みませんの、大丈夫ですよ、見た目はあれで、
確かに悪戯も好きですが、悪い子ではありませんのでの、安心して下さい」
「シャアアア……ッ!!」
「そうなの、マリアーヌは此処で追われてた私達を匿ってくれたの」
「……は、はあ……、そう言われてみると、何だか可愛いですよね……」
このお方も。無邪気で少し天然な面があるアイシャはマリアーヌに
平気で触れ、ナデナデした。こむぎとアイシャに撫でられて、
喜んでいるのか、マリアーヌは一昔前に流行ったフラワーロックの様に、
左右に揺れて踊る。いろはも段々慣れて来てマリアーヌに触れる。
ダウドは早速庭園の隅で丸くなり、脅えていた……。
「みんなー!夕食の準備が出来たよ、親父も今帰ったから!すぐに屋敷に
顔を出してねー!その前に風呂も用意してあるから、その真っ黒い
顔じゃ……、プ……」
ケイが庭園に姿を見せる。もうすっかりナンダ・カンダ家の娘として
定着したケイ。完全ではないが、言葉も依然よりはキツさと刺々しさが
無くなってきた様である。
「おお、お嬢様、旦那様もお戻りになられましたかな、では皆さま、
屋敷の方に向かって下され……、お腹もそろそろ空いてくる頃でしょうて」
「もう、ケイちゃんたら、親父なんて言っちゃ駄目よ、領主さまは
ケイちゃんのお父様なんだから……」
「ははっ、どうもまだ何か慣れなくってさー、こそばゆくって……」
アイシャの言葉にケイが悪戯っぽく舌を出して笑みを見せた。
そして、一行は風呂で園芸作業の汚れを落とした後、領主の待つ食堂へ。
ブウ子に背中を折られ、大怪我をさせられた領主であったがもう完全に
全快しており皆の前に元気な姿を見せた。
「うわ、すんげえ……、コレ、マジで食っていいんだよな……」
目の前のテーブルに並んだ、前回の倍の数々のご馳走を目の前にし、
ジャミルが感嘆の声を洩らした、ローストビーフにステーキ……、
七面鳥……、と、これでもかと言う程、皆の食欲を誘う……。
今日はこむぎも人間モードのままそのまま皆と一緒に席に着いて
夕食を頂く事に。
「まずはワインで乾杯しよう、さあ、じいも座っておくれ……」
まだ未成年のアイシャ達にも気を配り、アルコール分は控えめのワイン。
「はい、では……」
「乾杯……!」
領主の合図で、皆が一斉にワインに口を付けた。
「……っかああ~っ!んめえええーーっ!」
「何か酔っ払いのおじさんがいるよーっ!アルベルト!
いろはといっしょに前にテレビのドラマで見たよっ!」
目線でジャミルを追いつつ、こむぎがアルベルトに話し掛けた。
「うん、ジャミルは普通のアルコール無しのシャンパンでも
悪酔いする時があるって、ダウドから聞いた……」
「……るせえ!誰がおじさんだっ、おらあまだ成人式だっつーの!
……ヒク……」
「ははは、相変わらず面白い子だよ、ジャミル君は……」
「ですのう、旦那様、元気が一番ですよ……」
「……おいしー、おいしいよおおおおー!!」
「ちょ、ダウド、君もまさか酔ってたりしないよね?」
涙を流しながらオーバーにステーキを頬張るダウドを見て、
心配そうなアルベルト。
「ホント、美味しい、チビちゃんがいないのが残念だわ~……、
喜んだだろうなあ……」
「うーん、あたしもチビと遊びたかったなあーっ!アイシャ、
今度は絶対に連れて来てよ!楽しみにしてるからさ!」
喋りながらケイがアイシャのグラスにワインのお代りを注ぐ。
「ええ!次は絶対!チビちゃんも喜ぶわ!」
「んーっ、本当に最高級のお肉ですなあ~!!いやああ~ん、
……オラ……、幸せすぎで……、もう……、あはああ~ん……」
「……ボ」
幼児のしんのすけとボーちゃんには勿論添えの飲み物は
ジュースである。それでも例えジュースでも、舐めてはいけない、
劇選した果物で作った最高級品。
「さあ、小さなお嬢様にはミルクですよ……」
「……にへえええ~……」
「アンっ!アンっ!クウウ~♡」
ひまわりもメイドさんに抱っこされ、これも最高級の赤ん坊用ミルクを
哺乳瓶で飲ませて貰い……、実に幸せそうな表情をしている……。
シロも大盛りの最高級ドッグフードを幸せそうに食べている。
「おいしいっ!おいしいよー!こむぎ、おなかがパンクしちゃいそう!」
「こむぎ、ちょっと落ち着いて!喉につまっちゃうよっ!」
アルベルトは、がっつくこむぎ、……そして、同じく遠慮せず、
ステーキをもりもり食っているジャミ公とを見比べ、溜息をついた。
「はは、本当に遠慮はいらないよ、お腹が満足するまで好きなだけ
食べて行っておくれ」
「……ジャミルったら、領主さま、本当にすみません……」
「……キシャシャ……」
そんな、皆の幸せそうな表情を窓の外から眺め、奇妙な笑い声を
発する謎の影が……。そして、楽しい時間はあっという間に過ぎ、
本日のお開きの時間となる…
「うう~……、もう食えね、……食い過ぎた……、うえっ……」
すっかり丸くなってしまった腹を抑えながらジャミルが呻いた。
「……ジャミルさん、大丈夫ですか?でも、これから歩いて帰りますから、
歩けばお腹もへこんで、運動にもなりますよ!」
眠ってしまったひまわりを背負いながら、ジャミルの方を見て、
いろはが笑った。
「いろは、くるしいよう……」
同じく、食べ過ぎで動けなくなったこむぎ、子犬に戻り、
此方もいろはにしっかりと抱き着いていた。
「だから言ったでしょ、自業自得だよっ、それにしても、こむぎも
随分重くなったんだねえ……」
「全く……、調節って言う事をしないんだから、ジャミルはさ、
恥ずかしいよ……」
「本当だよお……、アルの言う通りだよお!」
「……どうしよう、こむぎとジャミル、このままじゃぽんぽこだぬきの
おまんぢゅうになっちゃうわん……」
「コラ!だ、誰が狸……、げっふ!」
「はあ、もう~、ちゃんとそのお腹元に戻さないと明日から
口聞かないからね……」
「うえげ……、ちょ、ちょっと待てよ、アイシャちゃあ~ん、うげえ……」
「これはいっぱいおウンチしないとだゾ……、大変……」
「ボウオ~」
「アンアン!」
「ははは、アイシャにまで呆れられてらあ!皆、又絶対遊びに来てよね!
待ってるから!」
笑いながら、ケイが皆の手を取り、一人ずつ、握手を交わしていった。
「うむ、今度は是非、他の皆さんも連れて来ておくれ、私ももっとこの世界の
沢山の方達と交流を深めたいからね……」
「本当に?いいのかい?そりゃ皆も喜ぶよ!」
「ああ、楽しみにしておるよ……」
そして、一行は領主達に見送られながら、屋敷を後にする。
夜中……、マンションに戻り、皆が自室で就寝している中で、
限度を弁えず、ご馳走を食べまくったジャミルは腹痛で寝られず
苦しんでいた。
「ああ、腹いてえ……、寝ても何してても、駄目だこりゃ、畜生……」
「キシャシャ……」
「ん?何か今、変な声が……」
「ジャミル、ちょっといい、オイラ……」
「ああ、ダウドだったのか、今開ける……」
ジャミルが急いで部屋の鍵を開けると、確かにダウドが立っていた。
「どうしたんだよ、こんな夜中に……」
「うん、なんかね、オイラの部屋に幽霊がいる様な気がして、
寝られなくなっちゃったんだよお……」
「はあ?アホか、お前、……いてて、こっちゃ腹が痛くてしょうが
ねえってのに、んなモンいねえからさっさと戻って寝……」
「何だよお、冷たいなあ~、大体、お腹が痛いのはジャミルが自分で
悪いんじゃないかあ……」
現われたダウドの姿を見て、ジャミルは仰天する。ダウドの背後から、
マリアーヌがぬっと姿を現したからである……。
「ダ、ダウド、お前っ、後ろ、後ろっ…!」
「……何だよお、オイラ、志村後ろ後ろじゃないよっ!……はい?」
「キシャシャシャシャ!」
「……うーわーあーあーあーーーーっ!?」
「バカっ、落ち着けっ!大声出すなよっ、……他の連中が起きるっ……!」
思わず大声を出しそうになったダウドの口を塞ぎ、ジャミルが
落ち着かせようとするが。
「けど、おい……、お前……、何で此処にいんだ……?」
「キシャシャシャシャっ!!」
「あ、おいっ、コラ待てっ!マリアーヌっ!!おいったらっ!!」
まるでジャミル達を構って楽しむかの様に、マリアーヌは高速で動き、
マンションの開放廊下を走って行ってしまった……。
「うわ、こりゃまたエライ事になった……、急いで奴を捕獲しねーと!」
「あ、あわわわわ……、あ、あんなの捕まえるの……?
……勘弁してよおおお~……」
マリアーヌ騒動で、いつの間にかジャミルの腹痛もすっかり収まって
しまったのであった。
マリアーヌを捕まえろ!
……深夜、何故かマンションに侵入したマリアーヌを
捕まえようと奮戦するジャミルとダウドのコンビ2人組……。
「いたぞ、あそこだっ!」
「え、えええ~……?」
「シャシャッ!」
マリアーヌは触手を使い、何処かの部屋の鍵をあっさりと
開けてしまった。ピッキング機能が使えたのは、チビだけでは
なかったらしい、はた迷惑な侵入者である。
「あの部屋は、確か……、緑バカ……?」
「は、早くっ、捕まえないとっ!」
……ぎゃーあーあーあーあー……
「しまったっ、遅かったか……」
ユリアンの部屋からターザンの雄叫びの様な悲鳴が聞こえた……。
「どうしようっ!ユ、ユリアンが食べられちゃったかも!」
「落ち着け、ダウド、あいつも悪い奴じゃないって、
爺さんが言ってたから大丈夫だろ、多分……」
「た、多分~……?」
「とにかく、行って確めねえと!」
2人が急いでユリアンの部屋に向かうと、マリアーヌが上機嫌で
触手ふりふり、部屋から出て来た……。
「シャシャシャシャ!」
「あっ、こいつめっ!」
ジャミルがマリアーヌを捕まえようとすると、マリアーヌは
あっさりと、ジャミルの腕を交わし、ジャンプして飛んで逃げた。
「この野郎、待てっ!」
「ジャミル、ユリアンの無事も確認しないとだよお~……」
「ちくしょう、まいったな、こりゃ……」
ジャミルが唸っている隙に、又マリアーヌが猛スピードで逃走した。
「……じゃあ、ジャミル、オイラがユリアンの無事を確かめるから、
ジャミルはマリアーヌを追い掛けてていいよ?」
「んにゃ、そうはいかねえ!お前だけ楽しようったってそうはいくか!
2人で一緒に捕まえるんだっ!おーい、緑バカー、生きてっかー?
喰われてなかったら返事しろー!」
「とほほのほお~……」
ジャミルとダウドがユリアンの部屋に急いで潜入し、
部屋の明かりを付けると、其処で見たものは……。
「み、緑バカ……?」
いつもの倍以上に、髪の毛がビンビンに逆立ち、気絶して大の字に
ひっくり返り倒れていたユリアンの姿であった……。
「おーい、生きてるか?返事しろ、おーい、返事しねえ、駄目かな……」
「……う~ん?」
ダウドがユリアンの心臓に耳を当て、鼓動を確めてみる。
「……ちゃんと生きてるよ、殺すなよお、ショック受けて、気絶したんだよ、
それにしても、別に身体に損傷も無いみたいだし、目立つとすれば
髪の毛だけかな、ケンザンみたいに尖ってる……」
「まあ、要するに悪戯されたんだな、こいつ、草みたいな髪の色だからな、
仲間と間違えたんだろ、よし、緑バカに異常なしっと、次行こう、次!」
「そんなあっさりと、はあ……」
ユリアンの無事……?を、確認した2人は、再びマリアーヌを探し、
マンション中を徘徊する事態に……。
「夜明けまでに何とか捕獲しねえと、エライ事になるぞ……」
「眠いよおお~……、うう~……、はあー、何処行っちゃったんだよお、
もう外に逃げたかもだよお?」
「……徹底的に探すんだよ、何が何でも捕まえねえと……、おっ?」
そして、次にジャミルとダウドが目撃した物は、何と、なにやら
廊下で揉めている野球馬鹿達の姿だった。マリアーヌを引っ張って
いる谷口、側でオロオロしている近藤、そしてこんな時でも
冷静沈着なイガラシ……。
「……こ、こらっ!丸井を吐きだせっ!」
「あわわ、あわわ!凄い事になったがな……」
「谷口さん、俺、バット取ってきますよ、やれやれ……」
「どうしたんだよー!」
「あっ、ジャミルさん!大変なんです!どうやら丸井がこの変な花に
飲み込まれた様で……」
「なにいいい!?遂に喰われたかっ!おむすびと間違えたんかな、
っと!んな事言ってる場合じゃねえ、おーい、コラッ!んなモン
食っても消化わりィぞ!早く吐き出せったら、おーいっ!」
「シャアアッ!」
ジャミルがマリアーヌをポンポン叩くと、マリアーヌが飲み込んだらしき、
唾液だらけの丸井を漸く吐きだした。
「あー、びっくりした……、って、やいジャミルっ!これはてめえの
しわざかっ!?どう言う事なんでえ!説明しやがれっ!!また変なモン
連れて来やがって!!」
……ジャミル、相変わらず丸井には年上扱いされず、丸井に江戸っ子口調で
非難中傷される……。
「丸井、よさないか、失礼だろっ!どうもすみません……」
「だってえ、谷口さあ~ん……」
「はあ、とにかく無事で良かったよ、知り合いの家から脱走して来て
此処までなんか知らんけど、付いてきちまったらしいんだ……、早く
連れて帰らねーとなんだよ……」
「……たく、夜中に人騒がせな……、ふぁ……、んなモン、ちゃんと
管理しておいて下さいよ、こっちは丸井さんが廊下で騒いでたから、
何事かと、たく……」
どうにも迷惑……、と、言った煙たそうな表情でイガラシも欠伸し、
自室に戻って行った。
「ん……、平和の為やし、もうちょっと飲み込まれてたらええんと
ちゃうか……?あ、やば……」
「何だとお、……近藤……、ほ~お……、オラああああっ!近藤っ、
てめえケツ出しやがれっ!!」
「んあああもうーっ!勘弁っ、勘弁やがなあ……!」
「丸井、ほら、もう部屋に戻ろう、お騒がせしました……」
野球馬鹿達は全員部屋に引っ込んで行った……。
「異様に何か冷静だったね、谷口君とイガラシ君、なんか、もう、
慣れっこって感じでさ、あ、あれ?マリアーヌがまたいないよおっ!?」
「なにっ!?おーい、オメー、ちゃんと捕まえてなきゃ駄目だろうが!
ボケッとしてんなよ、バカダウドっ……!!」
「オイラの所為にすんなよお!とにかく、探さないとっ!」
「シャシャシャシャ!」
「あ、いたっ!」
マリアーヌは2階への階段の前で一旦立ち止まり、ジャミル達の姿を
確認すると、2階へ上がって行ってしまう。
「……おい待てっ!そっちは行くなっつーのっ!」
「はあ~……、オイラもう嫌だよお~、勘弁してえええ~……」
大慌てで2人が2階に向かうと、早速トラブルにぶち当たったのであった。
「すごいねえ~、歩くお花さんかい?何処から来たんだい?
俺の言ってる事分る?」
「ウシャシャのシャ!」
「……あちゃ~……、遅かった……」
ジャミルがこめかみを抑えた。夜中にも関わらず何故かラグナが
廊下を徘徊していたらしくマリアーヌにインタビューしようと
していたからである。
「おい、おっさん!何やってんだよ、早く寝ろや!!」
「ジャミっくんと、ダウーちゃんじゃん、君達こそ何してる訳?
俺はね、この歩くお花さんの記事を書こうと思ってさ、お花さんに
取材してるんだよ!」
「シャシャシャ!」
「……また人を変な呼び方で……、あのな、マリアーヌは歩行出来ても
言葉は喋れねえよ、アホだなあアンタ!」
と、うっかり言ってしまった事で、ジャミルは後悔する事に……。
「おー?へえー、このお花マリアーヌちゃんて言うの?やっぱり、
ジャミっくんのだったの?んじゃあ、直接、ジャミっくんに取材っ!
このお花は何の種類?そもそも何処で手に入れたの?教えてよ!」
「……ああああ~っ!勘弁してくれやああ~!!」
ジャミルも、つい、大声を出してしまうのであった。それがやばかったらしく……。
「……あたしの神聖な眠りを妨げるのは……、誰だい……?」
「おっ?」
「ひ……、ひっ!?」
1階の廊下の方から怒りに満ちた声が聞こえて来た。……誰かがぬしぬしと
階段を上がって此方に向かってくる音がする……。
「!オ、オイラ……、殺気を感じましたので、……これにて失礼……」
「おいっ!ダウドっ、何で逃げるんだよっ、待てこの野郎っ!!」
……静かに、ゆっくりと。足音はどんどん近づいてくる。それは勿論。
「……糞ガキ共早く寝ろおおおーーーーーーーーッ!!」
「きゃあーーいやあああああーーーーっ!!」
拳の刑罰、……×50
「……全く、ふざけやがって、冗談じゃないっ!今回は
軽くしておいたやったけど、次は容赦しないよっ!」
「どこがだあああーーっ!!」
シフは騒いでいたバカを高速連打ゲンコツで成敗。部屋に又
戻って行った。後には殴られて倒れて伸びているジャミルと
巻き添えを食らったラグナの姿があった……。さて、その後、
マリアーヌがどうなったかと言うと、あの後、別に誰にも
迷惑を掛けず、夜が明けるまで何処かに隠れていたらしい。
朝、目にクマが出来たジャミルは漸くマリアーヌを捕獲し、
領主の屋敷まで連れて行こうと外に出た際に、丁度、
マリアーヌを迎えに来た庭師とケイにばったり出くわした……。
「おお、ジャミルさん、申し訳ありません、……昨夜、庭園に
こんな書置きがありましたので、急いでこちらまで来てみたのですが……」
「書置き……?あん……?」
見ると、紙に平仮名で下手糞な字が書いてあり……。
あそびにいってきます、まんしょんへついていきます、うしゃうしゃしゃ
まりあーぬ
「……コレ、マリアーヌが書いたってのかい?まさか、冗談だろ……?」
「でも、書いてあって場所が分ったからあたし達も迎えにこれたんだよ!
もー、あんまり心配させないでよ、マリアーヌっ!」
ケイがマリアーヌに飛びつくと、嬉しいのか、マリアーヌが又
触手を左右に揺らした。
「マジで……、コレ、字ぃ書いたってのかよ、嘘だろ……?」
「では、急ぎ足ですみませんが、儂らはこれで一旦失礼させて頂きますです、
後日、又改めてお詫びに参りますので、マリアーヌ、挨拶しなさい……」
「シャシャシャっ!」
「……」
一人、喰われそうになった奴がいたんだよ……、と、ジャミルは口を
開きたかったが、庭師の爺さんの優しい顔を見ていると、どうにも
調子が狂い、何も言えなくなってしまった……。
「ねえねえ、マリアーヌ、マンションは面白かった?でもさ、夜中は皆に
迷惑が掛かるから駄目なんだよ、今度から遊びに行くなら昼間にしなね!」
「シャシャ!」
……マリアーヌを連れ、庭師とケイが朝日の中へと消えて行く。
その様子を眺めながら、又とんでもねえのがレギュラー入りしやがったと、
今後も唯では済まない状況になるのをジャミルは今から覚悟した……。
オーバーキル
ある日、ジャミルは珍しく黒子に用が有り、自分から市役所に出向いた。
その用事とは……
「はあ、自販機ですか……?」
「そう、うるせんだよ、奴らがさ、マンションに足りねえモン……、
それは飲料水の自販機だとさ、ま、他のアパート前とかでも、
よく立ってるだろ?」
「そうですね、自販機でも置いておけば、他にマンションに入りたい
お客さんの目星にもなりますかね、まあ、考えておきます……」
「頼むよ、じゃあ……」
ジャミルはそれだけ黒子に伝えると、市役所を出て行こうとする。
「ジャミルさん、あなたの方も、常に本腰入れて又新しいお客さんを
捕まえておいてくれないと、困りますよ……」
「わ、分かってるよ……」
又、痛いところを付かれジャミルは頭を抱えた。
そして、数日後、マンション前には飲料水の自動販売機が立った。
最初は皆喜び、いつでもジュース等が飲めると大喜びであった。
しかし、やはり時間が立つと不平不満が出てくるのである。
……自販機が立ち、更に数日後……
「おい、ジャガイモ小僧、何してんだよ……」
「ジャミルおにいさん、この自動販売機、ヘプシがないゾ……」
「たいーっ!たいやいやい!(明図赤ん坊用ミルクもないーっ!)」
「入ってるメーカーが違うんだからしょうがねえだろ、我慢しとけ……」
「つまんないゾ……」
「やいやいやい!」
不満そうに野原兄妹はマンションに戻って行った。
「俺に文句言われても困るんだっての……」
「だけどさ、駅前の自販機、あそこ、タイドー自販機だけどさ、
コキャコーラのも混ざってるじゃん……」
「ダウド……、おめえもうるせえ奴だなあ~!」
「不満もでますよお~、だって、コーヒーばっかなんだもん、
此処、しかも無糖の……、ブツブツ、はあ、早く新しい製品追加して
ほしいよお~……、よいしょ……」
ダウドは今の処、此処で唯一入っている甘い系統のつぶつぶ
オレンジを買うと、マンションに引っ込んで行った。
「だから、俺に言うなっての……」
「ねえ、ジャミルっ!あたしさあ、午前中の紅茶が飲みたいん
だけどさ、ずっと品切れのまんまなんだよね、ねえ、
いつ入れてくれんの!?」
いつ来たのか、エレンまで文句を言い始めた。
「……どいつもこいつもっ!!ああああーーっ!!」
そして、更に数日、市役所……
「バリエーションが少ないと?」
「そうだよ、無糖コーヒーばっかなんだと……」
「それは私の仕事では有りません、苦情、ご意見はメーカー業者に
言って下さい……」
ジャミルは仕方なしに市役所を出た。しかし、メーカーに訴えろと
言った処でどう言ったら、何処に文句を言えばいいのかまるで
分からないのであった。
「ま、時期がくりゃその内いいのも入るだろ……」
暑い夏。文句を言っていても毎日猛暑続きで、やはり皆、身体は
正直に水分を求める。大分、自販機の飲み物も品切れに近くなった頃、
業者が来て新しいのを入れていった。
「……此処はいつもあまり冷えていないのね、私、今は喉が渇いてるから、
なるべく冷えたのが飲みたいのだけれど……」
「サラ、節電もあるからな、仕方ないな……」
「……うわ、新製品、ちょっとっ、汁粉も入ってるじゃない!
なーんかデブリそう!」
「夏専用、アイス汁粉だよ、大丈夫さ、エレン、もう手遅れ……、
ぎゃあああーーっ!!」
「ちょっと、お姉ちゃんやめてっ!ユリアンを機械にぶつけちゃ
駄目だったら!……自販機が壊れちゃうわっ!!」
「サラ……、君はユリアンよりも自販機の心配を……」
……自販機の前でプロレスを始めるエレンと緑バカ、そしてそれを
制するサラとトーマス……。
「なーんだかんだ言って、結局は楽しんでんじゃねえか、
どいつもこいつも……」
陰でこっそり様子を覗いながら、さっき買ったアイスココアを
ジャミルがぐびぐび飲んだ。
「それにしても、しかしこれ、甘えなあ~、うえ……」
実はスポーツ飲料水を買おうとしたら、ドジなジャミルはうっかり
ボタンを押し間違え、最高に甘いアイスココアを買って
しまったのである。
「ふう、それにしても幾ら何でも暑すぎだわ、どうせなら
各部屋一台ずつ、管理人に自腹でクーラー設置して貰う
覚悟も必要よ……」
「だよなあ……、男には覚悟する時があるんだ……」
「……また、お姉ちゃんたら、でも……、本当に暑いよね……」
「世界異常気象だからな……、この星も一体何時までも持つのか……」
「……無茶言うんじゃねえっつーの!シノンのアホ4人組めっ!
俺だってクーラーが欲しいんだよっ!」
そして、此処の自販機にはちょっとしたお楽しみがあった。
それは何処にでもある機能、同じ数字が揃ったらもう一つおまけで
当たる奴である。しかし、ここの自販機は何故か当たりやすいと
言う事で、好評であった。
「ジャミルーっ!オイラ、当たったよおー!」
……当たったからと言ってわざわざダウドがジャミルの部屋に
報告に来た……。
「……あっそ、ま、車にでも当たらねえ様、気を付けろよ……」
「なーんだよお、随分と張り合いないねえ……」
「だってよ、一万円相当の景品なら嬉しいけどさ、多可が
100円相当のジュースじゃねえか、わざわざ当てなくったって、
小銭入れりゃすぐ買えんだろ、んなモン……」
「はあ~、夢無いなあ、こーゆー事は現実的で規模の小さい
人だねえ~、当たった瞬間が嬉しいんじゃないかあ~、……だから
ち○こも小さいんだよ……」
「そうだよ、どうせ俺の○んこは小せ……」
……ダダダダダダ……
「誰だっ!まーた廊下で暴れてるんはっ!ジャミルとダウドだねっ!
てめえらも一緒にこっち来いっ!こいつらと一緒に仕置きしてやるっ!!」
暴れるなと言っておきながら、シフもジャミルとダウドを追い掛けて
廊下を走って行った。
「なあ、リウ、ジェイル、この間に逃げちまおうぜ……」
「駄目だったらっ!……あ、あの人、何処逃げたって追い掛けて
くるんだからさあ~、……何せマリカの凶悪大型版なんだから……」
「南無三だ……」
又懲りずに廊下でボール遊びをしていた悪ガキシトロトリオが
シフに見つかり、とっ捕まっていたのであった。
学習しないと言うか、何回捕まっても懲りない奴らである。
単にシフを怒らせて構うのが面白いのかもしれなかった。
その後も、マンション内では、飲み物がもう一本当たったと言う
住人の喜びの報告で溢れかえっていた。人間というのは、囁かでも
やはり当たった瞬間は嬉しいんである。
「むう~、俺だけ幾ら買っても未だ数字が揃わねえ……」
どうやら少しはジャミルも気にし始めた様子……。
ジャミルは小銭を握りしめ、外に出て行こうとする
いつもの悪い癖が出、……段々ムキになってきている……。
「あ、ジャミル、今から出掛けるんだ?夜だけど、今夜も熱帯夜で
暑そうだよ、気を付けて……」
「アル……、缶持ってる処みると、オメーも買って来たな……」
「うん、僕も数字揃ったみたいでさ、困るよね、こんな処で
運使い果たしちゃったらさ……」
アルベルトがもう一缶、当たったミネラルウォーターを見せた。
口では困ると、そう言ってるが、やはり表情は嬉しそうであった。
「……キーーーー!!」
「ジャミル……!?また、一体どうしたんだろう……」
心配するアルベルトを余所にジャミルが外に飛び出して行った……。
「べ、別に、アタリなんかどうでもいいんだからね!?おりゃあ只、
風呂上りに飲む飲みモン買いに来ただけなんだよっ!!」
ブツブツ言いながら、アイスコーヒーのボタンを押す。
しかし、目線はしっかりと、数字のドラムを気にしている……。
「7、7、7、……8……!!」
……自販機を蹴り倒しそうになったが、其処に夜遅く仕事から帰宅した
野原ひろし氏が通り掛かった。
「こ、こんちわ……」
「よお、ジュース買いに来たのかい!?ははっ、ここの自販機、
アタリやすいんだってなあ~、ウチの息子なんか、2回も当てたみたいで
喜んでたなあ~!、いやあ~、今夜も暑そうだな、こりゃキンキンに
冷えたビールがうまいぞお~!はは!」
「!!」
ひろしがマンションに入って行った後、ジャミルはもう一度
小銭を握りしめた。
「なろお~……、あのジャガイモが当てて、俺が当たんねえ訳がねえ、
よしっ、こいっ!!」
懲りずに小銭を入れ、もう一度ボタンを押した。今度はウーロン茶である。
「よしっ!……9、9、9、9……、っシャーっ!!」
と、拳を握りしめ、ガッツポーズを取り喜んだのだが、
急に自販機が喋り出した……。
……オーバーキルデス、オメデトウゴザイマス……
「……うわああああーーーっ!?」
確かにアタリを当てたが、オーバーキルで、大量のウーロン茶が
ジャミルを襲ったのである。
……それから、まーた更に数日後……
「なあ、ダウド、頼むよー!助けてくれよー、ウーロン茶よう……」
「いやだ!……もうウーロン茶秋田です!ぶーぶー!」
オーバーキルで9999缶、アタリウーロン茶を当てたジャミルは
大量のウーロン茶の処理に困るどころか、自動販売機自体をぶっ壊した……。
「……畜生~、スイカの次はウーロン茶の処理だよ……、
とほほのほお~……、食いモンじゃねえから、ブウ子にも
引き取って貰えねえ、今日は2連発、……とほほほのほーー!!
あーー!!」
zokuダチ。セッション編 終