zokuダチ。セッション35
エピ 134・135・136
海へ行こうよ 1
8月も終盤になった。だが、まだまだ夏は終わらない。
ジャミル達、動きたくない物臭ダウド、堅物ガラハド、
獣・トカゲを除いたロマ1軍団は、近くの海へと
海水浴に来ていた。
「はあ~、ほんっと、元に戻れて良かったわよう、……私、
臭いかも知れない汚れた海水パンツ履くの覚悟してたもん……」
念の為、アイシャは浮き輪常備。着用水着は真ん中にリボンの付いた
可愛らしいワンピース水着である。
「んだとお?俺だってな、ペチャパイ専用水着なんか
着なくて良かったよっ!」
「……何よおっ!、冗談なのにっ、そんなにムキになる事ないでしょっ!」
「何だよっ!冗談に聞こえねんだよっ!」
元に戻って早速、2人のケンカがスタートする。いつもの如く。
すっかりいつもの日常も戻っていた。
「ほらほら、アンタ達……、時間が勿体無いだろ、さっさと
海に行っといで……」
バーバラが呆れながらもジャミルとアイシャの背中を押した。
「え~?バーバラは海入らないの?泳ごうよ!」
「ふふ、大人のお姉さんは露出は控えめにしとくモンなのサ……」
「そうなの……?」
「そうだよな、もう肌さらけ出すほど若くねえ……って、
いってええっ!!」
バーバラのゲンコがジャミルに飛んだ。
「ったくっ!寺へ修行に行こうが何しようがこの口の悪さは
結局変わんないねっ!!」
「……ぐおお~、ぐおお~……」
「……」
ビールを2缶開け、真昼間から酔っ払い状態のホークが
大鼾をかいて、ビニールシートの上で倒れていた。
「ホークったら、海にまで来て、お酒飲みに来たのかしら……」
「ああ、このブタ狸もほっといていいよ、あたしが見てるから、
だから早く海に行っといで!」
「んじゃま、行くかね……」
「んー、他の皆は?」
クローディアの所にも泳ぎに行かないかアイシャが誘ってみるが、
水着を着ておらず、パラソルの下で静かに休んでいた。
「クローディアも、泳がないの……?」
「ええ、日に焼けてしまうのが苦手で……、海辺で貝殻を
拾っている方が好きなのよ、私に遠慮せず、海に行って
らっしゃい……」
「そう……、残念だね、折角の海なのに……」
両手を後ろに組んで、アイシャがちょっと残念そうな顔をする。
「で、オメーは何やってんだ……」
「ふっ、……見れば分るだろう、クローディアの護衛だ……」
……グレイはアイスソードまで持ち出し、クローディアの
側に座っている。グラサンに、派手なアロハシャツ姿である。
「んな処まで、誰が来るんだよ……、ん?」
と、ジャミルが言った処に、ワイワイガヤガヤ、高校生らしき
集団が歩いて来た。そして、クローディアの姿を見ると、早速、
彼女をナンパし始める。
「ヘイ、彼女お!海、入らないのお!」
「ねえねえねえっ、んなとこで座ってないでさあっ!一緒に遊ぼうよ!」
……今まで座っていたグレイが急に立ち上がり、無言でアイスソードの
矛先を高校生達に向けた。
「うわっ!?何だこのおっさんっ!ちょっとやべえっ!」
「誰がおっさんだ、貴様ら……」
「うわ、ヤクザだあーっ!逃げろーーっ!!」
高校生達は揃って逃走する……。
「フン、ガキめが……」
「グレイったら……、何もそこまで……」
頬に手を当て、クローディアが困った顔をする。
「はあ、そう言う事ね、悪い虫が集らない様にか、成程……」
