『食神』（じきがみ）　～方言版～　（不問２）

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『食神』（じきがみ）　～方言版～

※ハロモンイベント参加シナリオ
#ハロモンシナリオ

◆登場人物◆

カエデ（男女不問）　モミジの双子の片割れ。拾われたみなしご。神様に捧げられて化物になった。
※兼ね役があります。化物と猫のどちらを演じるかモミジ役と事前に決めておいてください。

モミジ（男女不問）　カエデの双子の片割れ。生贄として捧げられる。※化物か猫と兼ね役

化物：モミジかカエデのどちらかが兼ね役

猫　：化物を演じなかった方が兼ね役

◆注意事項等々◆
※化物と猫は、モミジとカエデのどちらかがそれぞれ兼ね役。どちらを担当するかで、結末が変わります。
※方言は東北地方の方言をイメージしていますが、正確なものではありません。
言いやすいように随時変えてください。
（作者がどうにか東北弁を喋らせようとがんばったんだな、と温かく見ていただけると嬉しいです）
※叫び声は、台本通りでなくて大丈夫です。その時の気持ちのままに叫んでください。
※男女不問としていますが、言いにくいセリフは随時変えてください。男女の双子も可
※上演時間　は多分２０分くらい

◆本文

モミジ：いぢばん古い記憶は冬の山の中

カエデ：雪降ってだ

モミジ：雪降ってだ

カエデ：寒がった

モミジ：寒がった

カエデ：なんもながっだ

モミジ：なんもながっだ

カエデ：モミジだけがいだ

モミジ：カエデだけがいだ

カエデ：お互いちいせえ体を寄せで

モミジ：叫び続けだ

カエデ：おっとぉ

モミジ：おっかぁ

カエデ：届かなかっだ

モミジ：届かなかっだ

カエデ：寒い寒い寒い

モミジ：寒い寒い寒い

カエデ：なんもわがらね

モミジ：どれぐらいたったろう。寒ささえも感じねくなっだ頃

カエデ：雪を踏みしめる足音がしで、オラたちは、知らねぇ大人に囲まれでた。

モミジ：そん中の１人が

カエデ：「大丈夫け？　生きてるだか？」

カエデ：そん声は遠ぐて

モミジ：返事する力も残っでなかっだ

カエデ：違う大人が言っだ。
「こりゃ間引きだなぁ。かわいそうだけんど、放っておくだ。
貧しい村にはよぐある事だ」

カエデ：間引き

モミジ：幼ねかったオラたちには理解できねかっだ。

カエデ：遠ざかる意識の片隅で、男達がなんか言い合っでるがの聞こえだ

モミジ：やがて、一番年取った男の人がオラたちに言った

カエデ：「なぁ、おまえら？　オラ達の村も貧じい。オラはその村の村長だけんど、お前たちが、オラの頼み、聞いてぐれるなら、助けでやらねぇこともねぇ。どうするべ？」

モミジ：助げて欲しがった。

カエデ：まだ死にだくながっだ。

モミジ：オラたちは最後の力を振り絞っで、頷いた。

カエデ：その人は、オラたちに手を伸ばじた。

モミジ：あったけかった。

カエデ：あったけかった。

モミジ：なんかをあったけぇと感じた記憶は、この時だげかもしんねぇ。

カエデ：それでもあったげかった。

モミジ：村長は言った。

カエデ：「じゃあ、お前たちは今日からうちで暮らすだ。そのがわり……お前たちには、オラたちの村の『神様』になってもらうだ。いが？」

モミジ：村の男たちに背負われて山を下りだ。

カエデ：オラたちが村長の言葉の意味を知ったのは、もっとずっと後の事だっだ。

モミジ：そんでオラたちは村長の家で暮らすようになっだ

カエデ：ご飯もくれだ

モミジ：寝床もあっだ

カエデ：着る物は、村長の子供達のお下がりだっだ

モミジ：でもオラたちは村長の「子供」ではながった

カエデ：他の子供と遊ぶと相手の子供が怒られるがら、モミジ以外と遊ばなくなっだ。

モミジ：走ると止められだ。

カエデ：神様に怪我をさせてはなんね、と。

モミジ：だがら、いつも２人でじっと座っでた。

カエデ：寺子屋にも通わせてもらえながった。

モミジ：神様だから

カエデ：神様に読み書きは必要ねぇ、って言われで

モミジ：そんで、ある日、朝起きたらカエデがいながった。どこ探してもいねえ。
誰に聞いても「神様になった」としか教えてぐれねえ。
「昨日は１０年に一度の祭りだったがら」ど。
意味がわがらねえ。
オラは泣いだ。泣いで泣いで泣いで……泣き疲れて眠っで、また泣いで……
カエデを探しに行こうとしだら、捕まえられで、鍵のある小屋に閉じ込められだ。
その日も冬だっだ。寒かっだ。
カエデはいなぐて、１人ぼっちだっだ。
カエデ、どこいっだ？　会いてぇ、会いてぇよ、カエデ……カエデ……オラを置いてどこさ行った……？

