candy+

candy+

恋ノ始マリ

恋ノ始マリ

「あのさ。」
「ん?」
「付き・・・合って?」
体育館裏、突然の告白。答えは決まってる。もちろん、
「ごめんなさいっ」
満面の笑みでそう返した。
「だよなー」
(しゅん)くんはしょぼんとした様子で立ち去っていった。
わたしには好きな人がいる。だから、その人を振り向かせるまで彼氏は作らないって決めている。
「はーるーこっ!」
わたしのことをこう呼ぶのは梨沙、ただひとりだ。
「梨沙ー見てたのー?!」
「いやぁ、ちょうど通りかかってっ」
梨沙は上目遣いでわたしを見つめる。
「ふーん」
「怒んないでっ!それより、また告白ですか・・・はるこはわたしのものなんだけどー!」
「はいはいっ」
梨沙の言葉はあっさり流したけど、内心いつも嬉しい。
「梨沙、ちょっと付き合って?」
「え!告白?!」
「違うわよ(笑)」
もう、そういう“付き合って”じゃないんだから。
「んで?どこ行くの?」
「図書室。」

                 

「本決まった~?」
「もう借りてきたけど?」
「“彼に振り向いてもらう100の方法”・・・ね。てことは、はるこが告白する日も遠くはないかな?」
梨沙がニコニコしながら聞く。出た、いつもの上目遣い。
「告白しない~!」
「なんで?」
・・・告白なんてできない!嫌われたくないし、振られるのが怖い。
「わたし、告られたい派なんでっ」
そう梨沙に返した。梨沙は、納得といった表情だった。
「はるこはアイツのことまだ諦めてないの?」
梨沙の指差す方には、グラウンド。
そこに彼はいた。サッカー部の冬宮奏多(ふゆみや そうた)くん。
わたしが中学生の時から片想いしてる男子。
「あ、はるこに手振ってる」
グラウンドを見ると確かに冬宮くんは手を振っていた。けど、わたしにじゃないだろう。直感的にそう思った。
「わたしにじゃないよ」
わたしはグラウンドから目を背けた。
どうせ、冬宮くんはわたしのことなんて、どうでもいい存在だとしか思ってない。
「で?どーなったのそっちは」
「え?」
梨沙が首を(かし)げた。
「たーなーかーくんっ」
「あぁ、侑斗のこと。」
田中侑斗くんは梨沙の元カレ。だけど、田中くんは別れたくせに未練たらたらで、休み時間になると、梨沙とわたしのクラスである2年2組の教室に来る。
「もういいんじゃない?復縁しちゃえば?」
梨沙はうーんと唸っている。
「梨沙のことそんなに考えてくれる人他にいないんじゃない?」
「はるこさすがっ!」
梨沙はわたしの手を引っ張って、田中くんのもとへ向かった。

2年6組の教室。
「侑斗いる?!」
教室の隅で七並べをしていた田中くんがビクッとした。
「入ってもいい?!ってか入るね!」
梨沙が田中くんの前に立ちはだかった衝動で、梨沙のポニーテールが揺れた。
「あのさ!」
「ど、どうしたの?」
田中くんはまだ怯えている。
「付き合ってやってもいいよ!」
2年6組の教室が静まり返った。
「えっ、それって・・・冗談?」
「んな訳無いでしょバカ彼氏。」
「マジお前・・・」
田中くんは梨沙に抱きついた。子供みたいにはしゃぐ田中くんがとても愛らしかった。
「梨沙、だいすき。」
梨沙の唇を、田中くんが塞いだ。先ほどの田中くんとは打って変わって、男らしかった。
わたしが教室の外に出ると、部活帰りの冬宮くんがいた。あ・・・冬宮くん6組だった・・・。逃げようとすると、腕を掴まれた。
「なんで俺から逃げるの?」
振り向けなかった。だいすきな冬宮くんの顔見たかったけど、見たら涙が出そうで。
「・・・」
「さっき手振ったの、気づいてたよね?」
あれ、わたしにだったんだ。今頃気づいたってもう遅い。しかも本人の口から聞くなんて・・・
「あのさ・・・」
「ん?」
「手・・・離して」
「やだ。」
わたしだって、このままでいたい。けど・・・このままいたら・・・
その瞬間、冬宮くんがわたしを振り向かせた。それと同時に涙が落ちた。一度落ちたら止まらない、何度も何度も涙が落ちた。
ほらね。涙出ると思った。
冬宮くんの驚いた顔が滲んでいく。
「廣瀬・・・」
「・・・」
わたしは何も言わず彼から離れた。