「お前らもとっとと行け、邪魔だ……」
「へいへい、分りましたよ、お邪魔しましたーっ、
アイシャ、行くぞ!」
「う、うん……」
ジャミルとアイシャが海辺に向かって歩いていくと、今度は
前方からシフとアルベルトが走って来た。シフはTシャツに
短パンスタイルで竹刀を担ぎ、モタモタと必死で砂浜を走る
アルベルトを脅している……。
「坊やっ!もっと早く走るんだよっ!……たく、相変わらず
トロイねえっ!!」
「そんな事言ったって……、ぼ、僕もう、限界……」
「あいつらも何かバカンスって状態じゃねえな、何しに来たんだ……」
「うん、アル、可哀想……、異世界じゃあんなに頑張ってくれてたのに……」
申し訳なさそうにアルベルトを見ながら、2人は海に入り、
泳ぎに行った。
……それから一時間位経過した後、ジャミルとアイシャは
バーバラ達の所へ……。
「ただいま……」
「おや?もう戻って来たのかい?休憩か……」
「なあ~、ホークっ!」
ジャミルは寝ているホークの側まで行き、ホークの巨体を揺すり、
叩き起こした。
「うあ!?ナンダ、ナンダ、ナンダっ、……折角人が気持ちよく
寝てたのに……、……ジャミ公っ!オメーかああっ!?」
「寝てばっかいんなよな、なあ、ただ泳ぐだけじゃ
飽きちまったんだよ~……」
「だからって、何で俺んとこくんだ……」
「おっさんなら、ダイビングセットぐらい持ってるかと思ってさ、
なあ~、貸してくれよー!」
「んな高級なモン、あるわきゃねえだろうが!」
「ち、やっぱ駄目か……」
ジャミルは指を鳴らして舌打ちした。
「これでも着けて潜って遊んでろっ!たく……」
ホークは2人にシュノーケルと足ヒレをほおり投げ、
再び熊のようにごろんと横になった。
「う~ん、安上がりだなあ、ま、仕方ねえか……」
「……今度は早く上がってくんじゃないよっ!」
バーバラがジャミルに向かって吠えた。
2人は仕方なく、再び海の方に戻ろうと歩き出す。
「何だか私達、お邪魔みたいだね?」
「そりゃそうさ、ジジババの年増には年増の楽しみがあんだよ」
「何で?」
「いいんだよっ、お子ちゃまには!ほらほら、いくぞっ!」
「ぶう~!……処で、これなあに?」
アイシャはシュノーケルを珍しそうに眺めた。
「そうか、タラール族は知らねえか、ダイビング道具の
官益版だよ、これ着けてりゃ少しだけ海に潜れんだよ、
丁度俺らのサイズに合う奴を用意してくれてたっつーことは、
あの加齢臭糞親父も、案外気前がいいんだなあ!」
「わあ~!楽しそう!早く行こうっ!」
「コラ!あんまり燥ぐなっ!」
アイシャはジャミルを引っ張り、どんどん海の方へ連れて行く。
「……アイシャ、まだか~!」
「お待たせ、準備出来た、さ、行こう!」
アイシャはいつも二つ縛りの団子にウェーブ状の長い
三つ編みヘアだが海に入りやすい様に髪を全部束ね、
シニヨンに纏めた。ジャミルはアイシャにある程度、
海中での鼻抜き等、あーだこーだを色々と教えた後、
早速海に潜った。
(……わあ~、綺麗……、何だか私もお魚さんになったみたい、
うふふ……)
魚と戯れる可愛らしいアイシャの姿を見、いつもの如く……、
海の中であそこが立ってしまい、ジャミルが発情する……。
(うえ、やべえ、んなとこでも、ビンビンきてる……、やめてくれ……、
……うっ!やべ、やべえっ!……っ、がぼぼ……がぼぼぼっ!!)