（間）
（場面転換　１０年後の山の祠）

カエデ：（スースーと息もれしたような不気味な息）

モミジ：ひっ！

カエデ：（さらに激しい息）

モミジ：ひぃい！！　ば、バケモノだぁ！！　……ひぃ！！　ああああああっ！！

カエデ：（喉の奥から不気味な音を響かせる）ガァーーーグァアア……キシャー！！！！

モミジ：ひっひぃぃぃぃ！　（逃げようとして転ぶ）あっ！　ああっ……足が……縛られでて……く……ああっ！（必死にもがく）

モミジ：（M）オラが見だのは、青黒えでっけえトカゲみてぇな体で、顔には大きな大きな口だけがついた化け物だっだ。
そのデカい口からは肥溜めみてぇなひでぇ悪臭がして、泥のような涎垂れがずーっど垂れていだ。

カエデ：……！　はぁはぁ……（動きが止まり、段々と息切れのような呼吸へ）

モミジ：ひっ……ひっ……やめてけろ！　来るでねぇ！　……誰か、誰か助け……うぁあああああ！！！

カエデ：………（苦しそうな呼吸）

モミジ：（恐怖で泣き続ける）

カエデ：モミ、ジ……？

モミジ：（泣きながら）……え？　今、なんか言っただ……まさか？（化け物を見てやっぱり恐ろしくて目を逸らす）ひいっ！

カエデ：………！（背中を向けて、祠に戻ろうとする）

モミジ：（恐る恐る顔を上げる）……なぁ、今、なんて言っただ……？

（間）

カエデ：こだな……こだな事……あんまりだ……

モミジ：え？

カエデ：なんで、なんでモミジなんだ……約束が違うでねぇか！

モミジ：……！？　その声、まさか……

カエデ：……来るな……お前には見られたぐねぇ……こんな……こんな……

モミジ：まさか……そんな……お前……

カエデ：………

モミジ：カエデ……なのか……？　

モミジ：（M）オラは、目が覚めだら足を縛られて山の祠にいだ。
ここには、山の神様が奉られているんでなかったんか？
でも居たのは、おっかねぇ化け物で、そして……カエデ……オラの双子のもう一人……

カエデ：お前にだけは、見られたくながった……のに……なんで……オラは、オラは……なんのために……あああっ！

モミジ：カエデ……何があっただ？　話してぐれ！

カエデ：モミジ……聞かないほうがええだ。

モミジ：え？

カエデ：お前の言う通り、オラは……ただの化物だ……

モミジ：カエデ……（息を飲む）こわく、ねぇだ……お前がカエデなら、こわぐなんて、ねぇ……だから、話してくれ……

カエデ：モミジ……

モミジ：なぁ、カエデ……

（少しの間）

カエデ：昨日は１０年に一度の村の祭りの日だったんだべ？

モミジ：んだ

カエデ：祭りの日の夜にはな、山の神様に村人が一人『生贄』として捧げられるだ。
１０年前に捧げられたのが、オラだ。

モミジ：え……

カエデ：……ほんとだ、村長はそのために、オラたちを拾っただ。

モミジ：そんな、そげな事あんまりだ……

カエデ：しかたねぇんだ。

モミジ：しかたなくねぇ！　……そんで、生贄にされたカエデがなんで「神様」になってるだ？

カエデ：それは……

モミジ：（M）えれぇ嫌な予感に冷や汗が額を伝う。
カエデの次の言葉を聞くのが怖がった。聞いたら引き返せねぇ気がする。
けれど、声がでねぇ。

カエデ：オラ、前の神様に「喰われた」……

モミジ：喰われた？

カエデ：オラは『生贄』だ。前の神様は、生きたオラを喰っだ。

モミジ：いきた、まんま？

カエデ：んだ、生きたまんまでねぇと意味がね。
１０年に一度の祭りで捧げられる生贄を食べて、神様はその生贄に『役目』を引き継がせる。
それがこの村の秘密、この祭りの、本当の役目だ。

モミジ：そんな……

カエデ：オラはここで……ずっと「神様」として神様の役目を務めて来だ。

モミジ：役目、ってなんだ？

カエデ：「食べること」だ。

モミジ：（M）はっと気が付いだ。この村は土地も狭く痩せでいて、廃棄物を埋める土地がねぇ。
代わりに村の若者が、週に一度、村の廃棄物を「供物」として、山さ持って行ぐ……まさか……