                 


「何やってんのバカ!」
「だってぇ~」
なんで怒るのよ・・・あの状況で開き直るのは無理だよ・・・。
「はるこー。それチャンスだったかもしれないんだよ?」
「何の?」
「はあ。はるこって鈍感?」
そんなこと言われたって。
「冬宮くんが引き止めるのが悪いのよっ」
ぶくっと膨れるわたしを梨沙がツンツンする。
「ハリセンボンさ~ん、おーい」
「なぁんでぇすかぁ?」
「・・・」
「おいっ!一人だけ恥ずかしいだろ!」
「あれ?はるこってそういうキャラじゃん?」
「・・・」
「・・・」
気がつくと、5時間目の予鈴が鳴っていた。

「5時間目何だっけ?」
「えー。知らなーい。勉強に興味ないもーん」
梨沙ってば・・・
昼休みはあと2分で終わるというのに、廊下では1年生の女子集団が騒いでいた。
「・・・ねえ。知ってる?」
1年生の加奈子が小声で言った。わたしの席は窓側ということもあり、声はとても鮮明に聞こえた。
「2組の真央さ、冬宮先輩と付き合ってるんだって・・・」
え・・・嘘でしょ?
「マジで~?!真央ハブられるんじゃない?」
「もうとっくに。」
「うわあ~残念ねー」
「てか、なんで真央があの冬宮先輩と付き合ってんの?真央はかわいいけどさ、ほら・・アレじゃん?」
「性格ブスだよね」
真央・・・ちゃん?どんな子だろう。何より、冬宮くんが年下と付き合っているのが、なんとなく悔しかった。
・・・さっきのアレは何だったのよ。ちょっと期待した自分がバカらしく思えた。
「あ、ヤバい。チャイム鳴った。」
1年集団は各クラスに戻った。
5時間目は社会だったが、先生の都合で自習になった。
わたしにとっては好都合だった。
どうせ社会があったとしても、授業になんか集中できないし。
「真央ちゃん・・・」
「ん?どーした?」
梨沙はホントになんでも気づくんだね。
「ねぇ。1年2組の真央っていう子知ってる?」
「知ってるもなにも、小学校一緒だった。」
わたしと梨沙は中学校から一緒、だから梨沙の小学校時代は知らなかった。
「ホントはあたしたちと一緒の中学校に来るはずだったんだけど、転校しちゃって・・・。だから高校が一緒でビックリ。てか真央ちゃんが何?どうかした?」
「フルネームは?」
佐川真央(さがわまお)だよ」
「どんな子?」
「そりゃ、もう美人。そこらへんの男どもはイチコロだなー。」
そんな美人なんだ・・・。梨沙は嘘を滅多につかない。でも、ときどき優しい嘘をつく。
「・・・そっか」
「そんでー?真央ちゃんがどうした?」
「ちょっとね。」
「まぁ、言いたくないなら言わない方がいいさ!」
ありがと。梨沙。
「あ・・・」
梨沙が何かを思い出したように声を上げた。
「ん?」
「・・・あの子、性格に難があるから気をつけてねっ」
彼女は苦笑いでそう言った。
「ありがとっ!あ、梨沙・・・」
梨沙は満面の笑みで了解した。
「はーいっ!」
その声とほぼ同時に、
チャイムが、5時間目の終了を告げた。

                 