そして……
「ねえ、ホーク、ン、何時までそうしてんのサ、折角お子ちゃま達が
海に行ってんのに、狸が狸寝入りしてんじゃないよっ……!!」
「お、おい……、バーバラ……」
バーバラはホークの上に馬乗りになるとほっぺたを掴んだ。
「大胆だなあ……、他の奴らも見てんじゃねえか……」
「こういう場だと、あたしは燃えるの……、見せつけて
やろうじゃない……、大人の恋愛ってモンをサ……」
「……へ、水着じゃねえのが……残念だけどな……」
ホークはそう言い、バーバラの身体を強く抱きしめた。
「イカセてくんなきゃ嫌だからね、ちゃんと感じさせてよ……」
「……強いぞ、覚悟しとけ……」
「ねえ、……バーバラ~……」
「!?ア、アイシャ…」
お邪魔虫、再び現る。ホークとバーバラは咄嗟に営みを
中断する。いつも間近のこの2人だけにはどうにもあまり
現場を見られたくないらしかった。
「ジャミルがね、ちょっと溺れちゃったの……」
ちなみに、彼がドジを踏んで溺れたのは前前作を含め、
今回で2回目です…(公式でも本当に溺れたネw!)
「ハア?アンタ……、潜水道具着けてて、情けない……、
ほんっと、馬鹿だねええ~……」
「う、うるせーな、……た、たらふく、塩水飲んじまった……」
バーバラは呆れ、こめかみを抑えた。
「でもね、面白かったよ!お魚さん、沢山いたの!」
「は、ははは……、そら良かったな、アイシャ……」
「うん!」
笑顔で燥ぐアイシャの姿を見て、ホークもそれ以上何も言えず。
(……マンションに戻るか、やり掛けじゃ虫が収まんねえ……)
(そうだね……)
「?」
ホークとバーバラは顔を見合わせ目配せで合図する。
「アイシャ、あたしらは疲れたからマンションに戻るよ、
ま、ゆっくり遊んできな……」
「えー?もう戻っちゃうの……?」
「じゃあな……、アイシャ、ジャミルが溺れねえ様、
しっかりコーチしてやれ……」
「う、うるせーなっ!ボテ腹親父っ!!」
2人を残し、バーバラとホークはそそくさと退場した。
「……はあ、ねえ、午後どうしようか、海も何だか
混み合ってきたみたい……」
「とりあえず、なんか食うか、泳いだら腹減っちまった……」
2人の楽しい時間はまだまだ続く。
海へ行こうよ 2
ジャミルとアイシャは昼がてら、海の家に入り休憩を
取る事にした。まずはかき氷を注文。アイシャは苺ミルク、
ジャミルはブルーハワイを頼んだ。
「わあー、美味しそう!いただきまーす!」
「待て、アイシャ!かき氷を食う時はだな、こうだ、氷を一気に
口に入れて……、……あ、あ、あ、あ……、あああああ~っ!!
あーたーまがあ~っ!!」
「……何やってるのよ、……もう……」
「と、まあ、かき氷は、この頭痛を楽しむのがオツなんだよ、
あ、あ、あああ~……」
アイシャはジャミルに呆れながらも甘いかき氷を頬張るのであった。
「さて、主食だな、んーと、品書きは、焼きそば、たこ焼き、
焼きトウモロコシ、冷やし中華……」
「……そんなに食べたらお腹壊すわ、焼きそばだけでいいじゃない……」
「やだねっ、俺は食うんだ!あ、すんません、焼きそばと、
たこ焼きと……」
「はあ、あのう、恐れ入りますが、大変混み合ってきましたので、
出来上がりまで40分近く掛りますが、宜しいでしょうか……」
「そ、そんなにかい……?」
「はい、焼きそばだけでしたら、それ程お時間は掛らないのですが……」
「程々にしなさいって事よ、いいわよね、ジャミル、焼きそばだけで……」
「分ったよ、ちぇっ……」
「有難うございます、では……」
バイトのお姉さんは一旦去って行ったが、沢山食べたいジャミルは
何となく不満顔であった。
「お待たせ致しました……」
10分後、バイトのお姉さんが2人のテーブルに熱々の
焼きそばを運んで来た。
「うん、ソースがたっぷりで美味しいわ!」
「だなあ!」
……しかし、アイシャが半分食べ終わる頃、ジャミルは
もう焼きそばを一皿ペロリとあっと言う間に平らげてしまい、
耳くそをほじりながら海の方を見たり、欠伸をしたりと
暇そうであった。
「……わ、私の分も食べる?私、もうお腹いっぱいだから……、
あげるね」
「いいのか?でも、お前小食だなあ!」
……ジャミルが食べ過ぎなのよう……、と、アイシャは思ったが
黙っていた。アイシャの分もペロリと平らげたジャミルは
それでもまだ足り無そうではあった。
「はあ~……、その小さいお腹の何処にそんなにいっぱい入るのかしら、
不思議だわあ……、本当に……」
「……ん?」
お昼も食べ終えた2人は、少し浜辺を散歩してみる事にする。
「……本当に混んで来たね……」
「どこもかしこも人だらけだな、見ろよ、海ん中もあんなに人が
詰まってらあ、ん?」
ジャミルは通りの露店に目を見張る。……店主は見た事のある人物で
あったからである。
「……スネークのおっさん、アンタも何やってんだよ……」
露店でイカ焼きを焼いていたのは、海が好きと書かれたTシャツ着用、
頭に鉢巻を巻いたスネークであった。
「最近、本部からも何も仕事が来ねえからよ、少しでもマネーに
なればと思ってな、どうだい?ジャミ公も、嬢ちゃんも、
イカ食わねえか?1本500円だが」
「はあ、アンタも不景気なんだな、仕方ねえ、買って……」
ジャミルは何となくスネークが気の毒になり、1本だけ
買おうかと思ったが、直後。
「おじさあ~ん、イカ焼き、2本くださあーいっ!」
「へい、毎度!1本50円、2本で100円ね!」
買いに来たのは、お胸ぴちぴちビキニのおねいさんたち。
……どうやら、この親父は巨乳美人のおねいさん達には
特別サービス価格で販売しているらしかった。
「……やめた、アイシャ、行くぞ!」
「あ、うん……、もう~、スネークさんたら……、あら?」
今度は前方から騒がしいわんぷり軍団が走って来た。
いろは達である。……後ろには運動音痴の悟がガールズ達の
後からヒーハー言いながら走っている。
「よう、お前らもバカンスかい?」
「あはは、こんにちは!皆も海に来たんだ!」
「こんにちはー!ジャミルさん、アイシャさん!
その節はお世話になりましたっ!はいっ、今日は皆で
身体を鍛える為の海辺での強化合宿なんです!」
「……が、合宿?」
「こんにちわんわん!」
「こんにちはー!」
「……こんにちは……」
「あ、あははは、どうも、こ、こんにち……、み、みっともない
処をお見せしてしま……、ひ~、はあ、ひ~……」
「……おいおい……」
大分無理をしたのか、声が出なくしまっている悟。
運動音痴の体力無いプチアルベルトと化している……。
「ジャミルさん、アイシャさん、この間はいろはちゃん達を
どうも有難うございました!」
「い、いや、はは……、世話になっちまったのこっちだし、
なあ……」
「そ、そうよ、ねえっ!」
「?」
丁寧にお礼を言ってくるまゆに困惑するジャミルとアイシャ。
真実は告げられず……。で、あるが、いつかは冒険の真実の事を
皆に話したいといろはが言っており、世界が融合しておかしな事に
なってしまった為、異世界の事も近いうちにいずれ皆に話さなくては
ならない事、自分達の入れ替わりの件も含め、二人も了解している。
「……ずっと心配はしてたんだけど、本当にご迷惑はお掛け
しなかったかしら……、あ、べ、別に心配なんかしてないのよ、
してないったら……」
「あはは!ユキー!ホントにずっと心配してくれてんだねえ、
ありがとー!ンモー、心配性なんだからっ!ユキってばあー!
こむぎも会えなくて淋しかったよー!ぺろぺろー!」
「……してないったらっ!ちょっとっ!飛びつかないでよっ!
暑苦しいでしょっ!こむぎっ!……顔舐めないでっ!フギャーー!!」
「……ぼ、ぼくも……、犬飼さん達を見習って……、つ、強い
男に……、(犬飼さんを守れるぐらい……)なろうと……、
ひい~、ハア……」
「悟君、……、大丈夫……?と、言う事なので、今日は
これで失礼しまーす!ジャミルさん達も楽しい海水浴を!
ではでは、またっ!
「またねえー!ばいばーい!」
「お二人も、その……、デ、デートですよね……?ボソ……、
海辺での燃える恋のシチューションとかあったりしてっ!
きゃあ~っ!♡」
「……あのなあ、何言ってんだオメ……」
「ま、まゆちゃん……?」
「……まゆっ!ほらっ!行くわよっ!全く……、
ハア、病気が出たわね……」
「きゃあ~ん♡」
「ひい~、はあ~……で、では、また……」
お節介おばさんモードになるまゆを呆れながら引っ張って
行くユキ。……大好きないろはのヒーローになろうと頑張る
ヘタレ悟。いろはもこむぎも、夏休み後半を楽しく過ごせて
いる様で何よりだった。だが、まゆに突かれたジャミルと
アイシャは顔を真っ赤にし、暫くその場を動けず……。
慌しいいろは達が走って行って数分後、ジャミルとアイシャも
漸くその場から離れ、別の場所へ移動する。2人は再び海の方へ。
海では何処かの子供達がビニールボートに乗って楽しそうに
燥いでいるのが見えた。
「ねえ、私達も貸しボート乗ろうか、面白そう!」
「やめとけよ、又、遭難編、サバイバル1とか始まったら
どうすんだよ……」
「えー、大丈夫だよっ!」
アイシャが不貞腐れ始めた横で、何となくジャミルが考え始めた。
(……2人っきりだしな、い、いいかも……)
「じゃ、じゃあ、アイシャ、……一緒に遭難するか?」
「……ちょっと、何言ってるのよ、ジャミルのバカっ!
もうボート乗らないっ!あっ、あれ、あれっ!あれ見てっ!」
「ん~?」
アイシャが又何か見つけたらしく、ジャミルを突っ突いた。
木の柱に何やら張り紙が貼ってある。
『スイカ割りコンテスト開催、優勝者にはスイカ50玉
プレゼント!』
「はあ、くだらねえ……」
「何でっ!面白そうじゃないっ、ジャミル、叩いてよ、スイカ!」
「……あのな、スイカ叩きまくって、又景品がスイカとか
馬鹿にしてんのかよ、金ならいいけどな、絶対嫌だぞ、
労力の無駄っ……!!」
「……ぶう~だ!」
「おや、ジャミルにアイシャ、アンタ達も出るのかい?」
「あ、アル、シフ……」
シフがアルベルトを連れて此方に歩いて来た。
「私は力無いから無理だけど、ジャミルに勧めたの、
でも嫌なんだって……」
「そうなんだ、僕はね、出るんだよ、シフに脅さ……、オホン、
……修行の一環でね…」
「そうさね、この間の寺修行の間にどれだけ坊やが力つけたか、
成果を見せて貰おうと思ってね、これは丁度いいイベントだよ!
あははっ!」
シフは相変わらず豪快に笑うと、アルベルトの肩に手を回した。
彼女はジャミアイの入れ替わりの事情を知らない為、アルベルトが
寺修行に行ったと本当に思っている。
「……」
「へえ~、凄いね!アル、頑張ってね!」
「うん……、まあ、気楽にやってみるよ、あはは……」
アイシャとアルベルトのやり取りをチラチラと横目で窺っていた
ジャミルがムスっと面白くなそうな顏をしていたが、
等々口を開いた。
「気が変わった、俺も出る……」
「え?ええ……、だってさっき、出ないって……」
「気が変わったんだよ、申し込みしてくらあ!」
(……この野郎、アホベルトなんかに負けてたまるか、
見てろっつーの……)
勿論、これはいつものヤキモチと嫉妬心から来ている物なのだが、
本人はカッカカッカ頭に血が上っているだけで、相変わらず
良く分かっていない。
「ふ~ん、これはまた面白くなりそうだね、坊や、ジャミルなんかに
絶対負けるんじゃないよ!負けたらまた修行時間倍にするからな!」
「……シ、シフ~……」
そして、受付を済ませたジャミルとアルベルトはスイカ割り
コンテストのイベント会場へと移動する。
「ジャミルもアルもどっちも頑張ってねー!」
「負けたらどうなるか分かってんだろうな、坊や!
真面目にやれよー!!」
(……負けねえ、……絶対負けねえぞ……)
(な~んか、さっきからジャミルの視線が僕をギラギラと睨んでる
様な気がするんだけど、気の所為かなあ~……、う~ん……)
会場で、マイクを持った司会者の親父が2人に近づいてきた。
「はいっ、ちょっと聞いていいかな!?君は高校生?←(アルベルト)
君は中学生かな?←(ジャミル)いやあ、参加してくれてありがとうねー、
夏休みは楽しんでるかなー?残りのお休みのこれからの思い出づくりに、
沢山スイカを割って、更に思い出を増やしていってねー!」
「は、はあ……」
インタビューされ、アルベルトは冷汗を掻いただけであったが、
完全に厨房扱いされたジャミルはブチブチ、キレ始めていた。
「……プ、プププ……」
そして、いつもの様にアルベルトが横を向いて吹き出す。
(……ますます負けねえ、絶対負けねえぞ、何がなんでも……)
しかし、普段はトロイものの、アルベルトは異世界で、
ごついエリート兵と強敵ルーゼを竹刀でバシバシ叩きまくり
追い詰めた、加えてスリッパ乱舞も使い熟せる、敵に回すと
厄介な強敵である。果たして、ジャミルはアイシャの前で
ええかっこしー出来るのか?
海へ行こうよ 3
スイカ割り大会 予選
「……はあああっ!」
「このっ!」
予選 ステージレベル1、まずはスイカ10玉、アルジャミ
コンビも余裕で突破。
「凄いねっ、2人とも気合入ってるね!」
「アイシャ、坊やは段々本気出すからね、見てな、ふふふ」
「う~ん……」
シフが腕組みをして頷く横で、どっちも応援したいものの、
何となくアイシャは気分が複雑になる……。
レベル1、2、3、と、ステージが上がり、制限時間内に叩く
スイカの数が段々増えて行くのである。しかし、この変な2人は
躊躇せず、与えられたスイカの数を余裕で熟し次々と叩き捲る。
レベル7ぐらいで、そろそろ脱落者が増え始めた。
「はあ……」
少し腕が疲れてきたのか、アルベルトが汗を拭い始めた。
「何だよ、そろそろ体力が無くなって来たか、ハン!
おぼっちゃま!」
「う、うるさいな!まだまだだよ!バカジャミル!」
あまり体力がそんなに持たないのがアルベルトの欠点でもあった。
(……よし、アホベルトはそろそろ疲れが来てるな、
ここらで差を見せつけねえとな……)
「うーん、凄い坊や達だねえ、あんなに小さいのに!おじさん
感心しちゃうなあ!レベル10で決勝だからね、頑張ってよ!」
……司会者の小さい……、が、イチイチジャミルを腹立たせ、
苛々させる。そして、レベル8で……。
「……たあああっ!!」
「なろおーーっ!あ……」
ジャミルが1玉、スイカを叩きスカした……。
「何やってるのよーっ!ジャミルったらーっ!もうっ!」
「う、うるせーな、あわわ!」
「ハイ、ステージ8、終了ーっ!いやあ、こっちの坊や、
ちょっとミスしちゃったね、焦っちゃったかな?でも、
目標圏内の数には達してるから、次も進めるよ!」
(……オメーが余計な事言わなきゃ、……しょおおお~……)
目隠しのタオルを取って、ジャミルが地団太を踏む。
レベル8の数は全部で80玉、そのウチの1玉をジャミルは
失敗したのであった。
「はあ、何だか、見るとぐちゃぐちゃのスイカさんだらけ、
スイカさん可哀想……」
傍から見ると、何とも見るも無残な光景と化している。特に
ジャミルとアルベルトは思い切り力を入れてスイカを
叩いているので余計である。
そして、レベル9、90玉ステージも終り、次が最後の
決戦ステージ、レベル10の無間地獄に突入する。最後に
用意されていたスイカの数は100玉以上……。これだけの
数のスイカを用意するイベントスタッフさんも実に
ご苦労様であった。
「中々、ジャミルもしつこいじゃないか、そろそろ脱落すると
思ったんだけど……」
「本当に凄ーい!ジャミルもアルも最後までファイトだよー!」
アイシャが応援場所から2人に手を振ると気づいたアルベルトは
アイシャに笑顔を返す。
(……勝つのは俺じゃ、テメエにいい恰好はさせねえ……)
鼻から湯気を出して、ジャミルが噴気し始めた。
「はい、いやあ~、残ったのが小さい坊や達だけとは!
本当に凄いよ!2人とも、最後まで頑張ってくれよ!
さて、最後のステージなので、時間は5分とさせて
頂きます、制限時間内に、とにかく叩いて、叩きまくれ!
数多くのスイカを叩いた方が勝ちとします!」
「こうなったら僕も最後まで気を抜かないから……」
「いい根性してんじゃねえか、根性だけはな……」
ジャミルとアルベルト、互いに睨み合い、火花を散らす。
そんな2人の遥か上空をふよふよと飛び回る、変な生き物が一匹。
……毎度おなじみの、小悪魔、ベビーサタンのリトルである。
「何だあいつら、暫く姿が見えんと思ったら、
久々りゅね~、こんなとこに来てたのりゅね、ふ~ん、
何やらまた面白そうなバカな事やってりゅ……、
けけけけのけー!リトル様の悪戯タイム、りゅ!」
小悪魔が上空からスイカに魔法を掛け始めた……。
「さあ、最終ステージ開始……、お、おや……?」
司会者がレディゴーを口にしようとした途端、転がっていた
スイカが急に勝手に集まりはじめ……。
「ん?どうしたんだい……?」
「分らないけど……、何だかスイカが変よ、シフ……」
な なんと スイカたちが……!スイカたちが
どんどん がったいしていく! なんと キング
大玉スイカに なってしまった!
「……ああああああーーーっ!!」
「うっそだろーーーーっ!!」
キング大玉スイカはまずはトロいアルベルトを潰そうと、
ターゲットに転がってくるが、咄嗟にジャミルがアルベルトを
抱えて庇い、横へと避けさせた。
「おい、気を付けろよ、オメー、トロいんだからよ!」
「ジャ、ジャミル……、ありがとう……」
「坊やーっ!大丈夫かい!?」
「……ジャミル、アル……!」
客席にいたシフとアイシャも慌てて2人の元に走って来る。
他の観客も司会者も、もう、慌てて皆逃走していた……。
「……な、何なんだい、このスイカのバケモンはっ!?」
「俺に聞くなよ、急にスイカが合体しやがったんだよ!」
そう呟いてみて……、ジャミルは何となく、上空を
見上げてみた。
「けけけのけええーーっ!!」
「……なろ、またあの野郎……、クソ小悪魔かよ……!