モミジ：カエデ、お前、まさか……

カエデ：んだ、捧げられた「供物」を食べるのがオラの役目だ。

モミジ：あれ全部カエデが食べてだ……？

カエデ：んだ。

モミジ：……まさか、村人の遺体もけ？

カエデ：ああ、そうだ。この村には、土葬できるだけの土地も、水葬できるような大きな川もねぇから……葬式の後、村の若い衆が、遺体をこの祠の前に捧げに来るだべ？

モミジ：そんな……あんまりむげぇ……

カエデ：ああオラも、最初はんなことできねぇ、って思った。けど、それがオラは「神様」で、それが役目だ。
どんな「供物」でも食べて、食べて……
だんだん、なんも感じなくなっで行った……
……けど、去年、松ジイの遺体が来た時は、さすがに辛かったなぁ。
憶えてるか松ジイ？

モミジ：ああ覚えてるだ。村人からは嫌われでたけど、松ジイだけがオラたちと遊んでくれだな。

カエデ：一度だけ釣りにつれで行ってぐれたなぁ……後で村長がどえらい怒って、松ジイは、鞭で打たれてだ。あれはつらがったな。

モミジ：ああ、憶えでる。

カエデ：……松ジイ、随分痩せでた。食べるのは楽でよかったげど……。

モミジ：そっか……オラも松ジイにお別れ、言いだがったな。オラは村の行事さ出してもらえながったがら。死んだのも、知らなかっだ。

カエデ：は？　モミジ、お前、村長の養子になってないのけ？

モミジ：いや？　なんのことだ？　……オラは、ほとんどずっと小屋に閉じ込められでた。
ごめんな。カエデがこげなところに１人で、こんな、こんな目に遭っでるなんで知らねくて。探しに、これなぐて、ごめんな……

カエデ：……違うだ！　オラはオラは……

モミジ：カエデ？

カエデ：あの日、１０年前の祭りの夜、オラは胸騒ぎがして目を覚ました。
そしたら、村の男どもがモミジのこど縛ろうとしてだ。
だから、やめてけれ！って頼んだ。オラが、代わりになるがらって。

モミジ：え？

カエデ：そんかわり、モミジのことは、村長の子として、可愛がってやって欲しい。
普通の子供として扱ってやっで欲しいって、オラ、頼んだのに……
村長は「わかっだ」ってモミジの縄をほどいて……オラを……縛った……

モミジ：カエデ……じゃあ、本当はオラが、生贄になるはずだったのけ……？

カエデ：オラには、モミジだけが生きる希望だった。オラの双子の片割れが、村で幸せに暮らしているっで。
そう信じていたから、どんなに供物でも……食べ続けた。どんなに汚くでも、臭くでも、硬くでも……

モミジ：カエデ……やめろ……

カエデ：人の遺体を食べることには慣れた。けど、鉄とか、ガラスの破片とかもまざってて、そげなのを食べた日は、口の中が切れで、胃が切れで……一晩中……苦しぐて……。

モミジ：頼む……やめてくれ……

カエデ：１０年、１０年待てば……次の生贄が来て、オラの自我は消える。
やっと……解放される……。
それだけを希望に……オラは、毎日毎日……食べ続けた……目も口も耳もどんどん退化して、口と胃だげの化け物になっでも……

モミジ：頼む、カエデ！　やめてけれ！

カエデ：そだな……すまねぇモミジ。

モミジ：オラこそすまねえ。すまねぇカエデ。

（間）

カエデ：オラは、生贄が誰でも食べるつもりだった。でも、モミジが来ると思ってなかった。

モミジ：……村長あんまりだ。

カエデ：しかたねぇ。オラたちは、あの日死んでるはずだった。
村長に拾われだのは『神様』にするためだったんだからなぁ。

モミジ：（M）祭りの夜、めったに食べられない鶏の肉を食べさせでもらっだ。
村人が朝、鶏の首を捻って逆さにつるして「処理」したんだと。
オラ達もあの鶏と同じ。
食べるために飼われていた鶏。食べさせるために飼われでいたオラ達。
村の人にとっで、オラ達兄弟は「人」ではながった。

カエデ：でも、オラは、モミジが幸せに生きてると信じたかっただ。

モミジ：なあカエデ、一緒に逃げねえか？

カエデ：無理だ。オラはこの祠を離れては生きていけね。
それにこんな姿で……生きていける場所なんてねえ。

モミジ：そう、か……そう、だな……

カエデ：モミジ、お前なら……逃げて他の村にたどり着ければ、生きられるかもしれね。

モミジ：わかんね。逃げようと言ってみたけんど、……ほとんど外に出たことのないオラの足でどこまで行けるか。
……それに、オラが逃げたら、カエデはどうなるだ？

カエデ：次の祭りを待つだ。

モミジ：え？

カエデ：１０年待てば、次の生贄が来っから。

モミジ：そんな、そんなの無理だ。もう１０年も続けるだか？　持つわけねぇ！　
カエデが、カエデが壊れてしまうだ！

カエデ：わからね。オラには、歴代の生贄の記憶がうっすらある。
みんな１０年後に捧げられた生贄を食べて……解放されてる。
食べずに次の１０年を待ったらどうなるのか……わかんね、けど……きっと、なんとか……なるべ。