6時間目はサボった。
梨沙にはちゃんと告げた。
きっと、保健室に行っているとでも言ってくれただろう。
わたしは、なんとなく図書室に向かって歩いていた。
図書室のドアを開けると、物音ひとつしない。唯一聞こえるのは、わたしの足音だけ。
ふと、カーテンで仕切られている図書室の奥が気になった。生徒や先生は滅多に入らない場所。
いつも梨沙と来るときは、恋愛小説コーナーで立ち読みするだけだから・・・。
カーテンを(めく)ると、窓から光が差し込んでいるのが見えた。
そして辺りには、たくさんの難しい本が綺麗に整頓されている。
外観よりは、広い。
誰も来ないような不思議な空間。
さらに奥に進むと、人の足が見えた。
「はっ・・・」
机の上に寝転んで足を組んでいた彼の足が、ピクっと動いた。
足しか見えない・・・。誰なんだろ。
「あの~・・・」
「誰?」
知らないようで知ってるような声。
本棚の隙間から覗くと、目があった。
わたしはすぐに目を逸らして、後ろを向いた。
どーしよ・・・。そう思って振り向くと、目の前に彼がいた。
「わぁ!」
思わず、尻餅を着いてしまった。すると、彼が手を差し伸べた。
「で?アンタ誰?」
冷たい視線が注がれる。
「廣瀬春音です・・・2年4組です」
彼はわたしを舐めまわすように見る。正直、この人誰って思った。
「あの・・・」
「あ?」
「あなたのお名前は・・・?」
「3年の光永亮介。」
光永亮介?・・・知らないかも。
「光永せんぱ・・・」
「亮介」
「え?」
わたしの声を彼が遮った。
「亮介って呼んで。」
「え・・でも、先輩ですし、それに・・・」
「それに?」
「先輩、イケメンですし、周りの女の子に嫉妬されるの嫌なんで・・・」
「そっか、じゃあ」
「え?」
彼は突然わたしにキスをした。
あまりに上手で、思わず声も漏れる。
「んっ・・・」
彼は唇を離し、
「俺と付き合ってよ。」
何なのこいつ・・・。
わたしは突然の告白に戸惑った。それより・・・
「ファーストキスだった。」
わたしは図書室を出ようとした。
「待って」
彼はわたしを引き留める。
「また来ます」
わたしは振り向かず、図書室を出た。

駆け足で教室に戻ると、授業はまだ続いていた。
「おっ、廣瀬。大丈夫なのか?」
「は、はい。もう平気です。」
忘れてた・・・。わたし保健室にいるんだった・・・。
全力で走ってきちゃったし・・・。
「じゃあ席に着け」
「はい」
席には着いたものの、もう授業も終盤で、内容がわからない。わたしの席は後ろだから何か書いてるフリをすればバレないだろう。6時間目が終わるまでわたしはずっと光永先輩のことを考えていた。


1年2組の教室の外で、真央ちゃんが出てくるのを待っていた。
「はる先輩お疲れ様ですっ!」
「あ、ちょっと待って美緒(みお)!」
「何ですか?あ、また宿題ですか?もう~ひとりで・・・」
「そうじゃなくて。」
「珍しいですね!私に宿題以外の話なんて」
あー。悪かったですね。
「あのさ、真央ちゃんっている?」
「どの真央ですか?」
「え?」
「真央って3人いるんですけど」
「あ、そうなんだ。えーと、佐川?」
「あー、ハイっ。呼びましょうか?」
一瞬迷ったが、見るだけで充分だと思った。
「ううん。どの子か教えてくれるだけでいいよっ」
「えっとーあの子です」
美緒が指差す先には、ショートカットの笑顔が可愛い女の子。
「可愛い・・・」
「顔はまぁ・・・でも」
「性格?」
「はい・・・」
「そんなに悪いの?」
「とっても。私も嫌いです」
「そうなんだ・・」
「ってか、はる先輩の方が何百倍、何千倍も可愛いですからっ!」
「あはは、ありがとー!美緒だいすきっ!」
「やばーい!今の告白ですかー?!」
「・・・う、うん」
「えー」
不満そうな顔をしながら、美緒は吹奏楽の部室へ向かった。
美緒、わたしが好きなのは・・・
一瞬戸惑った。
何故なら、頭に思い浮かんだのは光永先輩の顔だったから・・・。
1年2組の教室の隣にある空き教室でぼーっとしていると、肩を叩かれた。
「は、はいっ」
「わたしになにか御用ですか?先輩。」
わたしに話しかけてきたのは真央ちゃんだった。
「え、いや・・その・・・」
「奏多のこと?」
・・・何だか、鼓動が速くなったような気がした。わたしですら“奏多”なんて呼んだことがない。
「・・・」
「あれ?先輩、もしかして泣いちゃいました?」
その言葉と同時に、涙が落ちた。
「泣かないでくださいよぉ~わたしのせいみたいじゃないですか~」
「おい」
男の声がした。
「あ、先輩~」
真央ちゃんが先輩と呼ぶのだから、冬宮くんではない。
「どうしたの?」
「せんぱ~い。なんか春音せんぱ・・・」
「なあ。」
ようやく、その言葉がわたしに向けての声だと気づいた。
「大丈夫か?」
光永先輩だった。
「はい・・・」
真央ちゃんは、ムッとした顔をして立ち去ろうとしたその時、光永先輩が呼び止めた。
「待てよ」
「・・・」
真央ちゃんは無言だったが、立ち止まった。
「春音に手出すんじゃねぇぞ。」
「・・・」
真央ちゃんは立ち去った。
「あの、わたしっ・・・」
先輩は強くわたしを抱きしめた。
「よかった・・・」
わたしはしばらく先輩の腕の中にいた。