まーた何かつまんねー細工しやがったな!?」
「どうしよう、このままじゃ私達潰されちゃう……、
……シフ?」
オロオロするアイシャの肩に手を置き、シフが率先して前に出た。
「おい、ジャミル、アル、3人連携で一気に叩いて潰すぞ、
……来い……」
「ま、待てよ!あんな馬鹿でけえの、無理だって!」
「やる前から諦めてどうすんだ、この馬鹿!」
「……いって!」
シフ、拳でジャミルの頭を一発ポカリと殴る。
「……つ~ぶ~し~て~や~るううう~……」
「こ、このバケモンスイカ、喋ったぞっ!」
「……ハア、もう手におえないなあ、シフ、僕も何とか
頑張ってみる……」
「よし、坊や、いい心意気だ!」
アルベルトもシフの隣に並んだ。まだ嫌そうな顔のジャミルを
アイシャが心配そうにじっと見つめている……。
「……分ったよ、俺もやりゃいいんだろ、たくっ!」
「よーし、一気に突っ込むよっ!」
「……はああああーーっ!!」
3人は揃ってジャンプすると、一斉にキング大玉スイカの
後頭部に竹刀ダメージを叩き込んだ。大玉スイカはグチャリと
中身が飛び散り、あっさりと唾されたが、そのグロイ光景と
言ったら……。アイシャが思わず目を伏せ、言葉にならない程、
強烈であった……、が、潰した後、キング大玉スイカの残骸は
跡形もなく消えていたのだった。
「お、おめでとうござーいっ!つよーいお姉さんの
飛び入り参加で巨大お化けスイカをノックアウト!いやー、
凄いっ!よーし、今年は特別っ!スイカ割り優勝者は
この3名だーっ!おめでとうーーっ!拍手ーーっ!!」
「はあ……?」
「あ、あはは……」
「おや?あたしも入っちゃったのかい、まあ、いいけどさ……」
いつの間にか戻って来ていた司会者と観客がジャミル達に向かって
拍手を送り、アイシャも嬉しそうに拍手した。
「……けっ、なーんか知らんけど、あいつらやけに嬉しそうりゅ!
悪戯してやったのに何でよろこんでりゅ!畜生!次こそは
絶対泣かせてやりゅ!けーっけっけっ、ケツの穴~!」
そして、優勝した3人は、景品のスイカ3人分×50玉を
マンションへと持ち帰る羽目になる。数日後、
マンションの外で……。
「うええ、スイカはもう当分ええわ、腹がスイカで
満たされる……、うう~……」
「スイカさん、減らないわね、マンションの皆に
お配りしてもまだこんなにあるわ……」
ジャミルとアイシャは今日もスイカの後処理でせっせと毎日
食べているが、一向に減らない。
「……大体だな、オメーが出ろなんつーから、こんな事に
なるんじゃねーか!」
「何よ!最初出ないって言ってたのに、ジャミルが後で勝手に
出たんじゃないっ!」
と、2人がケンカを又始めそうになった処に、外出から
帰って来たダウドが通り掛かる。
「まだスイカ減らないんだ?大変だねえ……」
「おい、ダウド……、お前の分もまだあるぞ、食って行けよ……」
「うえ、いいよ、オイラこっちの方がいい、図書館の
バイト終了時、司書さんがいつもご苦労様ですって、皆にね、
さっき貰って来たんだ、ほら……」
「わあ、美味しそうね……、バニラのアイス……」
「……レ、レヂィボーデンだと……、この野郎……」
ダウドは2人に保冷剤バッグに入れて持って来た高級品
カップアイスを見せた。このアイスはお高いので、滅多に
口に入る物ではない。
「一旦冷蔵庫にしまって冷やしてからお風呂上りに
食べるんだ、じゃあね……」
ダウドはそそくさとアイスを持ってマンションの中に逃走。
「……はあ、私もう駄目……、お腹がスイカでたぷんたぷんよ……」
「まいったなあ~、そうだ、いるぞ、……スイカの処理して
くれる奴が……」
「え……?」
そして、マンションに、ユウ、マフミ、ケイ、ブウ子の4人娘が
呼ばれたのである。
「こんなに頂いていいんですか?ユウ嬉しいですー!」
「キャー!スイカだわーーっ!きゃあー、きゃあー、
きゃああああーーっ!!」
「中々甘いスイカじゃん、いけるよ!」
「……返せって言っても返さねえぞ……、ふんがああーーっ!!」
「いいよ、いいよ、特にアンタは沢山食べていいからよ……」
「良かったね、ジャミル……、スイカはブウ子ちゃんに
任せておけば取りあえず、安心だね……」
「はあ、……もうスイカ割りはこりごりだ……」
ジャミル達にとって、夏はまだまだ、これからが本番である。
そして、今度はどんな珍事件が待ち構えているのか……。
zokuダチ。セッション35