モミジ：（M）オラは、どうしたらいいだ？　村の為に食べ続けたカエデ。
それは地獄のような毎日だったに決まっでる。どんな気持ちで１０年後を待っでたか。
オラは、言うべきなのだろう、オラを……喰えと。

カエデ：（M）モミジは喰えねえ。モミジはオラの大事な兄弟。たった一人の家族だ。
けど……けんど、本当は、解放されてぇ。もう１０年「食べ続ける」なんて耐えられねぇ。
モミジが、言ってくれるのをどこかで待ってる「自分を食べろ」と。

モミジ：（M）カエデ……

カエデ：（M）モミジ……

モミジ：（M）カエデに、喰われるなんで嫌だ

カエデ：（M）モミジを、食べるなんで嫌だ

モミジ：（M）でも化け物になるのは嫌だ

カエデ：（M）もう化け物でいるのは嫌だ

モミジ：（M）このまま逃げてしまうべか

カエデ：（M）このまま食べてしまうべか

モミジ：（M）カエデ……

カエデ：（M）モミジ……

（間）

モミジ：なぁ、カエデ。

カエデ：なんだ？

モミジ：神様になるって、どんな感じだ？

カエデ：そうさなぁ……

モミジ：味覚は、あるだな？

カエデ：ああ……

モミジ：痛覚も……

カエデ：ああ……それ以外は……目もよく見えねぇ耳も……
供物を食べたら……祠に籠って、ただ消化する……
人の前に姿を現してはなんねぇから、村人が供物を供えに来るのを、祠の隙間から見るのが、唯一の、人との関わりだ……
神様だからなのか、不思議と……狂うこともできねぇ。

モミジ：そうか……

（徐々にカエデが狂い出す）

カエデ：でも……モミジ、早く逃げるだ、でないと……

モミジ：カエデ？

カエデ：オラは、お前を食べでしまう……

モミジ：カエデ……

カエデ：早く……モミジ……

モミジ：カエデ！

（ここから双方苦しみながら）

カエデ：来るでねぇ！　もう、もう……耐えられねぇ！
……こんな……こんなのは嫌だ……もう……何も……何も食べたくねぇ……ああああああ！

モミジ：カエデ！　（縄をほどこうともがく）縄が、縄が、ほどけない……ああ、くっ……

カエデ：モミジ……逃げろ……早く、早く逃げてくんろ……

モミジ：（必死にもがく）ぐあっ、ああっ……早く、なんとか、ぐ、ああっ……カエデ……やめろ、来るな！　こっちに来るな！

カエデ：ああああ！　あの日！　なんで、オラは目が覚めただ！　そのまま眠っていれば！代わりになるなんで言わねがったら！　……うぁあああああ！！！

モミジ：（必死に縄をほどこうとする）だ、誰か……た、助けてけれ……嫌だ……

カエデ：オラも、１０年前、そう言っただ！　助けてけれって！　泣いで喚いでもがいで……
……けど、誰も、誰も助けでくれながっだ……！
神様に、臭い息を吹きかけられで、頭から飲み込まれで、背中から噛まれた……それから、喉から胃に飲み込まれで……

モミジ：やめろ、カエデ……やめてけれ……！　……っ！　くっ、ほ、ほどげだ……ごめん、カエデ……オラは……オラには無理だ！　神様にはなれねぇ！　許しで、許してくんろ！！

カエデ：モミジ……すまない（苦しそうな声）……ああ、食べたくねぇ！　食べたくねぇ！　（苦しそうな叫び声）

モミジ：ああ、嫌だ、嫌だぁ！！！　（カエデと重ねて苦しそうな叫び声）

（間）
（時間経過）

化物：（むしゃむしゃと食べる　苦し気に飲み込む）はぁはぁ……これで、最後け？　
今回の「供物」は……多かっだ、な……さあ、祠にもどっで、消化せねばな……

猫：（鳴き声）

化物：なんだ、こんだところに、迷い込んだのけ？

猫：（鳴き声）

化物：あっちさいけ……オラは、臭いし、汚いし……何も、やれねぇから……

猫：（鳴き声）

化物：オラがこわくないのけ？　……変な奴だ。お前も一人なのけ？

猫：（鳴き声）

化物：そっか、じゃあ、逃げねぇなら聞いてけろ？
もう一人の、オラの事を……

猫：（鳴き声）

【完】