「ありがとうございましたっ・・・」
空き教室で2人きり。
こんなシチュエーションでドキドキしない人なんていないと思った。
「・・・顔、あげて?」
わたしはゆっくり顔をあげた。
先輩と目が合った時、唇が塞がれた。
今日2回目のキス。
人生2回目のキス。
「あの・・・」
「ん?」
「図書室でのこと・・・」
「あぁ、あれ。誰にも言わないから気にし・・・」
「本気ですか?」
「え?」
「本気なんですか?」
「本気じゃいけないかな?」
彼が微笑んだ。
「じゃあ、付き合ってあげてもいいですよっ」
「バーカ」
先輩は、わたしを抱きしめた。
「・・・好きだ」
耳元でそう囁かれた。
窓から射す夕日がわたしたちを照らしていた。
「あっ」
先輩が声をあげた。
「なんですか?」
「俺のこと、亮介って呼んで?」
「やです」
「なんで~?」
だって、真央ちゃんと一緒みたいで・・・。
「・・・じゃあ、亮介先輩でいいですか?」
「うーん・・・わかった」
不満そうな顔をした亮介先輩が可愛かった。
「あ!あと、」
「はい?」
「明日、デートなっ」
「えー!」
「ん~、朝9時さくら広場」
「えー・・・」
「来いよっ!じゃ!」
勝手に約束して勝手に去っていったし・・・
「やばっ」
気づけばもう完全下校前5分だった。


「はあ・・・」
勉強しようとしても、思い浮かぶのは亮介先輩。
そういえば、アド聞いてない・・・。
今日色んなことがありすぎてそんなこと気にもしなかった。
出会って1日目で付き合っちゃったし・・・。
「寝よっ」
ベッドに入っても眠れなかった。
ガチャ。
突然ドアが開いてベッドから飛び降りると、弟の優馬だった。
「何?!」
「え・・・ねーちゃんにお菓子持ってきた」
「食べるわけ無いでしょ。太るじゃん」
「もう太ってんじゃん」
優馬はお菓子を置いて帰っていった。
太ってないし。優馬のバカ・・・!
机の上のお菓子が気になった。・・・1個・・だもんねっ。
綺麗に包装されたクッキーをひとつ食べた。
「おやすみっ!」
食べてしまった罪悪感と明日のドキドキ感でいっぱいのまま眠りについた。


翌日。
まだ午前6時。
いつもなら、まだ寝ている時間。約束の時間まで残り3時間・・・。
「どうしよ・・・服が決まんないー!!」
誰かに頼るか・・・でも、誰が起きてる・・・?
あっ・・・・見つけた。
急いで携帯のロックを解除する。
『美優へ!緊急!
 デート服ってどういうのがいいかな?』
2分後、メールが届いた。
『はぁ~い♪みゆうちぁんですー
 えっとね、とりあえずスカートね。
 うーん・・・スカート履いてればなんとかなるっしょ(笑)
 頑張りなされ・・・』
美優・・・。
まあ、あの美優が言うなら確かでしょう・・・。
美優は学年、いや、学校一美女。
髪はセミロングで、いつもふわふわしている。
わたしの一番の憧れであり、一番の親友でもある。
ファッションや髪型は美優に聞くのが一番だ。


アラーム音が聞こえる。
でも・・・あれ?これは、夢なの?でも、さっきまでわたしは服を…
寝ぼけながらも、時計を見た。
“9:20”
え…。
「きゃーーーーーー!!!」
待ち合わせ時間は、えっとー…9時30分だったよね…!
そう信じて急いで家を出た。
が、待ち合わせ場所には既に亮介先輩の姿があった。
やってしまった…。
初デートに遅刻とか…ありえない。
恐る恐る近づいてみた。すると、すぐ気づかれて彼の顔が変わったのが分かった。
「来て」
先輩が何か言う前に言わなきゃ…。



                     まだまだ続きますっ!
                   飽きずに見てくださいね(´;ω;`)

candy+

candy+

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-01-22

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted